知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成21年(行ケ)第10274号商標登録取消決定取消請求事件

主文

1 特許庁が異議2008-900243号事件について平成21年8月5日にした決定のうち,商標登録を取り消した部分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文1項と同旨

第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告が有する本件商標に係る登録異議の申立てについて,特許庁がした別紙異議の決定書(写し)の本件決定(その理由の要旨は下記2のとおり)のうち商標登録を取り消した部分には,下記3のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 本件商標(甲1)

商標登録番号:第5116209号

商標の構成:別紙商標構成1の本件商標のとおり

指定商品:別紙指定商品及び指定役務のとおり

出願日:平成19年6月12日(商願2007-65321号)

査定日:平成20年1月29日

設定登録日:平成20年3月7日

公報発行日:平成20年4月8日

(2) 本件決定

登録異議申立人:ムジドール・ビー・ブイ

登録異議申立日:平成20年6月9日

決定日:平成21年8月5日

決定の結論:「登録第5116209号商標の指定商品及び指定役務中第9類レコード,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」(以下「本件指定商品等」という)についての商標登録を取り消す。本件登録異議申立てに係るその余の指定商品及び指定役務についての商標登録を維持する。

原告への決定送達日:平成21年8月24日

2 本件決定の理由の要旨

本件決定の理由は,要するに,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,その指定商品及び指定役務中,本件指定商品等に使用する場合には,これに接する取引者・需要者は,登録異議申立人がその申立てにおいて引用する下記ア~ウの各商標(それぞれ別紙商標構成3~5に同じ)の構成とほぼ同様の態様の図形に赤色又は橙色で着色した標章である本件決定が使用商標として対比判断の対象とした別紙商標構成2の引用商標を連想・想起して,本件指定商品等が他人の業務に係る商品又は役務であると混同するおそれがあったから,これに係る本件商標の登録は,商標法(以下「法」という)4条1項15号に違反してされたものであって,法43条の3第2項の規定により取り消すべきものであるが,その他の指定商品及び指定役務については,商品又は役務の出所の混同を生じさせるおそれがあるとまではいえないから,これに係る本件商標の登録は,同条4項の規定により維持すべきものである,というものである。

ア 商標登録番号:第1411158号(甲2。以下「申立人商標1」という。)

商標の構成:別紙商標構成3のとおり

指定商品:第24類「レコード,カセット式録音済テープ,その他の録音済テープ,その他本類に属する商品」

出願日:昭和50年9月16日

設定登録日:昭和55年3月28日

存続期間の更新登録日:平成2年8月29日及び平成12年1月18日

イ 商標登録番号:第2574649号(甲3。以下「申立人商標2」という。)

商標の構成:別紙商標構成4のとおり

指定商品:第26類「印刷物,書画,写真,その他本類に属する商品」

指定商品の書換登録:平成15年8月13日

書換後の指定商品:第9類「映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」及び第16類「印刷物,書画,写真,写真立て」

出願日:平成2年3月28日

設定登録日:平成5年9月30日

存続期間の更新登録日:平成15年5月20日

ウ 商標登録番号:第2520526号(甲4。以下「申立人商標3」という。)

商標の構成:別紙商標構成5のとおり

指定商品:第17類「被服,その他本類に属する商品」

指定商品の書換登録:平成15年5月13日

書換後の指定商品:第25類「被服」

出願日:平成2年3月28日

設定登録日:平成5年3月31日

存続期間の更新登録日:平成15年5月13日

4 取消事由

(1) 本件商標と比較する対象商標の認定の誤り(取消事由1)

(2) 引用商標に係る商品及び役務との混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り(取消事由2)

(3) 指定商品及び指定役務の一部について取り消すべきとした判断の誤り(取消事由3)

第3 当事者の主張

1 取消事由1(本件商標と比較する対象商標の認定の誤り)について

〔原告の主張〕

本件決定は,本件商標と引用商標との対比判断を行っているが,登録異議申立人は,本件商標と申立人商標1~3等との出所混同を問題としていたものであった。したがって,本件決定は,比較検討すべき対象を誤っている。

〔被告の主張〕

登録異議申立制度は,特許庁による処分の見直しという制度の趣旨を全うするため,登録異議申立人の主張に拘束されることなく,取消理由の有無を職権で審理できるとしているものであるから(法43条の9第1項,本件商標が法4条1項15号に該当するとした登録異議の申立てに対して,職権で,本件商標と引用商標との混同の有無を認定,判断することは許容されるものである。したがって,本件決定は,比較検討すべき対象を誤っているとの原告の主張は失当である。

2 取消事由2(引用商標に係る商品及び役務との混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り)について

〔原告の主張〕

以下の(1) ないし(6) で主張するところを考慮すると,本件指定商品等を引用商標に係る商品及び役務と誤認することはあり得ないというべきである。

(1) 音楽の需要者の相異

ア 本件商標は商標権者である原告に所属するアーティストAcid Black Cherry 「(アシッド・ブラック・チェリー)」(以下「アシッド」という。甲46,64)が使用する商標である。アシッドは,ビジュアル系ロックバンド「Janne Da Arc (ジャンヌダルク)」(以下「ジャンヌダルク」という。甲80~118)のボーカルyasu(ヤス)のソロプロジェクト名である(甲65,66。)

イ 日本のポピュラー音楽は,欧米の流行に影響されながらも,欧米とは異なる独自の発展を遂げてきた。アシッドは,日本で独自に発展したジャンルであるいわゆるビジュアル系として分類される音楽家であり,ロック調の音楽を演奏することが多いが,それに限定されず,幅広いジャンルの演奏をし,音楽的には明確なジャンル分けをすることが難しく,その意味で,J-POPの範疇に属しており,その中の1ジャンルとしてビジュアル系と説明され,ローリングストーンズなどの海外のロックバンドとは一線を画する。

ウ ローリングストーンズは,1960年代に全盛期を迎え,当時の若者に指示された英国のロックバンドであり,ファン層の中心は50歳代,60歳代であって,需要者もその年代に集中するのに対し,アシッドのファンは主として10歳代から30歳代までであって,両者のファンの年齢層が明らかに異なる。殊に,アシッドの演奏を見たいとして公演に来場し,又はDVDを購入する者は,音楽に詳しい者やアシッドのファンであるのが通常であるから,需要者はアシッドのファンを想定するべきである。

(2) 商品の販売に係る事情

ア CDを販売する店舗では,邦楽と洋楽とは明確に区別されており,音楽CDを購入する需要者には,邦楽と洋楽とは異なるとの意識がある。

イ 通常,CDやDVDを販売する際,ケースに梱包されて販売される。そして,そのケースの大部分は,販売する楽曲に合ったデザインによるディスクジャケットが占める。雑誌やウェブページ等のディスク紹介では,このジャケットが表示される。本件商標に係る指定商品の大部分は,商標とは関係のないデザインとなっている(甲128~138。)

したがって,指定商品全体から受け取る印象は,ディスクジャケットの方がはるかに強く,本件商標の指定商品であるCDやDVDを手にした者が引用商標に係る商品を連想・想起することはあり得ない。

ウ 音楽CD等の売上げは,現在,急激に減少しており,そのため,本件商標の指定商品である音楽CDやライブ映像を収録したDVDには,販売に際して様々な特典が付けられており,グッズ的要素が強い。

したがって,あえて本件商標の指定商品に係る音楽CD等を購入する者は,おのずからアシッドのファンに限定され,他人の商品に係るものと誤信することはあり得ない。

エ インターネットでの視聴についてみると,アシッドのオフィシャルサイトのDiscographyの頁では,上部に「Acid Black Cherry」の文字がはっきり表示されており,また,ジャケットからyasu の顔が明らかとなっており,この頁に本件商標を用いたとしても,掲載された楽曲が他人の商品又は役務に係るものであると誤信することはない。

インターネットでの楽曲の販売は,mora(甲155)など,通常,レコード会社等が運営する音楽販売サイト又はレコード販売会社が運営するサイトにおいて行われている。これらのサイトでは,邦楽と洋楽とは区別されており,また,商標のみで販売しているものではなく,楽曲の説明やコメント,音楽会社の名前などとともに販売がされているものであるから,本件商標の指定商品をインターネット上で販売する場合にも混同のおそれは生じない。

オ アシッドは,平成19年7月18日,シングル「SPELL MAGIC」でデビューし,平成21年10月1日時点で,8枚のシングル,2枚のオリジナルアルバム,1枚のカバーアルバム,1枚のライブDVDをリリースしている。現在までに発表されたアシッドのCDのうち8枚目のシングル及び3枚目のアルバムについては,特許庁からの取消理由通知書(甲123)が原告に到達していたこともあって,本件商標を使用しなかったが,それまでのシングルCD7枚,アルバムCD2枚において本件商標が用いられている(甲128~136。枝番を含む。以下同じ。)しかるところ,CDやDVDには,所属するレコード会社が表示されている(甲128~135)ので,アシッドとローリングストーンズが異なるレコード会社に所属することは明らかで,出所について広義の混同のおそれは生じない。

カ 記オのとおり本件商標が使用されなかったアシッドの8枚目のシングル「優しい嘘」(平成21年7月29日)及び3枚目のアルバム「Q.E.D」の売上げは,「優しい嘘」がオリコン最高順位4位,平成21年8月度年間売上げ11位を記録し「Q.E.D 」はオリコン初登場2位,同年9月度月間順位9位を記録した(甲137,138 。このように,本件商標を用いなくともオリコンの順位や売上げが落ちていないこと自体,引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りの事実が存在していないことを証明している。

そもそも,アシッドは,ジャンヌダルクのボーカルとして,10年近く活動しており(甲80~118),また,アシッドとしてプロジェクトを立ち上げた際も,インディーズバンドとしてライブハウスツアーを行う(甲68)などしており,CDの売上げは,アシッドのこれまでの活動によるものであって,引用商標の顧客吸引力によるものではない。

キ 実際にも,本件商標と引用商標との間で,CD,DVD等の出所が混同して購入されたという事実は存在せず,そのような証拠も存在しない。

(3) 役務の提供に係る事情

音楽の公演(ライブ)のチケットの値段は比較的高額であり,出演するアーティストについての予備知識なしに公演のチケットを購入する者はいないから,音楽の演奏興行の企画又は運営に関して本件商標を使用したとしても,引用商標の役務と混同するおそれはない。

(4) 本件商標の周知性の有無

アシッドは,メジャーデビュー前の平成19年6月10日,新宿ステーションスクエアで約5000人の観客を前にゲリラライブを開催した際,本件商標を背後に飾って演奏し(甲69),同年7月18日の1枚目のシングル「SPELL MAGIC 」をリリースするに当たって東京代々木公園野外ステージでフリーライブを行った際に,本件商標を使用し(甲144「2008年演奏ツアー」において本件商標を使用し(甲145の2,CDやDVD等でも本件商標を使用しており,その売上げが多いこと(甲70~79,119)からすると,本件商標は,登録出願時及び査定時において,アシッドの商標であることが広く周知されていた。

(5) 引用商標に係る出所表示機能

引用商標は,ジョン・パッシュという芸術家が作成しており,その商標自体の芸術性に高い評価が与えられている(甲31)。ローリングストーンズを知らない者でも,引用商標を使用したTシャツを着用するのは,商標自体の高い芸術性によるものであるが,このことは,引用商標をローリングストーンズが使用しているという出所表示機能が高いという事実を明らかにするものではなく,以下のア及びイの事実によると,本件商標の登録出願時及び査定時,引用商標がローリングストーンズに係る商標として取引者・需要者の間に広く認識されていたとする本件決定の判断は誤っている。

ア 平成20年にローリングストーンズが販売した音楽CDは「シャイン・ア・ライト」オリジナル・サウンドトラック(平成20年4月9日発売)1枚であるが,我が国における売上枚数は3万1902枚にとどまる(甲33)。この数字は,他の外国人アーティストと比べて決して多いとはいえない数字である(甲34)また,ローリングストーンズは,平成21年6月と7月,昭和46年以降のアルバムをリマスター版で販売しているが(甲158) ,ローリングストーンズのアルバム13タイトルは,いずれもCDの売上げ上位30位にすら入っていない。(甲160)

平成20年12月,ローリングストーンズのライブの模様を撮影した映画「ザ・ローリングストーンズ・シャイン・ア・ライト」が劇場公開されたが(甲35,36),興行成績は伸び悩み,一度もトップ10に入ることはなかった(甲37)。

以上のように,ローリングストーンズの人気は欧米を中心としており,日本国内での人気はそれほど高くない。

イ ローリングストーンズの全盛期は,1960年代後半から70年代初めであり,当時のローリングストーンズのファンは,現在50歳代から60歳代である(甲38)。したがって,それ以下の若い世代にはローリングストーンズがどのような者か知らない者が多い(甲39)

例えば,引用商標の商品であるTシャツの宣伝文句には「その名前以上にさらに有名なのがこのベロマーク。ストーンズの存在する知らない若い世代にもこのマークは共通言語。かなりの浸透度です(甲40),「ストーンズを知らない人でも着れる(甲41)とある。これは,引用商標の商品の取引者及び需要者が,ストーンズを知らない若い世代であっても,引用商標の商品には興味があるということを把握していることの表れである。

(6) 本件商標と引用商標との類似性の有無

ア 本件商標の基本的構成について

(ア) 本件商標の唇の右上のほくろは,舌の上の黒いさくらんぼと共に,本件商標にアクセントを与え,看者に強い印象を与えるものである。また,背景が黒色の場合,白抜きでほくろが描かれることがあり,そのように使用する場合には,更に目立つ(甲133~135。)なお,本件決定は,唇の左上の部分を「ほくろ」と認定せず「黒丸」と表示するが,唇と舌と歯の存在から,本件商標が顔を構成する要素によって成り立っていることは通常人であれば想像力を働かせて容易に推認することができるものであって,本件決定が「黒丸」と認定したことは妥当ではない。そして,本件商標の唇の右上にあるほくろは,本件商標の基本的構成要素である。

(イ) 本件商標の「エイビイシイ」との称呼(甲1,本件商標の使用者であるアシッドとのプロジェクト名,本件商標の発案者のアシッドの「愛には常にエロスが付き纏う」,「愛する気持ちを届けたい」とのプロジェクトのテーマを商標の形に反映させようとの意図(甲48)によると,本件商標は,舌の上に載っているABCと刻印された黒いさくらんぼ(Black Cherry)に重点が置かれている。したがって,唇や舌は従たる要素であって,本件商標の主たる要素は,ABCと刻印された黒いさくらんぼである。本件決定は,これを「舌上の音符状図形」とするが,アシッドの名からすると,これがABCと刻印された黒いさくらんぼであることは明らかであり,舌上の音符状図形と認定することは誤りである。そして,ABCと刻印された黒いさくらんぼは,本件商標の中心に位置して本件商標のかなりの部分を占めており,また,赤い舌の上に黒いさくらんぼが存在することから非常に目立つ。したがって,ABCと刻印された黒いさくらんぼは,本件商標において非常に意味のあるものであって,これもまた本件商標の基本的構成要素である。

イ 本件商標と引用商標との構成の異同について

(ア) 本件商標は真正面を向かせて平面的な構図としているのに対し,引用商標は斜めにして立体的な構図となっている。また,引用商標の唇は分厚く,また,口も大きい。

(イ) 本件決定は色彩の対比についても行っているが,そもそも,申立人商標1~3に色はなく(甲2~4,また,ローリングストーンズに係る唇と舌を模した商標には様々な色彩のものがあるのであるから(甲29,30,本件商標と色彩について対比することは意味がない。

(ウ) 引用商標との比較において,本件商標の右上のほくろは近似性を打ち消す要素である。そして,引用商標のモチーフが,ローリングストーンズのメンバーであるミック・ジャガーの唇であるということ(甲49,ミック・ジャガーには唇の右上にほくろが存在しないこと(甲52~54)を前提とすれば,ほくろの有無は,近似性を打ち消す重要な要素である。

〔被告の主張〕

以下の(1) ないし(6) で主張するところを考慮すると,本件決定がいうとおり,本件指定商品等を引用商標に係る商品及び役務と誤認するおそれがあるというべきである。

(1) 音楽の需要者の相異

ローリングストーンズは,昭和38年(1963年)にレコードデビューした英国のロックバンドであって,ビートルズと並び称され,全世界でのレコードアルバムの総売上げは2億枚以上とされている。

また,ローリングストーンズのファン層は50歳代,60歳代に限らず,10歳代から30歳代までのファンもいる。

(2) 商品の販売に係る事情

ア 邦楽や洋楽などのジャンルそれ自体は,需要者の検索の利便性を図るために分類されるものであって,CDを販売する店舗の規模や在庫枚数,来店する客層などによって異なるものであるから,そのジャンル分け自体統一された基準が存在するものではない。

イ 本件商標の指定商品「レコード」等の分野における主たる需要者である幅広い消費者の商品選択においては,ジャケットのデザインやレコード会社等のほか,実演家を表示する商標も重要な商品選択の基準となるものであって,仮に一部の消費者がジャケットのデザインやレコード会社等によって商品の選択を行う場合があるとしても,そのことを理由として,主たる需要者である幅広い消費者が,実演家を表示する商標に着目して商品を選択することが全くないということはできない。

そして,本件商標を使用したCD等と引用商標を使用したCD等とが,同一販売業者によって同一店舗において販売されるという取引の実情が想定される場合に,両商標の類否を全体的かつ具体的に判断するに当たって,このような取引の実情をその判断の基礎とすることが妨げられるべき理由はない。

ウ インターネット上での販売においても,邦楽や洋楽などのジャンルそれ自体は,需要者の検索の利便性を図るために分類されているものであり,そのジャンル自体統一された基準が存在するものではなく,また,インターネットによる音楽ファイルの販売においては,新着情報に記載される曲は,邦楽や洋楽によるジャンルの区別なく併記されて販売されている。

そして,本件商標の指定商品「レコード」等の分野における主たる需要者である幅広い消費者の商品選択においては,楽曲の説明やコメント,音楽会社の名前のか,実演家を表す商標も重要な商品選択の基準となることは明らかであって,主たる需要者である幅広い消費者が,実演家を表示する商標に着目して商品を選択することが全くないということはできないから,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある。

(3) 役務の提供に係る事情

音楽の公演のチケット購入に際して,需要者が,日常的に消費される低廉な日用品に比べてやや高い注意を払う場合があるとしても,常にライブに関する宣伝ポスターや広告等に付された商標をその場で観察するものではなく,その商標を記憶して,時間・場所等を異にして購入を考える場合もあり得るものであるから,紛らわしい外観により,誤って記憶した商標を頼りにチケットを購入する場合があることも否定することができない。

また,指定役務の需要者には,クラッシック,ジャズ,ロック等の多様なジャンルの音楽を指向する若年層から高齢層までを含む幅広い消費者が想定されるものであるから,こうした幅広い消費者が,本件商標に接した場合,外観上の近似性から,引用引用商標を連想・想起するおそれがある。

(4) 本件商標の周知性の有無

本件商標の使用態様は,本件商標と共に「Acid Black Cherry」の文字を横に並べて使用するもの,同文字を本件商標上に重ねて使用するもの,同文字を本件商標の上部又は下部に配して使用しているものであって,これを見た取引者・需要者において,本件商標以外の上記文字部分に着目する結果を生ずるような者も少なくないほか,後記のとおり,引用商標は,ローリングストーンズの「ベロマーク」や「リップ&タン」と指称される標章として周知著名になり,強い自他商品及び自他役務の識別力並びに顧客吸引力を有しているという事情の下においては,本件商標の商標登録出願時,登録査定時及び取消決定時のいずれにおいても,本件商標そのものが,指定商品及び指定役務全般にわたり,引用商標とは別の独自の周知著名性を獲得していたとまではいえない。

(5) 引用商標に係る出所表示機能

以下の事実等によると,ローリングストーンズ及びローリングストーンズの標章である引用商標は,我が国においては,遅くとも本件商標の登録出願時(平成19年6月12日)までには,ローリングストーンズの業務に係る商品及び役務に付される標章を表示するものとして「レコード」等の商品及び「音楽の演奏」等の役務に係る取引者・需要者の間において,広く認識され周知著名であったということができ,また,本件商標の出願後,登録査定時(平成20年1月29日)を経て取消決定時(平成21年8月5日)に至るまで,ローリングストーンズ及びローリングストーンズの標章である引用商標の周知著名性は継続していたということができる。

ア ローリングストーンズの周知著名性

ローリングストーンズは,平成19年(2007年)時点もスポンサーのバックアップ等により大規模なワールドツアーを行っており,ツアーの公演はビデオに収録され,収録された公演の動画や写真はインターネットのウェブサイトにおいて配信されている。また,ローリングストーンズは,平成2年に東京,平成7年に東京及び福岡,平成10年に東京及び大阪,平成15年に東京,横浜及び大阪並びに平成18年に東京,札幌,さいたま及び名古屋においてそれぞれ公演をしたが,同公演には,多数の観客が押しかけるとともに,これらの公演の様子はテレビでも放送され,英国のスーパーロックバンド等として紹介されている。さらに,我が国の一般的な辞書,音楽辞典等においては「ローリングストーンズ」についての項目が設けられ,世界ロック界の頂点に立つグループ等と記載されるなど,ローリングストーンズは我が国において,周知著名となっている。

イ 引用商標の独創性及び周知著名性

ローリングストーンズがその業務に使用する引用商標は,昭和46年(1971年)に発売されたローリングストーンズのレコードアルバム「ステッキー・フィンガーズ」のアルバムジャケットに採用されて使用されるようになった。我が国においては,ローリングストーンズのCD,ツアーパンフレット及びポスターには引用商標が使用されるとともに,上記商品はインターネットのウェブサイトにおいても販売され,このウェブサイトでは,引用商標が表示されている。

そして,我が国において,ローリングストーンズの標章といえば,その独創的な形状から「ベロマーク」や「リップス(唇)&タン(舌)」とも称されるほど,引用商標がローリングストーンズの業務に係る標章として周知著名となっている。

ウ 引用商標の使用状況

引用商標は,本件商標の登録出願前から,ローリングストーンズの楽曲を収録したレコード,CD等に使用されている(乙35~65)。また,引用商標は,ダウンロード可能な音楽配信サイト等におけるローリングストーンズの楽曲を収録したCD等において使用されている(甲156,158,乙66,67。さらに,引用商標は,ローリングストーンズの公演広告ポスター,新聞広告等において使用されている(乙68~77。)

(6) 本件商標と引用商標との類似性の有無

ア 本件商標及び引用商標の基本的構成について

本件商標は,構成中の上部が唇の形状をし,中央部から下部にかけて舌状の図形を配して成ることから,構成全体として,開放された人の口から舌根が見えるほどに出た赤色の舌を基調とした図形を想起させ,開放された口からは白色の前歯らしきもの,開放された口付近には黒丸が1つ,舌の上には中央部から3本の音符らしき黒色の図形(左端及び中央の黒丸部分には,文字がデザインされている)がそれぞれ描かれ,全体として正面方向から観察した図形から成る。

一方,引用商標は,上部には2つの丸い突起を有する唇状の図形,そして中央部から下部にかけては舌状の図形を配して成ることから,構成全体としてみれば,開放された人の口から舌根が見えるほどに出た赤い舌を基調とした図形を想起させるものであり,その赤い舌の上部には白色の前歯らしきものを描き,全体としてやや右斜め方向から観察した図形から成る。

イ 本件商標と引用商標との構成の異同について

図形から成る商標の類否については,それぞれの商標の構成全体の有する外観上の印象が互いに相紛らわしいか否かによって判断すべきであるところ,取引者・需要者は,図形から構成される商標について,必ずしも,常に図形の細部まで正確に観察し,記憶し,想起してこれによって商品又は役務の出所を識別するとは限らず,商標全体の主たる印象によって商品又は役務の出所を識別する場合が少なくない。

本件商標と引用商標とを対比すると,子細にみれば,両者は正面方向と斜め右方向という口の開きの角度,唇右上の黒丸の有無,舌上の音符状図形の有無において外観上相違する点があるものの,開放された人の口及びその口から舌根が見えるほどに舌が出ている点,口及び口から出ている舌がそれぞれ赤色で印象的に描かれている点,舌の上部に配された白色の前歯状のもの(口内は黒色で表されている)を有する点において一致している。

そして,上記の一致点は,図形の基本的な構成上の一致点であって,商標全体における最も大きな部分を占め,一見したとき最初に認識し得る基本的な特徴というべきである。

したがって,時と所を違えて離隔的観察をした場合,看者は,一般に,本件商標と引用商標の上記一致点について強い印象を受け,これを記憶し,想起するというのが自然である。

さらに,CDなどに付する本件商標及び引用商標は,レイアウトの制約から図形の輪郭内側における子細な差異が際立つほどの大きさではないことから,むしろ,その図形の色彩や輪郭全体が看者の注意を惹くものであるといえる。以上によると,本件商標の指定商品及び指定役務中,本件指定商品等の分野における取引者・需要者が本件商標に接した場合には,引用商標に近似した印象を強く受ける。

3 取消事由3(指定商品及び指定役務の一部について取り消すべきとした判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 第9類と第16類及び第25類とを区別したことの当否

登録異議申立人は,指定商品及び指定役務の区分第9類と第16類及び第25類とを特段区別せずに申立ての理由を主張していた(甲121,122。)また,特許庁も取消理由通知書の中では,指定商品及び指定役務の区分第9類を第16類や第25類に関する商品と区別していなかった(甲123)

それにもかかわらず,本件決定は,指定商品第9類と第16類及び第25類とを区別して判断をした。

このように,登録異議申立人が主張していなかった指定商品第9類と第16類及び第25類とを区別して判断することは,登録異議申立人の主張から逸脱するものである。そして,指定商品第9類と第16類及び第25類とは,いずれもファンに対して販売されている商品である以上,区別して判断すべきではなく,第9類に関しても商標登録を維持すべきである。

(2) 実際のCD販売における一部取消しの不都合性

ア 本件決定は,一部の商標登録を維持し,一部の商標登録を取り消したところ,維持された商標登録に係る指定商品及び指定役務は,第16類「文房具類,印刷物,写真,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物」及び第41類「書籍の製作,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,放送番組の制作」であり,一方,取り消された商標登録に係る本件指定商品等は,第9類「レコード,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」及び第41類のうち「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く」である。)

このように,本件決定では,電子出版物に係る登録が取り消されたにもかかわらず,印刷物の登録や書籍の制作に係る登録が維持されたり,放送番組の制作に係る登録が維持されたにもかかわらず,娯楽用ビデオの制作に係る登録が取り消されてしまったりしており,維持されたものと取り消されたものとを分けた基準が判然としない。

イ 現在,CDの売上げは急激に落ち込んでおり(甲163),様々な工夫をしなければCDが売れない時代となっている。そのため,アシッドのCDに関しても,特典としてDVDやフォトブックを特典として付けたり,イベントの応募券を封入するなど,様々な工夫をしている(甲127,128の5,129の4,130の2)。本件決定のように,登録の一部取消し,一部登録維持では,本件商標を封入した紙に使用する場合や封入したフォトブックに使用する場合はどうかということが問題となり,適切な商標権の行使ができなくなるおそれがある。

このような実際のCDの販売方法という観点からも,登録の一部取消しという結論は妥当ではなく,一部に関して登録を維持する以上,全部の登録を維持するという判断がされなければ,本件商標の使用に支障が生じ,実質上,全部の登録が取り消されたに等しいこととなってしまう。

〔被告の主張〕

(1) 第9類と第16類及び第25類とを区別したことの当否

登録異議申立制度は,前記1の被告の主張のとおり,特許庁による処分の見直しという制度の趣旨を全うするため,登録異議申立人の主張に拘束されることなく,取消理由の有無を職権で審理するものである。そして,商標権は,その指定商品又は指定役務ごとにそれぞれ存在するものであるところ,本件商標については,他人の商標と混同のおそれが生ずるか否かという観点から指定商品又は指定役務ごとに取消理由の有無を判断した結果,複数の指定商品及び指定役務のうち一部に係る登録が取り消されたというにすぎず,そのこと自体に何ら不当なところはない。

(2) 実際のCD販売における一部取消しの不都合性

法4条1項15号は「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」について「商標登録を受けることができない」と規定しているのであって,混同を生ずる「おそれ」があるときは,その適用を免れないものである。

当裁判所の判断

1 取消事由1(本件商標と比較する対象商標の認定の誤り)について

登録異議の申立てにおいては,その申立てをすることができる者を具体的な利害関係を有する者に限ることなく何人もすることができる(法43条の2柱書前段)とし,また,異議申立ての理由を公衆の利益に関するものに限る(法43条の2第1号)などしていることからも分かるように,登録異議の申立制度は,商標登録に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成するために,登録異議の申立てがあった場合に,特許庁が自ら登録処分の適否を審理し,瑕疵ある場合にはその是正を図るというものである。そして,登録異議の申立ての審理においては,登録異議の申立てがされてない指定商品又は指定役務については審理することができない(法43条の9第2項)が,登録異議申立人等が申し立てない理由についても審理をすることができる(同第1項)ことになっているのである。

したがって,登録異議申立人が申し立てた本件商標登録の登録異議の申立てにおける本件決定が,本件商標の指定商品又は指定役務について取消理由の有無を審理するに当たって,登録異議申立人がその申立てにおいて引用した申立人商標1~3ではなく,同決定が使用商標として認定した引用商標をもって対比判断を行ったとしても,そのこと自体に格別問題とすべきところはなく,原告の主張は採用することができない。

2 取消事由2(引用商標に係る商品及び役務との混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り)について

(1) 判断基準

法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等がその他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信される広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当であり,そして,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照。

そこで,上記の観点から,本件商標が同号に該当するか否かについて検討する。

(2) 本願商標と引用商標との類否

ア 本件商標及び引用商標の構成等について

本件商標は,別紙商標構成1のとおり,上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった赤色の上唇,開放された人の口から大きく張り出した赤色の舌,その舌の上部に配された白色の前歯状のもの,黒色の口内,舌上に中央部からの大きな3本の黒色の図形,同図形の左端及び中央部の黒丸部分には,デザイン化された「AB」及び「C」の文字がそれぞれ描かれ,また,上唇の右上に黒い丸が描かれ,全体としてみると,人の口を正面から見た図形であって,本件商標掲載公報(甲1)における参考情報としての称呼は「エイビイシイ」とされている。

他方,引用商標は,別紙商標構成2のとおり,上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった赤色又は橙色の上唇(その上唇の2か所の盛り上がった部分にそれぞれ白色の部分が設けられている。),開放された人の口から大きく張り出した赤色又は橙色の舌(舌上の左右に舌の起伏を表すように記載された白色の2本の筋が描かれている,その舌の上部に配された白色の前歯状のもの,黒色の口内がそれぞれ描かれ,全体としてみると,人の口をやや右斜め方向から見た図形である。

イ 本件商標と引用商標との対比について

(ア) まず,外観についてみると,両者は,上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった赤色系の上唇,開放された人の口から大きく張り出した赤色系の舌,舌の上部に配された白色の前歯状のもの及び黒色の口内が描かれているという点では,少なくとも構成を共通するということができる。

しかしながら,両者は,本件商標では正面方向から見た平面的な図形であるのに対して,引用商標ではやや右斜め方向から見た立体的な図形であってかなり印象を異にするものである点,本件商標では舌上に大きな3本の黒色の図形が描かれているのに対して,引用商標では舌上に白色の2本の筋が描かれている点,また,本件商標にのみ上唇右上に黒い丸が描かれている点などにおいて相違していることは否定し得ない。

(イ) 次に,称呼についてみると,本件商標の舌上の3本の黒色の図形中の「AB」及び「C」の文字がデザイン化されているとしても,デザイン化が過ぎる余り,一見して文字が記載されているとは判読し難い状態になっているため,そのことから,本件商標については,原告の主張するように明確に「エイビイシイ」との称呼が生ずるとまではいい難いが,本件商標登録においては,本件商標掲載公報の参考情報として「エイビイシイ」と記載されている。これに対して,引用商標については,その形状から「リップス&タン(タン&リップス)」,「タング(舌)ロゴ」,「ベロロゴ」,「ベロマーク」等と通称されているが(甲24,40,43,乙28,29,31,32,34,82),確立した称呼が存在するものでない。

(ウ) 次に,観念についてみると,引用商標では,開放された人の口から舌を大きく張り出すものとの観念が生ずる。これに対して,本件商標では,上記のとおり,中央部から大きな3本の黒色の図形が存在することなどの点があることをみると,特定の観念が生じているということはできない。

(3) 引用商標の周知著名性及び独創性

ア 証拠(甲7,8,11,12,20,22,156,158,乙7~65,68~70,80~92)及び弁論の全趣旨を加えると,次の事実が認められる。

(ア) ローリングストーンズは,昭和38年(1963年)にレコードデビューし,ロック草創期の1960年代から現在まで40年以上にわたり,第一線で創作を続ける著名な英国のロックバンドであり,ビートルズと並び称されており,全世界でのレコードアルバムの総売上げは2億枚以上であって,その活躍は,我が国においても報道されてきた。

ローリングストーンズは,平成2年から平成18年にかけて幾度となく来日し,東京,大阪,横浜,福岡,名古屋,札幌及びさいたまにおいて公演を行っており,それぞれの公演には多数の観客が来場し,また,これらの公演は,テレビ放映されるなどし,最近に至るまでローリングストーンズの話題がしばしば新聞記事等で採り上げられている。

我が国の一般的な辞典である「小学館ランダムハウス英和大辞典第2版(平成6年1月発行。乙18),「大辞林第三版」(平成18年10月発行。乙19),「講談社カラー版日本語大辞典第二版」(平成7年7月発行。乙20)及び平凡社「世界大百科事典30巻」(昭和63年4月発行。乙21,三省堂「コンサイスカタカナ語辞典第3版」(平成17年1月発行。乙22)及び「広辞苑第六版」(平成20年1月発行)並びに音楽事典である平凡社「音楽大事典第5巻(昭和58年8月発行。乙24)及び講談社「ニューグローヴ世界音楽大事典第20巻」(平成7年1月発行。乙25)には,ローリングストーンズの項目があって,その記載がされている。

(イ) 引用商標は,昭和46年(1971年)に発売されたローリングストーンズのレコードアルバム「ステッキー・フィンガーズ」のジャケット(甲22)に採用されて登場したものである。

引用商標は,本件商標の出願日である平成19年6月12日以前から我が国で販売されているローリングストーンズのレコード,CD等のジャケット等に使用(乙47~59)され,その後も,継続して使用(乙35~46,60~65)されてきている。オリコンによる昭和45年から平成17年までのアルバム集計(乙92)によると,例えば,ローリングストーンズのアルバムのうち「スティッキー・フィンガーズ(昭和46年6月10日発売。乙47)については週間売上げ最高位」9位で売上総数3万2520枚,「山羊の頭のスープ」(昭和48年10月10日発売。乙48)については週間売上げ最高位7位で売上総数6万6120枚「イッツ・オンリーロックン・ロール(昭和49年10月25日発売。乙49)については週間売上げ最高位29位で売上総数2万7230枚,「女たち」(昭和53年6月20日発売。乙51)については週間売上げ最高位11位で売上総数5万5650枚,「エモーショナル・レスキュー」(LPにつき昭和55年7月1日,カセットテープにつき同月5日発売。乙52)については週間売上げ最高位10位で売上総数7万2210枚,「刺青の男」(昭和56年9月21日発売。乙53)については週間売上げ最高位8位で売上総数8万2460枚「アンダーカヴァー」(昭和58年12月5日発売。乙54)については週間売上げ最高位12位で売上総数6万9630枚「ダーティー・ワーク(昭和61年4月2日発売。乙55)については週間売上げ最高位4位で売上総数12万0950枚「スティール・ホイールズ(平成元年9月7日発売。乙56)については週間売上げ最高位5位で売上総数16万9790枚「ヴードゥー・ラウンジ」(平成6年7月13日発売。乙57)については週間売上げ最高位2位で売上総数17万5890枚「ブリッジズ・トゥ・バビロン(平成9年9月27日発売。乙58)については週間売上げ最高位9位で売上総数14万0080枚,「ア・ビガー・バン」(平成17年4月13日発売。乙59)については週間売上げ最高位5位で売上総数9万4294枚であるなど,ローリングストーンズのレコード,CD等は,我が国において継続的に発売され,それぞれ相当な売上数があった。

また,引用商標は,最近におけるダウンロード可能な音楽配信サイト等において,ローリングストーンズの楽曲を収録したCD等のジャケットの画像として使用されており(甲156,158,乙66,67),このような状況は,平成19年以前から継続していたものと推認される。

さらに,引用商標は,平成2年1月6日付け(乙68),同月18日付け(乙69),平成7年2月12日付け(乙70),平成14年12月10日付け(乙71),平成15年2月24日付け(乙72)の朝日新聞紙上のローリングストーンズ公演の広告,平成2年4月1日発行の音楽雑誌のローリングストーンズ公演の紹介記事(乙73),平成2年のローリングストーンズ日本公演のポスター(乙76,77)等でも使用された。

イ 以上の事実によると,引用商標は,我が国においては,ローリングストーンズの業務に係る商品又は役務を表示するものとして,平成19年以前から継続的に使用されて認識が広められてきたものと認めることができ,遅くとも本件商標の登録出願時までには,ローリングストーンズの業務に係る商品又は役務を表示するものとして,音楽関連の取引者・需要者の間に広く認識され,かつ,著名となっていたものであって,その状態は,本件商標の登録査定時においても,なお継続していたということができる。

ウ また,引用商標は,上記(2) アのとおりの構成から成るものであって,申立人商標1~3を含む本件登録異議の申立ての審理において登録異議申立人が引用していた商標及び本件商標を除外すると,本件決定もいうとおり,斬新な図形であって,その独創性の程度は高いものであるということができる。

(4) 指定商品及び指定役務とローリングストーンズの業務に係る商品等との関連性

本件指定商品等は,上記(3) のとおりの音楽バンドであるローリングストーンズの業務に係る商品又は役務と関連するものであって,ロックバンドであるローリングストーンズの業務に係る引用商標の商品及び役務は,本件指定商品等に含まれるものである。

(5) 引用商標に係る取引者及び需要者

ローリングストーンズは,上記.アのとおり,昭和38年(1963年)にレコードデビューして以来,現在まで40年以上にわたり第一線で活躍し続けてきた著名なロックバンドであって,その音楽は,代表的なロック音楽の1つとされている(甲11,12,23。)ローリングストーンズは,平成2年から幾度となく来日して公演も行っており,我が国においても幅広い年齢層のファンがいるが,その中心は50歳代及び60歳代であって(甲38,乙104~106),ローリングストーンズの音楽に係る商品及び役務の需要者もこのような者が想定される。

なお,ロック音楽の定義としては,1950年代以降のロックンロール誕生以後のポピュラー音楽のうち,若者を主なターゲットとする音楽をすべてロックとしてとらえるもの,上記からソウルやリズム・アンド・ブルースを除いたものとしてとらえるもの,上記からポップスを除いたものとしてとらえるものなどがあって多義的である(甲147)

(6) 本件商標の使用による引用商標と誤信する可能性

上記(2) ないし(6) によると,本件商標と引用商標とは,いずれも,上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった赤色系の上唇,開放された人の口から大きく張り出した赤色系の舌,舌の上部配された白色の上前歯状のもの及び黒色の口内が描かれているという点で構成を共通にする。また,引用商標は,音楽関係の商品及び役務分野において,ローリングストーンズに係る商品又は役務を表示するものとして,取引者・需要者の間において著名で,かつ,独創性がある。

しかしながら,本件商標と引用商標とでは,称呼及び観念の共通性がないことに加え,外観においても,本件商標では正面方向から見た平面的な図形であるのに対して,引用商標ではやや右斜め方向から見た立体的な図形である点でかなり印象を異にするものである点,本件商標では舌上に3本の黒色の図形が描かれているのに対して,引用商標ではそのようなものがない点において相違していることも看過し得ない構成の特徴である。そして,引用商標がローリングストーンズの業務に係る商品又は役務を表示するものとして音楽関係の取引者・需要者の間で周知・著名であることは,また,それ故に,引用商標と本件商標との上記の相違点は,看者にとってより意識されやすいものであると解されるところである。しかも,需要者についてみると,音楽は嗜好性が高いものであって,音楽CD等の購入,演奏会への参加等をしようとする者は,これらの商品又は役務が自らの対象とするもので間違いないかをそれなりの注意力をもって観察することが一般的であると解されること,取引者についてみるに,音楽について通暁していることが一般であるレコード店や音楽業界関係者等である本件指定商品等の取引者が,本件指定商品等において,本件商標をローリングストーンズの業務に係る商品又は役務と混同することは考え難いことなどの事情が認められるのである。

これらの事情を総合考慮すると,引用商標に係る商品又は役務は本件商標に係る本件指定商品等に含まれるものであるとしても,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,本件商標を本件指定商品等に使用した場合,これに接する取引者・需要者が,著名な商標である引用商標を連想・想起して,本件指定商品等がローリングストーンズ若しくはローリングストーンズとの間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品又は役務であると誤信するおそれがあるものと認めることはできないといわざるを得ない。

(7) 被告の主張について

被告は,本件指定商品等に係る本件商標とローリングストーンズの業務に係る商品又は役務との誤認混同があるとする理由として,アシッドとローリングストーンズがロック音楽という点で共通していること,ローリングストーンズとアシッドのファンの年齢層にも共通する部分があること,レコードや音楽の公演等の主たる需要者が商標に着目して商品又は役務を選択する可能性の存在があること等を主張するが,上記認定のとおりのロック音楽の多義性からして「ロック音楽」であるということから直ちに統一的に理解することができるものであるか疑問がなくはないこと,ローリングストーンズとアシッドとの中心的なファン層が異なること,音楽は嗜好性が高いものであって,音楽CD等の購入,演奏会への参加等をしようとする者は,これらの商品又は役務が自らの対象とするもので間違いないかをそれなりの注意力をもって観察することが一般的であると解されるとの取引の実情等に照らすと,被告の主張に係る事情を考慮したとしても,上記判断を覆すに足りるものではない。

(8) 小括

したがって,取消事由2は理由がある。

3 結論

以上の次第であるから,取消事由3については検討するまでもなく,本件指定商品等についての商標登録を取り消すとした本件決定は誤りであって,取り消されるべきものである。

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