知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成18年(行ケ)第10334号 審決取消請求事件


主文

1 特許庁が不服2004-16941号事件について平成18年2月28日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文と同旨

第2 事案の概要

本件は,原告が後記商標の出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。

第3 当事者の主張

1 請求原因

(1)特許庁における手続の経緯

原告は,平成15年5月26日,後記本願商標につき商標登録出願(以下「本願」という。)をしたが,平成16年5月14日に特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判を請求した。

特許庁は,同請求を不服2004-16941号事件として審理した上,平成18年2月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成18年3月20日原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加された。

(2)本願商標の内容(甲1)

ア 商標

イ 指定役務

第42類

「各種コンピュータ製品・電子製品・通信製品・情報製品及びこれらの周辺機器・構成部分・部品の研究・開発・設計・検査・試験」

(3)審決の内容

審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商標は,下記引用商標1及び2とは,外観において相違し,観念において比較することができないとしても,称呼において類似し,かつ,本願商標の指定役務と同一又は類似の役務が引用商標1及び2の各指定役務中に包含されているから,商標法4条1項11号により商標登録を受けることができない,としたものである。

ア 引用商標1(登録4735251号)イ引用商標2(登録4735252号)

・商標(標準文字)・商標

「プラモス」

・指定役務(引用商標1及び2に共通)

第40類

「合成樹脂成形品の成形加工,合成樹脂成形品の成形加工に関するコンサルティング,合成樹脂成形品の二次加工,合成樹脂成形品の二次加工に関するコンサルティング,合成樹脂成形用金型の加工,合成樹脂成形品の成形加工のための光造形模型の製作,金属の加工,ゴムの加工,プラスチックの加工,セラミックの加工,木材の加工,紙の加工,石材の加工,廃棄物の再生,材料を特定しない総合的な材料処理情報の提供,印刷」

第42類

「合成樹脂成形品の形状設計・評価・助言及び技術指導,合成樹脂成形品用金型の設計・助言及び技術指導,合成樹脂成形品及びその二次加工品に関する試験・技術指導,合成樹脂成形品の破壊解析,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,計測器の貸与,電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与,製図用具の貸与」

・出願日(共通)平成14年11月29日

・登録日(共通)平成15年12月19日

・商標権者(共通)ダイセル化学工業株式会社

(4)審決の取消事由

しかしながら,審決が,本件商標は引用商標1,2との関係で商標法4条1項11号に該当すると判断したことは,以下のとおり誤りであり,審決は違法として取り消されるべきである。

ア (「プロモス」の称呼のみを取り出して類否判断に供したことの誤り)

審決は,本願商標から「ProMOS」の文字部分のみを分離・抽出し,これより「プロモス」の称呼をも生ずるとして,各引用商標との類否判断を行っているが,このような審決の認定は誤りである。

(ア)(図形部分と文字部分を分離して認定したことの誤り)

確かに,本願商標中の図形及び各欧文字は段を違えて表されてはいるが,各欧文字は上段に表された図形の横幅に合わせてバランスよく2段に配されているものであり,商標全体としては,やや横長の四角形の枠内にすべての構成要素が配されたまとまりのある態様として,渾然一体の商標と需要者らには認識されるものである。このようなまとまりのある商標を,単に図形と文字という相違によって,また文字の大きさ等の相違により,それぞれをばらばらにとらえた上で,ここから「ProMOS」の部分のみを抽出することは妥当ではない。

実際,本願商標は「ProMOS」のみから成るものではなく,これは図形を含めた態様そのままに使用され,自他役務の識別に機能するものである。その際,これより図形部分を無視することはできず,同様に「TECHNOLOGIES」の文字も無視されるものではないため,まとまりのある全体的な構成と相まって,需要者らには「図形+プロモステクノロジーズ」との理解でとらえられ,称呼も「プロモステクノロジーズ」のみを生ずる。

本願商標はすべての構成要素が渾然一体となった態様であり,殊更「ProMOS」の部分のみが分離・抽出されるものではないため,これらの構成要素をばらばらにして本願商標を把握しようとする審決の判断手法は誤っている。

(イ)文字部分の称呼の一体性

本願商標が図形部分を含めて渾然一体であることは上記のとおりであるが,このうち「ProMOS/TECHNOLOGIES」の文字部分のみをとってみても,ここからは「プロモステクノロジーズ」の称呼のみが生ずるのであり,「プロモス」の称呼のみを分離するべきではない。

すなわち,「ProMOS/TECHNOLOGIES」は,原告の英語社名を表しており,この一連で一つの企業体を指すものである。したがって,本願商標において,「ProMOS/TECHNOLOGIES」の文字部分は一体的な称呼においてのみ認識されるべきものである。

イ(本願商標の「プロモス」の称呼と引用商標の「プラモス」の称呼とが類似すると判断したことの誤り)

仮に,本願商標中の「ProMOS」の文字から「プロモス」の称呼が生じるとしても,以下のとおり,各引用商標の称呼である「プラモス」に類似するものではなく,両者が類似するとした審決の判断は誤りである。

(ア)審決は,本願商標の「プロモス」と各引用商標の「プラモス」に関し,「ロ」と「ラ」は発音が近似すること,称呼上の差異を明確に聴別し難い構成音の第2音に位置することを理由に,称呼上類似であると判断している。しかし,比較の対象はあくまでも「プロモス」と「プラモス」なのであって,それぞれの称呼の長さや,前後の音との関係等においてみれば,単に第2音目に差異音が位置するからといって類似するわけではなく,また混同が生ずるものでもない。

すなわち,まず,「プロモス」と「プラモス」はいずれもわずか4音という短い称呼であって,そのような短い称呼中にあっての1音の差異というのは,全体的な称呼に及ぼす影響は決して小さくない。審決は,両商標の差異音の位置に関し,差異を明確に聴別し難い第2音に位置するとしているが,全体で4音しかない称呼の第2番目に位置する音というのは,第1音目の新鮮な印象を受け継いでいるのであり,どのような音が発せられるのか,これを聞く者にいまだ関心を抱かせるものであるから,むしろ差異は明確であるといえる。

(イ)本願商標の「プロモス」の場合は,第2音の「ロ」と次の「モ」の母音が同じオ段に属する音であるため,「ロモ」の部分が滑らかにつながり,全体としても比較的滑らかに「プロモス」と発音される。一方,各引用商標の「プラモス」は,第2音の「ラ」がア段に属する音であり,これは口を大きく開けて明りょうに発音される音であるため,「ラモ」のつながりも本願商標ほどに滑らかなものではない。むしろ引用商標は,「ラ」で一度大きく開いた口を,次の「モ」で先をすぼめるようにしなければならない作業が加わるため,「プラモス」の全体としても滑らかな発音というよりは,1音1音がメリハリをもって発音されるものといえ,その中にあって差異音である「ラ」はことさら明りょうに発音されるものである。

(ウ)さらに,両称呼は「プロ・モス」及び「プラ・モス」という2音節から成るものとみるのが自然であり,称呼される両者においては,「プロ」あるいは「プラ」という塊が称呼においても意識されることとなる。

そして,本願商標の「プロモス」のうちの「プロ」は,「プロフェッショナル,専門職にふさわしい」などの意味を有する語として我が国で親しまれており,「プロ」という発音は我が国の需要者らにとっては非常に馴染みのある発音となっているため,他の音と聞き違える場合は少ない。他方,各引用商標の「プラモス」のうちの「プラ」は,「プラスチック」の略語として我が国では親しまれているため,同様に,他の音との間で聞き違いをすることは少ない。

(エ)「プロ」や「プラ」から生まれる意味合いという点に関し,審決は,「プロモス」及び「プラモス」はいずれも特定の意味合いを生じることのない造語から成るものとして,観念において比較することができないと述べるにとどまる。しかし,本願商標の「Pro」からは「プロフェッショナル」のようなイメージが生じ,引用商標の「プラ」「PLA」からは「プラスチック」といったイメージが生じることも確かであるから,上記(ウ)のとおり親しまれた発音であるだけにこれが称呼の聞き取りにおいて影響を及ぼさずにはおかず,さらには,商標より生ずるイメージの一部を担う部分であるため,こうした相違は商標を区別しやすい方向に作用しこそすれ,その逆はあり得ない。

ウ (総合的な考察による類否判断の誤り)

(ア)商標の類否判断については,商標の有する外観,称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察すべきものであるところ,審決は,このうちの称呼が類似することから,本願商標は引用商標と類似する,と判断したものである。

しかし,本願商標の「ProMOS」の文字部分から単独の称呼が生ずるとしても,これにより図形部分や「TECHNOLOGIES」の文字部分が消えてなくなるわけではないので,その場合でも図形等の印象が商標の類否判断において深く影響する。本願商標は全体が図形を含めてまとまりのよい構成であり,特に本願商標にあって図形は目立つため,看者はその全体を記憶することとなる。よって,仮に「プロモス」の称呼により本願商標が取引に資されることがあったとしても,それは図形と文字とが一体となった商標であることが需要者らの念頭にあるものであって,プロモス・テクノロジーズ社の社章という意識が記憶にも残るものであるから,単なる文字商標でありしかも発音が異なる引用商標とは,容易に識別が可能である。

(イ)商標の類否判断は,商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層

その他商品又は役務の取引の実情を考慮し,需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。ここにいう取引の実情を,当該指定商品や役務に係る一般的・恒常的な取引の実情をいうとして検討すれば,本願商標と各引用商標とは非類似といえる。

本願商標の指定役務は,他人からの依頼に基づき,コンピュータ機器等の研究や開発,設計を行い,また,これらの機能や性能につき検査や試験を行うというサービスである。これらのサービスの需要者層は当然にコンピュータ等を扱う専門の業者が主となるのであり,分野としては非常に限られた特殊な範囲が対象となっている。このような特殊なサービスについては,どのような会社がこれを提供するのかということは重要であるから,こうした分野における需要者の商標を見る際の注意力というのも,一般消費財などの需要者に比較して高いといえる。

一方,各引用商標は本願の指定役務のように対象商品が限定された特殊な分野のサービスを明確に含むものではない。仮に,類似範囲とされる分野について各引用商標が使用されたとしても,少なくとも本願の指定役務の分野は上記の通り限定されており,当該分野の需要者らは通常一般の商品の需要者より注意力は高いといえるため,依然としてここに両商標が類似のものとして受け取られるおそれはない。

また,人が直接提供を行うサービスの分野については,提供主体こそが重要なのであるから,役務に用いられる商標においては,それ自体が転々流通する商品と比較して,商標とその提供主体との結び付きはより強くなっている。よって,サービスが商標の称呼のみにより取引に資される場合は少なく,仮に口頭や電話で取引が行われることがあったとしても,相手方が重要なのであるから,この場合も現に向き合っている相手を十分に理解した上で取引を行い,万一,相手を誤認して話を進めても取引自体が進まない。こうした実態を考慮すれば,本願商標の一部分の称呼のみが一人歩きするということも考え難い。

(ウ)判例によれば,商標の類否については,対比される両商標が同一・類似の商品について使用された場合に,商品の出所について誤認混同のおそれがあるか否かによって決すべきであることを前提に,そのためには「その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする」(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)とされている。

そこで,本件に関する具体的な取引の実情を検討すると,まず本願商標については,これは指定役務がすでに相当程度具体的に限定されており,その内容も上記に説明したとおりであるところ,需要者層はコンピュータ等の分野の専門業者が主であり,商標は原告会社そのものを表している。他方,引用商標はその指定役務に特に合成樹脂成形品に関するサービスを明記していることからも分かるように,これは実際には「合成樹脂成形品の形状設計・評価・助言及び技術指導,合成樹脂成形品の破壊解析」などについて使用されるものであり,商標は当該サービス自体の名称である。

本願商標及び各引用商標は,使用対象となるサービスがこのように異なるのであり,その需要者も共通性を見いだせず,そもそも役務の提供主体等の混同を生じる前提が存在しないともいえる。このように,具体的な取引の実情にかんがみれば,ますます本願商標と各引用商標とが混同される余地のないことは明らかである。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。

3 被告の反論

審決の認定判断は正当であり,以下に述べるとおり原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1)原告の主張アに対し

本願商標は,その構成に照らせば,図形部分と欧文字部分とが視覚的に分離して看取され得るばかりでなく,その構成全体をもって特定の称呼,観念を生ずる等,これらが常に一体不可分のものとしてのみ把握されるとする特段の事情は見いだし得ないものであるから,本願商標は,その図形部分と欧文字部分とがそれぞれ独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るというべきである。

そして,本願商標の構成中の欧文字部分についてみるに,「ProMOS」の文字は「TECHNOLOGIES」の文字に比べて大きく,特定の意味合いを生ずることのない造語から成るものであり,それ自体,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものである。また,「ProMOS/TECHNOLOGIES」という全体の文字数は18字と冗長なものであって,ここから生ずる「プロモステクノロジーズ」の称呼も11音と冗長なものであるから,一気一連に称呼されるとはいい難いものである。

そうすると,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際において,本願商標に接する取引者,需要者は,その構成中のほぼ中央に顕著に表された「ProMOS」の文字部分に着目し,当該文字に相応する称呼をもって取引に資する場合も決して少なくないと考えられるから,本願商標は,「ProMOS」の文字部分から「プロモス」の称呼をも生ずるというべきである。

(2)原告の主張イに対し

本願商標から生ずる「プロモス」の称呼と,各引用商標の「プラモス」の称呼とは,共に4音から成り,そのうちの第2音において「ロ」と「ラ」の音の差異を有するにすぎない上,差異音である「ロ」と「ラ」とは発音・調音の方法が近似する。また,第2音は,明瞭に発音され聴取される語頭音「プ」の直後である関係上,比較的弱く響く音となり,明瞭に聴取され難いものとなる。

これらのことからすれば,それぞれを一連に称呼するときは,語感,語調が近似し,互いに聴き誤るおそれがあるというべきである。

(3)原告の主張ウに対し

ア 審決は,本願商標について分離観察を行い,本願商標の「ProMOS」が独立した自他役務の識別標識としての機能を果たすと認定した上,当該文字部分と引用商標1,2の「プラモス」及び「PLAMOS」の文字とは,称呼上類似するものであり,しかも,いずれも特徴のない一般的な書体をもって表されていて,外観上,看者に強い印象を与えるような差異を有するものではなく,また,いずれの文字も特定の観念を生ずることのない造語からなるものであることから,本願商標と各引用商標との外観,称呼及び観念の各要素を総合的に検討した結果,本願商標と引用商標とは類似するものであると判断したものである。その認定及び判断に,原告主張の誤りはない。

イ また指定役務の取引の実情を踏まえて判断しても,本願商標に係る指定役務の対象となる製品は,非常に広範囲にわたるものであるから,同種の役務を提供する企業が多数存在することは容易に推認できるところであり,そのような多数の企業の中から取引先を選択する過程においては,新聞や雑誌等の各種媒体による宣伝広告,報道,記事等を通じて本願商標を記憶し,その記憶を通じて,取引に資するものと考えられる。そして,その際には,本願商標に接する取引者,需要者は,その構成全体のほぼ中央に大きく顕著に表され,それ自体,特定の観念を生ずることのない造語から成るものであって独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得る「ProMOS」の文字部分に着目し,これをもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。

また,当該役務の取引において,FAXや電子メールといった通信手段を用いて取引が行われる場合があることは被告も否定するものではないが,そのような場合があることをもって直ちに,当該通信手段による取引形態が一般的で主流となっているとまではいい難く,むしろ簡易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,極めて簡便な電話を用いた口頭による取引を行う場合も決して少なくないと考えられる。

そして,口頭による取引を行うに当たっては,その取引において使用される商標から生ずる称呼が役務の識別に際し重要な要素となり得るところ,前記(2)のとおり,本願商標と各引用商標との語感,語調が近似し,互いに聴き誤るおそれのある商標というべきである。

ウ 原告は,指定役務の取引の実情に照らせば出所の混同が生じないと主張する。しかし,商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情とは,その指定商品又は指定役務全般についての一般的,恒常的なそれを指すものであって,単に該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的,限定的なそれを指すものでないところ,原告の述べる本願商標及び各引用商標に係る具体的な取引の実情とは,単に各商標が現在使用されている役務についての特殊的,限定的なものにすぎず,その指定役務全般についての一般的,恒常的な取引の実情とはいい得ないものであるから,このような実情を前提に,本願商標と各引用商標について,役務の提主体等の混同を生ずることはないとする原告の主張は,失当である。

当裁判所の判断

1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願商標の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

そこで,以下において,原告主張の取消事由に基づき,審決の当否を判断することとする。

2 原告の主張アについて

(1)原告は,審決が,本願商標から「プロモス」の称呼が生ずるとして,同称呼を各引用商標との類否判断に供したことは誤りであると主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。

(2)本願商標は,前記のとおり,図形と文字とを三段に配した組み合わせから構成されているところ,上段に配される図形部分は特定の称呼,観念を生じさせない抽象的な図形である。そして,本願商標の全体的な構成を見ても,上段の図形部分の全体的な形状はほぼ長方形であり,中段及び下段の「ProMOS」「TECHNOLOGIES」の文字も標準的な書体で書されており,これらが上下三段に平行に配されているにすぎないから,図形と文字とが一体となって一つのデザインを形成しているものとも認められない。

したがって,図形部分と,中段及び下段の「ProMOS」「TECHNOLOGIES」とを,常に一体のものとして把握しなければならない理由は見いだし難い。原告は,上下三段の横幅が揃えられていること等から,やや横長の四角形の枠内にすべての構成要素が配されたまとまりのある態様として渾然一体のものとして需要者らに認識されると主張するが,これらの特徴は,本願商標を把握するに当たり文字部分を図形部分から分離することの妨げになるものとはいえない。

(3)次に,「ProMOS」「TECHNOLOGIES」の文字部分から生ずる称呼について検討すると,下記①~③の点に照らして,本願商標に接する取引者・需要者は,「ProMOS」の部分に着目すると認められるから,本願商標からは,「ProMOS」を英語風に発音した「プロモス」の称呼が生ずると認められる。

①「ProMOS」「TECHNOLOGIES」とが上下二段に配置されており,両者を一体として把握しなければならないものではない。

②「ProMOS」の文字が,「TECHNOLOGIES」よりも大きな書体で記されている。

③「ProMOS」は特段の意味を持たない造語であって固有名詞であると認識される可能性が高い。これに対し,「TECHNOLOGIES」が,英語の普通名詞「Technology」の複数形であることは公知の事実であり,「広辞苑」(第5版)にも「テクノロジー【Technology】①技術学。工学。②科学技術」との項目があることからも明らかなように,外来語としてすでに一般化している。

原告は,「ProMOS TECHNOLOGIES」が原告の英語社名を表しており,一連で一つの企業体を指すものであること等を理由に,「ProMOSTECHNOLOGIES」の文字部分からはこれらを一体とした「プロモステクノロジーズ」の称呼のみが生ずると主張するが,上記①~③の点に照らせば,「プロモス」のみの称呼も生ずるというべきであり,採用することができない。

3 原告の主張イについて

(1)原告は,審決が,本願商標から生ずる「プロモス」の称呼と,各引用商標から生ずる「プラモス」の称呼とが類似すると判断したことは誤りであると主張するので検討する。

(2)「プロモス」の称呼と「プラモス」の称呼とは,ともに4音構成から成り,そのうち「プ」「モ」「ス」の3音を共通にしている。そして,相違する第2音目の「ロ」と「ラ」についてみると,両音は,ともにラ行に属し子音「r」を共通にしており,異なる母音の「o」と「a」とは,いわゆる母音三角形の隣同士に位置し調音方法も類似する音声であって(1976年8月10日第3版発行「音聲學大辞典」株式会社三修社刊),近似する音として聴取されることが認められる。しかしながら,その一方で,「プロモス」及び「プラモス」のような称呼を一連に発音するときは,語頭の「プ」ではなく第2音の「ロ」又は「ラ」に強勢が置かれるのが一般的であることは,当裁判所に顕著な事実である。

そうすると,「プロモス」「プラモス」の両称呼をそれぞれ一連に発音するときは,その語調,語感がある程度は近似するといえるものの,これを耳にする者にとって,両称呼を区別することは多くの場合に可能であると認められる。したがって,審決が,両商標は称呼において類似すると断定したことは,適当ではないといわざるを得ない。

4 原告の主張ウについて

(1)商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的取引状況に基づいて判断すべきである。また,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記三点のうちその一において類似するものでも,他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって,商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきでない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。このことは,商品ではなく役務について用いられる商標においても同様であると解される。そこで,上記の見地に立って原告主張の取消事由の当否について検討する。

(2)本願商標と引用商標とは,審決が認定するとおり(審決3頁第6段落),外観において相違し,観念において比較することができないものである上に,上記3のとおり,称呼において近似するものではあるが,多くの場合に区別が可能であるものと認められる。

そして,これらの外観,観念,称呼によって取引者に与える印象,記憶,連想等について検討すると,「広辞苑」(第5版)には,「プロ」で始まる外来語として「プログラム」( program) 「プロダクション」(production)「プロフェッショナル」(professional)等の多数の項目があり,「プロ」の項に「プログラム,プロダクション,……,プロフェッショナル,……などの略」と記載されているところからみて,「プロ」で始まる「プロモス」の称呼に接した者は,これらのものを連想するものと認められる。また,「プラ」で始まる外来語としては「プラスチック」(plastic)が著名であり,「広辞苑」(第5版)には「プラモデル」の項に「(プラスチック・モデルplastic model に由来する商品名)プラスチック製の部品を組み立てる模型名」との記載があるとおり,「プラスチック」を「プラ」と略することも一般に行われているところからみて,「プラ」で始まる「プラモス」の称呼に接する者は,プラスチックに関連した印象を抱くものと認められる。これらの事情を考慮すれば,取引者に与える印象,記憶,連想の点からみても,本願商標と引用商標とを識別することは十分に可能である。したがって,外観,観念,称呼を総合的に観察すれば,本願商標と引用商標とは,類似する商標であるということはできない。

(3)さらに,指定役務の取引の実情を踏まえて判断すれば,役務の出所に誤認混同をきたすおそれはきわめて小さいものというべきである。本願の指定役務は前記のとおり「各種コンピュータ製品・電子製品・通信製品・情報製品及びこれらの周辺機器・構成部分・部品の研究・開発・設計・検査・試験」である。これらの指定役務の性質自体からして,これらの役務を発注しようとする者(取引者・需要者)の大部分は,情報通信分野を中心とする電子機器・部品の製造業者,流通業者等であることが,容易に推認される。そうすると,本願商標を使用した役務の取引者・需要者は,当該役務に関して一定程度以上の知識経験を備えた少数の者に限られると解される。

また,本願商標の指定役務の提供は,例えばコンピュータ製品の開発であれば,専門的な知識及び経験を備えた技術者によって,高度の技術及び/又は特別の設備を用いて行われるものであって,その他の指定役務についても,程度の差こそあれ,その提供には相応の人的・物的資源を要することが容易に推認される。そして,本願商標を使用した役務の取引者・需要者は,自らが有する知識経験に基づいて,役務の提供者が有するこれらの人的・物的資源を慎重に検討した上で,当該役務の提供を発注する否かを決定することが明らかである。

これらの事情にかんがみると,本願商標の指定役務の取引者・需要者は,本願商標の一部分から生ずる称呼にすぎない「プロモス」という称呼のみによってその役務を発注することはないか,あったとしても極めてまれであると認められる。したがって,本願商標から生ずる「プロモス」の称呼が各引用商標の「プラモス」の称呼と近似することのみをもって,役務の出所に誤認混同が生ずるおそれがあるということはできない。被告は,簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては,極めて簡便な電話を用いた口頭による取引を行う場合も決して少なくないと考えられると主張するが,上記の点に照らして採用することができない。

(4)一方,被告は,本願商標及び各引用商標の指定役務に係る取引の実情として原告が主張する内容は各商標が現在使用されている役務についての特殊的,限定的なものにすぎず,各商標の指定役務全般についての一般的,恒常的な取引の実情とはいい得ない,と主張する。

確かに,原告の主張中には,本願商標についての出願人の使用状況及び各引用商標についての商標権者(ダイセル化学工業株式会社)の使用状況を指摘した上,これらを「取引の実情」として考慮すれば役務の出所の誤認混同は生じないと主張している部分があるところ,原告主張のうちこれらの指摘事項は,各商標の指定役務全般についての一般的,恒常的な取引の実情ではなく,各商標が現在使用されている役務についての特殊的,限定的な取引の事情にすぎないから,登録出願された商標が商標法4条1項11号に該当するか否かの判断において参酌すべきものではない。しかし,上記(3)のとおり,本願商標の指定役務は,役務の性質自体からして,正に「一般的,恒常的」に,限られた範囲の取引者,需要者によって,役務の提供者の能力等についての十分な注意のもとに発注されるものと推認できるのであるから,このことを看過している点において,審決の判断には誤りがあるといわざると得ない。

(5)したがって,本願商標と各引用商標とは,同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認められず,互いに類似する商標であるということはできない。

5 結語

以上のとおり,審決には,商標法4条1項11号にいう類否判断を誤った違法があり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすべきものである。よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。

閉じる