知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成21年(行ケ)第10210号審決取消請求事件


主文

1 特許庁が無効2008-890080号事件について平成21年4月6日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

1 本件は,被告が有する下記商標登録(本件商標)の指定商品第3類・第21類・第26類について,原告が,商標法4条1項19号(不正目的使用)に違反するとして商標登録無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。

2 争点は,①下記の米国商標1及び2(以下,併せて「本件各米国商標」という。)は,本件商標登録出願時及び査定時に,外国たるアメリカ合衆国の需要者の間に広く認識されていたか,及び②被告は本件商標の使用につき不正の目的を有していたか(商標法4条1項19号),である。

(1) 本件商標(登録第4967769号)

・商標

・指定商品

第3類,第9類,第14類,第16類,第20類,第21類,第26類第28類,第34類

(各類毎の指定商品の具体的内容は別添審決書記載のとおり。)

・出願日平成17年11月2日

・査定日平成18年6月13日

・登録日平成18年7月7日

(2) 本件各米国商標

ア 登録第1814261号(以下「本件米国商標1」という。)

・商標

ANTHROPOLOGIE

・使用開始日1992年(平成4年)10月31日

・流通開始日1992年(平成4年)11月2日

・出願日1993年(平成5年)4月15日

・登録日1993年(平成5年)12月28日

・使用目的42類(米国分類:101類)百貨店の小売役務

・商標権者アンソロポロジー・インコーポレイテッド

イ 登録第2588172号(以下「本件米国商標2」という。)

・商標

ANTHROPOLOGIE

・使用開始日1989年(平成元年)4月30日

・流通開始日1989年(平成元年)10月30日

・出願日2001年(平成13年)7月3日

・登録日2002年(平成14年)7月2日

・使用目的

18類(米国分類:1類,2類,3類,22類及び41類)ハンドバッグ,多目的キャリー・バッグ,トート・バッグ,旅行用バッグ,ショルダーバッグ,クラッチ・パース,多目的運動用バッグ,バックパック,財布,コインケース及び空の状態で販売される化粧用バッグ

25類(米国分類:22類及び39類)女性用被服,すなわちトップス,ブラウス,シャツ,セーター,ブレザー,ジャケット,ベスト,スカート,ジーンズ,ショートパンツ,ジャンプスーツ,カプリパンツ,キュロット,スコート,ドレス,スーツ,コート,フード付ジャケット,ウィンドブレーカー,スキー・ジャケット,寝間着,ソックス,靴下,水着,レオタード,タイツ,帽子及び靴

・商標権者ユー・オー・マーチャンダイス・インコーポレイテッド

第3 当事者の主張

1 請求原因

(1) 特許庁における手続の経緯

被告は,平成17年11月2日に出願され平成18年6月13日に登録査定を受けて平成18年7月7日に登録第4967769号として設定登録された本件商標の商標権者であるところ,原告は,平成20年9月16日,本件商標登録のうち第3類・第21類・第26類について商標法(以下「法」という。)4条1項19号(不正目的使用)違反を理由として商標登録無効審判請求をした。

特許庁は,上記請求を無効2008-890080号事件として審理した上,平成21年4月6日請求不成立の審決をし,その謄本は同年4月16日原告に送達された。

(2) 審決の内容

審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件各米国商標は日本又は外国において需要者の間に広く認識されている商標と認めることはできないし,仮にそうであるとしても,被告が不正な目的をもって本件商標を使用するものと認めることもできないから,本件商標登録は法4条1項19号に該当するということはできない,というものである。

(3) 審決の取消事由

しかしながら,本件商標が法4条1項19号に該当しないとした審決は,以下に述べるとおり誤りであるから,違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(本件各米国商標が「外国における需用者の間に広く認識されている商標」に該当するかについての判断の誤り)

(ア) 審決は,本件各米国商標に関し,「・・・周知性を推し量るための証左となる新聞広告及び雑誌記事に関するもの(英語版)は,甲第4号証及び甲第5号証のわずか2件のみであり,これらの証拠によっては,本件商標(判決注:本件各米国商標のこと)が,直ちに『日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標』ということはできないものである。」(9頁27行~30行)とし,甲第6号証~10号証のカタログの抜粋について,「・・・実際にどのようなカタログ(実物)をどの時期にどの程度作成し,どうやって頒布したのかも不明である。」(9頁36行~37行)とした。

しかし,原告が周知性を立証するための証拠として新聞広告及び雑誌記事を各1件ずつとカタログ例5件の抜粋を提出したのは,審判官の負担も考慮した上での合理的取捨選択の結果である。すなわち,新聞・雑誌記事等も電子データで管理・保管されるようになった現在,関連資料を提出しようとすれば夥しい数になりうるところ,それらを取捨選択することなく提出して数量で圧倒するというような質の低い立証活動を行うことを避け,真に証拠力のあるものを厳選し,迅速・適正な審理の実現に寄与したいと考えたためである。

(イ) 審決は「・・・周知性を推し量るための証左となる新聞広告及び雑誌記事に関するもの(英語版)は,甲第4号証及び甲第5号証のわずか2件のみであり」(9頁27行~28行)と数量のみに着目した認定をした。

しかし,甲第4号証は,日本においても著名な新聞「ザ・ニューヨーク・タイムズ」において本件各米国商標を使用した商品の宣伝・広告活動が行われたことを示す証拠であり,甲第5号証は,日本版も発行され多くの日本人の間で知られているビジネス誌「フォーブス」に掲載された本件各米国商標を使用したブランド及びその経営者の特集記事である。そして,その記事の中で本件各米国商標である「ANTHROPOLOGIE」の名称が10回以上登場しているだけでなく,その内容は,以下のとおり(甲5,翻訳文による),上記ブランドの米国内における著名性を強く裏付けるものである。

・「・・・同業種の既存店売り上げは,夏の間横這いであった。これに対し,へインズ氏は,7月31日までの四半期において,68のアーバンの店舗で27%,58のアンソロポロジー(30~45歳の女性をターデットにしている)の店舗で25%の売上げアップを達成した。

・・・過去12ヶ月に渡り,同社の1株当りの利益と売上げは,それぞれ102%,40%という急激な伸びを記録,本誌の小企業ベスト200のリスト中,27位という地位を獲得した。」(1頁)

・「・・・同社の2ブランドのトップ,アンソロポロジーのグレン・T・センク氏とアーバンのテッド・G・マーロー氏の担当であり・・・」(2頁)

・「へイン氏は,1990年代初頭までに,主要な顧客が歳を重ねているという,明かな,しかし極めて重要なことに気が付いた。

女性達は,より多くの収入を得,結婚し,子供を持つようになっていた。彼女達の好みは変化していたのである。・・・こうして生まれたのが,学生時代を思わせるフォンデュ鍋やラーヴァ・ランプの替わりに,ファンキーなドアノブとエキゾチックな花柄の寝具類に溢れたアンソロポロジーである。」(2頁)

・「アンソロポロジーでは,デザイナーと販売担当者が,2,30人の女性を店に招いて『フィッティング・パーティ』を開き,近く発表する予定のデザインを試着してもらい,その外観や着心地についてフィードバックを受けている。」(2頁)

・「アンソロポロジーは,過去5年間に渡り,年間収益の伸び率が40%のヒットである。アーバンの売上げの44%を占めている。」(2頁)

・「アンソロポロジーの顧客達は,いずれこのブランドを卒業してゆく。ならばその次は?おそらく,子供が巣立った後の母親のための店ということになるだろう。・・・『私自身,アンソロポロジー世代のグループからどんどん離れているということに気付いています。』・・・」(3頁)

(ウ) また,審決は,甲第6号証~甲第10号証のカタログの抜粋について,「・・・実際にどのようなカタログ(実物)をどの時期にどの程度作成し,どうやって頒布したのか不明・・・」(9頁36~37行)とした。

しかし,一企業が頒布する商品カタログの場合,新聞・雑誌等一般に販売される書籍類と異なり,その数量は第一次的には頒布者自らの陳述によらざるを得ない。甲第11号証は,原告の最高財務責任者であるAが法律に則り知識,情報,及び信条並びに会社の記録に基づいて作成し,公証人による公証を受けた宣誓陳述書であるところ,米国は嘘をつくことに対し極めて非寛容な社会であり,偽証罪は宣誓を行って陳述,署名した場合だけでなく,確定申告書,知的財産権の出願書類等,偽証罪の制裁の下に内容の真正なものとして文書に署名した場合にも適用されることに照らせば,甲11号証の宣誓陳述書は十分な証拠力を有するものである。

そして,甲第11号証によれば,本件商標の出願時である平成17年11月の時点で「ANTHROPOLOGIE」を使用する店舗が全米で73店運営されていたこと,本件各米国商標を使用した商品を掲載したカタログが1998年(平成10年)から2005年(平成17年)1月31日までに約7800万部,その後の1年間でさらに約2400万部頒布されたこと,本件各米国商標を使用した商品が購入が可能なネット上の店舗も運営され,2004年(平成16年)9月1日から2005(平成17年)年10月31日までのユニーク・ビジット(訪問者を頁毎の重複カウントなしで算出した数)は約1364万件に達していたことを認めることができる。

なお,審決はカタログの頒布について,「・・・どうやって頒布したのか不明・・・」(9頁37行)としたが,カタログは店舗に置かれ,顧客が自ら手にしたり,販売員が手渡す形で頒布されたり,場合によっては氏名・住所等の情報を登録している顧客に送付される形で頒布されるのが通常である。これは証明することを要しない経験則から明らかな事実,一般常識である。

(エ)さらに原告は,米国以外の様々な国と地域においても「ANTHROPOLOGIE」を商標登録して服飾・雑貨の宣伝・販売を行ってきており,インターネット上の店舗を通じ世界中の多数の国々に顧客を有している。

(オ) 以上のとおり,本件登録商標の出願時である平成17年11月及び登録査定時である平成18年6月の時点において,本件各米国商標は女性用被服及びかばん類等について,少なくともアメリカ合衆国の需要者の間に広く認識されている商標であったというべきであり,これを否定した審決には誤りがある。

イ 取消事由2(本件商標が「不正の目的をもって使用するもの」に該当するかについての判断の誤り

(ア) 審決は,本件商標が「不正の目的」(法4条1項19号)をもって使用するものとは認められない理由として,「(1)その周知商標が造語よりなるものであるか,若しくは,構成上顕著な特徴を有するものであることを示す資料,(2)その周知商標の所有者が,我が国に進出する具体的計画(例えば,我が国への輸出,国内での販売等)を有している事実を示す資料,(3)その周知商標の所有者が近い将来,事業規模の拡大(例えば,新規事業,新たな地域での事業の実施等)を有している事実を示す資料,(4)出願人より,商標の買取り,代理店契約締結等の要求を受けている事実を示す資料,(5)出願人がその商標を使用した場合,その周知商標に化体した信用,名声,顧客吸引力等を毀損させるおそれがあることを示す資料等,具体的な証拠となるものを何等提出していないものである。」(10頁10行~19行)ことを挙げた。

たしかに,特許庁における法4条1項19号該当性の審査基準においては同条項に該当する例として,(イ) 外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として,高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの,又は外国の権利者の国内参入を阻止し若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したもの,(ロ) 日本国内で全国的に知られている商標と同一又は類似の商標について,出所の混同のおそれまではなくても出所表示機能を稀釈化させたり,その名声等を毀損させる目的をもって出願したものが挙げられ,審決が提出すべき証拠資料として例示したものは上記各目的を立証する資料として記載されている。

しかし,法4条1項19号に該当する事例には上記(イ)(ロ)以外にも,内外の周知商標と同一又は類似の商標を信義則に反するような不正の目的で出願する様々な場合があり得るのであり,条文上「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。」とされているところの「その他の不正の目的」には,取引上の信義則に反するような目的を広く含むものと解される。

そのような信義則違反の例として,行為者が将来における外国の権利者の国内参入を阻止するという消極的意図しか有しておらず,高額で買い取らせようとしたり代理店契約締結を強制しようとする等,積極的な行為に出ることがなかった場合,あるいはそのような行為に出ることを企図してはいたが正当な権利者によって先に法的手段に訴えられ機会を逸してしまった場合,その他,悪しき意図が必ずしも客観的外部的事情として表れない様々な非典型事例が想定される。そのような場合において,上記のような客観的資料を欠くが故に「不正の目的」が認められないとすれば,正当な権利者の犠牲の下に不正登録者が保護されるという不当な結果を招くこととなり,法の趣旨を没却することになる。そして,「不正の目的」の要件は立証困難な内心の主観的意思に関わる要件であるから,問題となる商標自体についての一定の事情等から「不正の目的」については一応の推定が働くものとするのが相当であり,①一以上の外国において周知な商標又は日本国内で全国的に知られている商標と同一又は極めて類似するものであること,②その周知な商標が造語よりなるものであるか,若しくは構成上顕著な特徴を有するものであること,といった要件を満たす場合には「不正の目的」が推認されるとするべきである(特許庁の審査基準にも同様の規定がある。)

そして,「ANTHROPOLOGIE」は,元々「人類学」に対応する英語「Anthropology」を基本とするものであるところ,語尾を「gy」ではなく「gie」とした点に特徴を有する。このような綴りとなったのは,米国での商標出願の際に担当者が綴りを間違えたためであるが,それがかえってユニークであるとしてそのまま使用されるに至ったものである。外国語に対する苦手意識の根強い我が国において最も馴染みのある外国語は英語であり,仏語や独語に馴染みのある者は極めて少数であり,「Anthropology」が「人類学」を意味し,さらに仏語や独語ではこれを「Anthropologie」と綴るということを知っている者はごく僅かである。このような事情を考慮すれば,本件商標は「造語」とまではいえないとしても,少なくとも「構成上顕著な特徴を有するもの」に該当する。このような事情の中,被告が登録したのは,英語の正しい綴りである「ANTHROPOLOGY」ではなく,大文字と小文字からなる「Anthropologie」でもなく,本件各米国商標と同一の「ANTHROPOLOGIE」である。したがって,本件商標は上記①②の要件を満たすものである。

(イ) また,被告は,主に米国の被服ブランドのカジュアルウェアの卸売り・販売事業を展開する中で,平成15年(2003年)1月,海外ブランドの発掘を目的として米国ニューヨーク州に事務所を設立し,平成19年(2007年)3月にはアメリカにおけるカジュアルウェアのテストマーケティングの目的で,ニューヨーク州にCrymsonUSAINC.を設立しており,本件商標を出願した平成17年11月当時,被告は米国において服飾業界の調査活動等を行っていたところ,前記のとおり,原告は,そのころまでに,「ANTHROPOLOGIE」のブランド名でニューヨーク州で6店舗を経営し,米国全体では73の店舗を経営していた上,1998年(平成10年)からはオンラインで商品を購入できるウェブサイトも運営しており,何人もこれを閲覧できる状態になっていた。米国内で被服ブランドの調査活動を行っていた被告が,少なくとも米国内で周知であった本件各米国商標を知らないはずはなく,ひいては,本件各米国商標の使用目的と同じ服飾業界に属し,米国内で被服ブランドの調査を行う等の活動を行っていた者によって,大文字のみの表記とする点,誤った綴りの表記までが完全に一致する同一商標が偶然に採用されたとは到底考えられない。

(ウ) 被告は本件審決がなされた無効2008-890080号事件において何ら答弁を行わなかった上,平成21年1月5日,本件商標の抹消登録申請を行い,同年1月19日,本件商標は権利放棄により抹消された。このように被告は原告の無効審判請求を事実上認諾しており,これは「不正の目的」を推認させる事情である。

(エ) 審決は,「・・・本件商標登録出願は,第3類,第9類,第14類,第16類,第20類,第21類,第26類,第28類,及び第34類の9区分という多数の区分及び商品を指定商品として出願したものであり,請求人の使用する商品をごく一部に含んでいるとしても,これを遥かに超えた広い分野について商品を指定して出願しているものであるから,不正の目的をもって使用をするものと断ずることはできない。」(10頁29行~34行)とした。

しかし,9区分という多数の区分及び商品を指定商品として出願たこと,各区分における指定商品も実際に使用する意図があるとは解されない物も含め夥しい数に上ることなど,必要以上に広い分野について商品を指定して出願しているものであるからこそ,原告の日本進出を阻止する等,公正な取引秩序に違反し信義則に違反する「不正の目的」が推認されるというべきである。

(オ) 以上の事情に鑑みれば,本件商標は被告が不正の目的をもって使用するのもに該当するというべきであり,これを否定した審決には誤りがある。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。

当裁判所の判断

1(1) 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

(2) 一方,弁論の全趣旨によれば,原告(請求人)からなされた本件商標登録無効審判請求(無効2008-890080号事件)につき,商標権者たる被告(被請求人)は特許庁において何らの答弁も行わなかったことが認められる。

さらに,本件訴訟記録によれば,原告から本件訴訟が提起された後においても,被告は平成21年9月11日付けで請求棄却を求める旨及び請求原因1・2・3(上記請求原因(1)(2)と同旨)は認めるがその余は争う旨の答弁書を提出したのみで,平成21年10月13日の第1回口頭弁論期日に出頭せず,また上記事情を踏まえ当裁判所が被告に対し,平成21年10月13日付けで別紙のとおりの内容の釈明を命じたにも拘わらず何らこれに応答せず,かつ平成21年11月17日の第2回口頭弁論期日にも出頭しなかったことが認められる。

2 法4条1項19号(不正目的使用)該当性の有無

(1) 本件各米国商標が「外国における需用者の間に広く認識されている商標」に該当するか(取消事由1)について

ア 証拠(甲2~12)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

①原告は,アメリカ合衆国ペンシルバニア州に主たる営業所を有するペンシルバニア州籍の法人である(甲11,弁論の全趣旨)。

②原告は,1989年(平成元年)から「ANTHROPOLOGIE」の商標を女性用被服及びハンドバッグ等に使用している(甲11)。

③原告は,1992年(平成4年)10月31日,「ANTHROPOLOGIE」の商標を使用した店舗を米国で開店し,2005年(平成17年)11月以前までに米国で73店舗を運営するようになり,さらに同月には3店舗を開店させ,2008年(平成20年)8月8日の時点では米国で112店舗を運営している(甲11)。

④1998年(平成10年),「ANTHROPOLOGIE」の商標を使用したカタログが初めて発行され,2005年(平成17年)1月31日までに約7877万部が頒布され,更に2006年(平成16年)1月31日までの間に約2438万部が頒布された(甲11)。

⑤原告が開設した「ANTHROPOLOGIE」の商標を使用したウェブサイトでは,1998年(平成10年)12月から女性用被服及びハンドバッグ等の商品を購入することができるようになり,2004年(平成16年)9月1日から2005年(平成17年)10月31日までの間のユニーク・ビジット(訪問者を頁ごとの重複カウントなしで算出した数)の数は約1364万件であった(甲11,12)。

⑥原告は,「ANTHROPLOGIE」の商標を使用した商品の広告を米国の新聞「ザ・ニューヨーク・タイムズ」に掲載することによる宣伝活動も行っている(甲4)。

⑦2004年(平成16年)11月,米国の雑誌「Forbes」に原告のCEO(最高経営責任者)と「ANTHROPOLOGIE」を取り上げた記事が経営された(甲5)。

イ 上記事実,ことに本件各米国商標を使用した店舗の数,カタログ頒布部数,ウェブサイトの開設状況及びその利用状況等の事実関係によれば,本件商標の登録出願がなされた平成17年11月2日及び本件商標の登録査定がなされた平成18年6月13日の時点において,本件各米国商標は少なくとも米国において女性用被服及びハンドバッグ等の需用者の間に広く認識されていた商標であると認めることができる。よって,本件各米国商標を「他人の業務にかかる商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需用者の間に広く認識されている商標」には当たらないとした審決の判断は誤りである。

(2) 本件商標が「不正の目的をもって使用するもの」に該当するか(取消事由2)について

ア 証拠(甲13,14,16,26)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

①被告は,昭和59年(1984年)1月26日に設立された衣料品の製造・販売等を目的とする株式会社であり,複数のカジュアルウェアのブランドを使用してカジュアルウェアの卸売り,販売及びブランドライセンス事業を行っている(甲13,弁論の全趣旨)。

②被告は,昭和59年1月に卸売業を開始し,同年8月には小売業に進出することを目的として都内に出店し,平成10年9月には卸売事業における季越品(シーズンを過ぎた商品)の販売を目的とするアウトレット店舗を都内に出店し,平成12年12月には商品の安定生産及び生産コスト削減を目的として中国江蘇省無錫市に設立された有限公司に合弁事業として出資した。被告は,平成15年1月には海外ブランドの発掘を目的として米国ニューヨーク市に事務所を設立し,平成19年3月には米国におけるカジュアルウェアのテストマーケティングを目的としてニューヨーク州に「Crymson USA INC. 」を設立した(甲13)。

③被告は,下記の商標の商標権者であった(甲14,25の1)。

・商標(登録第4330840号)(以下「別件商標」という。)

・指定商品

第18類

「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬道具,愛玩動物用被服類」

第24類

「織物,メリヤス生地,フェルト及び不織布,オイルクロス,ゴム引防水布,ビニルクロス,ラバークロス,レザークロス,ろ過布,布製身の回り品,織物製テーブルナプキン,ふきん,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,織物製いすカバー,織物製壁掛け,織物製ブラインド,カーテン,テーブル掛け,どん帳,シャワーカーテン,織物製トイレットシートカバー,遺体覆い,経かたびら,黒白幕,紅白幕,布製ラベル,ビリヤードクロス,のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」

第25類

「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

・出願日平成10年10月7日

・査定日平成11年8月6日

・登録日平成11年10月29日

④原告は,日本へ事業進出をするに当たり,日本においても「ANTHROPOLOGIE」を商標登録しようと考え調査を行ったところ,別件商標を発見し,平成18年3月12日,不使用を理由とする別件商標の取消審判を請求をした。特許庁は,上記請求を取消2006-30290号事件として審理した上,平成18年10月4日,別件商標の商標登録を取り消す旨の審決をし,同審決は平成18年11月15日確定した。(甲14,15,25の1・2,弁論の全趣旨)

⑤被告は,平成18年7月27日,第25類の「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用被服,運動用特殊靴」を指定商品として,「ANTHROPOLOGIE」の商標登録を出願した(商願2006‐070282号)(甲24)。

⑥原告は,平成18年10月20日,第18類及び第25類を指定商品として「ANTHROPOLOGIE」商標登録を出願したところ(商願2006‐097885号),本件商標及び前記

⑤の商標登録出願(商願2006‐070282号)に係る商標との関係で法4条1項11号に該当する旨の拒絶通知を受けた(甲16,弁論の全趣旨)。

⑦ 被告は,前記⑤の商標登録出願(商願2006‐070282号)につき登録査定を受けたが,登録料を納付しなかったため,平成19年4月20日付けで出願却下処分を受けた(甲24,弁論の全趣旨)。

⑧ 本件商標は,平成21年1月5日受付で権利放棄を理由に抹消登録申請がなされ,同年1月19日に抹消登録された(甲23)。

⑨ 「anthropology」は人類学を意味する英語であるところ,原告が米国で商標出願をする際に担当者が語尾の綴りの「gy」を「gie」と間違えたため「ANTHROPOLOGIE」が商標として登録されたが,原告においてはそれがかえってユニークであるとしてそのまま使用されるに至っている。なお,「anthropologie」は,仏語及び独語においては人類学を意味する言葉の正しい綴りである(弁論の全趣旨)。

イ 上記事実によれば,本件商標は,前記のとおり「ANTHROPOLOGIE」のアルファベットの大文字及び「アンソロポロジー」の片仮名文字を上下二段に横書きして成るものであるのに対し,本件各米国商標はアルファベットの大文字による「ANTHROPOLOGIE」の表記から成るものである。そして,両者はアルファベットの大文字による「ANTHROPOLOGIE」の表記及び「アンソロポロジー」の称呼を同じくするものであるから,本件商標は本件各米国商標と類似の商標と認めることができる。

そして,前記のとおり,原告は,1989年(平成元年)に「ANTHROPOLOGIE」の商標の使用を始め,1992年(平成4年)10月31日には「ANTHROPOLOGIE」の商標を使用した店舗を米国で開店していた上,1998年(平成10年)には「ANTHROPOLOGIE」の商標を使用したカタログを発行していたところ,被告は被服のブランドライセンス事業を行っており外国の服飾ブランドについても専門知識を有していたと推認されることからすれば,被告が別件商標を出願した平成10年10月7日の時点で本件各米国商標を知っていた可能性が認められる。まして,被告は平成15年1月には海外ブランドの発掘を目的として米国ニューヨーク市に事務所を設立していたのであるから,本件商標を出願した平成17年11月2日の時点で,当時米国において女性用被服及びハンドバッグ等の需用者の間に広く認識されていた本件各米国商標を知っていたと認めるのが相当である。

そして,前記1(2)で認定した被告の応訴態度その他本件において認められる上記各事情を総合すると,被告は,本件商標が米国における周知商標である本件各米国商標と類似することを知りながら,本件商標を自ら使用することによって不当な利益を得るため本件商標の登録出願をしたものと推認するのが相当であり,被告は本件商標を使用するにつき不正の目的を有していたというべきであるから,これと異なる審決の判断には誤りがある。

3 結語

以上によれば,本件商標登録につき法4条1項19号該当性を否定した審決の判断は誤りであり,その誤りは結論に影響を及ぼすものである。

よって,原告の請求は理由があるから認容して,主文のとおり判決する。

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