知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成20年(行ケ)第10323号審決取消請求事件


主文

1 特許庁が無効2007-890156号事件について平成20年7月23日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

1 本件は,被告が有する下記商標登録(本件商標)のうち第25類の全指定商品及び第41類の全指定役務について原告が商標法(以下「法」という)4条1項8号,10号,15号,19号に基づき商標登録無効審判を請求したところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。

(商標)(商標省略)<標準文字>

空手道極真館

(指定商品)

・第16類

<略>

・第25類

洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(乗馬靴」を除く。),乗馬靴

「(指定役務)

・第41類

空手の教授,その他の技芸・スポーツ又は知識の教授,当せん金付証票の発売,献体に関する情報の提供,献体の手配,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,ゴルフの興行の企画・運営又は開催,相撲の興行の企画・運営又は開催,ボクシングの興行の企画・運営又は開催,野球の興行の企画・運営又は開催,サッカーの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く,競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,図書の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画の貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,カメラの貸与,光学機械器具の貸与,音声周波機械器具・映像周波機械器具・映写機及びその付属品の貸与,美術用モデルの提供,ニュースレポーターによる取材・報告

2 争点は,①本件商標が他人の著名な略称を含む商標に該当するか(法4条1項8号),②本件商標がAの空手又は関連商品として需要者の間に広く認識されている後記引用商標A~D(以下,これらを総称して「極真関連商標」という)と類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するものに該当するか(法4条1項10号),③本件商標が他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に該当するか(法4条1項15号),④本件商標が他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている後記極真関連商標と類似の商標であって,不正の目的をもって使用するものに該当するか(法4条1項19号),である。

【引用商標A】

・登録第3370400号

商標権者B(ただし,Bの旧氏名。以下同じ)

出願日平成6年5月18日

登録日平成10年10月9日

(ただし,平成19年6月28日無効審決確定により消滅)

(商標)(商標省略)

(指定商品)

第25類

被覆,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴

・登録第4027344号

商標権者B

出願日平成6年5月18日

登録日平成9年7月11日

(ただし,平成19年6月28日無効審決確定により消滅)

(商標)(商標省略)

(指定役務)

第41類

空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授,図書及び記録の供覧,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,放送番組の制作,空手の興行の企画・運営又は開催,運動施設の提供,興行場の座席の手配,映写機及びその附属品の貸与,映写フィルムの貸与

【引用商標B】

・登録第4027345号

商標権者B

出願日平成6年5月18日

登録日平成9年7月11日

(ただし,平成19年6月28日無効審決確定により消滅)

(商標)(商標省略)

(指定役務)

第41類

空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授,図書及び記録の供覧,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,放送番組の制作,空手の興行の企画・運営又は開催,運動施設の提供,興行場の座席の手配,映写機及びその附属品の貸与,映写フィルムの貸与

・登録第4038439号

商標権者B

出願日平成6年5月18日

登録日平成9年8月1日

(ただし,平成19年6月28日無効審決確定により消滅)

(商標)(商標省略)

(指定商品)

第25類

ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴

【引用商標C】

・登録第4027346号

商標権者B

出願日平成6年5月18日

登録日平成9年7月11日

(ただし,平成19年6月28日無効審決確定により消滅)

(商標)(商標省略)

(指定役務)

第41類

空手の教授を含む技芸・スポーツ又は知識の教授,図書及び記録の供覧,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,放送番組の制作,空手の興行の企画・運営又は開催,運動施設の提供,興行場の座席の手配,映写機及びその附属品の貸与,映写フィルムの貸与

【引用商標D】

・登録第4041083号

商標権者B

出願日平成7年2月20日

登録日平成9年8月8日

(ただし,平成19年6月28日無効審決確定により消滅)

(商標)(商標省略)

(指定役務)

第41類

技芸・スポーツ又は知識の教授,空手の興行の企画・運営又は開催,運動施設の提供

第3 当事者の主張

1 請求の原因

(1) 特許庁における手続の経緯

被告は,平成14年10月22日,本件商標について商標登録出願をし,平成16年2月18日に登録査定を受け,平成16年3月12日に特許庁から商標登録第4755605号として設定登録を受けた。

これに対し原告は,平成19年9月21日,本件商標のうち第25類の全指定商品及び第41類の全指定役務について,法4条1項8号(著名略称違反・10号(周知商標違反・15号(混同のおそれ・19号(不正目的使用)に基づき商標登録無効審判を請求し,これを受けた特許庁は,同請求を無効2007-890156号事件として審理した上,平成20年7月23日「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決をし,その謄本は平成20年8月2日原告に送達された。

(2) 審決の内容

審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件商標は法4条1項8号,10号,15号,19号のいずれの規定にも違反していないから無効とすることはできない,というものである。

(3) 審決の取消事由

しかしながら,本件商標には以下の無効事由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。

ア 極真関連商標の帰属主体と使用主体

(ア) 「極真空手」及び「極真会館」は,Aが空手の修行の結果「真を極める」ことを念願して創設したものであり,その一門をAが「極真会」と名付けたものである。前記引用商標に係る「極真会(筆縦書「極真)会館「極真空手/KYOKUSHIN KARATE 「KYOKUSHIN」等の極真関連商標の識別の要部である「極真」も,Aが作り出した造語である。

A存命中は,「極真会館」が設立され,次第にその規模が拡大すると,それに応じて組織やその運営に関する基本的な定めが「道則」「支部規」約」,「極真会館国内支部規約」等の形で定立されたが,同規定中には館長ないし総裁たる地位の決定や承継等に関する規定はなく,また,実際の組織運営は必ずしも同規定どおりに行われていたわけではなく,具体的な場面においてはAの個人的な判断にゆだねられており,その裁量は広範であった「極真会館」設立後においても「極真会」はA個人の広範な裁量によって運営されており,極真関連商標も等しくA個人にすべての権利が帰属していたものである。「極真会館」なる組織は存在せず,「極真会館」はA個人の事業の名称(屋号)にすぎない。

極真関連商標の使用実態においても,Aは「極真」を自らの武道・闘技を示す識別標識,商標として使用していたものである。このような極真関連商標の使用実態は,A個人が自らの空手に名付けた「極真」を自らが権利者として使用していたことを示すものであり,極真関連商標はA個人の空手であるとの出所を表示するものである。

そして,A存命中にA個人が独占していた極真関連商標に係る権利(具体的には,極真関連商標について商標登録を受ける地位ないし極真関連商標を使用する権原)は,相続発生後は相続人に包括承継(民法882条)された。

すなわち,平成6年4月26日A死亡時における相続人である包括承継人は,妻C,長女D,二女E,三女X(原告),婚外子Fの5名である。このうち,長女Dは平成8年9月21日死亡し,その相続人夫G,養子HがDを相続した。

また,婚外子Fは特別受益者であるため相続分が存しない(民法903条。その上で,平成17年12月29日,被相続人Aに係る「遺産分割協議書及び他に相続人がいないことの証明書」(甲69)が作成され,被相続人Aのすべての権利義務が妻Cへ相続された。

Cは平成18年6月6日に死亡したが,その当時における相続人である包括承継人は,二女E,三女X(原告,養子Iの3名である。このうち二女Eは平成18年8月18日相続放棄をした。その上で,平成19年3月28日,被相続人Cに係る遺産分割協議書(甲72)が作成され,被相続人Cの遺産は養子Iに現金50万円が相続され,その他すべての権利義務は原告が相続した。

このように,被相続人Cの死亡により,養子Iへの現金の相続を除きすべての権利義務は原告に承継されたものであり,原告は,Aの空手道場及び極真関連商標の宗家の地位及び極真関連商標を承継した。なお原告は,A存命中から引き続き極真会の本部住所地〔東京都豊島区西池袋〕の「極真会館」4階本部道場において空手の教授,空手道着の販売を行っている。

(イ) これに対し審決は,極真関連商標が極真会館ないし極真空手を表す標章として広く認識されるに至ったのは,Aのみならず極真会館に属する各構成員の努力によるものであるとして,極真関連商標が表示する出所は極真会館であると認定するが,誤りである。

極真関連商標が極真会館ないし極真空手を表す標章として広く認識されるに至ったのは,A個人が極真関連商標を生成し,極真空手を築き上げ,弟子を養成したという,A個人の業績によるものであって,AとA存命中の極真会館に属する各構成員の努力により極真会館及び極真空手を全国に普及し,発展させた結果ではない。

およそ,商標の周知・著名性や顧客吸引力の獲得は,商標の権利者,ライセンシー,商標権者の下で働く従業員,ライセンシーの従業員,広告関係者など商標権者を取り巻く多数の者の努力により初めて達成できるものであるが,その過程における関係者の努力と当該商標に係る権利の帰属は全く関係がない。商標権者以外の者がいかに大変な努力をし,その結果商標の周知性が高まっても,それによって商標権が共有になったり商標権を総有することなどあり得ない。

したがって,極真関連商標が広く認識されるに至ったことと,それを広めた者とその商標の帰属主体に関係があるとの立論に立つ審決の理由付けは,商標の権利について根本的な誤解があり,商標法の解釈を誤るものである。

(ウ) また審決は,極真関連商標に係る権利は,極真会館に所属する支部長ら構成員全体に,共有的ないし総有的に帰属し,支部長ら構成員はその利益を享受し得ると認定するが,かかる認定は,商標の権利帰属主体と商標の使用主体を混同するものであり,到底成り立たない。

まず「極真関連商標に係る権利」は,極真会館に所属する支部長ら,構成員全体に,共有的に帰属するものではない。審決のいう「共有的に帰属する」の意義は不明確であるが「共有的に帰属する」は「共有」の権利関係を意味するものと解される。審決が「共有的に帰属する」の意義について「共有」以外の権利関係を指すのであれば,法律解釈を誤った違法がある。民法第3章第3節は「共有」についての権利関係を定義するものであるが,その特則として法31条4項,35条,40条等は特許法を準用して,共有関係にある商標をめぐる権利関係を定めるものである。

そして,前記のとおり,極真関連商標はA個人が自らの空手に名付けた「極真」に由来するものであり,Aの空手の出所を表示するものであり,A個人がその弟子である支部長ら構成員全体にその使用を許諾したものであるから,商標の使用許諾を受けて使用する者が商標の権利者による同意なく商標の権利を共有するに至ることなどあり得ない。

前記のとおり,極真関連商標は,A存命中はA個人が独占していたものであり,相続発生後はその権利は相続人に包括承継(民法882条)されたものである。A存命中,それらの商標に係る権利を共有にするため,自らの持分の一部を極真会館に所属する支部長ら構成員に対して譲渡したという事実はないし,Aの包括承継人が,商標の権利を共有にするため,自らの持分の一部を極真会館に所属する支部長ら構成員に対して譲渡したという事実もない。審決の上記判断には,民法882条の解釈を誤った違法がある。

また審決は,極真関連商標が極真会館に所属する支部長ら構成員全体に共有的に帰属したとするが,共有となる「極真会館に所属する支部長ら」は誰であるか「極真会館に所属する構成員」とは誰であるか特定されていないばかりか,A個人が独占していた極真関連商標がいつから共有となったのか,各共有者の持分比率はいくらかなど,共有関係を認定するために必須の要件をなんら認定することなく,漫然と「共有的に帰属する」と認定するものであり,かかる認定は違法である。

(エ) なお,審決のいう「総有的に帰属する」ということは,権利能力なき社団についての権利関係を示すものと推察できるが「極真会」について権利能力なき社団性は存在しない。

すなわち「極真会」の組織運営はAの個人的な判断に委ねられていたものであり,権利能力なき社団としての実態を有しないものであるから,権利能力なき社団における「総有」が出てくる余地がない。

百歩譲って,仮に「極真会」が権利能力なき社団であったとしても,極真関連商標は「総有的に帰属する」に至ることはない。前記のとおり,極真関連商標は,A個人が自らの空手に名付けた「極真」に由来するAの空手の出所を表示するものであり,A個人が,その弟子である支部長ら構成員全体にその使用を許諾したものであって,権利能力なき社団が存在したとしても,同様に使用を許諾されたものにすぎない。商標の使用の許諾を受けて使用する者が,商標の権利者の同意なく,商標に係る権利の移転を受けることはあり得ないところ,A存命中において,極真関連商標に係る権利がA個人から権利能力なき社団に移転したという事実はないし,Aの包括承継人が,極真関連商標に係る権利を総有にするため,極真会館に所属する支部長ら構成員に対して譲渡したという事実はない。

(オ) ちなみに,審決は,Aの死後,B(B)の率いる極真会館が複数の会派に分裂したと認定するが,誤りである。Aの死後,極真会館をBが率いていたという事実はない。

Aの葬儀・告別式の場において,Aの遺言(後に無効と判定された)があるとなればその内容には絶対に従うとの考えから,支部長らによりBが「極真会館」の館長に就任することが承認された。すなわち,Bは,その後無効と確定されることとなる遺言を用い,支部長らの錯誤を利用した上で,館長に就任したにすぎない。極真会館を私物化したBは,その後,平成7年4月5日,全国の各地区の代表者による支部長協議会において館長を解任されており,Bは正当な権原なく「極真会館」を僭称あるいは冒用するものにほかならない。

イ 本件商標と極真関連商標の類否

(ア) 本件商標は「空手道極真館」の漢字を標準文字に書して成るものであり,極真関連商標は「極真会」の文字を縦書きにして成る商標(引用商標A)「KYOKUSHIN」の欧文字より成る商標(引用商標B)「極真会館」の漢字より成る商標(引用商標C)「極真空手」の漢字及び「KYOKUSHIN KARATE」の欧文字を上下二段に書して成る商標(引用商標D)である。

(イ) 本件商標のうち「空手道」の部分については,空手に関連する運動用特殊衣服,空手の教授との関係では商品又は役務の内容を表示するものであるから,自他識別標識としての機能を有さない。

また「館」は「弘道館」,「明倫館」,「講道館」等,学校・道場などの名に添える接尾辞であることは周知である。すなわち,空手の教授との関係では「館」は,学校・道場を示す接尾辞にすぎず,特段の識別力を持つものではない。

したがって,本件商標において,自他商品又は自他役務との識別標識としての機能を有する部分,すなわち要部は「極真」の文字にある。これに対し,極真関連商標の自他商品・役務との識別標識として機能を有する部分も「極真」である。

このように本件商標の要部と極真関連商標の要部である「極真」は同一であるから,本件商標と極真関連商標は同一又は類似する商標である。

(ウ) 審決は,本件商標において自他商品又は自他役務との識別標識としての機能を有する部分は「極真館」の文字にあり,本件商標全体から,「極真空手を教授する道場等の名称である極真館」の観念を生ずるとする。そこで,念のため,審決の前提に立って,本件商標と極真関連商標との対比を行うと,以下のとおりである。

審決は,本件商標から生ずる「キョクシンカン」の称呼と引用商標Aより生ずる「キョクシンカイ」称呼を対比して類似しないとするが,誤りである「キョクシンカン」と「キョクシンカイ」とは,拗音・撥音を含む7音中,最後の1音が「ン」と「イ」が相違するだけである。しかも「キョクシンカン」は「キョク「シン」「カン」と3音節から成り,「キョクシンカイ」は,「キョク」「シン」「カイ」の3音節から成る。

さらに,最後の音節である「カン」「カイ」の末尾にはアクセントを置くことなく消え入るように発音されるものであり,7音中アクセントのない末尾の1音が「ン」と「イ」だけに過ぎない両商標は,相紛らわしく,聴者をして聞き誤らせるものであり,称呼において類似すると断ぜざるを得ない。

また,極真関連商標のうち引用商標Dは,「極真空手」の漢字及び「KYOKUSHIN KARATE」の欧文字を上下二段に書して成る商標であり,文字通り「極真空手」を含む商標である。すなわち,本件商標は,極真関連商標と観念において類似するものである。

さらに,商標の類否の判断は,同一又は類似の商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。

そして,具体的な取引状況,被告の使用態様に照らすと,Aの極真空手は,顔面攻撃の禁止,防具の使用禁止を前提とするものであるが,「極真」を冒用する「極真館」の空手はこれと異なっており,A総裁の遺志を継ぐものとは到底いえない。それにもかかわらず「極真館」がAの氏名を冒用しA総裁の遺志を継ぐなどと表示して空手の教授を行うことは,Aの氏名・肖像に係る権利,極真関連商標に係る権利を承継した宗家がその使用を許諾したかのように装うものであり,その取引者・需用者・消費者をして,そのように誤認混同させるものである。

このように,本件商標をめぐる具体的な取引状況を勘案し,取引者に与える印象・記憶・連想等を総合的全体的に考察すると,仮に審決が認定するとおり称呼が類似しないとしても,本件商標と極真関連商標は類似するといわざるを得ない。

ウ 法4条1項8号該当性

本件商標はAの極真関連商標の著名な略称である「極真」を含む商標であり,かつ,Aの極真関連商標に係る権利を承継した宗家あるいはその承継人が使用を許諾したものではないから,法4条1項8号に該当する。

審決は,被告はAが創設した極真空手及びそれを運営した極真会館と組織的・経済的に関係がある者であり,極真会館を離脱後も継続して極真空手に携わっている者であるから,法4条1項8号の「他人」には当たらないとするが「Aが創設した極真空手及びそれを運営した前記極真会館と組織的・経済的に関係がある者」ないし「極真会館を離脱後も継続して極真空手に携わっている者」であることは,他人性を否定する根拠となるものではない。

前記アのとおり,極真関連商標に係る権利はA個人が保有していたものであり,それらの権利は極真会館宗家及びその承継人に正当に承継されたものである。他方,被告はAの弟子として,あるいは配下の支部長として,極真関連商標の使用の許諾を受けた者にすぎない。商標のライセンシーが,「他人ではない」すなわち,本人・ライセンサーになるということはあり得ないことである。

また審決は,被告が極真会館を離脱後に「極真空手道連盟極真館」を立ち上げ,その組織は国内はもとより世界の各国に拡がっていることから,極真館は空手に携わる分野において相当程度知られていると認められるとするが,仮に「極真空手道連盟極真館」が国内はもとより世界の各国に拡がっているとしても,それは極真関連商標を冒用し,Aの氏名を冒用,僭称した結果であって,法的保護に値しないものである。

さらに審決は,本件商標は,これに接する取引者,需要者をして,被告の立ち上げた極真空手を教授する道場等の名称である極真館を表した語として把握され,本件商標の文字全体又はその構成中「空手道」の文字を省略した「極真館」の文字全体をもって一体不可分の語と認識されるというべきであるとする。しかし「極真館」は「極真」と道場などの名に添える接尾辞である「館」を結合した商標であり,当該接尾辞部分に識別力はなく「極真」の道場であるとの認識を生じるだけであるから「極真館」は一体不可分の語とはなりえない。

エ 法4条1項10号該当性

本件商標は,Aの空手又は関連商品として需要者の間に広く認識されている極真関連商標と類似するものであり,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するものであるから,法4条1項10号に該当する。

審決は,被告が法4条1項10号の「他人」に当たらないとするが,上記ウのとおり誤りである。

また審決は,本件商標は極真関連商標と類似しないから法4条1項10号の「類似する商標」ということができないとするが,前記イのとおり,誤りである。

オ 法4条1項15号該当性

本件商標は取引者,需要者をしてAが創設した極真空手の業務に係る商品又は役務であると認識され出所の誤認・混同を来す商標である。

例えば,平成21年5月13日,時事通信は,「わいせつ容疑で『極真』支部長逮捕=事務員女性の体触る-神奈川県警」との表題でニュースを配信した(甲75)。本文中には「神奈川県警中原署は13日,準強制わいせつ容疑で,極真館(本部・埼玉県川口市,Y館長)西東京支部長J容疑者(46)を逮捕した。」と記述されているものの,見出しには大きく「『極真』支部長逮捕」と表示されている「極真館」が,その名称からAが創設した極真空手の業務に係る商品又は役務であると認識され,誤認・混同されていることは,このインターネット上のニュースの表題の記載からも明らかである。

また,原告に対しては,国内外から「極真館」と「極真会」はどういう関係なのか「極真会館」は「極真館」と名前が変わったのか「極真館」ではAの空手を教えているのかなどの問い合わせや,Aの空手でないのになぜ「極真」という名前を許しているのかとのお叱りが多数来ている。

さらに,国内外やインターネット上には「第2回全極真世界大会」のポスターが配布,配信されている。国内向けと思われる日本語のポスター(甲80の1)には,左端に原告の父Aの肖像を配置し,右端には被告の肖像を配置し,Aの肖像と被告の肖像は同大・対等に描かれている。これらのポスターにはAの肖像も無断で使用されており,日本だけでなく,全世界の人に大きな誤認混同を与えるものである。

したがって,本件商標は法4条1項15号に該当する。

カ 法4条1項19号該当性

本件商標は,取引者,需要者をして,Aが創設した極真空手の業務に係る商品又は役務であると認識される誤認・混同を来す商標である。

そして,被告は,AからAの極真関連商標の使用の許諾を受けたにすぎないにもかかわらず,Aの氏名あるいは肖像に係る権利と共に「極真関連商標」に係る権利を正当に承継した極真会館宗家の許諾なく,Aの氏名を商業的に使用し「A総裁の遺志を継いで」などと「極真空手」を僭称している。例えば,被告は「全極真空手世界大会」の日本語のポスター,英文のポスターを配布している(甲80)。このポスターには,左に「A」の肖像,右に被告(Y)の肖像を配置し,Aと被告が同格であるかのように装われている。また,「一,極真館概要」(甲64の3)には,「A之命」,「極真精神」と表示され,被告がAの「命」を受けて,空手の教授を行っているかのようにする表示であり,誤認混同を与える表示である。

ちなみに,Aの弟子であるKが創設した団体である「大道塾」においては,極真関連商標を営業目的に冒用することは行われてないし,Aの弟子である添野義二が創設した団体である「士道館」においても「極真」の文字が使用されることはあっても,顧客吸引目的ないし営業目的に使用されているとはいえず,極真関連商標を営業目的に冒用することは行われてない。

このように,Aが創設した極真空手の業務に係る商品又は役務であると誤認させる行為は「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的」をもって使用するものであるから,法4条1項19号に該当する。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。

3 被告の反論

審決の認定判断は,以下に述べるとおり正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。

(1) 極真関連商標の帰属主体と使用主体に対し

原告は,Aの死亡により,Aが保有する「極真関連標章」に係る権利を含む一切の権利義務は原告に承継された旨主張するが,かかる原告の主張は,以下のとおり,理由がない。

ア まず,極真関連標章は,Aの元で,極真会館の各支部長をはじめとして構成員全体で運営されてきた「極真会館」及びその空手の流派「極真空手」の出所を表示するものとして使用されてきており,継続使用の結果,これに接する取引者・需要者は,当該極真関連標章はAを表示する標章として認識するというよりは,むしろAが代表・主催する「極真会館」というまとまった一つの団体名を表示するものとして,また「極真空手」を表示する標章として理解していたものといえる。

その上で,Aの死後,極真会館は大混乱をして各会派に分裂したが,Aの没後においても,当時の各支部長等は極真関連標章を道場で行う「極真空手の教授」等について使用をしてきているのであって,これに接する需要者等は,これら極真関連標章を「極真会館」又はこれを受け継いだ極真空手の団体・組織を表わす標章として理解・認識していたものといえる。

すなわち,極真関連標章が「極真会館」ないし「極真空手」を表す標章として広く認識されるに至ったのは,AとA存命中の極真会館に属する各構成員の努力により,極真会館及び極真空手を全国に普及し発展させた結果といえるから,極真関連標章が表示する出所は,極真会館であるというべきである。現在でも,極真会館から分裂した複数の団体が「極真空手の教授」等を指導し,また,各団体の名称中に「極真」の文字を有する標章を用いて活動を行っているものの,これに接する需要者等は,少なくとも極真関連標章がAの遺族又は原告を出所とする標章であると認識しているものではない。そして,これまでにも,Aの遺族が「極真会館」又は「極真空手」の活動及びその普及に従事することはなかった。

他方,被告は,極真会館の前身である「A道場」に昭和38年,15歳で入門し,極真の組織にあってA存命中の極真会館に属し,Aの教えを受けるとともに,極真の「空手の教授」の指導に貢献し,自身も空手の修行一筋の生活を送ってきた高弟である。また「極真」の名を世に知らしめた昭和50年開催の第1回世界大会の記録映画「地上最強のカラテ」の一方の主役を務めた者でもある。そして「空手道極真館」は「極真会館」とは形式的に異なる団体ではあるが,A総裁の遺志を尊重しつつ,それまで行ってきた極真の「空手の教授」等の活動を継続して行っているものであり,被告の「空手道極真館」の継続的使用は尊重されてしかるべきものである。

イ 次に,極真関連標章は,遅くともAが死亡した平成6年4月26日の時点では,少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では,Aが代表者

として運営していた団体・組織である「極真会館」又はその空手の流派である「極真空手」を表す標章として,これに接する取引者等には広く知られていたものである。

そして,A自身は,それらの標章について生前に自己名義での商標登録出願を行った事実はなく,当該登録出願に係る商標権は保有してはいなかった。

そうすると,原告がAの権利等を承継したとしても,未登録の商標に係る商標登録を受ける地位についてまで当然に相続の対象となるものではなく,本件商標の登録の有効性の可否を判断するに当たり考慮すべき事由には該当しない。

ウ そして,Aの死後,極真会館の内部の分裂・離脱などにより,混乱した状況の下では,少なくとも,各支部長らによって行われていた「極真空手の教授」等については,その事業を継続する限り,極真関連標章の使用は保護されてしかるべきものであり,A及び極真会館の各支部長らによる永年の努力により醸成された業務上の信用等が化体された「極真関連標章に係る権利」は,審決が認定したとおり,極真会館に所属する支部長ら構成員全体に,共有的ないし総有的に帰属し,支部長ら構成員は,その利益を享受し得るものと解すべきである。

さらに,極真会館分裂後の複数の団体・組織による極真関連標章の使用実態を考慮するならば,原告のみが「極真関連標章の使用の権原を有する者」であるとはいえないのであって,むしろ,事実上,実質的な指導に携わってきた団体・組織であればともかく,極真空手の指導等に携わっていない者に当該使用を容認すること自体,結果として,需要者の利益ないし商取引の秩序維持を損なうこととなるから,そのような行為こそ許されるべきではないのである。

(2) 本件商標と極真関連商標との類否に対し

原告は,本件商標「空手道極真館」の要部が「極真」の漢字部分にあるから,本件商標は極真関連商標と称呼及び観念において類似する商標である旨主張するが,以下のとおり,両者はその称呼,外観及び観念のいずれの点においても相紛らわしいところはなく,類似する商標ではない。

(ア) 法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものである。また,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の混同のおそれを推認させる一応の基準にすぎず,したがって,前記の3点のうちその1において類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては,これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照。)

そして,複数の構成部分の組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,及び最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・判例時報2021号92頁参照。)

また,商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情とは,その指定商品全般についての一般的・恒常的なそれを指すものであって,単に該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的・限定的なそれを指すものではないと解すべきである。

(イ) そこで,上記の観点から本件商標と引用商標の類否について検討する。

a 本件商標は,「空手道極真館」の漢字を標準文字で表して成るところ,その構成各文字の大きさ及び書体は同一であって,全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから,構成全体をもって一体不可分のものとして認識し把握されるものとみるのが自然である。

また本件商標は同一の書体及び大きさで表され,当該構成中の「極真」の文字と「館」の文字も一方が他方よりも看者の注意を強く引くような態様で表記されることはなく,外観的特徴においても両文字に差異がないことから,これに接する取引者・需要者はこれを一体のものとして認識・把握するものとみるのが自然であって,原告が主張するように「極真」の漢字部分のみが切り離されて認識されるような構成上の特徴を有するものではない。

そして,本件商標は「空手道極真館」の文字を横書きにした外観を有し,構成全体の文字に相応して「カラテドウキョクシンカン」の称呼が生ずることが明らかである。

また,被告の取扱う商品又は役務との関係からすれば,例えば第25類の指定商品中の「空手用道着」,あるいは第41類の指定役務中の「空手の教授」について本件商標が使用される場合は,これに接する取引者・需要者をして,その構成前半部の「空手道」の文字部分がその商品の用途又は役務の質を表したものとして認識される場合も少なからずあることをも併せ考慮すれば,本件商標は構成全体の称呼「カラテドウキョクシンカン」のほか「極真館」の文字部分から,単に「キョクシンカン」の称呼をもって実際の取引に資される場合も十分にあり得るというべきである。

さらに,本件商標は全体の構成から「極真空手を教授する道場等の名称である極真館」の観念を生ずるものといえる。そして,審決当時(平成20年7月23日,本件商標が「極真空手を教授する道場等の名称である極真館」という一種の団体名称として認識される一体不可分の観念を超えて,これをいずれかの部分に分離して考察すべき格別の事由は見出し得ない。

b 以上に対し,引用商標Aは「極真会」の文字を縦書きにしたものであり「キョクシンカイ」の称呼を生じ「極真空手を教授する道場等の名称である極真会」の観念を生ずる。

そして,本件商標と引用商標Aを対比すると,外観において,本件商標の「空手道極真館」の部分と引用商標Aは「極真」の文字を含む点で共通するが,全体の文字数やその余の文字が異なるから,両者は外観において異なる。

また,本件商標から生ずる「カラテドウキョクシンカン」の全体称呼と,引用商標Aから生ずる「キョクシンカイ」の称呼は,前者が促音を含む11音から成るのに対し,後者は促音を含む6音から成り,構成音数が相違する上,後半部の「キョクシン」の音を除いたその他の音が相違するから,本件商標の全体称呼と引用商標Aは,称呼において異なる。

本件商標における「キョクシンカン」の称呼と引用商標Aの称呼についても「キョクシン」までの各音を共通にするものの,末尾に位置する「カン」と「カイ」の音の相違は,前者の「ン」音が比較的弱く発音される鼻音であって前音「カ」音に吸収され易い音であるのに対して,後者の「イ」音は澄んだ解放音であって軽い音質を生じさせる母音といえるから,両商標が簡潔な称呼であることとも相俟って,称呼上はそれぞれ聴別し得る。

さらに「カン(館)」と「カイ(会)」の読み(称呼)は,取引者・需要者において,親しまれた特定の観念を想起させる成語として認識され,かつ,日常紛れることなく区別されて普通に使用されていること,両商標全体から想起される観念(極真空手を教授する道場等の名称である「極真館」と同「極真会」)が異なることをも考慮すれば,両商標中の「極真」以外の文字部分や少しの音の違いには注意が向けられているというべきであるから,前記の相違をもって,両商標が称呼・観念上類似するものとはいえない。

したがって,本件商標と引用商標Aは,外観,称呼が異なり,観念についても異なるものといえるから,類似しない。

c 次に,引用商標Bは「KYOKUSHIN」の欧文字を横書きにしたものであり「キョクシン」の称呼を生じ「空手の流派名である極真」の観念を生ずる。

そして,本件商標と引用商標Bを対比すると,外観において,本件商標は「空手道極真館」の漢字を,引用商標Bは「KYOKUSHIN」の欧文字を横書きにして成り,各々その文字の表現方法を異にするものであるから,本件商標と引用商標Bは外観において異なる。

また,本件商標から生ずる「カラテドウキョクシンカン」の全体称呼と引用商標Bから生ずる「キョクシン」の称呼は,称呼の構成音数を極端に異にするものであるから,それぞれを一連に全体称呼するときは相紛れるおそれはない。

本件商標「キョクシンカン」の称呼と,引用商標Bの称呼も「キョクシン」の各音を共通にするものの,前者が促音を含む6音から成るのに対し,後者は促音を含む4音から成り,構成音数が相違する上,前者における「カン」の音に顕著な相違を有するものであるから,本件商標と引用商標Bは,両商標が簡潔な称呼であることとも相俟って,称呼上はそれぞれ聴別し得る。

さらに,本件商標は「極真空手を教授する道場等の名称である『極真館』」の観念を生ずるのに対し,引用商標Bは「空手の流派名である極真」の観念を生ずるから,両者の観念は異なる。

したがって,本件商標と引用商標Bは,外観,称呼が異なり,観念についても異なるものといえるから,類似しない。

d 次に,引用商標Cは「極真会館」の漢字を横書きにしたものであり,「キョクシンカイカン」の称呼を生じ「極真空手を教授する道場等の名称である極真会館」の観念を生ずる。

そして,本件商標と引用商標Cを対比すると,外観において,本件商標「空手道極真館」の部分と引用商標Cは「極真」との文字を含む点で共通するが,全体の文字数やその余の文字が異なるから,本件商標と引用商標Cは,外観において異なる。

また,本件商標から生ずる「カラテドウキョクシンカン」の全体称呼と引用商標Cから生ずる「キョクシンカイ」の称呼は,前者が促音を含む11音から成るのに対し,後者は促音を含む6音から成り,構成音数が相違する上「キョクシン」の音を除いたその他の音が相違するから,本件商標の全体称呼と引用商標Cは,称呼において異なる。

本件商標「キョクシンカン」の称呼と引用商標Cの「キョクシンカイカン」の称呼も「キョクシン」までの各音を共通にするものの,前者が促音を含む6音から成るのに対し,後者は促音を含む8音から成り,構成音数が相違する上,末尾に位置する「カン」と「カイカン」の音に称呼上顕著な相違を有する。

さらに「カン(館)」と「カイカン(会館)」の読み(称呼)は,取引者・需要者において,親しまれた特定の観念を想起させる成語として認識され,かつ,日常紛れることなく区別されて普通に使用されていること,両商標全体より想起される観念(極真空手を教授する道場等の名称である「極真館」と同「極真会館)が異なることをも考慮すれば,両商標中の「極真」以外の文字部分や少しの音の違いには注意が向けられているというべきであるから,前記の相違をもって,両商標が称呼・観念上類似するものとはいえない。

したがって,本件商標と引用商標Cは,外観,称呼が異なり,観念についても異なるものといえるから,類似しない。

e 次に,引用商標Dは「極真空手」の漢字と「KYOKUSHIN KARATE」の欧文字を上下2段に配したものであり「キョクシンカラテ」の称呼を生じ「空手の流派名である極真空手」の観念を生ずる。

そして,本件商標と引用商標Dを対比すると,外観において,本件商標「空手道極真館」の部分と引用商標Dの上段の「極真空手」の部分は,「極真」の文字を含む点で共通するが,本件商標「空手道極真館」は,外観上一体のものとして認識されることから「極真」の部分のみが分離されて認識されることはない上,全体の文字数が異なり,その余の漢字部分も異なり,また引用商標Dは「KYOKUSHIN KARATE」の欧文字が構成中下段に配されている点で本件商標と顕著に相違するから,両者は外観において異なる。

また,本件商標から生ずる「カラテドウキョクシンカン」の全体称呼と引用商標Dから生ずる「キョクシンカラテ」の称呼は,前者が促音を含む11音より成るのに対し,後者は促音を含む7音より成り,構成音数が相違する上,「キョクシン」の音を除いたその他の音が相違するから,本件商標の全体称呼と引用商標Dは,称呼において異なる。

本件商標「キョクシンカン」の称呼と,引用商標Dの「キョクシンカラテ」の称呼も「キョクシン」までの各音を共通にするものの,前者が促音を含む6音から成るのに対し,後者は促音を含む7音から成り,構成音数が相違する上,末尾に位置する「カン」と「カラテ」の音に称呼上顕著な相違を有する。

さらに「カン(館)」と「カラテ(空手)」の読み(称呼)は,取引者・需要者において,親しまれた特定の観念を想起させる成語として認識され,かつ,日常紛れることなく区別されて普通に使用されていること,両商標全体より想起される観念(極真空手を教授する道場等の名称である「極真館」と「空手の流派名である極真空手)を全く異にすることも考慮すれば,両商標中の「極真」以外の文字部分や少しの音の違いには注意が向けられているというべきであるから,前記の相違をもって,両商標が称呼・観念上類似するとはいえない。

したがって,本件商標と引用商標Dは外観,称呼が異なり,観念についても異なるものといえるから,類似しない。

f また,取引の実情をみても,極真会館の各分派は,勢力争いが高じて狭い地区に他分派の道場がひしめく現象が生じるようになり「極真館」道場の近辺もまた同様の状況であるが,入門希望者が「極真会館○○派」と「極真館」とを間違えて手続きした例は一件も報告されていない。このように,希望する道場を選択する愛好家の常識は信じるに足りるものである。

また,特に商品取引上の「空手着」に関しては,極真会館の取引業者である株式会社イサミ,株式会社東京堂インターナショナルが主であり,遅れて大阪の株式会社BB-SPORTSから「極真館」道着の製造販売への参入希望もきているが「極真会」と「極真館」の道着の製造元・販売元・店舗が同じであることは,取引者・需要者が「会」と「館」を峻別していて,他の極真会派か「極真館」かにより商品選択をしており,その商品の出所について誤認混同を生じる実情が全くないことを意味するものである。

ちなみに,本件商標の指定商品中の第25類「運動用特殊衣服」には,引用商標の使用商品とその用途・目的を同じくする「空手用道衣」等が含まれるところ,これらの商品は専ら運動用・競技用の衣服であって,通常使用される繊維製品の衣服とはその用途・目的・販売店等の流通経路を異にする商品といえる。そして,少なくとも極真館においては,本件商標の指定商品に含まれる「空手用道衣」等の商品は道場生が直接に商品発注するのではなく,極真空手を教授している各支部長ないし極真館本部が発注しているものであるから,道場生が必要とする「空手用道衣・色帯」等の商品購入・発注は道場生の道衣等のサイズを含めて商品知識に熟知している専門家が行っているものといえ,原告引用の「空手用道衣」等の関連商品と本件指定商品中の「空手用道衣」とは,たとえ製造・販売元を同じくする場合があるとしても,空手及び格闘技に興味を持つ者(需要者)の間では,原告の引用に係る商品と「極真館」の取扱いに係る商品であるかを選別しているとするのが実情といえる。

さらに,武道・格闘技関連の情報誌でも「極真会館○○派」と「極真館」とを混同して報道した例はなく,それぞれの極真会派や「極真館」の特色などを公平に取り扱っているところである。

g 以上によれば,審決が本件商標と引用商標とは類似しない旨判断したことに誤りはない。

(3) 法4条1項8号該当性に対し

上記(2)のとおり,本件商標は,取引者・需要者をして,被告が立ち上げた「極真空手を教授する道場等の名称である極真館」を表したものとして理解され,本件商標の文字全体又はその構成中「空手道」の文字を省略した「極真館」の文字全体をもって一体不可分の語と認識されているものといえる。そして,本件商標は被告が代表者を務める団体名称を商標として採択したものといえるから,他人の名称等には該当しないこと明らかというべきであって,かつ,他人の著名な略称を含むものでもない。

さらに,特許庁商標課編「商標審査基準」によれば,本号でいう「他人」とは,現存する者とされていることからしても,本件商標は「他人の著名な略称を含む商標」に該当するものとはいえない。

しかも,被告は,Aが創設した極真空手及びそれを運営した極真会館と組織的・経済的に関係があった者ということができ,極真会館を離脱後も継続して極真空手に携わっていた者であるから,法4条1項8号にいう「他人」に該当しないというべきである。

したがって,本件商標は法4条1項8号の「他人の著名な略称を含む商標」ということはできない。

(4) 法4条1項10号該当性に対し

前記(2)のとおり,本件商標と引用商標は,その外観,称呼及び観念のいずれも全く別異の商標ということができるから,本件商標は法4条1項10号が規定する「類似する商標」に該当しない。

(5) 法4条1項15号該当性に対し

前記(2)のとおり,本件商標と引用商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれの観点からみても類似せず,他に両商標を関連付けてみなければならないとする格別の理由も見出し得ないから,結局,本件商標と引用商標とはそれぞれ別異の出所を表示する商標として看取される。

そして,本件商標の指定商品・役務のうち第25類「運動用特殊被服」に包含される「空手用道着」及び第41類「空手の教授」と極真関連商標の使用商品・役務「空手衣,空手衣用帯」及び「空手の教授」とが同一又は類似の商品ないし同一役務であったとしても,空手及び格闘技に興味を持つ者のみならず当該商標の指定商品・役務の取引者及び一般需要者においては,商品の購入又は役務の提供に際して普通に払われる注意力をもってすれば,原告の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれはない。

以上のとおり,両商標の外観,称呼,観念に基づく印象,記憶,連想等を総合して,全体的に考察し,さらに,上記のとおり,本件商標の指定商品又は役務の取引において,本件商標に対する取引者・需要者の注意力,印象の度合い等が他の商品又は役務の取引と異なる特別の事情も存しないことを併せ考えれば,本件商標及び引用商標が各指定商品・役務に使用されたとしても,取引者・需要者が,商品・役務の出所につき混同をきたすおそれはないというべきである。

また被告は,平成15年1月13日に「極真空手道連盟極真館」を結成して以来「極真館」をその略称として採択し,その名称において一定程度盛大に活動を継続しており,また,本件商標は「A」没後に乱立していた各会派と自己の会派とを峻別する目的で被告によって採択され,出願・登録されたものである。このように「極真館」の文字は,自他商品・役務の識別標識としての機能を果たし得るのみならず,実際に他の会派と峻別されていることをも総合的に勘案すれば,本件商標と極真関連商標とは,その出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできない。

そして,被告が極真空手及びそれを運営していた当時の「極真会館」と組織的・経済的に関係があった者であったことは紛れもない事実であり「極真会館」を離脱後も今日まで継続して極真空手に携わっている者といえるから,本件商標をその指定商品又は指定役務について使用しても,これに接する取引者・需要者をして,Aが創設した極真空手に携わる者の業務に係る商品又は役務であろうと認識される場合が少なからずあろうとしても,原告引用商標と商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれはない。

ちなみに,空手,柔道,剣道など日本古来の武道の分野では,同属の流派でありながら,考え方の相違など,さまざまな理由から分派・独立し,別々に行動・活動をするに際して,自己の活動の名称中に各武道の流派名を入れ,かつ,他の会派との区別を図るため,その流派名の前後に他の文字を付加して使用することは,普通に見受けられるところである。例えば,空手の流派「松濤館」を例にとっても,名称中に「松濤」の文字を有する主な団体として「NPO法人日本空手松濤連盟(JSK)」,「NPO法人国際松濤館空手道連盟」,「世界松濤館空手道連盟」,「日本空手道松濤館」,「L派松濤館流謙交塾「日本空手道松濤館流秀修館」等があり,いずれも他の派との区別を図って活動をしている。また,剣術の分野にあっても「一刀流」にみられるような流名を挙げることができる。さらに,日本の伝統文化(文芸)では,出身母体の意志を継いで自立する場合,母体である団体の特徴ある文字若しくは熟語を,その名称中に採択使用することは慣例ともいうべきものである。

それゆえ,極真空手に限ってみても,被告が創設した「極真館」のほか,「極真会館(B派)」,「極真会館極眞會」,「極真会館M派」,「新極真会」,「極真空手N会」「極真会館O派」「全日本極真連合会」「極真会館O派」,「極真会館宗家」,「極真会館Pグループ」等が,その団体名に「極真」を用いて活動しているのである。

このように極真空手の各分派がその名称中に「極真」の文字有する団体名を名乗り,その名称中の前後に「極真会館」を名乗って道場等の運営を行っている実情に鑑みれば,この種商品・役務分野の需要者,とりわけ極真空手又は格闘技に興味を持っている者は,これらの「極真空手の流派名称」の団体名を混同・誤信することなく,それぞれを個別の団体名称として識別し認識しているものといえる。

したがって,本件商標は法4条1項15号に該当しない。

(6) 法4条1項19号該当性に対し

本件商標は「A」没後に乱立していた各会派と自己の会派とを峻別する目的で採択され,出願・登録されたものである。そして,本願商標の全体構成の「空手道極真館」並びにその略称ともいうべき「極真館」は,この種商品・役務の分野において他の会派の業務に係る商品・役務と現実に識別され,出所表示機能を果たしている。

また,本件商標が法4条1項19号の規定する「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして…需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」でないことは,前記(2)のとおりである。

さらに,法4条1項19号の「不正の目的」には,他人の登録商標の出所表示機能を希釈化,ないし,その名声を毀損させる目的をもってした出願,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の信義則に反する不正な目的をもって使用するものをいうと解すべきであって,本件商標は,そのいずれにも該当しない。

したがって,本件商標は法4条1項19号に該当しない。

当裁判所の判断

1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

2 本件における事実関係

証拠(甲1~3,8~10,14,16~27,32,37,56,58,68~71,72の1~6,73,74,83の1~3,乙2,7,26,28,33の1~6,34,44,59~61)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

(1) Aは,極真空手と呼ばれる空手の流派の創始者であり,昭和39年,同空手に関する団体として国際空手道連盟極真会館(極真会館)を設立し,平成6年4月26日の死亡時まで,その代表者として,極真会館の館長ないし総裁と呼ばれていた。被告(帰化前の氏名Y)は昭和38年に極真会館の前身であるA道場に15歳で入門し,極真会館の設立後は正指導員として後輩の指導に当たり,昭和55年から埼玉支部長となった。

極真会館の設立後,組織やその運営に関する定めが「極真会館国内支部規約」等の形で規定されたが,極真会館が法人格を取得することはなく,また,その代表者である館長ないし総裁の地位の決定や承継等に関する規定はなかった。組織運営の具体的な場面においては,創設者であり,死亡時まで一貫して代表者であったAの個人的な判断にゆだねられる部分が多く,同人が強い影響力をもって団体全体を統率していた。

また,Aは「財団法人極真奨学会」(昭和17年1月21日に育英及び学術研究の助成を目的として設立された財団法人)の運営権を取得し,極真会館が各種の昇段状や賞状を発行する際の権威付けなどのためにその名称を使用していた。この極真奨学会の組織や活動についての最終的な決定権もAの個人的な判断にゆだねられていた。

(2) Aの生存中,極真会館は,総本部及び関西本部の下に,全国各地に支部が設けられ,Aが認可した支部長は,認可された支部で道場を開設し,極真空手の教授を行い,極真空手の級位や初段の段位を与えることができ,また,担当地区内に分支部を設けることができた。

支部は,それぞれ担当する地区が定められており,国内支部の支部長は,極真会館が開催する大会に選手を派遣する等大会の運営に協力する義務,極真会館の総本部に会費等を納める義務,支部長会議に出席する義務等を負っており,極真会館を表示するマークを無断で使用することが禁止されていた。

しかし,極真会館の支部長は,前記義務を果たす限り,道場や各種大会等において極真関連の標章を使用することができたし,分支部長も,支部長の個別の許可等を要することなく,道場において,極真関連の標章を使用することができた。

(3) 極真空手を学ぶ者は,本部直轄道場や各支部の道場に入門して極真会館の会員となり,道場生として極真空手の教授を受けた。Aが死亡した平成6年4月26日当時,極真会館は,日本国内において,総本部,関西本部のほか,55支部,550道場,会員数50万人を有し,世界130か国,会員数1200万人を超える勢力に達していた。極真会館は,毎年「全日本空手道選手権大会」及び「全日本ウェイト制空手道選手権大会」との名称を付した極真空手の大会を開催すると共に,4年に1度「全世界空手道選手権大会」との名称を付した極真空手の大会を開催していた。このような活動を背景として,Aの生存時は「極真」といえばAが創出した「極真空手」ないしAが創設した「極真会館」を指すものとして一般に通用していた。

(4) Aは,平成6年4月26日に死亡した。同人が入院中の同年4月19日付けで同人の危急時遺言(以下「本件危急時遺言」という。甲56)が作成された。本件危急時遺言には,Aの後継者をB(B)とすること,極真会館の本部直轄道場責任者,各支部長及び各分支部長らはBに協力すべきこと並びにAの相続人は極真会館に一切関与しないこと等が記載されていた。なお,Aは,生前に,極真会館に属する者に対して,自己の死後に自己の館長たる地位を誰に承継させるかについて,その意思を公に示したということはなかった。

Aの葬儀は,同年4月27日に行われた。出棺の際,本件危急時遺言の証人の一人であるQから,Aが遺言でBを後継館長に指名した旨の発表がされ,同日開催された支部長会議においても,Qから本件危急時遺言の内容についての説明がされ,Bも,自ら後継館長に就任する意思を表明した。その後,同年5月10日に開催された支部長会議において,全員一致でBの極真会館館長就任が承認された。その際被告は,極真会館の最高顧問に就任した。

本件危急時遺言の証人の一人である弁護士のRは,平成6年5月9日,東京家庭裁判所に対し,本件危急時遺言の確認を求める審判申立てをしたが,Aの相続人らは,同遺言に疑義を表明して争った。上記審判申立てに対して,東京家庭裁判所は,平成7年3月31日,これを却下した。

上記決定に対して,Rは東京高等裁判所に対して抗告したが,同裁判所は,平成8年10月16日,抗告を棄却し,最高裁判所も,特別抗告を棄却した。

(5) Aの死亡により,妻C,長女D,二女E,原告,Fの5名が相続し,その後,上記長女が平成8年9月21日に死亡し,平成17年12月29日,Aに係る遺産分割協議書及び他に相続人がいないことの証明書が作成され,Aのすべての権利義務はCに相続された。そして,Cは平成18年6月6日に死亡し,上記二女,原告(三女)及びIが相続したが,上記二女は同年8月18日に相続放棄をし,平成19年3月28日,Cに係る遺産分割協議書が作成され,上記Iが現金50万円を相続したのを除き,その余のすべての権利義務については原告が相続した。

(6) Aの相続人らは,B(B)が極真会館の館長の地位を承継したとして活動したことに対して反発した。Cは,平成6年5月26日,各支部長に対して,極真会館,極真空手等の名称や標章は自ら管理する旨を通知し,平成7年2月15日には,Cが,記者会見を開いて,自ら極真会館2代目館長を襲名することを発表した。

極真会館の支部長の中にもBに対して反感を持つ者が多数おり,相互に連絡を取り合って,Bが極真会館を私物化したなどの批判をし,Bに対する反発は高まっていった。このような状況の下で,平成7年4月5日,全国の各地区の代表者による支部長協議会が開催される予定であったが,その会場には支部長協議会の構成員ではない支部長も参集していた。そして,臨時に支部長会議が開催され,同支部長会議において,Bの館長解任の緊急動議が提出され,Bの館長解任が決議された。この解任動議に賛成した支部長らは,支部長協議会議長を中心に極真会館を運営すると主張した。

これに対し,B及び同人を支持する支部長らは,平成7年4月6日,記者らと懇談した際,Aが決めたものを支部長会議で覆すことはできず,上記の解任決議は効力がない旨反論し,Bが引き続き極真会館の館長の地位にある旨を宣言した。

支部長会議においてBについて解任決議がされた時点における極真会館の勢力関係は,Bを支持する支部長又は直轄道場責任者は被告Yを含めて12人(「B派」と呼ばれた。,Cを支持する支部長は9人(「遺族派」と呼ばれ,後に「宗家」の他に「O派」と称するようになった。),前記の支部長会議において,Bを解任した勢力を支持する支部長又は直轄道場責任者は30人であった(支部長協議会派)」と呼ばれた。

「上記各派は,いずれも自派が極真空手を正当に承継するものであるとして,極真会館を名乗って,道場の運営を行い,従前,極真会館が行っていたのと同一名称の極真空手の大会を開催するなどした。

その後,支部長協議会派は,代表者のSの名から「S派」と呼ばれていたが,平成12年10月10日付けで「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」との名称で法人登録をした(平成15年10月14付けで,名称を「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」と変更。また,遺族派の一部,支部長協議会派の一部等は,平成13年12月「日本空手道連盟極真会館全日本極真連合会」と称する団体を組織した。

上記のように被告はB派に属していたが,次第にBによる極真会館の運営は極真空手のショー化を目指すものとして違和感を感じるようになり,遂にはB派から脱退してAの教えに忠実な極真空手の団体を設立することにし,平成15年1月に「極真館」と称する団体を組織した。

A死亡時に支部長であった者の平成15年5月の時点における所属は「O派」3名,「S派」12名,「B派」17名,「全日本極真連合会」12名,「極真館」3名,無所属3名となった。

このように,Aの生前の極真会館における支部長等は各派に分かれ,それぞれが,本部,支部等を設け,道場で極真空手の教授等を行ったり,極真空手の大会を開催したりしており,Aの創設した極真会館は,それぞれの支部長らがこれを承継すると主張して,複数の団体に分かれるに至った。

(7) 原告は,前記のとおりAの三女であるが,母Cが平成18年6月6日死亡後は,Aの唯一の相続人であり,現在は,A存命中から引き続き極真会の本部住所地の「極真会館」4階本部道場において,夫と共に,空手の教授(ただし,原告本人は空手の実務は行わない),空手道着の販売行為を行っている。

(8) Aは,その生存中,極真会館の活動に関し,自己名義で商標権を有していなかった。もっとも,財団法人極真奨学会が,昭和51年「極真会館」との文字を横書きにし指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第24類「空手道衣及びその帯を含む運動用特殊衣服,その他本類に属する商品」又は同別表第26類「印刷物(文房具に属するものを除く)書画,彫刻,写真,これらの附属品」とする商標「極真会」との文字を筆字によって縦書きにし指定商品を同別表第24類「空手道衣,その他の運動用特殊衣服,その他本類に属する商品」又は同別表第26類「印刷物(文房具類に属するものを除く)書画,彫刻,写真,これらの附属品」とする商標等について登録出願し,昭和55年から昭和59年にかけて,合計12件の商標登録がされた。しかし,そのうち上記4件を含む9件は,平成2年から4年にかけて存続期間が満了したにもかかわらず,更新登録の手続をすることを失念していたために失効し,Aの死亡時までには登録が抹消されていた。そして,昭和59年に登録された残りの3件の商標については,Bが平成6年6月1日譲渡を原因として,同年10月24日,自己名義への移転登録手続を行った。

(9) 本件商標は「空手道極真館」の文字を標準文字で表して成るものであるところ,平成14年10月22日,被告によって出願され,平成16年3月12日に特許庁から商標登録第4755605号として設定登録を受けた。

前記引用商標A~Dを内容とする極真関連商標は,Bが極真会館の代表者としてB(B)名義で平成6年ないし7年に商標登録出願し,登録を受けた。原告はこれに対して商標登録無効審判を請求し,特許庁は平成16年9月22日Bは極真会館分裂の可能性をも予見し,将来生ずるであろう各派の対立関係を自己に有利に解決する意図をもって登録出願したから,この登録は公正な取引秩序を害し,公序良俗に反するとして,法4条1項7号違反を理由に,いずれの商標についても登録を無効とするとの審決をした。これを不服として,Bは審決取消訴訟を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成18年12月26日「Bによる本件商標の登録出願は,Aの生前の極真会館という膨大な構成員からなる規模の大きなまとまった一つの団体を出所として表示するものとして広く知られていた標章について,Aの死亡時から間もない当時の代表者であるBが個人名義でしたものであるところ,その登録出願は,極真会館のために,善良な管理者の注意をもって代表者としての事務を処理すべき義務に違反し,事前に団体内部においてその承認を得ると共に,その経緯を直ちに報告するなど,極真会館内部の適正な手続を経るべき義務を怠り,個人的な利益を図る不正の目的で,秘密裏に行ったと評価できる」とした上「本件商標の正当な出所といえるAの生前の極真会館が,その死後,複数の団体に分裂し,極真空手の道場を運営する各団体が対立競合している状況下において,Aの死亡時から間もない当時の極真会館の代表者としてのBが重大な義務違反により個人名義で登録出願したことによる本件商標の登録を,登録査定時においてAの生前の極真会館とは同一性を有しない一団体の代表者であるBにそのまま付与することは,商標法の予定する秩序に反する」等として,法4条1項7号違反を理由に,Bの上記訴えによる請求を棄却する旨の判決をした。そこでBは,更に上告を提起し上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成19年6月28日,Bの上告を棄却すると共に上告不受理の決定をし,上記審決は確定した。

3 法4条1項8号該当性について

(1) 法4条1項は,商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号,15号等の規定とは別に,8号の規定が定められていることからみると,8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち,人は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても,一般に氏名,名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には,本人の氏名,名称と同様に保護に値すると考えられる。

そうすると,人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号597頁。)

そして,上記のとおり,法4条1項8号が一定の人格的利益を保護するものであることからすると,ある商標登録が8号に該当すると判断されるためには,当該商標に係る人格的利益の帰属主体(自然人又は団体)が特定されることが必要であり,この特定は,当該商標が当該主体の肖像・氏名・名称を含むか否か,著名な雅号,芸名又は筆名を含むか否か,これらの著名な略称を含むか否かといった各要件該当性判断の論理的前提となるものである。

しかも,法4条1項8号該当性の基準時は同号に違反したとされる商標登録の出願時及び登録査定時と解されるから,上記人格的利益の帰属主体ひいては上記著名性等はこれら基準時において現に存在することを要するし,人格的利益は一身専属的な権利であり相続の対象にはならないことからすれば,自然人の場合はその死亡により8号により保護すべき人格的利益が消滅し,8号該当性も消滅すると解すべきことになる。

(2) そこで,上記の見地から本件について検討すると,原告は「極真」との語がAが創設し,Aの屋号である「極真会館」の著名な略称に該当するとの理解を前提としつつ,極真関連商標を相続により原告が承継した旨主張しており,これは,上記(1)に説示した法4条1項8号の「他人」すなわち人格的利益の帰属主体を,自然人であるAと特定し「極真」をもってAを指称する著名な略称に該当することをいうものであると解される。

しかし,本件商標の出願は前記のとおり平成14年10月22日であり,登録査定は平成16年2月18日であるところ,これら基準時においてAは既に死亡(平成6年4月26日死亡)しており,A死亡後はその保護すべき人格的利益は消滅しているから,その著名な略称について8号該当性を認める余地はない。

したがって,原告の上記主張はそれ自体において失当といわなければならない。

(3) 次に,原告は,Aの「極真会館」を原告が承継し,これを現に運営していることを前提に(前記2のとおり,原告も一定の範囲で極真空手の教授等の活動を行っていると認められる,このような団体としての「極真会館」又は,仮に原告の運営する「極真会館」が原告の単なる屋号にすぎないのであれば自然人としての原告自身が,法4条1項8号の「他人」に当たるとして主張すると解することができるから,以下,この観点から検討する。)

ア この点,前記2で認定したとおり,Aが創設した極真会館は,法人格こそ取得していないものの,同人を代表者とし,原則として運営・組織についての一定の規定に依拠して活動を継続していた一つのまとまった団体であったこと「極真」という語は,少なくともAの生前は,一般にAが代表者として運営する団体・組織である「極真会館」ないしその空手の流派である「極真空手」を表す標章として広く知られていたことが認められることからすれば,「極真」の語は,Aの生前においては,団体としての「極真会館」を指称するものとして著名な略称であったと解することができる。

審決が「…極真会館の規模の大きさやその活発な活動から,極真関連商標は,遅くともAが死亡した平成6年4月の時点では,少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では『A』の極真会館というまとまった一つの団体を出所として表示する標章として広く知られ,また,『極真会館』,『極真空手』を表す標章として広く認識されるに至っていたことが認められる。」(審決16頁下2行~17頁3行),「…極真関連商標が表示する出所は,極真会館であることは明らかである。」(審決17頁20行~21行)とするところも,上記のような理解に基づくものであると解される。

イ もっとも,前記(2)のとおり,本件商標登録の法4条1項8号該当性の基準時は平成14年10月22日(出願時)及び平成16年2月18日(登録査定時)の双方であるところ,前記2で認定したとおり,Aの死亡後はAの生前に極真会館の支部長であった者が複数の派閥に分かれ,合従連衡しながらそれぞれAの「極真空手」ないし「極真会館」を承継する団体であることを標榜して「極真」の語を含む標章を使用する状況にあることからすれば,本件商標登録の8号該当性が認められるためには,Aの生前における「極真」の上記著名性が,上記Aの死亡後の分裂及びその後の時間の経過に伴う分裂状態の定着という状況を踏まえてもなお,原告自身又は原告が運営する「極真会館」を指すものとして存続するなど,上記各基準時において,原告自身又は原告が運営する「極真会館」自体が8号にいう「著名」性を有するものであると認められる必要がある。その意味では,Aが死亡した平成6年4月26日当時に係る前記アのような事情は,本件商標登録の8号該当性を検討する上での一事情となることがあるとしても,出願時又は登録査定時まで8~10年が経過し,その間における前記のような極真関連各派閥の離合集散状況のある本件において,直ちに8号該当性が肯定又は否定されるべきものではない。

ウ しかるに,審決は,本件商標登録の法4条1項8号該当性を判断するに当たり,8号における「他人」の特定に関して,本件商標の商標権者である被告はAが創設した極真空手及びそれを運営した極真会館と組織的・経済的に関係がある者であり,極真会館を離脱後も継続して極真空手に携わっている者であるから8号の「他人」に当たらないとするだけで(審決19頁14行~18行),上記の点について審理判断しておらず,審理不尽といわなければならないし,審決の上記判断についても,前記2に認定した極真関連各派閥の離合集散状況に鑑みれば,被告は,原告自身又は原告が運営する「極真会館」という団体とは別個の主体であることは明らかであるから,審決が述べる上記事情があったとしても,被告は8号にいう「他人」というほかなく,是認することができない。

エ なお審決は「Aが死亡したことにより,A及び同人から認可を受けた支部長らによる永年の努力により醸成された信用等が化体されている極真関連商標に係る権利は,極真会館に所属する支部長ら構成員全体に,共有的ないし総有的に帰属し,支部長ら構成員は,その利益を享受し得るべきものというを相当とする。」(審決17頁22行~26行)とするところ,同判断は,法4条1項8号の無効事由との関係では,極真会館に所属する支部長ら構成員にはAの生前における極真会館を指称する「極真」との著名な略称を使用する権原があることをいうものと解する余地がある。

しかし,構成員たる被告が極真関連標章を使用する利益を享受し得ることと自らの名において商標権を取得し得ることとは別のことであるのみならず,審決が認定するとおり,被告はAの死後「極真会館」(ただし,いわゆるB派)を離脱するに至っているのであるから,審決の論理を前提にしても,上記権原が被告に帰属することはないといわざるを得ない。

オ また審決は,少なくともAの生前は「極真」の語が一般にAが代表者として運営する団体・組織である「極真会館」を表す標章として広く知られていたとの理解を前提としつつ,本件商標は「極真館」の文字全体をもって一体不可分の語と認識されるから,法4条1項8号の「著名な略称を含む」ということはできないとする(審決19頁26行~28行。)

しかし,前記(1)のとおり,法4条1項8号の趣旨は,人の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護するものであり,同号の文言が「著名な略称を含む」とするのみで使用態様に何ら留保を設けていないことからすると,8号の「著名な略称を含む」に該当するといえるためには,著名な略称が商標の構成中に他に紛れなく識別し得るものとして含まれていれば足りるのである。そして本件商標は「空手道極真館」を標準文字で書して成るもので「空手道」「館」は一般名詞に近い存在であり,その構成において「極真」の語を紛れなく識別可能であるから,原則として著名な略称を含むものということができ,審決の上記判断は法4条1項8号における「著名な略称を含む」との要件の解釈を誤るものというべきである。審判官は,前記のとおり,原告自身又は原告が運営する「極真会館」という団体が,前記各基準時において,上記Aの死亡後の状況を踏まえてもなお8号にいう「著名」性を有するものであるかについて審理し,その点を考慮した上で「著名な略称を含む」といえるかについて審理判断すべきである。

4 法4条1項10号,15号及び19号該当性について

法4条1項10号,15号及び19号は,基準時である出願時及び登録査定時の双方においてある商標が需要者の間に広く認識されている場合などに,当該商標が出所を表示する他人の業務との関係で商品又は役務の混同の防止を図ろうとする趣旨の規定であり,基準時である出願時及び登録査定時の双方において当該商標が表示する出所の主体(すなわち「他人」)を特定すべき点において,前記3(1)に説示したところと同趣旨が妥当する。そうすると,上記各規定該当性を判断する上では,前記3(3)に説示したとおり,Aの生前における「極真会館」に周知性が認められるだけでは足りず,原告自身又は原告が運営する「極真会館」という団体の上記各基準時における周知性やそれらの業務に係る商標と本件商標が類似するかどうかなどを審理判断しなければならない。しかるに,審決はこれらの点について審理判断をしておらず,審理不尽といわなければならない。

5 結論

以上によれば,審判手続においてなされた資料に基づいて本件商標登録が法4条1項8号,10号,15号及び19号に違反しないとした審決の判断はいずれも誤りといわざるを得ず,原告の取消事由に関する主張は上記の限度において理由があるから,審決は違法として取消しを免れない。

審判官は,平成14年10月22日に出願され平成16年2月18日に登録査定された本件商標登録が法4条1項8号,10号,15号又は19号の規定に違反するかにつき,A死亡後8~10年経過までの状況の変化,とりわけ前記2で述べたような極真関連各派閥の離合集散状況とその標章使用状況を踏まえ「極真」の略称が分裂後に原告が承継したとする「極真会館」との関係でなお8号の「著名な略称」に該当するか等について,更に審理を尽くすべきである。

よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

閉じる