知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成18年(行ケ)第10183号 審決取消請求事


主文

特許庁が取消2004-31158号事件について平成18年3月13日にした審決を取り消す。

訴訟費用は,被告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

(本判決においては,審決や書証等の記載を引用する場合も含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。)

第1 原告の求めた裁判

主文同旨。

第2 事案の概要

本件は,被告が,原告を商標権者とする後記登録商標につき,少なくとも本件審判請求日前3年以内に国内において使用していないとして,商標法50条1項の規定に基づき取消しを求めたところ,特許庁は,原告は,本件審判の請求前3月からその審判請求の登録日までの間に日本国内において本件商標を使用しているが,その使用は,本件審判の請求がされることを知った後であるとして,本件商標登録を取り消すとの審決をしたため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 本件商標

商標権者:原告(原告は,平成13年9月19日,株式会社ブレーントラスト(以下「ブレーントラスト」という。)から本件商標権を譲り受け,その旨の登録を行った。甲9の1)

本件商標:「Morris& Co.」を欧文字(標準文字)で横書きしてなるもの。

指定商品:第24類「布製身の回り品,織物製テーブルナプキン,ふきん,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,織物製いすカバー,織物製壁掛け,織物製ブラインド,カーテン,シャワーカーテン,テーブル掛け,どん帳,織物製トイレットシートカバー,遺体覆い,経かたびら,黒白幕,紅白幕,ビリヤードクロス,のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

登録出願日:平成12年7月3日

設定登録日:平成13年6月22日

登録番号:第4485298号

(2) 本件手続

審判請求日:平成16年9月8日(取消2004-31158号)

審決日:平成18年3月13日

審決の結論:「登録第4485298号商標の商標登録は取り消す。」

審決謄本送達日:平成18年3月24日(原告に対し)

2 審決の理由の要旨

審決は,以下のとおり,原告は,本件審判の請求前3月からその審判請求の登録日までの間に日本国内において本件商標を使用しているが,その使用は,本件審判の請求がされることを知った後であるから,本件商標登録は商標法50条3項に該当し,同条1項の使用に該当しないものであるから,取り消されるべきであると判断した。

なお,請求人が提出した証拠である甲1~4は,本訴でそれぞれ甲10~13として提出され,被請求人が提出した乙1~8は,本訴でそれぞれ甲1~9(一部枝番が付加された。)として提出された。

(1) 請求の理由

「本件商標は,継続して3年以上,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても,本件商標の指定商品について使用された事実がない。したがって,本件商標は,商標法50条1項の規定に基づいて,その登録を取り消されるべきものである。」

(2) 請求人の主張

「本件商標に関しては,その登録当初より,「Morris & Co.」商標を使用している請求人(及びその前身であるアーサーサンダーソンアンドサンズリミテッド)と被請求人との間で平成13年に行われた登録異議申立事件を皮切りにその登録の当否について争っており,本件取消審判の請求以前に,請求人と被請求人との間にはさまざまな交渉等の機会が実在した。

そして,本件取消審判は,本件商標の登録日から3年の経過を待って請求されたものであるところ,被請求人が提出する本件商標の使用証拠は,平成16年7月17日からのものであり,これは,本件審判の請求前三月(平成16年6月8日)から本件審判の請求の登録の日(平成16年9月27日)までの間の使用にあたる。

このため,被請求人の本件商標の使用は,本件審判が請求されることを知った後のものであることは明らかであるから,商標法50条3項に該当し,同条1項に規定する本件商標の使用に該当しない。」

「(1)請求人は,自らが保有する19・20世紀を代表するデザイナーのデザインをもとにした壁紙等のインテリア製品販売会社である。殊に,ウィリアム・モリス製品については,「Morris& Co.」商標のもと,60年以上の間,世界的にその広告宣伝活動及び製造販売を行っており,我が国においても上記商標について6件の商標登録を所有している。かかる背景から,請求人は,本件商標に対し異議を申立てたが受け入れられなかった(甲1)

(2) その後の対応を検討中であった平成14年(2002年)4月,請求人のライセンシーであるインテリア生地の輸入卸業者マナトレーディング株式会社が,被請求人の代理人を介し本件商標に基づく2003年4月28日付侵害警告書(甲2)を受け,同「警告書」中で当該商標の使用停止,商標を付した商品・設備の廃棄,使用許諾の申請等を要求された。

(3) そこで,マナトレーディング株式会社からその知らせを受けた請求人は,同じくライセンシーである三井物産株式会社を介し,日本における請求人代理人に相談のうえ,代理人の助言をも受け,当該警告書へ対応すべく平成15年5月2日付のマナトレーディング株式会社代表取締役名義の「回答書」を送付した(甲3)。

(4) その後,被請求人から何らアクションはなく,使用の形跡も見られず,請求人(アーサーサンダーソンアンドサンズリミテッド)が会社更生法を申請する等の事情も相俟って,本件商標に対するアクションは一時的に棚上げされている状況であった。それから約1年が経過した平成16年(2004)年3月10日(平成17年10月20日付け上申書によって「平成15年(2003)年3月10日」を「平成16年(2004)年3月10日」に訂正した。),被請求人代理人が請求人代理人に赴き,本件商標の譲渡の打診があった(甲4)。排他的な打診ではない旨を強調したうえで,価格次第の譲渡交渉であるとして,ライセンシーである西川産業株式会社のライセンス商品の1年間の売り上げを20億円と見積もり,それに対する5%のロイヤリティーに相当する1億円という条件が提示された。請求人は,本件の解決のため検討するも,あまりに高い価格提示であることから,最終的に当該交渉は決裂するに至った。

(5) 上記「警告書」を受け,続く,「回答書」を送付した時点において,請求人としては,今後の対応策として,当時は登録後3年経過前であったが,本件商標が不使用である可能性が極めて高いことから,そのままの状態が続けば将来的に不使用取消審判の請求が有効であろうと判断する一方で,早急な対応が必要な場合には別途無効審判の請求等を検討していたものであり,その後,本件商標に対する不使用取消審判請求が時期的に可能となったことを機に,請求人は今回の請求に至った次第である。

以上の経緯よりすれば,請求人サイドにおいては,上記に述べた法的対応策が予定されていたのであり,そうとすれば,被請求人サイドにおいても,請求人サイドと同様に法律専門家が介在していた事実よりすれば,当然,平成14年の侵害警告の時点で,請求人サイドが予定していた上記のような法的対応策,すなわち,請求人により将来的に不使用取消審判が請求される可能性が極めて高いことを予想し得たはずである。

そして,本件商標に対する不使用取消審判請求が可能となる約1年前に本件商標の譲渡交渉に赴き,当該交渉がまとまらない状況下において,不使用取消審判の請求時期の到来後まもなくのタイミングでイベントを開催し本件商標を使用した被請求人の行為は,まさに請求人が予定していた上記法的対応策に対抗するための,それら一環としての行動とみなされてもやむを得ない程に,時期的によく符合している。

してみると,被請求人は本件不使用取消審判の請求を十分に予想し,その取消を免れる目的で商標使用の事実を意図的に作出したものと考えざるを得ず,このことは,あまりにも用意周到な証拠方法の提出からも推察できるものである。そうすると,商標法50条3項適用の主要事実である,不使用取消審判を請求する準備がある旨を伝えた事実とそれを裏付ける証拠(書簡等)に代る,これらと同等の事情があるといえる。

以上より,被請求人の本件商標の使用は,本件審判が請求されることを知った後のものであることは明らかであるから,商標法50条3項に該当し,同条1項に規定する登録商標の使用に該当しない。」

(3) 被請求人(原告)の主張

「被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁並びに弁駁及び平成17年5月11日付け上申書に対する答弁し,その理由を要旨次のとおり述べ,証拠方法として,乙1ないし9を提出した。」

「(1)本件商標は,本件取消審判の請求に係る商品中「ハンカチ」及び「クッションカバー(布団カバー)」に使用されている。被請求人は該事実を立証するため,本件商標を含んだタグとこれら商品とが包装された状態の写真を提出する(乙1)。その写真に写っている商品が取消請求に係る商品「ハンカチ」及び「クッションカバ一(布団カバー)」であることは明らかであり,また,タグ上表示されている標章が本件商標と社会通念上同一のものであることは明らかである。したがって,取消請求に係る商品について商標法2条3項第1号の使用がされていたといえる。

(2) 本件取消審判の請求の登録日は,平成16年(2004年)9月30日である。しかるに,上記商品は2004年7月17日ないし同年9月5日の間開催された岐阜県美術館並びに2004年9月15日ないし同年10月3日の間開催された大丸ミュージアム・梅田で開催された「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」で販売されたものである。被請求人は該事実を立証するため,「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」を取り上げた株式会社ブレーントラストのホームページの抜粋(乙2)並びに岐阜県美術館への本件商標が使用されたハンカチの株式会社ブレーントラストの平成16年7月14日付納品書の写し(乙3),株式会社ブレーントラストから同ハンカチの製造を委託されたフレーミング中西株式会社の同社宛ての平成16年7月31日付請求書写し(乙4),株式会社ブレーントラストへの同ハンカチのフレーミング中西株式会社の平成16年7月14日納品伝票写し(乙5),フレーミング中西株式会社への平成16年7月14日株式会社ブレーントラスト受領書写し(乙6),岐阜県美術館への本件商標が使用されたクッションカバーの株式会社ブレーントラストの平成16年7月16日付納品書写し(乙7),株式会社ブレーントラストから同クッションカバーの製造を委託されたSKYTRADING & SERVICE PTE(ベトナム)の同社宛ての平成16年8月2日付請求書写し(乙8)を提出する。これら取引書類には本件商標及び商品が表示されているから,商標法2条3項8号の使用がされていたといえる。これらの証拠方法から,本件商標が本件取消審判の請求の登録前3年以内に使用されていたことは客観的に証明された。

(3) 本件商標を使用している株式会社ブレーントラストは,当該商標の当初の商標権者であり,被請求人である現在の商標権者より本件商標の移転後の平成13年9月27日以降通常使用権の承諾を得ている。被請求人は該事実を立証するため,商標使用権設定書の写しを提出する(乙9)。

(4) 以上のことから,本件商標が本件審判の取消請求に係る商品について予告登録前3年以内に通常使用権者によって使用されていたことが客観的に証明された。したがって,本件商標の登録は取消を免れることが出来る。」

「(1)商標法50条3項は「登録商標の使用がその審判が請求されることを知った後のものであることを請求人が証明したとき」と規定している。そして,「審判が請求されることを知った」とは,譲渡交渉やライセンス交渉の際に「交渉不成立のときは不使用取消審判の請求をする」旨の意思表示をされた場合等と解され,その旨を内容証明又は第三者立会いの下等で明確・確実に伝える方法を採る必要があるとされている(特許庁編工業所有権法逐条解説)。しかるに,請求人は当該主張を裏付けるものとして本件商標に対する異議の決定,被請求人の代理人が本件商標を侵害している者に対して送付した警告書,侵害している者からの回答書,被請求人の代理人の名刺の写しを提出するのみであり,これら書類中では請求人が被請求人に対して交渉不成立のときは不使用取消審判の請求をする旨の意思表示がされたことは何ら見出せない。したがって,請求人は本件商標の使用がこの審判が請求されることを知った後のものであることを証明していない。

(2) 請求人は交渉が行われ,その交渉が決裂したので不使用取消審判が請求されることを知り得ていたと主張するが,そもそもこのような交渉が行われていたこと自体を何ら立証していない。さらに,その交渉が行われ決裂したいことをもって不使用取消審判が請求されるであろうことを知っていたとは到底いえない。

ちなみに,本件商標が使用された商品を販売された大丸ミュージアム・梅田並びに岐阜県美術館で開催された「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」は英国大使館の後援下で,ウィリアム・モリスの正当な後継人であり同氏の住居を美術館したウィリアム・モリス・ギャラリー(LLOYDPARK,FOREST ROAD,LONDON所在)と協力して行われたものであり,本来このような展覧会を開催するには準備期間として3年を要するものである。不使用取消審判が請求されることを知って,展覧会を準備開催し,同展覧会で本件商標が使用された商品を販売することは決してできない。この点からも請求人の主張は実情にそぐわない,妥当を欠くものといわざるを得ない。

請求人が本件商標の使用は本件審判が請求されることを知った後のものであると主張していることは,本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標の使用自体があったことを請求人自身が認めていることを意味する。

(3) まとめ

以上のように,本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標の使用されたことが請求人によっても認められ,しかも,この使用が本件審判が請求されることを知った後のものであるとの立証されていない。」

(4) 審決の判断

「1請求人は,被請求人による本件商標の使用は,商標法50条3項の規定「第1項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に,日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であって,その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したときは,その登録商標の使用は第1項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし,その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは,この限りでない。」に該当するものである旨主張し,その事実を証する書面として,甲1ないし4を提出した。

2 そこで,請求人提出に係る甲1ないし4について検討するに,

(1) 請求人の前身である「アーサーサンダーソンアンドサンズリミテッド」は,本件商標に対して登録異議(異議2001ー90716)の申し立てを行ったが,その主張は採用されなかった(甲1)。

(2) 被請求人の代理人であるA法律事務所のB弁護士は,2003年4月28日付けで,請求人のライセンシーである「マナトレーディング株式会社」に対し,商標権侵害通知を送付している(甲2)。

(3) これに対して,「マナトレーディング株式会社」は,平成15年(2003年)5月2日付けで,回答書を送付している(甲3)。

(4) 請求人は,平成16年(2004年)3月10日に,被請求人の代理人であるB弁護士が,請求人の代理人事務所に赴き,本件商標の譲渡の打診があった旨主張しているが,その証明書として提出された甲4は,B弁護士の名刺の写しのみである。

3 以上の事実から,下記の事実が認められる。

(1) 請求人は,本件商標の登録に対して異議申立を行ったが,その主張が採用されなかった事実。

(2) 被請求人から請求人のライセンシーである「マナトレーディング株式会社」に対し,商標権侵害通知がなされた事実。

(3) 但し,前記2の(4)の「被請求人の代理人が,請求人の代理人事務所に赴き,本件商標の譲渡の打診を行った。」旨の主張は,その事実を証する書面が,被請求人の代理人の名刺1枚のみでは,証拠資料として不十分であるといわざるを得ない。

(4) しかしながら,前記の事実からすれば,請求人が本件商標に対して不使用取消の審判請求をするであろうことは,容易に推認されたとみるのが相当である。

4 そして,被請求人が提出する本件商標の使用証拠は,平成16年7月17日からのものであり,これは,本件審判の請求前3月(平成16年6月8日)から本件審判の請求の登録の日(平成16年9月30日)までの間の使用にあたる。

してみれば,被請求人の本件商標の使用は,本件審判が請求されることを知った後のものであると認められるものであり,また,その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを明らかにしていない。

したがって,本件商標の登録は,商標法50条3項に該当し,同条1項に規定する本件商標の使用に該当しないものであるから,その指定商品についての登録を取り消すべきものである。」

第3 原告の主張の要点

審決は,①原告から許諾を受けた通常使用権者は,本件審判請求の登録日の前3年以内に,本件商標をその指定商品について使用していたと認定判断した上で,②その通常使用権者による本件商標の使用は,本件審判の請求がされることを知った後であると認定判断した。審決は,②の認定判断を誤った結果,本件商標登録を取り消したものであり,違法であるから取り消されるべきである。

1 本件商標の使用について

原告から本件商標の使用許諾を受けたブレーントラストは,本件審判の登録前3年以内に,本件商標を,その指定商品について使用した。

(1) 本件商標は,「ハンカチ」及び「クッションカバー(布団カバー)」(以下それぞれ「本件ハンカチ」及び「本件クッションカバー」といい,両者を併せて「本件各商品」という。)に使用されていた。甲1の1は,本件各商品が,本件商標を記載したタグ(以下「本件タグ」という。)とともに包装された状態の写真である。その写真に写っている商品が「ハンカチ」及び「クッションカバー(布団カバー)」であること,及び本件タグ上に表示されている標章が本件商標と社会通念上同一のものであることは明らかである。被告は,本件商標と本件タグとは構成が異なっており,本件商標の使用とはいえないと主張するが,本件商標と本件タグを比較すると,「Morris」の小文字部分が「MORRIS」と大文字になっており,また「&Co.」の部分がやや装飾的な字体となっているが,本件タグに記載された商標は,本件商標の書体のみに一部変更を加えた同一の文字からなる商標であり,同一の呼称及び観念を生ずる商標であるから,社会通念上同一と認められる商標(商標法50条1項)である。

(2) 本件各商品は,平成16年7月17日から同年9月5日までの間,岐阜県美術館において,また,平成16年9月15日から同年10月3日までの間,大丸ミュージアム・梅田において開催された「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」の会場において販売された。このことは,「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」を取り上げたブレーントラストのホームページの抜粋(甲2),本件ハンカチについて,ブレーントラストから岐阜県美術館宛ての平成16年7月14日付け納品書の写し(甲3),本件ハンカチの製造を委託されたフレーミング中西株式会社からブレーントラスト宛ての平成16年7月31日付け請求書の写し(甲4),平成16年7月14日付け納品伝票の写し(甲5)及びブレーントラストからフレーミング中西株式会社宛ての平成16年7月14日付け受領書の写し(甲6),並びに本件クッションカバーについて,ブレーントラストから岐阜県美術館宛ての平成16年7月16日付け納品書の写し(甲7)及び本件クッションカバーの製造を委託されたSKYTRADING & SERVICE PTE(ベトナム)からブレーントラスト宛ての平成16年8月2日付け請求書の写し(甲8)から明らかである。

本件審判の請求日は,平成16年9月8日であることから,本件登録商標は,その前3年(平成13年9月8日)以内に日本国内において使用されたことになる。

(3) ブレーントラストは,本件商標の出願人であり,当初の商標権者であるが,平成13年9月19日(移転登録時),原告に対し,本件商標権を譲渡し(甲9の1),その後,同年9月27日,本件商標の通常使用権の設定を受けた(甲9の2)。

(4) 以上のとおり,本件商標は,指定商品について,本件審判の請求の登録(平成16年9月27日)前3年以内に日本国内において,通常使用権者であるブレーントラストによって使用された。

2 本件審判請求がされることを知っていたかどうかについて

本件商標の使用は,本件審判の請求がされることを知る前の使用である。

(1) 審決は,被告が,本件商標の登録に対して異議申立てを行ったが,その主張が採用されなかった事実,原告の代理人から被告のライセンシーであるマナトレーディング株式会社(以下「マナトレーディング」という。)に対し,商標権侵害通知が送付された事実のみに基づいて「被告が本件商標に対して不使用取消の審判請求をするであろうことは,容易に推認されたとみるのが相当である。」と認定判断したが,この認定判断は十分な証拠に基づかず,かつ経験則に反する誤ったものである。

(2) 本件審判請求に至るまでの事実経過は,以下のとおりである。

ア 平成16年3月10日ころ,原告の代理人であるB弁護士(以下「B弁護士」という。)は,被告の前身であるとされるアーサー・サンダーソン・アンド・サンズ・リミテッド(以下「サンダーソン」という。)の代理人に対し,被告代理人の事務所において,本件商標権の譲渡の打診を行った(甲13)。

イ その後,サンダーソンは,被告代理人を通じて,平成16年3月19日付けで,B弁護士に対し,ファックスにより,本件商標の譲受交渉について現在検討中であり,今しばらく時間を要するので,交渉の時間を猶予して欲しい旨を回答した(甲17)。

ウ ところが,その後,サンダーソンからは,原告に対し,何らの連絡もなかったところ,6か月近い期間が経過した平成16年9月7日,B弁護士は,被告代理人から,突然,「被告(前サンダーソン所有に係る商標登録の譲受人)の指示により,本件商標の登録に対し,不使用取消審判の請求をする」旨記載され,「ご期待に沿えず,申し訳ありません。何卒,よろしくお願い申し上げます。」と記載されたファックス(甲18)を受領し,本件審判の請求がされることを知った。

(3) 以上の原告代理人と被告代理人との間のやり取りの経緯からも明らかなとおり,原告が本件審判の請求がされることを知ったのは,平成16年9月7日であって,それ以前には,本件審判の請求がされることを知らなかった。審決は,前記のとおり,原告は本件審判の請求がされることを知って本件商標を使用したと認定判断するが,被告は,本件商標の不使用取消の審判を請求する以外にも,本件商標と同一又は類似の商標の使用をやめること,本件商標の譲渡・使用許諾を受けることなど,いくつかの選択可能な対応策をとり得たのであり,被告が本件商標の不使用による登録取消審判を請求するのであれば,まず不使用取消審判を請求する旨の内容証明郵便等の書面による通知をするのが通常である。ところが,被告から本件審判を請求する旨の通知がされたのは,平成16年9月7日になってからであり,このことからも,原告がそれまで本件審判の請求がされることを知らなかったことは明らかである。

(4) 本件商標の使用は,以下のとおり,本件審判請求がされる3月以上も前から計画され,準備されてきたものである。アブレーントラストは,平成元年(1989年)3月1日から同月28日までの間,東京の伊勢丹美術館において,また,同年4月19日から5月1日までの間,大阪の大丸ミュージアムで開催された「ウィリアム・モリス展」(主催朝日新聞社,後援外務省/文化庁/ブリティッシュ・カウンシル/社団法人・日本建築学界)において,協力者として参加し,カタログの編集などを行った。この「ウィリアム・モリス展」は,これまで日本国内では当時一般に知られていなかった英国のデザイナーであるウィリアム・モリス(1834年生まれ,1896年没)を広く紹介する展覧会となった(甲19)。

イ 本件商標の通常使用権者であるブレーントラストは,WILLIAMMO RRISのデザイン画を所蔵している英国・国立ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の一部門として同美術館の所蔵するコレクションの複製品について商標のライセンスを他人に与える業務を行っているV&Aエンタープライズ・リミテッドとの間で,ブレーントラストが日本でWILLIAMMORRISのデザインを使用し,商品を「WILLIAMMORRIS/ウィリアムモリス」の名前の下で製造販売するライセンス業務のエージェントとなる契約を締結し,平成4年(1992年)4月1日,かかるエージェント業務を,ブレーントラストから原告に移管した(甲20)。

ウ 平成16年(2004年)7月17日から同年9月5日までの間,岐阜県美術館(主催岐阜県美術館,中日新聞社)において,また,同年9月15日から10月3日までの間,大丸ミュージアム・梅田(主催朝日新聞社)において,また,同年10月7日から10月19日までの間,大丸ミュージアム・東京(主催朝日新聞社)において,「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」が,ウィリアム・モリス・ギャラリーの協力で開催された。ブレーントラストは,同展覧会の企画・組織に当初から参画し,カタログの編集も行い(甲21),この展覧会の際,販売するハンカチ及びクッションカバーに本件商標を使用した。エかかる展覧会を開催するためには,長期間の準備が必要であることは明らかであり,ブレーントラストは,マイケル・ホワイトウェイとの間において「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」の展示に関する契約を,平成15年6月12日に締結し(甲22),またこの展覧会のカタログの出版については,平成16年2月19日付けで図録出版事業案,同年3月4日付けで図録のスケジュール案を作成しており(甲23,24),さらに販売されたハンカチについては,平成16年5月30日には,ブルーミング中西株式会社から見積書を受け取り,そのころ発注をしている(甲25)。

オ 以上のとおり,ブレーントラストは,平成16年6月8日以前から,本件商標を上記の「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」において販売する商品に使用することを計画し,準備していたことは明らかである。本件商標の使用は,決して一過性の駆け込み使用ではない。

3 結論

以上のとおり,原告から通常使用権の設定を受けたブレーントラストは,本件審判の請求がされることを知る以前から,本件商標の使用を計画し,本件商標を使用していたのであるから,本件商標の使用は,商標法第50条3項本文には当たらない。しかるに,審決は,本件商標の使用が商標法第50条3項本文に該当すると誤って判断したものであり,違法であるから取り消されるべきである。

第4 被告の主張の要点

本件商標は,本件審判請求の登録日の前3年以内に,その指定商品について使用されていないが,仮に,そのような使用がされていたとしても,本件商標の使用は,本件審判の請求がされることを知った後のものであるから,本件商標登録は取り消されるべきであるとの審決の判断に誤りはない。

1 本件商標の使用について

原告は,本件審判の登録前3年以内に,本件商標を,その指定商品について使用したと主張するが,そのような事実を認めるに足る証拠はない。

原告は,甲1の1の写真に写された商品は,ハンカチ又はクッションカバーが包装されたものであり,本件商標が使用されたタグが付されていると主張する。しかしながら,甲1の1の写真を見ても,包装の中身の商品は明らかでなく,タグも包装ごとにその位置が異なるなど,単に包装の上にのせたような状態であり,商品とタグの具体的な関係も不明である。

また,甲1,2のタグ上に表示されている標章は,本件商標とはその構成を異にしており,社会通念上も同一の商標とはいえない。本件タグ上に表示されている標章は,本件商標と「MORRIS」との部分を共通にするとしても,本件商標の「Co.」に相当する部分の構成形態は特殊のものであり,その構成部分からは何らの称呼も観念も生じ得ない。また,両者は,全体として観察した場合においても社会通念上同一とは認められない。

さらに,甲2に表示されている標章は,「ウィリアム・モリス展」を指称する文言からなり,その下方に配置されているウィリアム・モリスの顔写真ともあいまって,ウィリアム・モリス展を示す表示であるにすぎず,縦の垂直線によって分断されたその右側に記載されている商品の出所を表示する標識として用いられているものとはいえない。

甲30(原告代表者の陳述書)には「ウィリアム・モリス展は,平成16年7月17日から開催され,最初の開催会場である岐阜県美術館において,本件商標を記載したタグを付したハンカチ,クッションカバーを販売した」旨が記載されている。しかし,当該タグがどのようなものであるか,また記載されている商標がどのようなものか明らかでない。また,そのハンカチ,クッションカバーの内容も明らかでなく,この記載をもって,本件商標が商品ハンカチ,クッションカバーに使用されていたものと認めることもできない。

以上のとおり,本件においては,本件審判の登録前3年以内に,原告が本件商標を使用したと認めるに足る証拠はない。

2 本件審判請求がされることを知っていたかどうかについて

(1) そもそも,商標法50条3項は,登録商標の取消しを免れるために行われる駆け込み使用を防止するために,不使用取消審判の請求前3か月からその審判請求の登録日までの間に,商標権者等が取消審判請求が行われる可能性のあることを知って行った商標使用について「使用」と認めないことしたものである。したがって,審判請求人は,審判被請求人が審判請求がされる可能性があることを知って開始した使用であることを立証すれば足りる。

同項が「審判の請求前3月」としているのは,ライセンス交渉等の交渉に入ってから不使用取消審判を請求するまでに通常3か月程度かかるとの予測に基づくものであるから,ライセンス交渉等を受けた商標権者が交渉の進展具合からみて不使用取消審判を起こされることを察知した後に使用したときは,その商標登録は取消しを免れない。商標法50条3項にいう「知った後」の使用に該当するというには,商標権者に審判請求をする旨の告知が内容証明郵便等により行われたことを必ずしも要するものではない。本件のように,高いライセンス料や譲渡対価として法外な金額が提示されたという交渉経緯や,商標制度に通暁した法律専門家がその交渉に関与したという事実関係の下では,原告は,不使用取消審判による攻撃があることを当然に想定していたと考えるのが合理的である。

(2) ウィリアム・モリス展が,長期にわたる念入りかつ緻密な計画のもとに遂行され,着実に実行されてきたことが事実であるとしても,それは,あくまでもウィリアム・モリス展についてであって,本件商標の指定商品についての使用についてではない。このことは,英国のハスラム・アンド・ホワイトウェイ社との契約書(甲22)が原告が展覧会開催のコーディネーターとなる旨の契約内容であり,株式会社ダリとの業務委託契約書(甲28)が図案・商品の作成に関する内容であって,本件商標の使用に関する内容ではないことからも明らかである。他方,原告代理人が被告代理人を訪れ,本件商標の譲渡の打診をしたのは,平成16年3月10日である。このころは,平成16年7月からのウィリアム・モリス展が最終的に決まり,カタログ作成作業も本決まりとなり,作成作業を本格的に進めていた段階であり,カタログに掲載する商標も確定していたはずである。原告代理人がその時期に被告代理人に本件商標の譲渡を打診したという事実は,原告が,その時点において,ウィリアム・モリス展のカタログに本件商標を使用することを予定していなかったことを示している。

本件商標の譲渡の打診は,突然に原告側から申し入れられたものであり,その際,原告代理人は,原告は商標「WilliamMorris」を中核として事業を展開しており,本件商標はプロテクトとして所有していると説明をし,本件商標を1億円で譲渡したいと提案した上,条件が合えば本件商標を他者に譲渡することも考えていると付け加えている(乙10,11)。これは,本件商標の使用を計画している商標権者からの申出としては不自然である。

(3) 以上のとおりの原告と被告との間の交渉の経緯に照らすと,被告が「本件商標に対して審判請求をするであろうことは,容易に推認されたとみるのが相当である」として本件商標登録を取り消した審決の認定判断は相当である。

3 結論

本件登録商標は,継続して3年以上,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても,本件商標の指定商品について使用された事実がなく,仮に使用されているとしても,その使用は商標法50条3項に該当するものであるから,本件商標登録を取り消すべきとした審決の判断は相当である。

当裁判所の判断

1 商標法50条3項は,「審判の請求前3月からその審判の請求の登録の日までの間に,日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品…についての登録商標の使用をした場合であって,その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したときは,その登録商標の使用は第1項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。」と規定する。

本件における争点は,①本件商標の通常使用権者であるブレーントラストが,本件商標をその指定商品について使用したかどうか,②その使用が「本件審判請求前3月」(平成16年6月8日)から本件審判請求の登録の日(平成16年9月27日)までの間である場合,本件商標の使用が本件審判の請求がされることを知った後であるかどうか,の2点である。

審決は,上記①について,本件登録商標は,本件審判請求前3月から本件審判請求の登録の日までの間に使用されたと認定した上で,上記②について,その使用は本件審判請求がされることを知った後のものであるとして,本件商標登録を取り消した。

これに対し,原告は,審決の上記①についての認定判断は正しいが,上記②についての認定判断は誤っているので,審決は取り消されるべきであると主張し,被告は,本件では上記①の要件を認めるに足る証拠もないとした上で,上記②についての審決の認定判断は正しいので,本件商標登録を取り消した審決の判断に誤りはないと主張する。

2 証拠により認められる事実等

本件証拠(後掲)によれば,以下の事実(争いのない事実も含む。)を認めることができる。

(1) 本件商標は,平成12年7月3日にブレーントラストにより出願され,平成13年6月22日に商標登録がされた。その後,ブレーントラストは,本件商標権を原告に譲渡し,平成13年9月19日にその旨の登録がなされるとともに,同月27日,原告からその通常使用権の設定を受けた(甲9の1,2)。

(2) 被告の前身であるサンダーソンは,平成13年9月21日,本件商標登録に対し,異議の申立て(異議2001-90716号事件)をしたが,平成14年7月25日,特許庁は,本件商標登録を維持する旨の決定をし,この決定は確定した(甲9の1,10)。

(3) 原告は,被告のライセンシーであるマナトレーディングに対し,平成15年4月28日付け通知書を送付し,本件商標権の侵害行為を停止することを要求するとともに,本件商標使用を希望するのであれば,使用許諾の申請をするように求めた(甲11)。これに対し,マナトレーディングは,原告に対し,同年5月2日付け回答書を送付し,同社から輸入元であるサンダーソンに連絡したとして,回答時間の猶予を求めた(甲12)。

(4) 平成16年3月10日ころ,原告代理人であるB弁護士は,被告代理人を訪問し,本件商標権の譲渡について打診した。これに対し,被告代理人は,B弁護士に対し,同月19日付けの書面を送付し,本件商標の譲受交渉については,サンダーソンに連絡し,検討中との回答が届いているが,今しばらく時間がかかるとして,交渉時間の猶与を求めた(甲13,17)。

(5) その後,B弁護士は,被告代理人から,平成16年9月7日付けファクシミリを受領し,サンダーソン所有に係る商標の譲受人である被告の指示により,本件商標登録について不使用取消審判請求をする運びになったとの連絡を受けた(甲18)。

(6) 平成16年7月17日から9月5日にかけて,ブレーントラストは,「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」を,岐阜において開催した。ブレーントラストは,その展覧会場において,出典作品のデザイン・モチーフを用いた商品を販売した。販売された商品のうち,ハンカチ,クッションカバーのタグには,「MORRIS & Co.」(ただし,「&」は装飾的な字体であり,「Co.」のうち「o」は「C」の右側上半分に記載され,「o」の真下に「.」が付されている。)との標章(以下「甲1標章」という。)が付されている(甲1~8)。

3 本件商標の使用について

(1) 上記認定事実,とりわけ,2(6)記載の事実によれば,平成16年7月17日から9月5日にかけて,岐阜において開催された「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」において,甲1標章が使用されたとの事実を認めることができる。本件商標と甲1標章を対比すると,甲1標章は,上記のとおり,本件商標の「Morris & Co.」のうち,「Morris」の部分が大文字で表記され,「&」に装飾的な字体が用いられ,「Co.」のうち「o」が「C」の右側上半分に記載され,「o」の真下に「.」が付されている点で異なる。

しかしながら,甲1標章と本件商標において使用されているアルファベット等は,大文字か小文字か,あるいはデザイン化されているかどうかの違いはあるものの同一であり,いずれからも,「モリスアンドカンパニー」との呼称が生じ,「モリス商会」ないしは「モリス会社」との観念が生じるものと認められる。このような本件商標と甲1標章で使用されている文字の共通性や,呼称及び観念の同一性に照らすと,甲1標章は,商標法50条1項にいう「社会通念上同一と認められる商標」というべきである。

(2) これに対し,被告は,①甲1の1の写真に写った包装の中身の商品は明らかでなく,その商品に対応してタグが付されていたかどうかもはっきりしない,②甲1,2のタグ上に表示されている甲1標章は,本件商標とはその構成を異にしており,社会通念上も同一の商標とはいえない,③本件タグ上の表示は,ウィリアム・モリス展を示す表示にすぎない,などと主張する。

しかしながら,前記判示のとおり,甲1ないし8によれば,甲1の1の写真に写されている商品が包装されたハンカチ及びクッションカバーであり,それぞれの商品に対応してタグが付されていると認められ(確かに,甲1の1,2によれば,写真の写しが証拠として提出されていることもあって,タグの付され方などには多少不自然な感じがないではないが,この点について,被告は単にこれを指摘するのみで,格別の反証活動をしておらず,甲2~8と合わせて考えるならば,上記のとおり認められる。),また,本件タグに記載されている甲1標章は,前記判示のとおり,外観やデザインにおいて本件商標とは多少異なるが,使用されている文字の共通性や,呼称及び観念の同一性に照らすと,本件商標と社会通念上同一ということができる。さらに,本件各商品に付されたタグには,「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ」という展覧会名が記載されているが,これは本件各商品が同展覧会の開催を記念して発売されたことから展覧会名を付しているにすぎず,展覧会名の下に記載された甲1標章は,タグのつけられた商品の出所表示機能を有するというべきである。

(3) 以上によれば,原告から本件商標権の使用許諾を受けたブレーントラストは,「本件審判請求前3月」である平成16年6月8日から本件審判請求の登録の日である平成16年9月27日までの間に,本件登録商標(より正確には,商標法50条1項の規定により本件登録商標に含むとされている,本件商標と社会通念上同一と認められる商標)を,本件商標の指定商品について使用したと認めることができる。

4 本件審判請求がされることを知った後かどうかについて

そこで,次に,ブレーントラストによる本件登録商標の使用が,本件審判請求がされることを知った後であるといえるかどうかについて検討する。

(1) 上記認定事実,とりわけ上記2(2)ないし(5)によれば,

① 被告の前身であるサンダーソンは,本件商標登録に対して異議の申立てを行ったが,特許庁は平成14年7月25日に本件商標登録を維持する旨の決定をし,その後,本件審判請求まで,サンダーソン又は被告から本件商標登録の有効性を争う審判請求等はなされず,またそのような審判請求を行う旨の意思表示が原告にされたこともないこと,

② 原告は,平成15年4月28日付け通知書をもって,被告のライセンシーであるマナトレーディングに対し,本件商標権の侵害行為を停止することを要求し,マナトレーディングは,同年5月2日付け回答書をもって,回答の猶予を求めたが,その後,この問題について原告側と被告側との間でやりとりはなく,原告側又は被告側が何らかの法的な措置をとったこともないこと,

③ 平成16年3月10日ころ,原告代理人は,被告代理人に対し,本件商標権の譲渡について打診したが,被告代理人は,同月19日付けの書面をもって,サンダーソンが検討中であることを理由として交渉時間の猶与を求め,その後,原告側と被告側で交渉は全く進められていないこと,

④ そうしたところ,平成16年9月7日付けファクシミリにより,被告代理人から原告代理人に対して,被告の指示により,本件商標登録について不使用取消審判請求をすることになった旨の連絡がされたこと,の各事実が認められる。

(2) 審決は,(i)被告の前身であるサンダーソンが本件商標の登録に対して異議申立てを行ったが,その主張が採用されなかった事実,(ii)原告からマナトレーディングに対し,商標権侵害通知がなされた事実,の2つの事実に基づいて,被告が「本件商標に対して不使用取消の審判請求をするであろうことは,容易に推認されたとみるのが相当である」と判断している。

ア しかしながら,被告の前身であるアーサー・サンダーソンによりなされた異議申立てに対する決定が出されたのは,本件登録商標の使用がなされた約2年前の平成14年7月25日であり,前記判示のとおり,その後,本件審判請求まで,サンダーソン又は被告から本件商標登録の有効性を争う審判請求等はなされず,またそのような審判請求を行う旨の意思表示が原告にされたと認めるに足る証拠もないのであるから,上記異議申立ての事実から,本件登録商標を使用する際に,原告が本件審判の請求がされることを知っていたと推認することはできない。

イ 次に,マナトレーディングに対する本件商標権侵害の警告については,平成15年5月2日ころ以降,原告側と被告側との間で交渉が行われたことはないのであるから,その1年以上も後になって本件登録商標を使用するときに,この件を契機として,被告から本件審判が請求されることを原告が予期していたとは考えられない。

ウ さらに,本件商標権の譲渡の打診についても,平成16年3月19日ころ以降,被告側からは明確な回答はなく,原告が本件登録商標を使用した当時,原告は被告側の検討結果の連絡を待っている立場にあったのであるから,原告としては被告から本件商標権の譲渡に関して何らかの回答があるか,あるいは被告側から回答がないまま交渉が自然消滅する可能性は予期し得たとしても,本件登録商標の使用がなされた当時,被告からいきなり本件審判が請求されることを知っていたとは考えられず,同年9月7日以前に,被告側から審判請求について示唆があったことを示す証拠も存在しない。

エ 原告が本件登録商標を使用したのは,「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ展」の機会においてであるが,美術展覧会において,そのアーティストや出典作品に関連した標章を付すなどして,商品を販売することは珍しいことではなく,本件商標を付した商品を販売するに至った経緯にも,本件審判を請求されることを知って,駆け込み的に本件登録商標の使用に及んだことをうかがわせるような事情は認められない。

オ このように,上記(i)(ii)の事実のみに基づき,本件登録商標の使用がなされたのが本件審判請求がされることを原告が知った後であるとした審決の認定は,事実認定についての経験則に反し,明らかに誤ったものである。そして,本件証拠により認定できる他の事実を総合しても,原告が本件登録商標を使用したのが,本件審判の請求がされることを知った後であると認めることはできない。

(3) これに対し,被告は,①商標法50条3項の立法趣旨に照らすと,「審判の請求がされることを知った」とは,審判請求がされる可能性があることを知っていたことを立証すれば足りる,②本件のように,高いライセンス料や譲渡対価として法外な金額が提示されたという交渉経緯等に照らすと,原告は,本件審判を当然に想定していたと考えられる,③原告代理人が被告代理人を訪れ,本件商標の譲渡の打診をした平成16年3月10日ころにはカタログに掲載する商標も確定していたはずであるから,その時期に本件商標の譲渡の打診があったということは,展覧会において本件商標を使用することは予定されていなかったと考えるのが自然である,などと主張する。

ア しかしながら,商標法50条3項は「その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したとき」と規定しているのであって,審判請求人に対し,審判請求がされるであろうことを被請求人が知っていたことの証明を求めている。同条項のこのような文言に照らすと,「その審判の請求がされることを知った」とは,例えば,当該審判請求を行うことを交渉相手から書面等で通知されるなどの具体的な事実により,当該相手方が審判請求する意思を有していることを知ったか,あるいは,交渉の経緯その他諸々の状況から客観的にみて相手方が審判請求をする蓋然性が高く,かつ,被請求人がこれを認識していると認められる場合などをいうと解すべきであり,被請求人が単に審判請求を受ける一般的,抽象的な可能性を認識していたのみでは足りないというべきである。

本件では,平成16年9月7日に至るまで,サンダーソン及び被告から,本件審判を請求する旨の連絡が原告にされたことはなく,また,本件商標権の侵害の停止についての交渉や,本件商標権の譲渡についての実質的な交渉はほとんど行われていないのであるから,交渉経緯等に照らし審判請求がされる蓋然性が高いと認識されるような状況が存在したともいうことはできない。

イ また,被告は,原告から高いライセンス料や譲渡対価として法外な金額が提示されたと主張するところ,仮に原告の主張するような提示がなされたとしても,甲17の回答書において,被告代理人は,サンダーソンが検討中であることを伝えるとともに,交渉時間の猶予を求めているのであり,その後,原告と被告との間で交渉が行われて決裂し,あるいは,被告側から審判請求をするなどの意思表示がされたことを示す証拠はない。また,そもそも,原告からの本件商標の譲渡の申し出を被告側が断ったとしても,それによって,被告が審判請求をすることが予期されるものでもない。

ウ 被告は,本件商標の譲渡の打診のなされた時期を考慮すると,平成16年7月からの展覧会において本件商標を使用することは予定されていなかったと主張するが,平成16年3月に本件商標の譲渡の打診がなされたときは,譲渡交渉が成立するかどうかも不確定であり,しかも本件商標の譲渡について原告と被告が合意したとしても,譲渡の時期や条件は当事者間の話合いにより定めることができるのであるから,被告の主張するとおり,上記展覧会の内容が固まったころに本件商標の譲渡の打診が行われたとしても,上記展覧会において本件商標を使用することが予定されていなかったということはできない。

エ したがって,被告の主張は理由がない。

5 結論

以上によれば,原告の通常使用権者は,本件審判の請求の登録前3年以内に本件登録商標を使用したということができ,その使用が本件審判請求がされることを知った後であるとは認められないのであるから,その使用が商標法50条1項の規定する登録商標の使用に該当しないものとして本件商標登録を取り消すべきであるとした審決の判断は誤りであり,取消しを免れない。

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