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平成20年(行ケ)第10317号審決取消請求事件


主文

1 特許庁が取消2007-301265号事件について平成20年7月16日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は,被告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための附加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 争いのない事実

1 本件商標

登録第2194689号商標(以下「本件商標」という。)は,「RINASCIMENTO」の欧文字と「リナッシメント」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり,昭和62年7月7日に登録出願され,第17類「被服,布製身回品,寝具類」を指定商品として,平成元年12月25日に設定登録され,その後,商標権の存続期間の更新登録がされ,原告を商標権者として,現に有効に存続している(甲1,2)。

2 特許庁における手続の経緯

被告は,平成19年10月2日,商標法50条1項に基づき,本件商標の指定商品中「第17類被服」について,商標登録の取消しを求める審判(取消2007-301265号事件。以下「本件審判」という。)を請求し,同年10月19日,その旨の予告登録(以下「本件予告登録」という。)がされた(甲2)。

特許庁は,平成20年7月16日,「登録第2194689号商標の指定商品中「被服」についての登録を取り消す。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本を同月28日に原告に送達した。

3 審決の理由

別紙審決書写しのとおりである。

要するに,原告が審判において提出した証拠(本訴甲4ないし8)によっては,原告が,本件審判の請求に係る本件予告登録前3年以内に指定商品「被服」に含まれる商品について,本件商標を使用していることは認められないとするものである。

第3 当事者の主張

1 審決の取消事由に関する原告の主張

原告は,以下のとおり,本件審判の請求に係る本件予告登録前3年以内に指定商品「被服」に含まれる商品「スーツ」に本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしているから,その事実の証明がないと認定判断した審決は誤りであり,取り消されるべきである。

(1)使用の事実について

原告は,平成15年4月から,株式会社伊勢丹(以下「伊勢丹」という。)新宿店メンズ館4階の店舗において,同社が,いわゆるイージーオーダー商品(メジャーメイド商品)として販売する「スーツ」について,同社から注文を受けて裁縫し,商標「RinAsciMento」(以下「使用商標」という場合がある。)を付した上,完成した「スーツ」を同社に納品し,販売している。

ア 原告が,伊勢丹において,上記態様で,同社に,使用商標を付したスーツを販売していた事実は,以下の証拠から認めることができる。

(ア)甲7(伊勢丹新宿店ホームページ)

甲7(伊勢丹新宿店ホームページ)には,「FLOOR MAP&BRAND」として,伊勢丹新宿店メンズ館4階が「ビジネスウェア」のフロアであること,及び「Rinascimento」が表記されている。

この点,審決は,甲7(本件審判時の乙3)について,ホームページ写しとしながら(審決書6頁23行~28行),他方では「写真」とするなど(審決書6頁35行),甲7に対する正当な証拠評価を欠き,誤った認定をした。

(イ)甲9ないし12(取引書類)

甲9は,商品「スーツ」の販売店舗である伊勢丹新宿店から原告への発注書であり,上部中央に商標「RinAsciMento」が記載されてマルで囲まれていることから,上記商標を付した商品「スーツ」の注文であることが分かる。甲10ないし12がこの注文に係る取引書類であることは,甲9の品番(81T43435)と右上部の数字(233019-03)が甲10のA欄とD欄の記載と完全に一致しており,甲10の伝票番号(566417)と原価金額(7万4100円)が甲11及び12のそれと一致することから判断することができる。

(ウ)甲13,14

甲13(伊勢丹通信)には,その最下段右端に商標「RinAsciMento」が記載されている。本件商標と社会通念上同一の商標「RinAsciMento」を付したスーツが,現在も伊勢丹新宿店において販売されていることが認められる。

甲14(伊勢丹の広告)には,平成17年6月ころに伊勢丹がセールの広告として顧客へ発送したダイレクトメールに同封された広告カードである。カード右辺「クラシコイタリア」と記載されたスーツの写真の下に,商標「RinAsciMento」が示されている。

(エ)甲15(宣誓供述書)

甲15(公証人の認証のある宣誓供述書)は,伊勢丹の従業員であるYが商標の使用状況について真実であることを宣誓した上で公証人の認証を受けた書面であり,これによれば,原告は,平成15年4月ころから,商標「RinAsciMento」を付したスーツを伊勢丹新宿店において販売している旨が記載されている。

イ 商品の使用の対象が指定商品であることについて

原告は,伊勢丹新宿店メンズ館のメジャーメイド売り場において顧客が選んだ生地を自己の事業所において縫製して商標「RinAsciMento」を付した商品「スーツ」を製造しており,生地のみを伊勢丹新宿店に販売しているわけではない。したがって,商標「RinAsciMento」は,指定商品「被服」について使用しているといえる(甲15)。

ウ 取消訴訟における証拠の提出について

甲9ないし15は,本訴において提示した証拠である。不使用取消審決取消訴訟においては,登録商標の使用事実の立証は事実審の口頭弁論終結時に至るまで許されるし(最高裁平成3年4月23日判決・昭和63年(行ツ)第37号),本件において,新たな証拠の提出及びこれに基づく主張が認められるべきでない特段の事由はないから,甲9ないし15の提出は許される。

(2)使用商標と登録商標との社会通念上の同一性

原告が納品し,伊勢丹新宿店メンズ館4階の店舗において販売する商品「スーツ」に付している商標「RinAsciMento」は,本件商標「RINASCIMENTO/リナッシメント」の書体に修正・変更が加えられたにすぎず,本件商標と同一の称呼及び観念を生ずるものであり,本件商標の自他商品の識別力が本質的に損なわれているものではないから,社会通念上同一の商標というべきである。

この点について,被告は,原告主張の使用商標「RinAsciMento」が「Rin」,「Asci」,「Mento」の3つの語の結合であると理解されるべであると主張する。しかし,そのような理解は不自然である。甲7によれば,伊勢丹新宿店におけるフロアマップに「Rinascimentoリナシメント」と表記され,上記商標を付した商品「スーツ」に接する需要者に対し,上記商標を「リナッシメント」又は「リナシメント」と称呼するような表示がされている。

2 被告の反論

原告の主張は,以下のとおり理由がない。

(1)使用の事実に対して

原告は,原告が伊勢丹に対して,商標「RinAsciMento」を付したスーツを販売していることが認定できると主張する。しかし,以下のとおり,スーツを販売した事実は認められない。

ア 証拠の評価について

(ア)甲7(伊勢丹新宿店ホームページ)

甲7は,フロア案内にすぎないから,商品「スーツ」について,原告が,商標を直接使用していることを証明するものとはいえない。

(イ)甲9ないし12(取引書類)

甲9の品番(81T43435)と右上部の数字(233019-03)が,本件商標に係る商品を意味することが示されていないから,甲9と10とは同じ注文に係る取引書類であることを証明するものとはならない。また,甲10の伝票番号(566417)は,活字の(7253)の上方に,手書きで記入されているから,甲11及び12の伝票番号と一致していても,その信用性には疑義がある。さらに,原告は甲10と11と伝票番号が一致すると主張しながら,スーツの数が甲10では1着であるのに対して,甲11では6着であって一致していないから,その点でも信用性に疑義がある。

イ 商品の使用の対象が指定商品ではないことについて

原告は,伊勢丹に対して生地を販売するのみであり,指定商品「被服」に含まれる商品「スーツ」を製造,販売しているわけではない。原告主張の使用商標「RinAsciMento」は,生地について使用されているのであり,指定商品「被服」に含まれる商品「スーツ」について使用されているものとはいえない。

また,原告と伊勢丹との関係は,メジャーメイドスーツの販売工程において,原告が「スーツの生地の加工」(裁縫)という「一作業」を担うだけであり,実質的には,一注文につき一組織内において「作業分担」を行っている関係と異ならない。したがって,原告と伊勢丹との間にある取引関係は,形式的には,別法人間の取引ではあるものの,需要者に対する関係では内部における商品移動に等しく,このような内部関係での商品の移動において,たとえ何らかの商標が付されていたとしても,それは一般取引市場における商標の使用とは認められない。

甲9,13ないし15も,以下のとおり,指定商品に使用されたことを示すものではない。

(ア)甲9は,商標法上の役務の区分第40類に属する「注文による被服の仕立て」に関する書類であるということができても,商品及び役務区分の第25類に属する「被服」についての使用を証明する書類には該当しない。

(イ)甲13は,「紳士服メジャーメイド」の文字の下の列に,商標「RinAsciMento」を確認することができ,「注文による被服の仕立て」(第40類に属する役務)との関連をうかがわせるにすぎず,本件の「被服」(第25類に属する商品)に関する使用を示すものとは認められない上,原告により作成されたものではないから,原告による使用を示すものとはいえない。

(ウ)甲14は,左上部に「Measure Made」とのタイトルがあるように「注文による被服の仕立て」との関連をうかがわせるにすぎず,「被服」に関する使用を示すものとは認められない上,原告により作成されたものではなく,原告による使用を示すものとはいえない。

(エ)甲15は,本売り場において権限のある責任者による宣誓供述とは認められない上,その内容も,「注文による被服の仕立て」に関するものであって,「被服」についての使用を証明するものとは認められない。

ウ 取消訴訟における証拠の提出について

原告が本件訴訟提起後に新規に提出した甲9ないし15は,本件審判の審理の対象となっていなかった事実を立証するための証拠であるから,これらをもって審決を違法とすべき理由はない。

甲9ないし15は,当事者が故意又は重大な過失により,時機に後れて提出した攻撃防御方法に該当し,これにより訴訟の完結を遅延させると認められるから,却下されるべきである(民訴法156条,157条参照)。

なお,審決取消訴訟の段階で新たな証拠を提出することを認める判例が存在するが,本件の事案に当てはめるべきではない。

よって,審決取消訴訟における新たな使用事実の主張及びこれに沿った新証拠の提出は,民事訴訟法の精神に照らし却下されるべきである。

(2)使用商標と登録商標との社会通念上の同一性

原告主張の使用商標「RinAsciMento」は,「Rin」,「Asci」,「Mento」の3つの語の結合と理解されるから,本件商標の欧文字部分である「RINASCIMENTO」とは外観において異なる。

また,本件商標は,その読み方を特定するカタカナ文字に相応した「リナッシメント」という一体の称呼を生ずる商標であるのに対し,原告主張の使用商標「RinAsciMento」は,「R」,「A」,「M」の文字のみを大文字にしているため,「リンアスチメント」といった称呼を生ずるものである。さらに,原告主張の使用商標「RinAsciMento」も,本件商標も造語であって,明確な特定の観念を生ずるものではないから,観念において同一であるとはいえない。

したがって,原告主張の使用商標「RinAsciMento」は本件商標と社会通念上同一の商標であるとは認められない。

当裁判所の判断

1 当裁判所は,以下のとおり,本件審判の請求に係る本件予告登録前3年以内に,本件商標と社会通念上同一の商標「RinAsciMento」を付した商品「スーツ」を原告が製造,販売している事実を認定することができるから,その事実が認められないとした審決には誤りがあると判断する。その理由は,以下のとおりである。

(1)商標「RinAsciMento」の使用の事実

ア 証拠(甲1ないし15)によれば,以下の事実が認められる。

原告は,平成15年4月から,伊勢丹新宿店メンズ館4階の店舗において,同社が,いわゆるイージーオーダー商品(メジャーメイド)として販売する「スーツ」について,同社から注文を受けて裁縫し,商標「RinAsciMento」を付した上,完成した「スーツ」を同社に納品し,販売している。

その販売態様の詳細は,①原告の提供するスーツのサンプルを店頭で展示し,②顧客は,展示されているサンプルのデザイン等から,好みのスーツの生地,デザイン等を選択し,販売担当者が,顧客の採寸をして,オプション等の注文を確認し,③原告は,注文を受けた後に,注文に応じたスーツを製造し,上記のとおり,裏生地に商標「RinAsciMento」を付した上で,伊勢丹に,納品,販売するものである。

以上のとおり,原告は,その製造,販売に係るスーツに,上記商標を付していることは明らかであり,これに反する証拠はない。

なお,甲15では,顧客にスーツを販売する主体は,原告であって,伊勢丹ではないかのような供述記載があるが,甲10,甲11の取引伝票において,「買取」と明示されていることに照らして,同記述部分は採用の限りでない(被告も,顧客にスーツを販売する主体は,伊勢丹であることを前提として,下記のとおりの反論をしているところである。)。

イ これに対して,被告は,以下のとおり主張するが,いずれも理由がない。

まず,被告は,原告は伊勢丹に対して販売している商品は,生地であって,「スーツ」ではないと主張する。

しかし,前記認定のとおり,原告は,伊勢丹新宿店において顧客が選んだ生地について,自己の事業所において縫製して商標「RinAsciMento」を付した商品「スーツ」を製造,完成させ,これを伊勢丹に対して販売納品している。この点は,原告と伊勢丹との間の取引の仕入伝票(甲11)において,その仕入れ形態の欄に「買取」との文字が印字され,「品名」として「シングルスーツ」と記載され,4万円台から7万円台の1点当たりの原価金額が記載されていることに照らすならば,仕立て済みの「スーツ」(第17類被服)が販売されたものというべきであり,生地の販売に加えて「加工処理」(40類)がされていると解する余地はない。

また,被告は,甲9(注文伝票)と甲10(納品伝票)との品番が,本件商標を付した商品であることの裏付けがないこと,甲10(納品伝票)の伝票番号が手書きであること,甲10(納品伝票)と11(仕入伝票)において点数が異なること等,信用性に疑義があると指摘する。しかし,原告提出に係る伝票において,日付,金額,品名等の点で矛盾するような不自然な点は存在しない。

さらに,被告は,原告と伊勢丹との取引関係が需要者に対する関係では内部関係での商品移動にすぎず,このような内部関係での商品の移動において,商標が付されたとしても,一般取引市場におけるものとは異なり,商標の使用に当たらないと主張する。しかし,原告の商標を付した商品の販売先が,最終需要者でない限り,商標を付した商品の販売に該当しないとの主張は,その前提において採用できないので,被告の上記主張は理由がない。

(2)原告主張の使用商標と本件商標との社会通念上の同一性について次に,原告主張の使用商標「RinAsciMento」が本件商標と社会通念上同一の商標(商標法50条1項)であるといえるのかどうかについて検討する。

ア 外観

本件商標(「RINASCIMENTO」を上段に,「リナッシメント」を下段に横書きした商標)のうち上段部分「RINASCIMENTO」は,一連の欧文字からなる。これに対し,使用商標「RinAsciMento」は,「R」,「A」及び「M」のみが大文字で表記されていることから(甲4ないし6,9,13,14),3つの大文字が強調されるため,若干異なる印象を与える余地がないとはいえないが,他方,欧文字のすべてが透き間なく連続的に綴られていること,各大文字から始まる3つの部分「Rin」,「Asci」及び「Mento」のいずれも固有の観念を有しないことに照らすならば,「仕立てスーツ」に使用する際の装飾的な観点からの変更にすぎないと解するのが合理的である。以上のとおり,使用商標と本件商標とは,外観において,社会通念上同一である。

イ 称呼

本件商標の欧文字部分「RINASCIMENTO」は,下段のカタカナ文字と併せて「リナッシメント」との称呼が生じる。他方,使用商標「RinAsciMento」についても,隙間なく連続的に表記されている点に照らすと,「リナッシメント」ないし「リナシメント」との称呼が生じる。伊勢丹新宿店ホームページのフロア案内においては,「Rinascimento/リナシメント」という表示がされていることからすると,同フロアの店舗において販売されている原告縫製の「スーツ」が「リナシメント」と呼ばれていることを推認することができる。以上のとおり,使用商標と本件商標とは,称呼において,社会通念上同一である。

ウ 観念

使用商標「RinAsciMento」も本件商標も共に我が国において親しまれた外国語ではなく,特定の観念を生じない。観念における相違はない。

以上のとおり,使用商標「RinAsciMento」と本件商標「RINASCIMENTO/リナッシメント」とは,外観,称呼がいずれも社会通念上同一であり,観念における相違はなく,社会通念上同一の商標であると認められる。

(3)取消訴訟における証拠の提出について

被告は,審決取消訴訟における新たな使用事実の主張及びこれに沿った新証拠の提出は民事訴訟法の精神(同法156条,157条)に照らし却下されるべきであると主張する。

しかし,商標登録の不使用取消審判の審決に対する取消訴訟における当該登録商標の使用の事実の立証は,事実審の口頭弁論終結時に至るまで許されるものと解されるところ(最高裁判所第三小法廷昭和63年(行ツ)第37号平成3年4月23日判決・最高裁判所民事判例集45巻4号538頁参照),本件においては,原告による新たな使用事実の主張及びこれに沿った新証拠が民事訴訟法157条にいう時機に後れた攻撃防禦方法であって,訴訟の完結を遅延させることとなると認めるに足りる事情も認められないから,被告の上記主張は採用することができない。

2 以下,審判における審決書の記載事項及び審理のあり方について述べる。

(1)本件審判は,商標法50条に基づく商標登録についての不使用を理由とする取消しの審判である。同条2項は,「審判の請求の登録前3年以内に・・・商標権者・・・が,その請求に係る指定商品・・・についての登録商標の使用をしていること」についての主張立証責任は,商標権者において負担すべき旨規定する。ところで,同条は,取り消すべき場合の要件を,一般的抽象的な形式により規定している。そこで,登録商標不使用取消を審理判断する審判体としては,①まず,主張立証責任を負担する商標権者に対して,当該法規の要件(取消しを免れる要件)である「審判の請求の登録前3年以内に・・・商標権者・・・が,その請求に係る指定商品・・・についての登録商標の使用をしている」との抽象的事実そのものではなく,同要件に該当する具体的事実(立証命題)を主張させ,②しかる後に,商標権者の主張に係る,法規の要件に該当する具体的事実が証拠によって裏付けられるか否かを審理することが不可欠となる(請求人に対して,反論の主張及び反証の機会を与える必要があることは当然である。)。

また,審決書には,「結論」のみならず,結論を導く「理由」を記載しなければならない旨規定されている(商標法56条,特許法157条2項)。登録商標不使用取消の審判における結論を導くための論理は,上記に述べたとおりであるから,審決書の「理由」には,①法規の要件に該当する具体的な事実主張(立証命題)が何であるか,②具体的な事実主張(立証命題)が,証拠によって裏付けられるか否の判断が,論理的に過不足なく記載されることが必要となる。

(2)本件審決書では,理由欄に,「当事者の主張」として「第2請求人の主張」及び「第3被請求人の主張」が,書面の提出された時系列にそって記載され,また,「審判体の判断」として「第4当審の判断」が記載されている。

しかし,審決書に,具体的な要件事実と無関係な主張を,そのまま記載する意味はないのみならず,本件審決書の全体をみても,審理の対象である原告(被請求人)の主張に係る「商標権者,専用実施権者又は通常実施権者のいずれかが,・・・指定商品・・・についての登録商標の使用をしている(事実)」に該当する具体的事実(立証命題)が何であるかについて,明確な記載がされていない。

上記のとおり,本件審決書では,審判において,原告がどのような具体的事実主張をしたかについての明確な記載がされていないため,本件取消訴訟に至って,審判段階において原告が商標を使用した具体的事実の主張(立証命題)と,取消訴訟段階において原告が使用した具体的事実主張(立証命題)とが,同一のものであるか否かも争点となったが,その当否を的確に判断することができない。

また,審決書の「審決体の判断」において,当事者が提出した個々の証拠に対する評価に関する記載はあるものの,具体的主張に関する明確な記載がないため,原告の主張に係るどのような具体的な事実部分が排斥されたために,審決の結論に至ったかについて,その論理の当否を判断することができない。

その点において,審決書の記載について,工夫の余地があるものといえる。

(3)また,本件審決においては,原告が乙1ないし4(本訴甲4ないし8)に基づいてした立証に対して,「スーツの具体的取引書類である,例えば,注文書,納品書,支払伝票等の提示がない」ことを主たる理由として,排斥している。

しかし,①裏生地に使用商標「RinAsciMento」及び「原告の商号の記載されたタグ」が付されたスーツの写真,②「Rinascimento」が表記されている伊勢丹新宿店のフロアーマップのホームページの写し,③原告が伊勢丹新宿店において,商標「RinAsciMento」を使用しているとの陳述書面等が,原告から提出されているのであるから,それらを総合すれば,ある程度の心証を形成することはできると解するのが合理的である。それにもかかわらず,審判体が,取引書類の提出がないという経緯をもって,商標使用の事実を排斥するのであれば,少なくとも,審理に際して,原告に対して,取引書類の提出の可否,不提出の理由等について,釈明を求めるべきである。その点において,審理運営についても,工夫の余地があるものといえる。

3 結論

以上によれば,本件予告登録前3年以内に日本国内において,商標権者である原告がその請求に係る指定商品中「被服」について,本件商標と社会通念上同一の商標を使用していることを証明したものであると認めることができるから,被告からの商標不使用取消請求を認めた審決は誤りであって,その取消しを免れない。よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。

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