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平成20年(行ケ)第10311号商標登録取消決定取消請求事件


主文

1 特許庁が異議2007-900349号事件について平成20年7月2日にした決定を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

本件は,原告が商標登録を有する下記商標(登録第5040036号。以下「本件商標」という。)に対し,プーマアーゲールドルフダスラースポーツ(ドイツ連邦共和国。以下「プーマ社」ということがある。)が登録異議の申立てをしたところ,特許庁が,本件商標は下記引用商標1に類似するから商標法4条1項11号に違反するとして,上記商標登録を取り消す旨の決定をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。

争点は,本件商標が下記引用商標1との関係で類似するか(商標法4条1項11号)である。

(1)本件商標

・商標・指定商品

第25類

「Tシャツ,帽子」

(2)引用商標1(登録第3324304号)

・商標・指定商品

第25類

「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

・出願平成6年12月20日

・登録平成9年6月20日

・公告平成8年12月16日

・商標権者プーマアーゲールドルフダスラースポーツ

第3 当事者の主張

1 請求原因

(1)特許庁における手続の経緯

原告は,平成19年4月13日に登録された本件商標登録第5040036号の商標権者である(出願平成17年6月21日,登録審決日平成19年3月6日,商標公報発行日平成19年5月22日)。

上記商標登録に対し,平成19年7月23日,プーマ社から商標法43条の2に基づく登録異議の申立てがなされたので,特許庁は,これを異議2007-900349号事件として審理した上,平成20年7月2日,「登録第5040036号商標の商標登録を取り消す。」との決定をし,その謄本は同年7月22日原告に送達された。

(2)決定の内容

決定の内容は,別添「異議の決定」写しのとおりである。その理由の要点は,本件商標は上記引用商標1と類似し,指定商品も引用商標1の指定商品に包含されるから,その登録は商標法4条1項11号に違反する,というものである。

(3)決定の取消事由

しかしながら,決定は,本件商標と引用商標1との類否判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。

ア 決定は,本件商標の構成について,「…本件商標は,下段に書された文字部分『OKINAWAN ORIGINAL』及び『GUARDIAN SHISHI-DOG』の文字は,その上段に書された『SHI-SA』の文字と比較すると極めて小さく表され,またその構成文字もデザイン化されており,看者をして,この文字自体が何を意味するものなのか直ちに判断することはできないものというべきである。その上段の欧文字『SHI-SA』の文字は,太字で文字全体を横長方形の枠の中一杯に書された様に表されている。そして,この『SHI-SA』の文字部分をシルエット風動物が飛び越すように跳躍してなり,『SHI-SA』の文字部分と図形部分は,一体的にまとまりの良い構成態様となっている」(13頁27行~36行),「そうとすると,本件商標を全体的に観察した場合,自他商品識別標識として機能する部分は,『SHI-SA』の文字部分と跳躍した動物のシルエット風図形部分にあるというべきであり,本件商標をその指定商品『Tシャツ,帽子』について使用した場合,『OKINAWAN ORIGINAL』及び『GUARDIAN SHISHIDOG』の文字部分は,付記的部分とみるのが相当である」(13頁下2行~14頁3行)とした。

しかし,本件商標は,①(商標省略)の文字を中央に太字で顕著に表すと共に,②上段右に沖縄伝統の獅子として知られるシーサが跳躍した様を側面から捉えた図形を配し,③下段に(商標省略)及びの文字を配して成り,上記①~③をもって商品識別,出所表示,品質保証及び宣伝広告という商標の機能を発揮できるよう,一体不可分のものとして構成されている。

そして,上記③の及びの文字部分は,の文字部分や動物図形部分と比べ小さく表記されているものの,これらの部分と一体のものとして全体的にバランスよく配置されているのであって,説明文や単なる付記的表示といえるほど小さい表示ではない。

したがって,上記③の(商標省略)の文字部分は,本件商標の構成要素から排除されるものではなく,これらの部分を含む全体が看者の印象に残るものである。

イ また決定は,本件商標と引用商標1との対比について,「…図形部分は,本件商標と引用商標1とは,右から左上方へ跳躍している動物をシルエット風に表してなるところ,動物の首回り,尻尾,脚部の細部において若干の差異が認められるものの跳躍角度,頭部,胴部,前脚部,後脚部,尻尾部を含め全体的に観た場合,シルエットの構成自体は近似しているものというべきである」(13頁22行~26行),「…本件商標と引用商標1の構成中『SHI-SA』の欧文字及び図形の部分とは,横長方形の枠の中一杯に書された様に表された太字の欧文字の右肩上方に動物図形を配してなる点において構成の特徴を共通にするものであり,しかも,両欧文字部分とも,縦線を太くし横線を細くした書体で表現されているから,両者を対比観察すれば,細部に相違するところあるとしても,全体として外観上,近似するものといわなければならない」(14頁7行~12行),「してみれば,本件商標と引用商標1の構成中『SHI-SA』の欧文字及び図形の部分とは,その構成の軌を一にするものであり,共通の印象を看者に与えるものであるから両者を時と所を異にして離隔的に観察した場合には,外観において彼此相紛れるおそれが極めて高い類似の商標と判断するのが相当である」(14頁下1行~15頁4行)とした。

(ア)a しかし,四足動物をモチーフとしてデザインする場合に,動物が跳びかかる姿とすることは,極めて一般的に行われている手法の一つである。

すなわち,犬や猫などの四足動物においては,歩く,走る,跳びかかるという動作は基本的なものであって,動作する四足動物を描こうとする場合に,走ったり跳び上がろうとする姿を描くことは当然に思いつくことである。そして,跳びかかる四足動物を描く場合に,どのような位置からみた図案とするかの選択肢としては,正面図,背面図,左右側面図,平面図,底面図及び斜視図のいずれかに限られ,この中でも側面から描くことは最も分かりやすく四足動物の動作を表現するものとして極めて自然である。

このようにして描画対象を跳びかかる四足動物としてこれを側面より描くこととした場合,誰が描いても,前足を前方に向け,地面を蹴った後の後ろ足が後方に伸びる姿として描かれ,また特に跳び上がった直後の四足動物であれば,上半身を上方にしてやや傾くように描かれる。そして,上半身を上方にして傾くように側面から描かれた四足動物図形を文字と組み合わせる際には,文字の右肩又は左肩の角を覆うように配することが自然である。

b 次に(商標省略)という文字部分についても,横長の長方形の枠内にはめ込まれたように欧文字が表記されることは一般的に行われているものである。また,上記文字部分が縦線を太くし横線を細くした書体で表現されているという点についても,このような書体は極めて一般的な書体である(なお,本件商標において横線を細くしてなるのはの文字のみである。)。

c したがって,このような一般的描画法により描かれた四足動物図形と文字を組み合わせた図案について引用商標1と類似するものとすれば,およそ第25類に属する指定商品に関して,跳びかかる四足動物を側面から描いた図案についての独占排他権が実質的に認められることとなり,第三者の商標選択の余地を狭め,経済活動における表現を不当に制限することとなる。

なお,四足動物を側面から描いた図形商標は,第25類の指定商品に関して多数登録されており,かかる登録例の中には,引用商標1に近似した図案から成る商標も少なからず見受けられる。また,「標章の図形要素の細分化ウィーン分類表」(ウィーン分類第5版準拠第2版,特許庁商標課平成17年8月発行,乙9)においても,小分類「3.1四足獣(シリーズⅠ:ネコ科,イヌ科(たぬき(3.5.5.01を除く),クマ科,パンダ科)」中の「3.1.115」に付属する補助分類として「A3.1.21飛び上がっているシリーズⅠの動物」という項目が設けられており,第25類の指定商品に限って検索しただけでも180件存在する(甲7,甲8の1~83)。

(イ)そして,本件商標と引用商標1における動物図形を比較すると,本件商標には沖縄伝統の獅子(シーサ)の特徴が表されているのに対し,引用商標1における四足動物はピューマ(puma)を表すものであることが明らかであり,外観上異なった印象を与えるものであって,四足動物を側面から描いた図案であるという抽象的なレベルにおいてのみ共通するものである。

a すなわち,本件商標においては,沖縄伝統の獅子(シーサ)の特徴である,鬣(たてがみ)ないし首飾り,牙を剥き出した口,前足・後足の巻髪,丸みを帯び巻髪を伴う尻尾といった部分が表現されている。一方,引用商標1にはこのような表現は見られず,口元や前足・後足部分は黒く塗りつぶされ,尻尾は斜め上方にピンと伸びている。そのほか,頭部や肩の大きさ,足先の形状などにおいても両商標は相違する。

これらの中でも特に尻尾の形状については,引用商標1における斜め上方にピンと伸びた独特の形状が「PUMA」ブランドを象徴するものとして取引者・需要者に強く認識されてきたのに対して,本件商標における尻尾部分は,太くふっくらとして何物も寄せ付けない力強さをもった獅子特有の尻尾を表現するため,巻髪を伴った広がりのある独特の形状を呈しているものであり,看者に対し全く異なった印象を与えるものである。

b これに対し被告は,本件商標における跳躍するイメージは沖縄伝統の獅子(シーサ)とは程遠いと主張するが,シーサには様々なものがあり一つの型に固定されているものではない(甲9,10,24,31)。また,シーサは本来,今まさに跳びかかろうとする躍動感と気迫に満ちているものであり,本件商標は,躍動感溢れるシーサをイメージしながらデザインされたものである。シーサも動物である以上動きがあるのは当然であり,架空の動物だから動きがないとするのは誤った固定観念である。

(ウ)以上のように本件商標の動物図形から沖縄伝統の獅子(シーサ)の特徴が看取されるほか,本件商標の文字部分からもシーサを表すものであることが明確である。すなわち,本件商標におけるの文字部分が沖縄伝統の獅子であるシーサを表すものとして大きく表示されると共に,及びの文字部分から,「沖縄伝統の守り神,獅子犬」等の意味合いにより,直ちに沖縄伝統の獅子であるシーサが想起される。これに対し引用商標1は,という文字部分から,四足動物の図形部分がピューマを表したものであることが認識されるものである。

(エ)したがって,本件商標と引用商標1とは外観上異なった印象を与えるものであり,さらに本件商標からは沖縄伝統の獅子である「シーサ」の観念・称呼が,引用商標1からは「ピューマ」の観念・称呼が生じるものであるから,混同を生じる余地はなく,本件商標が引用商標1に類似するということはできない。

(オ)なお,被告は,引用商標1の周知著名性をもってその主張の根拠として主張する。たしかに,引用商標1が一定分野において周知著名であることは原告も争わないが,被服のように比較的長期にわたり使用される商品については,取引者・需要者は購入に際して商品に付された商標を念入りに検討するものであり,特に,商標の著名性が高い場合には真正品を選ぼうとする需要者等の注意力は相当程度に高くなるのであるから,引用商標1が著名であることにより出所の混同を生ずる可能性はむしろ低くなるものである。

ちなみに原告は,本件商標を付したTシャツ等を実際に販売しているが,需要者等に「PUMA」ブランドの商品と取り違えられたことはない。また,本件商標が出願されてから審査,審判を経て商標登録されるまでの間,「PUMA」ブランドの商標が引用されたことは一度もなく,プーマ社により本件異議申立てがなされて初めて引用商標1が取り上げられたものである。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。

3 被告の反論

本件異議の決定の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。

(1)引用商標1の商標権者であるドイツ連邦共和国のプーマ社(PUMA AG Rudolf Dassler Sport)は,スポーツ用品・スポーツウェア等を世界的に製造販売している多国籍企業である。1920年(大正9年)にアディ・ダスラー及びルドルフ・ダスラーの兄弟が靴を販売する「ダスラー兄弟商会」を設立したのがそもそもの始まりであり,その後,兄弟が1948年(昭和23年)にそれぞれ独立し,弟ルドルフがプーマ社を設立した。引用商標1の由来は,「俊敏に獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」をそのまま表現し,ブランドマークとしたものである(なお,プーマ〔puma〕は「ピューマ」ともいい,ヒョウくらいの大きさのネコ科の哺乳類である。)。創業当初はスポーツシューズ専門メーカーであったが,現在では,スポーツウェア,バッグ等スポーツ関連グッズの総合メーカーとして,引用商標1からなる「PUMA」ブランドが世界で知られている(乙2,乙3)。

引用商標1は,遅くとも1980年代には我が国で使用が開始され,その後今日に至るまで「PUMA」ブランドを表すものとして広く親しまれている。その使用の一例は,ブランドの出発点ともいえるサッカーシューズを始め,各種スポーツシューズ,スポーツウェア,バッグ,さらには本件商標の指定商品でもあるTシャツや帽子を含む幅広い商品について,長年使用されてきたものである(乙4~乙7)。

このように,引用商標1は,スポーツシューズ,スポーツウェア等に使用された結果,プーマ社の業務に係る商品を表すものとして,本件商標の登録決定時(平成19年3月6日)より前にその指定商品の分野の取引者・需要者の間に広く知られるに至っていたものである。

(2)以上を前提として本件商標と引用商標1とを対比する。

ア 本件商標は,中央に太字で大きく表されたの文字部分,この文字部分を跳び越えるように右側から左上方に向けて跳躍する動物を側面から捉えたシルエット図形のほか,それらの下部に及び(小文字と大文字が同じ大きさで表されている)の欧文字が上記の文字部分に比較して極めて小さく表されているものである。

そして,上記の文字部分はあたかも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく縦長かつ太字で表され,この文字部分を右側から左上方に向けて跳び越すように動物図形が配されており,これらが一体的にまとまりの良い構成となっている。

そして,及びの文字は「SHISA」の文字に比較して極端に小さい文字によりデザイン化されて表されていることから,本件商標に接する需要者等はの文字部分及び動物図形部分に着目するものであり,これらの部分が本件商標を全体的に観察したときに独立して自他商品識別標識として機能する部分であるというべきである。

イ 一方,引用商標1の構成は,動物の跳躍した様のシルエット図形部分との文字部分から成るところ,の文字部分は縦長の欧文字で,太字により,あたかも横長の長方形の枠内にはめ込まれたごとく表されている。また上記動物図形は,上記文字部分を跳び越えるように右側から左上方へ向けて跳躍するネコ科の大型動物と思しきものを側面から捉えたシルエット図形であり,跳躍の角度,前脚の縮め具合及び後ろ脚や尾の伸ばし具合の角度,背中・胸部・腹部・腰部・大腿部の曲線の形状において,本件商標と引用商標1とはほぼ一致するものであり,視覚的に著しく似通ったスマートな印象を与えるものである。

ウ そして,前記(1)で述べたとおり,引用商標1は我が国において本件商標の指定商品の分野の取引者・需要者の間に広く知られるに至っていたものであり,そのことは当然に,本件商標に接する需要者等の印象,記憶,連想等に強く影響を与えるものというべきである。加えて,「Tシャツ,帽子」という指定商品の性質上,その需要者(一般消費者)は,商品に付された商標の一見した印象によって商品の出所を識別することが多いものである。

エ したがって,引用商標1の周知著名性や需要者の注意力等に関する取引の実情を考慮すると,本件商標がその指定商品である「Tシャツ,帽子」に使用された場合,これに接した需要者等は,「本件中央文字」及び「本件図形」に着目して,引用商標1及びこれを使用する特定の出所を想起し,その出所について混同を生じるおそれがあるから,本件商標と引用商標1とは外観において類似するというべきである。

(3)以上に対し原告は,本件商標からは沖縄伝統の獅子(シーサ)の観念・称呼が生じると主張する。

ア しかし,「広辞苑第六版」(乙8)によれば「シーサー」は沖縄で瓦屋根などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像で,魔除けの一種とされており,頭部が異様に大きく,胴体部も比較的太く,守り神として鎮座しているものであって,本件商標のような跳躍するイメージとは程遠い架空の動物である(甲9,10)。したがって,本件商標の動物図形から沖縄伝統の獅子「シーサー」を表したものと理解することは容易でない。

イ これに対し原告は,本件商標においては沖縄伝統の獅子(シーサ)の特徴である,鬣(たてがみ)ないし首飾り,牙を剥き出した口,前足・後足の巻髪,丸みを帯び巻髪を伴う尻尾といった部分が表現されていると主張する。

しかし,前記(2)で述べたような両商標の構成の共通点が需要者等の目を引く基本的な構成要素に係るものであって,それぞれ強く印象付けられるものであるのに対して,原告が主張する上記差異点は,両商標に離隔的に接した場合には明瞭に把握できない程度の微差,あるいは構成上の細部にわたる要素の差異に過ぎない。そうすると,そのような差異点から需要者等が受ける印象の相違は,上記の外観全体の共通点から受ける視覚的印象をそれほど減殺するものではなく,簡易・迅速を重んじる取引の実際においては明瞭に意識されないものである。

ウ また,本件商標における「SHI-SA」等の文字部分に関しても,仮にの文字部分を「シーサ」等と読むことができ,及びの文字部分を「オキナワンオリジナルガルディアンシシドッグ」と読むことができるとしても,引用商標1の周知著名性を考慮すれば,本件商標が外観において引用商標1を想起することから引用商標1と観念上の錯誤が生じやすく,本件商標から「周知著名なプーマの商標」の観念さらには「プーマ」の称呼が生じることを否定できないものである。

したがって,本件商標と引用商標1とは,外観において類似するばかりでなく,観念及び称呼においても紛れるおそれがある。

当裁判所の判断

1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(決定の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

2 取消事由について

原告は,本件商標と引用商標1との類否判断の誤りを主張するので,以下この点について検討する。

(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観念または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうちその一つにおいて類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。そこで,上記の観点から以下検討する。

(2) 本件商標及び引用商標1の内容

ア 本件商標は,前記第2,記(1)のとおりの文字が横書きで大きく表示され,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれると共に,の文字の下に2段にわたって及びという文字が,比較的小さく表記されているものである。

イ 引用商標1は,前記第2,記(2)のとおり,の文字が横書きで大きく表示され,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれているものである。

(3) 本件商標と引用商標1の対比

ア 外観

(ア)共通点

本件商標と引用商標1は,アルファベットの文字とが横書きで大きく表示されている点,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。

また,本件商標におけるの文字と引用商標1におけるの文字は,いずれも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく太字で表記され,個々の文字は縦長となっている点で共通している。

そして,両商標における動物図形は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。

(イ)差異点

本件商標において大きく表示された文字はであり,引用商標1において大きく表示された文字はであって,アルファベットの文字数,末尾のを除き使用されているアルファベットの文字が異なるほか,本件商標においてはとの間にハイフン(-)が表記されている点で異なっている。

そして,両商標における動物図形については,本件商標の動物の方が引用商標1の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件商標においては,口の辺りに歯のようなものが描かれ,首の部分に飾りのような模様が,前足と後足の関節部分にも飾りないし巻き毛のような模様が描かれ,尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾りないし巻き毛のような模様が描かれている。これに対し,引用商標1の動物図形には模様のようなものは描かれず全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされているほか,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている。

(ウ)このように,本件商標と引用商標1とはないしの文字と動物図形との組合せによる全体的な形状が共通しているものの,その違いは明瞭に看て取れるものである。

イ 観念

(ア)本件商標から生じる観念

a 本件商標の動物図形からは直ちに特定の動物を想起しうるものではなく,という文字は「シーサ」「シ・サ」「シサ」と様々に読めるものであって直ちに特定の観念を想起させるものではないがという文字からは「沖縄のオリジナル」「保護者,守護者」「獅子犬」などの意味を読みとることができ,の文字及び動物図形と相まって,沖縄にみられる伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が想起される。

b これに対し被告は,及びの文字はの文字部分に比較して極端に小さい文字によりデザイン化されて表示されていることから,本件商標に接する需要者等から着目される部分ではないと主張する。しかし,上記文字部分は相対的に小さくデザイン化されているとはいえ,十分に読みとることができるものであり(小文字の「n」「g」「h」も大文字と同じ大きさで表記されており,全体として読みにくいものではない),被告の上記主張は採用することができない。

c また被告は,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」は沖縄で瓦屋根などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像であり,本件商標のような跳躍するイメージとは程遠いものであると主張するので,この点について検討する。

(a)「シーサー」とは,沖縄で広くみられる獅子像であり,地域により「シーシ」とも呼ばれる。地上に据えられる大型のものと,主に民家の屋根に設置される小型のものがあり,材料も石・漆喰・陶器・木など様々であるが,いずれも魔除けの目的で設置されるものである(渡邊欣雄ほか編「沖縄民俗辞典」236頁,平成20年7月20日吉川弘文館発行,甲33)。

その語源は,中国語でライオンを意味する「獅子」が沖縄に伝わって,沖縄風に「シーサー」と発音されたものであり,古代オリエントやインドで発祥した獅子像がアジアやヨーロッパへ広まり,中国を経由して沖縄に伝来したとされている(SHISA編集委員会著「シーサーあいらんど」14頁~19頁,平成15年9月18日有限会社沖縄文化社発行,甲10)。

(b)このように「シーサー」は架空の動物であり,その形状には様々なものがあるが,概ねその特徴とされる点を挙げれば,たてがみないし首飾り,剥き出した牙,前足・後足の関節部分の毛,太くふっくらとした尻尾などである。また,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多いが,四つん這いになったもの,前かがみのもの,後足だけで立ち上がったもの,逆立ちしているものなど様々な形態があり,また多くの場合には尻尾が上空に向かって炎のように逆立ち,その先端はすぼんでいる(甲9,甲10,甲31,甲33)。

(c)そこで本件商標の動物図形を上記の一般的な「シーサー」と比べると,本件商標に描かれた動物は上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いているところ,このような姿勢は「シーサー」の形態として一般的なものとはいえない。他方,本件商標に描かれた,首飾りのような模様,前足・後足の関節部分における飾りないし巻き毛のような模様,尻尾の全体的に丸みを帯びて先端が尖った形状等は,いずれも一般的な「シーサー」の特徴とされているところと一致する。

そうすると,本件商標に描かれた動物図形は「シーサー」の特徴とされているいくつかの点を備えているということができ,動物図形だけをみて直ちに「シーサー」と理解されることがないとしても,の文字や」及びの文字とあわせて見れば,「シーサー」を描いたものと理解することができるものである。

d したがって,本件商標からは,沖縄にみられる獅子像である「シーサー」の観念が想起される。

(イ)引用商標1から生じる観念

a 引用商標1にはと大きく表記されており,上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いた動物図形と相まって,動物の「ピューマ」の観念が想起される。

「ピューマ」(puma,日本語の外来語表記では「プーマ」とも表記される)とは,南北アメリカに分布するネコ科の哺乳類で,アメリカライオン,ヤマライオン,クーガーなどの別名がある。体長は1.5mほどになり,運動活発で跳躍力に強く,シカなどを捕食する(「広辞苑第六版」,乙1)。

b また,引用商標1はドイツのスポーツシューズ,スポーツウェア等のメーカーであるプーマ社の業務を表す「PUMA」ブランドの商標として著名であり(乙2,乙5~7),引用商標1からは「PUMA」ブランドの観念も生じる。

(ウ)したがって,本件商標からは沖縄にみられる獅子像である「シーサー」の観念が生じ,引用商標1からはネコ科の哺乳類「ピューマ」,「PUMA」ブランドの観念が生じるから,両商標は観念を異にする。

ウ 称呼

(ア)本件商標からは,の文字あるいは上記のような沖縄の獅子像の観念から「シーサ」あるいは「シーサー」の称呼が生じる。

(イ)引用商標1からは,の文字から「ピューマ」あるいは「プーマ」の称呼が生じる。

(4)以上に対し被告は,引用商標1の著名性を考慮すると,本件商標と引用商標1とに観念上の錯誤が生じ,その結果,本件商標から「周知著名なプーマの商標」(「PUMA」ブランド)の観念及び「プーマ」の称呼が生じると主張するので,この点につき検討する。

ア(ア)「PUMA」ブランドは,ドイツのバイエルン州ヘルツオーゲンアウラッハを拠点としてスポーツシューズを販売していたダスラー兄弟の弟ルドルフが1948年(昭和23年)に独立して会社を設立し,「俊敏に獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」をブランド・マークとしたものである(乙2,乙3)。

(イ)「PUMA」ブランドに関して,ピューマの動物図形を用いた商標で我が国で商標登録されたものとしては,次のものがある(甲3~5,7〔枝番を含む〕)。

①(商標省略)(登録第4637003号,引用商標2)

②(商標省略)(登録第1884350号,引用商標3)

③(商標省略)(登録第1925032号,引用商標4)

④(商標省略)(登録第1949358号)

⑤(商標省略)(登録第2068537号)

⑥(商標省略)(登録第2071905号)

⑦(商標省略)(登録第2104254号)

⑧(商標省略)(登録第2143504号)

⑨(商標省略)(登録第2290252号)

⑩(商標省略)(登録第2290264号)

⑪(商標省略)(登録第2499723号)

⑫(商標省略)(登録第2570742号)

⑬(商標省略)(登録第2602056号)

⑭(商標省略)(登録第3077519号)

⑮(商標省略)(登録第3248427号)

⑯(商標省略)(登録第3328662号)

⑰(商標省略)(登録第4161490号)

⑱(商標省略)(登録第4356663号)

⑲(商標省略)(登録第4907491号)

これらの商標の構成をみると,「PUMA」の文字と動物図形が組み合わされたもののほか,「SPORTCAT」,「FLYING PUMA」,「PUMA DISC SYSTEM」,「PUMA CELL」などの文字と組み合わされたもの,動物図形のみのものなど多岐にわたるが,上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いているピューマが側面から見た姿でシルエット風に描かれているという点で共通している。

これらのピューマの図柄は,体全体の輪郭が流れるような曲線によって描かれている点や,先端だけ若干丸みを帯びた細長い尻尾が右上方に高くしなるように伸び,大きく後ろへ伸びた後足と対称をなしている点で特徴的であり,全体として敏捷でスマートな印象を与えるものである。このようなピューマの図柄は,上記各商標においてほぼ統一されたものとなっている。

(ウ)そして,我が国において販売されているスポーツシューズ,スポーツウェア,バッグ等のカタログでも,上記商標に描かれているものと同様のピューマの図柄が商品に使用されている(乙5~乙7)。

(エ)以上によれば,「PUMA」ブランドは,上記のような特徴的なピューマの図柄によって取引者・需要者に印象付けられ,記憶されているものということができる。

イ これに対して本件商標における動物図形は,たしかにその向きや基本的姿勢,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中・腹から足にかけての曲線の描き方において上記「PUMA」ブランドの商標と似ている点があるものの,取引者・需要者に印象付けられる特徴は「PUMA」ブランドの商標とは異なるものである。

すなわち,本件商標に描かれた動物は,「PUMA」ブランドのピューマに比べて頭部が大きく,頭部と前足の付け根部分とが連なっているために,上半身が重厚でがっしりとした印象を与える。また,「PUMA」ブランドのピューマには模様は描かれず,輪郭のラインやシルエットですっきりと描かれているのに対し,本件商標では首,前足・後足の関節,尻尾に飾りや巻き毛のような模様が描かれている。さらに,「PUMA」ブランドのピューマの特徴である,右上方に高くしなるように伸びた細長い尻尾の代わりに,全体的に丸みを帯びた尻尾が描かれている。

このように本件商標の動物図形は,「PUMA」ブランドのピューマとは異なる印象を与えるものである(なお,甲19~29〔枝番を含む〕によれば,本件商標は主として,原告が代表取締役を務める観光土産品等の販売等を行う有限会社沖縄総合貿易が観光土産品たるTシャツ・エコバッグ・雑貨等を販売する際に使用されている。)。

ウ そうすると,「PUMA」ブランドのピューマを記憶している取引者・需要者は,本件商標に接したときに「PUMA」ブランドのピューマを連想することがあるとしても,本件商標を「PUMA」ブランドの商標とまで誤って認識するおそれはないというべきである。

エ したがって,本件商標から「PUMA」ブランドの観念や「プーマ」の称呼が生じるということはできない。

(5)以上のとおり,本件商標と引用商標1とは,外観においても観念・称呼においても異なるものであり,本件商標及び引用商標1が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本件商標は引用商標1に類似するものではなく,決定は商標法4条1項11号該当性の判断を誤ったものである。

3 結語

よって,本件異議決定の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。

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