知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成21年(行ケ)第10122号審決取消請求事件


主文

1 特許庁が取消2007-301541号事件について平成21年4月22日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は,被告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

被告は,指定商品を「第30類菓子及びパン」とし,別紙「本件商標」のとおり,人の笑顔様図形を上部に,「SMILE&SMILEY」の文字を下部に,それぞれ配した構成よりなる登録第4622477号商標(以下「本件商標」という。平成8年5月16日登録出願。平成14年11月22日設定登録)の商標権者である(甲58)。

原告は,本件商標について,平成19年11月28日,商標法50条1項所定の商標登録取消審判(取消2007-301541号事件)を請求し,平成19年12月14日,予告登録(以下「本件予告登録」という。)がされた(甲58)。

特許庁は,平成21年4月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年5月8日に原告に送達された。

2 審決の理由

審決の理由の概要は,以下のとおりである(別紙審決書写し参照)。

(1)被告の本件商標を管理するスマイリー・ライセンシング・コーポレーション(代表者被告。以下「SLC社」という。社名変更により現在は「スマイリーワールド・リミテッド」,以下「SWL社」という。〔乙17〕)とX株式会社(以下「X社」という。)は,平成12年10月30日,許諾地域を日本とし,契約の有効期間を契約執行日から4年間とする約定で,本件商標の独占的権利(再許諾権を含む。以下「本件専用使用権」という。)をX社のために設定する旨の契約(以下「本件専用使用権設定契約」という。)を締結した(甲57)。しかし,平成15年4月28日にされた専用使用権設定登録上は,期間を「存続期間の満了まで(平成24年11月22日まで)」と記入されている。そして,専用使用権設定登録が抹消されたのは,平成19年5月9日であった(甲58)。このような事実経過からすると,専用使用権の設定登録がされた平成15年4月28日から,その抹消登録がされた平成19年5月9日までは,X社を専用使用権者とする専用使用権が有効に存続していたものと認められる。

(2)株式会社ベストカンパニー(以下「ベスト社」という。)は,本件予告登録(平成19年12月14日)前3年以内である平成18年に別紙「ベスト社使用商標」のとおりの構成からなる商標(以下「本件ベスト社使用商標」という。)を表示した商品カタログを発行,頒布しており(甲68の3),平成15年当時にはベスト社がX社に対して本件商標の使用についてのロイヤリティを支払い,X社はこれをSLC社に対して報告していた。そうすると,ベスト社は,平成15年当時から,本件商標の専用使用権の抹消登録がされた平成19年5月当時まで,引き続いて,専用使用権者であるX社との間の通常使用権許諾契約に基づき,SMILY関連の商標(本件ベスト社使用商標)を使用して菓子の製造販売をしていたと認められる。そして,本件ベスト社使用商標(別紙「ベスト社使用商標」参照)は,本件商標(別紙「本件商標」参照)と社会通念上同一の商標であると認められる。

(3)以上によれば,被告は,本件予告登録前3年以内に,日本国内において,本件商標の専用使用権者であったX社から再使用権(通常使用権)を許諾されたベスト社により,本件審判の請求に係る第30類の指定商品中に含まれる「菓子」について,本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていたことを証明したものということができ,本件商標の登録は,商標法50条により取り消すことができない。

第3 当事者の主張

1 取消事由についての原告の主張

(1)ベスト社の本件商標の使用は,通常使用権者による使用ではない。審決は,ベスト社による本件ベスト社使用商標の使用が,専用使用権者であったX社から許諾された再使用権(通常使用権)に基づくものであって,本件商標の使用の事実が証明されたといえると判断した。しかし,審決の上記判断は,誤りである。

すなわち,被告の代理人であるSLC社とX社との間の本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日に期間満了により終了した。したがって,X社は,同日より後,本件商標に係る再許諾の権限を失った。また,X社は,本件専用使用権設定契約の終了した後,ベスト社に対し,本件商標の使用について再許諾をした事実もない。したがって,平成16年10月30日より後におけるベスト社の本件商標の使用は,無権限者による使用であって,商標法50条2項所定の「商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれか」による登録商標の使用に該当しない。

その詳細は,以下のとおりである。

ア 「スマイリー・フェイス」(別紙「SMILEYFACE 公式ブランドとマーク」参照)は,1963年末に,故ハーベイ・ボールによって米国で創作,著作された(甲1,3,6,15)。

米国人であるハーベイ・ボールが著作した事実は,①マサチューセッツ州(1999年9月27日)やウスター市(1996年7月10日)等の公的機関により公認されていること(甲5の1,2),②1998年2月28日,元米国大統領候補「ジョン・ケリー」により公言されていること(甲7),③1998年9月24日,アメリカの「70年代のイメージ」として「米国郵政公社」の「記念切手」に採用されたこと(甲8),④1995年に全世界で上演されたアメリカ映画「フォレスト・ガンプ」(トム・ハンクス主演)において「スマイリー・フェイス」が紹介され,同映画が同年のアカデミー賞(6部門)を受賞したこと(甲9),⑤平成13年4月12日にハーベイ・ボールが死去した時,全世界の新聞で「スマイルの生みの親」として紹介されたこと(甲10~12),⑥アメリカのテレビで数多く紹介されたこと(甲13)などから認められる。

イ 他方,被告は,スマイリー・フェイスの創作者,著作者の承諾を得ることなく,スマイリー・フェイスに係る商標権を取得して,利得を図る営業活動を続けている。

被告が,スマイリー・フェイスの創作者ではないにもかかわらず,創作者の承諾を得ずに,商標登録をした事実は,①被告が別紙「本件商標」のような商標登録を最初に出願したのは,ハーベイ・ボールが米国でスマイリー・フェイスを創作した1963年より後の1971年であること(甲84の1,2),②被告は,仏国の有名な「フランス・ソワール」紙がキャンペーンで使っていたマークを盗用して,世界各国で,そのマークの「商標登録」をしたこと(甲85の1~6,甲86・比較表参照),③米国においては,1998年7月1日の「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙において,スマイリー・フェイスに関する大論争が生じ,全米1000以上の新聞で被告が非難されたこと(甲38,39),④被告は,平成10年(1998年)8月3日発行の雑誌「PeopleWeekly」誌において,「自分はスマイルを著作してない。単に商標登録しただけである。」旨証言していること(甲41),⑤被告は,アメリカでウォルマートとの商標紛争に敗れて,スマイルのすべての商標登録を拒絶されていること(甲80,81)等から認められる。

ウ X社は,「スマイリー・フェイス」が1963年末米国人ハーベイ・ボールによって創作・著作されたことを知り,平成10年(1998年)2月2日,ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団と契約を締結し,日本における「スマイリー・フェイス」の「商品化事業」を開始した。

X社は,平成14年1月1日以降,ハーベイ・ボールや「スマイリー・フェイス」を周知させるため,「SMILEYNEWS」を約30回発行し,毎回3万部を配布したり(甲35,36),著名人を「名誉スマイル大使」とした各種イベント等を行い,数億円を下らない費用をかけて広報活動を行った(甲14,36)。

このように,日本における「スマイル商品化事業」の発展は,ハーベイ・ボールの有する著作権(甲83)や著作権者の代理人であるX社の宣伝活動によるもので,本件商標によるものではない。

エ ところが,平成9年ころ,被告が来日し,当時の代理人であった株式会社イングラム(以下「イングラム社」という。)と共同で「記者会見」を実施し,「スマイルは自分達が『著作権』及び『商標権』を有している。無断使用は許さない。」と宣言し,また,平成9年2月11日付け及び同年4月10日付けの日本経済新聞において,「私を勝手に使わないで!」との全面広告による警告を実施した(甲16の1,2,甲20)。

そのため,スマイルを使用していた日本の企業約30社は,被告に対し,商標「使用料」として,合計1億円近い金額を支払った(甲17,22,23)。イングラム社は,平成10年,株式会社エフエム東京に対し,「被告及びイングラム社が,詐欺ビジネスを行っている」旨の同社の放送が営業妨害又は信用棄損に当たると主張して,損害賠償等を求める訴訟を提起した。しかし,平成12年1月19日,二審(東京高裁)により,被告はスマイルマークの創作者でも著作権者でもなく,スマイルマークの商標権を有しておらず,「『国際的詐欺ビジネスの様相を見せ始めている』と形容することも,あながち不当ではない」などと指摘されて,イングラム社は敗訴した(甲19,24)。

新聞等は,被告のビジネスが,判決により「詐欺ビジネスの様相」と表現された旨の報道をした。(甲18)

同訴訟が契機となり,イングラム社は,平成11年(1999年)12月31日,被告との代理人契約を終了させた。

オ X社が,被告から専用使用権の設定を受けた経緯は,以下のとおりである。

X社は,既にハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団とのライセンス契約に基づく「スマイル商品化事業」を「文房具」を中心として行っていた(甲4)。しかし,X社は,イングラム社と被告との上記代理人契約終了によって困窮したライセンシーの混乱を収拾し,X社が実施してきたハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団をライセンス元とする「スマイル商品化事業」に対する被告からの妨害を排除して,「スマイル商品化事業」を発展させる目的で,平成12年10月30日,被告との間で,本件商標に係る本件専用使用権設定契約を締結した(甲57)。

なお,X社は,ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団との間でスマイリー・フェイス商標の使用義務を負う旨のライセンス契約を締結していたことから,被告との間で締結した本件専用使用権設定契約では,本件商標の使用義務を負う内容の契約ではなく,単に本件商標の使用について許諾を受けるとの内容で契約をした。

カ X社は,ベスト社に対して,以下の内容のサブライセンス契約をした。

(ア)平成15年5月28日,X社は,「SMILEYCOMPANY」(X社の別会社・有限会社スマイル・カンパニー[甲93]。同社はハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の日本国内の商標権,著作権の管理を行う日本法人である。)の代理人として,ベスト社との間で,「SMILEYFACE」商標について,契約期間を同年6月1日から1年間として,ベスト社に再許諾することを含むサブライセンス契約(以下「本件通常使用権許諾契約」という場合がある。)を締結した(甲94)。同サブライセンス契約における,ライセンス元は,被告ではなく,「本件商標」も,前記「サブライセン契約」において,X社がベスト社に対してサブライセンスした複数の商標のうちの1つにすぎないので,契約書上は,格別の明示はしていない。

X社とベスト社とは,平成16年9月10日(甲95),平成17年6月24日(甲70),平成18年6月1日ころ(甲78)及び平成19年6月1日ころ(甲79),前記サブライセンス契約と同内容で再契約をした。

前記のとおり,X社と被告との間の本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日に期間満了により終了したが,期間満了後に締結したX社とベスト社と前記サブライセンス契約(更新)は,ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団をライセンス元とする契約であるため,X社と被告との間の本件専用使用権設定契約の終了によって,影響を受けることはない。また,X社とベスト社とのサブライセンス契約において,本件商標は,使用許諾をした商標の1つにすぎず,格別の明示はしていないので,再契約においても,契約文言は変更していない。

(イ)本件通常使用権許諾契約では,X社は,ベスト社が新製品を製造する場合には,あらかじめX社に対し,デザイン,カタログ等を提出し,承諾を得ることとされていた。ベスト社は,同契約の内容を遵守せず,本件商標(本件ベスト社使用商標)の使用に係るデザイン,カタログ等の提出をすることはなかった。X社は,本件専用使用権設定契約が終了した後,ベスト社に対して,同契約が終了した事実を告知している。X社は,本件専用使用権設定契約が終了した後,ベスト社に対し,ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の公式マークを統一的に使用するよう指示していたが(例えば,平成16年8月7日当時の統一デザインは,甲97の1・別紙「SMILEYFACE公式ブランドとマーク」であった。),その指示したデザイン中には,本件商標は含まれていない(甲97の1~5)。X社は,ベスト社が,指示に反して,本件商標(本件ベスト社使用商標)を使用している事実を知らなかった。

(ウ)以上の経緯に照らすならば,平成16年10月31日に期間満了により終了した後における,ベスト社の本件商標(本件ベスト社使用商標)の使用は,本件商標の通常使用権者の地位に基づく使用ではない。

(2)不使用についての正当な理由の不存在

被告は,本件商標の不使用について正当な理由があると主張する。しかし,以下のとおり,被告の上記主張は,理由がない。

被告とX社との本件専用使用権設定契約の終了は,被告から一方的に告げられたものであり,X社が行ったものではない。

同契約の終了後,被告は,平成18年及び19年に「LICENSINGASIA2006・2007」(甲51,54)に来日して,「商品化事業」を行う日本企業を探し,営業交渉を行っていた。また,被告は,ベスト社に対しても,平成16年10月30日以降,2回,通訳を介して直接連絡をしていた。したがって,被告がベスト社との間で直接契約をすることは十分に可能な状況にあった。

もとより,X社が,被告とベスト社との間の直接契約を妨害したという事実はない。

以上によれば,本件商標の不使用について正当な理由はない。

2 被告の主張

(1)本件商標の使用の事実の証明に係る認定判断の誤りに対し

本件商標は,以下のとおり,本件商標の専用使用権者であったX社から通常使用権の再許諾を受けたベスト社により,本件予告登録(平成19年12月14日)前3年以内に使用された。商標登録の不使用により取り消される理由はない。

ア 被告代理人のSLC社(代表者被告)は,平成12年10月30日,X社との間で,契約書添付の一覧に示す被告名義のスマイリー・フェイス商標21個について,「添付の一覧に記載のない現存の商標,およびSLCが本契約の調印後に登録する商標は,いずれも自動的に同一覧に含まれる。」との特約の下で,X社に対して専用使用権(再許諾権を含む。)を設定する旨の本件専用使用権設定契約を締結した(甲57)。

本件専用使用権設定契約は,設定登録がされた平成14年11月22日より前に締結されたものである。本件商標は,本件専用使用権設定契約の締結後である平成14年11月22日に設定登録がされたことから,本件専用使用権設定契約の特約により,自動的にX社のために専用使用権を設定する効力が生じた。

X社は,平成15年5月28日,ベスト社との間で,ベスト社のために本件商標について通常使用権を許諾する旨の契約(本件通常使用権許諾契約)を締結した(乙18)。そして,本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日に期間満了により終了した。

イ ベスト社は,以下のとおりの態様で,本件ベスト社使用商標を使用した。

(ア)ベスト社は,平成17年9月に発行・頒布した「White Day 2006」と題する,平成18年のホワイトデー用のカタログ(甲68の3)の裏表紙にある「キャンディーパーティー」と称する飴の販売セットに,本件商標の図形部分と同様の図形が大きく表され,顔の輪郭を表す丸の右下部分に沿うように,「SMILE&SMILEY」の欧文字を小さく配した構成からなる本件ベスト社使用商標(別紙「ベスト社使用商標」)を使用した。

(イ)ベスト社は,平成18年,飴やガム,クッキー及びそれらの包装紙や包装容器に,本件ベスト社使用商標を付した商品(平成18年のバレンタインデー用35種類,同年のホワイトデー用26種類)を販売した(乙16の1,甲68の3)。

(ウ)ベスト社は,平成11年から現在に至るまで,本件商標を表示した自社の商品カタログを毎年発行,頒布している。各年度のカタログは,バレンタインデー用のものが前年度の9月に,ホワイトデー用のものが前年度の10月に,それぞれ発行・頒布されている。

ウ ベスト社の本件商標の使用は,本件専用使用権設定契約が平成16年10月30日に終了した後である。しかし,以下のとおりの理由により,本件商標の使用は,通常使用権者としての使用といえる。

(ア)本件専用使用権設定契約の終了に先立つ平成16年9月10日,ベスト社はX社に対し,翌年度のロイヤリティ約1000万円を支払い(乙20),X社も,翌年分のロイヤリティが支払われる旨をSLC社に対して報告した(乙19の2)。このロイヤリティは少なくとも平成17年5月31日までの本件商標を使用した商標の製造販売をカバーするものである。

上記ロイヤリティ約1000万円を支払った時点では,X社は有効に本件専用使用権を有していた。ベスト社は被告のサブライセンシーの立場として,約1000万円を支払った。つまり,ベスト社は,平成17年5月31日までは,平成16年9月の通常使用権の許諾に基づいて,本件商標を使用した。

(イ)仮に,(ア)が成立しないとしても,専用使用権の登録は,専用使用権の発生,存続,移転,消滅の効力要件である。X社の本件専用使用権は存続期間満了日を平成24年11月22日として設定登録され,その登録が抹消されたのは,平成19年5月9日である。本件専用使用権設定契約が終了しても,その設定登録が抹消されない限り,本件商標の専用使用権は,(形式的には)X社に帰属し,X社が本件商標の使用許諾を排他的に行うことができる。

(ウ)仮に,(イ)が成立しないとしても,ベスト社の本件商標の使用は,以下のとおり,被告の意思に基づいた使用許諾であったといえる。前記のとおり,X社と被告との本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日に終了したが,専用使用権設定契約の終了以降も,X社は,平成24年11月22日までとする専用使用権設定登録がされていることを奇貨として,同契約の終了をベスト社に知らせず,本件商標の使用を許諾していたラインセンス契約を更新して,ベスト社からロイヤリティを収受していた。

なお,X社が支払を受けたロイヤリティ相当分については,X社を被告として不当利得返還請求事件が係属中である(東京地方裁判所平成20年(ワ)第3344号不当利得返還請求事件)。ベスト社は,SLC社から使用が許諾されている商標であると信じて,その対価としてライセンス料をX社に対して支払い,本件商標の使用を継続していた。

SLC社は,本件専用使用権設定契約終了後,X社のサブライセンシーと直接ライセンス契約を締結するため,X社に対して同社と契約関係にあったラインセシーの一覧を開示するよう要請するとともに,ベスト社のライセンス料についても返還を求めた(乙21)。しかし,その要請はX社に拒絶され,SLC社は,直接契約を締結することができなかった。サブライセンシー各社は,X社とSLC社との契約が終了したことさえ知らされていない。

平成19年5月7日に,X社が専用使用権設定登録の登録抹消に応じた後,SLC社はベスト社との交渉に入り,平成20年6月1日,SLC社(契約当時はSWL社)とベスト社との間で本件通常使用権許諾契約を締結し,直接ライセンス契約を締結した。

SLC社及び被告は,本件専用使用権設定契約終了後にベスト社との契約を締結する意思を有し,ベスト社も,被告の許諾の下に使用していたものと考えていた。しかるに,X社は,被告とベスト社との直接契約の締結を妨害し,ベスト社が被告に対して支払われると信じていたライセンス料を不当に受領していた。被告は,X社が速やかに本件商標の専用使用権の登録抹消に応じていれば,ベスト社に対して,本件商標の使用許諾をすることができたといえる。

以上のとおり,ベスト社の本件商標の使用は,SLC社と被告の意思に基づくものであるから,通常使用者による使用があったものというべきである。

(2)不使用についての正当な理由の存在

仮に,ベスト社による本件商標の使用が被告の意思に基づく使用に当たらないとしても,被告が本件商標を使用することができなかったのは,X社が被告とベスト社との間の直接契約を妨害した結果であって,被告の責めに帰すべき理由によるものではない。本件商標の不使用には正当な理由があり,取り消されるべきものではない。

当裁判所の判断

>1 本件商標の商標権者等による使用の有無について

当裁判所は,SLC社が代理して被告から受けたX社との間の本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日に期間満了により終了し,これに伴いベスト社の通常使用権も消滅したこと,その後,ベスト社は,本件商標(本件ベスト社使用商標)を使用したが,ベスト社の本件商標の使用は通常使用権者による使用とはいえないことが認められるから,商標法50条2項所定の通常使用権者等が登録商標の使用をしていることを,被請求人(被告)において証明していないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

(1)事実認定

ア 本件商標の専用使用権設定契約の締結及び期間満了による消滅被告代理人のSLC社(代表者被告)は,平成12年10月30日,X社との間で,契約書添付の一覧に示す被告名義のスマイル商標について,「添付の一覧に記載のない現存の商標,およびSLCが本契約の調印後に登録する商標は,いずれも自動的に同一覧に含まれる。」との特約の下で,契約の有効期間を契約執行の日付けから4年間とし,許諾地域を日本とし,対象商品を商標権の全指定商品として,X社に対して独占的権利(再許諾権を含む。)を設定する旨の本件専用使用権設定契約を締結した(乙17,甲57,弁論の全趣旨)。

そして,本件商標は,本件専用使用権設定契約の締結後である平成14年11月22日に,商標権登録がされ,本件専用使用権設定契約の趣旨に基づき,平成15年4月28日,X社のために専用使用権の設定登録がされた(甲58,乙15,弁論の全趣旨)。

X社は,平成15年5月28日,ベスト社との間で,契約期間を1年間として,本件商標を含むスマイリー・フェイスの名称及びマーク・デザインを菓子類全般の商品に使用することについて,ベスト社のために日本国内における通常使用権を許諾する旨の本件通常使用権許諾契約を締結した(甲94,乙18)。X社は,ベスト社に対し,菓子類の使用商標として本件商標に係るX社の専用使用権の設定登録がされた旨を連絡し,その登録原簿の写しを送付している(乙30)。

その後,本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日に契約期間の満了により終了した(当事者間に争いはない)。

イ ところで,X社は,米国では米国人ハーベイ・ボールが「スマイリー・フェイス」の創作者であることから,平成13年以降,米国のハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団をもライセンス元とする「スマイリー・フェイス」のライセンス契約を締結した(甲4,50)。そして,X社は,ベスト社との間で,サブライセンス契約を締結して,契約を継続した。すなわち,X社は,ベスト社との間で,平成16年9月10日(甲95。契約期間は平成16年6月1日から平成17年5月末日まで),平成17年6月24日(甲70),平成18年6月1日ころ(甲78)及び平成19年6月1日ころ(甲79)に,契約期間を1年間とする各サブライセンス契約を締結(更新)した(弁論の全趣旨)。

前記のとおり,X社とベスト社との間の本件通常使用権許諾契約の基礎は,ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の著作権等を含んでいるとともに,被告の商標権も含んでいると解するのが合理的である。

本件通常使用権許諾契約においては,ベスト社が商品に付するマーク等のロゴ,タイプ,色をX社において指定することができるとの特約がされていたことから(甲94,第4条),平成16年8月7日には,X社は,ベスト社に対して,ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の「スマイリー・フェイス」の統一デザインとして,別紙「SMILEYFACE 公式ブランドとマーク」(甲97の1)の使用を指定した。本件商標は,当該統一デザインから除外されている(甲97の2,4)。

ウ ベスト社による本件ベスト社使用商標の使用態様

(ア)ベスト社は,前記のとおりX社から指定された統一デザインには本件商標が掲載されていなかったが,平成17年9月ころに発行・頒布した「White Day 2006」と題する,平成18年のホワイトデー用のカタログ(甲68の3)の裏表紙にある「キャンディーパーティー」と称する飴の販売セットには,本件商標の図形部分と同様の図形を大きく表し,顔の輪郭を表す丸の右下部分に沿うように,「SMILE&SMILEY」の欧文字を小さく配した構成からなる本件ベスト社使用商標(別紙「ベスト社使用商標」)を使用した。

(イ)また,ベスト社は,本件商標の指定商品である「菓子」に該当する飴やガム,クッキー及びそれらの包装紙や包装容器にも同様の商標を掲載した。その商品の種類は,平成18年のバレンタインデー用で約35種類(乙16の1),同年のホワイトデー用で約26種類(甲68の3)にのぼり,ベスト社は,平成21年現在においても,本件商標を付した約60種類の商品を日本国内で製造販売している(乙16の2,3)。

(ウ)さらに,ベスト社は,平成11年から現在に至るまで,本件商標を表示した自社の商品カタログを毎年発行し,日本国内で頒布している。各年度のカタログは,バレンタインデー用のものが前年の9月ころに,ホワイトデー用のものが前年の10月ころに,それぞれ発行・頒布されていた(乙22の1~乙26の2,弁論の全趣旨)。

エ 本件専用使用権の設定登録とその登録抹消

本件専用使用権については,設定登録においては,平成15年4月28日にその存続期間を平成24年11月22日とする登録がされていたが,本件専用使用権設定契約は,その契約のとおり,期間満了により平成16年10月30日に終了した。なお,専用使用権設定登録の抹消は,その約2年半後である平成19年5月9日にされた(甲58)。

上記専用使用権の登録抹消後の平成20年6月1日,被告代理人SLC社(契約当時はSWL社)は,ベスト社との間で,直接の通常使用権許諾契約を締結し,それ以降は同契約に基づき,ベスト社が本件商標を使用している(弁論の全趣旨)。

(2)判断

ア SLC社(被告代理人)とX社との間の本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日の期間満了により終了した(当事者間に争いがない)ことに伴い,ベスト社の本件商標についての通常使用権は,その基礎を失い,消滅した。すなわち,本件においては,X社はベスト社に対して,本件専用使用権設定契約の終了前である平成16年9月10日付けで,本件通常使用権を付与したが,X社の本件専用使用権設定契約が平成16年10月30日に期間満了により終了したため,これにより,ベスト社の通常使用権者たる地位は消滅したが,ベスト社は,前記認定のとおりの態様で,本件商標を使用した。

ところで,ベスト社の通常使用権は消滅したのであるから,ベスト社の上記使用が商標法50条2項所定の「通常使用権者」による使用に当たるとするためには,ベスト社が,何らかの取得原因によって本件商標についての通常使用権を得たことを,被告において証明することが必要となる。しかし,本件全証拠によるも,ベスト社が,本件商標についての通常使用権を失った後に,通常使用権を取得した事実を認めることはできない。

したがって,ベスト社が本件商標を継続的に使用したことをもって,通常使用権者の使用がされたとした審決の認定,判断は誤りである。

イ 被告の主張に対する判断

(ア)被告は,平成16年9月10日にベスト社がX社に対して翌年度のロイヤリティ約1000万円を前払で支払い(乙20),X社も,SLC社に対して翌年分のロイヤリティがベスト社から支払われる旨を事前報告していたから,その前払期間である平成17年5月31日までは,ベスト社が平成16年9月の通常使用権の許諾に対する対価に基づき商品を製造・販売していたものであるといえる旨主張する。

しかし,被告の上記主張は理由がない。すなわち,前記説示のとおり,平成16年10月30日の本件専用使用権設定契約が終了した以上,X社は,当然に本件通常使用権許諾契約に基づく再許諾をする地位を失うことになる。ベスト社がX社に対して,1年分のロイヤリティ相当額を前払したとしても,そのことのゆえに,ベスト社が本件商標について通常使用権を維持できる根拠とはならない。

(イ)被告は,専用使用権の登録は,専用使用権の発生,存続,移転,消滅の効力要件であり,X社の本件専用使用権の登録が抹消されたのは,平成19年5月9日であるから,たとえ本件専用使用権設定契約が終了しても,その設定登録が抹消されない限り,本件商標の専用使用権は(形式的には)X社に帰属し,X社から通常使用権の許諾を受けたベスト社による使用は,通常使用権者による使用であると主張する。

しかし,被告の上記主張は理由がない。すなわち,専用使用権の設定,消滅等は,「登録しなければ,その効力を生じない。」(商標法30条,特許法98条1項2号)とされているとおり,商標法は,登録を,対抗要件ではなく,効力要件と定めた。しかし,同規定は,実体上,専用使用権が存在しないにもかかわらず,登録されていさえすれば,効力が生ずるものと扱われる趣旨を定めたものでないことは明らかである。前記のとおり,被告とX社との間において専用使用権設定契約が期間満了により終了したような場合,X社の専用使用権は,当然に消滅する。

(ウ)被告は,X社が被告とベスト社との間の直接契約の締結を阻害しながら,ベスト社が被告に支払われると信じていたライセンス料をX社が受領していたこと,X社が速やかに本件商標の専用使用権の登録抹消に応じていれば,被告が直ちにベスト社に対して本件商標の使用を許諾したことから,ベスト社による本件商標の使用は被告の実質的な意思に基づくものであると主張する。

しかし,被告の上記主張は理由がない。すなわち,たとえ,被告がベスト社との間で,通常使用権許諾契約を締結することを希望していたとしても,許諾契約を締結していない以上,ベスト社による使用を通常使用権者の使用であると解することはできない。のみならず,①本件専用使用権設定契約において,その契約が終了した際に,X社が被告(SWL社)のために,X社のライセンシーと直接契約をする特約はないこと,②再許諾権限の付与を含む専用使用権設定契約が終了した場合,専用使用権者は,商標権者が再許諾先の通常使用権者と直接契約をすることができるように協力する義務があるとはいえないこと,③本件においてX社が商標権者である被告と再許諾先であるベスト社との間の直接契約を妨害したと認めるに足りる証拠はないこと,④本件専用使用権の設定登録の抹消を合意したX社と被告との間の平成18年10月31日付け和解契約書(甲53)及びそれに先立つ「専用使用権抹消登録申請のご協力のお願い」と題するSWL社のX社に対する書面(甲98の2)においても専用使用権の登録抹消が平成16年10月30日の契約終了時から約2年半遅れたことについて,X社に原因のあることをうかがわせるに足りる記載はないことに照らすならば,被告の前記主張は採用の限りでない。

2 不使用についての正当な理由について

被告は,ベスト社による本件商標の使用が通常使用権者の使用に当たらないとしても,被告が本件商標を使用することができなかったのは,X社が被告とベスト社との間の直接契約を妨害したからであって,被告の責めに帰すべき理由によるものではなく,本件商標の不使用には正当な理由があり,取り消されるべきものではないと主張する。

しかし,被告の上記主張は,理由がない。すなわち,前記のとおり,X社が被告とベスト社との間の直接契約の締結を妨害したと認めるに足りる証拠がない。のみならず,被告(代理人SWL社)は,平成18年と平成19年に,日本国内外の企業が著作物や商標権を展示して商談を行う「LICENSING ASIA 2006」(甲51)又は「LICENSING ASIA 2007」(甲54)に,それぞれ権利者として出席し,本件商標の「商品化事業」を行う相手先の日本企業を探していたことがうかがわれるから,本件予告登録前3年以内に本件商標を使用しない「正当な理由」が存在したと認めることはできない。よって,被告の主張は,理由がない。

3 結論

(1)商標法50条2項は,登録商標の取消しを免れるためには,被請求人において,「・・・通常使用権者・・・が・・・登録商標の使用をしていること」を証明すべき旨を規定している。

ところで,法律効果そのものは証明の対象にすることはできないのであって,証明の対象にされるのは,当該法律効果を発生,変更又は消滅等させる根拠となる具体的な要件事実の存在である。

本件の主たる争点は,本件予告登録がされた平成19年12月14日より前の3年以内の時期に本件商標を使用したベスト社が,本件商標権についての通常使用権者であるか否かであるが,「ベスト社が通常使用権者である」という点は法律効果であるから,それ自体を直接証明の対象にすることはできない。立証の対象にすることができるのは,ベスト社が通常使用権を取得した根拠となった具体的な事実が存在したこと(例えば,それが契約であれば,当該契約が,いつ,どこで,いかなる当事者間で,どのような内容の意思の合致がされたかに係る事実の存在等)である。

本件では,X社の本件専用使用権設定契約は平成16年10月30日に期間満了により終了し,これに伴いベスト社の通常使用権者たる地位も消滅したのであるから,「ベスト社が通常使用権者である」という法律効果を導くためには,その要件に該当する具体的事実の存在することが立証されることが不可欠となる。そのためには,要件事実に該当する具体的事実が何であるかを,主張立証責任を負担する被請求人(被告)に求釈明するなどした上,それが証拠によって裏付けられるかを検討することが必要不可欠となる。審決では,通常使用権者としての地位を取得した根拠となる具体的な要件事実がどのようなものであるか,どのような証拠によって裏付けられたかについて審理及び判断をすることなく,直接「ベスト社が通常使用権者である」との結論を導いている点において不備があるというべきである。

(2)以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。

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