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平成20年(行ケ)第10482号審決取消請求事件


主文

1 特許庁が取消2007-301470号事件について,平成20年11月11日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文1項と同旨

第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1の原告の本件商標に係る商標登録のうち,指定商品「米,脱穀済み大麦,食用粉類,強化米」についての「不使用」を理由とする当該登録の取消しを求める被告の下記2の本件審判請求を認めた特許庁の別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1 本件商標

商標登録番号:第3080538号

商標の構成:「忠臣蔵」の文字を縦書きして成る。

指定商品:第30類「米,脱穀済み大麦,食用粉類,穀物の加工品」

設定登録日:平成7年10月31日

存続期間の更新登録日:平成17年10月25日

2 本件審判請求

審判請求日:平成19年11月15日(甲1)

審判請求登録日:平成19年11月29日(甲6の2)

審決日:平成20年11月11日

本件審決の結論:指定商品中「米,脱穀済み大麦,食用粉類,強化米」については,その登録を取り消す。

審決謄本送達日:平成20年11月21日

3 本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,要するに,本件商標がその指定商品中の「米」について,被請求人,すなわち,原告によって使用されていたものと認めることができない,というものである。

4 取消事由

原告の本件商標の使用の事実を認めることができないとした判断の誤り

第3 当事者の主張

〔原告の主張〕

原告は,平成7年ころから現在に至るまで,「セラノ苑」又は「セラの苑」との名称で本件商標の指定商品である「米」の袋に本件商標を表示したラベルを貼付して顧客に納品し,米を販売してきたのであり,そのような利用も商標法(以下「法」という。)50条にいう「使用」に該当するというべきであるから,原告の本件商標の使用の事実を認めることができないとした本件審決の判断は誤りである。

〔被告の主張〕

原告主張のラベルの貼付によっては,同ラベルの下には,「純情米いわて」の文字,楕円形の緑色の2つの図形からなる株式会社純情米いわての登録商標(第4619661号)が看取されるので,1つの商品である「米」の包装に,指定商品を「米」とする異なる2つの商標が並列的に表示されている状態となっているから,商品の出所が原告(セラの苑)であるのか,株式会社純情米いわてであるのか定かでなく,そのような利用は法50条にいう「使用」に該当しないというべきであるから,本件審決の判断に誤りはない。

当裁判所の判断

1 原告の本件商標の利用の有無とその態様

原告は,法50条にいう本件商標の使用の前提として,本件審判請求の登録前3年以内(平成16年11月29日から同19年11月28日までの間)に本件商標を表示したラベルを本件商標の指定商品である「米」の袋に貼付して利用していたと主張するので,まず,そのような利用の有無とその態様について検討する。

証拠(甲9,11,12,17~19,20の1~3,21,22の1~3,30,乙23,検甲1)によると,以下の事実が認められる。

(1) 原告による米の仕入れ

原告は,「セラの苑」の屋号で,少なくとも平成17年9月から同20年12月までの間,株式会社純情米いわてが販売する「無洗米ひとめぼれ(5kg)」(以下「本件米」という。)を継続的に購入しており(甲11,21,30),平成17年9月から同19年10月までの購入量は合計108袋であった(甲21)。

(2) 原告による米の販売

原告は,平成17年4月ころから現在に至るまでの間,顧客からの電話や葉書などによる注文を受け,上記(1)のとおり購入した本件米を顧客に販売してきたが,その配送方法については,原告が株式会社純情米いわてに発注し,同社が顧客に対して本件米を配送する方法(甲12,18,22の1~3)と,上記(1)のとおり原告が同社から購入した本件米を原告自身が顧客に配送する方法とがあった(甲18,19)。上記注文において,顧客は,原告により配送される本件米を「忠臣蔵」の名称を記載する方法,又は,「忠臣蔵」及び「ひとめぼれ(ヒトメボレ)」の名称を並記する方法により特定している(甲20の1~3)。

(3) 本件米の仕入れ時の包装

上記(1)のとおり原告が株式会社純情米いわてから購入した本件米は,ポリエチレン製の米袋(以下「本件袋」という。)に入れられているが,本件袋の表面には,その中央に「無洗米」の文字が大きく横書きで印刷され,その下に「岩手県産ひとめぼれ」との文字,上部中央やや右寄りに株式会社純情米いわてを商標権者とする登録商標である図形商標,その左に縦書きで「とがずに炊ける」との文字,左右に小さく「無洗米岩手県産ひとめぼれ」の文字が印刷され,最下部には株式会社純情米いわての登録商標と「純情米いわて無洗米岩手県産ひとめぼれ」の文字が比較的小さくまとまった形で印刷されている(検甲1)。

(4) 本件米の販売時の包装

他方,上記(2)のとおり原告が本件米を顧客に配送する際には,株式会社純情米いわてから仕入れた際の本件袋の表面に以下のようなラベル(以下「本件ラベル」という。)を貼付した上で宅配便により配送している(甲18,19,検甲1)。「中央やや上寄りの囲みの中に大きく「忠臣蔵」と,同囲み内の左下隅に小さく「雪ノ両国橋」とそれぞれ記載され,同囲み外の上部に「登録商標」の文字,同下部には「安心の美味」,「不許複製」及び「セラノ苑ノ米」の文字が印刷され,最下部に「セラノ苑」との文字並びに電話番号及び住所が記載されているラベル」なお,本件袋が縦35ないし40cm,横約30cmの大きさであるのに対し,本件ラベルは縦11cm弱,横7cm弱程度の大きさであるため,本件袋へ本件ラベルを貼付した後も,本件米が株式会社純情米いわての販売に係る「無洗米岩手県産ひとめぼれ」であることは容易に認識することができる(検甲1)。

2 原告の法50条にいう本件商標の使用の有無

(1) 法50条にいう「使用」の意義

法50条1項は「継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品…についての登録商標…の使用をしていないときは,何人も,その指定商品…に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定するところ,法2条3項は,ここにいう「使用」とは,同項各号が掲げる行為であると規定し,同項1号は「商品又は商品の包装に標章を付する行為」を,同項2号は「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為」を例示している。

(2) 原告による本件商標の使用の有無

ア 原告は,上記1で認定した事実によると,本件米を株式会社純情米いわてから購入し,これを顧客に販売していたものであり,本件米は,株式会社純情米いわてから仕入れたものであっても,これをいわば「転売」していた原告の「商品」であるということもできるところ,本件袋は本件米の「包装」であって,本件袋に「忠臣蔵」の文字,すなわち,本件商標を表示した本件ラベルを貼付する行為は,本件米の包装に「標章」を付する行為に当たるということができる。

そして,また,原告は,証拠(甲20の1~3)によると,本件審判請求登録日の前1ないし2か月の間にも顧客から葉書による注文を受けていることが認められるほか,上記1(1)のとおり,本件審判請求登録日前の約3年間における原告による本件米の購入量が108袋であったことも考慮すると,原告は,本件審判請求登録日前3年以内において,指定商品である「米」の包装に標章を付するとともに,当該「米」の包装に標章を付したものを譲渡していたものと推認することができる。

イ この点に関し,被告は,原告が本件袋へ本件ラベルを貼付することにより,1つの商品である「本件米」の包装に,いずれも指定商品を「米」とする異なる2つの商標が並列的に表示される状態となっているから,商品の出所が原告(セラの苑)であるのか,株式会社純情米いわてであるのか定かではなく,このような場合には,法2条3項1号ないし3号に規定された「行為」に該当しないと主張するが,上記1(3)及び(4)のとおり,本件袋に本件ラベルが貼付されることによって,1つの商品の包装に2つの商標が表示される結果となっていることは被告が指摘するとおりであるとしても,株式会社純情米いわてが販売した本件米の流通過程において,第三者が何らかの価値を付加するなどして再販売する場合に,当該再販業者がその再販売する本件米に第三者の商標を付して再販業者としての出所を明らかにし,その商標に化体した信用を本件米に与えることができるのは当然ともいうべきものであって,本件米の出所を混同させるとか,誤認させるとかいった批判は当てはまらないというべきである。現に,上記1(2)で認定したところからしても,少なくとも,原告自身が本件米を顧客に配送する場合(再販売の場合)においては,顧客はそのような本件米を「忠臣蔵」の名称によって識別しており,かつ,同(4)のとおりの本件袋へ本件ラベルが貼付されている状況からすると,顧客が販売業者としての株式会社純情米いわてと再販売者としての原告を混同するおそれがないことも明らかである。そうすると,法2条3項に規定された「行為」に該当するか否かを判断する際に,出所の混同ないし誤認の有無といった見地からも併せて検討する必要があると仮定しても,本件においては,上記いずれの観点からも,被告の主張を採用することはできないというべきである。

なお,本件審決は,甲12(審判段階の「乙第6号証」)について,宅配業者が荷物を実際に引き受けたことを示すものとは認め難いとしているが,本訴において提出された甲22の1ないし3によると,これらの伝票に係る商品が宅配業者によって配送された事実を認めることができる。ただし,甲22の1ないし3によると,上記各配送は,上記1(1)で認定した配送方法のうち,原告が株式会社純情米いわてに発注し,同社が顧客に対して本件米を配送する方法によるものであるところ,その配送方法を利用する場合においては,原告が本件袋に本件ラベルを貼付する機会はないと考えられるので,甲12及び同22の1ないし3は,原告が株式会社純情米いわてから仕入れた本件米を自ら顧客に販売する際に本件ラベルを貼付した事実をそもそも証明し得る証拠ではない。

ウ 上記ア及びイによると,本件袋に本件ラベルを貼付して本件米を販売した原告の行為は,法2条3項1・2号に例示された商標の使用に該当する行為であるから,原告は,本件審判請求の登録前3年以内に,本件商標を本件審判請求に係る指定商品「米」に使用したものと認めることができる。

なお,原告は,本件商標を名刺に印刷し,これを使用したことをもって,商標法50条1項の使用の事実が認められるとも主張するが,本件においては,上記のとおり,商品の包装に標章を付する行為としての本件商標の使用を認定することができるから,原告の上記主張について検討する必要はない。

3 被告の主張とその当否

被告は,以上の認定判断に関係する下記(1)ないし(5)の主張をするが,いずれも失当である。

(1) 原告の代理人の交代

被告は,原告が,本件商標に係る商標登録出願から,本件審判請求,本件審決を経て本訴提起に至る過程において,代理人弁理士を繰り返し変更していることを指摘するが,このことが本件商標使用の事実の認定に影響を与えるものでないことはいうまでもないところである。

(2) 不使用取消制度の潜脱

被告は,本件におけるように「純情米いわて」という第三者が販売している商品の包装等に登録商標と同一又は類似する標章を貼付することにより不使用を免れるのであれば,本件ラベルさえ用意しておけば,いかようにも不使用取消審判請求に対応することが可能となってしまうのであり,不使用取消審判制度の趣旨の潜脱となると主張する。

しかしながら,本件においては,原告が本件米を販売し,その販売に際して本件米が包装された本件袋に本件ラベルを貼付しているところ,当該行為が本件商標の使用と評価されるのであるから,商品販売の実態が存在しない場合を前提とする被告の主張は,その前提を欠き,失当である。

(3) 本件商標に係る出願当初の指定商品

被告は,原告が本件商標に係る商標登録出願において指定商品を当初「米,脱穀済みの大麦,食用粉類,穀物の加工品,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ」としていたことを指摘するが,この指摘が指定商品「米」についての本件商標の使用の事実の認定に少しも影響を与えるものでないことは明らかである。

(4) 本件商標以外の原告の商標登録

被告は,原告が本件商標以外にも6件の商標登録を得ており,うち1件(天守閣)については本訴において本件米を購入したとされるAであること,また別の1件の「ポッポヤ鉄道員」は浅田次郎氏の小説の表題であることを指摘するが,本件米の購入者が原告と関係のある人物であるからといって,原告による本件米の販売の事実を認定することができないというものではなく,また,本件商標とは別の商標の登録に何らかの問題があったとしても,それのみによって本件商標使用の事実の認定が具体的な影響を受けるものではなく,被告の主張は,この点においても,失当といわざるを得ない。

(5) 各種書証の作成年月日

被告は,本判決が事実認定の根拠とした証拠の一部(前記甲11,12,18,19,21,22の1~3)について,本件審判請求後又は本訴提起後に作成さていることを問題とするが,これらはいずれも本件審判請求があったことを前提として,過去の事実を証明するために作成されたものであるから,これらの証拠に基づいて事実を認定すること自体に問題があるものではない。

なお,被告は,甲20の1ないし3について,原告が証拠説明書に記載した作成日が誤りであったことを指摘するが,これらの証拠は葉書であるところ,これらの葉書が発送された日はその消印に基づいて認定されることになるのであり,証拠説明書の誤記は本件商標の使用の事実の認定を左右するものではないから,被告の主張は失当である。

(6) その余の主張

被告は,上記のほかにも,個別の書証の評価に関してるる主張するが,上記1において説示したところに照らし,本件商標の使用の事実の認定を覆すに足りるものではなく,採用の限りでない。

4 結論

以上の次第であるから,原告が本件商標を使用していた事実は認められるので,その事実を認めることができないとして原告の商標登録を取り消した本件審決は誤りであって,取り消されるべきものである。

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