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平成20年(行ケ)第10156号審決取消請求事件


主文

1 特許庁が不服2006-10904号事件について平成20年3月19日にした審決を取り消す。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

1 本件は,原告が下記商標(本願商標)について商標登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。

2 争点は,本願商標が下記引用商標との関係で商標法4条1項11号に当たるかである。

(1) 本願商標

・商標

・指定商品

第29類

「食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,加工水産物(「かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのり」を除く。),かつお節, 寒天, 削り節, 食用魚粉, とろろ昆布, 干しのり, 干しひじき,干しわかめ,焼きのり,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,食用たんぱく」

第31類

「食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,糖料作物,麦芽, 飼料用たんぱく, 木, 草, 芝, ドライフラワー, 苗, 苗木, 花,牧草,盆栽」

(2) 引用商標

・商標・指定商品

第32類

「食肉, 卵, 食用水産物, 野菜, 果実, 加工食料品( 但し, サンドイッチ, すし,ピザ,べんとう, ミートパイ,ラビオリ及び他の類に属するものを除く)」

・出願年月日平成3年3月25日

・登録年月日平成9年6月27日

・登録第2722262号

・商標権者森永製菓株式会社

・登録抹消

原因

平成19年6月27日存続期間満了

抹消登録日平成20年3月26日

第3 当事者の主張

1 請求原因

(1) 特許庁における手続の経緯

原告は,平成17年7月6日,上記本願商標について商標登録出願(商願2005-61732号。以下「本願」という。甲1)をし,平成18年3月20日付けで指定商品を上記のとおりに変更する補正(甲7)をしたが,平成18年4月25日付けで拒絶査定(甲8)を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。

特許庁は,同請求を不服2006-10904号事件として審理した上,平成20年3月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年3月31日原告に送達された。

(2) 審決の内容

審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商標は,上記引用商標と類似し,指定商品も同一又は類似であるから商標法4条1項11号に該当する,というものである。

(3) 審決の取消事由

しかしながら,審決は,以下に述べるとおり,本願商標が商標法4条1項11号に該当すると誤って判断したものであるから,違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(引用商標の引用適格に関する判断の誤り)

本願商標が商標法4条1項11号に該当するというためには,本件審決時(平成20年3月19 日)に引用商標に係る商標権が存在していなければならない。

しかるに, 引用商標は平成19年6月27日をもって存続期間が満了し,登録が抹消された(甲12)から,審決時(平成20年3月19日)において引用商標に係る商標権は存在していなかったものである。

したがって,審決には,引用商標に引用適格がないのにこれを引用した誤りがある。

イ 取消事由2(本願商標の認定の誤り)

(ア) 審決は,本願商標中,①中央の青色の色彩を施した四角形内の「ich.」の文字は極めて小さい,② 「生鮮市場」の文字は自他商品識別標識としての識別力を有しないか又は極めて乏しい語である, ③ 上記四角形内の2つの芽を描いた如き図形からは特定の称呼を生じないなどとして,本願商標において自他商品識別標識としての識別力を顕著に有する部分は「ばんばん」の文字部分であるとした(2頁12行~24行)が,誤りである。

すなわち, 本願商標は, 「生鮮市場」の文字,青色の色彩を施した四角形内に白抜きで大きく2つの芽を描いた図形,同図形の右側下端に白抜きで書した「ich. 」の文字,及び「ばんばん」の文字を構成要素とする商標である。したがって,本願商標に接する需要者は本願商標全体を識別標識として認識するのであり,「生鮮市場」の語が指定商品との関係において販売場所であることを理由にこれを識別標識の構成要素から除外するのは誤りである。

また,中央の四角形内の図形からは「2つの芽」という観念,「フタバ」という称呼が生じるほか,同図形の右側下端の「ich.」の文字はドイツ語の「イッヒ」の称呼,「私」の観念が生じ,指定商品との関係において十分に識別力を発揮し得る。

そして,赤く縁取りした双葉の図形及び「ich .」の文字が「ばんばん」と同じ青色に彩色された矩形に囲まれていることや,これが本願商標の中央に配置されていることにかんがみれば,「ばんばん」の文字部分だけでなく「双葉」の図形と「ich.」の文字部分においても顕著な識別力が発揮される。

(イ) また審決は,本願商標を構成する「ばんばん」の語について,「強く音を立てて打つ,ばたん(どん)と打つ」との意味を有する擬音語であり,「バンバンいう音」の観念が想起されるとした(2頁26行~28行)。

しかし,「ばんばん」の語は「勢いよく大量に,または連続して行うようす」(甲10〔広辞苑第五版〕)を意味するものであって,これは審決の上記認定とは明らかに異なる観念である。

ウ 取消事由3(引用商標の認定の誤り)

審決は,引用商標( 「Bang Bang 」)から,「バンバン」との称呼,「バンバンという音」の観念が想起されるとした(2頁下2行~3頁3行)が,以下に述べるとおり,誤りである。

(ア) 引用商標からは,「バングバング」との称呼が生じる。a 英語の「bang」と同じ発音記号を有する英単語には,例えば下記の単語がある(括弧内はその片仮名表記)。

along(アロング),among(アマング),belong(ビロング),gang(ギャング),gong(ゴング),hang(ハング),long(ロング),lung(ラング),ring(リング),slung(スラング),strong(ストロング),young(ヤング)

b また,「Bang Bang」は,「バングバング」と片仮名で表記されている。

例えば,音楽CD のネット通販「UNIVERSALMUSIC WORLD.JP」のホームページ(甲30)において,曲名「BANG BANG YOU」について「バング・バング・ユー」と片仮名で表記され,インターネット上の音楽ダウンロードサイトである「KINGBEAT」のホームページ(甲31) において,アーティスト名「Bang Bang」について「バングバング」と片仮名で表記され, 音楽CD のネット通販「@VictorEntertainment」のホームページ(甲32)において,曲名「SHOOT'EM UP & BANG BANG 」について「シュッテムアップ&バング・バング」と片仮名で表記されている。

(イ) また,「Bang」の和訳は,「vi.(自動詞):1.どんとたたく;ずどんと発砲する。2.<戸などが>ばたんと鳴る〔締まる〕;ずどんと〔どたんと〕鳴る。/vt.( 他動詞): ばたんと鳴らす〔締める〕;どんと打つ,<鉄砲を>ずどんと放つ;激しく打ちつける;したたか打つ,強打する。/『俗』しのぐ,打ち負かす(beat) 。/n(名詞)1. 強打(の音);衝撃;ずどん(という音),銃声,砲声。2. 『米口語』興奮。/int.,( 間投詞),adv.( 副詞) ずどん!(と)。2.『口語』突然;まさに(exactly);すっかり。」である(甲11〔研究社新英和中辞典〕)。

したがって,「Bang」を2回繰り返した「Bang Bang」からは「繰り返される強打(の音),強い衝撃,ずどんずどん(という音)」との観念が生じると解すべきである。

エ 取消事由4(本願商標と引用商標との類否判断の誤り)

審決は, 本願商標と引用商標とは, その外観において区別し得るものの,「バンバン」の称呼,「バンバンいう音」の観念を共通にする類似の商標であり,指定商品も同一又は類似するとした(3頁4行~7行)が,誤りである。

(ア) 前記イに述べたとおり, 本願商標からは, 「バンバン」の称呼のほか,「イッヒ」「フタバ」の称呼が生じ,更にはこれらの称呼とともに「セーセンイチバ」「セーセン」「イチバ」の各称呼が組み合わされるものである。これに対して引用商標から生じる称呼が「バングバング」であることは前記ウで述べたとおりであるから,本願商標と引用商標とは称呼において類似しない。

(イ) また観念についても,本願商標を構成する「ばんばん」の文字からは「勢いよく大量に,または連続して行うようす」の観念が生じ,引用商標からは「繰り返される強打(の音),強い衝撃,ずどんずどん(という音)」の観念が生じることは前記イ及びウで述べたとおりであり,両者が類似しないことは明らかである。さらに,前記イで述べたとおり,本願商標からは「私」「二つの芽」という観念も生じるところ,これらは引用商標から生じる上記観念とは明らかに類似しない。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。

3 被告の反論

(1) 取消事由1に対し

審決時(平成20 年3月19日)において引用商標に係る商標権が存在していなかったことは認める。

ア 商標権の存続期間の更新登録の申請は,その存続期間の満了前6月から満了の日までの間( 第1 申請期間) にしなければならないが, 商標権者は,第1申請期間内に更新登録の申請をすることができないときは,その期間が経過した後であっても, その期間の経過後6 月以内( 第2 申請期間)にその申請をすることができる(商標法20条2項及び3項)。

そして,商標権者が第2申請期間内に更新登録の申請をしないときは,その商標権は,存続期間の満了の時にさかのぼって消滅したものとみなされる(商標法20条4項)。

イ 引用商標は,第1申請期間はもとより,第2申請期間内(平成19年12月27日まで)にも更新登録の申請がなされなかったため,その商標権は,存続期間の満了の時(平成19年6月27日)にさかのぼって消滅したものとみなされ,審決日(平成20年3月19日)後の平成20年3月26日付けで,その登録が抹消された。

ウ したがって,審決時(平成20年3月19日)において引用商標に係る商標権は存在していなかったこととなるので, この点に係る事実は認める。

(2) 取消事由2~4に対しいずれも争う。

当裁判所の判断

1 請求原因(1)( 特許庁における手続の経緯),(2)( 審決の内容) の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

2 取消事由1について

(1) 商標法4条1項11号は,「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて,その商標登録に係る指定商品…について使用をするもの」については,商標登録を受けることができないと規定している。

したがって,審決が本願商標について商標法4条1項11号に該当すると判断することができるためには, 引用商標が「他人の登録商標」であること,すなわち,引用商標に係る商標権が審決時に有効に存続するものであることが必要である。

(2) ところが引用商標は,平成9年6月27日に商標登録第2722262号として登録され,この日から10年後(商標法19条1項)である平成19年6月27日をもって存続期間が満了し,平成20年3月26日に商標権抹消の登録がなされたことが認められる(当事者間に争いがない。甲12)。

(3) したがって,引用商標に係る商標権は,審決時(平成20年3月19日)において既に消滅していたものであるから,審決がこれを引用商標として商標法4条1項11号に該当するとしたことは誤りである。

3 結語

よって,その余について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから認容して,主文のとおり判決する。

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