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平成18年(行ケ)第10248号 審決取消請求事件


主文

特許庁が取消2005-30666号事件について平成18年3月7日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 原告の求めた裁判

主文と同旨の判決。

第2 事案の概要

本件は,原告が,被告を商標権者とする後記登録商標につき,少なくとも本件審判請求日前3年以内に国内において使用していないとして,商標法50条1項に基づき取消しを求めたところ,特許庁は,本件審判の請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。

本件において,被告は,適式の呼び出しを受けながら,本件口頭弁論に出頭しない。被告の提出に係り,陳述したものとみなされた答弁書には,訴状の請求の原因に対する答弁として,下記の記載があるが,被告は,その余の主張をせず,立証活動については,証拠の申出を含めて,何らこれを行わなかった。

「1『第1特許庁における手続の経緯』は認める。

2 『第2本件審決の理由』は認める。

3 『第3審決の認否及び取消事由』については,原告が提出予定の準備書面の主張を待って答弁する」。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 本件商標

登録番号:商標登録第4405169号

商標権者:新日本警備株式会社(被告)

構成:別紙商標目録記載のとおり。

指定役務:第42類「栄養の指導,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,子供の世話,老人の世話」

登録出願日:平成4年9月30日

設定登録日:平成12年8月4日

(2) 本件手続

審判請求日:平成17年6月7日(取消2005-30666号)

取消し求める範囲:指定役務中「栄養の指導」について

審判請求の登録日:平成17年6月27日

審決日:平成18年3月7日

審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない」。

審決謄本送達日:平成18年3月16日(原告に対し)

2 審決の理由の要旨

審決は,以下のとおり,審判乙第1~第3号証(本訴甲第1~第3号証。番号は対応している)によれば,被請求人(被告)は,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を本件審判の請求に係る「栄養の指導」に含まれる「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」について使用していたと認められるから,本件商標の指定役務中,請求に係る「栄養の指導」についての登録を商標法50条により取り消すことはできないと判断した。

(1) 被請求人の提出に係る乙各号証によれば,以下の事実を認めることができる。

乙第1号証は,被請求人の発行に係るカタログであり,その表紙には「氣」の文字が大きく表されており,事業内容の紹介として「老人介護サービス, 」,「生活安全福祉部門」,「身元調査」について紹介されており,その中の「老人介護サービス」の項には「専門スタッフによる, 食事・入浴・排泄などの日常のサービスと,リハビリテーションなどの介護サービス,その他。」と記載されており,発行日と認められる「2004.4」の日付が記載されている。

乙第2号証は,被請求人がAに宛てた平成16年9月14日付の請求書であり,被請求人である「新日本警備株式会社」の表示の上部に「氣(マルR )」の商標が表示されており,内訳の項には「在宅療養者に対する献立(メニュー)の作成代行」とあり,該サービスに対する6月分(¥3000/週1回×4回=¥12000),7月分(¥3000/週1回×4回=¥12000)及び8月分(¥3000/週1回×4回=¥12000)の料金が記載されている。

乙第3号証は,同じく,被請求人がAに宛てた平成16年9月14日付の請求書であり,被請求人である「新日本警備株式会社」の表示の上部に「氣(マルR) 」の商標が表示されており,内訳の項には「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」とあり,該サービスに対する6月分(¥6000×3回=¥18000),7月分(¥6000×3回=¥18000)及び8月分(¥6000×2回=¥12000)の料金が記載されている。

(2) 上記において認定した乙第1号証によれば,被請求人は「老人介護サービス」をはじめとする各種のサービスを紹介するために「氣」の文字を表示したカタログを本件審判の請求の登録(平成17年6月27日)前3年以内である2004年4月に印刷・発行し,該カタログを頒布していたものと推認することができる。そして,乙第3号証によれば,被請求人は,Aに対して,平成16年6月に3回,7月に3回及び8月に2回「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」を行い,平成16年9月14日に「氣」の文字が表示された請求書をもって,その料金を請求していたものと認めることができる。

以上の乙号証を総合してみれば,被請求人は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標のもとに,取消請求に係る役務の範疇に含まれる「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」の役務を行っていたものとみるのが相当である。

(3) この点について,請求人は,乙第1号証からは「栄養の指導」の役務が提供されているか否か不明であり,また,乙第3号証には「栄養の指導」の文字が記載されてはいるが,請求書一枚をもって,客観的に本件商標の使用が証明されたとはいえない旨主張している。確かに,乙第1号証のカタログには,「栄養の指導」のサービスが記載されていないことは,請求人の主張のとおりであり,乙第1号証のみをもって,本件商標が「栄養の指導」の役務について使用されていたものというのは困難である。

しかしながら,カタログに掲載されている事業(サービス)の表示には,代表的なサービスが例示的に,しかも,それぞれの事業者の考え方に基づいた分類体系をもって表示されているものとみるのが自然である。そうとすれば,該カタログ中に「栄養の指導」のサービスが積極的に表示されていないとしても「老人介護サービス」の項には「専門スタッフによる,食事・入浴・排泄などの日常のサービスと,リハビリテーションなどの介護サービス,その他。」と記載されており,食事を提供するサービスに伴い,栄養の指導は,密接な関連性のあるサービスの一つであるといえることから,該表示中の「その他」の項目の中には,食事に関連するサービスとして「専門スタッフによる栄養の指導」の如きサービスも含まれているものと容易に推認し得るところである。しかも,カタログの記載は,商品・役務区分に則って表示されている訳でもないから,代表的な例示である「老人介護サービス」の項目の中に「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」のサービスが含まれていると解しても,然程不自然なこととはいえない。したがって,この乙第1号証と乙第3号証の請求書とを併せみれば,被請求人は「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」のサービスを実際に提供していたものと判断し得るところである。

そして,乙第3号証の請求書については,全体の体裁からみても,積極的に疑念を抱かせる不自然なところは見当たらず,その成立を否定するに足る証拠も提出されていない。また,請求人は,乙第2号証及び乙第3号証の請求書中には「警備に対する料金上記の通り御請求申し上げます」との記載があり,内訳内容の記述と矛盾がある旨主張しているが,該箇所は,被請求人である「新日本警備株式会社」が業務全般について使用しているものと推認される取引書類の定型文の表示部分であるから,該定型文と具体的な取引の内訳内容の記述とが異なっていても,止むを得ないことというべきであり,不自然なことともいえない。

そうしてみると,請求人の上記主張は,いずれも理由のないものというべきである。

(4) してみれば,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を本件審判の請求に係る「栄養の指導」に含まれる「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」について使用していたものといわなければならない。

したがって,本件商標の指定役務中,請求に係る「栄養の指導」についての登録は,商標法第50条の規定により取り消すことはできない。

第3 原告の主張(審決取消事由)の要点

1 審決は,被告の発行に係るカタログ(審判乙第1号証,本訴甲第1号証。以下「本件カタログ」という)及び被告作成の請求書2枚(審判乙第2,第3号証,本訴甲第2,第3号証。以下,本訴甲第3号証のものを「本件請求書1」と,本訴甲第2号証のものを「本件請求書2」という)に基づいて,被告が,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」について使用していたと認定したが,この認定には誤りがある。

2 本件カタログについて

(1) 本件カタログの「老人介護サービス」の項には「専門スタッフによる,食事・入浴・排泄などの日常のサービスと,リハビリテーションなどの介護サービスの提供,その他」と記載されているところ,審決は「該表示中の『その他』の項目の中には,食事に関連するサービスとして『専門スタッフによる栄養の指導』の如きサービスも含まれているものと容易に推認し得るところである。」,「カタログの記載は,商品・役務区分に則って表示されている訳でもないから,代表的な例示である『老人介護サービス』の項目の中に『在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導』のサービスが含まれていると解しても,然程不自然なこととはいえない」と認定した。

しかしながら,被告は,元来警備会社であり,商業登記の「目的」欄の記載(甲第6号証),被告について調査をした株式会社Bの調査報告書記載の被告の業務内容(甲第7号証,及び被告のホームページの掲載内容(甲第8号証の1~7))に よれば,被告が,本件カタログの「老人介護サービス」の項に挙げられている「専門スタッフによる,食事・入浴・排泄などの日常のサービスと,リハビリテーションなどの介護サービス」などを自ら提供している事実はなく,また,この項の「その他」に当たり得るような老人に対するサービスとしては,付添いサービス(老人が通院する際に付添いをするもの)や「C㈱との連携で行う」巡回サービス(独居老人の居宅を巡回し,安否情報を別居の家族に報知するもの)などがあるにすぎない。

なお,本件カタログの「老人介護サービス」の項に記載された「食事・入浴・排泄などの日常のサービス」,「リハビリテーション」は,介護保険法(平成17年法律第77号による改正前のもの。以下同じ)所定の「居宅サービス(7条1項)」のうちの「訪問介護(同条2項)又は「訪問リハビリテーション」(同条5項)に当たり得るものであるから,上記「老人介護サービス」が,同法による居宅サービス事業をすべてを包含するものと解する余地がないでもなく,仮に,そうであれば,「居宅サービス」のうちの「居宅療養管理指導(同条10項)」には,管理栄養士による行われる「栄養指導」が含まれるから,上記「その他」に「栄養の指導」のサービスが含まれているということも考えられる。しかしながら,同法による介護給付のうちの居宅介護サービス費は,都道府県知事の指定を受けた指定居宅サービス事業者から,その指定に係る居宅サービス事業を行う事業所により行われる居宅サービスを受けたときに支給されるものである(同法41条)ところ,被告又はその関連会社が上記都道府県知事の指定を受けた形跡は全くない。また,上記のとおり,同法による「居宅療養管理指導」である「栄養指導」は管理栄養士により行われるものであるところ,被告が,雇用等によって管理栄養士の資格を有する者を確保していた形跡もない。本件カタログの上記「食事・入浴・排泄など」,「リハビリテーション」との文言は,単に介護保険法の文言を流用して羅列しただけであって,被告が現実に提供し得るサービスを記載したものではなく,これらの文言があるからといって「その他」に「栄養指導」が含まれるものと認めることはできない。したがって,審決の上記認定は誤りである。

(2) 本件カタログには「2004.4」との数字が記載されているところ,審決は,この記載を根拠として,被告が本件カタログを「2004年4月に印刷・発行し,該カタログを頒布していたものと推認することができる」と認定した。

しかしながら,上記「2004.4」との数字が本件カタログを印刷,発行した日付であると解する根拠はなく,印刷業者の納品書等,これを裏付ける証拠もない。なお, 本件カタログは,審判において原本が取り調べられておらず,この「2004.4」との数字が実際に本件カタログに印刷されたものであるかどうかも確認されていない。また,本件カタログが頒布されたことを認めるに足りる証拠もない。したがって,審決の上記認定は誤りである。

3 本件請求書1,2について

(1) 審決は, ,被告がAに対し,「平成16年6月に3回,本件請求書1に基づき7月に3回及び8月に2回,『在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導』を行い,平成16年9月14日に『氣』の文字が表示された請求書をもって,その料金を請求していたものと認めることができる」と認定した。

しかしながら,本件請求書1は,金額欄の下部に「警備に対する料金」を請求する旨の文言が印刷されたものであり,このような様式の請求書は,およそ警備業務と関係のない栄養指導サービスの提供に対する料金の請求に用いるものとしては不自然である。また,本件請求書1の「氣」の文字は,他の文字部分と字体や濃さが異なるところ,本件請求書1は,審判において原本が取り調べられていないから,上記「氣」の文字が,実際に本件請求書1に印刷されてあったものであるかどうかも確認されていない。そもそも,本件請求書1は,被告が,名宛人であるA等,他者の関与がなく,任意に作成することが可能なものである上,Aからの栄養の指導を内容とするサービスに係る申込書,被告とAとの間の同サービスの提供に係る契約書等,被告とAとの間に,上記同サービスの提供に係る契約が締結されたことを認めるに足りる客観的な証拠を伴わない以上,本件請求書1のみによって,本件商標が「栄養の指導」の役務の提供に当たって使用されたとの事実を認定することはできないというべきである。

(2) 本件請求書1は,平成16年6月から8月までの間の「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」の料金として5万0400円を,本件請求書2は,同期間の「在宅療養者に対する献立(メニュー)の作成代行」の料金として3万7800円を,それぞれAに対し請求する内容のものであって,その合計額は,8万8200円という高額なものである。しかしながら,Aが3か月以上に及ぶ在宅療養者であり,栄養指導や食事指導が治療のために必要と判断される場合には,管理栄養士によるこれらの指導は,介護保険又は健康保険による保険給付の対象となるものであるから,それにもかかわらず,同人がこれらの保険の適用を受けようとせずに,被告から栄養指導等を受けて,その費用を全額自己負担したというのは,不自然である。また,上記2の(1)のとおり,被告が,雇用等によって管理栄養士の資格を有する者を確保していた形跡はないところ,管理栄養士でない者が,在宅療養者であり,何らかの疾病を抱えて,食事指導や栄養指導を必要とする者に対し,これらの指導を行うことは,危険であり,通常あり得ないことである。したがって, これらの点から見ても,審決の上記(1)の認定は誤りである。

当裁判所の判断

1 本件カタログについて

被告は,本件商標につき,その指定役務中の「栄養の指導」について,商標法50条1項の審判の請求を受けたのであるから,審判の請求の登録(平成17年6月27日)前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが「栄養の指導」の役務について,本件商標の使用をしていることを証明しない限り,本件商標は「栄養の指導」の役務につき,原則として,取り消されるべきものである(同条2項本文)。しかるところ,本件カタログは,同法2条3項8号の「役務に関する広告」に該当するものと認められるから,本件カタログが「栄養の指導」の役務に関するものであり,かつ,被告又は専用使用権者若しくは通常使用権者が,本件カタログに本件商標を付して頒布したものとすれば「栄養の指導」の役務について,本件商標の使用をしたことに当たるものということができる(同法2条3項8号は,使用の形態として「頒布」のほか「展示」も規定するが,本件カタログの性状に照らして「頒布」することが「商標の使用」に当たるものと解される。)

そして,本件カタログは,数頁から成る冊子風のもので,その表紙に当たる1枚目に,多少筆記体風の字体による「氣」の文字と「新日本警備株式会社」という被告の商号が記載され,また,数枚目に,上記文字と同一字体の「氣」の文字と共に,「老人介護サービス●専門スタッフによる,食事・入浴・排泄などの日常のサービスと,リハビリテーションなどの介護サービスの提供,その他」との記載がある頁が存在する。

そうすると,上記体裁に照らして,本件カタログの上記「老人介護サービス● 専門スタッフによる,食事・入浴・排泄などの日常のサービスと,リハビリテーションなどの介護サービスの提供,その他」との記載は,被告の提供する役務の一つが「老人介護サービス」であり,その具体的な内容が「専門スタッフによる,食事・入浴・排泄などの日常のサービスと,リハビリテーションなどの介護サービス」等であることを示していると認められるが,この頁を含め,本件カタログには,「栄養の指導」の役務に関する記載は一切存在しない。そして「食事・入浴・排泄などの日常のサービス」又は「リハビリテーションなどの介護サービス」と,「栄養の指導」とでは,前者が,直接,対象者の身体や挙動に接する形態のものであるのに対し,後者は,対象者の意思に働きかける形態のものであり,必要な知識,経験の内容も異なるなど,彼我の役務としての性質には相当程度の差異があるから,「食事・入浴・排泄などの日常のサービス」又は「リハビリテーションなどの介護サービス」が「栄養の指導」の役務の一態様であって,これに含まれるということはできないし,また「食事・入浴・排泄などの日常のサービスと,リハビリテーションなどの介護サービス」と列挙された後に続く「その他」が,「栄養の指導」の役務を含むことが,本件カタログに接した需要者にとって自明であるということもできない。そして,被告は,前述のとおり本件口頭弁論期日に出頭せず,この点(本件カタログが「栄養の指導」に関する広告を含むものであるとする点)について,何ら主張立証をしなかった。そうすると,本件カタログは「栄養の指導」の役務に関する広告であるということはできず,本件カタログに記載された「氣」の文字が,本件商標と社会通念上同一と認められるか否か,本件カタログが審判の請求の登録前3年以内に日本国内において頒布されたものであるか否か等につき判断するまでもなく,本件カタログに関して,指定役務中の「栄養の指導」につき本件商標の使用がなされたと認めることはできない。

なお,審決は,本件カタログに「栄養の指導」のサービスが記載されておらず,本件カタログのみをもって,本件商標が「栄養の指導」の役務について使用されていたものというのは困難であるとしながら「カタログに掲載されている事業(サービス)の表示には,代表的なサービスが例示的に,しかも,それぞれの事業者の考え方に基づいた分類体系をもって表示されているものとみるのが自然である。そうとすれば,該カタログ中に『栄養の指導』のサービスが積極的に表示されていないとしても『老人介護サービス』の項には『専門スタッフによる,食事・入浴・排泄などの日常のサービスとリハビリテーションなどの介護サービスその他。』と記載されており,食事を提供するサービスに伴い,栄養の指導は,密接な関連性のあるサービスの一つであるといえることから,該表示中の『その他』の項目の中には,食事に関連するサービスとして『専門スタッフによる栄養の指導』の如きサービスも含まれているものと容易に推認し得るところである。しかも,カタログの記載は,商品・役務区分に則って表示されている訳でもないから,代表的な例示である『老人介護サービス』の項目の中に『在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導』のサービスが含まれていると解しても,然程不自然なこととはいえない。したがって,この乙第1号証(判決注:本件カタログ)と乙第3号証の請求書(判決注:本件請求書1)とを併せみれば,被請求人は『在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導』のサービスを実際に提供していたものと判断し得るところである」と説示するが,当該説示が,本件カタログに接した需要者にとって「その他」の文言中に「栄養の指導」の役務を含むことは自明であるという趣旨であるならば,上記のとおり誤りである。また,上記説示が,被告が現実に「栄養の指導」の役務を提供していると認められ,このことは,本件請求書1の信用性を補強する補助事実に当たるという趣旨であるならば(なお,仮に,被告が現実に「栄養の指導」の役務を提供していたとしても,そのことは,本件カタログが「栄養の指導」の役務に関する広告とは認められないとの上記認定を左右するものではない。),その当否は後に検討する。

2 本件請求書1について

(1) 本件請求書1は,商標法2条3項8号の「役務に関する・・・取引書類」に該当するものと認められるから,本件請求書1が「栄養の指導」の役務に関す るものであり,かつ,被告又は専用使用権者若しくは通常使用権者が,本件請求書1に本件商標を付して頒布(交付)したものとすれば「栄養の指導」の役務について,本件商標の使用をしたことに当たるものということができる。

しかるところ,本件請求書1は,あらかじめ印刷して製作しておいた請求書用紙を用いて作成した,被告の作成名義に係る「A」宛ての平成16年9月14日付けの請求書であり,請求額として「¥50,400」と,内訳として「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導◎サービス料金1回¥6,000 6月分¥6,000×3回=¥18,0007月分¥6,000×3回=¥18,000 8月分¥6,000×2回=¥12,000消費税¥2,400 合計¥50,400」と,それぞれ手書きで記載され,また,被告の名義の上部に多少筆記体風の字体で「氣」の文字が,その右下部には「R」マークが,それぞれ記載されているものである(これが印刷されてあるものかどうかは,写しである甲第3号証によっては,確定できないが,商標は交付の際に付されていれば足りるものであるから,印刷されたものであるかどうかは,以下の判断に直ちに影響するものではない)

そして,これらの記載によれば,本件請求書1は,被告が,Aに対し「栄養の指導」の役務に含まれる「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」の役務を,平成16年6月から同年8月までの間に合計8回提供したことによる料金額合計5万0400円を請求するという内容のものであり,かつ,上記「氣」の商標が付されているものであることが認められる。

(2) ところで,商標法2条3項8号の「役務に関する広告」であれば,将来開始する予定の役務の提供について,事前に広告をするということがあり得るから,その頒布の時点において,当該役務の提供が現実に行われていることは必ずしも必要ではないと解する余地があるが,同号の「役務に関する・・・取引書類」は,現実の具体的な役務の提供に係る取引に関して作成されたものでなければならず,ことに,本件請求書1は,上記のとおり,作成日付から見て過去の事柄である平成16年6月から同年8月までの間に合計8回なされた「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」の役務(以下,包括して「本件栄養指導役務」という)に対する料金を請求する内容のものであるから,本件栄養指導役務の提供が現実に行われたのでなければ,これをもって「役務に関する・・・取引書類」ということはできない。したがって,商標権者である被告は,上記のとおりの記載のある本件請求書1を,平成16年9月14日ころに(遅くとも,本件審判請求に係る登録がなされた日の前日である平成17年6月26日までに)Aに交付したという事実のほかに,本件栄養指導役務の提供が現実に行われたことを立証する必要があったものというべきである。

そこで,この点について検討するに,まず,本件請求書1自体が,本件栄養指導役務の提供の事実を記載したものということができる。しかしながら,本件請求書1は,被告自身の作成に係るものであること,また「在宅療養者に対するカウンセリングによる栄養指導」は,対象者の健康や生命に直接関わるものであるから,専門的な知識,経験及びこれを担保する管理栄養士等の資格を有する者が担当してなされたものと認めるのが相当であるところ,そのような有資格者を,雇用契約等によって確保したのであれば,相当数の対象者に対し,同種の役務の提供を行うのでなければ,事業としての採算が確保できないと考えられるにもかかわらず,1名のみの対象者に係る請求書しか提出されていないことにかんがみれば,本件請求書1は,その記載内容を裏付ける的確な証拠を伴わない限り,これによって,本件栄養指導役務の提供が現実に行われたとの事実を認めることはできないといわざるを得ない。しかるところ,本件カタログは,上記1のとおり「栄養の指導」の役務に関する記載が一切存在しないものであり,また,そこに記載された「専門スタッフによる,食事・入浴・排泄などの日常のサービスと,リハビリテーションなどの介護サービス」から「栄養指導」の役務の提供も行われていることが,自明の事実として認められるものでもなく,さらに,広告としての性質上,未だ開始されていない事業について,その開始後に頒布する目的で記載して作成されたとの可能性もあるから,これが,本件請求書1の記載内容を裏付けるものということはできない。次に,本件請求書2は,本件請求書1と同様,Aを名宛人として,平成16年9月14日付で作成された被告名義の請求書であり,同年6月から8月までの間の合計12回の「在宅療養者に対する献立(メニュー)の作成代行」に対する料金合計3万7800円を請求するとの内容のものであるが,被告自身によって作成されたものであること,当該役務の提供も専門的な知識,経験を有する有資格者が担当したと認められるにもかかわらず,1名のみの対象者に係る請求書しか提出されていないことなど,本件請求書1について述べたと同様のことが,そのまま当てはまるものであって,これが,本件請求書1の記載内容を裏付ける的確な証拠であるということはできない。そして,他に本件請求書1の記載内容を裏付ける的確な証拠も,本件栄養指導役務の提供が現実に行われたことを直接認めるに足りる証拠も提出されないから,本件栄養指導役務の提供が現実に行われたとの事実を認めることはできない。

そうすると,本件請求書1に記載された「氣」の文字が,本件商標と社会通念上同一と認められるか否か,本件請求書1が本件審判請求に係る登録がなされた日の前日までにAに交付されたものであるか否か等につき判断するまでもなく,本件請求書1に関して,指定役務中の「栄養の指導」につき本件商標の使用がなされたと認めることはできない。

3 以上のほか,指定役務中の「栄養の指導」につき本件商標の使用がなされたと認めるに足りる証拠はないから,本件商標は,商標法50条1項に基づいて,指定役務中の「栄養の指導」につき取り消されるべきであり,原告の審判請求を成り立たないとした審決には,結論に影響を及ぼすべき違法がある。

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