知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成20年(行ケ)第10326号審決取消請求事件


主文

特許庁が取消2007-301206号事件について平成20年7月23日にした審決を取り消す。

訴訟費用は,被告の負担とする。

事実及び理由

第1 原告の求めた裁判

主文と同旨の判決

第2 事案の概要

本件は,原告が,商標法51条1項の規定に基づき被告の商標登録の取消審判を請求したところ,特許庁が同請求を不成立とする審決をしたため,その取消しを求める事案である。

1 特許庁における手続の経緯

(1)被告は,別紙商標等目録記載1の商標(以下「本件商標」といい,その商標登録を「本件商標登録」という。)の商標権者である(甲1)。

(2)原告は,平成19年9月20日,商標法51条1項の規定に基づき,本件商標登録について取消審判の請求をした(取消2007-301206号事件として係属)ところ,特許庁は,平成20年7月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決をし,同年8月4日,その謄本を原告に送達した。

2 審決の要点

審決は,①被告が使用する商標は,別紙商標等目録記載2の商標(以下「被告使用商標」(審決における「被請求人使用商標」である。)という。)であって,被告が同目録記載3の標章(以下「原告主張標章」という。)を商標として使用しているものとは認められないとした上,②被告使用商標は,商標法51条1項に規定する「登録商標に類似する商標」とはいえず,また,③被告使用商標は,原告が使用する別紙商標等目録記載4の商標(以下「原告使用商標」(審決における「請求人使用商標」である。)という。)及びその図形部分と類似しないから,被告使用商標をその指定役務について使用しても,役務の質の誤認又は他人の業務に係る役務との混同が生じるおそれがあるとはいえず,さらに,④被告には故意が認められないとして,被告による被告使用商標の使用は,商標法51条1項に規定する要件を欠くから,本件商標登録を取り消すことはできないとした。

審決の理由中,上記判断に係る部分は,以下のとおりである(なお,書証については,初出の場合のみ,審判請求手続における書証番号と本訴におけるそれとを併記し,2回目以降は,本訴におけるそれのみを記載した。)。

(1)商標法51条1項は,「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定しているところ,被請求人(商標権者)による被請求人使用商標の使用が上記規定に該当するかについて検討する。

(2)被請求人使用商標等について

審判甲18・本訴甲18(被請求人のホームページ)及び審判乙7・本訴甲32(東京ひとり暮らしブック/2002年度版)によれば,被請求人使用商標は,別紙商標等目録記載2のとおり,図形と文字との組み合わせよりなるものであるところ,上段の図形部分は,左側に,緑地の直角三角形を直角の部分が右下になるように配し,右側には,青地の直角三角形を直角の部分が左上になるように配し,これらの直角三角形の間の中央に,赤地の円図形を左右の直角三角形に接するように配してなるものである。また,該図形の下には,「NANYO」の文字を黒色で横書きしてなるものである。

そして,被請求人使用商標は,その構成中の図形部分と「NANYO」の文字部分は,外観上まとまりよく一体的に表されているばかりでなく,図形部分は,下段の「NANYO」の文字部分が存在することにより,該文字中の語頭の「N」を図案化したものと理解されるとみるのが相当であるから,どちらか一方が特に強く印象づけられるものではなく,不可分一体のものとして看取されるというのが相当である。

また,被請求人使用商標は,平成14年(2002年)ころには,その業務に係る「建物の貸借の代理又は媒介」について使用していたものと認められる(本訴甲32。本訴甲18によれば,平成19年(2007年)8月ころにも使用していたことが認められる。)。

なお,請求人は,審判甲25・本訴甲25を提出し,被請求人は,色彩を施した図形部分のみ(判決注:原告主張標章である。)を商標として使用している旨主張するが,本訴甲25にきわめて小さく表示された図形部分は,「スタッフ日誌」の表題のある記事において,項目ごとの目印に使用されているものであり,これらが商標として使用されているものとはにわかには首肯し難いところであるから,上記請求人の主張は採用することができない。

(3)本件商標と被請求人使用商標の類否

本件商標は,別紙商標等目録記載1のとおり,図形と文字との組み合わせよりなるものであるところ,その構成中の図形部分はすべて黒く塗りつぶされており,この点において,色彩を有する被請求人使用商標の図形部分と異なっており,他の構成要素はすべて同一とするものである。

ところで,商標法70条3項には,「第五十一条第一項における『登録商標に類似する商標』には,その登録商標に類似する商標であつて,色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含まないものとする。」と規定されている。

そうすると,本件商標と被請求人使用商標は,その構成中の図形部分が黒色であるか色彩を有するものであるかの差異を有するのみであって,他の構成要素をすべて同一とするものであるから,被請求人使用商標は,色彩を本件商標と同一にするものとすれば本件商標と同一の商標であると認められるものである。

したがって,被請求人使用商標は,同法51条1項に規定する「登録商標に類似する商標」ということはできない。

(4)請求人の使用に係る商標等について

審判甲3・本訴甲3ないし審判甲9・本訴甲9(判決注:枝番号を含む。)によれば,請求人及びそのグループ会社が使用する商標は,別紙商標等目録記載4のとおりの構成よりなる商標(請求人使用商標)と認められる。そして,その構成中の「HASEKO」の文字部分は,請求人の商号の略称である「長谷工」の英文字表記と理解されるものであり,不動産及び建築の分野の取引者及び需要者の間に広く認識されているものと認めることができる。また,請求人使用商標中の図形部分は,「HASEKO」の文字部分の語頭の「H」を図案化したものと理解されるものであるから,「HASEKO」の文字部分と図形部分とは,観念及び外観上一体のものとして把握,認識されるものとみるのが相当である。

一方,請求人使用商標中の図形部分が請求人の業務に係る役務を表示するものとして,単独で使用されているという事実を明らかにする証拠の提出はない。

そうすると,請求人使用商標中の図形部分は,請求人の提出した証拠を見る限りにおいては,「HASEKO」の文字部分と常に一体的に使用されているものであり,著名な「HASEKO」の文字部分と共に使用されている場合においては,請求人の業務を表示するものと認識されるとしても,「HASEKO」の文字部分と切り離し,仮にそれのみで使用された場合は,ありふれた長方形と円と三角形を組み合わせた図形に色彩を施したものであることも相俟って,これが請求人の業務を表示する商標として,その取引者及び需要者に認識されていたかは大いに疑問が残るところである。

したがって,請求人使用商標中の図形部分は,被請求人使用商標が使用されていた平成14年はもとより,現在においても,それ自体独立して,請求人の業務を表示するものとして,取引者及び需要者の間に広く知られ周知性を獲得するに至っていたものと認めることは困難であるといわざるを得ず,他にこれを認めるに足る的確な証拠は見出せない。

(5)役務の出所の混同及び質の誤認を生ずるおそれ等について

前記(4)認定のとおり,請求人使用商標中の図形部分は,請求人の業務を表示するものとして,取引者及び需要者の間に広く知られていたものと認めることができない。

加えて,前記(2)認定のとおり,被請求人使用商標は,その構成中の図形部分と「NANYO」の文字部分とが不可分一体のものとして看取され,図形部分のみが独立して把握,認識されるものではないから,請求人使用商標はもとより,請求人使用商標中の図形部分とも,外観において明らかに相違するものである。また,称呼の面からみても,「ナンヨー」の称呼を生ずる被請求人使用商標と「ハセコー」の称呼が生ずる請求人使用商標とは称呼上類似するところがないし,請求人使用商標中の図形部分は特定の称呼が生じないから,被請求人使用商標とは称呼上比較することができない。さらに,いずれの商標も特定の観念を有しないものであるから,観念上比較することができない。

したがって,被請求人使用商標は,請求人使用商標及びその図形部分とは,非類似の商標というべきである。

以上によれば,被請求人使用商標を「建物の貸借の代理又は媒介」等を含むその指定役務に使用しても,これに接する取引者及び需要者が,該役務を請求人の業務に係る役務であるかのように,役務の出所について混同を生ずるおそれがあると認めることはできないのみならず,請求人と何らかの関係のある者の業務に係る役務であると誤信することもないから,役務の質の誤認を生ずるおそれがあるということもできない。

(6)故意について

請求人は,被請求人に対して被請求人使用商標の使用の中止を申し入れたが,本件商標が登録されたことを奇貨として,被請求人は今もなお被請求人使用商標の使用を継続しているから,被請求人が出所の混同について故意であった旨主張する。

しかし,請求人使用商標中の図形部分が周知性を獲得したものと認めることができないこと及び被請求人使用商標が請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれ等がないことは前記認定のとおりであり,被請求人使用商標は,商標の使用にあたって,本件商標のデザイン的な変更の範囲内にとどまるものとみるのが相当である。

したがって,被請求人が,請求人の業務に係る役務と混同させる目的をもって故意に被請求人使用商標の使用をしていたものと認めることはできない。

(7)審決の「むすび」

以上のとおり,被請求人使用商標は,本件商標と類似するものでなく,被請求人使用商標の使用が,取引者,需要者をして,役務の質の誤認又は他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあるとはいえず,また,故意に,被請求人の業務に係る「建物の貸借の代理又は媒介」に使用をしていたものとも認めることはできない。

したがって,被請求人による被請求人使用商標の使用は,商標法51条1項の要件を欠くというべきであるから,本件商標登録は,取り消すことができない。

第3 審決取消事由の要点

審決は,被告が使用する商標についての認定,本件商標と被告使用商標との類否判断(商標法70条3項の規定の適用についての判断),役務の質の誤認又は他人の業務に係る役務との混同を生ずるか否かについての判断及び被告の故意についての認定をいずれも誤った結果,被告による被告使用商標の使用が商標法51条1項に規定する要件を欠くと判断したものであるから,取り消されるべきである。

1 取消事由1(被告が使用する商標についての認定の誤り)

審決は,「甲25にきわめて小さく表示された図形部分は,『スタッフ日誌』の表題のある記事において,項目ごとの目印に使用されているものであり,これらが商標として使用されているものとはにわかには首肯し難い」と判断した。

しかしながら,被告のホームページ(甲25)には,「スタッフ日誌」の欄の各記事の冒頭において原告主張標章が繰り返し表示されているところ,その記事内容は,不動産物件に係る情報を提供したり,不動産物件の取引条件を示したりするものであり,そのような記事に原告主張標章を付してホームページに掲載することは,商標法2条3項8号に掲げる「役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当するから,被告は,原告主張標章を商標として使用しているものである。

よって,審決の上記判断(認定)は誤りである。

2 取消事由2(本件商標と被告使用商標との類否判断(商標法70条3項の規定の適用についての判断)の誤り)

(1)審決は,商標法70条3項の規定を適用して,「被請求人使用商標は,同法51条1項に規定する『登録商標に類似する商標』ということはできない」と判断した。

(2)ア しかしながら,商標法70条3項の規定は,商標の使用においては,少なくとも多少の色彩の相違は同一のものとして取り扱われているのが実情であり,もし色彩が少しでも違うことによりそれらの商標が相互に同一でないものとして取り扱われるとすると,商標法50条1項の規定の適用上不都合が生じるし,また,商品又は役務ごとに色違いの商標を付して使用する場合にすべての色について商標登録を受けなければならないなどの不都合が生じるという点にかんがみ,色違いの商標については,登録商標と同一のものとみなし,これに類似するものとはみなさないとするものである。

他方,同法51条1項の規定の趣旨は,商標権者による商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し,かつ,そのような場合に当該商標権者に制裁を科すという点にある。

イ これを被告使用商標についてみるに,本件商標の図形部分に色彩を付し,被告使用商標として使用することは,一般的な取引通念に照らして許容されるべき範疇(通常生じ得る「多少の色彩の相違」や「商品又は役務ごとに色違いの商標を付して使用する場合」)のものとはいえず,むしろ,黒色のみのものとして商標登録を受けた本件商標を,原告及びそのグループ会社が共通して使用する原告使用商標(ハウスマーク)に近似する方向に改変して使用する行為であって,商標法70条3項の規定が救済を意図する使用の態様とは著しく異なるものである。

また,本件商標が,取引者及び需要者に広く認識されている原告使用商標に近付ける態様で使用されれば,同商標に寄せられていた取引者及び需要者の信用が損なわれ,一般公衆の利益が害される事態に陥りかねない。

以上に加え,原・被告間の下記交渉経緯(以下「本件交渉経緯」という。)にも照らせば,被告使用商標は,商標法70条3項の規定の適用を受けるものではなく,したがって,同法51条1項に規定する「登録商標に類似する商標」に該当すると解すべきである。

(ア)原告は,被告に対し,平成18年7月12日,被告使用商標の使用差止めを求める文書(甲19)を送付したが,被告から応答がないため,更に同年9月4日,同旨の内容証明郵便(甲20)を送付した。

(イ)数日後,被告は,原告に対し,「変更案を考えるので,できあがったら確認してほしい」旨述べた。

(ウ)被告は,同月14日,被告使用商標をモノクロ化した本件商標について,商標登録出願をした。

(エ)被告は,原告に対し,平成19年3月8日,ロゴマークのラフ案(甲21)をファクシミリ送信した上,「第一と書かれ丸で囲まれた案で,長谷工の承諾をもらいたい」旨述べた。原告が「仕方なく承諾する」と応じたところ,被告は,「すぐにすべて変更するのは難しい。とりあえずは,ホームページ等から変更していく。既に印刷しているものなどは,使い切ったところから切り替える」旨述べた。

(オ)しかしながら,被告は,原告に対し,同年4月19日,「今般,登録査定を受領した。本件商標を使っていこうと思う」旨述べた。

ウ よって,審決の上記判断は誤りである。

3 取消事由3(役務の質の誤認又は他人の業務に係る役務との混同を生ずるか否かについての判断の誤り)

(1)原告使用商標について

審決は,「請求人使用商標中の図形部分は,・・・それ自体独立して,請求人の業務を表示するものとして,取引者及び需要者の間に広く知られ周知性を獲得するに至っていたものと認めることは困難である」,「『HASEKO』の文字部分と図形部分とは,観念及び外観上一体のものとして把握,認識されるものとみるのが相当である」とそれぞれ判断したが,以下のとおり,これらの判断は誤りである。

ア 原告使用商標の文字部分と図形部分とは,観念及び外観上一体のものとして把握,認識されるものであり(審決も,そのように判断している。),同商標は,その一体的構成において長年にわたり様々な場面で幅広く使用されているのである(甲3ないし9参照)から,同商標に接した取引者及び需要者は,その文字部分の著名性とも相まって,その図形部分が著名な「長谷工」を示すものとして認識し,同商標にしばしば接することによって,その図形部分のみをもっても,これが「長谷工」を示すものとして認知するに至っている。

イ また,原告使用商標の構成態様をみても,相対的に大きく目立つ図形部分(より大きく書かれ,色彩が付されている。)と,その下に小さく書かれた文字部分というバランスを考慮すれば,結合商標の態様ではもちろんのこと,より視覚的,感覚的に認識される図形部分も,取引者及び需要者の脳裏に焼き付き,周知性を獲得するに至っている。とりわけ,遠景から原告使用商標を視認した場合(甲5参照),看者が着目するのは,より大きく記された文字部分である。

ウ 仮に,原告使用商標が文字部分と図形部分との結合商標としてのみ周知であったとしても,それは,「相対的に大きな,単純な幾何学図形に彩色を施した図形と,その下部に欧文字が小さくモノクロで書された結合商標」として,その全体的な構成が,取引者及び需要者に広く認識されるに至っているものである。また,原告使用商標の図形部分と文字部分について,両者が重なり合ったり,連続したりしているといった構成上一体的に把握すべき理由はない。

(2)被告使用商標について

審決は,被告使用商標の図形部分と文字部分につき,「どちらか一方が特に強く印象づけられるものではなく,不可分一体のものとして看取される」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。

ア 被告使用商標の図形部分の中央の円図形と両翼の直角三角形との接点は,縦棒の中点であり,また,「N」の斜線(「\」)を真円形に図案化し,塗りつぶすことにより,「N」の特徴である斜線が消え去っているのであるから,当該図形部分をもって,即座に「N」を表したものと認識することはできない。

イ 被告使用商標は,その上段に大きく図形が,その下段に文字がそれぞれ配されており,両者が重なり合ったり,連続したりしているといった構成上一体的に把握すべき理由はない。

ウ なお,被告使用商標の図形部分が何を図案化したものであるかについては,役務の出所の混同等が生じるか否かの判断に当たって考慮されるべき本質的な問題ではない(両者が視覚的に近似している印象を与える以上,出所混同等のおそれはあると判断されるべきである。)。

(3)役務の出所の混同等について

審決は,「被請求人使用商標は,請求人使用商標及びその図形部分とは,非類似の商標というべきである。以上によれば,被請求人使用商標を・・・その指定役務に使用しても,・・・役務の出所について混同を生ずるおそれがあると認めることはできないのみならず,・・・役務の質の誤認を生ずるおそれがあるということもできない」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。

ア 原告使用商標の図形部分の周知性については,上記(1)のとおりである。ただし,原告使用商標がどのような形で周知であるかということと,同商標と被告使用商標との類否判断に当たり原告使用商標が一体的にのみ看取されるかということとは,本質的に関係のないことである。とりわけ,図形商標と文字商標との結合商標にあっては,単に文字商標部分の構成(特に称呼)が相違することをもって非類似との結論を導くことは,類否判断における一応の基準としての外観,称呼及び観念の各要素における判断を捨象するものであり,相当でない。

イ 上記(1)及び(2)のとおり,本件においては,原告使用商標及び被告使用商標のいずれについても,その構成全体をもってのみ外観の対比をすべきとする事情はない。審決は,両商標とも,各図形部分が各文字部分の語頭のアルファベットを図案化したものであるから不可分一体にのみ看取されると判断したが,一般的な取引通念に照らし,相当でない。仮に,両商標の各図形部分が各文字部分の語頭のアルファベットを図案化したものであるとしても,そのことは,外観上の類否判断に当たり,図形部分と文字部分とを一体的に把握すべき理由とはならない(図形部分の外観上の特徴において似通っている点が多ければ,役務の出所の混同を招来することになる。)。

ウ 仮に,両商標の各図形部分と各文字部分とを不可分一体のものとして把握するとしても,図形部分と文字部分の位置,大きさ及びバランス,図形部分の構成が極めて単純な幾何学図形3個の組合せであること,文字部分があえてアルファベットで表記されていることなど,両商標は,外観上の多くの共通点を有している。以上に加え,両商標の色彩が略同一であることも併せ考慮すると,両商標は,極めて似通った印象を与えるものであるといえる。

そして,原告の周知性並びに原告及びそのグループ会社が原告使用商標を使用して本件商標の指定役務である「建物の貸借の代理又は媒介」の役務を現に提供していることにも照らせば,被告使用商標を使用することには,役務の出所の混同を生じさせる具体的なおそれがあるというべきである。

エ なお,原告使用商標の図形部分は登録商標である(甲10ないし12)ところ,本件商標登録は,商標法4条1項11号の規定に違反してされたものである。また,本件商標登録は,同項15号の規定に違反してされたものである。

4 取消事由4(被告の故意についての認定の誤り)

審決は,「被請求人が,請求人の業務に係る役務と混同させる目的をもって故意に被請求人使用商標の使用をしていたものと認めることはできない」と判断した。

しかしながら,本件交渉経緯に照らせば,被告は,原告使用商標及びその図形部分が周知性を獲得するに至っており,被告使用商標を使用することが原・被告の役務の出所の混同を招来するおそれがあることを十分認識していたといえるから,審決の上記判断(認定)は誤りである。

第4 被告の反論の骨子

1 取消事由1(被告が使用する商標についての認定の誤り)に対して

原告主張標章は,甲25上の「スタッフ日誌」との表題のある記事において,項目ごとの極めて小さい目印に使用されているものであって,商標として使用されているものではないし,取引者及び需要者により商標として看取されるものではないから,甲25に原告主張標章が記載されていることをもって,商標法2条3項8号に掲げる「使用」に該当するとはいえない。

よって,これと同旨の審決の判断(認定)に誤りはない。

2 取消事由2(本件商標と被告使用商標との類否判断(商標法70条3項の規定の適用についての判断)の誤り)に対して

(1)商標法70条3項の規定に照らせば,被告使用商標は,同法51条1項に規定する「登録商標に類似する商標」に該当しない。

なお,後記3(1)のとおり,原告使用商標は,原告が主張するような態様で周知であるとはいえないし,被告は,被告使用商標を,本件商標を原告使用商標に近付けた態様のものとして使用しているものではないから,被告使用商標が商標法70条3項の規定の適用を受けないとする理由はない。

(2)原告が主張する本件交渉経緯(前記第3の2(2)イ)中,同(イ)及び(エ)は否認する。

同(イ)については,被告は,原告に対し,「どうするか検討したい」旨述べたものであるし,同(エ)については,「第一と書かれ丸で囲まれた案を検討している。問題ないか確認をいただきたい」旨述べたものである。

(3)よって,商標法70条3項の規定を適用して,「被請求人使用商標は,同法51条1項に規定する『登録商標に類似する商標』ということはできない」とした審決の判断に誤りはない。

3 取消事由3(役務の質の誤認又は他人の業務に係る役務との混同を生ずるか否かについての判断の誤り)に対して

(1)原告使用商標について

ア 原告は,原告使用商標の図形部分のみを商標として使用したことはないのであるから,当該図形部分のみが周知でないことは明らかである。

イ また,商標の周知性は,構成態様における相対的な大小関係で決まるものではなく,取引者及び需要者が,当該商標の構成にかんがみ,外観,称呼及び観念から判断するものである。

原告使用商標は,外観上,図形部分と文字部分により成立し,それらを一体として観察すべきであるところ,上記アの点も考慮すれば,当該図形部分のみによっては,原告の役務であるとの出所を明示するものではない。また,同商標の図形部分には,称呼が存在せず,当該図形部分は,称呼上存在意義がない。さらに,同商標の図形部分からは,観念を生ずるものではない。

そうすると,原告使用商標が,「相対的に大きな,単純な幾何学図形に彩色を施した図形と,その下部に欧文字が小さくモノクロで書された結合商標」として,その全体的な構成が,取引者及び需要者に広く認識されるに至っているとの原告の主張は,根拠を欠くというべきである。

ウ よって,「請求人使用商標中の図形部分は,・・・それ自体独立して,請求人の業務を表示するものとして,取引者及び需要者の間に広く知られ周知性を獲得するに至っていたものと認めることは困難である」,「『HASEKO』の文字部分と図形部分とは,観念及び外観上一体のものとして把握,認識されるものとみるのが相当である」とした審決の各判断に誤りはない。

(2)被告使用商標について

被告使用商標は,上段の図形部分については,左側に緑地の直角三角形を直角の部分が右下になるように,右側に青地の直角三角形を直角の部分が左上になるように,これらの直角三角形の中央に赤地の円図形を左右の直角三角形に接するようにそれぞれ配し,当該図形部分の下に「NANYO」の文字を黒色で横書きして成るものであり,当該図形部分と文字部分は,外観上まとまりよく一体的に表されているのみならず,当該図形部分は,「NANYO」の語頭の「N」を図案化したものと理解されるとみるのが相当であるから,両者は,いずれか一方が特に強く印象付けられるものではなく,不可分一体のものとして看取されるものである。

よって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。

(3)役務の出所の混同等について

ア 原告使用商標がその図形部分のみをもって周知といえないことは,上記(1)のとおりである。また,被告使用商標の図形部分と文字部分とが不可分一体のものとして看取されることは,上記(2)のとおりである。

イ 被告使用商標と原告使用商標及びその図形部分とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても近似するところはなく,非類似であるから,被告使用商標を使用しても,役務の質の誤認又は原告の業務に係る役務との混同が生じるおそれはない。

ウ よって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。

4 取消事由4(被告の故意についての認定の誤り)に対して

上記2(2)のとおり,被告は,本件交渉経緯において,原告との間で,被告使用商標の構成を変更する旨合意した事実はないから,被告使用商標の使用により原・被告の役務の出所の混同を招来するおそれがあることを十分に認識していなかったものである。

よって,「被請求人が,請求人の業務に係る役務と混同させる目的をもって故意に被請求人使用商標の使用をしていたものと認めることはできない」とした審決の判断(認定)に誤りはない。

当裁判所の判断

1 取消事由1(被告が使用する商標についての認定の誤り)について

(1)被告のホームページを印刷したものと認められる甲25(及び甲18の1丁及び2丁)には,被告使用商標を冒頭に付した被告の商号の記載(2箇所),被告本店の郵便番号,住所,代表電話番号及びファクシミリ番号の記載,被告本店の地図及び写真,原告主張標章を白抜きにしたものを冒頭にそれぞれ付した「お部屋探し」,「おすすめ物件」,「店舗案内」,「オーナーの方へ」,「会社概要」及び「お問い合わせ」との記載(いずれも該当ページへのリンクであると認められる。)等に加え,下記の記載がある(■印は,原告主張標章が付されている部分である。また,いわゆる絵文字については「(絵文字)」と記載し,下記「スタッフ日誌」中の画像は省略する。)。

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スタッフ日誌

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■2007年1月皆様方本年も宜しくお願い致します。さて,年が明けまして3連休の状況ですが,今年は通常よりお部屋探しの方が多く毎日ご来店いただいております。通常より,ちょっと早い感じですね。お勧め物件を皆様ゲットされており,早起きは三文の得(絵文字)みたいな。仙川駅はホームから街並みを見ることができません。本日は,ちょっとだけご紹介いたします。仙川駅を降り改札口を出ると,駅前はロータリーになっており,バス・タクシーが頻繁にやってきます。さらに南に約50M先ですが,スターバックス・ユニクロ等が入っているビルが立ち並んでおります。さらに,その横には,QUEEN'S伊勢丹&ちょっとした公園があります。ここだけの話,BやCやDその他多くの方がいらっしゃっているようです。成城学園の住宅地が近いので,セレブな方も実は多いのです。昔ながらの商店街です。南北約200Mに渡りいろいろなお店が並んでいます。アーケードが付けば,吉祥寺と間違うほど(絵文字)かな??仙川はホームからは見えず,降りてみないと分からない街なので,一度是非遊びに来てください。次回も仙川のスポットをご紹介したいと思います。リポートA」また,甲18の3丁ないし5丁(「南陽ハウジング京王線仙川本店(賃貸情報館)おすすめアパート・マンション」と題するページ)には,被告が顧客に勧める賃貸建物(いずれも仙川駅徒歩4分ないし13分の物件)が,同6丁(「南陽ハウジング京王線仙川本店(賃貸情報館)店舗案内」と題するページ)には,被告本店の地図等が,同7丁(「京王線仙川駅で創業40年!株式会社南陽ハウジング会社概要」と題するページ)には,被告の会社概要及びあいさつ文がそれぞれ記載されている。

(2)上記(1)によれば,被告のホームページ(甲18及び25)は,全体として,被告の役務(本件商標に係る指定役務である「建物の貸借の代理又は媒介」)に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供するものであることは明らかである。

そして,「スタッフ日誌」と題する各記事を被告のホームページから独立したものとみるべき事情は窺われないし,その内容をみても,最寄り駅から遠方に所在する物件(そのような物件の借り手が比較的見つかり難いことは明らかである。)の借り手を誘引するものや,仙川駅(上記(1)によれば,被告が取り扱う物件は,仙川駅を最寄り駅とするものが多いものと認められる。)周辺の魅力を紹介するものであるから,「スタッフ日誌」と題する各記事を被告のホームページ上に掲載する行為も,被告の上記役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供するものであると評価し得るものである。

そうすると,そのような「スタッフ日誌」と題する各記事の冒頭に原告主張標章を付すことは,商標法2条3項8号に規定する「役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」,すなわち,標章の「使用」に該当することが明らかであり,また,そのような各記事の冒頭に付された原告主張標章は,同条1項2号に規定する「業として役務を提供・・・する者がその役務について使用をするもの」,すなわち,商標法上の「商標」に該当することが明らかであるから,被告は,少なくとも平成19年秋ころまで,原告主張標章を商標として使用していたものと認めるのが相当である。

(3)被告は,「原告主張標章は,『スタッフ日誌』と題する各記事において,項目ごとの極めて小さい目印に使用されているものであって,商標として使用されているものではないし,取引者及び需要者により商標として看取されるものではない」旨主張するが,表示の大小や被告主張の目印的機能があるとしても,これらの事情が原告主張標章の構成及び色彩を看取する何らの妨げとなるものではないし,また,前記に認定説示した使用態様は,商標法2条3項8号に規定する標章の「使用」の定義及び同条1項2号に規定する「商標」の定義に照らせば商標の使用に該当することは明らかであり,被告主張の上記事情は,「スタッフ日誌」と題する各記事の冒頭に原告主張標章を付すことが商標の使用であることを否定する理由となるものではない。

(4)以上によれば,被告が原告主張標章を商標として使用しているものとは認められない旨の審決の認定は誤りであるといわざるを得ないところ,審決は,原告主張標章の商標としての使用について,商標法51条1項に規定する要件を満たすか否かについての判断をしていないのであるから,当該認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

したがって,取消事由1は理由がある。

2 結論

よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから,同請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

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