知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 


平成19年(行ケ)第10293号審決取消請求事件


主文

特許庁が不服2004-65058号事件について平成19年3月29日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨の判決

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成15年4月4日,後記2のとおりの構成からなる商標(以下「本願商標」という)について,第30類の商品「Chocolate,pralines.」(チョコレート,プラリーヌ)を国際登録出願に係る商標の保護を求める商品として国際登録出願(国際登録番号第803104号)をしたが,日本国指定官庁である特許庁は,平成16年3月24日付けで拒絶査定をしたので,同年7月21日,不服審判を請求した。特許庁は,上記請求を不服2004-65058号事件として審理し,平成19年3月29日に「本件審判の請求は成り立たない」との審決をし,その謄本は同年4月9日原告に送達された。

2 本願商標の構成

本願商標の構成は,別紙のとおりである。

3 審決の理由の要旨

審決の理由は,以下のとおりであるが,その内容は,要するに,本願商標は商標法3条1項3号に該当し,また同条2項の適用により登録を受けられるべきものにも該当しないというものである。

「(1)立体商標( 制度) について

立体商標は, 商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物( 以下「商品等」という) の形状も含むものであるが, 商品等の形状は, 本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり, あるいは, その商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものであり, 本来的( 第一義的) には商品・役務の出所を表示し, 自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない。

そして,商品等の形状に特徴的な変更, 装飾等が施されていても,それは,前記したように,商品等の機能又は美感をより発揮させるために施されたものであって,本来的には,自他商品を識別するための標識として採択されるものではなく,全体としてみた場合,商品等の機能,美感を発揮させるために必要な形状を有しているにすぎない場合には,これに接する取引者・需要者は, 当該商品等の形状を単に表示したものであると認識するに止まり,たとえ,その形状が,多少特異なものであっても,未だ,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないものと解するというのが相当である。

また,商品等の形状は,同種の商品等にあっては,その機能を果たすためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから,取引上何人もこれを使用する必要があり,かつ,何人もその使用を欲するものであって,一私人に独占を認めるのは妥当でないというべきである。

そうとすれば,商品等の機能又は美感と関係のない特異な形状である場合はともかくとして,商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については,使用をされた結果,当該形状に係る商標が単に出所を表示するのみならず,取引者・需要者間において,当該形状をもって同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っている場合を除き,

商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法第3条第1項第3号に該当し,商標登録を受けることができないものと解すべきである。

(2) 本願商標の識別力について

これを本願についてみれば,本願商標は,別掲のとおり,板状のチョコレートと思しき平形の直方体の図形の上部に溝を設けて4つの部分に区切り,それぞれの面上に,立体的なマーブル模様の魚介類の形状を乗せた立体的形状よりなるところ,本願商標の構成中,比較的看者の注意を惹くと思われる立体的なマーブル模様の魚介類のデザインは,本願指定商品との関係では,チョコレート菓子の美感( 例えば,見た目の美しさ)を発揮させるために施されたものとみるのが自然であり,かつ,全体的観察においても格別に特異な形状を表したともいえず,チョコレートそのものの形状を普通に用いられる方法で表した標章のみからなる商標というべきである。

すなわち,本願指定商品を取り扱う業界においては,商品そのものの形状に特徴をもたせたもの,例えば,ボンボン又はプラリネとも呼ばれる一口サイズのチョコレートに種々の生物や植物等の形状を模したものや, プラリネと呼ばれるナッツクリーム等をチョコレートの中に詰めて,上部に溝を有するやや厚みのある板状にしたものを採択し,販売することが一般に行われている・・・ところ,本願商標の形状は,上記のとおり,板状のチョコレートの上部に魚介類の形状を乗せてなるものであって,上述の『種々の生物や植物等の形状』を模して形づくられたものの範囲を超えるものとはいうことができず,未だ装飾の域を脱しているものということはできないから,当該業界の取引の実情からしても,本願商標が殊更その形状をもって商品の出所識別標識として機能するとはいえないものである。

してみれば,本願商標をその指定商品に使用しても,取引者・需要者は,単に商品「Chocolate, pralines 」の形状を普通に用いられる方法で表示したにすぎないものとして理解するに止まり,結局,本願商標は,自他商品を区別するための標識としての識別力を具有しないというのが相当である。

(3) 請求人の主張について

(ア) 請求人は,本願商標が外国において登録されていることをもって,識別力がないとはいえない旨主張する。

しかしながら,出願に係る商標の登録の可否は,それぞれの国の法律に基づいて認定されるべきものであるところ,日本を指定国とする国際商標登録出願においても同様のことがいえるのであり,日本国の法律に基づいて審査を行い,登録要件を具備すると認められたもののみが商標登録を得るものである。しかして,本願商標は,上記のとおり,識別力を有するものとはいえないから,請求人の主張は採用することができない。

また,本願商標構成中の『竜の落し子』の形状に関し,該形状は平面商標としてわが国において登録されている旨述べているが, 本願商標構成中の『竜の落し子』の形状と上記登録商標とは,同一形状といえないばかりでなく, 該登録商標は,平面図形として登録されたものであるから,本願商標とは事案を異にするものである。

(イ) 請求人は,本願商標が商標法第3条第2項に該当すると主張して,審判請求書において甲第5号証ないし同第36号証(枝番も含む)を, 平成19年2月13日付け意見書において甲第37号証ないし同第41号証を提出し,意見を述べているが,使用により識別力を有するに至った商標として登録が認められるのは,その商標と同一の商標及びその商標を使用していた商品と同一の商品に関する場合のみであるところ, 請求人の提出に係る証拠中の甲第5号証及び同第6号証に掲載されている商品の写真は,本願商標と相違するものであり,また,甲第7号証ないし同第36号証, 及び同第38号証に掲載された商品写真はいずれも, 請求人を表示する出所識別標識と認められる文字標章の「GuyLiA N」の文字とともに使用されているから同一と認めることはできず, 唯一, 本願商標と同一と認められる図形のみで表示されているものは, 甲第14号証の「GuyLiA N」の商品カタログの2頁上部の写真のみである。

さらに,本願商標と同一の商標が付された商品についての宣伝広告等が,日本国内において,どの程度行われたかを示す明確な証拠もない。上記, 審判請求書において提出された証拠, 及び平成19 年2 月13 日付け意見書において追加された証拠を総合勘案すると「GuyLiAN 」の文字と, チョコレート菓子の形状を組み合せた構成よりなる標章を付した商品が, 世界の複数国で相当数販売されて, 日本国内においてもある程度知られているとしても, 我が国において, 本願商標の立体的形状のみで, 長年に亘る使用の結果, 需要者が, 請求人の業務に係る商品と認識することができるに至ったものとまではいうことができない。したがって, 請求人の主張は採用できない。

なお,立体商標が商標法第3条第2項に該当するか否かの判断において,使用標章が,他の文字等と共に使用されて識別力を発揮していることは認められても, 立体的形状のみが独立して自他商品識別力を有しているものとは認められないとされた事例として,以下が挙げられる。

(a)東京高等裁判所,平成11年(行ケ)第406号,言渡日:平成12年12月21日

(b)東京高等裁判所,平成13年(行ケ)第418号,言渡日:平成14年7月18日

(c)東京高等裁判所, 平成13年(行ケ)第446号, 言渡日:同上

(4) むすび

以上のとおり,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当し, 同法第3条第2項の要件を具備しないから, 本願を拒絶した原査定は, 妥当であって, 取り消すことができない。」

第3 審決の取消事由

1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)

(1) 立体商標制度の理解の誤り

ア 審決は「立体商標は,商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下『商品等』という)の形状も含むものであるが,商品等の形状は,本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり,あるいは,その商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で採択されるものであり,本来的(第一義的)には商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない(5 頁29行~34 行)と指摘した上で「商品等の形状に特徴的な変更,装飾等が施されていても,それは,前記したように,商品等の機能又は美感をより発揮させるために施されたものであって,本来的には,自他商品を識別するための標識として採択されるものではなく,全体としてみた場合,商品等の機能,美感を発揮させるために必要な形状を有しているにすぎない場合には,これに接する取引者・需要者は,当該商品等の形状を単に表示したものであると認識するに止まり,たとえ,その形状が,多少特異なものであっても,未だ,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないものと解するというのが相当である(5頁35 行~6頁6行)と判断しているが,誤りである。

審決の判断によれば,商品等(以下では,審決と同一の意味で用いる。)の形状は,機能又は美感をより発揮させるために採択されるものであり,このような目的で採択されている限り,特異な形状を有するものであっても自他商品・役務を識別する標識には該当しないこととなるが,商品等の形状は,その性質上,それ自体にどんな変更等を施したとしても,商品等の機能又は美感を発揮させるための形状から完全に離れることはできないものであり,そのような目的と全く関係のない商品等の形状は考え難いことである。そうすると,ほとんどの商品等の形状が,自他商品・役務識別,機能を発揮し得ない標章に該当することとなり商品等の形状については,立体商標としての保護を全面的に否定することになるから,審決の上記判断は,立体的形状を保護すべく導入された立体商標制度の趣旨を没却するものであり,誤りである。

イ また,審決は,本来的に自他商品・役務識別機能を有しない商品等の形状の例として,商品等の単なる機能を発揮させるための形状と美感を発揮させるための意匠的形状を挙げ,両者を同列に論じているが誤りである。

商品等の形状のうち機能を発揮させるための形状については,取引上何人もその使用を欲するものであって,一私人に独占を認めるのは妥当でないため,商標法3条1項3号の規定によって規制する必要があるが,美感を発揮させるための意匠的形状については,そのような必要があるとはいえない。かえって,商品等の形状への装飾等が独創的でその商品の分野において他に例を見ないものであるときは,一私人に独占を認めたとしても何ら問題はないのであり,そのような意匠的形状は,自他商品識別機能を発揮しているものとして積極的に保護されるべきものである。

したがって,機能を発揮させるための商品等の形状は,商標法3条1項3号の規定に該当し得るとしても,美感を発揮させるための商品等の形状は,それのみを以って直ちに商標法3条1項3号の規定に該当するとはいえないものであり,美感を発揮させる形状についても,一律に商標法3条1項3号の規定に該当するとの前提に立った審決の上記判断は誤りである。

(2) 本願商標の形状の特異性

本願商標は,単なる板状のチョコレートの形状ではなく,また,貝殻や魚介自体をチョコレートの形状としたものでもなく,一枚の板状のチョコレートに溝を設けることにより4つの部分に分けられるようにしそれらの上に,車えび,貝殻,竜の落とし子,ムラサキイガイというように貝殻類と魚介類を交互に配置した特異な組み合わせの形状からなる商標であり,以下に述べるように,審決が本願商標を商標法3条1項3号の「指定商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するとした判断は誤りである。

ア 審決は「本願商標の構成中,比較的看者の注意を惹くと思われる立体的なマーブル模様の魚介類のデザインは本願指定商品との関係ではチョコレート菓子の美感(例えば,見た目の美しさ)を発揮させるために施されたものとみるのが自然であり,かつ,全体的観察においても格別に特異な形状を表したともいえず,チョコレートそのものの形状を普通に用いられる方法で表した標章のみからなる商標というべきである(6頁23行~28行)と判断し,さらに,「本願指定商品を取り扱う業界においては, 商品そのものの形状に特徴をもたせたもの,例えば,ボンボン又はプラリネとも呼ばれる一口サイズのチョコレートに種々の生物や植物等の形状を模したものや,プラリネと呼ばれるナッツクリーム等をチョコレートの中に詰めて,上部に溝を有するやや厚みのある板状にしたものを採択し,販売することが一般的に行われている」との事実を挙げた上で,板状のチョコレートの上部に魚介類の形状を乗せてなる本願商標の形状は「上述の『種々の生物や植物等の形状』を模して形づくられたものの範囲を超えるものということができず,未だ装飾の域を脱しているものということはできない(6頁29行~38行)と判断しているが誤りである。

チョコレート菓子の取引の状況を見ると,審決が挙げる葉(植物)の形状のチョコレート,貝殻や魚介の形状のチョコレート,上部に溝を有するやや厚みのあるチョコレートバーが個別に製造販売されていることが窺われるが,本願商標の形状のように,一枚の板状のチョコレートの上部に貝殻類と魚介類を交互に配置したチョコレートは勿論のこと,貝殻又は魚介等を上部に有する板状のチョコレートも製造販売されていないのであり,このような実際の取引の状況を前提とすれば本願商標の形状は上記チョコレート菓子の個別の形状を寄せ集めても容易に思いつかない, チョコレート菓子の形状としては独創的なものといえるのであり,需要者,取引者により商品等の形状の一形態であると認識されるような形状とはいえないものである。

審決は単に葉や貝殻・魚介のいずれか一つの形状を表したチョコレートや,上部に溝を有する板状のチョコレート等が存在することから,これらのチョコレートの個々の形状を寄せ集め的に勘案し,本願商標の形状について「『種々の生物や植物等の形状』を模して形づくられたものの範囲を超えるものということができず,未だ装飾の域を脱しているものということはできない」( 6頁36 行~38行)と判断しているが,このような判断は,本願商標の形状の細部にのみ着目し,全体の形状についての個別具体的な検討を欠くものであって,チョコレート菓子の実際の取引においては,需要者は商品の形状の全体を一体的に認識して商品を購入するという,この種の商品の取引の実情を無視するものである。

イ 原告は,本願商標の構成中に表された竜の落とし子を反転させた態様の平面商標(以下「原告平面商標」という)について,指定商品中に「cho colate and chocolate produc ts(チョコレート及びチョコレート製品)pralines(プラリネ)」を明示して出願(国際登録第826169 号)し, 指定国の一つである我が国において商標登録された。本願商標は,自他商品識別標識たり得るとしてその登録が認められた竜の落とし子の形状(原告平面商標)を反転させたものを含み,更に,他の貝殻類,魚介類の形状を含む態様をもって構成されているのであるから,自他商品識別標章たり得るとしてその登録が認められるべきである。

ウ 原告は,ベルギー国を代表する老舗のチョコレート製造会社であり,1958 年の創業当時より独特な貝殻形状のチョコレート製品を製造販売してきたことから,我が国を含む世界各国において貝殻形状のチョコレート製品(特にマーブル模様の貝殻形状のチョコレート製品)のメーカーとして著名である。

また,原告は,竜の落とし子を企業のシンボルマークとし,独創的な竜の落とし子の形状を自己の製品の形状に取り入れ,これを世界各国で宣伝広告するなどした結果,竜の落とし子の形状の商標(原告平面商標)は,需要者,取引者により原告と一体的関連性をもって広く認識されるに至った。

このように,原告は,自己が貝殻等の形状のチョコレート製品(特にマーブル模様の貝殻形状のチョコレート製品)のメーカーとして有名であり,また,独創的な竜の落とし子の形状が自己を指称する商標として著名であることを前提として,それらの形状を板状のチョコレートの上部に表した本願商標をデザインし,これをチョコレートの形状として採択したものである。したがって,本願商標は,原告との関連性を強く印象付ける竜の落とし子の形状を含むことと相俟って,原告を象徴するマーブル模様の貝殻等のチョコレートのバータイプの形状であると認識され,その結果,一般の需要者,取引者が原告を想起する識別標識として機能するものである。

エ 本願商標は,ベネルクスを本国官庁とし,ベネルクスにおける商標登録を基礎としてマドリッド協定議定書の下に我が国を指定国とする国際登録に係るものであるところ,審決は「出願に係る商標の登録の可否は,それぞれの国の法律に基づいて認定されるべきものであるところ,日本を指定国とする国際商標登録出願においても同様のことがいえるのであり,日本国の法律に基づいて審査を行い,登録要件を具備すると認められたもののみが商標登録を得るものである。しかして,本願商標は,上記のとおり,識別力を有するものとはいえない(7頁9行~14行)と判断し, この点につき,被告も,商標登録出願に係る商標が商標登録の要件を具備するか否かの判断は,各国の商標法及び関係法令に基づく判断に委ねられているものであって,我が国において出願された商標は,あくまでも,我が国の商標法及び商品の取引の実情に照らして登録されるか否かが判断されるものであり,商標の自他商品の識別力,使用による自他商品の識別力の獲得の有無についても,我が国における商標の使用状況等を勘案して判断されるべきものである旨主張するが,審決の上記判断は誤りである。

上記のとおり,本願商標は,本国官庁であるベネルクスの商標登録を基礎とする国際登録に係るものであるから,パリ条約6条の5に規定する利益を享受し得ることになる。そして,同条約6 条の5C(1) の規定によれば,商標の識別性の判断に際しては,当該商標が使用されてきた期間は勿論「すべての事情」を考慮しなければならないとされているところ,上記アないしウの事情に加え,以下のような事情をすべて考慮して識別性を判断するならば,本願商標は,商品等の形状として一般的に採用し得る範囲内のものではなく,その範囲を超えた自他識別力を有するものというべきである。

(ア)本願商標と同形状の立体商標は,世界の多くの国々で識別性を有する商標として登録が認められているが,立体商標の識別性に関しては各国とも同じような法制を採用しているものと推察され,それらを精査した上で我が国において立体商標制度が導入されたことからすれば,本願商標の識別性を認めた諸外国の判断は,我が国でも十分に尊重されるべきである。

(イ)本願商標の本国であるベネルクス統一標章法を含め,諸外国の法制においては,何らかの形で商標の定義中に識別性に関する文言が含まれている国が多く,出願に係る商標は商品を識別するために(識別する意図の下に)採択されたものであることを前提として,それが自他商品識別標章として機能するかという点のみを判断している。これに対し,我が国においては,商標の定義(商標法2条1項)から識別性に関する文言を一切捨象し,そのすべてを商標法3条1項各号での判断(識別性の判断)に委ねるという法制を採っているから,出願に係る商標が商品を識別するために(識別する意図の下に)採択されたものか否かという点も識別性の判断の一つの要素となると考えるべきところ,本願商標の形状は,原告において,原告の製品であることを端的に示すために採択されたものである。

2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)

(1) 本願商標と同一の商標の使用

ア 審決は,原告が審判時に提出した甲第5号証ないし同第41号証(本件における甲号証と同一)に関し「使用により識別力を有するに至った商標として登録が認められるのは,その商標と同一の商標及びその商標を使用していた商品と同一の商品に関する場合のみであるところ,請求人の提出に係る証拠中の甲第5号証及び同第6号証に掲載されている商品の写真は,本願商標と相違するものであり,また,甲第7号証ないし同第36号証及び同第38号証に掲載された商品写真はいずれも,請求人を表示する出所識別標識と認められる文字標章の『GuyliAN』の文字とともに使用されているから,同一と認めることはでき」ない(7頁23行~30 行)と認定しているが,誤りである。

イ 甲第5号証及び同第6号証については,原告は,本願商標が商標法3条2項の要件を具備していることを立証するために提出した書証ではなく,原告が貝殻形状のチョコレートを販売する老舗として世界的に有名な会社であることを立証するために提出した書証であり,審決における上記認定は原告の立証趣旨を取り違えたものである。

ウ また,甲第7号証ないし同第36号証及び同第38号証に掲載された商品写真には本願商標の立体的形状とともに「GuyliAN 」なる文字も表わされているが,このような使用の形態が,本願商標と同一の商標の使用に該当するか否かを判断するに際しては,その商品の業界における取引の実情に照らして考える必要がある。

すなわち,菓子等の食品は何らかの包装がされた状態で取引されるというのが一般的であり,その場合,その菓子の包装等には,製造者が分かるような文字等が表わされているというのが常であるところ,上記各甲号証の商品写真に表された「GuyliAN」の文字は,本願商標の形状のチョコレート自体に刻印等をする形で使用されているのではなく,単に本願商標の形状のチョコレート製品の包装等に表わされているものであるから,菓子等の食品業界において,一般的な使用態様であると言える。

このような取引の実情に鑑みれば,上記商品写真において,本願商標の形状が「GuyliAN」なる文字とともに表されていたとしても,本願商標と同一の商標の使用に当たるというべきである。

(2) 使用による自他商品識別力の獲得

本願商標は,以下に述べるとおり,商標法3条2項に規定する「使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に該当する。

ア 前記のとおり,原告は,我が国を含む世界各国において貝殻形状のチョコレート製品(特にマーブル模様の貝殻形状のチョコレート製品)のメーカーとして著名であり,この貝殻形状のチョコレート製品は,現在約130か国の国々で販売され,世界中の人々から高い支持を受けており,その中でも,本願商標の立体形状をしたチョコレート製品(以下,その商品名である「シーシェルバー」という) は,原告との関連性を強く印象付ける竜の落とし子の形状を含むことと相俟って,原告を象徴するマーブル模様の貝殻等のチョコレートのバータイプの製品と位置づけられるものである。

イ 原告の製造に係るシーシェルバーは,フィルム製の包装紙又は包装箱に封入された態様で販売されており,これらの包装紙等には,原告の会社名である「GuyLiAN」なる文字と共に,本願商標と同一形状のチョコレートが大きく表されている( 甲第7号証ないし同第11 号証。シーシェルバーは,1 年間で約1500万本販売されており( 甲第12号証),世界各国の多くの需要者に,原告の製造に係る製品として幅広く認識されている。我が国では,平成17年度は9万7392本,平成18年度には13万4352 本(このうち約8000本は愛知万博のベルギー館における販売)が販売された。

ウ 原告は,シーシェルバーの広告宣伝のため約250万(US)ドルの広告費をかけ,パンフレットやリーフレット等での製品紹介(甲第14号証ないし同第17号証,同第22,27,29 ,30号証及び同第32号証の1ないし5 ,テレビや雑誌等への広告(甲第18号証の1ないし同第21号証,車内の窓上ポスターによる広告(甲第23号証,駅構内や街頭での看板,電飾掲示板等による広告(甲第25号証及び同第31号証),さらには数々のキャンペーンを催し,バス,スクーター,タクシー等による車体広告(甲第232426号証)等,世界各国において幅広く広告宣伝を展開しており(甲第1 4号証ないし同第32 の5), 本願商標の立体形状は原告の製造販売するシーシェルバーを示す形状として全世界の一般消費者に広く浸透している。

エ シーシェルバーは,上記ウの原告の営業努力とも相俟って,世界各国の新聞や雑誌等の媒体に取り上げられており(甲第33号証の1ないし9),このような状況をも考慮すると,シーシェルバーは,取引者間だけでなく,最終消費者にも原告に係る製品であるとして幅広く認識されており,世界における一般消費者の認知度は相当程度に高いものである。

オ 我が国では,シーシェルバーは,輸入業者を介して(甲第34号証及び同第35号証の1ないし同第35号証の4 ,明治屋,ソニープラザ,カルディーコーヒー等の大手輸入食品店,ダイエー,クイーンズ伊勢丹等の大型スーパー,ナチュラルローソン等のコンビニ等を介して全国各地で販売されており(甲第38,39号証), その販売実績も最近の1年間で約12万5000 本近く販売されている(甲第39号証。また,明治屋等においては,シーシェルバーについて,カタログ,リーフレット等(甲第36号証,同第40,41号証)が作成される等して,広く宣伝広告がされている。

カ 以上のとおり,シーシェルバーの形状である本願商標は,原告が使用した結果,我が国において,需要者,取引者が原告の業務に係る商品を示す形状であることを認識できるに至っており,商標として出所表示機能を充分に有し,商標法3条2項の登録要件を具備するものである。

第4 被告の反論

審決の認定判断は正当であり,取消事由はいずれも理由がない。

1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)に対して

(1) 立体商標制度について

ア 商品等の形状は,本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり,あるいはその商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものであり,本来的(第一義的)には商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標章として採択されるものではないこと,また,需要者も,商品等の形状を,商品の機能や美感を際だたせるために採択されたものと認識し,自他商品の識別標章として認識しない場合が多いといえることから,基本的に識別標章たり得ないものである。

そして,一般に商品等の形状は,商品等の機能により相当程度の制約を受けるものではあるが,なお,選択し得る形状に一定の幅があるのが通常であり,商品等の製造者,販売者,需要者は,そのような認識を当然に持っているものである。

そうすると,商品等の形状そのものからなる立体商標は,それが商品等の形状として一般に採用し得る範囲内のものと認識される限りにおいては,多少特異なものであっても,それは,自他商品識別標章と認識されるものではなく選択し得る形状の一つと理解されるにとどまるのであって,「商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に当たるというべきであるから,商標法第3条第1項第3号に該当し,商標登録を受けることができないものと解すべきである。

他方,商品等の機能又は美感と関係のない特異な形状については,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ということはできないし,また,商標法は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であっても,使用された結果,自他商品の識別力を獲得した場合には,同法第3条第2項により登録されることを予定している。

したがって,審決が,商品等の形状そのものからなる立体商標に関して上記のような解釈をしているとしても,商品等の形状について,立体商標としての保護を全面的に否定するものであるとか,立体商標制度の趣旨を没却するものであるということはできない。

イ また,機能的形状,意匠的形状のいずれであっても,需要者が指定商品等の形状を表したものと認識するにとどまるものは,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきであって,この点において両者に違いはない。

そもそも,立体的商標を含め商標を保護する根拠は,商標が有する自他商品の識別標章としての機能(出所表示機能)にあるところ,機能的形状はこの機能を獲得しにくく,意匠的形状は獲得しやすい,という関係があるということもできない。

したがって,審決が,機能的形状と意匠的形状とを同列に論じていることは正当であり,誤りはない。

(2) 本願商標の識別力の有無について

ア 本願に係る指定商品を取り扱う業界では,チョコレートを細長い棒状又は板状に成形して上部に溝を設けて分けやすい形にすることチョコレートそのものを植物や貝殻等の形状にすること,台状又は板状のチョコレートの上部に立体的な装飾を施すこと等が普通に行われている実情が存する。

そうとすれば,板状のチョコレートの上部に溝を設けていること,それぞれの面上にあるマーブル模様の立体物が魚介類(えび,扇形の貝殻,竜の落とし子,ムラサキイガイの貝殻)の形状を模したものであることなどの本願商標を構成する立体的形状の特徴は,チョコレートを食べやすくしたり,美感をより優れたものにするなどの目的で同種商品が一般的に採用し得る範囲内のものであって,チョコレートの形状として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできない。すなわち,原告の主張する「一枚の板状のチョコレートの上部に貝殻類と魚介類を交互に配置したチョコレート」,「数種類の貝殻類を上部に有する板状のチョコレート」といった本願商標の形状は,この種業界において普通に行われているチョコレートの形状の単なる組み合わせであって,格別特異なものということができず,この種業界に携わる者であれば,極めて容易に思いつく程度のものというべきである。

したがって,本願商標が,その指定商品である「Chocolate, pralines.」(チョコレート,プラリネ)に使用された場合,指定商品に接する取引者,需要者は,これをチョコレートの形状そのものと認識するにとどまるというべきであるから,本願商標は,指定商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に当たるというべきである。

イ 本願商標はその構成中に竜の落とし子の形状を含んでいるが,当該竜の落とし子の形状部分と原告平面商標とは同一とは言い難いうえ,原告平面商標自体は,これに接する取引者,需要者が直ちに指定商品であるチョコレート等の形状を表したものと認識できないものであるのに対し,本願商標は上記アのとおり単に指定商品であるチョコレート等の形状を表したにすぎないものと認識されるものであるから,本願商標に竜の落とし子の形状部分が含まれることから本願商標は自他商品の識別標章たり得るとする原告の主張は失当である。

ウ 原告は,自己が貝殻等の形状のチョコレート製品(特にマーブル模様の貝殻形状のチョコレート製品)のメーカーとして有名であり,また,独創的な竜の落とし子の形状が自己を指称する商標として著名である旨主張するが,本件においてはこれを裏付ける客観的な証拠は存在しない。

したがって,これを前提として本願商標が一般の需要者,取引者により原告を想起させる識別標章として機能する旨の原告の主張は失当である。エ原告は,本願商標が本国官庁であるベネルクスの商標登録を基礎とする国際登録された商標であるから,パリ条約6条の5C(1 )の規定により,その識別性の判断に際しては「すべての事情」を考慮しなければならない旨主張する。

しかしながら,パリ条約6条の5C(1 )で考慮すべきとされている「すべての事情,特に当該商標が使用されてきた期間」とは,本件に即して言えば「使用による識別性」のことを指すものであって,我が国において識別性を認めるに足りる事情はすべて考慮すべきとの趣旨の規定と解するのが妥当である。

そして,本願商標については,我が国における使用期間のみならず,使用開始時期,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝の方法,内容及び回数,商品の販売形態等を総合考慮しても,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものである。

なお,本願商標が外国で登録されていることは,我が国において,本願商標が識別標識としての機能を果たすか否かの判断に直ちに影響しないことは明らかであり,また,原告における本願商標の採択の意図が原告の製品であることを端的に示すことにあったとしても,本願商標の識別性の判断は,そのような原告の商標採択の意図により左右されるものではないから,これらの事情を考慮したとしても本願商標は商標法3条1項3号に該当するというべきである。

2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)に対して

(1) 商標法3条2項の要件について

商標法3条2項の規定の趣旨に照らすと,同項によって商標登録が認められるためには,以下の要件を具備することが必要であると解される。

ア 使用により自他商品識別力を有すること

商標登録出願された商標( 以下「出願商標」という)が, 商標法3条2項の要件を具備し,登録が認められるか否かは,実際に使用している商標(以下「使用商標」という) 及び商品,使用開始時期,使用期間,使用地域,当該商品の生産又は販売数量,並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して,出願商標が使用された結果,判断時である審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるか否か( 「自他商品識別力」の獲得の有無)によって決すべきものである。

イ 出願商標と使用商標の同一性が認められること

商標法3条2項の要件を具備するためには,使用商標は,出願商標と同一であることを要し出願商標と類似のものを含まないと解すべきである。なぜなら,同条項は,本来的には自他商品識別力がなく,特定人の独占にもなじまない商標について,特定の商品に使用された結果として自他商品識別力を有するに至ったことを理由に商標登録を認める例外的規定であり,実際に商品に使用された範囲を超えて商標登録を認めるのは妥当ではないからである。

(2) 使用による自他商品識別力の有無について

ア 原告の製造に係るシーシェルバーは,本願商標と同一の形状をしているところ,シーシェルバーの販売が開始されたのは平成15年9月と比較的最近であり,販売期間は約3年半と短く,販売地域が日本全国にあまねく存在しているか否かは不明である。また,その販売数量もチョコレート製品の国内消費量や輸入量と比較して,極めて少ないものといえる。

イ シーシェルバーの形状を掲載したリーフレットやカタログ等の広告宣伝については,そのすべてにおいて,よく目立つ位置に,商品の製造者(原告の会社名)を示す「GuyLiAN」の標章等が存在している。そして, 当該リーフレットやカタログ等の作成日,作成部数,頒布の時期・場所・方法・部数等の具体的な宣伝広告の実態は不明であり, 我が国におけるシーシェルバーの宣伝広告費用についても不明である。

ウ シーシェルバーは,その一つ一つが「GuyLiAN 」の標章が顕著に付された包装袋等に入れられ「GuyLiAN 」の標章が顕著に付された陳列用の包装箱に詰められて店頭で販売されている。また,当該包装袋や包装箱には,上記標章の他に,商品(チョコレート)の形状も表されているが,当該包装袋等に表示されたチョコレートの形状部分は,格別特異なものということもできず,単に商品の内容物(チョコレートそのものの形状)を表したものと認識される以上のものではないから,これに接する取引者,需要者は,当該チョコレートの形状を表した部分から商品の出所を認識するというよりも,商品の形状とともに顕著に書き表された文字部分である「GuyLi AN」の標章から商品の出所を認識するものというのが自然である。

エ 上記イ,ウのとおり,シーシェルバーの広告宣伝(その数量,回数等は不明である) や販売形態は,需要者が,商品の製造者(原告の会社名)を示す「GuyLiAN」の標章等の文字に注目するような形態で行われているといえるから,これに接する需要者は,顕著に表示された「GuyLiAN」の標章等の文字部分に注目し,これにより商品の出所を識別するものということができる。

オ したがって,本願商標は,指定商品「Chocolate,pra lines」に使用された結果,審決時(平成19年3月29日)において,その立体的な形状のみで,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができたとはいえないから,商標法3条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」との要件を具備しない。

(3) 本願商標と同一の商標の使用の有無について

商標の本質的機能は,自他商品の識別標章としての機能であるから,本願商標が,商標として機能していること(商標法3条2項に該当すること)を証明するためには,取引の実際において,本願商標が他人の同種商品と識別するための標章として使用されていなければならない。

しかしながら,シーシェルバーの実際の販売形態等に着目した場合,前記(1)のとおり,需要者が商品の製造者(原告の会社名) を示す「GuyLiAN」の標章等の文字に注目するような形態で行われているといえるから,これに接する需要者は,顕著に表示された「GuyLiAN 」の標章等の文字部分に注目しこれにより商品の出所を識別するものということができる。したがって,原告によるシーシェルバーの販売や広告宣伝等により,本願商標と同一の商標が使用されたということはできない。

当裁判所の判断

1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について

商標法3条1項3号の「その商品の・・・形状・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」の意義

最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決(判例時報927号233頁)は,商標法3条1項3号の趣旨について「商標法3条1 項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。」と説示しているところ,上記に説示するところは,立体商標制度が導入されたことにより影響を受けるものとは解されないから,以下,上記説示に沿って検討することとする。

上記説示によれば,商標法3条1項3号に該当する商標の類型として,一つは「取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもの」であり(以下「独占不適商標」という。), 他は「一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないもの」である(以下「自他商品識別力欠如商標」という) から,以下,本願商標について上記の各観点から検討する。

(1) 独占不適商標該当性について

本願商標は,別紙のとおり,平型の略直方体をした板状のチョコレートの上部の長手方向に垂直に直線状の溝を設けてこれを同形の4つの区画に区切り,向かって左側の区画から,順次,車えび,扇形の貝殻,竜の落とし子及びムラサキイガイの図柄を配列し,これらの図柄をマーブル模様をしたチョコレートで立体的に模した形状からなる標章であり,証拠(甲第5,第6及び第58号証)及び弁論の全趣旨によれば,原告は自己が製造・販売するチョコレート菓子(商品名シーシェルバー)の商標とする意図の下に創業当時から使用してきた貝殻模様などを用いて創作したものと認められ,これを左右する証拠はない。

上記のとおり,本願商標は,4種類の魚介類の図柄の選択及び配列の順序並びに立体的に構成されたこれらの図柄のマーブル模様の色彩等において,少なくとも本件全証拠からは同様の標章の存在を認めることができないという意味で個性的であるところ,上記認定のとおり,本願商標は,原告において,その製造・販売に係るチョコレート菓子(シーシェルバー)に付する立体商標として採択する意図の下に,原告が1958年の創業当時から使用していた貝殻等の図柄等を採用して構成し,創作したものと認められるから,これらの事実によれば,本願商標がチョコレート菓子の取引において「必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲する」ものであり,それ故に「特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもの」に該当するものと認めることはできず,本件全証拠を検討してもこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって,本願商標が独占不適商標に該当するものと認めることはできない。

(2) 自他商品識別力欠如商標該当性について

ア 前記最高裁判決は,自他商品識別力欠如商標について「一般的に使用される標章である」ために「商標としての機能を果たし得ないもの」と説示しているところ,上記要件のうち前段は,商標法3条1項3号との関係では,同号の「普通に用いられる方法で表示する標章」の一つの解釈を示したものと理解することができる。

ところで,当該標章が「一般的に使用される標章である」か否かは,当該商品の属する取引分野の取引の実情に基づいて判断されることが必要であることは多言を要しないところであるから,まず,本願商標に係る指定商品であるチョコレート菓子に係る取引の実情について見ることとする。

イ 以下に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,チョコレート菓子の取引の実情に関して,以下の事実が認められる。

(ア)複数のチョコレート菓子の製造販売業者により,上部に直線状の溝を形成した板状ないしは棒状のチョコレート菓子が製造販売されている(乙第4号証の1ないし11)が,その中には,本願商標と同様に平型で略直方体の板状ないしは棒状であって,上部の長手方向に垂直に等間隔で設けられた直線状の溝により複数の小区画に分割された形状に成型された商品が存在しており(乙第4号証の2,5 ),このような形状は,チョコレート菓子の形状の代表的なものの一つ(以下「板状タイプ」という)となっているといえる。

(イ)複数のチョコレート菓子の製造販売業者により,植物の葉や実,エビ,貝殻,竜の落とし子等を模した立体的形状のチョコレート菓子が製造販売されており(甲第41,44,46 号証,乙第5号証の1ないし7) ,このような形状は,チョコレート菓子の形状の代表的な一つ(以下「立体形状タイプ」という)となっているといえる。

(ウ)複数のチョコレート菓子の製造販売業者により,円形,楕円形又は方形の台状をしたチョコレートの上部に植物の葉や果実等を模した立体的形状を乗せたチョコレート菓子が製造販売されており(乙第6号証の1ないし7) ,このような形状は,チョコレート菓子の形状の代表的な一つ(以下「立体装飾タイプ」という)となっているといえる。

(エ)縦横に溝を有する板状タイプのチョコレートの上部の各区画上に,帽子を模した立体的な形状を乗せたチョコレート菓子も製造販売されている。(乙第7号証の1,2 )

ウ チョコレート菓子は,代表的な嗜好品の一つであり,その購買者は,広く一般消費者であることは周知の事実であるところ,嗜好性の強い食品の特質上,第一にチョコレート菓子自体の味に注目し,次いで食べ易さにも注目することもまた周知の事実であるが,同時にチョコレート菓子の製造・販売者によって前項に認定したような創意と工夫を凝らした各種形体のチョコレート菓子が開発・製造・販売されている事実からも容易に推認することができるように,チョコレート菓子の形体自体についても美感や好感度を訴えるものとして需要者の注意を引き付ける重要な視覚的要素となり得るものと認識されているものと見ることができる。

エ 以上を踏まえて,本願商標が「一般的に使用される標章である」と言えるか否かについて検討する。

本願商標は,平型の略直方体をした板状のチョコレートの上部に長手方向に垂直に直線状の溝を設けてこれを同形の4区画に区切り,向かって左側から各区画上に,車えび,扇形の貝殻,竜の落とし子及びムラサキイガイの図柄を順次配列し,これらの図柄をマーブル模様のチョコレートで立体的に模した形状からなる標章であることは前記のとおりであるところ,その全体的な形状はチョコレート菓子の代表的形体の一つである板状タイプであると同時に立体装飾タイプでもあり,板状タイプに立体装飾タイプを合体させた形体のチョコレート菓子の一種であるといえる。これによれば,本願商標に係る標章は,チョコレート菓子の形体を表現する従来の手法に従い,これを組み合わせた表現手法を採用したものということができるから,この意味で表現手法自体に新規性があるとはいえない。

しかし,本願商標が「一般的に使用される標章である」と言えるか否かは,その表現手法自体が一般的であるか否かではなく,具体的な形体として表された標章それ自体について見るべきであるから,さらに進んでこの点について検討する。

前記認定のように,チョコレート菓子の取引の実情においては,立体形状タイプとして,植物の葉や実,エビ,貝殻,竜の落とし子等を模した立体的形状のチョコレート菓子が製造・販売されていることから見ると,本願商標を構成する各図柄を分離して個々的に見た場合,車エビ及び貝殻は新規な図柄に当たらないし,竜の落とし子の図柄については,原告は,その尾が背の側に外巻である点において腹の側に内巻である通常の図柄とは異なる新規な図柄であると主張するところ,この点の差異は指摘されて気付く程度のいわば微差と言っても良いものであるから,本願商標の自他商品識別力を評価する上でこの違いをことさらに強調することは困難であると言わざるを得ないというべきである。

しかしながら,本願商標においては,車えび,扇形の貝殻,竜の落とし子及びムラサキイガイの4種の図柄を向って左側から順次配列し,さらにこれらの図柄をマーブル模様をしたチョコレートで立体的に模した形状からなるのであり,このような4種の図柄の選択・組合せ及び配列の順序並びにマーブル色の色彩が結合している点において本願商標に係る標章は新規であり,本件全証拠を検討してもこれと同一ないし類似した標章の存在を認めることはできない。そして,これらの結合によって形成される本願商標が与える総合的な印象は,本願商標が付された前記のシーシェルバーを購入したチョコレート菓子の需要者である一般消費者において,チョコレート菓子の次回の購入を検討する際に,本願商標に係る指定商品の購入ないしは非購入を決定する上での標識とするに足りる程度に十分特徴的であるといえ,本件全証拠を検討しても本願商標に係る標章が「一般的に使用される標章」であると認めるに足りる証拠はないし,本願商標が「商標としての機能を果たし得ないもの」であると認めるに足りる証拠もない。

オ 被告は,商品等の形状は,基本的に識別標章たり得ないし,商品等の形状には選択し得る形状に一定の幅があるのが通常であり,商品等の製造者・販売者や需要者は,そのような認識を当然に持っているのであるから,商品等の形状そのものからなる立体商標は,それが商品等の形状として一般に採用し得る範囲内のものと認識される限りにおいては,多少特異なものであっても,選択し得る形状の一つと理解されるにとどまるのであって,商品等の機能又は美感と関係のない特異な形状以外は「商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に当たると主張する。

確かに,商品の形状は,第一次的には,当該商品自体の持つ機能を効果的に発揮させたり,あるいはその美感を追求する等の目的で選択されるものであり,取引者・需要者もそのようなものとして認識するであろうことは被告の主張するとおりである。

しかしながら,商品の形状は,取引者・需要者の視覚に直接訴えるものであり,需要者は,多くの場合,まず当該商品の形状を見て商品の選択・選別を開始することは経験則上明らかであるところ,商品の製造・販売業者においては,当該商品の機能等から生ずる制約の中で,美感等の向上を図ると同時に,その採用した形状を手掛かりとして当該商品の次回以降の購入等に結び付ける自他商品識別力を有するものとするべく商品形体に創意工夫を凝らしていることもまた周知のところであるから,一概に商品の形体であるがゆえに自他商品識別力がないと断ずることは相当とはいえないものである。これをチョコレート菓子についてみると,前記のとおり,チョコレート菓子の選別においては,多くの場合,第一次的には味が最も重要な要素であるといえるが,同時にその嗜好品としての特質からチョコレート菓子自体の形体も外形からチョコレート菓子の識別を可能ならしめるものとして取引者・需要者の注目を引くものと見ることができるのであり,このことはチョコレート菓子の形体に板状タイプ,立体形状タイプ,立体装飾タイプなどがあり,各製造業者が様々な立体模様等を採用して独自色を創出しようとしていることからも容易に窺うことができるところであり,ここにおいてはチョコレート菓子の外形,すなわち形体が,美感等の向上という第一次的要求に加え,再度の需要喚起を図るための自他商品識別力の付与の観点をも併せ持っているものと容易に推認することができるのである。このように見てくると,嗜好品であるチョコレート菓子の需要者は,自己が購入したチョコレート菓子の味とその形体が他の同種商品と識別可能な程度に特徴的であればその特徴的形体を一つの手掛かりにし,次回以降の購入時における商品選択の基準とすることができるし,現にそのようにしているものと推認することができるのであるから,その立体形状が「選択し得る形状の一つと理解される限り識別力はない」とする被告の主張は,取引の実情を捨象する過度に抽象化した議論であり,にわかに採用し難いところである。

また,被告は,本願商標はチョコレート菓子の形体において広く採用された表示方法の寄せ集めに過ぎないから,本願商標に接した需要者は,商品の単なる装飾としか認識できないと主張するところ、確かに,本願商標に係る標章の表現手法自体は既に述べたように新規なものとは言い難いことは被告の指摘するとおりであるが,本願商標に係る標章は,4種の図柄の選択・組合せ及び配列の順序並びにマーブル色の色彩が結合している点において新規であり,個性的であるから,この程度の識別力があれば,本願商標が付されたシーシェルバーを食した需要者である一般消費者はその味と新規な標章により次回の購入の可否を検討する際において他の同種商品と識別することが可能であるものと推認することができるから,被告の上記主張も採用することはできない。

なお,被告は,商品等の機能又は美感と関係のない特異な形状に限って自他商品識別力を有するものとして,商標法3条1項3号の商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ということはできないとするが,商品の本来的価値が機能や美感にあることに照らすと,このような基準を満たし得る商品形状を想定することは殆ど困難であり,このような考え方は立体商標制度の存在意義を余りにも限定するものであって妥当とは言い難い。

(3) 以上によれば,本願商標が商標法3 条1項3号所定の商標に該当するとは認め難いことに帰するから,審決は,同規定の解釈,適用を誤ったものであり,取消事由1は理由があるものというべきである。

2 結論

よって,本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

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