知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成21年(行ケ)第10038号審決取消請求事件


主文

1 特許庁が無効2008-890036号事件について平成21年1月7日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

1 本件は,被告が有する下記商標登録(本件商標)について原告が商標法(以下「法」という)4条1項7号,8号,10号,15号,3条1項柱書に基づき商標登録無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。

(商標)(商標省略)

(指定商品)

第25類

「被服,空手衣」

2 争点は,①被告の有する本件商標が高度の悪意を持って出願されたもので公序良俗を害するおそれがある商標であるか(法4条1項7号,②本件商標が原告の著名な略称を含む商標に該当するか(法4条1項8号,③本件商標が他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている原告使用標章に類似する商標であって,その商品又は類似する商品について使用するものに該当するか(法4条1項10号,④本件商標が原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標に該当するか(法4条1項15号),⑤被告に本件商標を使用する意思があるか(法3条1項柱書き)である。

第3 当事者の主張

1 請求の原因

(1) 特許庁における手続の経緯

被告は,平成16年10月22日,本件商標について商標登録出願をし,平成19年11月19日に登録査定を受け,平成20年1月11日に特許庁から商標登録第5103501号として設定登録を受けた。

これに対し原告は,平成20年5月2日,法4条1項7号(公序良俗違反)・8号(著名略称違反・10号(周知標章違反・15号(混同のおそれ)・3条1項柱書(使用意思欠如)を理由に本件商標の商標登録無効審判を請求(甲28)したので,特許庁は,同請求を無効2008-890036号事件として審理した上,平成21年1月7日「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決をし,その謄本は平成21年1月19日原告に送達された。

(2) 審決の内容

審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件商標は上記各法条のいずれにも違反したとはいえないから無効とすることはできない,というものである。

(3) 審決の取消事由

しかしながら,本件商標には以下に述べるとおりの無効事由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。

ア 法4条1項7号違反

(ア) 日本又は外国で使用されて一定の評価を得ている商標を他人が抜け駆け的に出願したような場合には,出願人の悪意や出願の動機の不純性等の主観的要素を参酌して,登録を拒絶・無効とすべきであり,特にこれが他人の名称のような場合,他人が選択し又は選択しようとする商標を剽窃して出願することは公正な取引秩序を乱すものであり,公序良俗を害するおそれがあるから,法4条1項7号に該当すると解すべきである。

(イ) この点,原告はAが創設した極真会館の元構成員等を構成員とする団体であるところ,Aの生前,極真会館の構成員等はその活動趣旨に沿う限りにおいてその許諾の下に「極真会」等の極真関連商標を自由に使用することができ,原告も極真関連商標を使用することができる地位にあった。

しかし,平成6年4月26日にAが死亡した後,極真会館は内部分裂,組織改変,離脱等が続き,またB(B)による単独の商標権取得といった背信行為や他の継続的商標使用者に対する妨害行為が発生し,Bと原告を含む他の団体や被告とは係争関係にあった。極真会館は空手の流派の中でも極めて著名であり,A死後の極真会館の混乱は注目され,その行く末が案じられているものであった。

そのような中で,原告は商標の問題により本来的な活動に支障が出ることを懸念し,新たな紛争を回避してより活発な活動を行うため,別件訴訟(東京地裁平成11年(ワ)第12483号,同平成12年(ワ)第25437号)における裁判上の和解(平成15年4月15日成立)により,他の団体と峻別する目的で,断腸の思いで「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」から「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」と名称を変更し,新たな商標を使用することとした。新名称の採用(名称の変更)に関する正式な記者発表は,本件商標の出願日である平成16年10月22日より前の平成15年7月11日に,赤坂プリンスホテルにおいて行われた。上記のような状況の中で発表された原告の新名称の採用は,記者発表の時点で業界内において瞬時に広く認識された。また,原告は,平成14年1月16日に出願し平成16年3月19日に設定登録を受けた「新極真会」を標準文字で書して成り第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授等」を指定役務とする商標(登録第4756427号)を有しているところ,Aが創設した極真会館では,Aの生前においてもその死後においても「新極真会」との商標は使用されておらず,同商標は原告によって新たに採用されたものである。

このようにして新たに採用された原告の名称及び「新極真会」との商標は「極真」の語を使用して極真空手の教授を行っている団体が複数存在しつつ相互に棲み分けがなされ混乱等の生じていない状況の中で,他の従来からの団体及び極真に関連する商標と容易かつ明確に区別されているところである。

これに対し,本件商標は,原告の名称(略称)及び原告が有する登録商標である「新極真会」の漢字とその欧文字表記である「SIN KYOKUSINKAI」から成る商標である(なお厳密には,原告の欧文字標記は「SHINKYOKUSHINKAI」である。下線は判決で付記。

そうすると,被告が本件商標を今後どのような関連商品に使用したとしても,需要者の間で被告と原告とに何らかの関係があるとの誤認が生じることは明らかであり,原告が商標「新極真会」に蓄積させてきた信用の剽窃を許す結果となる。

たとえ被告が,極真に関連する商標を独占する権原を有していたとしても,また「新極真会」と「極真会」とが類似すると判断されるとしても,原告がその名称として新たに採用し現に誠実に事業活動を行うことにより信用を構築してきた「新極真会」との商標を使用する権原が被告にないことはいうまでもないのであって,被告がこれについて商標権という独占権を取得することは到底認められるものではない。

(ウ) 被告は,極真関連商標を本来自由に使用できる地位にあり誠実に極真空手の教授を行っているAの弟子の団体等に対して,多額のロイヤルティ(使用料)を請求したり,パブリシティ権や肖像権の侵害であると通告するなどしており,自己が極真会館の真の承継者であると標榜しながら,真正な極真空手の発展を願うどころか,かえって極真空手を世に広めることを妨げるような行為に明け暮れている。

原告における前記「新極真会」の名称及び商標の採用は,被告と直接交渉等をして定めたものではないが,被告は以前から原告の存在を熟知して原告に対する妨害行為を行っていたのであって,原告が新名称として「新極真会」を採用したことは被告も当然に熟知しており,本件商標を抜け駆けのように出願する行為も一種の妨害行為である。そればかりか,被告は原告の所有する商標権までも消滅させて原告の活動を阻害しようとしており,原告が有する「新極真会」との前記登録商標第4756427号に対して無効審判を請求し(無効2007-890149号〔平成20年7月25日不成立審決〕,審決取消訴訟は知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10324号〔平成21年5月27日請求棄却判決,被告の上告により最高裁判所に係属中,更に上記訴訟が確定していない段階で,同一の原告商標について実質的には蒸し返しにすぎない無効審判を新たに請求している。

しかも被告は,空手の教授が含まれる第41類の指定役務「技芸・スポーツ又は知識の教授」については,上記のとおり既に原告が登録商標第4756427号の「新極真会」を有しこれを使用して活動することで需要者に広く認識されているから,被告が本来的な業務であるはずの空手の教授については「新極真会」との本件商標を使用することはできない。それにもかかわらず本件商標に係る第25類についてのみ商標を使用することは現実的ではなく,権利を取得してもおよそ意味をなさないことになる。

そうすると,被告は本件商標を使用する意思を持って出願したのでなく,原告の活動を専ら妨害する目的で出願したものと考えられる。自ら全く使用する意思がない本件商標に被告の業務上の信用が蓄積することは将来的にもあり得ず,本件商標は原告の活動を妨害するための不当な権利行使の道具としてのみ使用されるのであって,そのような商標権が存在することは到底認められるものではない。

(エ) 以上のとおり,本件商標は原告の名称及び原告の有する上記登録商標第4756427号と同一の文字列を含む商標であり,被告は明らかに使用する意思がなく原告の活動を不当な権利行使により妨害する目的で出願したものであり,仮に被告がこれを使用すれば原告の業務と混同を生ずることは明らかであるから,真に商標の使用を欲する者の商標の使用や商標権の取得を阻害し,更には他人の経済活動を不当に制限するとともに需要者の不測の混乱を招き,利益を害するものであって,競業秩序を乱し,社会的妥当性に欠ける高度の悪意が認められる商標というべきで,本件商標は法4条1項7号に違反して登録されたものである。

(オ) なお審決は,法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」の判断に当たり,知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10392号判決を引用し,同判決において示された判断基準を用いて法4条1項7号該当性を否定するが,同判決は本件と事案が異なるから,審決の上記判断は妥当でない。

イ 法4条1項8号違反

原告の正式名称は「特定非営利活動法人全世界空手同連盟新極真会」であるが,原告の業務を表示する商標として使用している「新極真会」の部分が特に顕著性のある部分であり,原告を指し示す場合には冗長な正式名称全体ではなく「新極真会」の部分を用いる場合が多い。

そして,原告の略称は,特に空手に関心のある者等には名称変更と同時に即座に極めて著名となっているほか,原告の活発な活動や各種メディアへの露出等により一般にも広く認識されている。特に本件商標の指定商品中「空手衣」については,需要者は空手に関心がある者であって,原告の業務である「空手の教授」の需要者と共通するものである。また,原告は現に原告の名称と同一の商標「新極真会」を胴着に付して使用しており,仮に原告の名称が世間一般に広く知られているものでなかったとしても,少なくとも空手に関心がある者の間では原告の商標として広く認識されている。このように,「新極真会」の名称は空手の教授等の業務を行う原告の正式名称の略称として著名であると考えられ,本件商標の指定商品である「空手衣」について原告以外の者が本件商標を使用すれば,空手の教授を業務とする原告の人格的な利益を害することは明らかである。

さらに,原告の新名称採用の経緯や現在の極真空手に関する他の団体との関係等を考慮すると,他の団体が「新極真会」の語を使用し,また「新極真会」の名称を採用することは考えられない。空手業界に限らず,原告以外の他人が「新極真会」の商標及び名称を使用している事実はなく,また,他人である被告が使用すれば原告と混同を生じることは明らかであるから,被告は将来においても本件商標を使用することはない。

そうすると,本件商標の出願時には,既に「新極真会」は原告の業務のみを表す原告の略称であって,かつ出願時点で既に著名なものであったというべきであるから,本件商標は法4条1項8号に違反して登録されたものである。

なお,本件商標「新極真会/SIN KYOKUSINKAI」は,スペースの有無において原告の略称と相違し,また原告が欧文字で表示した場合に中間に「H」があるか否かにおいて微差があるが,この程度の小手先の変更で本号が適用されないとする解釈はあまりにも杓子定規であり,剽窃を企てる者を利するのみであるから,法4条1項8号の適用に当たりこのような差異は問題にならないというべきである。

ウ 法4条1項10号違反

原告は,極真空手の創設者である故A氏が創設した国際空手道連盟極真会館の後継団体であり,空手の教授を中心として活動しており,広く全国527箇所に道場を開設して活動を継続し,国内の総会員数は約2万人,広く世界でも73カ国,総会員数7万人の会員を獲得している。原告は毎年全日本大会を開催するほか,2年毎に世界各国から代表を迎えて「世界大会」ないし「ワールドカップ」として世界的な規模の選手権大会を盛大に開催しており,その様子はテレビでも放映され,雑誌等でも数多く取り上げられている。その他,雑誌等には新極真会の活動や新極真会に所属する選手等の記事や広告等も多数掲載されている。さらに,世界各国に商標出願をして「新極真会」の商標を誠実に使用している。

以上に加え,原告は空手関連商品に「新極真会」の名称を使用して真摯に事業を展開している。例えば,原告は空手の教授に関連する胴着や帯,関連するTシャツ,DVD,空手の教授に関する書籍等の商品に「新極真会」の商標を付して販売しているし,機関誌である「空手LIFE」を毎月発行し,空手の普及や原告の活動の更なる周知に努めている。空手LIFEの発行部数は1月で約1万部であり,売上高は約300万円である。購読者層は,国内外の会員のみならず,スポンサー,取引各社,関係者更に一般購読者等に広がっている。

そして,原告は,前記のとおり,平成14年1月16日に出願し,平成16年3月19日に設定登録を受けた「新極真会」を標準文字で書して成り第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」等を指定役務とする前記商標(登録第4756427号)を有しているところ,上記商標の指定役務であり原告の本来的業務である「空手の教授」を行うに当たり「新極真会」との標章を本件商標の指定商品である「空手衣」や「Tシャツ」等に使用しており,原告に所属する選手,生徒はすべて「新極真会」が表示された胴着を着用して空手を行っている(ちなみに,他の団体においても自己が所属する団体名又は商標が表示された空手着を着用して空手を行っている実情がある。原告の指導する会員は「新極真会」が付された胴着を原告から購入することとなっており,原告を表す「新極真会」が付された胴着は相当程度の販売量が認められるものである。

以上のような原告の活動により,原告の名称ないし上記標章は,本件商標の出願時において既に胴着の商標としても周知・著名となっていたものと考えられる。その後も原告は隆盛に活動しており,平成21年1月7日の審決時においても周知・著名性は維持され,または高まったものと考えられる。

そして,原告が商標権者である前記登録商標の指定役務「空手の教授」と被告が商標権者である本件商標の指定商品「空手衣」とは需要者が共通しているため,極めて密接な関連性を有するものであって,上記のように原告の商標「新極真会」は原告の本来的な業務である「空手の教授」を表示する商標として周知・著名であるため,同時に原告の「空手衣」を表示する商標としても周知・著名性を獲得しているものであると考えられる。すなわち「空手衣」は原告の主たる業務である「空手の教授」に付属する付帯商品とも考えられる。

このように,本件商標と原告の使用する上記標章とは「シンキョクシンカイ」の称呼を同一にすることは明らかである。

したがって,本件商標は法4条1項10号に違反して登録されたものである。

エ 法4条1項15号違反

前記のとおり,原告の有する「新極真会」との商標は,原告の役務「空手の教授」を表示するものとして本件の出願時点で既に周知・著名性を獲得していた。また,その付帯商品である胴着についても付帯商品の商標として同様に著名であった。

そして極真関連商標は複数の団体が使用しているとしても,原告が新たに採用した「新極真会」については原告のみが使用しているものであり,原告の活動及び業界内の混乱,新名称採用の経緯等からすれば「新極真会」の語を将来的にも原告以外の者が使用する可能性がないことは明らかであるし,他人が使用すれば原告の業務と混同を生じることも明らかである。

また,原告の構成員及び団体に所属する者は,道場において必ず商標「新極真会」が表示された胴着を着用することとなっており,また他の団体においても付属商品については同様の取扱をうけていることから,たとえ法4条1項10号における原告商標の周知性が認められない場合があったとしても,原告の活動と密接な関連性がある第25類「空手衣」等について被告が本件商標を使用すれば原告のものであるとの混同を生じることは明らかである。

したがって,本件商標は法4条1項15号に違反して登録されたものである。

オ 法3条1項柱書き違反

審決は,被告が極真会館ビル内においてTシャツ,ジャージ及び空手着を販売していると認定するが,被告は本件商標の指定商品のみならず,極真会館を真に承継した者であると主張するのみであって,本来的な業務である空手の教授を実施する営業主体となる実体を有していない。被告自身はフランチャイズのライセンサーとなれると見込んでいるようであるが,実体のない団体又は個人が他人に商標を使用させる目的で商標を取得することは,法制度上認められない。

そして「新極真会」との商標は,既に極真会館を真に承継する団体である原告が採用し,空手の教授等について実際に使用され,需要者に現実に認識されている名称及び商標であって,被告は他の団体と峻別する目的を持って本件商標を新たに採用したものでなく,第25類「被服,空手衣」に使用する意思があるとは到底考えられない。仮に被告がこれを使用した場合には,被告のものであるとは認識されず原告のものであると認識され,混同を生じることは必定であり,被告と原告との間になんらかの関係があるとの誤解が生じることが明らかである。したがって,Aの真の承継者は被告自身のみであると主張する被告にとって,本件商標の使用はかえって不利益を招来することになるとも考えられる。また原告の著名性にフリーライドして不正の利益を得る目的や,劣悪な商品を販売して原告の評価を下げるために使用する目的であれば,真正な使用意思とは認められない。

このように,本件商標は法3条1項柱書の規定に違反して登録されたものである。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。

3 被告の反論

審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。

(1) 被告はAの娘であり,かつてAが運営していた極真会館の直接の流れを受け継ぎ,現在,Aが運営していた道場を「国際空手道連盟極真会館」との名称で夫と共に運営し,本部道場において150名ほどの会員に対し,空手のみならずAの哲学などを教えているほか,A記念館を経営して生計を立てている。

(2) 過去にAの弟子で極真会館から独立していった者はいたが,独立するというのは師から離れるということであるから,これらの弟子はAの写真や名称を使用することはなかった。

Aの極真会館の流れを持つ団体の中で,被告の極真会館以外に「極真」という名前が付くものは「新極真会」と「極真館」のみであるが,Aの名前や写真等が使われながら少し名前が違うだけで別組織とされ,金銭的に利益を上げているというのが現状である「極真」という語が使用されると,新極真会も極真会も同じものであると思われてしまうのであって,組織が違うというのであれば互いに明確に住み分けるべきであり「極真」の文字が入った商標を被告の運営する極真会館以外に使用されることは許し難い。

なお「新極真会」及び「極真館」の両者とも現在訴訟が係属中である。

(3) 被告は「新極真会」との名称は使用していない。

当裁判所の判断

1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

2 本件における事実関係

証拠(甲8~13,15,16,17の1・2,18,19の1~30,20の1~46,21の1~19,22の1~4,23,26,27,33の1~3,34,35,36の1~17〔各枝番含む〕,37,38,40の1~47〔各枝番含む〕,41~47,48の1~7〔各枝番含む〕,49~55,56の1~21,57,58,59~65の各1・2,66,67~99,101~116,118~140,142~249,251~255)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

(1) Aは,極真空手と呼ばれる空手の流派の創始者であり,昭和39年,同空手に関する団体として国際空手道連盟極真会館(極真会館)を設立し,平成6年4月26日の死亡時まで,その代表者として,極真会館の館長ないし総裁と呼ばれていた。Aが死亡した平成6年4月当時,極真会館は,日本国内において,総本部,関西本部のほか,55支部,550道場,会員数50万人を有し,世界130か国,会員数1200万人を超える勢力に達しており,極真会館は,毎年「全日本空手道選手権大会」及び「全日本ウェイト制空手道選手権大会」との名称を付した極真空手の大会を開催すると共に,4年に1度「全世界空手道選手権大会」との名称を付した極真空手の大会を開催していた。

(2) Aの死亡後,平成6年5月10日に開催された極真会館の支部長らで構成される支部長会議においてBが極真会館の館長に就任することが承認されたが,その後Aの相続人らをはじめ,Bの活動を批判する者達による反発が高まり,ついには支部長会議においてBが館長から解任されるなどして,生前の極真会館における支部長等は各派に分かれるに至った。支部長会議においてBについて解任決議がされた平成7年4月5日の時点における極真会館の勢力関係は,Bを支持する支部長又は直轄道場責任者はBを含めて12人(「B派」と呼ばれた。,Aの妻であるCを支持する支部長は9人(「遺族派」と呼ばれ,後に「宗家」の他に「D派」と称するようになった,前記の支部長会議においてBを解任した勢力を支持する支部長又は直轄道場責任者は30人であった(支部長協議会派)」と呼ばれた。

「上記各派は,いずれも自派が極真空手を正当に承継するものであるとして,極真会館を名乗って,道場の運営を行い,従前,極真会館が行っていたものと同一名称の極真空手の大会を開催するなどした。

(3) 原告は,支部長協議会派を前身とし,原告代表者であるEの名から「E派」とも呼ばれていたが,極真会館の分裂後も「極真会館」として活動し,平成12年10月10日付けで「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」との名称で法人登録をした。

しかし,極真会の商標を巡り原告とB,原告と被告ら遺族,被告ら遺族とBとの間に紛争が発生し,原告とB等との間の訴訟における裁判上の和解(平成15年4月15日成立,甲31)の結果,原告は平成15年10月14付けで名称を「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会(現名称)」へと変更することとなった。

原告は上記新名称への変更について平成15年7月11日に赤坂プリンスホテルにおいて記者発表を行った。その際に原告が発表した平成15年5月当時の原告の組織概要は,世界組織が加盟国63か国,公認支部数145支部,支部長数143名,総会員数4万名であり,国内組織が総本部直轄道場14道場,支部数33支部,公認道場数11道場,全国道場総数360道場(平成15年4月現在,支部長数31名,道場責任者数25名,国内総会員数1万5000名(平成15年4月現在)であった。上記記者発表は多くのスポーツ紙各紙や雑誌に掲載され,またテレビでも放映された。

(4) 原告と被告ら遺族ら等とは,Aの肖像権使用に関して民事訴訟で争ったことがあり,同訴訟は,平成15年3月27日に成立した東京地裁平成12年(ワ)第20469号事件の訴訟上の和解において,原告が和解金500万円を支払うことで結着した(なお,被告が本件商標出願をしたのは,前記のとおり,その後の平成16年10月22日である。)

(5) 原告は,平成20年3月現在,全国500以上の道場等において極真空手を教授し,国内の総会員数は約2万人,海外にも73カ国,総会員数約7万人の会員である。(甲12,13,15)

また原告は,平成15年以降現在に至るまで,新極真会として毎年全日本大会を開催するほか,2年毎に世界各国から代表を迎えて「世界大会」ないし「ワールドカップ」として世界的な規模の選手権大会を開催しており,その様子はテレビや雑誌等でも数多く取り上げられ,その他,新極真会の活動や新極真会に所属する選手等の記事や広告等は雑誌等に多数掲載され,自らも機関誌である「空手LIFE」を毎月発行し(発行部数は約1万部,空手の普及や原告の活動の周知に努めてきた。

さらに原告は,空手の胴着や帯,Tシャツ等に原告の団体名を毛筆体で「新極真會」と書して成るロゴ(下記のとおり)を付して販売しており,上記テレビや雑誌等における原告の会員らの多くは同ロゴの付された胴着やTシャツを着用していた。

3 事案に鑑み,本件商標の法4条1項10号該当性について判断する。

上記2に認定した事実によれば,原告は,Aが死亡した後に分裂した極真会館において,Aの創設した極真空手を教授すること等を目的として支部長協議会派に所属した支部長らを中心に設立された団体であるところ,平成15年4月ないし5月当時の原告の組織概要は,世界組織が加盟国63か国,公認支部数145支部,支部長数143名,総会員数4万名であり,国内組織が総本部直轄道場14道場,支部数33支部,公認道場数11道場,全国道場総数360道場(平成15年4月現在),支部長数31名,道場責任者数25名,国内総会員数1万5000名という大規模なものであったこと,原告は平成15年7月11日に,名称を「極真会館」から「新極真会」へと改めることを記者発表するとともに,本件商標の出願時(平成16年10月22日)までに新団体名称の主催で世界大会(第8回・平成15年10月4日~5日)を開催したほか,その後も登録査定時(平成19年11月19日)までに継続的に新団体名称の主催で全日本大会や世界大会を開催するなどして,極真空手及び新極真会の名称の浸透を図っており,これらの結果,原告は日本全国のみならず世界各国において更に多くの会員を獲得していること,また,上記の大会の開催予定や結果はテレビや雑誌等において頻繁に採り上げられており,これもまた原告の名称の浸透や極真空手を教授する活動の認知に貢献していることが認められ,以上によれば,新極真会との原告の名称は,本件商標の出願時(平成16年10月22日)及び登録査定時(平成19年11月19日)において,原告の業務に係る役務を表示するものとして,空手やスポーツを愛好する者に周知であったと認めることができる。

そして,上記2のとおり,原告は,本件商標の指定商品である被服,空手衣に相当する空手の胴着や帯,Tシャツに原告の団体名を毛筆体で「新極真會」と書して成る標章を付して販売するとともに,上記テレビや雑誌等において原告の会員らがこれら標章の付された胴着やTシャツを着用した姿で頻繁に紹介されていることが認められ,そうすると「新極真會」との標章は,本件商標の出願時(平成16年10月22日)及び登録査定時(平成19年11月19日)において,原告を表示するものとして空手を志す需要者の間に広く認識されていたと認められる。

一方,本件商標は,前記第2の1のとおり,というものであり,上段に「新」と「極真会」との間をやや空けて「新極真会」と書し,下段に「SIN」と「KYOKUSINKAI」との間をやや空けて「SINKYOKUSINKAI」と書して成るものであるのに対し,原告が使用する標章は,上記のとおり,毛筆体で「新極真會」と書して成るものであるが,両者は文字間の懸隔や書体ないし字体において差異はあるものの,いずれも容易に一体として「シンキョクシンカイ」との称呼を生じ,かつ,極真空手を教授する新たな団体との観念を生じるものであるから,本件商標は上記原告が使用する標章に類似するものと認められる。またその指定商品も上記のとおり「被服,空手衣」であって,原告の販売する胴着やTシャツと同一又は類似であると認められる。

以上からすると,本件商標登録は「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するもの」として法4条1項10号に該当するものと認められるから,本件商標は無効といわなければならない。

なお被告は,過去にAの弟子で極真会館から独立した者はAに関連する「極真」との語やAの写真等を使用することはなかった旨や,Aの娘である被告は現に「国際空手道連盟極真会館」との名称で道場を運営するとともに,A記念館を経営して生計を立てているところ,新極真会と極真会館は組織が違う以上互いに明確に住み分けるべきであり「極真」の文字が入った商標を被告の運営する極真会館以外に使用されることは許すべきでないなどと主張するが,原告組織の規模や活動状況等に照らせば「新極真會」との標章が原告を表示するものとして空手を志す需要者の間に広く認識されていたと認められ,したがって,本件商標登録が法4条1項10号に該当すると認めるべきことは上記のとおりであって,被告の主張する前記事情は上記認定を左右するものではない。

4 結論

そうすると,本件商標登録は法4条1項10号に違反するものではないとした審決の認定判断は誤りであることになるから,その余について判断するまでもなく,審決は違法として取消しを免れない。

よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

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