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平成19年(行ケ)第10341号審決取消請求事件


主文

特許庁が取消2005-31237号事件について平成19年6月5日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 原告の求めた裁判

主文同旨の判決

第2 事案の概要

本件は,被告を商標権者とする後記1(1)記載の商標(以下「本件商標」という。)の登録について,原告が,通常使用権者による不正使用を理由として,商標法53条1項に基づき,後記1(2)のとおり登録取消審判の請求をしたところ,特許庁が,審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,その取消しを求める事案である。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 本件商標

本件商標は,登録出願人パスクベアカンパニが設定登録を受けた後,被告に対し商標権の移転をしたものである。

商標登録番号:第4137882号

指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト, 履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

出願人:パスクベアカンパニ

出願日:平成9年1月21日

登録日:平成10年4月17日

被告への移転登録日:平成12年5月17日

商標の構成:(商標省略)

(2) 登録取消審判手続

審判請求日:平成17年10月7日(取消2005-31237号)

審決日:平成19年6月5日

審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない」

審決謄本送達日:平成19年6月15日(原告に対し。なお,出訴期間として90日が附加されている)

2 前提となる事実

甲第5号証,第24号証,第52号証,第53号証,第55号証,第64~第67号証及び弁論の全趣旨によると,株式会社岐阜武(以下「岐阜武」という)が下記(1)の構成により成る商標(以下,審決に従って「使用商標A」という)を商品「ジャケット」に使用していたこと,及び原告が下記(2)の構成よりなる商標(以下,審決に従って「使用商標B」という)を「ジャケット」に使用していたことが認められる。

(1) 使用商標Aの構成

(商標省略)

(2) 使用商標Bの構成

(商標省略)

3 審決の理由の要旨

審決の理由は以下のとおりであるが,その内容は,要するに,岐阜武による商品「ジャケット」についての使用商標Aの使用は,本件商標に係る指定商品についての本件商標に類似する商標の使用であって「ジャケット」に使用商標Bを使用している請求人(原告)の業務に係る商品と混同を生じさせるというべきであり,本件審判請求は,使用商標Aが使用されなくなってから5年を経過した後にされたものともいえないが,被請求人(被告)と岐阜武との間において,本件商標について商標使用許諾契約が締結されたとは認められないから,岐阜武は本件商標の通常使用権者と認められず,商標法53条1項の規定により本件商標の登録を取り消すことはできないというものである。

「1商標法第53条は「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。ただし,当該商標権者がその事実を知らなかった場合において,相当の注意をしていたときは,この限りでない」と規定しているところ,本件が当該規定に該当するかどうかについて,以下検討する。

2 岐阜武は,通常使用権者と認められるか否かについて

(1) 「商標使用許諾契約書(甲第2号証)には「甲 株式会社セント・ローラン 乙 株式会社岐阜武以上甲乙間において,次のとおり商標の使用許諾に関する契約を締結する。1.甲が乙に対し,以下の約定により(以下「本件商標」という)の使用を許諾する。

【商標権の表示】登録番号第4345622号商標USABEAR 商標権者セント・ローラン2.甲が乙に本件商標使用を許諾する商品は,メンズアウトウエアー類とし, 乙の製品販売は日本国内に限定する」との記載があることから,被請求人は,岐阜武に対して,登録第4345622号商標に係る指定商品中「メンズアダルトアウター類」についての使用を許諾をしたことが認められる。

しかしながら,当該契約書では,本件商標について何ら言及されていない。

(2) 「念書(甲第3号証)には「商標」, 及び商標USABEARの契約に基づく念書を差し入れます。商標名USABEAR 登録番号第4345622号登録日平成11年12月17日」との記載があることから,当該念書は,登録第4345622号商標に関しての「念書」であると認められる。

しかしながら,当該念書では,本件商標について何ら言及されていない。

(3) 「見解書(甲第4号証)には「2.理由」, ・・・(中略)・・・尚,上記パスクベアカンパニーの上記登録商標(当審注:本件商標)は,株式会社セント・ローラン(当審注:被請求人)に商標権を移転させる手続きを準備中であり,株式会社セント・ローランは,上記(a),(b) (当審注:別掲(2)の商標 ),(c)の図形について株式会社岐阜武に使用許諾を与えるとのことである」との記載があるが,その内容は「被請求人が,岐阜武に対し,本件商標についての使用許諾を与えるであろう。」との予測を述べているにすぎないものである。

(4)上記(1)ないし(3)の事実に照らせば,被請求人と岐阜武との間において,一定の意図をもった行為があったことはうかがえる。

しかしながら,そのようにうかがえるのは,本件証拠上,あくまで第4345622号の商標に関するものに限られており,その他,甲号証全体をみても,岐阜武と本件商標を結びつける証拠は存在しない。

これらの事情を勘案すると,被請求人と岐阜武との間において,本件商標について商標使用許諾契約が,明示的にせよ黙示的にせよ,締結された事実を推認するには足りないというほかない。

したがって,岐阜武が,本件商標の通常使用権者であると認めることはできない。

3 使用商標Aの使用の時期について

甲第5号証は「ジャケット」を写した写真であるところ,当該「ジャケット」の表面胸の部分と内側襟の部分に,使用商標Bと社会通念同一と認められる商標が表示されている。なお,被請求人は「甲第5号証の標章(当審注:使用商標A)は,使用されなくなってから5年を経過しているものである」旨主張しているが,甲第5号証の撮影日は「平成12年10月19日」と記載されている。

また,第5号証の「ジャケット」は,大阪市西成区在のイズミヤ株式会社が販売していたものであり,請求人は,同社に対して,平成12年10月19日付けをもって,侵害の警告(甲第67号証)をしていた事実を認めることができる。

したがって,甲第5号証及び甲第64号証ないし甲第67号証を総合勘案すれば,本件審判の請求(請求日平成17年10月7日)は,使用商標Aが使用されなくなってから5年を経過してなされたものとはいえない。

4 本件商標と使用商標Aの類否について

本件商標と使用商標Aとは,黒地か白地かの相違はあるが,その外観において明らかに構成の軌を一にする熊の図形よりなるといえるものであるから,類似する商標であるというべきである。

5 本件商標の指定商品と使用商標Aが使用されている商品の類否

使用商標Aを使用した商品「ジャケット」は,本件商標の指定商品中の「被服」に含まれる商品と認められる。

6 他人(請求人)の業務に係る商品との混同について

請求人の主張の理由及び甲第24号証の請求人の登録商標が使用された「ジャケット」,甲第52号証,甲第53号証及び甲第55号証の雑誌「streetJack (1999年1月号,1998年11月号及び1999年2月号)によれば,使用商標Bを付した請求人の販売に係る「ジャケット」が,雑誌等に宣伝広告されていた事実が認められる。

次に,使用商標Aと使用商標Bとについてみるに,使用商標Aは,別掲(2)のとおり図形と文字の組み合わせよりなるところ,中央に顕著に表示されている「USABEAR」の文字部分について,その構成中の「USA」の文字は「米国」を意味するものとしてよく知られているといえるものであり,商品の生産地又は販売地を表示したものと認識されるものであるから,簡易迅速を尊ぶ取引の場において,これに接する取引者,需要者は構成中の「BEARの文字部分に着目して,この部分をもって商品の取引にあたることも決して少なくないものとみるのが相当である。

してみれば,使用商標Aからは,その構成中の「BEAR 」の文字に相応して,単に「ベア」又は「ベアー」の称呼及び「熊」の観念を生ずるものである。

他方,使用商標Bは,別掲(3)のとおりその構成中に表された「Bear」の欧文字部分から「ベア」又は「ベアー」の称呼及び「熊」の観念を生ずるものであり,使用商標Aと使用商標Bとは「ベア」又は「ベアー」の称呼及び「熊」の観念を共通にするものである。

また,外観においても,使用商標Aにおいて,外観上看者の目を惹く部分は,熊の図柄の後方に「USABEAR」の文字を囲んだ枠を配置し,両者の輪郭線を連続させて両者を一体化させたところであるが,使用商標Bも,同様に,熊の図形の後方に「Bear」の文字を囲んだ枠を配置して両者の輪郭線を連続させて一体化させたものとなっている。

そうすると,使用商標Aと使用商標Bとは,熊の図形が右向きか左向きか,また「USABEAR」と「Bear」の文字の相違はあるものの,外観上の要部は,熊の図形の後方に欧文字を囲んだ枠を配置して両者の輪郭線を連続させて一体化させたというべきであり,両商標は全体として酷似した印象を受けるものであるから,時と所を異にして離隔観察するときは,外観上彼此見誤るおそれがあるものといわなければならない。

したがって,使用商標Aと使用商標Bとは,称呼,観念及び外観において極めて紛らわしいものであり,使用商標Aは,使用商標Bを連想,観念させるものであるといわざるを得ない。そして,使用商標Aを使用した商品「ジャケット」と使用商標Bを使用した「ジャケット」とは,同一又は密接な関係がある商品といえるものである。

してみれば,岐阜武による商品「ジャケット」についての使用商標Aの使用は,使用商標Bを「ジャケット」に使用していた請求人の業務に係る商品であるかのように取引者,需要者において商品の出所の混同を生ずるというべきである。

7結び

岐阜武による商品「ジャケット」についての使用商標Aの使用は,本件商標に係る指定商品についての本件商標に類似する商標の使用であって,請求人の業務に係る商品と混同を生じさせるというべきである。

また,本件審判の請求は,使用商標Aが使用されなくなってから5年を経過した後にされたものとはいえない。

しかしながら,岐阜武が本件商標の通常使用権者であると認められないことは,上記2で述べたとおりであるから,商標法第53条第1項の規定により取り消すべき限りでない」

第3 審決取消事由(岐阜武が本件商標の通常使用権者ではないとの認定の誤り)の要点

1 原告は「BearU.S.A.,Inc 」の商号にて,その商号に由来する「BearU.S.A 」の文字と,黒の輪郭線で描いた熊の図とを結合した商標を使用し,1994(平成6)年より,アメリカ,日本において,ジャケット,パーカ,靴等を製造,販売するとともに,その商品の普及のために,商品パンフレットを作成してアメリカ国内はもとより,日本,イギリスの商社,バイヤー等を通じて広く配布し「VIBE, 」「ASAYAN「繊研新聞」等の雑誌,新聞に積極的に広告を掲載してきた。

原告の商標を使用した商品が人気を博したことから,我が国において大量の偽物が出回り,平成8年4月には,偽商品を販売していた業者が摘発されたという新聞記事が掲載されるなどしたため,原告は,このころから,新聞,雑誌に偽商品についての「警告広告」あるいは「注意広告」をたびたび掲載してきた。

また,原告は,商標をより商品に適した構成とするとともに,偽物対策を行うため,平成8年ころから,原告の使用する商標を,黒の輪郭線で特徴のある熊の図を描き,その輪郭線を延長した横長の枠内に「Bear」の文字を書し,枠の外側に「USA」の文字を書した構成よりなるものへと変更し,以来これを使用してきている。

2 被告と岐阜武の間の平成12年1月24日付け「商標使用許諾契約書」(甲第2号証)には,使用許諾する商標として本件商標が明示されていないが,その商標使用許諾契約に関して本訴における被告代理人が作成した同年4月21日付け見解書(甲第4号証。以下,単に「見解書」という)には「また(a),(b)の図形部分は,パスクベアカンパニが登録済みの商標(商標登録第4137882号…別紙(3)参照)を若干変更(a)は,顔の部分のみとし,色彩を異にした,(b)は色彩を異にしたしたにすぎずこの程度では当然類似範囲に含まれるものである。」と記載され,見解書の添付書類目録には「別紙(3 」として,本件商標である商標登録第4137882号の商標公報が添付されている。そして,本件商標については,見解書の作成日である平成12年4月21日付けの「譲渡証書」を添付した商標権移転登録申請書により,パスクベアカンパニから被告に移転登録されている(同月26日受付,同年5月17日に被告に移転登録。)

また,原告は,平成12年10月19日付け内容証明郵便により,被告の登録商標の使用権者である岐阜武の製造に係る商品を販売していた業者に対して警告書を送付するとともに,同日付けで,岐阜地方裁判所に対し,岐阜武を債務者として,商標権侵害差止めの仮処分を申し立てた(以下「本件仮処分申立事件」という。)。

本件仮処分申立事件において,債務者である岐阜武及び債務者補助参加人である被告は,商標権の使用許諾について「債務者標章(1)ないし(3)は,文字部分については補助参加人が商標登録を受けており(登録第4345622号。)

以下登録商標を「参加人登録商標(1)」といい,…,また,債務者標章(2)の図形部分は,補助参加人が同様に商標登録を受けている(登録第4137882号。以下登録商標を「参加人登録商標(2)」といい,…)。債務者標章(1)ないし(3)は,いずれも補助参加人が図案部分も含めて全部作成しているところ,債務者は補助参加人から使用」と主張している甲第59号証)ここで,「債務者標章(1)ないし(3)」許諾を受けた( 。とは,見解書において岐阜武が使用することについて問題がないとされている見解書別紙(1)の(a)~(c)の商標と同一のものであり,このうち同別紙(1)の(b)の商標及び本件仮処分申立事件の「債務者標章(2)」は,ともに使用商標Aのことである。また,本件仮処分申立事件の「参加人登録商標(1) (登録第4345622号)とは,上段に「USABEAR 」の欧文字を左横書きし,下段に「アズエーベー」の片仮名文字を左横書きしてなる商標であり,本件仮処分申立事件の「参加人登録商標(2)」とは,本件商標のことである。

原告は,被告が岐阜武に対して,その指定商品中「メンズアダルトアウター類」について,平成12年1月24日付けで通常使用権の使用許諾をしていた上記登録第4345622号商標(本件仮処分申立事件の「参加人登録商標(1)」)について,使用権者が原告の登録商標に類似する商標の使用をすることにより,原告の業務に係る商品と混同を生ずる行為をしているとして,平成13年11月19日,商標法53条1項に基づく取消審判の請求をした。

特許庁は,同請求について,取消2001-31307号事件として審理したが,被請求人である被告は,答弁書において「被請求人は,株式会社岐阜武に通常使用権を許諾している点や株式会社岐阜武が甲第5号証の商標(以下,商標Aという)を使用している点については,認めるものである。しかし,株式会社岐阜武が使用している商標Aによって,請求人の業務に係る商品と混同を生じるという点については,以下に述べるように認めることはできない。…商標Aは,図と一体になった商標であり,図は登録第4137882号…として登録済みの商標である」と述べた(甲第60号証。)ここで「甲第5号証の商標」及び「商標A」は使用商標Aと同一のものであり「登録第4137882号…として登録済みの商標」とは,本件商標のことである。

特許庁は,平成15年7月10日,同請求について「登録第4345622号商標の登録は取り消す」との審決をした。被告は,同審決の取消訴訟を提起したが,東京高等裁判所は,平成15年12月24日,原告の請求を棄却する判決をし,上記審決が確定したため,登録第4345622号商標の登録は,平成16年6月4日に抹消されている。

3 上記2の経過によると,被告が岐阜武に「メンズアダルトアウター類」について,本件商標の使用を許諾していたことは明らかであり,岐阜武は使用許諾された本件商標を使用していたというべきである。

なお,本件商標の前商標権者(出願人)である「パスクベアカンパニ」の住所は,被告の保有に係る登録第4762838号商標の登録無効審判事件(無効2005-89025号)及びその審決の取消しを求めた知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10833号審決取消請求事件において,被告の提携先と主張された登録第4260676号商標の商標権者である「キングスコートカンパニー」,平成11年審判第35700号商標登録無効審判事件で無効とされた「IDUNHILLI」の欧文字よりなる登録第4101020号商標の出願人である「イダンヒリカンパニ」及び商標法4条1項15号に該当するとして登録拒絶査定(商願平9-13087号)を受けた「IARMANI」の文字よりなる商標の出願人である「イアマーニカンパニ」の住所と同じである。しかも,これらの企業をインターネットの「NATIONWIDE」及び「Delaware」で検索しても,検出することができず,実在する企業であることが極めて疑わしいものである。

4 ところで,被告は,本件の審判段階の平成18年1月13日付け答弁書において,「まず,被請求人は,本件商標を株式会社岐阜武に使用許諾をした事実はない。株式会社岐阜武に使用許諾をした商標は,甲第2号証に明示されているように,登録第4345622号という全く別の商標である。…(中略)…また,請求人は,甲第60号証の記載も根拠としているが,株式会社岐阜武は,甲第5号証に示す標章を被請求人の正式な許諾なしに使用していたものであり,既にこの商標は使用されていないものである」と主張し,本訴において,本件商標につき被告が岐阜武に使用を許諾していたという事実は明らかに否定されると主張するが,このような被告の主張は,取消2001-31307号事件における被請求人としての主張及び本件仮処分申立事件における債務者補助参加人としての主張と矛盾する。

また,被告は,岐阜地方裁判所平成15年(ワ)第62号商標権侵害差止等請求事件の補助参加人として同事件の平成16年7月12日付け準備書面において被告標章(4)は,原告の有する商標権とは明らかに非類似である。前記のように『Bear』の文字は識別力のないことから,被告標章(4)は,図形部分に識別力を有するものである。ところで図形部分は,下記に示すように補助参加人が有する商標権である。登録4137882号(丙第38号証)したがって,原告の有する商標権とは何ら類似しないことは明らかである。補助参加人が有する商標権を被告に使用させたところで何等問題はないものである」と主張しており,本訴における被告の主張は,この主張とも矛盾するものである。

したがって,本訴における被告の上記主張は,信義誠実の原則に反し,禁反言の法理に触れるものであるから,到底許されないというべきである。

5 以上によると,被告が岐阜武に本件商標の使用を許諾し,岐阜武は使用許諾された本件商標を使用していたことが明らかであり,岐阜武が本件商標の通常使用権者であることが明白であるから,その認定を誤った審決の結論は誤りであり,審決は取り消されるべきである。

第4 被告の反論の要点

1 原告は,本件商標につき,岐阜武が通常使用権者であるから,審決の判断は誤りであると主張するが,被告が岐阜武に本件商標の使用を許諾した事実はなく,岐阜武は本件商標の通常使用権者ではないのであるから,原告の主張は失当である。

2 原告は「商標使用許諾契約書」及び念書の存在を指摘しているが,これらは登録第4345622号商標に関するものであって,本件商標(登録第4137882号)とは何の関係もない。

本件商標について被告が岐阜武に使用を許諾したというのであれば,この点についての契約書がなければならない。

3 また,原告は,見解書から,本件商標についての使用許諾が証明されるとするが,失当である。

見解書は,被告訴訟代理人らがその別紙(1)に掲げられている文字及び図形の使用について見解を述べたものである。その「2.理由」欄には「尚,株式会社セント・ローランは株式会社岐阜武に,上記登録商標について使用許諾を与えているとのことである」と記載されているが,ここにいう上記登録商標とは,登録第4345622号商標のことである。

見解書の「2.理由」には, 尚上記パスクベアカンパニの上記登録商標は,「株式会社セント・ローランに商標権を移転させる手続きを準備中であり,株式会社セント・ローランは上記(a),(b),(c)の図形についても株式会社岐阜武に使用許諾を与えるとのことである」と記載されており,この記載から「上記登録商標」すなわち本件商標(登録第4137882号)について,パスクベアカンパニから被告会社に対して商標権を移転させる手続きを準備中であること,別紙(1)に掲げられている(a),(b),(c)の図形について将来,被告が岐阜武に対して使用許諾を与える予定であることまでは読み取ることができる。

しかしながら,この記載から,本件商標について被告が岐阜武に使用許諾を与えることやその予定があることについては,全く読み取ることはできず,むしろ同時期に使用許諾を与えていたなら,登録第4345622号商標のように,使用許諾を与えていると記載しているはずである。

ちなみに,見解書の作成年月日は平成12年4月12日であり,少なくとも本件の審判段階において,本件商標について被告の使用許諾があったと原告が主張していた日(平成12年1月24日)より2か月以上も後である。

本訴において,原告は,被告が岐阜武に使用許諾を与えた日時について,はっきりとは主張をしていないようであるが,被告による使用許諾があるというのであれば,何時ころそのような事実があったというのか明確にすべきである。

4 本件仮処分申立事件の決定によれば,被告及び岐阜武が「債務者標章(1)ないし(3)は,いずれも補助参加人が図案部分も含めて全部作成しているところ,債務者は補助参加人から使用許諾を受けた」と主張したと記載されている。ここでいう「補助参加人」は被告であり「債務者」は岐阜武である。

もっとも「債務者標章(1)ないし(3)」というのは,同決定に係る決定書(甲第59号証)添付の標章目録に記載されている図形及び文字(1)ないし(3)のことを指しており,これは見解書別紙(1)記載の図形(a),(b),(c)と同じものであって,本件商標を指しているものではない。上記決定には本件商標(登録第4137882号商標)について使用許諾を与えたなどとは記載されていないのである。

5 以上のとおり,原告の主張はいずれも失当であり,岐阜武は本件商標の通常使用権者ではないから,審決の判断に誤りはない。

当裁判所の判断

1 取消事由(岐阜武が本件商標の通常使用権者ではないとの認定の誤り)について

(1) 上記第2の1,2の各事実に,以下に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実を認めることができる。

ア登録第4345622号商標の使用許諾

被告は,上段に左横書きで「USABEAR」の欧文字を,下段に左横書きで「アズエーベー」の片仮名文字をそれぞれ書してなり,指定商品を第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」とする登録第4345622号商標(設定登録日平成11年12月17日。「以下『USABEAR/アズエーベー』商標」という)の商標権者であったところ,平成12年1月24日,岐阜武との間で「USABEAR/アズエーベー」商標につき,メンズアダルトアウター類の日本国内の販売に使用することを岐阜武に許諾する旨の商標使用許諾契約を締結した。

(甲第2号証,第63号証)

イ見解書の作成

本訴における被告訴訟代理人であり,本件の審判における被告の代理人でもあった足立勉弁理士(以下「足立弁理士」という)外1名は,平成12年4月21日付けで見解書を作成した。見解書は「結論」として,その別紙(1)に表示された3個の「文字及び図形」(そのうち(b)の符号が付されたものは,使用商標Aと同一構成のものである)を岐阜武が第25類の商品に使用することは問題がないとし,その理由として「別紙(1)に示す文字中『USABEAR』『アズエーベー』の文字は,株式会社セント・ローランにおいて登録済みの商標である(商標登録第4345622号・・・)(判決注・「USABEAR/アズエーベー」商標のことである。)。実際,使用する文字の大きさ,配置は異なるものの,このような変更は社会通念上,商標の使用と認められるものであり,問題とならない。(b)の『USA』の文字は,識別力を有しない文字であり『アメリカ製』の商品に使用するに際しては問題とならない。尚,株式会社セント・ローランは株式会社岐阜武に,上記商標について使用許諾を与えているとのことである。また・・・(b)の図形部分は,パスクベアカンパニが登録済みの商標(商標登録第4137882号・・・) 。を若干変更(・・・bは色彩を異にした)した(判決注・本件商標のことである)にすぎず,この程度では当然類似範囲に含まれるものである・・・尚,上記パスクベアカンパニの上記登録商標は,株式会社セント・ローランに商標権を移転させる手続きを準備中であり,株式会社セント・ローランは上記・・・(b)・・・の図形についても株式会社岐阜武に使用許諾を与えるとのことである」と記載されている。

(甲第4号証)

ウ本件商標の移転登録

上記第2の1の(1)のとおり,パスクベアカンパニは被告に対し,本件商標に係る商標権の移転(移転登録日平成12年5月17日)をしたが,当該商標権の移転は,見解書の作成日付と同一の平成12年4月21日付け譲渡証書による商標権の譲渡を原因とするものであり,かつ,商標権移転登録は,足立弁理士外1名の代理作成に係る同月24日付け移転登録申請書(特許庁受付同月26日)に基づいてなされた。

(甲第1号証,第130号証の1,2)

エ本件仮処分申立事件における被告及び岐阜武の主張

原告は,平成12年10月18日ころ,岐阜武を債務者として,岐阜地方裁判所に本件仮処分申立事件の申立てをした。同申立ては,3個の標章を付した被服を債務者が販売すること等の差止めの申立て含むものであったところ,当該3個の標章(仮処分申立書及び仮処分決定書において「債務者標章(1)~(3)」との略称が付されている)は,見解書の別紙(1)に表示された3個の「文字及び図形」と同一構成のものであり,このうち債務者標章(2)が使用商標Aと同一の構成のものである。被告は,本件仮処分申立事件において,債務者(岐阜武)側に補助参加し,岐阜武とともに「債務者標章(1)ないし(3)は,文字部分については補助参加人が商標登録を受けており(登録第4345622号・・・)(判決注・USABEAR「/アズエーベー」商標のことである。),また,債務者標章(2)の図形部分は補助参加人が同様に商標登録を受けている(登録第4137882号・・・)(判決注・本件商標のことである。)。債務者標章(1)ないし(3)は,いずれも補助参加人が図案部分も含めて全部作成しているところ,債務者は補助参加人から使用許諾を受けた」と主張した。

(甲第58号証,第59号証)

オ取消2001-31307号事件における被告の主張

原告は,平成13年11月19日,被告を商標権者とする「USABEAR/アズエーベー」商標につき,通常使用権者である岐阜武の不正使用を理由として,商標法53条1項に基づく登録取消審判の請求をした(取消2001-31307号事件。)原告の請求の理由は「USABEAR/アズエーベー」商標の通常使用権者である岐阜武が「USABEAR/アズエーベー」商標と類似する使用商標Aを「ジャケット」に使用し,原告の業務に係る商品と混同を生ずる行為をしたというものである。これに対し,足立弁理士は,審判被請求人である被告の審判代理人として,平成14年3月25日付け答弁書により「被請求人は,株式会社岐阜武に通常使用権を許諾している点や株式会社岐阜武が甲第5号証の商標(以下,商標A」という) 。を使用している点については,認め(判決注・使用商標Aのことである)るものである。しかし,株式会社岐阜武が使用している商標Aによって請求人の業務に係る商品と混同を生ずるという点については,以下に述べるように,認めることはできない。」,「商標Aは,図と一体となった商標であり,図は登録第4137882号(判決注・本件商標のことである。)・・・として登録済みの商標である」と。主張した。(甲第60~第62号証)

(2) 上記(1)の各事実によれば,以下のとおり認めることができる。

被告は,平成12年1月24日,岐阜武との間で「USABEAR/アズエーベー」商標につき使用許諾契約の締結をしたものであるが,平成12年4月21日には,岐阜武が使用商標Aと同一の構成よりなる「文字及び図形」を第25類の商品に使用することに問題がないとする見解書を足立弁理士が作成していることにかんがみて,岐阜武が実際に使用するものと想定されていた商標には使用商標A(見解書別紙(1)に表示された「文字及び図形」のうち(b)の符号が付されたもの,本件仮処分申立事件における債務者標章(2),取消2001-31307号事件における商標A)が含まれていたものと推認することができ,現に岐阜武はこれを実際に使用していたことが認められる。

しかるところ,使用商標Aの構成は,本件商標を構成する図形の色彩を反転させた上「USABEAR/アズエーベー」商標の「USABEAR」の文字部分と組み合わせてなるものであり,このことは,足立弁理士が見解書で指摘し,また,被告及び岐阜武が本件仮処分申立事件において主張するところであるから,被告と岐阜武の共通の認識であったものと認められる。

そして,そうであれば,岐阜武が使用商標Aを使用し得るというためには「USABEAR/アズエーベー」商標について使用許諾を受けたのみでは不十分であり,本件商標についても使用権限を取得する必要があるものというべきところ,このことに,本件商標に係る商標権をパスクベアカンパニから被告に移転する手続の準備中である旨が見解書に記載されており,現に見解書の作成の直後にその旨の移転登録申請がなされていること,また,本件仮処分申立事件や取消2001-31307号事件において,被告及び岐阜武は,使用商標Aの図形部分をなす本件商標が被告の登録商標である旨を主張しているが,この主張は,本件商標の商標権者である被告が岐阜武にその使用を許諾しているとの趣旨を含むものとして理解しなければ,意味をもたないことを併せ考えれば,被告と岐阜武との間には,被告が本件商標に係る商標権を取得したとき(パスクベアカンパニから被告に対する移転登録がされた平成12年5月17日)と同時に,又はその後間もなく,本件商標についての使用許諾契約が明示的又は黙示的に締結されたものと推認することができる。

被告は,見解書の記載から,本件商標について被告が岐阜武に使用許諾を与えることやその予定があることを読み取ることができないとか,本件仮処分申立事件における被告及び岐阜武の主張は,債務者標章(1)ないし(3)について岐阜武が被告から使用許諾を受けたということであって,被告が本件商標について使用許諾を与えたとの主張は記載されていないなどと主張する。しかしながら,上記のとおり,見解書の記載内容や本件仮処分申立事件における被告及び岐阜武の主張内容を含む各事実を総合すれば,被告と岐阜武との間に,本件商標についての使用許諾契約が明示的又は黙示的に締結されたものと推認することができるのであるから,被告の上記主張は失当である。

2 結論

以上のとおりであるから,審決が「被請求人と岐阜武との間において,本件商標について商標使用許諾契約が,明示的にせよ黙示的にせよ,締結された事実を推認するには足りないというほかない。したがって,岐阜武が,本件商標の通常使用権者であると認めることはできない」とした認定判断は誤りであるというべきであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取消しを免れない。

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