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平成18年(行ケ)第10233号 審決取消請求事件

主文

1 特許庁が不服2004-13228号事件について平成18年1月5日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

本件は,原告が後記商標の出願をしたところ,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,同庁から請求不成立の審決を受けたため,その取消しを求めた事案である。

第3 当事者の主張

1 請求原因

(1)特許庁における手続の経緯

原告は,平成15年6月19日,後記本願商標につき商標登録出願(以下「本願」という。)をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。

特許庁は,同請求を不服2004-13228号事件として審理した上,平成18年1月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は平成18年1月17日原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加された。

(2)本願の内容

〔商標〕(省略)

〔指定商品〕第7類「圧延機,連続鋳造機,その他の金属加工機械器具」

第9類「測定機械器具,電気通信機械器具,電気磁気測定器,電子応用機械器具及びその部品」

(3)審決の内容

審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商標は,平成12年10月6日に設定登録された下記引用商標に称呼上類似し,かつ,指定商品についても同一又は類似するものであるから,商標法4条1項11号により商標登録を受けることができない,としたものである。

〔登録番号〕商標登録第4422292号

〔商標〕(標準文字)EXPACT

〔指定商品〕第7類「粉体又は流体吹付けによる金属鋳物のバリ除去装置,その他の金属加工機械器具,プラスチック加工機械器具,動力伝導装置(陸上の乗物用のものを除く。),金属鋳物製品の搬送用コンベヤー,その他の金属鋳物製品の搬送装置」

第9類「配電用又は制御用の機械器具,鋳造装置の制御プログラムを記憶した電子回路,その他の電子応用機械器具及びその部品」

第12類「金属鋳物製品の搬送用フォークリフト,金属鋳物製品移動用の無人搬送車,金属鋳物製品移動用の索道」

〔商標権者〕

ゲオルクフィッシャーディサエンジニアリングアクチェンゲゼルシャフト

〔同上住所〕

(4)審決の取消事由

しかしながら,審決は,以下に述べる理由により,違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(本願商標の構成態様において図形要素を有することを軽視し,称呼の類似のみをもって商標の類似を判断したことの誤り)

(ア)本願商標は,前記のとおり「X‐Pact」の欧文字部分と図形要素から成るところ,審決は,「……欧文字部分も独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすものと認められるから,『X‐Pact』の文字に相応して『エックスパクト』の称呼を生ずるものである」(2頁第2段落)とした上,本件商標の称呼(「エックスパクト」)と引用商標の称呼(「エクスパクト」)とを対比し,両者は類似しているとした。そして,本願商標が欧文字部分のみならず図形要素をも有することについては,わずかに「その外観において相違するところがあるとしても,」(2頁最終段落)と言及するのみで,直ちに「称呼上類似する商標であって,その指定商品も同一又は類似するものであるから,本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は,妥当であり,取り消すべき限りでない」(3頁第1段落)との結論を導いている。しかし,審決のこのような判断は,類否判断対象の把握の仕方を誤ったものである。

(イ)本願商標の「X‐Pact」の欧文字部分に相応して「エックスパクト」の称呼が生じることは争わないが,当該欧文字部分だけが独立して商標と認識されるわけではない。審決の上記判断は,あたかも,本願商標が,実際は図形部分を伴っているにもかかわらず,「X‐Pact」の文字のみから成る商標であるかのように把握したものである。しかし,本願商標は,「X‐Pact」の欧文字部分が独立して自他商品識別標識としての機能を果たしているのではなく,図形部分と文字部分とが「一体に結合」したその商標の構成全体をして識別機能を発揮しているのである。

審決は,図形部分の有無については,理由の末尾で「その外観において相違するところがあるとしても」(2頁最終段落)と述べており,これは商標の実際の構成態様を軽視していることの現れともとれるのであるが,このような姿勢は,登録商標の範囲(すなわち後願排除効の及ぶ範囲)を「願書に記載した商標に基づいて定めなければならない」と規定する商標法27条1項の趣旨からして許されるべきではない。

本願商標が引用商標に類似するものであるというためには,外観上の相違を凌駕してなお一般的出所混同を生じるおそれがあるといい得るだけの称呼的な特殊事情がなければならない。しかるに,下記イで述べるとおり,本願商標の称呼と引用商標のそれとの間に,一般的出所混同の可能性を想定しなければならないような事情はない。

イ 取消事由2(称呼の類否についての判断の誤り)

(ア)取消事由2-1(引用商標から生ずる称呼の認定の誤り)

審決は,引用商標からは「エクスパクト」の称呼のみが生ずるとの前提に立っているが,英単語「expact」の表音を片仮名文字で特定すると,「イクスパクト」のように表記するのがより正確であり,称呼上の類否判断という局面においては,「イクスパクト」という称呼が前提となっていなければならないはずである。本願商標と間接離隔観察されるべき対象は,片仮名文字商標の「エクスパクト」ではなく欧文標準文字商標「EXPACT」である以上,「エクスパクト」の称呼にだけ基づいて本願商標との対比を行うのは適切を欠く。

(イ)取消事由2-2(本願商標中の「X-」の部分の意義の看過)

本願商標中の「X」の部分は,その表現構成上明らかに欧文字の一文字として把握されるから,本願商標は,「エックス」の欧文字から始まる商標として理解され,発音され,聴取されることになる。つまり本願商標の語頭部は欧文字の一文字に相応していることが誰の目に見ても明らかなのであり,引用商標の始まりである「ex」(「外へ」の意の接頭語である)とは明らかに異質なものであるし,そのような要素を前提として考えても何ら不自然ではない。

また,両者の差異を強く感じるのは,その意味内容だけによるのではない。本願商標が,「X」と「Pact」とをハイフンで結合させた構成を有していることから,これは「X」と「Pact」という2語構成の商標として理解されるのが自然で,発音上も普通に「エックス・パクト」という2音節の称呼を生じるが,引用商標は「イクスパクト」又は「エクスパクト」と一気に読まれてしまう。この場合の「エックス・パクト」と「イクスパクト(エクスパクト)」には,語調・語感という意味で大きな隔たりがあるというべきである。

ウ 取消事由3(取引の実情等を踏まえた出所の混同の有無についての検討を欠いたことの誤り)

(ア)審決は,称呼の類似について検討したのみで,外観及び観念が類似しないことを実質的に考慮せず,また,需要者・取引者間における出所の混同の有無を指定商品についての取引の実情を踏まえて検討することもしないまま,本願商標は引用商標に類似するとの結論を導いたものであって,その判断手法には誤りがある。

(イ)被告は,審決の判断は,称呼の検討のみならず外観,観念,取引の実情等についても総合的に検討した上で,本願商標は引用商標に類似すると判断したものであると主張するが,そのような検討が行われた形跡はうかがわれない。

本願の指定商品である「圧延機」「連続鋳造機」及び引用商標の指定商品である「粉体又は流体吹付けによる金属鋳物のバリ除去装置」(両商標はこれらの間で抵触するとされている:類似群コード09A01)は,細かいスペックまで検討してからやっと取引される重機器の部類に属するのであって,「称呼だけで取引される商品」であるとはいい難い。取引の実情を考慮したというのであるならなおさらのこと,両商標の間に出所混同が生じるおそれはないといわねばならない。

被告は,審決は「簡易迅速をたっとぶ商品の取引の実情,電話や口頭によって行われる商取引の実際」を斟酌したものであるかのように主張しているが,金属加工用の重機器の取引について「簡易迅速をたっとぶ」必要はなく,この種の機器の購入が「電話や口頭によって行われる」という「商取引の実際」はない。重機器の購入に際しては性能・適応範囲等の細かい比較検討がじっくり行われるのが普通だからである。

(ウ)なお,本願と引用商標とに共通する指定商品「その他の金属加工機械器具」及び「電子応用機械器具及びその部品」について,被告は,これらの指定商品には,動力付き手持工具及び切削工具並びに電話機及びパーソナルコンピューターのように,一般の消費者を対象にし日常生活に結びついた商品が含まれるから,これらの商品に使用される商標に関する類否判断は,一般の消費者が通常有する注意力を基準としてなされるべきである,と主張する。

しかし,指定商品中に「その他の金属加工機械器具」があるからといって,そこから「動力付き手持工具,切削用具」という商品を取り出し,これと「圧延機,連続鋳造機」とを等価のものとして扱って「商標の」類否を検証することに合理性はない。しかも,取り出した商品が何ゆえ「動力付き手持工具,切削用具」なのかという点について被告の説明はないのだから,被告が,商標法施行規則別表上の「金属加工機械器具」に含まれる細分類品目から,一般人でも取り扱いそうなものを任意抽出して「取引の実情」としているにすぎないことは明らかであるところ,そのようなレベルでの取引の実情は,本願商標と引用商標の類否に当たって考慮する必要はないというべきである。

また,本件審判手続においては,特許庁は,単に類似群コードが共通するから混同の可能性があるとしているにすぎなかったのであり,「動力付き手持工具,切削用具」が話題にされたという経緯もなく,商標の類否を決するのに必要な「取引の実情」の検証があったとは到底いい得ないのである。

なお両者の指定商品に共通する「その他の金属加工機械器具」という表示は,その前に羅列されている具体的商品の帰属分野を特定しつつ,それに関連する商品,他の機能が付加された同種の商品,その商品の部品や附属品等を包括的に権利範囲に取り込むために用いた概念表示と解する方がより合理的であり,「その他の金属加工機械器具」という名の具体的商品があるわけでもなければ,まして原告や引用商標の商標権者が「動力付き手持工具,切削用具」についての権利化を切望しているものでもない。被告の主張は,表面的な指定商品の表示のみに拘泥するものであって具体的妥当性を欠く。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。

3 被告の反論

審決の認定判断は正当であり,以下に述べるとおり原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1)取消事由1に対し

原告は,審決が,文字部分から生ずる称呼の点を主として検討し,本願商標において文字部分が図形部分と一体となっていることを商標の類否判断において重視していないのは,判断手法として誤りであると主張する。

しかし,本願商標の文字部分と図形部分とは,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどにまで不可分的に結合しているものということはできない。このように,本願商標は,文字部分と図形部分とを視覚的に分離して看取し得るばかりでなく,これらを常に一体のものとしてのみ把握しなければならない特段の理由を認め得ないことから,文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るというべきである。そうすると,本願商標の取引者,需要者は,本願商標の「X‐Pact」の文字部分をとらえ,これをもって取引に当たる場合も少なくないものというべきである。

したがって,審決が,本願商標の「X‐Pact」の文字部分から生ずる「エックスパクト」の称呼と引用商標の称呼との類似を重視したことに,誤りはない。

(2)取消事由2に対し

ア 取消事由2-1(引用商標から生ずる称呼)につき

引用商標から「イクスパクト」の称呼も生じ得るとしても,一般的に,特定の読みを持たない欧文字から成る商標の称呼を特定する場合にあっては,これに接する需要者,取引者は,自己の知り得た外国語の知識を基に,当該商標の読みを特定して称呼する場合が多いということができる。そして,我が国における英語教育の状況等にかんがみれば,引用商標においても自己の有する英語の知識に従って,当該文字の配列となるべく似たような文字の配列から成る英単語を探し出し,称呼を特定する場合が多いというべきである。これを引用商標についてみれば,引用商標を構成する「ex」が共通する英語である,「express(エクスプレス)」「exchange(エクスチェンジ)」「exterior(エクステリア)」等の英語が想起されるから,引用商標からは,「エクスパクト」の称呼が第一に生ずるものというべきである。

したがって,審決が,引用商標から「エクスパクト」の称呼が生ずることを前提に類否判断を行ったことに誤りはない。

イ 取消事由2-2(本願商標の「X-」の部分の意義)につき

原告は,本願商標は「エックス・パクト」のごとく2音節で理解されるから,引用商標とは,語調・語感が異なると主張する。しかし,本願商標が2音節に分けられるとしても,冗長な称呼ではないから,全体を淀みなく「エックスパクト」として一連に発音されるものである。そして,引用商標の「エクスパクト」の称呼と比較すると,語頭音が促音を伴うか否かの差異があるにすぎず,かつ当該差異も音感,音質において近似するから,全体の称呼の類否判断に及ぼす影響は小さいものである。

原告は,本願商標は語頭の「エ」にアクセントがくるのに対し,引用商標は中間の「パ」にアクセントがある,とも主張するが,仮に引用商標の中間の「パ」にアクセントがあるとしても,本願商標の中間の「パ」も破裂音であることからアクセントがないともいいきれず,依然として称呼の類似性は否定し得ない。

(3)取消事由3に対し

商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するものである。

そして,文字,図形,記号等の結合から成る商標(いわゆる「結合商標」)の類比の判断に当たっては,簡易,迅速を貴ぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところであるから,この場合,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるとはいえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

すなわち,全体観察のほかに,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合していない商標については,分離観察をして,その部分が有する外観,称呼又は観念により類否判断すべきである。

これを本件についてみると,本願商標と引用商標とは,称呼において類似していることは明らかであって,かつ,当該指定商品の取引の実情等において商品の出所の混同をきたすおそれはないと判断するに足りる特別の事情が存在するとも認められないから,両商標は類似するものというべきである。

当裁判所の判断

1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

2 本願商標と引用商標との類否

(1)本件は,本願商標が引用商標に類似すると判断して,商標法4条1項11号に基づき本願を拒絶すべきものとした審決の当否に関するものであるところ,商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである。また,商標の外観,観念または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記三点のうちその一において類似するものでも,他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって,商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきでない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。そこで,以上の見地に立って,原告主張の取消事由の当否を検討する。

(2)取消事由1(称呼の類似のみをもって判断したことの誤り)についてア原告は,審決が,本願商標の「X‐Pact」の文字部分から生ずる称呼の点を主として検討し,本願商標において文字部分が図形部分と一体となっていることを商標の類否判断において重視していないのは,判断手法として誤りであると主張する。

これに対し,被告は,本願商標は欧文字部分と図形部分とから成るところ,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどにまで不可分的に結合しているものということはできないから,文字部分から生ずる「エックスパクト」の称呼が引用商標の「エクスパクト」と類似することを理由に,商標の類似を肯定した審決に誤りはないと主張する。

この点につき,本願商標のような,文字部分と図形部分の結合から成る商標(いわゆる「結合商標」)の類否を判断するに当たっては,商標の構成全体が有するデザインとしての有機的関連性をも踏まえて,文字部分と図形部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められるか否か,という観点からの検討が不可欠である。

イ そこで,上記の観点から本願商標の構成をあらためて検討すると,本願商標は,前記のとおり,「X-Pact」の文字部分を囲むように,文字部分の上側左半分から左側,下側を通って右側中程に至るまで,半月刀ないし三日月様の図形が描かれている。そして,「X-Pact」の文字には,標準文字ではなく,ゴシック様の斜字体が用いられているが,当該字体の選択は,半月刀ないし三日月様の図形がもたらす生き生きとした動的な印象との調和を考慮して行われたものであることがうかがわれる。また,文字部分と図形部分との配置関係についても,文字部分を図形部分が包み込むようなものとなっており,かかる配置は,デザインとしての一体性を有するものと認められる。

このように,本願商標は,文字部分と図形部分とを「分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している」とまではいえないにしても,標準文字と図形とを上下又は左右に単純に併記したような商標とは異なり,文字部分と図形部分との間に,デザインとしての有機的な関連性が認められるというべきである。

したがって,審決が,文字部分から生ずる称呼の類否についての検討に終始し,外観については「その外観において相違するところがあるとしても」(2頁最終段落)と述べるだけで実質的な検討を欠いたまま,本願商標と引用商標とが類似すると判断したことは,本願商標と引用商標とが外観において著しく相違することを看過したものであって,不適切であるといわざるを得ない。

(3)取消事由2について

ア 取消事由2-1(引用商標から生ずる称呼の認定)につき

原告は,引用商標の「EXPACT」からは「イクスパクト」の称呼も生ずるから,審決が,「エクスパクト」の称呼のみが生ずることを前提に対比判断を行ったのは誤りであると主張する。

たしかに,甲1(株式会社研究社発行「リーダーズ英和辞典」第2版)によれば,「express」,「expire」等の単語の「ex」部分に「iks」の発音記号があてられていることが認められる。しかし,「e」のローマ字読みが「エ」であることとも相まって,平均的な日本人の間では,これらの単語が「エクスプレス」「エクスパイア」等と発音され認識されていることは公知の事実であるから,審決が,「EXPACT」の文字から生ずる称呼として「エクスパクト」のみを認定し,本願商標との対比に供したことに,誤りがあるとはいえない。

イ 取消事由2-2(本願商標の「X-」の部分の意義)につき

原告は,本願商標の「X-Pact」の文字からは「エックス・パクト」という2音節の称呼が生ずるから引用商標の「エクスパクト」とは相違する,と主張するのに対して,被告は,本願商標は「エックスパクト」として一連に淀みなく発音されるから,引用商標の「エクスパクト」とは類似すると主張する。

そこで検討するに,本願商標の文字部分においては,「X」と「Pact」とがハイフンで結ばれているところ,アルファベットのXと他の単語を組み合わせた語として「X線」「X染色体」「X軸」等がよく知られていること,「X」が初等の数学で未知数を表すものとして用いられるアルファベットであること,等の公知の事実を考慮すれば,本願商標の文字部分に接する者は,これを「X」と「Pact」とに分離して認識し,ここから,「エックス・パクト」という2音節の称呼が生ずるものと認められる。

そうすると,本願商標の「エックス・パクト」という2音節から成る称呼と,引用商標の「エクスパクト」という一連の称呼とは,類似するとしても,その類似の程度は比較的弱く,これらに接する取引者・需要者は,両者を異なった称呼として認識するものと認められる。

(4)取消事由3を含む総括的判断

上記(2),(3)イのとおり,審決の判断には不適切な点があるところ,進んで,これらの不適切な判断が審決の結論に影響を及ぼす誤りといえるか否かについて,審決の類否判断の手法の誤りをいう取消事由3の主張に即して検討する。

ア 前記(1)のとおり,商標の類否は,両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。

イ 上記の点につき,本願の指定商品の冒頭に掲げられている「圧延機,連続鋳造機」についてまず検討すると,これらの商品は,その名称からして,製鉄工場等に設置される大規模な機械装置であって,取引者・需要者は製鉄業等の専門的知識を有する少数の者であり,実際の購入に当たっては,機械の性能やメーカーの信用等についての慎重な検討が行われることが,容易に推認される。そうすると,上記(2),(3)イで認定したとおり,本願商標と引用商標とは外観において相違することや,称呼の類似の程度もさして高くはないことに照らし,取引者・需要者において,出所の混同が生じる可能性は著しく低いというべきである。

もっとも,「その他の金属加工機械器具」として動力付き手持工具等を,「電子応用機械器具」としてパーソナルコンピュータ等をそれぞれ想定した場合には,これらは一般の消費者も手にする商品であるから,取引に際して払われる注意力等は,「圧延機,連続鋳造機」等の取引におけるものよりは相対的に低いと推認されるが,これらの商品も日用品とは異なるから,上記(2),(3)イで認定した本願商標と引用商標との相違に照らして,取引者・需要者において出所の混同が生じる可能性は低いというべきである。

ウ したがって,本願商標と引用商標とは,同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認められない。

3 結語

以上のとおり,審決には,商標法4条1項11号にいう類否判断を誤った違法があるから,審決には,結論に影響を及ぼすべき誤りがあるといわざるを得ない。

よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。

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