知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成17年(行ケ)第10673号 審決取消請求事件

上記当事者間の頭書事件について,当裁判所は,商標法63条2項の準用する特許法180条の2により特許庁長官の意見を聴いた上,次のとおり判決する。

主文

1 特許庁が無効2004-89076号事件について平成17年7月28日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文と同旨

第2 事案の概要

本件は,平成9年4月1日から施行された商標法の一部改正により導入された立体商標(同法2条1項にいう「立体的形状」)に関する無効不成立審決の取消訴訟である。

すなわち,被告が有する後記商標登録につき原告が無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めたのが本件訴訟である。

なお,被告は,上記商標権に基づき原告に対し商標権侵害差止等請求訴訟を提起し,同訴訟は福岡地方裁判所に係属中である(同裁判所平成16年(ワ)第1009号。)

当事者の主張

1 請求の原因

(1) 特許庁における手続の経緯

被告は,平成9年4月1日,別紙「立体商標を表示した書面」のとおりの立体商標について,指定商品を「菓子及びパン」として商標登録出願をしたところ,平成11年8月13日付けで拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。その手続の中で被告は,平成15年7月7日付けで指定商品を「まんじゅう」と補正し,その結果,平成15年7月24日,特許庁から「原査定を取り消す。本願商標は,登録すべきものとする」。との審決(甲55の1。以下,この審決を「登録審決」という)。を受け,平成15年8月29日,指定商品第30類「まんじゅう」とする立体商標・登録番号第4704439号として,設定登録を受けた(以下「本件立体商標」という。)。

これに対し原告から商標登録の無効審判請求がなされたので,特許庁はこれを無効2004-89076号事件として審理した上,平成17年7月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(甲46。以下,この審決を「本件審決」という)。をし,その謄本は平成17年8月9日原告に送達された。

(2) 審決の内容

本件審決の内容は,別添審決写しのとおりである。

その理由の要点は,本件立体商標は商標法(以下「法」という)3条1項3号に該当するが,被告による永年使用の結果,取引者及び需要者の間で被告の業務に係る商品であると認識されるに至ったから,同条2項により商標登録を受けることができる,等としたものである(なお,審決14頁25行~26行)の「準用する特許法第131条第2項本文」は,平成18年6月20日付け更正決定により「準用する特許法第131条の2第1項本文」と改められた。

(3) 審決の取消事由

しかしながら,本件審決が,本件立体商標は法3条2項により登録が許されると判断したことは,以下に述べるとおり誤りであるから,違法として取り消されるべきである。

ア(ア)本件立体商標と同様の形状を有する鳥の菓子は,全国各地に多数存在し,これらと被告の菓子「ひよ子」とを並べて対比しても区別がつかない。

そして,その中でも原告の菓子「二鶴の親子」は昭和35年に製造が開始された歴史を有している。また,菓子「名古屋コーチン」は,日本の大都市である名古屋地区等において大々的に販売されており(甲15の1~2,29,42の1~3),名古屋地区を含む中部地方の需要者はその立体的形状だけでは区別ができない。

また,平安時代から承継・発展してきた和菓子においては,祝い菓子,干支菓子を始めとして,菓子の形状に動物の形が古くから好んで用いられている(「和菓子おもしろ百珍」〔甲2〕),「縁起菓子・祝い菓子」〔甲3〕「“鳥獣戯菓”展」〔甲4〕)

また,宝永4年(1707年)には,東京都港区の菓子店「虎屋」が小さな嘴と目を有する「鶉餅」を製造していたとの歴史文書(絵図帳)が現存し「虎屋」では現在でも,この「鶉餅」を絵図帳と職人伝承から「目と嘴をつけ,鳩笛のようなかたちにしたもの」としてこれを復元している(甲4,7,89の2の2,5,90の4~6,91の1~2,92の1~2)。さらに,遅くとも明治36年には創業されていた東京都台東区の菓子店「徳太楼」でも,古くから平成14年頃まで鳥の形状の菓子を製造しており,同菓子は「徳太楼のひよこ」として和菓子職人間で広く知られている(甲8) 。このように,鳥の形状の菓子は,わが国の和菓子文化の伝統の一つとして,その形状が承継され,その形状が公開されさらに創意工夫がされる発展の歴史に支えられたものであり,古くから存在する伝統的なものであって,独創的なものではない。本件立体商標の商標登録を認めることは,このような立体的形状が独占されることになり,和菓子文化の承継と発展の伝統が根本から否定されることになる。

このように他の同種の形状の商品が存在する場合には,アンケート調査結果のような,需要者の認識を直接示す事実の主張立証があって初めて法3条2項の使用による出所識別力の獲得が認められるところ,被告は広告宣伝の実績等について立証するのみで,かかる立証をしていない。

以上によれば,全国の需要者が,商品の形状を見ただけで本件立体商標にかかる菓子の出所を識別することは不可能であり,本件立体商標が,自他商品識別力を獲得しているとはいえない。

(イ)①被告は,本件立体商標と同種の形状の鳥の菓子が,当該他者の製造販売する菓子として需要者の間に広く認識されているという事実は認められないと主張する。しかし,たとえそうであったとしても,本件立体商標及びこれに類する立体的形状は,菓子の形状としてはありふれており,本来自他商品識別力を有しないのであるから,このような「自他商品識別力」を有しない商品が多数存在することにより,需要者は,本件立体商標と他の類似の商品を区別できないこととなるものである。

② なお被告は,福岡商工会議所等による各証明書(乙123~128,167~170)を提出する。しかし,被告が提出する各証明書は,すべて福岡県内の団体等に限られていること,福岡商工会議所の証明書(乙123)は,被告がひよこの造型饅頭を製造・販売していることと,商品名「ひよ子」として当地において広報していることを証明しているにすぎず,全国に本件立体商標と同様の形状を有する鳥の菓子がある中で,本件立体商標が自他商品識別力を獲得するに至っていることを証明してはいないこと,福岡市菓子協同組合の証明書(乙125)等のその他の証明書(乙124~128,167~170)は,被告自身が予め記載した書面に押印したにすぎないことに照らせば,これらの各証明書によって本件立体商標にかかる形状につき自他商品識別力の獲得を認めることはできない。

(ウ)また,仮に,本件立体商標が自他商品識別力を獲得していた時期があったとしても,被告はその後,類似商品等に対し何らクレームをつけず,商標管理を怠ったことにより,その形状は既に一般形状化して日本全国にあまねく普及し,登録審決の時点(平成15年7月24日)では,既に自他商品識別力を喪失していたものである。

すなわち,本件においては,菓子業界で本件立体商標のような包餡焼き菓子の製造工程が工業化された昭和40年代以降(甲70の306頁),原告をはじめ多数の菓子製造業者が本件立体商標と類似する鳥の形状を有する菓子を製造しており,既に昭和40年代において,本件立体商標に類する菓子の形状はありふれていた。また,被告は,昭和43年~45年に原告の菓子「二鶴の親子」の販売を不正競争防止法違反として刑事告訴し,原告が菓子外箱包装紙を変更するなどの出所混同防止措置を執ったことから,この事件は不起訴になった経緯があるが(甲53の1~18,54の1~4),被告は,それ以降,約40年近く経て原告に対し福岡地方裁判所に侵害訴訟を提起した平成16年まで,原告の菓子「二鶴の親子」の形状に関して何ら問題とせず,原告の菓子「二鶴の親子」と被告の菓子「ひよ子」は何ら問題なく市場で共存し,販売されてきた(甲67の1~8 )。一般に,商標の著名化は自壊作用を伴うから,他人の使用に対して何ら適切な対策もとらずに広告宣伝を行えば行うほど,むしろその出所識別力は減退することとなるのに,被告は約40年間何らクレームをつけなかったものである。これは,上記のように,既に,昭和40年代において,本件立体商標に類する菓子の形状はありふれており,需要者も,包装紙等に付されている菓子の名称等によって商品を区別していて,全く出所の混同を生じていなかったからである。

(エ)また,仮に被告自身の使用により本件立体商標がある程度周知になったとしても,その周知となった地域は九州北部と関東地方に集中しており(甲65~66),上記ア(ア)に記載したように,例えば名古屋地区を含む中部地方の需要者が,被告の菓子「ひよ子」と菓子「名古屋コーチン」を,その立体的形状だけで区別できるとは考えられない。さらに,被告の提出する広告宣伝に関する新聞・雑誌記事,テレビCM等は,そのほとんど全てが,本件立体商標に,著名商標である文字商標「ひよ子」あるいはこれを含んだ記事,説明文,文字商標を発音する音声付きの広告宣伝を組み合わせたものであり,本件立体商標単独での広告宣伝は存在せず,そこに掲載されている立体的形状も本件立体商標と同一であるかどうかも不鮮明であるから,出所識別力の獲得に寄与し得ない。

(オ)なお,被告は,大正元年から福岡県飯塚市の菓子舗において本件立体商標にかかる立体的形状の菓子「ひよ子」饅頭の販売を開始したと主張する。しかし,被告の菓子「ひよ子」の販売開始時期は,昭和11年以前については,被告自身の陳述のほか客観的証拠がなく,昭和48年8月14日から91回にわたり福岡県の地元紙であるフクニチ新聞に連載された「名産風土記」(甲118の1~3)によれば,被告の現代表者は,ひよ子の誕生を大正10年と説明しており,大正元年と食い違う。また,被告は,昭和11年に帝国キネマの映画「弥次喜多道中」で被告の菓子が登場したと主張するが,現在確認できる第1作(昭和6年),第2作(昭和13年)ともに,飯塚市を通過する道中記ではなく(甲144),この映画の写真(乙4の1)も,その撮影年月日が昭和11年であることの客観的証拠はない。本件立体商標の対象である被告の菓子「ひよ子」につき,客観的に製造販売が確認できる資料は,昭和32年4月28日の新聞(九州菓業新聞)記事(乙7)であり,また,昭和32年11月4日の新聞(西日本新聞)記事に初めて菓子「ひよ子」の形状の写真が掲載されている(乙10の1~2)にすぎない。

イ 本件審決は,本件立体商標にかかる立体的形状自体が,文字商標「ひよ子」から独立して自他商品識別力を獲得していないにもかかわらず,自他商品識別力があると認定したが,以下に照らして誤りである。

(ア)法3条2項は,登録出願された商標の使用を前提として登録が認められる規定であるから,登録出願された商標そのものが独立して使用された結果自他商品識別力を獲得するに至ったことが必要であるところ,需要者が,立体的形状のみならず,そこに表示された文字等も見て自他商品の識別を行うときは,これらが併せて使用されたのであって,立体的形状が独立して自他商品の識別に寄与したとは認められない。したがって,この場合は,その立体的形状への法3条2項の適用は否定されなければならない。

(イ)しかるに,需要者は,本件立体商標と原告の菓子「二鶴の親子」を,形状自体ではなく,各菓子の名称すなわち「文字商標」や外箱包装で識別している(甲67の1~8) 。すなわち,本件立体商標の立体的形状は何ら特徴的なものではなく,また本件立体商標の立体的形状の場合,菓子は,通常中身の見えない包装紙に包まれて販売されているために,需要者は,包装紙に記載された菓子の名称等に注意を払い,それに基づいて菓子を購入しており,特に,文字商標「ひよ子」は著名でもあるので,需要者は,そのありふれた立体的形状である本件立体商標ではなく「ひよ子」の文字を見て自他商品の識別を行っていることは明らかである。

したがって,需要者は,文字商標「ひよ子」に注目して自他商品の識別を行い,本件立体商標の立体的形状については,単に商品の形状そのものとして理解してきたに過ぎないというべきである。

ウ 被告が自己の菓子「ひよ子」饅頭の形状を登録審決時(平成15年7月24日)まで使用してきたことは,デザイン的(意匠的)使用態様によるものでしかないから,本件立体商標を出所識別表示として使用してきたとはいえず,法3条2項の適用の前提がない。

(ア)そもそも商品自体の形状は,その機能又は美観を高めるために選択されるもので,商品の出所識別のために選択されるものではない。しかるに,被告が本件立体商標の形状を採用したのも,日本では古来より鳥の形が風流な愛らしさを持つ形状として菓子の形に採用されていたのにヒントを得て,商品の形状選択に関する他の一般的事例と同様,美観を高めるためという全くデザイン的な理由にある。

(イ)意匠であっても,出所識別の機能を営むことは極めて例外的にはあり得るが,意匠が例外的に出所識別の機能を営むのは,同意匠を用いる標章が独創的なものであるか,又は,標章がその使用者一人にのみ独占されて使用されていることが要求される。これらの状況にない場合,取引者・需要者が当該意匠に触れた際に,当該意匠を使用している者が特定の1者のみであるという認識に至らないからである。

しかるに,本件立体商標の形状は,和菓子の意匠として伝統的なものであり,少なくとも江戸時代から我が国に存在する「鶉餅」等の鳥の形をした菓子を模したものであって,独創的なものではない(甲89の2の2,5,90の4~6,91の1~2,92の1~2 。)

エ 本件審決は,本件立体商標が「一貫して頭部をやや左前方に向け,小さな嘴と小さな目をもつ独特のひよこの形状について永年使用した」(審決13頁21行~23行)とするが,以下に照らせば,被告が実際に販売,広告宣伝(展示)で使用してきたのは,本件立体商標ではないのであって,本件立体商標はその使用の事例がなく,法3条2項の要件を満たさないというべきである。

(ア)実際に販売されている被告の「ひよ子」饅頭の形状は,頭部をやや左に向けたものばかりではない。すなわち,九州大学大学院のA助教授及び九州大学産学連携センターのB教授らによる「連続製造工程生産の菓子出来上がり形状等に関する研究-出来上がり形状のバラツキと収束範囲の計測」(甲105の1~2)によれば,頭部の向きについて,全検体個数278個のうち,正面を向いたものは129個,左を向いたものは82個,右を向いたものは62個であって,左右の傾きの角度の差は6.5度に達しており,本件立体商標の形状と,実際の菓子の形状との間には,①底面からの立ち上がりライン形状,②目や嘴の位置,③嘴の左右方向への傾き,④正面からの上体の左右の傾き,⑤嘴の形状等の点において差異が存する。

(イ)被告の広告宣伝した「ひよ子」饅頭の形状も,本件立体商標とは異なるものである。すなわち,九州大学大学院のA助教授及び九州大学産学連携センターのB教授らによる「連続製造工程生産の菓子出来上がり形状等に関する研究2-広報媒体で用いられた製品図像の形状の計測と特性の記述」(甲119の1~2)によれば,本件立体商標は,宣伝広告の標準的形状と比較してスリムである,即ち,全長に比して全高の値が高い,頭部が胴部に比べて小さい,腰部のくびれの度合いが小さい,目と嘴が前に位置している,という特徴があるものである。

また,被告が本件立体商標を広告宣伝したとして提出したTV宣伝ビデオ(乙196~197),被告の宣伝写真(乙186)及びパンフレットに登場する菓子「ひよ子」饅頭を,コンピュータ画面上で本件立体商標と比較してみると,すべて本件立体商標とは形状が異なっている(甲93の1~5,94~96,97の1~49,98の1~899の1~2,100~101 。)

(ウ)被告は,本件立体商標と,実際に被告が用いてきた立体形状との差異は同一性の範囲内にあると主張する。しかし,本件審決は,頭部をやや左前方に向けていること,小さな嘴と小さな目を持つことを本件立体商標の要部と認定しているから,たとえ他の部分が類似していても,これらの要部を持たない形状を用いた場合は,本件立体商標と同一性の範囲内にある形状を使用したとはいえない。

オ 本件立体商標は,法4条1項18号の「商品…の形状であって,その商品…の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に該当する。

(ア)本件審決は,原告の,本件立体商標が法4条1項18号に該当する旨の主張について,新たに無効理由を追加し,請求の理由の要旨を変更するものであるから,法56条1項によって準用される特許法131条の2第1項本文により認められない,とする。しかし,法3条2項の適用のある立体商標であっても,公益的理由により法4条1項18号に該当するものは不登録とするというのが商標法の構造であり,両条文における判断は一連のものである。すなわち,法3条1項3号に該当する以上,同条2項の自他商品識別力を本件立体商標が具備していたとしても,当然に,法4条1項18号に該当して不登録商標となるのではないかという判断は不可欠である。したがって,原告が無効審判請求の当初から,本件立体商標の法3条1項3号該当性を主張していたことは,法4条1項18号該当性も主張していたことを含むのであって,原告による同号該当性の主張が請求理由の要旨変更に該当しないことは明らかである。

(イ)また,本件立体商標は,以下によれば,法4条1項18号に該当する。

① 本件立体商標のような日持ちのする土産菓子を廉価で生産するには,機械による型抜き法を用いた焼き菓子とせざるを得ず,型抜き法を用いて焼き菓子を作成するには,型抜き法とその後の焼成過程を経ることからの技術上の制約が存する。また,わが国の市場においては,型抜き法に用いる機械がレオン自動機及びプルミエール自動成形機の2社の製品にほぼ独占されているから,わが国において鳥の形を模した饅頭を作成しようとした場合,技術的には本件立体商標と類似した形にならざるを得ない。

本件審決は,プルミエール自動成形機の広告文を文字通り解釈し,同成形機は型の取り替えが自由に選択できるから,必ずしも本件立体商標と酷似する形状にする必然性はないとする。しかし,同広告文は菓子一般についてのセールストークにすぎず,実際には,本件立体商標のような鳥の形状を有する菓子は,型抜き法とその後の焼成過程を必要とするという制約から,本件立体商標に似た形しかできない。

② 法4条1項18号は,技術に関する競争条件に不均衡を生ぜしめないという趣旨から検討すべきであるところ,本件立体商標は,商品自体の性質から生来し,その技術的効果を達成するために必要な形状であり,また,製造コスト上有利である形状である。そして,同号の「機能」には,物理的な商品の機能性のみならず,このような価値的な機能性も含むものである。

③ 法4条1項18号にいう「商品の機能」の商品は,指定商品のみを指すものではなく,その指定商品を細かく分類して指定商品として登録できる場合には,その細かく分類した商品すべてを含むものと解さなければならない。したがって「まんじゅう」が指定商品とされている場合には「鳥の形をしたまんじゅう」を指定商品とした商標登録が可能である以上「鳥の形をしたまんじゅう」の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる本件立体商標は,商標登録が許されない。

カ 特許庁長官の意見(後述)に対する反論

(ア)特許庁長官は,立体商標制度の導入に当たり,附則として継続的使用権(平成8年商標法改正附則2条)を設けたことで,中小企業等の負担は回避された旨述べる。しかし,菓子業界において混同防止請求等に応じるため実際に生じる負担は過大であり,経過措置によっても既存使用者の利益は必ずしも保護されない。

(イ)特許庁長官は,あくまでも本件立体商標と類似する範囲にのみ権利が及ぶのであるから,本件立体商標が登録されたからといって,およそ鳥の形をしたすべての菓子に権利が及ぶものではないことは明らかと述べる。しかし,鳥の形状をした包餡焼き菓子の製造工程の特殊性から,実際にはすべての鳥の形状をしたまんじゅうは本件立体商標に類似した形状にならざるを得ず,結局,すべての鳥の形状をしたまんじゅうに被告の権利が及ぶことになり,被告に本件立体商標の登録を認めることが公正な競争を害することになる。

(ウ)特許庁長官は,コンピュータ画面による同一性が認められないからといって同一性が否定されるというものでもないとみるのが社会通念に照らして相当であると述べる。しかし,原告がコンピュータを利用して,被告の使用商標の形状を解析したのは,一見して被告の使用商標の中には,「頭部をやや左前方に向け,小さな嘴と目をもつ」(審決13頁22行)に該当しないものが多数見受けられたので,それを証拠化するに当たり客観性を持たせたためであるにすぎない。

(エ)特許庁長官は,本件立体商標と同一の形状のまんじゅうが多数存在することについてはにわかに認めがたく,仮に同様の鳥の形状のまんじゅうが存在するとしても,このことが法3条2項の適用を否定する根拠とはなり得ないなど述べる。しかし,仮に,本件立体商標が自他商品識別力を獲得した時期があったとしても,約40年間にわたり,類似の形状をもつ菓子が流通し,しかも,被告がこれに対して何ら対抗措置をとらなかった結果,既に,登録審決時である平成15年7月24日においては,本件立体商標の自他商品識別力は希釈化され,存在しなかったものである。

(オ)特許庁長官は,被告が大正元年から今日に至るまで盛大に本件立体商標を使用した結果,本件立体商標自体,文字商標「ひよ子」と独立して自他商品の識別標識としての機能を具備するに至った,と主張する。

しかし,大正元年から,という使用実績の立証は,被告が述べたパンフレット,宣伝用のマスコミ取材への広報でしかなく,不十分である。また,日本全国には,本件立体商標類似の商品が多数存在しているところ,被告は,これらの菓子を製造する全国の業者に対しても,長年にわたり何らクレームをつけていない。これは,すなわち,需要者が,包装紙等に付されている菓子の名称等によって商品を区別し,需要者側の認識では,本件立体商標は文字商標「ひよ子」から独立して自他商品識別力を獲得していないことを裏付けるものである。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,同(3)は争う。

被告の反論

本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1) 原告は,全国各地に本件立体商標と同様の鳥の形状を有する菓子が存在し,これらと被告の菓子「ひよ子」とを並べて対比しても区別がつかないこと,また,原告の菓子「二鶴の親子」は昭和35年に製造が開始された歴史があること,菓子「名古屋コーチン」と被告の菓子「ひよ子」とを,名古屋地区を含む中部地方の需要者はその立体的形状だけで区別できないと考えられること,こうした鳥の形状を有する菓子は,江戸時代から和菓子「鶉餅」(甲7)が存在するように,古くから存在するありふれたものであること,他の同種の形状の商品が存在する場合には,アンケート調査結果のような,需要者の認識を直接示す事実の主張立証があって初めて法3条2項の使用による出所識別力の獲得が認められるところ,被告はかかる立証をしていないこと,などに照らせば,本件立体商標は全国的な周知性を獲得しておらず,法3条2項にいう出所識別力を欠く,と主張する。

ア しかし,同種の形状の鳥の菓子が多数存在するという主張それ自体は意味がなく,これらの形状が使用された結果,他者の製造販売する菓子として需要者の間に広く認識されているという事実を主張立証しない限り,本件立体商標の,使用による出所識別力を減殺することはできない。なぜなら,同種の形状の商品が他の者の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合には,法3条2項が要求する,使用による出所識別力の認定の妨げとなるからである。しかるに,本件においてそのような事実は認められない。

また,出所識別力の有無は,当該商標と類似商標の使用開始の先後関係,当該商標の周知性獲得の過程・経緯等(例えば多くの業者が使用したから周知化したのか,特定業者が使用したから周知化したのか等)を考慮して判断すべきである。しかるに,本件立体商標の場合は,後記(3)から明らかなように,他業者が使用するよりも前から被告のみが本件立体商標を使用することによって,原告の菓子「二鶴の親子」等の本件立体商標類似の饅頭が市場に出る時点において既に周知性を取得していたものである。

イ また,いかに著名な商標が付された商品であっても,酷似する商標の付された模造品とともに置かれた場合に,どれが本物の商品かを認識することはできないはずである。そして,本件立体商標の類似商品は,すべて本件立体商標にフリーライドしたものである。そうすると,本件立体商標を類似群の中から直ちに指摘できないからといって,本件立体商標が出所識別力を獲得していないということにはならない。

ウ また,原告の菓子「二鶴の親子」の製造開始時期は不明である。すなわち,福岡市菓子協同組合の証明書(甲14)は,少なくとも,原告が福岡市菓子協同組合に事実を告知し,それに基づいて作成されたことが明らかであるところ,同証明書には「…下記の鳥の形状の饅頭(商品名「二鶴の親子」)を,昭和41年から福岡市において販売」していると記載されており,昭和35年には製造されていたとする原告主張と矛盾する。なお,仮に昭和35年に製造が開始されていたとしても,原告の製造した菓子の形状が,登録審決時において,原告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた事実はない。

なお原告は,昭和44,45年頃,原告の菓子「二鶴の親子」を「ひよ子」と称して販売し(甲53の12,16,乙161~164),被告の菓子「ひよ子」との間で出所の混同を生じさせたことがあるが,これは,本件立体商標が,既に昭和44,45年当時,使用による出所識別力を獲得していたからこそ,その信用力にフリーライドして不当に利益を挙げようとしたものといえる。

エ また,被告は,名古屋地区においては,中日新聞に本件立体商標を表示した広告を掲載している(乙178)し,平成11年7月~8月にかけて,愛知県,岐阜県,三重県を放送対象地域とする中部日本放送において,被告の菓子「ひよ子」のテレビCMを60本放送し(乙190の27),同様に,平成12年12月,平成13年7~8月,平成13年12月にも各60本ずつ,平成15年7月には18本放送している(乙191の28,192の29,198,200の17 )。

また,東海地方を除く中部地方においても,被告の菓子「ひよ子」のテレビCMは,新潟テレビ21,長野放送,北日本放送(富山),テレビ金沢(石川),福井テレビ,静岡朝日テレビ等で同様に放送されている。これらの広告宣伝の実績からすると,本件立体商標は,名古屋を含む中部地方においても十分に自他商品識別力を獲得していたというべきである。

オ また,本件立体商標の商標登録が認められても,和菓子文化の承継と発展の伝統を否定するとはいえない。なぜなら,法は,鳥の形状をかたどった菓子は,法3条1項3号の記述的商標に該当するとした上で,記述的商標であっても,企業努力によって出所識別力を獲得した商標は,法3条2項により商標登録を認めているのであるし,さらに,立体商標制度施行前からの立体商標の正当使用は,継続的使用権が付与されることによって保護されているからである。

また,原告が指摘する「鶉餅」についても,甲7の95頁の「鶉」の項目には「鶉餅」が江戸時代に製造販売されていた事実は記載されておらず,当該頁には「当時の鶉餅がどのような形かはわかりませんが」とも記載されている。また,甲7の94頁に「鶉餅」の写真が掲載されているが,当該写真の立体的形状の鶉餅が江戸時代に製造販売されていたとの記載はなく,また,甲4の2頁の「鶉餅」が「復元」されたものとの記載も,甲4に見当たらない。むしろ,甲2の174頁~175頁,甲4の15頁によれば「鶉餅」はそもそも「腹太餅」の別称で「大福」の原型であり,また当初から鳥の形状の菓子とする目的で作られたのではなく,ふっくらとした餅菓子を鶉に見立て,鶉餅や鶉焼の名がつけられたにすぎないと認められ,そもそも鳥の形状を有する菓子とは言い難いものである。また,仮にかかる「鶉餅」が古くから製造販売されていたとしても,本件立体商標とは色彩,立体的形状が異なるから,本件立体商標のような色彩及び立体的形状の饅頭が古くから存在していたとはいえない。

さらに,原告が指摘する「徳太楼のひよこ」についても,甲8には,菓子店「徳太楼」が「鳥の形状の菓子」を製造しているとも,それを「古くから」製造しているとも記載されていない上,同菓子が「和菓子職人間で広く知られている」とも記載されていない。

カさらに,法3条2項の,使用による出所識別力の獲得の有無は,使用に係る商標及び商品等,使用開始時期及び使用期間,使用地域,当該商品等の販売数量並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して決せられる(甲43の8頁)ものであり,アンケート調査結果等も,総合考慮の一事情に過ぎない。また,他の同種の形状の商品が存在する場合にむしろ重要なことは,上記アのように,これらの商品が,当該他の者の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたかどうかということである(甲88の4の10頁)。しかるに,原告が示す本件立体商標類似の商標は,いずれも本件立体商標と同程度の周知性を獲得しているとは到底言い難い。

(2) 原告は,仮に,本件立体商標が自他商品識別力を獲得していた時期があったとしても,被告はその後,類似商品等に対し何らクレームをつけず,商標管理を怠ったことにより,その形状は既に一般形状化して日本全国にあまねく普及し,登録審決の時点(平成15年7月24日)では,既に自他商品識別力を喪失していた,被告が何らクレームをつけなかったのは,既に,昭和40年代において,本件立体商標に類する菓子の形状はありふれており( 「鶉餅・甲7」),需要者も,包装紙等の付されている菓子の名称等によって商品を区別し,全く出所の混同を生じていなかったからであると主張するが,以下に照らし,失当である。

ア 一旦周知性を取得した商標の,周知性喪失の有無を判断するに当たっては,商標の使用中止又は使用頻度の激減,販売停止又は販売数量の激減,広告宣伝の中止又は激減等の事情が認定され,又は本件立体商標の出所識別力を否定するような類似商標の周知性の獲得がなされてはじめて本件立体商標が出所識別力を喪失したということができる。

しかるに,原告が主張する,被告が権利行使を怠った始期とされる昭和45年から現在に至るまで,被告は継続して本件立体商標にかかる商品を販売等することによって本件立体商標を使用しているところ,本件立体商標に係る商品の販売数量,広告宣伝費は年々増大し(乙114の1),広告宣伝の回数も増大し,その方法も多様となっている(乙62の1~47,109~113,134~158)。

他方,原告の方は,菓子「二鶴の親子」について,昭和45年以前も以後も広告宣伝をした証拠はなく,原告の菓子「二鶴の親子」が出所識別力を獲得した事実は認められない。

イ また,被告以外の業者が原告の菓子「二鶴の親子」等本件立体商標類似の立体的形状を有する饅頭を販売した時点において,本件立体商標は既に「名菓ひよ子」として需要者の間に広く認識されていたものであるから,かかる状況においては,他の業者によって本件立体商標類似の饅頭が製造販売されても,当該類似品が被告の商品であると混同されるか,または当該類似の饅頭は被告の饅頭の「模倣品」であるとの認識が生じるにすぎない。

ウ 昭和40年代において本件立体商標に類する菓子の形状がありふれていたといえないことについては,上記(1)ウ,オに記載したとおりである。

(3) 原告は,被告の菓子「ひよ子」が周知となった地域は,九州北部と関東地方に集中していると主張するが,以下のア~カに照らせば,本件立体商標は,全国的な周知性を獲得しているというべきである。

ア 本件立体商標の使用開始時期

被告においては,先々代のCが福岡県飯塚市で菓子舗を開業し,大正元年12月に2代目のIが「ひよこ」をかたどった本件立体商標の立体形状からなる菓子を考案し,同飯塚市の菓子舗にて販売を開始した(乙1の4頁,乙2「沿革,乙3の189~191頁。」)

この点,原告は,被告の菓子「ひよ子」の販売開始は大正元年ではなく昭和30年代であると主張し,西日本新聞企画情報センター編「ジャンル別九州No.1企業」(昭和61年6月19日発行〔乙3〕 )に言及される帝国キネマの映画「弥次喜多道中記」の第2作(昭和13年制作,甲144の2頁目,甲152の2)を見ても被告の菓子「ひよ子」は登場していないと主張するが,以下に照らし,失当である。

すなわち,「弥次喜多道中記」の第2作のDVD(甲152の2)をみると,同DVDの開始から25分16秒~20秒のあたりに,盆の上に菓子を積んだシーンが現れ,この菓子の個々の形状を子細に観察すると,この菓子は被告の菓子「ひよ子」であることが分かる。この形状は,その直後に登場し原告が指摘する「破れまんじゅう」の形状(乙224の1~2)とは明らかに異なっている。また,同DVDの開始25分24秒あたりから「めっぽううまい,こりゃうまい」という歌詞付き楽曲が挿入されている。これらは,上記乙3の「昭和11年,帝国キネマの映画「弥次喜多道中」のロケーションが飯塚市であった際には,映画関係者に売り込んで,弥次さん,喜多さんが「ひよ子」を持って「なかなかうまい菓子じゃのお」というシーンをわざわざ入れてもらっている」という記載と符合しており「大正元年の冬」に被告の菓子「ひよ子」の販売が開始されたとする上記乙3の信用性を裏付けている。

イ 被告法人の展開状況(乙1)

(ア)昭和27年12月,飯塚市において吉野堂製菓株式会社が設立された。そして,昭和31年12月「名菓ひよ子」その他の菓子の製造販売を営む株式会社吉野堂が設立され,昭和34年8月,販売部門として吉野堂商事株式会社が設立され,昭和34年9月,原料部門として福岡銘菓原料株式会社が設立された。

(イ)昭和38年3月,上記吉野堂製菓株式会社が,株式会社ひよ子に商号変更された。また,昭和41年11月,東京都の八重洲地下街で「ひよ子」饅頭の製造販売を営む株式会社東京ひよ子が設立され,同時期に,上記吉野堂商事株式会社が,株式会社博多ひよ子に商号変更された。

(ウ)昭和56年9月,株式会社博多ひよ子が,ひよ子本舗吉野堂株式会社に商号変更され,昭和56年11月,同社が株式会社ひよ子の営業権を譲り受け,西日本地域における販売会社となった。また,昭和58年10月,株式会社ひよ子が株式会社吉野堂の製造部門を譲り受け,同社が西日本地域における製造会社となった。

(エ)昭和62年10月,ひよ子本舗吉野堂株式会社が株式会社ひよ子,株式会社東京ひよ子,福岡銘菓原料株式会社を吸収合併し,商号を「株式会社ひよ子」(被告)とした。そして,平成7年10月,被告の東京支社が,株式会社ひよ子の営業権を譲り受け,同東京支社が株式会社東京ひよ子として東日本における製造・販売会社となり,現在に至っている。

ウ 直営店舗の展開状況(乙1,2)

(ア)被告は大正元年から福岡県飯塚市の菓子舗において本件立体商標にかかる立体的形状の菓子「ひよ子」の販売を開始し(乙1,3,22,64~66,68,70,76,228~232 ),その後,飯塚市内における直営3店舗にて同菓子の販売を行った(乙3の192頁)。その後,昭和17年頃,太平洋戦争等のため一旦中断したが,昭和23年から同菓子の製造を再開し(乙3の193頁),昭和32年2月に福岡市天神に新天町店(現在の天神店〔乙130 〕)を開店した(乙1の4頁)。この店舗が,飯塚市から福岡市への進出の第1号店であり,当該店舗において,本件立体商標に係る菓子「ひよ子」は爆発的に売れた(乙3の194~195頁。)

(イ)被告は,昭和34年10月,福岡市渡辺通1丁目に1丁目店を開店し,昭和35年には福岡市西新に西新店を開店し,昭和38年には博多駅にステーション店を開店し,昭和42年4月には福岡交通センター内に交通センター店を開店した。さらに,昭和43年12月,博多ステーションビルにステーションビル2号店を開店し,昭和46年4月,福岡市香椎に香椎店を開店した。さらに,昭和48年4月,福岡県筑紫野市二日市に二日市店を開店し,昭和48年12月,福岡市東区ショッピングセンター香椎アピロス店内において,ユニード香椎店を開店した。また,昭和49年3月,福岡市西区荒江に荒江店を開店し,昭和50年3月,福岡市博多区博多駅内にデイトス店を開店した。昭和51年9月には,福岡市中央区天神地下街に天神地下街店を,福岡市南区のユニード野間アピロス内に野間アピロス店を開店し,昭和51年10月,福岡市西区原本町のダイエー原店内にダイエー原店を開店した。

(ウ)被告は,その後も,直営店の開店を続け,昭和62年当時,直営店70店を有していた(乙75 )。

エ 取引先の状況等

(ア)被告は,九州地方,山口県,広島県におけるキヨスクの196店舗に,本件立体商標にかかる菓子「ひよ子」を卸しており,これら196店のキヨスクにおいて菓子「ひよ子」が販売されている(乙6の①)。そして,全国観光と物産新聞(乙103)によれば,九州キヨスク全店における平成13年4月~6月のみやげ売上ランクでは「ひよ子」饅頭(11個入り1050円)が2位に入っている(乙103 。)

また,平成9年9月9日付け西日本新聞記事(乙89)において,東北・関東地区に約1800店の売店をもつ東日本キヨスクの統計によれば「みやげ菓子ランキング。1989-1995年で,ひよ子が2位に落ちたのは90年度のみ。他は,ひよ子が1位を独占」との記載があり,また,平成11年6月4日付け西日本新聞記事(乙94)において「東日本キヨスク」が「東京駅みやげベスト10 」(5月末現在)をまとめたところ「ひよ子」(2位)」との記載がある。

(イ)上記①のほか,被告は,高速道路のサービスエリア及びパーキングエリアの売店37店(乙6の②),九州内の各空港売店35店(乙6の③),九州,山口県,大阪府の百貨店53店舗(乙6の④),福岡市,北九州市内の小売店91店(乙6の⑤),福岡県以外の地方の小売店56店(乙6の⑥),その他,県市町村(学校給食関係,敬老会関係)等120の取引先に,本件立体商標に係る菓子「ひよ子」饅頭を卸し,販売がされている。

(ウ) 被告の関連会社である株式会社東京ひよ子においても,キヨスク10店,羽田空港関連の20店,量販店(西友7店,ダイエー19店,イトーヨーカ堂5店,東急ストア3店,ジャスコ23店,SATY19店),百貨店(三越8店,東急8店,西武2店,そごう6店,その他主要百貨店50店),高速道路のサービスエリア及びパーキングエリア内の10店,その他,プリンスホテル品川等の卸し先17店に,本件立体商標に係る菓子「ひよ子」饅頭を卸し,販売してもらっている。

オ 広告宣伝等の状況

(ア)被告は,大正元年の菓子「ひよ子」の販売開始(乙1~3,7,22,66,73,76,81,84~85,99,102)後,飯塚市周辺の沿線に「飯塚名物ひよ子」の立看板を張りめぐらし,電話番号を745(ヒヨコ)とした(乙3の191頁)。また被告は,昭和11年,帝国キネマの映画「弥次喜多道中」の飯塚ロケのシーンにおいて,弥次さん,喜多さんが「ひよ子」饅頭を持って「なかなかうまい菓子じゃのう」というシーンを入れてもらった(乙3の191~192頁,乙4の1)

(イ)被告は,昭和32年2月,福岡市天神の新天町店で菓子「ひよ子」の販売を開始し,昭和33年度において,昨年度に引き続いて,テレビ広告等マスコミを最大限に利用して宣伝に努めた(乙5の1~2,116 )。

(ウ)被告の菓子「ひよ子」は,昭和32年3月20日から開かれた長崎市における第14回全国菓子大博覧会において総裁賞を受賞し(乙8,10の1,201の1),同年中に,高松宮家と明治神宮大祭に郷土の代表として献上され,その旨,一般紙において,菓子「ひよ子」の形状の写真付きで報道された(乙10の1~2,15,201の1,2 )

また,被告は,昭和32年~33年頃,同総裁賞を受賞した旨を付記した新聞広告を多数行った(乙9,11~14,16~20 )

(エ)また,被告の菓子「ひよ子」は,昭和33年4月17日に天皇皇后両陛下が九州に巡幸したときに県下土産菓子の代表として天覧銘菓の一つとされ,天皇陛下の買上商品となった(乙21~23 )。被告はその旨を付記した新聞広告を昭和35年頃まで多数行うとともに(乙25~26,28~31 ),一般紙及び業界紙において,その旨の新聞報道もされた(乙22~24 。このうち,昭和33年4月28日付け)の業界紙の新聞報道(乙23)は,本件立体商標の立体的形状の写真入りの記事となっている。

(オ)その後,昭和35,36年頃から昭和42年頃まで,被告は,新聞広告(フクニチ新聞,フクニチスポーツ,朝日新聞,サンケイ新聞,西日本新聞等),折り込みちらし,雑誌類(ヤングレディ,婦人公論,文藝春秋,女性自身,週刊文春,週刊新潮,週刊朝日,主婦と生活等)に広告を行った(乙32~61) 。このうち,本件立体商標の係る 立体的形状を示した広告も多数行われた(乙40,43,47,53,55,61等。)

(カ)さらに被告は,本件立体商標について,昭和42年以降現在に至るまで継続して新聞の全国紙,全国的な雑誌に広告を掲載している上,新聞の全国紙や雑誌にも記事が掲載されている(乙40, 43,47,52~53, 55, 65, 68, 70~74, 76~79, 82~84, 87~93, 95, 98~113, 122, 131~135,212~214 。)

また被告は,平成3年,平成4年及び平成6年において,朝日新聞,読売新聞,日本経済新聞等の全国紙(乙178~179,183,185~186)のほか,東北地方における地方紙(岩手日報,河北新報),甲信越地方における地方紙(新潟日報),中部地方における地方紙(中日新聞),北海道地方における地方紙(北海道新聞)に,本件立体商標に係る立体的形状を表示した広告を多数掲載している(乙174~178,180~181,184,187 。)

また被告は,昭和59年12月25日付け朝日新聞(東京版)朝刊において本件立体商標に係る立体的形状の表示された広告を掲載した(乙172)ほか,雑誌「文藝春秋」の昭和60年4~7月号,9~12月号の各号において,本件立体商標の立体的形状が表示された広告を掲載した(乙173 。さらに被告は,平成6年10月20日付け)産経新聞に,本件立体商標の立体的形状が表示された広告を掲載している(乙188 。)

(キ)また被告は,昭和38年から現在まで,菓子「ひよ子」について多数のテレビCMを行い,九州地方だけでなく,東京都を中心とする関東地方(テレビ朝日),北海道地方(北海道放送等),青森県,岩手県,秋田県,山形県等の東北地方(青森テレビ等),富山県,石川県,福井県等の北陸地方(テレビ金沢等),山梨県,長野県,新潟県等の甲信越地方(長野放送),愛知県,静岡県等の中部地方(中部日本放送)に及んでいる(乙62の1~47,136~146,154~158,189の1~7,190の1~27,191の1~28,192の1~29,193~194,195の1~4,196~199,200の1~27)。また,被告は,昭和40年頃までには,テレビ番組「0戦はやと」等の多くのテレビ番組の提供会社となり(乙56,58),最近においても,多数のテレビ番組を提供し,当該番組で菓子「ひよ子」について多数のテレビCMが放映されたり,番組自体で取り上げられるなどしている(乙66,136~158,239 。)

カ 菓子「ひよ子」の売上高及び広告宣伝費

(ア)被告が福岡市天神に新天町店をオープンした年である昭和31年から昭和32年の菓子「ひよ子」の売上高は,既に1000万円に達している(乙114の2,115)。その後,売上高は急速に増加し,昭和36年度の菓子「ひよ子」の売上高は,1億2900万円に達した(乙114の2 。)

被告の第5期(昭和35年10月1日~昭和36年9月30日)決算報告書の概況報告によると,本件立体商標に係る菓子「ひよ子」の販売個数は,昭和33年~34年の1年間で292万3423個,昭和34年~35年の1年間で550万4367個,昭和35年~36年の1年間で860万2805個に達している(乙114の2 。)

被告の菓子「ひよ子」単独の売上高は,昭和41年には4億5800万円に達し,昭和42年には5億円を突破している(乙114の2 。) また,広告宣伝費も,昭和32年当時,既に100万円に達しており,その後年々増加し,昭和42年度には1億3700万円に達している。

このような,昭和31~41年頃までの菓子「ひよ子」の売上高,広告宣伝費,広告宣伝の態様(新聞雑誌広告,テレビラジオCM),頻度,新聞報道等を勘案すると,少なくとも昭和30年代には,本件立体商標に係る立体的形状の菓子「ひよ子」饅頭が被告の製造販売する菓子であることは,菓子業界はもちろん,一般需要者の間においても広く認識される状況となっていたものである。

(イ)その後,昭和45年には1日の生産量が約50万個,年間売上高が約20億円に達し(乙64,114の1),昭和55年度には,菓子「ひよ子」の売上高は約35億円(乙114の1),昭和56年には約39億円,昭和61年には約41億円に達し(乙3・196頁,乙114の1),平成3年には約58億円に(乙80~82,114の1),平成4,5年のピーク時には60億円に達し(乙2,114の1),その後は平成15年に至るまで,50億円前後を維持してきた(乙233~238) 。登録審決時(平成15年7月24日)の直近年度の菓子「ひよ子」の売上高(純売上)は,被告の九州事業部では,20億1949万5733円(乙235)であり,東京ひよ子では27億7511万4835円(乙238)であり,両者を合計すると,47億9461万0568円となる。

(ウ)菓子「ひよ子」饅頭が爆発的に売れたのは,その売上実績(乙67~68,81,114の1~2等)や,多数の雑誌記事(乙40,70,71,81,84,91,99)を勘案すると「ひよ子」というネーミングとともに,その立体的形状の可愛らしさが大きな要因となっていると推測される。

(エ)被告が菓子「ひよ子」饅頭にかけた広告宣伝費は,昭和62年頃から平成15年まで,年間7億円~8億円程度で推移している(乙114の1 。)

(4) 原告は,本件立体商標にかかる立体的形状自体が,文字商標「ひよ子」から独立して自他商品識別力を獲得していないにもかかわらず,本件審決が自他商品識別力があると認定したのは誤りであると主張するが,以下に照らして失当である。

ア 本件立体商標は,使用されている商標の立体的形状の一部に文字商標「ひよ子」が刻印・刻字等によって付されているわけではなく,被告が使用している本件立体商標に係る立体的形状は,本件立体商標そのものである(乙10の1,2,40,43,62の1,2,70,76,119,123~128 。また被告は,販売店において,本件立体商標の合成樹脂製)大型模型や「ひよ子」饅頭と形状,色彩,大きさが同じ合成樹脂模型を広告のために展示している(乙129~130)が,これらの模型にも「ひよ子」の文字商標が刻印・刻字等によって付されているわけではない。

すなわち被告は,本件立体商標を販売する場合,文字商標「ひよ子」の刻印・刻字等の一切付されていない本件商品を文字商標「ひよ子」を付した包装に包んで販売しており,立体的形状の表面に文字を記載して販売したものではないので,本件商品を購入した需要者には「ひよ子」の刻印・刻字のない立体形状のみから,本件商品の出所は被告であるとの認識が生じるものである。

イ 原告が指摘する広告宣伝においても,本件立体商標それ自体に「ひよ子」の文字商標が付されているわけではなく,本件立体商標そのものを各種広告に表示して宣伝活動を展開してきた(乙183,195の3等。) すなわち「ひよ子」の文字商標は,本件立体商標とは別の場所,別の物件に付されているに過ぎず,本件立体商標の立体的形状それ自体の一部に「ひよ子」の文字商標が付されているわけではない。テレビCMについても,別途音声で「ひよ子」を連呼しているにすぎず,本件立体商標の立体的形状それ自体の一部に「ひよ子」の文字商標が刻印・刻字等によって付されているわけではない(乙62の1~47参照。)

また,広告等に文字商標「ひよ子」が記載され,かかる文字商標「ひよ子」が著名商標である(乙121の1~5)からこそ,本件立体商標の立体的形状と,その立体的形状が「ひよ子」饅頭であるとする認識が需要者等に定着していき,本件立体商標の立体的形状が「ひよ子」饅頭であるとの認識,あるいは,株式会社ひよ子(被告)の製造販売に係る饅頭であるとの認識が醸成されるものである。

原告の主張によれば,本件立体商標のそばに文字商標「ひよ子」が表示されている場合は,たとえ膨大な使用実績を重ねても,本件立体商標と文字商標「ひよ子」との関係性は何ら生じない,ということになり,不合理である。

ウ 菓子の包装材に「ひよ子」なる文字が記載されていたとしても,包装されているひよ子饅頭そのものには文字等は一切記載されていないため,需要者には,包装材の「ひよ子」の文字とともに,文字等の一切記載されていない立体的形状であるひよ子饅頭を見て,その饅頭が「ひよ子」饅頭であり,その立体的形状が「株式会社ひよ子」の製造販売に係る饅頭である,との認識が生じるものである。

(5) 原告は,被告が自己の菓子「ひよ子」饅頭の形状を登録審決時まで使用してきたことは,デザイン的(意匠的)使用態様によるものでしかないから,本件立体商標を出所識別表示として使用してきたとはいえず,法3条2項の適用の前提がないと主張するが,失当である。

被告は,本件立体商標の商品形状それ自体が,被告自身の商品であることを需要者に認識させるために使用してきたものであり,客観的にも商標的使用といえる態様での使用であり,単に装飾的効果を狙ったり,需要者の視覚を通じて美観を生じさせるための使用(意匠法2条1項参照)とはいえない。

(6) 原告は,実際に販売されている被告の菓子「ひよ子」の形状は,本件立体商標のように,頭部をやや左に向けたものばかりではないし,被告の広告宣伝した菓子「ひよ子」の形状も,本件立体商標とは異なるものであると主張する。しかし,原告が提出する甲105の1~2,119の1~2のいずれの画像をみても,本件立体商標と実際の販売・広告宣伝に係る菓子「ひよ子」の平均形状との間においては,底面からの立ち上がりの輪郭形状や,目・嘴の位置に微細な異同が存在するに過ぎず,全体的に考察すると,何ら商標としての同一性は損なわれていないというべきである。

(7) 原告は,本件立体商標は,法4条1項18号の「商品…の形状であって,その商品…の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に該当すると主張するが,以下に照らして,失当である。

ア 原告の,本件立体商標が法4条1項18号に該当する旨の主張は,法56条1項が準用する特許法131条の2第1項の「要旨の変更」に当たり許されない。すなわち,上記「要旨の変更」の判断は,当初の無効審判請求書で記載した,登録商標を無効にする根拠となる事実を実質的に変更するものか否かの観点から判断されるところ,原告による無効理由の追加(法4条1項18号違反)が「要旨の変更」に該当することは明らかである。

イ また,本件立体商標は,法4条1項18号の「商品…の形状であって,その商品…の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に該当しない。

(ア) 本件立体商標の指定商品は「まんじゅう」であるが,「まんじゅう」の「機能」とは何であるかは不明であり,したがって,またその「機能」を確保するためになぜ,本件立体商標の形状とならざるを得ないのかも不明である。

(イ) 原告は,プルミエール自動成形機(乙225~226)を使用すると必然的に同じ形状の菓子が製造されると主張する。しかし,原告が指摘する古河工業株式会社製のプルミエール自動成形機は,菓子成形型(いわゆる金型)の取り替えが自由に選択でき,菓子成形型の製造業者は古河工業株式会社以外にも存在し,また,プルミエール自動成形機の広告自身にも,当該機械で大量生産し得る菓子であって本件立体商標と全く類似しない鳥の形状の饅頭が示されている。これらによれば,本件立体商標の形状が必然的に形成されるとはいえない。

また原告は,レオン自動包餡機についても同様に主張する。しかし,レオン自動包餡機はあくまでも餡を包む作業のみを行う機械であり,饅頭の成形作業を行う機械ではない。

さらに被告は,これらの量産機器が開発される以前の少なくとも昭和30年代から,木型により本件立体商標の立体的形状の饅頭を大量に生産していたものであり(甲47,乙114の2,117),かかる事実に照らすと,上記量産機器による技術的制約をもって法4条1項18号に該当するという理由になるとはいえない。さらに,仮に何らかの技術的制約があるとしても,立体的形状のみの問題に止まるはずであり,饅頭の表皮の材質や色,目・嘴の位置までも本件立体商標に酷似させる技術的制約は見当たらない。

(ウ) 原告は,法4条1項18号の「機能」には「品質」も含めて解釈すべき旨主張するが,商標法自身が「品質」(法3条1項3号)と「機能」(法4条1項18号)と書き分けていることから,文言解釈上無理である。

(エ) 原告は,本件立体商標の指定商品を「鳥の形をしたまんじゅう」であるとして権利範囲を限定解釈した上で,本件立体商標は「鳥の形をしたまんじゅう」の機能確保のための不可欠な立体的形状であると主張する。しかし,指定商品にかかる限定解釈を施す理由はないし「鳥の形をしたまんじゅう」であっても,少なくとも手作りの饅頭であれば,あらゆる形状の「鳥の形をしたまんじゅう」が製造可能であるから,本件立体商標の形状がその機能確保のための不可欠な形状であるとはいえない。

特許庁長官の意見

当裁判所が,商標法63条2項の準用する特許法180条の2第3項に基づき,平成18年5月10日付けで意見を求め,同年7月11日付けで回答を得た特許庁長官の意見の概要は,次のとおりである。

(1) 立体商標制度について

ア 立体商標制度は,平成8年改正商標法において導入された制度である。立体商標の審査・運用に関しては「商標審査便覧」の中の「立体商標の識別力の審査に関する運用」において,需要者が指定商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識するにすぎない形状のみからなる立体商標及び極めて簡単,かつ,ありふれた立体的形状の範囲を超えないと認識される形状のみからなる立体商標であっても,相当長期間にわたる使用,または短期間でも強力な広告,宣伝等による使用の結果,同種の商品等の形状から区別し得る程度に周知となり,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるに至った立体商標は識別力を有するものとする,とされている。本件立体商標については,これに該当すると判断した結果,法3条2項を適用して登録したものである。

また,平成8年改正商標法は,第4条「商標登録を受けることができない商標」の第1項に新たに「第18号」を設け「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するに不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,商標登録を受けることができないこととした。原告は,商標登録無効審判において,本件立体商標が識別力を有しない商標であると主張するとともに,その後,上記4条1項18号にも該当する旨主張したところ,これは,法56条1項で準用する特許法131条の2第1項本文に該当し,請求の理由の要旨を変更するものであるとの理由で却下された。

仮に,上記主張が適法になされたとしても,本件立体商標の形状が「商品の機能を確保するに不可避な形状」であるか否かについては,本件審決でも言及したとおり(審決14頁下12行~下10行),「頭部をやや左前方に向け,小さな嘴と目をもつ」(審決13頁22行)本件立体商標の形状が商品の機能を確保するに不可避な形状であるとは到底いえない。

イ(ア)原告は,商品の立体的形状に商標法による半永久的な保護を与えると,意匠登録を行う動機付けが失われ,意匠法による意匠登録が無意味になると主張する。しかし,商標法は,商標を保護することにより商標を使用する者の業務上の信用の維持等を図ることを目的とし,他方,意匠法は,意匠の保護・利用を図ることにより,意匠の創作を奨励し,産業の発達に寄与することを目的としているから,商標法に基づいて本件立体商標が登録されたからといって,その制度目的を異にする意匠法に基づく意匠登録が無意味となることはない。

(イ)原告は,立体商標制度は,国際化の名の下に,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツでしか採用されていないのに,審査基準の内容を検討する暇もなく導入された,と主張する。しかし,立体商標の登録制度は,例えば,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,カナダ,ベネルクス3国,デンマーク等多くの国で採用されていたものである。

(ウ)原告は,経過措置として導入された継続的使用権(附則2条1項)は「不正目的のないこと」の要件が付され,使用者は立証責任の負担を課せられ,また商標権者から混同防止措置を求められるなどの危険性と制約がある,と主張する。しかし,本附則は,本法施行前に不正の目的でなく,立体商標を使用している者に対し,立体商標の登録出願をしなくても,使用している範囲内で継続して使用する権利を有すると認めたのであって,中小企業等を考慮して設けられたものともいえる。また,不正目的でない使用の立証と混同防止措置がそれほど中小企業等への過度の負担や問題となっているとも思われない。

(2) 本件立体商標への商標法3条2項の適用について

ア 原告は,本件立体商標に法3条2項を適用して商標登録が認められた結果,鳥の形をした菓子を製造するのは被告に限られることとなって,自由競争を不当に阻害すると主張する。しかし,本件立体商標が登録されたからといって,およそ鳥の形をした全ての菓子に権利が及ぶものでないことは明らかであり,あくまでも,本件立体商標と類似する範囲にのみ権利が及ぶものであるから,あたかも鳥の形をした菓子の製造が被告に限られるかのごとき主張は誤りである。

イ 原告は,本件立体商標の使用はデザイン的使用であり商標的使用ではないから,法3条2項の適用の前提がないと主張する。しかし,そもそも商標にはデザイン的要素が含まれることは否定し得ず,デザインか商標かの二者択一的なものではない。本件立体商標が「まんじゅう」のデザイン的な側面をもつ一方,自他商品の識別標識として機能を果たすものであれば,商標の使用ともいえるのであるから,一概に商標の使用でないと断定することはできない。

ウ 原告は,コンピュータ画面を使用して本件立体商標と使用商標の相違を述べ,本件立体商標と一致する使用商標の菓子「ひよ子」は存在しないから,本件立体商標は使用されていないと主張する。しかし,コンピュータ画面による同一性が認められないからといって,同一性が否定されるものでもないとみるのが社会通念に照らして相当である。

エ 原告は,本件立体商標の登録審決時において,既に多数の同一形状の菓子が存在したから,法3条2項の前提となる独占適応性がないと主張する。しかし,本件商標と同様の鳥の形状の菓子(まんじゅう)が存在することは否定し得ないが,本件立体商標と「同一」の形状の「まんじゅう」が多数存在することについてはにわかに認めがたい。また,仮に同様の鳥の形状の「まんじゅう」が存在するとしても,このことが法3条2項の適用を否定する根拠とはなり得ない。同種の商品等の形状が存在している場合であっても,他の同種商品の形状と区別し得る程度に周知となった場合は識別力を有するといえる。

オ 原告は,本件立体商標は,著名文字商標「ひよ子」の自他商品識別性によってしか成立しないと主張する。しかし,たとえ,本件立体商標の使用に当たって,包装箱や包装紙に「ひよ子」の文字が存在したとしても,本件立体商標自体に「ひよ子」の文字が付されているわけではなく,実際に食する場合,包装紙は除かれ,中身のひよこ型のまんじゅうを手にとるのであるから,常に「ひよ子」の文字と一体のものとして把握されるわけではなく,本件立体商標自体も独立して自他商品の識別標識としての機能を具備するに至ったといえる。そして,本件立体商標は,本件審決(審決11頁14行~12頁20行)でも述べているように,被告が大正元年から今日に至るまで盛大に使用した結果,本件立体商標自体,独立して自他商品の識別標識としての機能を具備するに至ったと判断されたからこそ,法3条2項を適用して登録審決を是認したものであって,本件審決の認定判断に誤りはない。

当裁判所の判断

1 請求原因(1)特許庁における手続の経緯,(2)(審決の内容)の各事実は, いずれも当事者間に争いがない。

当事者双方は,本件立体商標が法3条1項3号に該当する旨の本件審決の判断は争わないので,本件訴訟の争点は,本件立体商標が法3条2項の要件を具備するに至ったかどうかである。

〔判決注〕

商標法3条

1項自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる。

…3号その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標。…

2項前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる。

2 法3条2項該当性の有無

(1) 特許庁における手続の経緯の詳細

証拠(甲46~52,55の1~4)及び弁論の全趣旨によれば,本件立体商標に関する特許庁の手続の経緯の詳細は,次のとおりであったことが認められる。

イ 出願

被告は特許庁に対し,立体商標に関する改正商標法の施行当日である平成9年4月1日,特許庁に対し,指定商品を第30類「菓子及びパン」として,本件立体商標の出願をした(商願平09-102128号。甲55の2。)

ロ 拒絶理由通知

上記出願に対し特許庁(審査官D)は,被告に対し,平成10年6月10日付けで拒絶理由通知を発した。その理由は「この商標登録出願に係る商標は,その指定商品との関係よりすれば,指定商品に採用し得る一形状を表したものと認識される立体的形状よりなるものであるから,これをその指定商品について使用しても,単に商品の形状そのものを普通に用いられる方法をもって表示するにすぎないものと認める。したがって,この商標登録出願に係る商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する」というものであった(甲55の3。)

ハ 拒絶査定

特許庁からの上記拒絶理由通知に対し,出願人たる被告は意見書を提出して反論したが,特許庁(審査官E)は,平成11年8月13日付けで拒絶査定をした。その理由は「この商標登録出願は,平成10年6月10日付けで通知した理由によって,拒絶をすべきものと認める。なお,出願人は,意見書において種々述べているが,本願商標は,いわゆる従来の平面商標とは違い,立体商標として出願しているのであって,一方向から見た形状が出願人特有の既登録の平面商標と類似し,かつ指定商品も同一であるからと言って,本願商標が登録されるべきであるとの出願人の主張は,根拠が無いものであって,あくまで,その立体形状が(意匠ではなく)商標として機能しているか否かが問題である。これを本件についてみるに,本願商標は,先の拒絶理由のとおり,あくまで,指定商品に採用し得る一形状にすぎないものであり,商標として機能するものとは認められない。また,出願人は,本願商標は,商標法第3条第2項に該当する旨述べ,その証拠を提出しているが,これを以てしても,本願商標は,未だ商標として機能しているものとは認められない。したがって,先の認定を覆すに足りない」というものであった(甲55の4)

ニ 不服審判請求と登録審決

特許庁の上記拒絶査定に対し出願人たる被告は,不服の審判請求をし,同請求は特許庁において平成11年審判第15134号事件として審理され,その中で出願人たる被告は,平成15年7月7日提出の手続補正書をもって指定商品を第30類「菓子及びパン」から第30類「まんじゅう」に補正した。

そして特許庁(審判官F,G,K)は,平成15年7月24日,原査定を取り消し,本願商標は登録すべきものと判断した(登録審決。甲55の1)が,その理由は,下記のとおりであった。

「本願商標は,後掲に示したとおり,「ひよ子のお菓子」(資料1「会社案内」吉野堂グループ理念の項)の立体的形状よりなるものであるところ,このような形状は,指定商品について,その形状としてしばしば使用され得るものであり,実際にも請求人(出願人)がその指定商品中の和菓子「饅頭」を始めとする商品について使用している(資料1ないし3)ものである。

してみれば,本願商標は,商品の形状のみよりなる商標であるといわざるを得ない。

ところで,請求人の提出に係る資料1ないし3(枝番号を含む)及び別紙6ないし12を徴するに,請求人(出願人)は,大正元年に先々代「I」がひよ子を形どった菓子を考案し,その和菓子を製造販売する事業を引き継ぐ形で昭和34年に設立された和菓子の製造販売を主たる業務とする福岡市に本社を置く株式会社であり,その年間売上高も平成10年頃には全体で110億円に上り(資料1「会社案内」),その中でも本願に係る「ひよ子のお菓子」は,当社の基礎となる主力商品であり,昭和61年当時フルタイム操業で日産50万個に及ぶ生産能力を有し(資料2「ジャンル別九州No.1企業」東洋経済新聞社),販売場所も請求外「株式会社東京ひよ子」を傘下に置き,首都圏で盛大に販売しているほかギフト商品として全国的に販売し(資料1・資料2),雑誌「製菓製パン(製菓実験社」1983年10月臨時増刊号「日本の銘菓」においても「銘菓ひよ子」として本願に係る「ひよ子のお菓子」の記事が掲載されている(別紙6。)

以上の事実を総合すれば,本願商標は,請求人(出願人)が商品「まんじゅう」について,永年盛大に使用した結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに到ったものと認められる。

したがって,本願商標は,商標法第3条第2項を適用し,登録すべきものというを相当とするものであるから,これに反する原査定は,取り消すべきである」

ホ 無効審判請求と本件審決

上記登録審決に基づき本件立体商標は,平成15年8月29日,指定商品第30類「まんじゅう・登録番号第4704439号として設定登録」がなされたが,平成16年9月10日付けで原告から無効審判請求(甲47)がなされ,同請求は特許庁において無効2004-89076号事件として審理されることになった。

同事件において,請求人たる原告及び被請求人たる被告から答弁書・弁駁書・上申書等の提出が繰り返され,その結果特許庁は,既述のとおり,平成17年7月28日,請求不成立の本件審決をなしたものである。

(2) 法3条2項の趣旨と立体商標

法3条2項は,法3条1項3号等のように本来は自他商品の識別性を有しない商標であっても,特定の商品形態が長期間継続的かつ独占的に使用され,宣伝もされてきたような場合には,結果としてその商品形態が商品の出所表示機能を有し周知性を獲得することになるので,いわゆる特別顕著性を取得したものとして,例外的にその登録を認めようとしたものと解される。

そして,この理は,平成9年4月1日から施行された立体商標についてもそのまま当てはまると解されるが,この場合に留意すべきことは,本件事案に即していえば,法3条2項の要件の有無はあくまでも別紙「立体商標を表示した書面」による立体的形状について独立して判断すべきであって,付随して使用された文字商標・称呼等は捨象して判断すべきであること,商標法は日本全国一律に適用されるものであるから,本件立体商標が前記特別顕著性を獲得したか否かは日本全体を基準として判断すべきであること等である。

そこで,以上の見解に立って,本件事案について検討する。

(3) 本件立体商標又はこれに類似した商標の使用状況

ア本件立体商標の形状の詳細は,別紙「立体商標を表示した書面」記載のとおりである。これを観察すると,この商標は,狐色の表面に覆われ,上半分は略円錐状で底部は平面状である略卵形の立体物で,上半分には目と思われる黒色点が2つと口又は嘴と思われる突起物1つが付されていること,文字の記載はなく,これを観察した者は,鳥を含む動物の子供(鶏の子である「ひよ子」も含む)を表現したものとの印象を受けることが認められる。

イ 被告による菓子「ひよ子」の販売等の状況

後掲各証拠によれば,その状況は以下のとおりであったことが認められる。

(ア)販売開始時期

被告においては,先々代のCが福岡県飯塚市で菓子舗を創業し,大正元年12月に2代目のIが「ひよこ」をかたどり,概ね本件立体商標の立体形状を有する菓子を考案し,同飯塚市の菓子舗にて販売を開始した(甲144,152の2,乙1~3,22,64~66,68,70,76,223の1~3,224の1~2,228~232 。)この点,原告は,被告の菓子「ひよ子」の販売開始は大正元年ではなく昭和30年代であるとし,昭和11年以前については,被告自身の陳述のほか客観的証拠がなく,昭和48年8月14日から91回にわたり福岡の地元紙フクニチ新聞に連載された「名産風土記」(甲118の1~3)によれば,被告の現代表者は,ひよ子の誕生を大正10年と説明しており,大正元年と食い違うこと,西日本新聞企画情報センター編「ジャンル別九州No.1企業」(昭和61年6月19日発行〔乙3 〕)に言及される帝国キネマの映画「弥次喜多道中記」の第2作(昭和13年制作,甲144の2頁目,甲152の2)を見ても被告の菓子「ひよ子」は登場していないことを主張する。

しかし,被告自身の陳述であっても,客観的事実等に符合すればその信用性が裏付けられるというべきところ「弥次喜多道中記」の第2作(甲152の2)をみると,盆の上に菓子を積んだシーンが現れ,この菓子の個々の形状を子細に観察すると,この菓子は被告の菓子「ひよ子」であると認められる(乙223の1~3 )。このことは,昭和9年~11年にかけて,被告の2代目代表者のIが,文字商標「ヒヨコ」(昭和9年2月6日出願〔乙229〕),同「ひよ子(昭和11年6月」13日出願〔乙230〕 )の商標登録出願をしたり,大分県知事からひよこ菓子が優等賞を受けたりしており(乙228),昭和10年代において被告が菓子「ひよ子」を販売していたと推認されることからも裏付けられる。また,上記映画の同じ場面において「めっぽううまい,こりゃうまい」という歌詞付き楽曲が挿入されていることは,上記乙3の「昭和11年,帝国キネマの映画「弥次喜多道中」のロケーションが飯塚市であった際には,映画関係者に売り込んで,弥次さん,喜多さんが「ひよ子」を持って「なかなかうまい菓子じゃのお」というシーンをわざわざ入れてもらっている。」という記載と符合し,「大正元年の冬」に被告の菓子「ひよ子」の販売が開始されたとする上記乙3の信用性をも裏付けるものである。これらに鑑みれば,たとえ地元紙フクニチ新聞に連載された「名産風土記」(甲118の1~3)において,被告の現代表者が,ひよ子の誕生を大正10年と説明していたとしても,かかる説明が単独で存在するのみでは,未だ上記乙3の信用性を左右するには至らないというべきである。

(イ)直営店舗の展開状況

被告は,昭和32年2月,飯塚市から福岡市への進出の第1号店として,福岡市天神に新天町店(現在の天神店〔乙130〕)を開店し(乙1の4頁),以後,昭和34年10月,福岡市渡辺通1丁目に1丁目店を開店し,昭和35年には福岡市西新に西新店を開店し,昭和38年には博多駅にステーション店を開店するなど,直営店舗を着々と増加させ,昭和62年当時,直営店70店を有していた。ただし,被告の直営店舗の多くは九州北部及び関東地方に所在している(甲65~66,乙1,3,75,130 。)

(ウ)取引先の状況等

被告は,九州地方,山口県,広島県におけるキヨスクの196店舗に,本件立体商標にかかる菓子「ひよ子」を卸し,これら196店のキヨスクにおいて菓子「ひよ子」が販売されている(乙6の①)。また,全国観光と物産新聞(平成13年10月号(乙103)には,九州キヨスク全店における平成13年4月~6月のみやげ売上ランクで,被告の菓子「ひよ子」(11個入り1050円)が2位として記載され,西日本新聞(平成9年9月9日)(乙89)には,「…東北・関東地区に約1800店の売店をもつ,東日本キヨスクの統計資料を入手「みやげ菓子ランキング。1989-1995年度までで,ひよ子が2位に落ちたのは90年度のみ。他は,ひよ子が1位を独占」との記載があり,同新聞(平成11年6月4日付け(乙94)には「東日本キヨスク」…が,「東京駅みやげベスト10」(5月末現在)をまとめたところ,「ひよ子」(2位)…」との記載がある。また被告は,高速道路のサービスエリア及びパーキングエリアの売店37店(乙6の②),九州内の各空港売店35店(乙6の③),九州,山口県,大阪府の百貨店53店舗(乙6の④),福岡市,北九州市内の小売店91店(乙6の⑤),福岡県以外の地方の小売店56店(乙6の⑥)等の取引先に,菓子「ひよ子」を卸し,販売がされている。さらに,被告の関連会社である株式会社東京ひよ子も,同様に,多数のキヨスク,羽田空港やホテル内の店舗,量販店,百貨店,高速道路のサービスエリア及びパーキングエリア内の店舗等に菓子「ひよ子」を卸し,販売がされている(乙6,89,94,103 。)

(エ)広告宣伝等の状況

① 被告は,昭和32年2月,福岡市天神の新天町店で菓子「ひよ子」の販売を開始し,昭和33年度においても,テレビ広告等マスコミを最大限に利用して宣伝に努めた(乙5の1,2,116 。)

② 被告の菓子「ひよ子」は,昭和32年3月20日から開かれた長崎市における第14回全国菓子大博覧会において総裁賞を受賞して名誉総裁である高松宮殿下に献上され(乙8,10の1,2,15,201の1),昭和32年~33年頃,同総裁賞を受賞した旨を付記した新聞広告も多数なされた(乙9,11~14,16~20 )。また,被告の菓子「ひよ子」は,昭和33年4月17日に天皇皇后両陛下が九州に巡幸したときに県下土産菓子の代表として天覧銘菓の一つとされ,天皇陛下の買上商品となった(乙21~23) 。被告はその旨を付記した新聞広告を昭和35年頃まで多数行うとともに(乙25~26,28~31),一般紙及び業界紙において,その旨の新聞報道もされた(乙22~24 )。その後,高松宮殿下(昭和46年11月21日),常陸宮殿下(平成元年7月27日)が被告方を来訪し,工場見学等を行っている(乙118~119 。)

③ 被告は,菓子「ひよ子」について,昭和35年頃から昭和42年頃まで,福岡市等を中心にフクニチ新聞等の新聞,雑誌の記事・広告等による多数の広告宣伝を行った。そして被告は,昭和41年11月,東京都の八重洲地下街で菓子「ひよ子」の製造販売を営む株式会社東京ひよ子を設立してその頃東京に進出し,以後も引き続き,九州北部,東京等を中心に,新聞・雑誌の記事・広告等による多数の広告宣伝を行った(乙20, 40, 43, 47, 52~53, 55, 61, 65, 68, 70~74, 76~79, 82~84, 87~93, 95~96, 98~113, 122, 131~135, 172~188, 212~214等。)

このうち,被告の菓子「ひよ子」の形状は,九州菓業新聞(昭和33年4月28日付け〔乙20〕),雑誌「ヤングレディ(昭和41)」年11月14日号〔乙40〕),読売新聞(昭和42年4月24日付け〔乙43〕),雑誌「週刊朝日(昭和42年10月13日号,同年」12月1日号〔乙47〕,同月15日号〔乙53〕),サンケイ新聞(昭和42年4月18日付け〔乙55〕),西日本新聞(昭和43年5月1日付け〔乙61〕),フクニチスポーツ(昭和46年4月3日付け〔乙65〕),雑誌「財界九州(昭和57年〔乙68」〕),朝日新聞(昭和59年12月25日付け〔乙172〕),雑誌「文藝春秋」(昭和60年4~7月号,9~12月号〔乙173〕),雑誌「財界」(昭和62年11月24日号〔乙70〕,西日本新聞(昭和62年7月9日付け〔乙73〕,同年8月28日付け〔乙72〕,同年9月17日付け〔乙71〕),読売新聞(昭和62年1月28日付け〔乙74〕),浄土宗新聞(平成3年9月1日付け〔乙76〕),雑誌「シティ情報ふくおか」(平成4年2月14日号〔乙78〕),雑誌「ふくおか経済」(平成3年12月号〔乙82〕),朝日新聞(平成10年11月24日付け〔乙90〕),生産性新聞(平成6年3月16日付け〔乙92〕),産経新聞(平成6年10月20日付け〔乙188〕 )等に掲載されているほか,平成4年及び平成6年において,朝日新聞,読売新聞,日本経済新聞等の全国紙に「日本のおいしいかたち」等のキャッチコピーとともに掲載され(乙178~179,183~186 ),さらに,東北地方における地方紙(岩手日報,河北新報),甲信越地方における地方紙(新潟日報),中部地方における地方紙(中日新聞),北海道地方における地方紙(北海道新聞)にも,「東京だより。」等のキャッチコピーとともに掲載されているところ(乙174~178,180~181,184,187),そのすべてにおいて,その近辺のよく目立つ位置に,「名菓ひよ子」「ひよ子」等の文字が存在している。

④ また被告は,昭和38年から現在まで,菓子「ひよ子」について,九州地方のほか,東京都を中心とする関東地方(テレビ朝日),北海道地方(北海道放送等),青森県,岩手県,秋田県,山形県等の東北地方(青森テレビ等),富山県,石川県,福井県等の北陸地方(テレビ金沢等),山梨県,長野県,新潟県等の甲信越地方(長野放送),愛知県,静岡県等の中部地方(中部日本放送)において,多数のテレビCMを放送したところ(乙62の1~47,136~146,154~158,189の1~7,190の1~27,191の1~28,192の1~29,193~194,195の1~4,196~199,200の1~27),菓子「ひよ子」の形状が写る場合も,CMの中で必ずその画面に「名菓ひよ子」,「ひよ子」の文字も大きく写り(乙62の2~47,189の1~7,195の1~4),それに合わせて「ひよ子」との音声が入っている(乙196~197) 。また被告は,昭和40年頃,テレビ番組「0戦はやと」等の提供会社となり(乙56,58 ),最近においても,多数のテレビ番組を提供し,また,特集として番組自体で取り上げられるなどしている(乙66,136~158,239 。)

(オ)菓子「ひよ子」の販売形態,年間売上高及び広告宣伝費

① 菓子「ひよ子」は,その一つ一つが「ひよ子」と記載された包装紙に包まれ,「ひよ子」と記載された箱に詰められて販売されており(乙129~130 ),また,店頭における展示品も,一箱のうち1,2個の「ひよ子」や合成樹脂模型については上記包装紙に包まれていないものの,そのすぐ近辺を含む展示スペースの各所に多数の「ひよ子」の文字が溢れている状況にある(乙129~130 。)

② 菓子「ひよ子」の年間売上高は,被告が福岡市天神に新天町店をオープンした年である昭和32年度が1000万円(乙114の2,115 ),昭和36年度は1億2900万円,昭和41年度は4億5800万円,昭和42年度は5億0900万円となった(乙114の2)。また,広告宣伝費も,昭和32年度で100万円,昭和37年度で1700万円,昭和42年度で1億3700万円となった(乙114の2 。)

また,その販売個数は,昭和33年~34年の1年間で292万3423個,昭和34年~35年の1年間で550万4367個,昭和35年~36年の1年間で860万2805個に達している(被告の第5期(昭和35年10月1日~昭和36年9月30日)決算報告書の概況報告〔乙114の2〕)。

③ その後,昭和45年度には1日の生産量が約50万個,売上高が約20億円(乙64,114の1),昭和55年度には売上高は約35億円(乙114の1)となり,その後も次第に増加して,ピーク時である平成3年度,平成4年度の頃は約60億円(乙114の1)となり,その後は平成15年に至るまで,50億円前後であった(乙233~238),弁論の全趣旨。なお,登録審決時(平成15年7月24日)の直近年度の菓子「ひよ子」の売上高(純売上)は,被告の九州事業部では,20億1949万5733円(乙235)であり,東京ひよ子では27億7511万4835円(乙238)であり,両者を合計すると,47億9461万0568円であった。

④ 被告が菓子「ひよ子」饅頭にかけた広告宣伝費は,昭和62年度頃から平成15年度まで,年間7億円~8億円程度で推移した(乙114の1 。)

ウ 被告以外の者による鳥形状の焼き菓子の製造販売状況一方,被告以外の業者による鳥形状の焼き菓子の製造販売状況は,後掲各証拠によれば以下のとおりであることが認められる。

(ア)菓子「二鶴の親子(甲9,14)」

① 福岡市所在の原告が昭和35年頃から製造販売する(甲159の3,173,174の1~5,175の1~3,5,176の1~6,178の2,3),下記のとおりの鳥の形状の菓子であり,文字商標「二鶴の親子」(商標登録第1013918号)の商標登録出願日は,昭和41年1月24日である(甲10 。)

② 光紙工株式会社(代表取締役J)が作成した原告に対する包装箱の納入実績表(甲12,26)によれば,少なくとも平成8年度から納入実績があり,平成11年度~平成16年度における納入実績は以下のとおりである。

・平成11年度22万4780個

・平成12年度22万6868個

・平成13年度20万2640個

・平成14年度16万8000個

・平成15年度16万1675個

・平成16年度3万8060個

③ 土産品新聞社発行「みやげ品ニュース」(平成11年6月号,同10月号,同11月号〔甲13 〕)及び同社発行「月刊地域産品ニュース」(平成12年5月号,平成13年5月号,同6月号,同8月号,同9月号,平成14年1月号,同5月号,同6月号,平成16年5月号,同9月号〔甲13 )によれば,高速道路売店における「売れ筋ランキング」として,上位に「博多通りもん」,「辛子明太子」,「ひよ子」等が記載される中で,上記菓子について,以下の旨が記載されている。

・平成11年3月長崎自動車道・金立SA下り(佐賀)4位

・平成11年8月九州自動車道・古賀SA下り(福岡)4位

・平成11年9月九州自動車道・北熊本SA下り(熊本)5位

・平成12年3月九州自動車道・広川SA下り(福岡) 2,6位

・平成13年3月九州自動車道・吉志PA上り(福岡)6位

・平成13年4月中国自動車道・美東SA上り(山口)6位

・平成13年6月九州自動車道・古賀SA下り(福岡)5位

・平成13年7月九州自動車道・北熊本SA上り(熊本)4位

・平成13年11月九州自動車道・緑川PA下り(熊本)4位

・平成14年3月九州自動車道・宮原SA下り(熊本)6位

・平成14年4月九州自動車道・広川SA下り(福岡) 2,4位

・平成16年3月長崎自動車道・金立SA下り(佐賀)10位

・平成16年7月九州自動車道・広川SA下り(福岡) 4,9位

④ 現在も,九州北部の高速道路売店(福岡タワー土産物店,古賀下りSA,広川下りSA,北熊本下りSA,金立下りSA,多久西下りPA,川登下りSA)において,上記菓子と被告の菓子「ひよ子」が同一店舗内で販売されている(甲67の1~8 。)

(イ)菓子「名古屋コーチン」(甲15の1,42の1~3)

① 名古屋市所在の株式会社長登屋が製造販売する下記のとおりの鳥の形状の菓子であり,文字商標「名古屋コーチン」(商標登録第2321682号)の商標登録出願日は,昭和63年9月13日である(甲15の2 。)

② 土産品新聞社発行「月刊地域産品ニュース」(平成12年8月号,平成14年1月号,同3月号,同4月号,同7月号〔甲29 )によれば,高速道路売店における「売れ筋ランキング」として,上位に「ういろう」,「うなぎパイ」,「きしめん」等が記載される中で,上記菓子について,以下の旨が記載されている。

・平成12年6月東名阪自動車道・大山田SA下り(三重)7位

・平成13年11月名神高速道路・伊吹SA下り(滋賀)5位

・平成14年1月名神高速道路・尾張一宮PA上り(愛知)7位

・平成14年2月東名阪自動車道・亀山PA下り(三重)6位

・平成14年5月名神高速道路・菩提寺PA下り(滋賀)5位

(ウ)菓子「かもめの水兵さん」(甲16の1)

上記菓子は,鳥の形状の菓子であるところ,文字商標「かもめの水兵さん」(商標登録第1692505号)の権利者は,東京都荒川区所在の株式会社大藤であり,その商標登録出願日は,昭和56年6月20日である(甲16の2 。)

(エ)菓子「なかよし小鳥」(甲17の1)

① 上記菓子は,鳥の形状の菓子であるところ,文字商標「なかよし小鳥」(商標登録第1401642号)の権利者は,東京都江戸川区所在の株式会社江戸製菓であり,その商標登録出願日は,昭和43年7月26日である(甲17の2 。)

② 土産品新聞社発行「月刊地域産品ニュース」(平成14年5月号

〔甲30〕 )によれば,平成14年3月の常磐自動車道の千代田PA下り(茨城)売店における「売れ筋ランキング」として,上記菓子が6位と記載されている。

(オ)菓子「アルプス雷鳥」(甲18の1)

上記菓子は,鳥の形状の菓子であるところ,文字商標「アルプス雷鳥」(商標登録第3170361号)の権利者は,愛知県豊橋市所在の丸三食品株式会社であり,その商標登録出願日は,平成5年7月29日である(甲18の2 。)

(カ)菓子「浅草ぽっぽ」(甲19の1)

① 上記菓子は,鳥の形状の菓子であるところ,文字商標「浅草ぽっぽ」(商標登録第4250857号)の権利者は,東京都台東区所在の有限会社東月製菓であり,その商標登録出願日は,平成9年5月8日である(甲19の2。)

② 土産品新聞社発行「みやげ品ニュース」(平成10年6月5日号,平成12年2月号,平成13年1月号,同3月号,平成14年4月号〔甲31〕 )によれば,高速道路売店における「売れ筋ランキング」として,上位に「江戸祭人形焼」,「信玄餅」等が記載される中で,上記菓子について,以下の旨が記載されている。

・平成10年3月中央自動車道・境川PA下り(山梨)5位

・平成11年12月中央自動車道・初狩PA下り(山梨)5位

・平成12年11月中央自動車道・藤野PA下り(神奈川)1位

「1位の「浅草ぽっぽ」と2位の「江戸祭人形焼」が年間通して人気がある」。

・平成13年1月中央自動車道・都賀西方PA下り(栃木)5位

・平成14年2月東北自動車道・大谷PA下り(栃木)5位

(キ)菓子「都鳥の詩」(甲27)

① 上記菓子は,丸三食品の,鳥の形状の菓子である(甲27,32)。

② 土産品新聞社発行「みやげ品ニュース(平成10年3月20日号」,平成12年9月号,平成14年8月号〔甲32〕 )によれば,高速道路売店における「売れ筋ランキング」として,上位に「納豆」等が記載される中で,上記菓子について,以下の旨が記載されている。

・平成10年1月常磐自動車道・東海PA下り(茨城)3位

・平成12年7月常磐自動車道・谷田部東PA下り(茨城)1位

・平成14年6月常磐自動車道・谷田部東PA下り(茨城)5位

(ク)菓子「白千鳥」(甲110)

石川県かほく市所在の神保製菓が製造する鳥の形状の菓子である。

(ケ)菓子「平和のハト」(甲111)

福井市所在の株式会社大壁羽山堂が製造する鳥の形状の菓子である。

(コ)菓子「夫婦かもめ」,「ミニ夫婦かもめ」(甲112~113)

岩手県大船渡市所在のさいとう製菓株式会社が製造する鳥の形状の菓子である。

(サ)菓子「ひよ太郎」(甲114)

東京都江東区所在の株式会社東京宝TSKが販売する鳥の形状の菓子である。

(シ)菓子「土佐のジロッ子」(甲115)

高知県高岡郡所在の松鶴堂が販売する鳥の形状の菓子である。

(ス)菓子「琵琶湖ぽっぽ」(甲129)

滋賀県守山市所在のジャパンサービス株式会社が販売する鳥の形状の菓子である。

(セ)菓子「かいつぶりの浮巣」(甲130)

岐阜県養老郡所在の株式会社第一物産K12が販売する鳥の形状の菓子である。

(ソ)菓子「宍道湖嫁ヶ島」(甲131)

松江市所在のしまね寶楽庵株式会社TSKが販売する鳥の形状の菓子である。

(タ)菓子「神戸風見鶏の街」(甲132)

兵庫県豊岡市所在の株式会社鹿野が販売する鳥の形状の菓子である。

(チ)菓子詰め合わせ「姫路銘菓撰」のうち「ひなの巣立ち」(甲133)

兵庫県豊岡市所在の株式会社鹿野K1が販売する鳥の形状の菓子である。

(ツ)菓子「らい鳥っ子」(甲134)

富山県中新川群所在の北海屋菓子舗が製造する鳥の形状の菓子である。

(テ)菓子詰め合わせ「越前の詩」のうち「雷鳥の巣立ち」(甲135)

福井県敦賀市所在のつるが幸栄堂が販売する鳥の形状の菓子である。

(ト)菓子「朱鷺の巣ごもり」(甲136)

新潟市所在の新潟県観光物産株式会社Hが販売する鳥の形状の菓子である。

(ナ)菓子「小鳩豆楽」(甲137)

神奈川県鎌倉市所在の株式会社豊島屋が製造する鳥の形状の菓子である。

(ニ)菓子「都鳥」(甲138)

岐阜市所在の合名会社奈良屋本店が製造する鳥の形状の菓子である。

(ヌ)菓子「ことりの里」(甲169)

埼玉県八潮市所在の株式会社東月菓子舗が製造する鳥の形状の菓子である。

(ネ)菓子「湖の鳥」(甲170の1~2)

大津市所在の大津風月堂が製造販売する鳥の形状の菓子である。

エ被告以外の者による鳥形状の和菓子の製造販売状況

また,被告以外の業者による鳥形状の和菓子の製造販売等の状況は,後掲各証拠によれば以下のとおりであることが認められる。

(ア)和菓子「鶉餅」等

① 虎屋文庫・中山圭子著「和菓子おもしろ百珍」(平成13年4月5日発行〔甲2〕 )には「…そのふっくらとした形状にちなみ「うずら餅」という可愛らしい呼び名もありました。…丸々とした形はうずらそっくり。…残念ながら,今や腹太餅もうずら餅もどこでも見かける菓子ではなくなってしまいました(目やくちばしをつけて,鶉を見立てた「鶉餅」…なら,虎屋でも作っているのですが…。)」(174頁)との記載がある。

② 株式会社虎屋虎屋文庫編「お菓子の国の動物たち“鳥獣戯菓”展(平成8年10月発行〔甲4〕 )には「…鶉餅…は各地で作られ たらしく「東海道中膝栗毛」にも,今村(現在の愛知県安城市)の茶屋で,喜多八が鶉焼(鶉餅を焼いたものか?)をおいしそうにほおばる場面が描かれている。…今では大福の名の方が一般的で,鶉餅(焼)という人はいないだろう。一方,虎屋に伝わる「鶉餅」は目とくちばしをつけ,鳩笛のような形にしたもの。…」(15頁)との記載がある。

③ 鈴木宗康・白石かずこ・江後迪子・山口高志「和菓子の楽しみ方」(新潮社〔甲6〕 )の51頁には,目や嘴がつき,鶉を見立てた,鳥の形状の「鶉餅」の写真(下記のとおり。「秋晴れOCTOBER 虎屋」と付記されている)が掲載されている。

④ 虎屋文庫・中山圭子著「和菓子ものがたり」(平成5年12月25日発行〔甲7〕)には「…和菓子の意匠を「花鳥風月」で表わすと,鳥は鶯,鶉,千鳥,鶴,雁で代表されるでしょう。どの鳥も詩歌や文学と結びつき,…見た目も愛らしく,造型化しやすいことが特徴です。…戦国時代の公卿,山科言継の残した「言継卿記」の天文22(1553)年3月7日の条には,送られた鶉餅1盆について「珍物」と記されています。珍物とは鶉に似た珍しい形を言い表わしているのでしょうか。当時の鶉餅がどのような形かはわかりませんが,虎屋の場合は,慶安4(1651)年の御用記録に鶉餅の名前があり,鶉を模した菓子として伝わっています。ほんの少し尖った嘴と,小さな目が愛らしく,縫いぐるみを見るような意匠です。一方,菓子製法書の「古今名物御前菓子図式」(1761)に見える「鶉餅」は,目や嘴をつけない鶯餅タイプ。丸くふくらんだ形を鶉に見立てたもので,食べごたえがあることから腹太餅の異名もあります。…」(94頁~96頁。なお,平成13年1月1日発行版〔甲92の3〕では,115頁~117頁)との記載がある。

⑤ 株式会社同朋舎出版発行「日本料理秘伝集成/第16巻菓子」(昭和60年5月30日発行〔甲89の1~5〕)には,「虎屋菓子見本帖より」「正徳年間」(株式会社虎屋虎屋文庫作成のパンフレット「虎屋文庫のご案内」〔甲91の1~2〕によれば,株式会社虎屋には,上記菓子見本帖が保存されていることが推認できる)として,「御菓子絵図」に「うずら餅」として,目や嘴がつき,鶉を見立てた,鳥の形状の「鶉餅」の図が記載されており(甲89の2の2),実際の「鶉餅」の写真(甲89の2の2。株式会社小学館発行「四季の和菓子」平成9年11月20日発行〔甲90の4~6〕の45頁の写真も,同じ形状のものである。)と符合し,また,「餅製鶉餅鶉はめでたい鳥として「日次紀事」には「徳川時代正月4日上賀茂神社で釿始の儀に鶉舞を行った」とあり,この鶉を模したお菓子が「鶉餅」である。慶安4年(1651)の「朝覲行幸御菓子覚帳」にも「鶉餅」と見え,餅製で納められている。」(246頁~247頁)との記載がある。

⑥ 株式会社虎屋は,虎屋に伝わる上記形状の菓子「鶉餅」を,平成16年11月1日~15日,店頭で販売している(2004年(平成16年11月「店頭販売生菓子一覧表」〔甲90の1〕)。

⑦ 文・亀井千歩子,写真・宮野正喜「縁起菓子・祝い菓子」(甲3)には「京都・三宅八幡宮ゆかりの菓子。…鳩は【鳩餅】はともち神様のお使いで,餅は鳩を形どったもの。…」(53頁)との記載がある。

(イ)和菓子「徳太楼」の「ひよこ」

東京都台東区浅草所在の徳太楼は,鳥の形状の和菓子を販売している。同菓子は,ホームページ上で「浅草の旨いもの」として,桜餅,豆大福とともに「ひよこ」として紹介されている(下記のとおり。甲8 。)

(ウ)和菓子「うぐいす」(甲139)

松江市所在の「そのや」の,鳥の形状の生菓子(練りきり)である。

(エ)和菓子「うぐいす」(甲140)

東京都中央区所在「寿堂」の,鳥の形状の生菓子(練りきり)である。

(オ)和菓子「うぐいす」(甲141)

金沢市所在「株式会社板屋」の,鳥の形状の生菓子(練りきり)である。

(カ)和菓子「都鳥」(甲151)

松江市所在「有限会社向月庵」の,鳥の形状の生菓子(練りきり)

である。

(4) 当裁判所の判断

当裁判所は,被告の文字商標「ひよ子」は九州地方や関東地方を含む地域の需要者には広く知られていると認めることはできるものの,別紙「立体商標を表示した書面」のとおりの形状を有する本件立体商標それ自体は,未だ全国的な周知性を獲得するまでには至っていないと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。

ア すなわち,被告は,前記のとおり,菓子「ひよ子」を大正元年から販売し,特に昭和32年以降は,各時代を通じて年間売上高,広告宣伝費とも多額であり,新聞・雑誌・テレビCM等を通じて頻繁に広告宣伝を行っており,多数の直営店舗,取引先を有していると認められるが,他方,菓子「ひよ子」は,その一つ一つが「ひよ子」と記載された包装紙に包まれ,「ひよ子」と記載された箱に詰められて販売されており(乙129~130),また,展示品も,一箱のうち1,2個の「ひよ子」や合成樹脂模型については上記包装紙に包まれていないものの,そのすぐ近辺を含む展示スペースの各所に多数の「ひよ子」の文字が溢れ(乙129~130),また,菓子「ひよ子」の形状を掲載した多数の広告宣伝も,平成4年及び平成6年において,朝日新聞,読売新聞,日本経済新聞等の全国紙に「日本のおいしいかたち」等のキャッチコピーとともに掲載されてはいるものの,そのすべてにおいて,その近辺のよく目立つ位置に,「名菓ひよ子」「ひよ子」等の文字が存在し,同形状が写る多数のテレビCMも,CMの中で必ずその画面に「名菓ひよ子」,「ひよ子」の文字も大きく写り(乙62の2~47,189の1~7,195の1~4,196~197),それに合わせて「ひよ子」との音声が入っている(乙196~197 。)

イ 次に,被告以外の鳥の形状の焼き菓子についてみると,東北地方(岩手県),関東地方(東京都,神奈川県,埼玉県,栃木県,茨城県),中部地方(愛知県,岐阜県,新潟県),近畿地方(兵庫県,滋賀県),北陸地方(石川県,福井県,富山県),中国地方(島根県),四国地方(高知県),九州地方(福岡県)というような全国の各地において,23もの業者が,鳥の形状の菓子を製造販売しているのであり,しかも,これらの菓子は,被告の菓子「ひよ子」と,離隔的に観察する際にはその見分けが直ちにはつきにくいほど類似しているものである(甲58~61の各1,2 。)

しかるに,それぞれの菓子は,その商品名の文字商標の商標登録出願日頃から販売されていたと推認でき,しかもそれぞれの菓子が,数年間から数十年間の販売期間を有することが認められる。そして,原告の菓子「二鶴の親子」は,その販売開始時期が昭和40年前後であり,しかも,平成11年度~平成16年度においては10万~20万箱という規模で販売され,平成11年3月~平成16年7月に,九州内の高速道路売店における売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されている。また,菓子「名古屋コーチン」も,同様に,昭和63年頃には販売が開始されていたと推認され,平成12年6月~平成14年5月に,愛知県,三重県,滋賀県内の高速道路売店において,売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されており,また,菓子「なかよし小鳥」も,同様に,昭和43年頃には販売が開始されていたと推認され,平成14年3月に,茨城県内に高速道路売店において売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されており,また,菓子「浅草ぽっぽ」も,同様に,平成9年頃には販売が開始されていたと推認され,平成10年3月~平成14年2月に,神奈川県,栃木県,山梨県内の高速道路売店において,売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されており,さらに,菓子「都鳥の詩」も,平成10年1月~平成14年6月に,茨城県内の高速道路売店において売れ筋の菓子であった旨が雑誌に記載されているというのである。

ウ さらに,被告以外の鳥の形状の和菓子についてみると,菓子の老舗である虎屋が,江戸時代(正徳年間)から,目と嘴をつけ,鳩笛のような形にした,鳥の形状の「鶉餅」を作っており,最近では,平成16年に,同様の形状で販売したこと,他の鳥の形状の和菓子としては,京都の三宅八幡宮ゆかりの菓子「鳩餅」も存在すること,が認められる。これに,前記のように,現在でも鳥の形状の和菓子が各地に存在することを併せ考慮すれば,鳥の形状を有する和菓子は,わが国において伝統的なものということができる。しかるに,本件立体商標に係る鳥の形状は,上記「鶉餅」よりも単純な形状であるから,本件立体商標に係る鳥の形状自体は,伝統的な鳥の形状の和菓子を踏まえた単純な形状の焼き菓子として,ありふれたものとの評価を受けることを免れないものである。

エ 以上のア~ウによれば,被告の直営店舗の多くは九州北部,関東地方等に所在し,必ずしも日本全国にあまねく店舗が存在するものではなく,また,菓子「ひよ子」の販売形態や広告宣伝状況は,需要者が文字商標「ひよ子」に注目するような形態で行われているものであり,さらに,本件立体商標に係る鳥の形状と極めて類似した菓子が日本全国に多数存在し,その形状は和菓子としてありふれたものとの評価を免れないから,上記「ひよ子」の売上高の大きさ,広告宣伝等の頻繁さをもってしても,文字商標「ひよ子」についてはともかく,本件立体商標自体については,いまだ全国的な周知性を獲得するに至っていないものというべきである。

したがって,本件立体商標が使用された結果,登録審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができたと認めることはできず,本件立体商標は,いわゆる「自他商品識別力」(特別顕著性)の獲得がなされていないものとして,法3条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」との要件を満たさないというほかない。

(5) 被告の主張に対する補足的説明

ア 被告は,同種の形状の鳥の菓子が多数存在するという主張それ自体は意味がなく,これらの形状が使用された結果,他者の製造販売する菓子として需要者の間に広く認識されているという事実を主張立証しない限り,本件立体商標の,使用による出所識別力を減殺することはできない旨主張する。

しかし,当裁判所の上記判断は,同種の形状の菓子が多数存在することのみで本件立体商標が自他商品識別力を欠くとしたものではなく,同種の形状の菓子の数,全国への分布度,その販売期間,販売規模等をも考慮して検討したものであり,また,鳥の形状を有する和菓子が伝統的に存在することにも照らし,鳥の形状が菓子として特徴的なものとはいえないこと,被告の菓子「ひよ子」の販売,広告宣伝において,菓子「ひよ子」の形状が単独で用いられているといえるものは見当たらないことをも考慮した上で,かかる状況においては,本件立体商標については全国的な周知性を獲得するに至っていないとしたものである。そして,被告に本件立体商標の使用を独占させることが,特徴的なものといえない形状につき,一定の販売期間,販売規模を有する業者を含め多数の業者のかかる形状の使用を排除する結果を招来することにも鑑みると,公益上望ましいとは言い得ないことは明らかと言わざるを得ない。これらに鑑みると,使用による出所識別力を否定できる場合が,被告のいうような事実の主張立証があった場合に限られると解さなければならない理由はないから,被告の上記主張は採用することができない。

イ 次に被告は,いかに著名な商標が付された商品であっても,酷似する商標の付された模造品とともに置かれた場合に,どれが本物の商品かを認識することはできないはずであり,本件立体商標の類似商品は,すべて本件立体商標にフリーライドしたものである旨主張する。

しかし,当裁判所の上記判断は,それのみを根拠として自他商品識別力を欠くとしたものではなく,同種の形状の菓子の数,全国への分布度,その販売期間,販売規模等をも考慮して検討したものであり,また,鳥の形状を有する和菓子が伝統的に存在することにも照らし,鳥の形状が菓子として特徴的なものとはいえないこと,被告の菓子「ひよ子」の販売,広告宣伝において,菓子「ひよ子」の立体形状のみが単独で用いられているといえるものは見当たらないことをも考慮した上で,かかる状況においては,本件立体商標については全国的な周知性を獲得するに至っていないとしたものである。そして,かかる判断は,同種の形状の菓子の数,全国への分布度,その販売期間,販売規模等に鑑みれば,被告の菓子「ひよ子」を模倣したものかどうかによって左右されるものではない。

以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。

ウ 次に被告は,原告は,昭和44,45年頃,原告の菓子「二鶴の親子」を「ひよ子」と称して販売し(甲53の12,16,乙161~164),被告の菓子「ひよ子」との間で出所の混同を生じさせたことがあるが,これは,本件立体商標が,既に昭和44,45年当時,使用による出所識別力を獲得していたからこそ,その信用力にフリーライドして不当に利益を挙げようとしたものといえる旨主張する。

しかし,昭和44,45年頃の状況がどうであれ,それから約35年を経た登録審決時(平成15年7月24日)において,これほど多数の鳥の形状の菓子を製造販売する業者が全国各地に存在し,その中で「二鶴の親子」,「名古屋コーチン」,「浅草ぽっぽ」のごとく,数十年にわたる歴史がある菓子や,高速道路の売店において売れ筋として紹介されるなどそれ相当の販売規模を有する菓子も存在するに至っており,また,かかる鳥の形状の菓子は,わが国において鳥の形状の和菓子が伝統的に存在することにも照らし,ありふれたものとの評価を受けると考えられる。したがって,これらを踏まえれば,昭和44,45年頃の状況について主張立証することにより,当然に,本件立体商標が,登録審決時である平成15年7月24日の時点において出所識別力を有することを導くことはできるとはいえないから,被告の上記主張は採用することができない。

エ 次に被告は,名古屋地区における,中日新聞,中部日本放送等の媒体における広告宣伝の実績について主張するところ,確かに,証拠(乙178,190の16~27,191の17~28,192の17~29,198,200の17)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成4年3月30日の中日新聞に本件立体商標を表示した広告を掲載したこと,被告は,愛知県,岐阜県,三重県を放送対象地域とする中部日本放送において,平成11年7月17日~8月15日にかけて,被告の菓子「ひよ子」のテレビCMを60本放送し(乙190の27 ,同様に,平成12年12月11日~12月30日),平成13年7月20日~8月15日,平成13年12月11日~12月30日にも各60本ずつ,平成15年7月20日~31日には18本放送したこと(乙191の28,192の29,198,200の17),また,東海地方を除く中部地方においても,被告の菓子「ひよ子」のテレビCMは,新潟テレビ放送網,新潟テレビ21,信越放送,長野放送,北日本放送(富山),チューリップテレビ(富山),テレビ金沢(石川),石川テレビ放送(石川),福井テレビジョン放送,静岡朝日テレビにおいて同様に放送されたこと,がそれぞれ認められる。

しかし,名古屋地区においては,前記のように,一定の販売実績を有する菓子「名古屋コーチン」が存在するところである。しかも,上記中日新聞に掲載された広告は,菓子「ひよ子」の形状のみならず,「名菓ひよ子」の文字も目立つ態様で掲載されており,また,上記テレビCMも,「ひよ子」の文字が画面上に表示され,これに合わせるように,「ひよこ」との音声が入っているものである。そうすると,菓子「ひよ子」がいかに中日新聞,中部日本放送等の媒体において広告宣伝がされた実績を有するとしても,文字商標「ひよ子」の著名性への寄与についてはともかく,上記「名古屋コーチン」も存在する状況において,本件立体商標それ自体にかかる需要者の認識について影響するものではないというべきである。

以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。

オ 次に被告は,本件立体商標の商標登録が認められても,法は,鳥の形状をかたどった菓子は,法3条1項3号の記述的商標に該当するとした上で,記述的商標であっても,企業努力によって出所識別力を獲得した商標は,法3条2項により商標登録を認めているのであるし,さらに,立体商標制度施行前からの立体商標の正当使用は,継続的使用権が付与されることによって保護されているのであるから,和菓子文化の承継と発展の伝統を否定するとはいえない旨主張する。

しかし,当裁判所の前記判断は,本件立体商標の商標登録を認めることは和菓子文化の継承と発展の伝統を否定することになるから許されないと説示したものではなく,わが国において鳥の形状の和菓子が伝統的に存在することにも照らし,本件立体商標もありふれたものとの評価を受けることを理由の一つとしたものにすぎない。また,前記のとおり被告の企業努力が多大なものであったことは認められるものの,被告の直営店舗の多くは九州北部,関東地方等に所在し,必ずしも日本全国にあまねく店舗が存在するものではなく,また,菓子「ひよ子」の販売形態や広告宣伝状況は,需要者が文字商標「ひよ子」に注目するような形態で行われているものであるから,その売上高の大きさ,広告宣伝等の頻繁さをもってしても,文字商標「ひよ子」についてはともかく,本件立体商標自体については,いまだ全国的な周知性を獲得するに至っていないものというべきである。

また,継続的使用権につき,平成8年改正法附則2条1項,2項は,不正競争の目的でなく改正法の施行前から立体商標の使用をしていた者は,継続してそれを使用する場合には,たとえ他人がその立体商標について登録を受けたとしても,施行の際現にその立体商標の使用をしてその商品又は役務に係る業務を行っている範囲内で,その立体商標の使用をする権利(継続的使用権)を有するとし,また,当該商標権者等が継続的使用権を有する者に対し,その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができるとしているのであって,かかる継続的使用権の規定内容に照らせば,継続的使用権を有すると考えられる者であっても,不正競争の目的でないことの立証の負担を負い,施行の際現にその立体商標の使用をしてその商品又は役務に係る業務を行っている範囲内での保護が受けられるに止まり,しかも混同防止表示を付すよう請求されるおそれがあるものである。したがって,附則所定の要件を満たすことを立証できれば,立体商標制度施行前からの正当使用は継続的使用権により保護されることにはなるが,上記に述べたことに照らせば,継続的使用権が認められるためには相当の経済的負担が必要になる側面があることもまた否定できないところである。

カ 次に被告は,鳥の形状の「鶉餅」が江戸時代から製造販売されていたことは証拠上認められず「鶉餅」はそもそも「腹太餅」の別称で「大福」の原型であり,そもそも鳥の形状を有する菓子とは言い難い,また,仮にかかる「鶉餅」が古くから製造販売されていたとしても,本件立体商標とは色彩,立体的形状が異なる,と主張する。

しかし,前記(3)エ(ア)の「和菓子「鶉餅」等」に認定した各事実,その中で特に,株式会社同朋舎出版発行「日本料理秘伝集成/第16巻菓子(昭和60年5月30日発行〔甲89の1~5〕 )に「虎屋菓子見本帖」より「正徳年間」(株式会社虎屋虎屋文庫作成のパンフレット「虎屋文庫のご案内」〔甲91の1~2〕によれば,株式会社虎屋には,上記菓子見本帖が保存されていることが推認できる。)として,「御菓子絵図」に「うずら餅」として,目や嘴がつき,鶉を見立てた,鳥の形状の「鶉餅」の図が記載されており(甲89の2の2),これが実際の「鶉餅」の写真(甲89の2の2。株式会社小学館発行「四季の和菓子」平成9年11月20日発行〔甲90の4~6〕の45頁の写真も,同じ形状のものである)と符合すること,各書籍において,虎屋の「鶉餅」と「腹太餅」の別称である「鶉餅」とは,形状がやや異なるものとして記載されていること,に照らせば,虎屋が,江戸時代から,鳥の形状の「鶉餅」を製造販売していたこと,虎屋の「鶉餅」と「腹太餅」の別称である「鶉餅」とが異なるものであることが優に認定できるところである。また,虎屋の「鶉餅」が本件立体商標と色彩,立体的形状の点で異なるとしても,同様の鳥の形状の菓子であることは否定できないのであり,我が国において鳥の形状の和菓子が伝統的に存在することなどから,本件立体商標もありふれたものと帰結できないほど両者がかけ離れた形状のものとは認めがたい。そもそも,西日本新聞企画情報センター編「ジャンル別九州No.1企業」(昭和61年6月19日発行〔乙3〕)に,「昭和11年,帝国キネマの映画「弥次喜多道中」のロケーションが飯塚市であったさいには,映画関係者に売り込んで,弥次さん,喜多さんが「ひよ子」を持って「なかなかうまい菓子じゃのお」というシーンをわざわざ入れてもらっている」という記載があることと,東海道中膝栗毛に喜多八が鶉餅をおいしそうにほおばる場面があると記載されていることとを比較対照すれば,当時の被告自身,菓子「ひよ子」と「鶉餅」との共通性を意識していたことが窺われる。

キ 次に被告は,法3条2項の,使用による出所識別力の獲得の有無は,使用に係る商標及び商品等,使用開始時期及び使用期間,使用地域,当該商品等の販売数量並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して決せられる(甲43の8頁)ものであり,アンケート調査結果等も,総合考慮の一事情に過ぎない,また,他の同種の形状の商品が存在する場合にむしろ重要なことは,これらの商品が,当該他の者の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたかどうかということである,と主張する。

しかし,被告の上記主張のうち前段部分が一般論としては誤りでないと認められるものの,本件においては,前記(4)エで説示したとおり,本件立体商標の出所識別力を認めることはできない。

ク 次に被告は,一旦周知性を取得した商標の,周知性喪失の有無を判断するに当たっては,商標の使用中止又は使用頻度の激減,販売停止又は販売数量の激減,広告宣伝の中止又は激減等の事情が認定され,または本件立体商標の出所識別力を否定するような類似商標の周知性の獲得がなされてはじめて本件立体商標が出所識別力を喪失したということができる,と主張する。

しかし,当裁判所が前記(4)で判断したとおり,文字商標「ひよ子」についてはともかく,そもそも本件立体商標自体についてはいかなる時期においても出所識別力を獲得したとは認められないから,被告の上記主張は,その前提を欠き,失当である。

ケ 次に被告は,被告以外の業者が原告の菓子「二鶴の親子」等本件立体商標類似の立体的形状を有する饅頭を販売した時点において,本件立体商標は既に「名菓ひよ子」として需要者の間に広く認識されていたものであるから,かかる状況においては,他の業者によって本件立体商標類似の饅頭が製造販売されても,当該類似品が被告の商品であると混同されるか,または当該類似の饅頭は被告の饅頭の「模倣品」であるとの認識が生じるにすぎない,と主張する。

しかし,上記クで述べたとおり,文字商標「ひよ子」についてはともかく,そもそも本件立体商標自体についてはいかなる時期においても出所識別力を獲得したとは認められないから,被告の上記主張は,その前提を欠き,失当である。

コ 次に被告は,本件立体商標は,使用されている商標の立体的形状の一部に文字商標「ひよ子」が刻印・刻字等によって付されているわけではなく,被告が使用している本件立体商標に係る立体的形状は,本件立体商標そのものである,また,販売店において,本件立体商標の合成樹脂製大型模型や「ひよ子」饅頭と形状,色彩,大きさが同じ合成樹脂模型を広告のために展示しているが,これらの模型にも「ひよ子」の文字商標が刻印・刻字等によって付されていない,菓子の包装材に「ひよ子」なる文字が記載されていたとしても,包装されているひよ子饅頭そのものには文字等は一切記載されていないため,需要者には,包装材の「ひよ子」の文字とともに,文字等の一切記載されていない立体的形状であるひよ子饅頭を見て,その饅頭が「ひよ子」饅頭であり,その立体的形状が「株式会社ひよ子」の製造販売に係る饅頭であるとの認識が生じる,と主張する。

しかし,たとえ商品自体には文字が刻印・刻字等されていなくても,前述のとおり,実際の販売態様は,一つ一つの菓子を文字商標「ひよ子」と記載された包装紙で包装して販売しているものであり,展示品も,1セットを構成する多数の菓子のうちの1,2個の菓子のみが包装をとった状態になっているに過ぎず,需要者は,文字商標「ひよ子」に注目して出所識別を行う状態に置かれているといわざるを得ないから,販売店において,本件立体商標の合成樹脂製大型模型や「ひよ子」饅頭と形状,色彩,大きさが同じ合成樹脂模型を広告のために展示していること(乙129~130)をもってしても,これを左右することはできない。

以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。

サ 次に被告は,広告宣伝においても,本件立体商標それ自体に「ひよ子」の文字商標が付されているわけではなく,被告は,本件立体商標そのものを各種広告に表示して宣伝活動を展開してきた,すなわち「ひよ子」の文字商標は,本件立体商標とは別の場所,別の物件に付されているに過ぎず,本件立体商標の立体的形状それ自体の一部に「ひよ子」の文字商標が付されているわけではないし,テレビCMについても,別途音声で「ひよ子」を連呼しているにすぎず,本件立体商標の立体的形状それ自体の一部に「ひよ子」の文字商標が刻印・刻字等によって付されているわけではない,と主張する。

しかし,前述のとおり,被告の行った広告宣伝のすべてにおいて,菓子「ひよ子」の立体形状に接着して文字商標「ひよ子」が存在し,又は「ひよ子」との音声が挿入されていて,需要者が,文字商標「ひよ子」に注目して出所識別を行う状態に置かれているといわざるを得ないものであるから,被告の上記主張は採用することができない。

また被告は,広告等に文字商標「ひよ子」が記載され,かかる文字商標「ひよ子」が著名商標である(乙121の1~5)からこそ,本件立体商標の立体的形状と,その立体的形状が菓子「ひよ子」であるとする認識が需要者等に定着していき,本件立体商標の立体的形状が「ひよ子」であるとの認識,あるいは,株式会社ひよ子(被告)の製造販売に係る饅頭であるとの認識が醸成される,原告の主張によれば,本件立体商標のそばに文字商標「ひよ子」が表示されている場合は,たとえ膨大な使用実績を重ねても,本件立体商標と文字商標「ひよ子」との関係性は何ら生じないということになり,不合理である,と主張する。

しかし,文字商標「ひよ子」が著名商標であったとしても,このことは,需要者を当該文字商標の方に注目させることになるものであり,文字が本来的に識別標識としての機能を営むことに鑑みれば,識別標識としての機能が二次的なものである立体形状について需要者が注目する度合いは極めて低いものとならざるを得ないこととなる。商号と文字商標がともに「ひよ子」として同一である被告が,文字商標「ひよ子」を使用せざるを得ない事情にあることは理解できるものの,これを考慮に入れて検討したとしてもなお,文字商標「ひよ子」とともに商品形状を使用するという形態である限りは,膨大な使用実績を重ねても,本来的に識別標識としての機能を営まない立体形状はその識別力が低いものに止まるとみることは不合理とはいえない。

以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。

シ さらに被告は,福岡商工会議所等による各証明書(乙123~128,167~170)を提出する。しかし,被告が提出する各証明書は,すべて福岡県内の団体等に限られている上,福岡商工会議所の証明書(乙123)は,被告がひよこの造型饅頭を製造・販売していることと,商品名「ひよ子」として当地において広報していることを証明しているにすぎない。また,福岡市菓子協同組合の証明書(乙125)等のその他の証明書(乙124~128,167~170)は,被告自身が予め記載した書面に押印したにすぎないものである。これらの事情に照らせば,これらの各証明書によって当然に本件立体商標にかかる形状につき自他商品識別力を獲得したと認めることはできない。

3 結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件立体商標は商標法3条2項に定める要件を具備するものとした本件審決の判断は誤りである。よって,原告の本訴請求は認容することとして,主文のとおり判決する。

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