知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成19年(行ケ)第10391号審決取消請求事件


主文

1 特許庁が無効2006-89180号事件について平成19年10月12日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文と同旨

第2 争いのない事実

1 特許庁における手続の概要

原告は,別紙のとおりの構成であり「コンマー」及び「CONMER」の文字を上下二段に横書きしてなり,商品の区分を第26類,指定商品を「ボタン類」とする登録第4750115号商標(平成15年6月30日登録出願, 平成16 年2月20日登録。以下「本件商標」という) の商標権者である。

被告は,平成18年12月27日,本件商標の登録を無効とすることを求めて審判請求(無効2006-89180号事件)をした。

特許庁は,平成19年10月12日「登録第4750115号の登録を無効とする」との審決(以下「審決」という)をし,同月24日,その謄本を原告に送達した。

2 審決の理由

別紙審決書写しのとおりである。要するに,原告は「CONMAR」との文字からなる米国商標が被告の商標であることを知りながら,「CONMAR」との文字からなる商標が日本において商標登録されていないことを奇貨として,被告に無断で剽窃的に,スライドファスナーを含む「ボタン類」を指定商品として本件商標を出願し,登録を受け,ひいては被告の日本国内への参入を阻止しているものであり,そうすると,本件商標の登録を認めることは,公正な取引秩序を乱し,社会一般の道徳観念ないしは国際信義に反し,公の秩序を害するものであるから,本件商標は商標法(以下,商標法は,単に「法」ということがある)4条1項7号に該当すると判断したものである。

第3 取消事由に係る原告の主張

審決には,取消事由として,次のとおり,法4条1項7号の判断の誤りがあるから,審決は取り消されるべきである。

1 「CONMAR」についての事実経緯

(1) 「CONMAR」の由来

米国のコンマー・プロダクツ・インク( Conmar Products Inc.,以下「コンマー社」という) は,米軍用フライトジャケット(航空機搭乗員等が着用する上着)等に使用されるファスナー(以下,特に断らない限り,スライドファスナーの意味で「ファスナー」という語を用いる)を製造販売していたが,昭和40年(1965年)に廃業し,同年6月14日,スコービル・ファスナー・インク(Scovill Fasteners Inc. ,以下「スコービル社」という。) がその営業を承継した。しかし,スコービル社は,コンマー社の営業を承継した後「CONMAR 」との表示が付されたファスナーを製造することはなかった。

そのため,米国においても,1960年代には,ごく一部の軍服マニアを除き「CONMAR」との文字からなる米国商標は忘れられていた。日本においては,株式会社ザ・リアルマッコイズ・ジャパン(昭和63年6月22日設立。設立時の商号は「株式会社ハリオス.コー.ジヤパン」であり,平成8年6月22日,「株式会社ザ・リアルマッコイズ・ジャパン」に商号変更し,同月24日,その旨登記された。以下,商号変更の前後を通じて「リアルマッコイズ社」という) が「CONMAR」との表示が付されたファスナーを製造販売するまでは,ファスナー自体が注目されることはなく「CONMAR」との文字からなる米国商標は全く知られていなかった。

日本において米軍用フライトジャケットの復刻版の市場を作ったのは,リアルマッコイズ社であった。

(2) スコービル社による商標権放棄の推定等の有無

ア リアルマッコイズ社は,日本で初めて米軍用フライトジャケット等の復刻版の製造販売を始め,その市場を形成した。原告の代表取締役であるAは,リアルマッコイズ社の代表取締役であったが,過去の資料によりコンマー社のファスナーについて知識を有しており,スコービル社がコンマー社の営業を承継したことを知った。そのため,リアルマッコイズ社は,平成4年末からスコービル社との接触を始めた。

イ リアルマッコイズ社は,平成4年末からスコービル社との接触を始め,スコービル社に対し「CONMAR」との表示が付されたファスナーの製造を要請したが,スコービル社は,新たに金型を製造することは費用倒れになるとして製造を拒否し「CONMA R」との表示が付されたファスナーには関心がないので,リアルマッコイズ社が自ら製造すればよいとの回答をし「CONMAR」との表示使用に対する対価の要求もしなかった「CONMAR」との文字からなる米国商標が付されたファスナーの製造が中止された後20年以上が経過し,同米国商標は,既に周知性を失っておりスコービル社にとって何らの価値を見出せるものでなかった。

上記のスコービル社の対応は,スコービル社が「CONMAR」との文字からなる米国商標に関する主張を一切しないという意思の表明であったと解される。

スコービル社は,「CONMAR」との文字からなる米国商標について,従前の使用を再開しない意図をもって使用を中止し,3年連続して権利を行使しなかったから,権利を放棄したものと推定される。

スコービル社は「CONMAR」との文字からなる米国商標について商標権を失効させた。

(3) リアルマッコイズ社とスコービル社の取引

リアルマッコイズ社は,平成5年春ころ,スコービル社のファスナーの中にコンマー社のファスナーとスライダーの形状が近いもの(スコービル社の№5) があるのを見出し,スコービル社に対し,スコービル社が№5のファスナーにリアルマッコイズ社の指示どおりに「CONMAR 」の文字を刻印して「CONMAR」との表示を付したファスナーを製造することを提案し,スコービル社は同提案を受け入れた。リアルマッコイズ社は,この合意に基づいて,スコービル社に対し「CONMAR」の文字のデザインや表示位置等を示した図面を送付した。スコービル社は,それに基づいて「CONMAR」との表示を付したファスナーを製造し,リアルマッコイズ社に納入し,販売した。

(4) リアルマッコイズ社による商標登録

リアルマッコイズ社は,平成5年9月6日,指定商品を第26類の「ボタン類」等として「COMMER」との文字からなる商標を出願し,平成8年4月30日,登録(第315080 9号)された。この商標の下4文字が「NMAR」でなく「MME R」とされたのは,誤記によるものであった。

(5) スコービル社から被告への商標権等の譲渡

スコービル社から被告へは「GRIPPER」との文字からなる商標に係る商標権が譲渡されておらず,そのことからすると,スコービル社のすべての無体財産権が被告へ譲渡されたわけではなく「CONMAR」との文字からなる米国商標がスコービル社から被告へ承継されたか明らかでない。

(6) リアルマッコイズ社と被告の取引

平成7年夏,スコービル社がファスナーの製造を中止し,リアルマッコイズ社とスコービル社の取引も終了した。

リアルマッコイズ社は,被告がスコービル社から№5のファスナーの金型を買い受けたという情報を得て,平成8年12月から被告との間で取引を行うための交渉を開始した。リアルマッコイズ社は,被告に対し,リアルマッコイズ社が作成した図面に基づいてファスナーの製造を依頼したが,被告は欠陥のない製品を製造することができなかった。そこで,リアルマッコイズ社は,日本の業者に依頼してファスナーのスライダーの引き手に「CONMAR」の刻印を打たせ,被告にその引き手と他の部品を合体させてファスナーを製造させようとしたが,被告は,うまく合体をすることができず,リアルマッコイズ社が期待した製品を製作できなかった。そのため,リアルマッコイズ社は,平成12年10月,被告との取引を停止した。

スコービル社,被告は「CONMAR」との文字からなる米国商標がスコービル社,被告に帰属することからこれを使用してファスナーの製造を行ったものではなく,リアルマッコイズ社の指示したデザインに従って製造したにすぎない。

(7) 原告とリアルマッコイズ社との関係

リアルマッコイズ社の代表取締役はAとBであったが,Aは,平成8年3月,代表取締役を辞任し,Bがリアルマッコイズ社の経営を行うようになった。

Aは,平成8年5月,原告を設立し,原告の事業を開始した。原告は,設立当時は,バイク用ヘルメット,各種キャラクター玩具の製造販売を業としており,衣料品の製造販売を業としていたリアルマッコイズ社とは,取扱商品が異なり,法的にも経済的にも別の会社であり,事務所も異なる。

その後,リアルマッコイズ社は資金繰りが悪化し,平成13年6月18日東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てを行い,同年12月19日認可決定を得た。しかし,平成17年11月9日,東京地方裁判所により破産手続開始決定を受けた。

リアルマッコイズ社が有していた「COMMER」との文字からなる商標(第3150809号)に係る商標権は,平成14年12月5日,原告が譲り受けた。

(8) 原告等による商標登録,登録異議

ア 原告は,平成15年6月30日,本件商標を出願し,平成16年2月20日,登録を受けた。また,原告は,平成15年7月4日「コンマー」及び「CONM AR」の文字を上下二段に横書きしてなる商標を出願し,平成16年5月28日,登録(第47749 51号)を受けた。

リアルマッコイズ社は「McCOY CONMER」との文字からなる商標を出願していた。さらに,原告は「McCOY CONMAR」との文字からなる商標を出願した。

イ 原告は「CONMAR」という商標の類似商標を防ぐため,本件商標を出願し,登録を受けたものであり,また,リアルマッコイズ社が平成13 年6月に営業を廃止し「CONMAR」の表示を付したファスナーの製造販売を停止したことから,原告はその製造販売を計画し,そのため,コンマー社の商標どおりの綴りによる「CONMAR」との文字を含む,「コンマー」及び「CONMAR」の文字を上下二段に横書きしてなる商標を出願し,登録を受けたものである。原告は,スコービル社及び被告との取引はなく,スコービル社が「CONMAR」との文字からなる表示について何らの権利を主張しない旨表明し,その後「CONMAR」との文字からなる米国商標を失効させたこと,リアルマッコイズ社が,平成8年4月30日「COMMER」との文字からなる商標の登録を受けたことから,本件商標の出願には問題がないと認識していた。

「CONMAR」との表示は,リアルマッコイズ社の努力により日本において知られるようになったのであり,原告は「COMMER」との文字からなる商標を有するリアルマッコイズ社の承諾を得て本件商標を出願したものである。

ウ 「コンマー」及び「CONMAR」の文字を上下二段に横書きしてなる商標(第4774951号)の商標登録に対しては,平成16年8月31日,登録異議の申立てがあったが,平成17年10月31日,商標登録を維持する旨の異議決定がされた。

また,本件商標の商標登録に対しては,平成16年5月25日,登録異議の申立てがあったが,平成17年9月21日,商標登録を維持する旨の異議決定がされた。

(9) 被告が有する商標

スコービル社は「CONMAR」との文字からなる米国商標の使用を継続せず,失効させた。被告が有する「CONMAR」との文字からなる米国商標は,スコービル社とは関係のないCが,スコービル社の「CONMAR」との文字からなる米国商標が失効した後,同人がその商標を個人的に使用していたと主張して平成13年4月16日に出願し,同年12月18日に登録を受けたものであるから,被告はスコービル社が有していた商標を承継したものではない。

2 結論

以上によれば,本件商標の出願は,何ら公正な取引秩序を害する意図もそのおそれもなく,社会一般の道徳観念又は国際信義に反することもない。審決が本件商標の出願を剽窃的と認定したのは誤りである。

第4 取消事由に係る被告の反論

1 事実経緯

(1) 原被告間の取引関係の有無と原告の認識

審決は,原告がリアルマッコイズ社を原告の前身会社と自認しており,原告とリアルマッコイズ社が本店所在地役員について共通していることから,原告とリアルマッコイズ社は実質的に同一であると判断し,リアルマッコイズ社が「CONMAR 」との文字からなる米国商標が付されたファスナーの存在及び同米国商標の被告への帰属を知っていたことから,原告もこれらを知っていたものと認定している。ここにいう「実質的に同一」とは,法人格が同一であることではなく「CONMAR 」との表示を付したファスナーに関する事業を行う会社として実質的に同一という意味であるしたがって,原告と,被告及びスコービル社との間で取引がなかったとしても,原告が「CONMAR」との文字からなる米国商標が付されたファスナーの存在及び同米国商標の被告への帰属を知っていたという審決の認定は不自然ではなく,誤りはない。

原告は「CONMAR 」という商標の類似商標を防ぐため,本件商標を出願し,登録を受けたものであり,また,リアルマッコイズ社が営業を廃止し「CONMAR 」の表示を付したファスナーの製造販売を停止したことから,原告がその製造販売を計画し,そのため,コンマー社の商標どおりの綴りによる「CONMAR 」との文字を含む「コンマー」及び「CONMAR」の文字を上下二段に横書きしてなる商標を出願し,登録を受けたと主張する。しかし,原告の上記主張は,信用しがたい。原告とリアルマッコイズ社との間に連続性があることは明らかであり,原告と被告との間に形式的にみれば取引関係がなかったとしても,そのことから,原告が何も知らなかったとはいえず,原告と被告との間に取引関係がなかったことは,審決の認定の当否に影響を及ぼすものではない。

(2) スコービル社による商標権放棄の推定等の有無

原告は,スコービル社が「CONMAR」との文字からなる米国商標に関する主張を一切しないという意思を表明し,同米国商標について商標権を失効させたと主張する。

しかし,「CONMAR」との文字からなる米国商標が失効したとしても,「CONMAR」との表示は,その付された商品の出所が,スコービル社又はスコービル社からファスナーに関する事業を含む資産の譲渡を受けた被告であることを表示しており,リアルマッコイズ社はスコービル社及び被告と取引をしていたのであるから「CONMA R」との表示がスコービル社又は被告について出所を表示することを知っていたはずである。したがって,米国商標が失効したとしても,そのことから直ちに,原告が日本で「CONMAR 」との表示について商標権を取得することが正当化されるわけではない。

(3) リアルマッコイズ社による商標登録

原告は,リアルマッコイズ社が「COMMER」との文字からなる商標の登録を受けたことから,本件商標の出願には問題がないと理解していたと主張する。しかし,リアルマッコイズ社の「COMME R」との文字からなる商標の登録は,信義に反するものであって,これをもって本件商標の登録を正当化することはできない。

原告は,リアルマッコイズ社の「COMMER」との文字からなる商標の後4字が「NMAR」でなく「MMER」とされたのは,単純な誤記によるものであったと主張する。しかし,原告の代表取締役であるAは,コンマー社のファスナーについて豊富な知識を有していたこと,また,リアルマッコイズ社の「COMME R」との文字からなる商標は,出願のやり直しがされていないばかりか,平成18年に更新登録がされていることに照らすと,単なる誤記とはいえない。

リアルマッコイズ社は,平成5年9月6日「COMMER」との文字からなる商標の出願をし(平成8年4月30日登録),平成11年4月30日, 「McCOY CONMAR 」との文字からなる商標を出願して(平成12年3月17 日登録,被告の「CONMAR 」との表示に類似した商標を出願し,登録を受けている。Aは,これらの事情を認識しているはずであって, 同人が代表取締役を務める原告が本件商標を登録することは,被告の商標を剽窃するものであって,信義に反する行為である。

Aがリアルマッコイズ社の取締役を辞任したのは,リアルマッコイズ社が被告との取引を停止した後の平成12年12月12日であるから,Aは,リアルマッコイズ社と被告との取引の経緯を認識していたはずである。

(1) スコービル社から被告への商標権等の譲渡

原告は,スコービル社は「CONMAR」との文字からなる米国商標の使用を継続せず,失効させたものであり,被告が有する「CONMAR」との文字からなる米国商標は,スコービル社が有していた商標を承継したものではないと主張する。

しかし,被告とスコービル社との間で締結された平成8年2月22日付け資産譲渡契約の契約書には,スコービル社によるスライドファスナー及びスライドファスナー関連商品の製造に関して営業上使用されたすべての無体財産権が被告に譲渡される旨の記載があり,被告がスコービル社からファスナーに関する事業を買い受けた旨を記載した新聞記事も存在するから「CONMAR」との文字からなる米国商標に係る商標権及び同米国商標を使用するファスナーに関する事業がスコービル社から被告に承継されたことは明らかである。

スコービル社は,昭和50年5月28日に「CONM AR」との文字からなる米国商標の更新登録をしており,当時,米国において商標の更新に必要な使用の証拠を提出していたはずである。また,スコービル社は,平成5年の時点で「CONMAR」との表示が付されたファスナーをリアルマッコイズ社に納品し,販売していたから,その当時においても,「CONMAR」との文字からなる米国商標を使用していた。

したがって,スコービル社が「CONMAR との文字からなる米国商標を使用していなかったとはいえない。

(5) 「CONMAR 」との文字からなる米国商標の周知性

原告の主張によっても「CONMAR」との文字からなる米国商標は,1950年代から1960年代にかけて米国で周知であり,リアルマッコイズ社が「CONMAR 」との表示を付したファスナーを日本において販売した後には「CONMAR」との文字からなる米国商標が日本においてもある程度知られた存在になっていた。

したがって,本件商標の出願時(平成15年6月30日)及び登録時(平成16年2月20日)に「CONMAR」との文字からなる米国商標がある程度知られていたという審決の認定に誤りはない。

(6) リアルマッコイズ社と被告の取引

平成10年5月15日,被告はリアルマッコイズ社に対し,ファックスにより「CONMAR」との文字からなる米国商標の権利全体を与えることができないことを伝えた。これを受け,リアルマッコイズ社は,同月18日,代理人であるニュージーランドの弁護士から,リアルマッコイズ社が「CONMAR」との文字からなる米国商標について被告から使用許諾を受ける立場にあるという助言を受け,その旨認識していた。

リアルマッコイズ社と被告が平成10年6月15日に締結した契約の契約書(乙9)には,一定の事情がある場合,被告がリアルマッコイズ社に対し, スライダーに関して「CONMAR」のデザイン・商標及びロゴを使用するための非独占的で許諾料の発生しない使用権を許諾し,この使用権の許諾が第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する旨の規定があり,リアルマッコイズ社と被告との間で,被告が「CON MAR」との文字からなる米国商標の使用許諾を与える立場であり,その管理責任を有することが示されている。

(7) 原告による商標登録

原告は,リアルマッコイズ社の民事再生手続終結後,本件商標及び「McCOY CONMAR」との文字からなる商標を出願したが,被告はこの事実を知らなかった。

原告は,類似商標を防ぐため,本件商標を出願したと主張する。しかし,原告が,中心となるべき「CONMAR」との文字からなる商標よりも先に本件商標を出願をしていること,リアルマッコイズ社が平成11年に「McCOY CONMER」との文字からなる商標の出願をしていることに照らして,原告の上記主張は,信用しがたい。

原告が本件商標の登録を受けることは,信義に反する行為であり「CONMAR」との文字からなる商標が日本において商標登録されていないことを奇貨として,被告に無断で剽窃的に権利取得を行い,被告の日本国内への参入を阻止しているものである。

(8) 被告が有する商標

被告は,C が登録したもの以外にも「CONMAR」との文字からなる米国商標に係る商標権を有している。

2 結論

以上によれば,リアルマッコイズ社と実質的に同視し得る原告は「CONMAR」との文字からなる米国商標が被告に帰属していることを知りながら,「CONMAR 」との文字からなる商標が日本で登録されていないことを奇貨として,剽窃的に商標登録を受け,被告の日本国内への参入を阻止しており,本件商標に法4条1項7号の無効事由があると判断した審決には,何ら違法はない。

当裁判所の判断

1 法4条1項7号に該当するとした審決の認定,判断の当否被告は,法4条1項7号,10号,15号,19号に該当することを理由として,本件商標の無効審判請求をした。これに対して,審決は,本件商標が法4条1項7号に該当する商標について登録されたものであるから,法46条1項の無効理由が存在すると判断した。すなわち, 審決は,原告が「CONMAR」との文字からなる米国商標が被告の商標であることを認識していたにもかかわらず「CONMAR 」との文字からなる商標が日本において商標登録されていないことを奇貨として,被告に無断で剽窃的に,スライドファスナーを含む「ボタン類」を指定商品として本件商標を出願し,登録を受け,ひいては被告の日本国内への参入を阻止しているものであり,そうすると,本件商標の登録を認めることは,公正な取引秩序を乱し,社会一般の道徳観念ないしは国際信義に反し,公の秩序を害するものであるから,本件商標は法4条1項7号に該当すると判断した。

しかし,当裁判所は,審決が認定した事実の下において,少なくとも法4条1項7号に該当するとした点には誤りがあり,審決は取り消すべきものと判断する。

以下,この点について述べる。

(1) 法4条1項7号について

商標法は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標登録を受けることができず,また,無効理由に該当する旨定めている(法4条1項7号,46条1項1号。法4条1項7号は,本来,商標を構成する「文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(標章)それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に,そのような商標について,登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である(商標の構成に着目した公序良俗違反。)

ところで,法4条1項7号は,上記のような場合ばかりではなく,商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても,商標保護を目的とする商標法の精神にもとり,商品流通社会の秩序を害し,公の秩序又は善良な風俗に反することになるからそのような者から出願された商標について,登録による権利を付与しないことを目的として適用される例がなくはない。(主体に着目した公序良俗違反)確かに,例えば,外国等で周知著名となった商標等について,その商標の付された商品の主体とはおよそ関係のない第三者が,日本において,無断で商標登録をしたような場合,又は,誰でも自由に使用できる公有ともいうべき状態になっており,特定の者に独占させることが好ましくない商標等について,特定の者が商標登録したような場合に,その出願経緯等の事情いかんによっては,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,国家・社会の利益,すなわち公益を害すると評価し得る場合が全く存在しないとはいえない。

しかし,商標法は,出願人からされた商標登録出願について,当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに,類型を分けて,商標登録を受けることができない要件を,法4条各号で個別的具体的に定めているから,このことに照らすならば,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては,特段の事情がない限り,当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。すなわち,商標法は,商標登録を受けることができない商標について,同項8号で「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定し,同項10号で「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標・・・」と規定し,同項15号で「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標・・・」と規定し,同項19号で「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的・・・をもって使用をするもの・・・」と規定している。商標法のこのような構造を前提とするならば,少なくとも,これらの条項(上記の法4条1項8号,10号,15号,19 号)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については,専ら,当該条項の該当性の有無によって判断すべきであるといえる。

また,当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた法4条1項19号の趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。

そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者(例えば,出願された商標と同一の商標を既に外国で使用している外国法人など)との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合(例えば,外国法人が,あらかじめ日本のライセンシーとの契約において,ライセンシーが自ら商標登録出願をしないことや,ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ることができたにもかかわらず,そのような措置を怠っていたような場合)は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。以下,上記の観点から,審決を検討する。

(2) 審決の理由について

ア 審決の事実認定及び判断の内容

審決の事実認定及び判断の内容は,次のとおりである。

(ア)「CONMAR 」の文字からなる米国商標は,もともとは米国のコンマー社が,その製造販売するファスナーに使用していたものであり,コンマー社のファスナーは,第二次世界大戦以降,米軍用フライトジャケットに多く採用され,1950年,60年代においては,米軍用フライトジャケットのファスナーにおいて大きなシェアを占めていた。その後コンマー社は廃業し「CONMA R」の文字からなる米国商標は,スコービル社に承継された。

被告は昭和11年に米国で設立されたファスナーの製造会社であり,当該分野で世界第2位の規模を有しており,9か国に営業所を有している。被告は,平成8年にスコービル社を吸収合併し,その際にスコービル社から「CONMAR」の文字からなる米国商標を承継したが,同米国商標は,同年3月失効した。その後,被告は「CONMAR」の文字からなる米国商標を,ファスナーについて取得した。

米国及び日本にはフライトジャケットの愛好者がおり,専門業者や専門誌が存在し,古着の米軍用フライトジャケットや米軍用フライトジャケットを復刻したものなどが取引されている。ファスナーは,フライトジャケットの製造年代やモデルを識別するための重要な手がかりとなるため,フライトジャケットの取引に当たっては,ファスナーのブランドを明記する場合が多い。

(イ)リアルマッコイズ社は,服飾類の販売等を目的とする株式会社であり,平成14年に解散しているが,その本店所在地は,原告の従前の本店所在地と同一であり,原告の代表取締役であるA,原告の取締役であったBは,いずれもリアルマッコイズ社の取締役,代表取締役であったことがある。

リアルマッコイズ社は,平成4年末から平成7年末にかけてスコービル社との間で「CONMAR」との表示を付したファスナーの製造委託について交渉した。被告は,平成10年から平成12年にかけて,リアルマッコイズ社との間で「CONMAR」との表示を付したファスナーについて商談を行い「CONMAR 」との表示を付したファスナーをリアルマッコイズ社に供給した。

(ウ)上記の事実によれば,「CONMAR」の文字からなる米国商標は,本件商標の登録出願時である平成15年6月の時点において,既に米国のみならず日本においても,フライトジャケットの分野においてある程度知られた存在になっていた。そうすると,リアルマッコイズ社がスコービル社との間で「CONMAR」との表示を付したファスナーの製造委託について交渉し,更にその後被告と商談を行い,被告から「CONMAR」との表示を付したファスナーの供給を受けたのは「CONMAR 」の文字からなる米国商標が付されたファスナーが存在すること及び同米国商標が被告に帰属することを知っていたためと推認される。

原告は,リアルマッコイズ社を原告の前身会社として自認しており,原告とリアルマッコイズ社が本店所在地,役員において共通していることから,原告とリアルマッコイズ社は実質的に同一といい得るのであって,リアルマッコイズ社が「CONM AR」の文字からなる米国商標が付されたファスナーの存在及び同米国商標の被告への帰属を知っていたことからすると,原告もこれらを知っていた。

(エ) 以上を総合すると,原告は「CONMAR」との文字からなる米国商標が被告の商標であることを認識しながら「CONMAR」との文字からなる商標が日本において商標登録されていないことを奇貨として,被告に無断で剽窃的に,スライドファスナーを含む「ボタン類」を指定商品として本件商標を出願し,登録を受け,ひいては被告の日本国内への参入を阻止しているものであり,そうすると,本件商標の登録を認めることは,公正な取引秩序を乱し,社会一般の道徳観念ないしは国際信義に反し,公の秩序を害するものであるから,本件商標は法4条1項7号に該当する。

イ 審決の認定,判断の当否

しかし,本件商標が法4条1項7号に該当するとした審決の判断には,以下のとおり,誤りがあると解する。

すなわち,確かに,リアルマッコイズ社は,平成4年末から平成7年末にかけてスコービル社との間で「CONMAR」との表示を付したファスナーの製造委託について交渉したこと,そして,リアルマッコイズ社は,平成10年から平成12年にかけて,被告から「CONMAR」との表示を付したファスナーの供給を受けたことから,リアルマッコイズ社は,「CONMAR」との米国商標が被告に帰属したとの事実を認識していたと推認される事情があったと解される。

しかし,①原告と被告との間の紛争は,本来,当事者間における契約や交渉等によって解決,調整が図られるべき事項であって,一般国民に影響を与える公益とは,関係のない事項であること,②本件のような私人間の紛争については,正に法4条1項19号が規定する「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的・・・をもって使用をするもの・・・」との要件への該当性の有無によって判断されるべきであること,③被告が米国において有している商標権は,あくまでも私権であり,被告がそのような権利を有したからといって,原告が,日本において,同商標と類似又は同一の商標に係る出願行為をすることが,当然に「公の秩序又は善良な風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものとは解されないこと,④被告は,スコービル社から承継した「CONM AR」との文字からなる米国商標(第324 689号)に係る商標権については,平成8年3月,更新せずに消滅させており,また,ファスナーについて「CONM AR」との文字からなる米国商標の登録を平成13年12月に受けた者から,同米国商標に係る商標権の譲渡を受けているなどの事情があり,その子細は必ずしも明らかでないこと,⑤審決において,原告が本件商標の登録を受けたことは認定されているが,それを超えて原告が被告の日本国内への参入を阻止していることを基礎づける具体的な事実は,何ら認定されていないこと,⑥原告の本件商標の出願は,後記認定のとおり,法4条1項19号に該当するのみならず,同項10号,15号にも該当する事由が存在するといえること等を総合すると,本件について,原告の出願に係る本件商標が「公の秩序又は善良な風俗を害する」とした審決の判断には,誤りがあるというべきである。

したがって,本件商標に法4条1項7号所定の無効事由があるとした審決は取り消すべきものと判断する。

2 付加的判断

当裁判所は,被告が,法4条1項7号,10 号,15号,19号に該当することを理由として,本件商標の無効審判請求をしたのに対し,審決が法4条1項7号に該当するとの判断をした点において,誤りがあると解するものであるが,本件紛争のすみやかな解決に資するため,以下のとおり付加して判断を示すこととする。

(1) 事実認定

ア 「CONMAR 」との表示の由来と周知性

(ア)コンマー社による米国商標の登録

甲23(原告が特許庁審査官に対して平成16年3月3日に提出した意見書)のうちの添付資料及び弁論の全趣旨によれば,「CONMAR」の文字からなる米国商標(第3246 89号)は,もともとは米国のコンマー社が,その製造販売するファスナーに使用していたものであり,昭和10年5月28日に登録されたことが認められる。乙6によれば,上記米国商標は,昭和50年5月28日に第2回更新が行われたことが認められる。

(イ)インターネットにおけるコンマー社製ファスナーの紹介等a 甲10は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されていたMASH-JAP AN作成のコンマー社のファスナーの紹介記事であり「WW Ⅱ時,軍用ファスナーにおけるTALON のシェアを仮に50%とすると後の50%をCONMAR とCROWNが二分した感がある。WWⅡ時のシェアにおいてTALONに遅れを取ったCONM ARではあったが,50年代,60年代のAFフライトジャケットに関しては,このメーカーのブラックフィニッシュ・ファスナーが多用され,多くのフライトジャケットファンには馴染み深いメーカーである」と記載されており,コンマー社の5種類のファスナーの写真が掲載されている。

b 甲11は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されていた有限会社レッドクラウド作成のファスナーの紹介記事であり,米国のファスナーの各製造メーカーについて説明が記載されており,各メーカーのファスナーの引き手の写真が多数掲載されている。このうち「CONMAR 」については,1930 年代後半よりA-2などフライトジャケットに多く採用され,1950 から1960年代頃には約70%ものシェアを誇っていた旨が記載されている。

c 甲13は,平成16年8月16日ころインターネットに掲載されていたゴールドラッシュ作成の古着の米軍用フライトジャケットの販売記事であり,販売対象とされている各フライトジャケットについて,写真,商品名,サイズ,状態とコメント,価格が記載されており,状態とコメントの欄に,ファスナーのメーカーが記載されているものが多く,コンマー社製のファスナーを使用したものも相当数掲載されている。

d 甲14は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されていたF.J.VECK 作成のフライトジャケットの紹介記事であり,リアルマッコイズ社が米軍用フライトジャケットを復刻した製品が紹介されており,その中に「フロントジッパーは合衆国連邦規格V-F-1 06に合格した大型のコンマージッパー」とあり,コンマー社のファスナーを使用していることが掲載されている。

e 甲15は,平成16年8月17日ころインターネットに掲載されていたウォルフローブ作成の古着の米軍用フライトジャケットの販売記事であり,販売対象とされている各フライトジャケットについて,商品名,製造年,サイズ,状態,価格の他,使用されているファスナーの製造会社が記載されており,コンマー社製のファスナーを使用したものも相当数掲載されている。

f 甲16は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されていたShinji Noki 作成のフライトジャケットの紹介記事であり,リアルマッコイズ社が米軍用フライトジャケットを復刻した製品が紹介されており,その中に「そして忘れてはならないのが,黄金色に光るCONMA Rジッパー」とあり,コンマー社のファスナーを使用していることが掲載されている。

g 甲17は,平成16年8月17日ころインターネットに掲載されていたジーンズのズボンの紹介記事であり,コンマー社のファスナーを使用していることが掲載されている。

h 甲18は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されていた,リアルマッコイズ社が販売しているフライトジャケットの一覧表であり,各商品について,品名,材質,色などの他,ファスナーのメーカーが記載されており,コンマー社製のファスナーを使用したものも相当数掲載されている。

i 甲19は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されていたMASH-JAP AN作成のコンマー社のファスナーの紹介記事であり,第二次世界大戦から1960 年代にかけての時期に製造されたとされる8種類のコンマー社製のファスナーについて,その写真とともに,品名,基本長さ,価格などが掲載されている。

j 甲20は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されていたIZUMI YA作成の補修部品(Repair parts)としてのファスナーの紹介記事であり,取り扱っているファスナーのメーカーとして,TALON,CROWN,GRIPPER,YKK,WALDES,ORIGINA Lなどの他,CONM ARが記載されている。

(ウ)コンマー社製ファスナーの写真

甲9(コンマー社製ファスナーの写真)によれば,コンマー社製のファスナーの中には,引き手に「CONMAR」との表示を付したものがあったことが認められる。

(エ)フライトジャケットのカタログ

甲12は,成美堂出版が平成8年12月及び平成10年12月に発行した「フライトジャケットカタログ」と題するカタログ(単行本,ソフトカバー)の表紙の写しである。

平成8年12 月発行のカタログの表紙には,題名の他「定番モデルから超最新作までメーカー別に一挙大公開!!」と記載され,メーカー等の表示として「AVIREX/ALPHA/EVIS/C.A.B/C.C.MASTERS/NAKATA SHOTEN/BUZZ RICKSON’S/THE REAL McCOY’S/MAS H」と記載されている。また「INTERVIEW」,「魅力を語る!」という見出しの下に「バックペイント・アーティスト(ザ・リアルマッコイズ)・・・」と記載されている。

平成10年12月発行のカタログの表紙には,題名の他「“FLIGHT JACKET OF THE YEAR”」,「’99 シーズンのトピックス」と記載され,メーカー等の表示として「TOYO ENTERPRISE/THE REAL McCOY’S/Pherrow ’s/AVIREX USA/NAKATA SHO TEN」と記載されている。

上記の「THEREAL McCOY’S」,「ザ・リアルマッコイズ」とは,リアルマッコイズ社を指すものと推認される。

(オ)「CONMAR 」との表示の由来と周知性

a 以上によれば,①コンマー社のファスナーは,第二次世界大戦以降,米軍用フライトジャケットやジーンズに使用され,1950年代,60年代には,一説によれば米軍用フライトジャケットのファスナーについて約70%のシェアを有していたといわれるほど多く使用されていたこと,②遅くとも「フライトジャケットカタログ」と題するカタログ(甲12)が発行された平成8年ころまでには,日本において,フライトジャケットについて,愛好家等による市場が成立し,古着の米軍用フライトジャケットや米軍用フライトジャケットを復刻したものの取引が行われ,それらの取引業者が複数存在したこと,③日本においても市場が成立していたことからして,米軍用フライトジャケットが製造,使用された本国ともいうべき米国においても,平成8年より前にフライトジャケットについて愛好家等による市場が成立していたこと,④フライトジャケットについて,ファスナーは注目される部分の一つであり,フライトジャケットの取引において,どのメーカーのファスナーが使用されているかを明示することが多いこと,⑤補修部品等としてファスナーだけの取引も行われていること,⑥コンマー社製のファスナーの中には,引き手に「CONMAR」との表示を付したものがあったこと,⑦遅くとも日本においてフライトジャケットの市場が成立していた平成8年ころから現在に至るまで「CONMAR」との表示は,コンマー社及びそのファスナーに関する事業を引き継いだ者のファスナーを表示するものとして,日本国内及び米国において,それらのファスナーの需要者であるフライトジャケットの取引業者や愛好家等の間で広く知られていることが認められる。

b 原告は,日本においては,リアルマッコイズ社が「CONMAR」との表示が付されたファスナーを製造販売するまでは,ファスナー自体が注目されることはなく「CONMAR 」との文字からなる米国商標は全く知られておらず,日本において米軍用フライトジャケットの復刻版の市場を作ったのはリアルマッコイズ社であった旨主張する。

確かに,甲12のカタログ表紙の記載や後記乙15の記載からすると,リアルマッコイズ社及び原告は,日本のフライトジャケットの主立った業者に含まれ,市場形成に寄与しており,リアルマッコイズ社及び原告の営業活動を通じて日本における「CONMAR」との表示の周知性が高まった面のあることは認められる。しかし,そうであるとしても, それによって「CONMAR」との表示がコンマー社及びそのファスナーに関する事業を引き継いだ者のファスナーを表示するものとして広く知られていたことが否定されるものではない。

イ コンマー社の廃業とスコービル社による承継

甲22,甲23のうちの添付資料及び弁論の全趣旨によれば,コンマー社は廃業し,その事業及び商標権をスコービル社が承継したこと,そのため「CONMAR 」との文字からなる米国商標(第324689号)に係る商標権もスコービル社が承継したことが認められる。

ウ 被告によるスコービル社からの商標,事業等の承継

(ア)スコービル社と被告の間の資産譲渡契約

a 乙4は,平成8年2月22日付けのスコービル社と被告との間における資産買取に関する契約の契約書であり,弁論の全趣旨によれば,この契約書は,同日に米国ジョージア州法を準拠法として効力が生じたことが認められる。(以下,この契約を「資産譲渡契約」という。)

b 乙4には,次のとおり記載されている。

「1.定義」の項には「営業”は,ジッパー及びジッパー関連商品の製造に関する売主の営業を意味する」と記載されている。(ジッパーとは,スライドファスナーの意味である。)

「2.1 資産売買」のうちの「2.1.2 」の項の本文には「以下に販売される資産は,売主によって所有されていた資産及び権利の全てであり,営業上使用されていたものである。限定的な意味ではないが,以下を含んでいる。」と規定され,「2. .2」のうちの(h)1の項には, 売買の対象となる知的財産権として「営業上使用された全ての無体財産権及びこの無体財産権に関連した業務上の信用「業務上独占的に用いられていた全ての・・・商標・・・」,「国内外で登録又は未登録の全ての登録及び出願」,「及び全ての商標及び特許,より特筆すると,添付F-1に示されているものを含む。そして,添付F-2 に示された追加商標については,売主は全ての商標が購買者の名義となるよう移転手続を行うことに完全に協力する」と記載されている。

そして,乙4の添付F-2には,カナダで登録された「CONMAR」との文字からなる商標が記載されている。

(イ)被告のカタログの記載

甲5(被告のカタログ)によれば,被告は,昭和11年に米国で設立されたスライドファスナーの製造会社であり,当該分野で世界第2位の規模を有しており,9か国に営業所を有することが認められる。甲5には, 被告が平成8年にスコービル社から「Scovill 」の表示を付したファスナーの事業及び「Conmar 」の表示を付したファスナーの事業を取得した旨記載されている。

(ウ)インターネット上の新聞記事

乙4の3(インターネット上の新聞記事)によれば,被告がスコービル社からファスナーに関する事業を買い受けたこと,その買受けは,「GRIPPER」や「CONMAR」の商標を使用して製造されてきたファスナーの機械設備を含むことなどが,インターネット上の新聞記事において公開されたことが認められる。

(エ)被告によるスコービル社からの商標及び事業の承継

前記イのとおり,スコービル社は「CONMAR」との文字からなる米国商標に係る商標権をコンマー社から承継したこと,後記オ(ア)のとおり,スコービル社は,平成5年から平成7年にかけて「CONMAR」との表示を付したファスナーを製造してリアルマッコイズ社に販売し「CONMA R」との文字からなる米国商標を使用していたといえることからすれば,資産譲渡契約を締結した当時,スコービル社は,「CONMAR」との文字からなる米国商標に係る商標権を有していたものと認められる。

そして,前記(ア)の資産譲渡契約の文言,前記(イ)の被告のカタログ,新聞記事の記載を考慮し,後記オ(イ)のとおり,被告が平成10年から平成12年にかけてリアルマッコイズ社と「CONMAR」との表示を付したファスナーの取引を行っており,後記カのとおり,被告が,平成14年から平成16年にかけて,中国の企業に「CONMAR 」との表示を付したファスナーを販売していたことをも考慮すると,被告は,資産譲渡契約に基づき,スコービル社から,ファスナーに関する事業(「CONM AR」との文字からなる米国商標(第3246 89号)を使用する事業を含む,及び「CONMAR 」との文字からなる米国商標(第324 689号)に係る商標権を承継したものと認められる。

(オ)米国商標に係る商標権の消滅等

a 甲22,甲23のうちの添付資料,乙6及び弁論の全趣旨によれば,被告がスコービル社から承継した「CONMAR」との文字からなる米国商標(第324689号)に係る商標権は,平成8年3月4日,更新されずに消滅したことが認められる。

甲6(米国特許商標庁の公開商標公報)によれば,Cは,平成13年12月18日,ファスナーについて「CONMAR 」との文字からなる米国商標(第2520055号)の登録を受け,被告は,この商標に係る商標権の譲渡を受けたことが認められる。

乙12(米国特許商標庁の登録原簿)によれば,被告は,平成17年3月22日,スライドファスナーについて「CONMAR」との文字からなる米国商標(第2935032号)の登録を受けたことが認められる。

このように,被告が現在有する「CONMAR」との文字からなる米国商標(第2520055号,第2935032号)に係る商標権は,コンマー社からスコービル社を経て承継されたものそれ自体ではなく,被告がCから譲渡を受け,又は被告が新たに登録を受けたものである。

b しかし,後記オ(ア)のとおり,スコービル社は平成5年から平成7年にかけてリアルマッコイズ社と「CONMAR」との表示を付したファスナーの取引を行っており,後記オ(イ)のとおり,被告は平成10年から平成12年にかけてリアルマッコイズ社と「CONMAR」との表示を付したファスナーの取引を行っていた。また,後記カのとおり,被告は,平成14年から平成16年にかけて,中国の企業に「CONMAR」との表示を付したファスナーを販売していた。

したがって,被告がスコービル社から承継した米国商標(第324689号)に係る商標権が消滅し,被告が新たに「CONMAR」との文字からなる米国商標(第2520055号,第2935032号)の譲渡,登録を受けたものであることを考慮しても,スコービル社と被告の間の資産譲渡契約が締結された平成8年から現在に至るまで,ファスナーについて「CONMAR」との表示は,コンマー社及びそのファスナーに関する事業を引き継いだ被告を出所として表示するものであったと認められる。

エリアルマッコイズ社,原告及び原告代表者

(ア)リアルマッコイズ社について

甲73ないし75によれば,リアルマッコイズ社は,服飾類の卸売・小売,玩具の製作・販売等を目的として,昭和63年6月22日,設立され,設立時の商号は「株式会社ハリオス.コー.ジヤパン」であり,平成8年6月22日「株式会社ザ・リアルマッコイズ・ジャパン」に商号変更し,同月24日,その旨登記されたこと,Aは,遅くとも平成7年ころからリアルマッコイズ社の取締役になり,代表取締役に就任した時期もあったこと,リアルマッコイズ社は,平成13年7月2日,東京地方裁判所の再生手続が開始し,平成14年1月24日,再生計画認可決定が確定したが,同年8月8日解散し,同年9月13日,再生手続が終結したこと,その後,平成17年11月9日,破産手続が開始し, 平成19年3月22日,破産手続が終結したことが認められる。

(イ)原告について

甲53,甲73によれば,原告は,人形の販売,服飾雑貨の製造等を目的として,平成8年5月15日設立され,設立時の商号は「有限会社トイズ・マッコイ」であり,平成14年2月19日,現商号に変更し,同日,その旨登記されたこと,原告は,当初は,リアルマッコイズ社の本店所在地(東京都渋谷区代官山町7番5号)を本店所在地としていたが,平成14年2月19日,本店所在地を現在の場所へ移転したこと,原告の取締役はAの他1名であり,原告の代表取締役はAが務めていること,原告の代表取締役であるA,原告の取締役であったBは,いずれもリアルマッコイズ社の取締役代表取締役であったことが認められる。また,乙15の記載によれば,原告は,フライトジャケットや,ファスナーなどフライトジャケットの構成部材の取引を行っていることが認められる。

(ウ)原告代表者について

乙15は「TOYS McCOY PERFECT BOOK 」と題する書籍(平成19年(2007年)秋・冬号)の表紙及びその抜粋である(「TOYS McCOY」とは原告を指す。)。乙15の表紙には,その題名の他,「Aの世界を徹底的に追及した一冊!」と記載され,抜粋中の「OLD BUT GOLD」と記載された頁には,原告代表者であるAがフライトジャケット等のファンであり,多数のフライトジャケットを収集し,それらをもとに原告の製品が誕生することなどが記載され,収集品である多数のフライトジャケットに囲まれたAの写真が掲載されている。

原告代表者であるAは,フライトジャケットやその構成部材であるファスナーについて深い知識を持ち,リアルマッコイズ社及び原告において,中心的な立場で,フライトジャケットやその構成部材であるファスナーの取引を行うとともに,リアルマッコイズ社とスコービル社・被告との取引,ボタン類(ファスナーを含む)等を指定商品とする商標登録などに関与していたと推認される。

オリアルマッコイズ社とスコービル社及び被告との取引

(ア)リアルマッコイズ社とスコービル社との取引

a 甲63(取消理由通知に対する原告作成の意見書)及び弁論の全趣旨によれば,リアルマッコイズ社とスコービル社との間の客観的な取引の経過について,①リアルマッコイズ社は,平成4年末からスコービル社との交渉を開始し,スコービル社に対し「CONMAR」との表示が付されたファスナーの製造を要請したが,スコービル社は,新たに金型を製造することは費用倒れになるとして製造依頼を拒否したこと,②リアルマッコイズ社は,平成5年春ころ,スコービル社のファスナーの中にコンマー社のファスナーとスライダーの形状が近いもの(スコービル社の№5)があるのを発見し,スコービル社に対し,スコービル社が№5のファスナーにリアルマッコイズ社の指示どおりに「CONMAR」の文字を刻印して「CONMAR 」との表示を付したファスナーを製造することを提案し,スコービル社は同提案を承諾したこと,③リアルマッコイズ社は,この合意に基づいて,スコービル社に対し「CONMAR」の文字のデザインや表示位置等を示した図面を送付し,スコービル社は,それに基づいて「CONMAR」との表示を付したファスナーを製造しリアルマッコイズ社に納入し,販売したこと,④平成7年の夏,スコービル社がファスナーの製造を中止したため,リアルマッコイズ社とスコービル社の取引は終了したことが認められる。

b これに対して,原告は,スコービル社又は被告は,リアルマッコイズ社又は原告が日本において「CON MAR」との表示又はこれに類似する表示について商標登録することについて何ら異議を述べる意思がないことを表明していたと主張し,甲63を提出する。

しかし,前記aのとおり,リアルマッコイズ社は,スコービル社との間で「CONMAR」との表示を付したファスナーの取引を行っていたものであり,後記(イ)のとおり,リアルマッコイズ社は,スコービル社がファスナーの製造を中止した後も,被告と「CONMAR」との表示を付したファスナーの製造に関して交渉を行い,被告から購入する「CONMAR」との表示を付したファスナーを販売する限りにおいて「CONMAR」との表示を使用する非独占的な使用権を許諾され,平成10年から平成12年にかけて被告と「CONMAR」との表示を付したファスナーの取引を行い,また,被告は,後記カのとおり,平成14年から平成16年にかけて,中国の企業に「CONMAR」との表示を付したファスナーを販売していたものである。上記事実に照らすと,スコービル社又は被告が,リアルマッコイズ社等による「CONMAR」との表示の使用に対して権利行使を一切しないことを表明したとは認められないし,権利行使をする意思がないとも認められない。また,スコービル社又は被告が,リアルマッコイズ社又は原告が日本において「CONMAR」との表示又はこれに類似する表示について商標登録することについて何ら異議を述べる意思がないことを表明したとは認められない。

(イ)リアルマッコイズ社と被告との取引

a 被告がスコービル社との間で資産譲渡契約を締結した後の平成8年12月ころから,リアルマッコイズ社は,被告との間で取引を行うための交渉を開始した。(弁論の全趣旨)

リアルマッコイズ社は,平成10 年には,被告との間で「CONMAR」との表示を付した№5のファスナー(リアルマッコイズ社がスコービル社から供給を受けていたのと同様のもの)について契約を締結するための交渉を行った。(甲24, 甲55ないし61 ,乙7 )

その交渉の過程で被告がリアルマッコイズ社に宛てたファックス(平成10 年5 月15 日付け)には「5月7日の貴信及び貴殿の代理人レポートについて,我々は,6.1項に述べられた内容について同意します。我々は6.2 項に述べられた条件についても同意します。しかしながら,CONM AR商標について全体的な権利を貴社に付与できない理由は,ご承知のとおり,我々はCONMAR 商標をビンテージタイプではなく,他のタイプのスライダーについて使用しているためです。そのため,それらの権利を認めると貴社と混同が生じることになるでしょう。しかし,貴社の代理人であるD氏が手紙中の6項で示された点は,我々にとって同意できるものです」と記載されていた。(乙7 )

b リアルマッコイズ社の代理人D(ニュージーランドの弁護士)が,同社に宛てたファックスには「案文における問題は,彼らがCONMAR 商標を他のジッパーに使用しているため,貴社に全体的な権利をあげることに賛成できないことだと述べている。( 「彼ら」とは被告を指し,「貴社」とはリアルマッコイズ社を指す。)「しかし,我々は,CONM AR商標について非独占的であることを基準として,案文を作成していました。この意味は,アイディアルファスナー社は,CON MAR商標をいかなる場所でも使用できるというものでした。もし,アイディアルファスナー社が非独占使用権を貴社に付与することを惜しまないのであれば,我々の前のファクシミリの6.1及び6.2 項にある我々によって提案された条文は必要ないです」と記載されていた(乙8。)

c リアルマッコイズ社と被告は,平成10年6月15日,ファスナーのスライダー金型の設計,製造等に関する契約を締結した。同契約においては,リアルマッコイズ社が被告にスライダー金型の設計,工作及び製造を委託し,被告がその金型を使用してファスナーを製造することなどが定められた。同契約書には「アイディアルファスナー社は,リアルマッコイズ社に『Conmar 』のデザイン・標章及びロゴをスライダーダイズに使用するための,非独占的で使用料の無い使用権を付与する。かかる使用権は,スライダーダイズの生産作業を持続するためのものである。アイディアルファスナー社は,かかる使用権許諾が, 第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する。」( 4.「 スライダーダイズの管理」の項末尾)と記載されていた。(乙9 )

d 上記aないしcの事実によれば,リアルマッコイズ社は,被告との間で,被告から購入する「CONMAR」との表示を付したファスナーを販売する限りにおいて「CONMAR」との表示を使用する非独占的な使用権を許諾されたものと認められる。

e 甲25 ないし31( 被告のリアルマッコイズ社宛ての請求書,甲32)( 「CONMAR」の表示を付したファスナーの写真)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,上記契約に基づき,平成11年5月から平成12 年6 月まで「CONMA R」との表示を付したファスナーをリアルマッコイズ社に販売し,納入したことが認められる。なお,甲25ないし31の品名欄の「AUSTRCONO BAUSTIRCON 7 BS」という記載は「CONMAR」との表示が付されたファスナーを意味するものと認められる。

カ 被告による「CONMAR」との文字からなる米国商標の使用甲33ないし52(被告作成のインボイス)によれば,被告は,平成14年から平成16年にかけて,中国の企業に「CONMAR」との表示を付したファスナーを販売していたことが認められる。

キ リアルマッコイズ社及び原告による商標登録

(ア)リアルマッコイズ社による商標登録

リアルマッコイズ社は,平成5年9月6日「COMMER」との文字からなる商標を,商品の区分を第26類,指定商品を「ボタン類」等として出願し,平成8年4月30日,登録(第3150809号)を受けた(甲76(第1商標権目録番号12 ,乙2。リアルマッコイズ社は,平成11年4月30日「McCOY CONMER」との文字からなる商標を,商品の区分を第26類,指定商品を「ボタン類」として出願し,平成12年3月17日,登録(第4368983号)を受けた(甲76(第1商標権目録番号21 ,乙3)。リアルマッコイズ社は,これらの事実を被告に告げず,被告も,上記各商標の出願,登録を知らなかった。

(イ)リアルマッコイズ社から原告への商標権の譲渡

前記(ア)の各商標については,平成14年12月5日,リアルマッコイズ社から原告へ移転登録がされた(甲76(第1商標権目録番号1,21 。)

前記エ(ア)のとおり,リアルマッコイズ社については,平成17年11月9日,破産手続が開始された。破産手続において,リアルマッコイズ社破産管財人は,平成18年12月22日,原告との間で,原告が前記(ア)の各商標の商標権者であることを認める旨の合意をした甲76, 6条(1)。

(ウ)原告による商標登録

原告は,平成15年6月30日,本件商標を出願し,平成16年2月20日,登録を受けた。原告は,平成15 年7月4日「コンマー」及び「CONMAR」の文字を上下二段に横書きしてなる商標を,商品の区分を第26類,指定商品を「ボタン類」として出願し,平成16年5月28日,登録(第4774951号)を受けた弁論の全趣旨。原告は,平成15年7月4日「McCOY CONMAR」との文字からなる商標を,商品の区分を第26類,指定商品を「ボタン類」として出願し,平成16年3月26日,登録(第47593 18号)を受けた。( 乙11)

原告は,上記の事実を被告に告げず,被告も,上記各商標の出願,登録を知らなかった。

(エ)登録異議

「コンマー」及び「CONMAR」の文字を上下二段に横書きしてなる商標(商標登録第4774951号)の商標登録に対しては,平成16年8月31日,登録異議の申立てがあったが,平成17年10月31日,商標登録を維持する旨の異議決定がされた(甲62,63 ,弁論の全趣旨。また, 本件商標の商標登録に対しては,平成16年5月25日,登録異議の申立てがあったが,平成17年9月21日,商標登録を維持する旨の異議決定がされた。(甲64,弁論の全趣旨。)

(オ)「CONMAR 」との表示との類似性等

本件商標と「CONMAR」との表示を対比すると,両者は,コンマーとの共通の称呼が生じ,本件商標の英文字部分の「CONMER」について,その部分の第5字目が「E」か「A」かの点で異なるのみで外観が類似するから,両者は類似する。

その他の商標について,①商標登録(第3150809号)に係る商標「COMMER (前記(ア)) と「CONMAR」との表示とを対比すると,両者は,コンマーとの共通の称呼が生じ,第3字目が「M」か「N」か,第5字目が「E」か「A」かの点で異なるのみで外観が類似するから,両者は類似する。②商標登録(第4368983号)に係る商標「McCOY CONMER」( 前記(ア) )と「CONMAR」との表示を対比すると「CONMER」との構成部分について,両者ともコンマーとの共通する称呼が生じ,第5字目が「E」か「A」かの点で異なるのみで,当該部分の外観が類似する。③商標登録(第4774951号)に係る「コンマー」及び「CONMAR」の文字を上下二段に横書きしてなる商標(前記(ウ))と「CONMAR 」との表示とを対比すると,両者は,コンマーとの共通の称呼が生じ,英文字部分の「CONMAR」が共通するから,両者は類似する。④商標登録(第4759318号)に係る商標「McCOY CONMAR(前記(ウ)) と「CONMAR 」との表示とを対比すると「CONMAR」との構成部分について,両者ともコンマーとの共通する称呼が生じ,当該部分の外観が共通する。

以上のとおり,リアルマッコイズ社が登録を受けて原告に移転登録された商標及び原告が登録を受けた商標は,いずれも「CONMAR」との表示と類似し,又は共通する部分を含むものである。

(1) 各無効事由の存否について

以上の事実を前提として,本件商標が,法4条1項10号,15号,19号に該当するか否かについて検討する。

ア 「CONMAR」との表示は,遅くとも日本においてフライトジャケットの市場が成立していた平成8年から現在に至るまで,コンマー社及びそのファスナーに関する事業を引き継いだ者(現在は,被告である) のファスナーを表示するものとして,これらのファスナーの需要者であるフライトジャケットの取引業者や愛好家の間で広く知られているから,他人の業務に係る商品(ファスナー)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標に該当するものと認められる。本件商標は「CONMAR」との表示に類似する商標である。また,ファスナーは,本件商標の指定商品は「ボタン類」の範囲に含まれ,原告が,フライトジャケットや,ファスナーなどフライトジャケットの構成部材の取引を行っていることから,本件商標は,フライトジャケット又はその他の衣類のファスナーに使用されるものと推認される。そうすると,本件商標は,他人の業務に係る商品(ファスナー)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標であって,その商品(ファスナー)に使用をするものに該当すると認められる。したがって,本件商標には,法4条1項10号の無効事由があると認められる。

イ また,本件商標は「CONMAR」との表示に類似する商標であり,「CONMAR」との表示が使用されているのと同一商品(ファスナー)に使用されるから,本件商標は,他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標に該当すると認められる。

したがって,仮に本件商標に法4条1項10号の無効事由がないとしても,本件商標には,法4条1項15号の無効事由があると認められる。ウさらに,本件商標は,他人の業務に係る商品(ファスナー)を表示するものとして日本国内及び米国において需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であると認められる。そして,前記()の認定事実中,① 原告代表者のAは,フライトジャケットやその構成部材であるファスナーについて深い知識を有しており,リアルマッコイズ社及び原告において,中心的な立場でフライトジャケットやファスナーの取引を行うとともに, ボタン類(ファスナーを含む)等を指定商品とする商標登録(本件商標を含む)を行っていたこと(前記(1)エ(ウ)), ②リアルマッコイズ社は,スコービル社及び被告と「CONMA R」の表示が付されたファスナーの取引をし,被告により,被告から購入する「CONMAR」との表示を付したファスナーを販売する限りにおいて「CONMAR」との表示を使用する非独占的な使用権を許諾されていたこと(前記(1)オ,③リアルマッコイズ社が登録を受けて原告に移転登録された商標及び原告が登録を受けた商標(本件商標を含む)は「CONMAR」との表示と類似し又は共通する部分を含むものであること(前記(1)キ)を総合考慮すると, 原告は「CONMAR 」との表示がコンマー社及びそのファスナーに関する事業を引き継いだ被告のファスナーの表示として需要者の間で広く認識されていることを知りながら,その表示と類似する本件商標の登録を得てこれを使用するものであり,本件商標は,原告が,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものであると認められる。

したがって,仮に本件商標に法4条1項の1号から18号までの各号に掲げる無効事由がないとしても,本件商標には,法4条1項19号の無効事由があると認められる。

結論

前記1で判示したとおり,本訴請求は理由があるから,主文のとおり判決する。

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