知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成17年(行ケ)第10451号 審決取消請求事件


主文

特許庁が訂正2005-39003号事件について,平成17年3月29日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 原告の求めた裁判

主文と同旨の判決。

第2 事案の概要

本件は,特許権者である原告が,訂正審判の請求をしたところ,請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 原告は,発明の名称を「画像形成装置」とする特許(特許番号第3429744号。請求項の数2。以下「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許は,平成4年8月6日に出願した特願平4-209355号の一部を平成12年12月22日に新たな特許出願(特願2000-389649号)とし,平成15年5月16日に設定登録を受けたものである(甲9)。

(2) 本件特許について特許異議の申立てがされ(異議2003-73205号事件として係属),原告は,平成16年7月27日,上記手続において,明細書の訂正を請求したところ,特許庁は,同年8月16日,「訂正を認める。特許第3429744号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定をした(甲7)。

(3) 原告は,平成16年12月27日,上記決定に対する取消訴訟の係属中に,明細書の特許請求の範囲について,請求項1を後記2の(2)記載のとおり訂正し,かつ,請求項2を削除する旨の訂正審判の請求をした(訂正2005-39003号事件として係属)ところ,特許庁は,平成17年3月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月8日,その謄本を原告に送達した。

2 特許請求の範囲の請求項1の記載

(1) 訂正審判請求前のもの

【請求項1】画像形成に用いた画像形成装置を特定するために,少なくとも画像形成装置ごとに割り当てられた情報を含んだ2次元ビットマップ情報を該装置内で発生する手段と,前記2次元ビットマップ情報と入力画像信号とを重畳する重畳手段と,前記重畳手段からの信号に基づき記録媒体上に画像を形成する手段とを有する画像形成装置。

(2) 訂正審判請求書添付の訂正明細書のもの(甲3,下線部分が訂正箇所)

【請求項1】 画像形成に用いた画像形成装置を特定するために,少なくとも画像形成装置ごとに割り当てられた情報を含んだ符号化パターンである2次元ビットマップ情報を該装置内で発生する手段と,選択的に,入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する付加手段と,前記付加手段からの信号に基づき記録媒体上に画像を形成する手段とを有し,前記付加手段は,

a)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する場合,前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し,

b)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加しない場合,前記入力画像信号をそのまま出力する,ことを特徴とする画像形成装置。

3 審決の理由の概要

審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,訂正明細書の特許請求の範囲の記載は明確でないから,特許法36条5項及び6項に規定する要件を満たしておらず,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないので,本件審判の請求は,平成6年改正前特許法126条3項の規定に適合しない,というものである。

(1) 訂正拒絶理由

平成17年2月4日付で通知した訂正拒絶理由の「3.特許法第36条第5項及び6項について」は次のとおりである。

「3.特許法第36条第5項及び6項について

ア 本件訂正後の特許請求の範囲の記載において「符号化パターンの一部を付加した信号」がどのようなものか,請求項1の記載においては「符号化パターン」がどのようなものか具体的に特定されていないため,明確でない。また仮に,「符号化パターン」が発明の詳細な説明に記載されたようにバーコードであるとしても,その「一部」がバーコードのどの部分のことか明確でない。

イ 本件訂正後の特許請求の範囲のa)の記載に関して,仮に「符号化パターンの一部を付加した信号」がどのようなものか明確であるとしても,「入力画像信号」に「符号化パターンの一部を付加した信号」を出力するとはどのようなことか明確でない。信号に別の信号を出力するとはどのような処理を行うことか不明である。「入力画像信号」に符号化パターンの一部を「付加しない信号」を出力することも明確でない。

なお,発明の詳細な説明の段落【0012】及び【0015】には,「【0012】・・・また,CPU40が入力画像信号を紙幣や証券類のものであると判定した場合,信号61は付加情報発生回路58の出力信号59によりセレクタ56はパルス幅変調信号54を選択するかパルス幅変調信号55を選択するかを局所的に切り替えるので,入力画像信号は付加情報発生回路58の出力信号59の情報が付加された状態となる。そこで再生画像においてパルス幅変調特性の変化を解析することにより,再生画像に付与された情報を得ることが可能である。」「【0015】図5はセレクタ56が変調信号54を選択したときの再生画像の変調パターンの例であり,図6はセレクタ56が変調信号55を選択したときの再生画像の変調パターンの例である。したがって図1のCPU40が肯定判定をし,制御信号としてハイレベルの判定信号41を出力した場合,図5のような変調パターンの再生画像の中に,図3のような情報が図6のような変調パターンとして組み込まれることにな-り,この変化を解析することにより,再生画像に付与された図3のような所定の情報を知ることができる。・・・」と記載されていることから,「符号化パターン」が2値の情報であり,「付加した信号」とは2値の情報が1のときで,「付加しない信号」が0のときであり,「入力画像信号」を出力する際に,「符号化パターン」が1であるか0であるかに基づいて,異なる信号を出力するものと解釈することで,上記a)の記載が仮に a)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する場合,前記入力画像信号を,前記符号化パターンの情報に基づいた信号を局所的に切り替えて出力するものとして,前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し,ということを意味するものであるとしても,そのような記載では,発明の詳細な説明に具体的な実施例として記載されたPWM変調の変調特性の切換えによるものに限定されるのか,段落【0016】に「【0016】 また,実施例ではPWM変調の変調特性の切換えに付いて述べたが,多値ディザ法や,濃度階調法を用いた場合でも,閾値パターンの切換やスクリーン角の切換により再生画像への情報付加を行っても良い。」と記載されていることから,本件の原出願の別の分割出願に係る特許3421003号(段落【0016】の記載は本件訂正明細書の記載と同じである。)の請求項1に「かつ前記付加手段は,前記所定の情報に基づいて,入力画像信号の階調処理に変化を持たせることにより,所定の情報を前記入力画像信号に付加すること」と記載されているのと同様のものであるのか,その記載から明らかであるとはいえない。

さらに,普通,画像形成装置は入力画像を多数の画素の集合として形成するものであり,入力画像信号に別の2次元ビットマップ情報を単に合成して付加する場合,2次元ビットマップ情報が例えば,2値のイエローで形成される場合,2次元ビットマップ情報が“1”の場合には入力画像信号の画素の色にさらにイエローが付加され,2次元ビットマップ情報が“0”の場合には入力画像信号の画素の色のままであり,それらが2次元ビットマップ情報の値により,局所的といえる画素ごとに切り替わるので,上記a)の記載は入力画像信号に別の2次元ビットマップ情報を単に合成して付加するものを含むのかどうか明確でない。

いずれにしても,上記a)の記載は,どのような技術的事項を特定するのか明確であるということはできない。

したがって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確ではなく,特許法36条5項及び6項に規定する要件をみたしていないから,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。」

(2) 審決の判断

まず,上記「符号化パターン」が発明の詳細な説明に記載されたようなバーコードである場合について検討する。

バーコードはバーの幅,またはバーの幅及びバーとバーの間隔の幅により情報を表したものであり,バーとバーの間隔の幅により情報を表す形式のものではないとしても,バーの幅を検出するためには,その間隔も検出しなければならず,バーとバーの間隔である地の部分も,バーコードの構成部分であることは明らかである。

そのため,バーコードの一部がバーコードとして検出されるためには,バーの幅だけではなくその間隔である地の部分も構成部分として含まれていなければならないが,そうすると上記a)の処理では,バーコードが表す情報が全部は付加されず,「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が適切に付加されないことになる。

また,発明の詳細な説明には,「【0017】・・・さらに本実施例では,再生画像に付加する情報はシリアルナンバーを数字そのもので付与しているが,バーコードなどの符号化パターンにしてもよい。」と記載されているだけで,その一部がどのような部分であるのか示されていない。 さらに,「符号化パターンである2次元ビットマップ情報」は,2値のパターンの場合であれば,そのパターンは異なるが,本件の図3に示されたビットマップデータと同様の構成部分からなるはずであり,図3において白で表されるビットと黒で表されるビットのような2種類の情報により「2次元ビットマップ情報」が構成されることになる。例えば,上述のバーコードの場合では,バーの部分が黒に,その間隔である地の部分が白に,またはその逆に対応することになる。そのため,実施例として具体的に示されたものでいえば,再生画像の変調パターンを,「2次元ビットマップ情報」が,白で表されるビットのときには図5の変調パターンを,黒で表されるビットのときには図6の変調パターンを(またはその逆を),選択することにより,変調パターンを局所的に切り替えて出力するとまではいえるとしても,「2次元ビットマップ情報」の2種類の情報のどちらであるかに応じて切り替えられている以上,図5の変調パターンと図6の変調パターンのどちらも「2次元ビットマップ情報」が付加されたものであり,「2次元ビットマップ情報」の一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力しているとはいえないし,本件の明細書または図面には,変調パターンによる実施例以外には具体的なものは示されていない。

したがって,請求項1の画像形成装置が「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が適切に付加されないことになるものとは考えられないから,「符号化パターンの一部を付加した信号」がどのようなものか明確でないといわざるをえないので,(1)イについて検討するまでもなく,訂正明細書の特許請求の範囲の記載は明確でない。

なお,請求人は,「本件発明において,符号化パターンの一部分とは,当然,付加手段が画像内において今処理しようとしている個所に符号化パターンの構成部分が存在していればその部分を指すのであって,請求項を読めば当然そう解釈できるところです。」と主張しているが,上述のように,バーコードの場合,バーの部分だけでなくその間隔の地の部分もバーコードの構成部分として必要なものであるし,「2次元ビットマップ情報」が2値の情報であれば,どちらの値の情報も必要なものであるから,「前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって」とすることが,「符号化パターンである2次元ビットマップ情報」のすべての部分を付加することを意図したものであれば,その記載は明確でないといわざるをえない。

さらに請求人は,「ここで本件発明では単純なオア画像を生成するような「合成」をするのではないため「合成」とはいわず,変調パターンを変えるなど,まさに「付加」とでも呼ぶしかない処理を行っています。」とも主張している。しかし,付加が合成を含まないとはいえないし,本件特許第3429744号の異議申立の審理において通知した取消理由で示した特願平3-60248号(特開平4-294682号)の明細書には,普通の合成が付加と記載されている。合成を含まないのであれば,本件の原出願に係る特許第3186850号に「前記所定の情報に基づき前記パターン信号を変化させて変調パターンを切り換える変調切換手段」と,本件の原出願の別の分割出願に係る特許第3421003号に「かつ前記付加手段は,前記所定の情報に基づいて,入力画像信号の階調処理に変化を持たせることにより,所定の情報を前記入力画像信号に付加すること」と記載されているように,普通の合成を含まないことを明らかにするべきところを,平成16年7月27日付の訂正請求により,「前記2次元ビットマップ情報と入力画像信号とを重畳する重畳手段と,前記重畳手段」を「前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する付加手段と,前記付加手段」と訂正することを求めたものであり,本件審判においても「付加」とすることを求めている。したがって,上記「3.特許法第36条第5項及び6項について」のなお以下に示したように,上記a)の記載はどのような技術的事項を特定するのか明確であるということはできない。そもそも,「付加」が普通の合成を含まないということで明確であるとするならば,普通の合成を行うことである「重畳」を,「付加」とするような上記訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものといわざるをえず,独立して特許を受けることができるものであるかどうか判断するまでもなく,平成6年改正前特許法126条2項の規定に適合しないことになる。

そして,上記a)の記載を明確なものとして検討した訂正拒絶理由の4.以下の理由についても妥当なものである。そこで,訂正拒絶理由の「4.特許法第29条の2について」を補足すると,付加については上述のとおりであり,符号化パターンについては以下のとおりである。

請求人は意見書において,「審判長殿が引用されたマグローヒル科学技術用語大辞典によれば,符号とは「情報を表現するための記号と規則の系」とありますが,それに続き,「モールス(Morse)符号,EIAカラー符号」が例示されています。これらの例示からもわかるとおり,符号というのは,もとの情報を別の体系に対応づけるための記号体系です。」と主張しているが,長と短の2種類で仮名等を表すモールス符号が符号であるのであれば,「0」から「9」の10種類のアラビア数字のパターンですべての自然数を表すことができるアラビア数字の体系も符号ということができる。また,数字の体系はアラビア数字だけでなく,漢字やローマ数字の体系もあり,本願発明の画像形成装置や先願の画像処理装置等が,数値情報をアラビア数字のパターンや漢字そのままで記憶や処理をしているわけでないことは明らかであり,2値情報として記憶や処理をして,複写出力するときにアラビア数字のパターン等に変換されるのである。

なお,本件の明細書には発明の詳細な説明には「【0017】・・・さらに本実施例では,再生画像に付加する情報はシリアルナンバーを数字そのもので付与しているが,バーコードなどの符号化パターンにしてもよい。」と記載されているだけであり,バーコードなどの符号化パターンが周知慣用のものであり,それにより格別の効果が得られるともいえないので,バーコードなどの符号化パターンとすることは単なる設計事項といえることでもある。

(3) 審決のむすび

上述のように訂正明細書の特許請求の範囲の記載は明確でないから,特許法36条5項及び6項に規定する要件をみたておらず,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

したがって,本件審判の請求は,平成6年改正前特許法126条3項の規定に適合しない。

第3 当事者の主張の要点

1 原告主張の審決取消事由

審決は,「訂正明細書の特許請求の範囲の記載は明確でない」と判断したが,以下のように,誤りであるから,取り消されるべきである。

(1) 審決は,「バーコードの一部がバーコードとして検出されるためには,バーの幅だけではなくその間隔である地の部分も構成部分として含まれていなければならないが,そうすると上記a)の処理では,バーコードが表す情報が全部は付加されず,「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が適切に付加されないことになる。」と認定判断した。

しかし,「バーコードの一部がバーコードとして検出されるためには,バーの幅だけではなくその間隔である地の部分も構成部分として含まれていなければならない」ものであるとしても,紙にバーコードを印刷する場合には,地の部分などを印刷しなくても,黒の部分を印刷すれば足りるのであって,実際の処理において,入力画像に符号化パターンを入れようとすれば,当然に,その符号化パターンを顕在化させる部分(バーコードでいえば黒の部分)を付加すれば足りる。そして,a)の処理は,まさに,この処理を具体的に記述したに過ぎない。したがって,a)の処理により,「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が付加されるから,審決の認定判断は誤りである。

(2) 審決は,「発明の詳細な説明には,「【0017】・・・さらに本実施例では,再生画像に付加する情報はシリアルナンバーを数字そのもので付与しているが,バーコードなどの符号化パターンにしてもよい。」と記載されているだけで,その一部がどのような部分であるのか示されていない。」と認定判断した。

しかし,上記(1)のとおり,バーコードでいえば,黒の部分を符号化パターンの一部として入力画像信号に付加するものである。処理が領域ごとに進行することは,「局所的に切り替えて出力する」という動作からみても明らかであるし,それ自体は,一般的な技術である上,そのような処理の結果として,a)の処理では,最終的に「前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し,」という処理が完了する。逆に言えば,このような処理を実行するために,「入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力する」のである。

したがって,符号化パターンの一部がどのような部分であるか示されているということができるから,審決の認定判断は誤りである。

(3) 審決は,「「2次元ビットマップ情報」が2値の情報であれば,どちらの値の情報も必要なものであるから,「前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって」とすることが,「符号化パターンである2次元ビットマップ情報」のすべての部分を付加することを意図したものであれば,その記載は明確でないといわざるをえない。」と認定判断した。

しかし,2次元ビットマップ情報は,例えば,「0」と「1」の二次元的な集合体と把握することができるところ,ごく素直に,符号化パターンの一部を「1」とし,それ以外を「0」とすれば,「1」の部分だけ,特殊な処理(実施例では,縞模様を傾ける処理)をして出力し,「0」の部分は,何もせずに入力画像信号をそのまま出力すれば,結果として,符号化パターンが入力画像に付加されることになるのである。このような技術を達成するために,符号化パターンは,「2次元ビットマップ情報」として,生成されるにすぎない。そして,「前記符号化パターンの一部を付加した信号」とは,本件発明の図6の縞模様が斜めになっている領域の信号をいい,「付加しない信号」とは,本件発明の図5の縞模様が斜めになっていない領域の信号をいい,「局所的に切り替えて出力することによって」とは,そうした領域ごとの切替えを行うことにより,符号化パターンが入力画像信号に入ることをいうのであって,当業者であれば,ごく素直にそのように理解することができるのである。

したがって,審決の認定判断は誤りである。

2 被告の反論

以下のように,審決が「訂正明細書の特許請求の範囲の記載は明確でない」と判断したことに誤りはない。

(1) 符号化パターンは,符号化処理によって生成されたパターンであり,「パターン」とは,図柄,模様などを表す一般用語で,白と黒からなる図柄であり,白と黒の領域を有するから,パターンと認識することができるのである。原告は,「符号化パターンの一部」を,白と黒の領域を有する部分を含む一部ではなく,黒の部分全体を意味するものとして主張を展開しているから,原告の主張は,理由がない。

したがって,審決が「上記a)の処理では,バーコードが表す情報が全部は付加されず,「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が適切に付加されないことになる。」と認定判断したことに誤りはない。

(2) 訂正明細書には,「2次元ビットマップ情報」について,所定情報,所定の情報,付加情報,付加する情報又は固有の情報と表現され,画像形成装置ごとの固有の情報であるとして,画像形成装置の設置場所,管理者,シリアルナンバー,日付又は地域コードが例示されているが,「符号化パターン」については,バーコードなどであることが明記されているほかに説明がなく,「符号化パターンの一部」がどのような部分であるのか,何の説明もない。

したがって,審決は,「発明の詳細な説明には,「【0017】・・・バーコードなどの符号化パターンにしてもよい。」と記載されているだけで,その一部がどのような部分であるのか示されていない。」と認定判断したことに誤りはない。

(3) 原告は「前記符号化パターンの一部を付加した信号」とは,本件発明の図6の縞模様が斜めになっている領域の信号をいい,「付加しない信号」とは,本件発明の図5の縞模様が斜めになっていない領域の信号をいうと主張するが,当業者が素直にそのように理解することができるとはいえないし,画像形成装置を特定するための情報としての意義も理解することはできない。そして,上記(2)のとおり,「符号化パターンの一部」を素直に解釈しても,どの部分を一部として特定しているのか明らかでなく,また,原告は,「符号化パターンの一部」を黒の部分全体を意味するものとして主張を展開するところ,これは,一般に用いられている語を独自の解釈で使用するものであって,当業者の経験を無視し,採証法則に反するものである。

特許請求の範囲には,「一部」とあえて記載されており,審決も,この「一部」との記載があることにより,「「符号化パターンである2次元ビットマップ情報」のすべての部分を付加することを意図したものであれば,その記載は明確でないといわざるをえない。」と認定判断しているのであるから,審決に誤りはない。

当裁判所の判断

1 訂正明細書(甲3)には,次の記載がある。

「図2はパルス幅変調回路34のブロック図である。・・・セレクタ56は信号61がローレベルのときにパルス幅変調信号54を選択し,信号61がハイレベルのときにパルス幅変調信号55を選択する。付加情報発生回路58は再生画像に付与する情報を信号59として発生する。付加情報発生回路58についての詳細は後述する。アンドゲート60はCPUの出力ポートの判定信号41がローレベルのときは信号61をローレベルに固定し,出力ポートの判定信号41がハイレベルのときは信号59を信号61としてそのまま出力する。」(段落【0011】)

「この構成により,CPU40が入力画像信号を紙幣や証券類のものであると判定しない場合,信号61はローレベルに固定されセレクタ56はパルス幅変調信号54を常時選択するので通常の画像が再生される。また,CPU40が入力画像信号を紙幣や証券類のものであると判定した場合,信号61は付加情報発生回路58の出力信号59によりセレクタ56はパルス幅変調信号54を選択するかパルス幅変調信号55を選択するかを局所的に切り替えるので,入力画像信号は付加情報発生回路58の出力信号59の情報が付加された状態となる。そこで再生画像においてパルス幅変調特性の変化を解析することにより,再生画像に付与された情報を得ることが可能である。」(段落【0012】)

「図3は付加情報発生回路58の発生する信号の例である。付加情報発生回路58は図3のようなビットマップデータを繰り返し読みだすことにより再生画像全面に図3の付加情報をパルス幅変調特性の変化として付加することができる。たとえば図3の矩形1ますはN(整数)画素に相当するようにする。また,付加する情報はたとえば画像形成装置のシリアルナンバーとすることにより,再生画像からその画像を再生した画像形成装置を特定することができる。付加する情報としては日付や地域コードなどとしても良い。」(段落【0013】)

「・・・さらに本実施例では,再生画像に付加する情報はシリアルナンバーを数字そのもので付与しているが,バーコードなどの符号化パターンにしてもよい。」(段落【0017】)

2 請求項1には,「画像形成に用いた画像形成装置を特定するために,少なくとも画像形成装置ごとに割り当てられた情報を含んだ符号化パターンである2次元ビットマップ情報を該装置内で発生する手段と,選択的に,入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する付加手段と,・・・」との記載があるところ,上記の訂正明細書の記載によれば,「付加情報発生回路58は図3のようなビットマップデータを繰り返し読みだすことにより再生画像全面に図3の付加情報をパルス幅変調特性の変化として付加することができ」,「たとえば図3の矩形1ますはN(整数)画素に相当するようにする」というのであるから,本件発明の「2次元ビットマップ情報」は,「符号化パターン」に対応した画素データであると理解することができる。

そして,訂正明細書には,付加情報発生回路58が,ビットマップデータ(上記のとおり,本件発明の「2次元ビットマップ情報」である。)により,ハイレベル又はローレベルを局所的に切り替えて,再生画像に付与する情報である信号59を出力することが開示されているところ,本件発明は,「前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力する」というものであり,また,上記のとおり,「2次元ビットマップ情報」は,「符号化パターン」に対応した画素データであるから,「2次元ビットマップ情報」の個々の画素が「符号化パターンの一部」に対応するものであることは明らかである。

そうすると,本件発明の「前記付加手段は,a)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する場合,前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し」という処理は,最終的に,「符号化パターン」に対応する「2次元ビットマップ情報」のすべての部分を付加するものであるが,局所的にみれば,処理時点での付加手段の処理対象となる「2次元ビットマップ情報」の個々の画素について,「符号化パターンの一部」に該当するか否か(すなわち,黒画素であるか否か)により,「符号化パターン」(の一部であるという情報)を,「入力画像信号」に付加するものであるということができる。

したがって,「符号化パターン」がバーコードである場合においては,上記a)の処理により,最終的に,バーコードが表す情報の全部が付加され,「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が付加される。そして,「符号化パターンの一部」は,「2次元ビットマップ情報」の黒画素であるということができるから,審決が,「上記a)の処理では,バーコードが表す情報が全部は付加されず,「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が適切に付加されないことになる。」,「発明の詳細な説明には,「【0017】・・・さらに本実施例では,再生画像に付加する情報はシリアルナンバーを数字そのもので付与しているが,バーコードなどの符号化パターンにしてもよい。」と記載されているだけで,その一部がどのような部分であるのか示されていない。」として,「訂正明細書の特許請求の範囲の記載は明確でない」と判断したのは誤りであり,また,「「前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって」とすることが,「符号化パターンである2次元ビットマップ情報」のすべての部分を付加することを意図したものであれば,その記載は明確でないといわざるをえない。」と判断したのも誤りである。

3 被告の主張について

(1) 被告は,符号化パターンは,符号化処理によって生成されたパターンであり,「パターン」とは,図柄,模様などを表す一般用語で,白と黒からなる図柄であり,白と黒の領域を有するからパターンと認識することができるから,「符号化パターンの一部」を,白と黒の領域を有する部分を含む一部ではなく,黒の部分全体を意味するものとすることは理由がないと主張する。

しかし,上記2のとおり,本件発明の「2次元ビットマップ情報」は,「符号化パターン」に対応した画素データであり,「符号化パターンの一部」は,「2次元ビットマップ情報」の黒画素であるということができるのである。被告の上記主張は,採用することができない。

(2) また,被告は,訂正明細書には,「2次元ビットマップ情報」について,所定情報,所定の情報,付加情報,付加する情報又は固有の情報と表現され,画像形成装置ごとの固有の情報であるとして,画像形成装置の設置場所,管理者,シリアルナンバー,日付又は地域コードが例示されているが,「符号化パターン」については,バーコードなどであることが明記されているほかに説明がなく,「符号化パターンの一部」がどのような部分であるのか何の説明もないと主張する。

確かに,「符号化パターン」について,訂正明細書には,バーコードなどであることのほかに格別の記載はない。しかし,上記1の訂正明細書の記載によれば,被告が主張する「所定情報,所定の情報,付加情報,付加する情報又は固有の情報と表現され,画像形成装置ごとの固有の情報であるとして,画像形成装置の設置場所,管理者,シリアルナンバー,日付又は地域コードが例示されている」ものは,「2次元ビットマップ情報」ではなく,「画像形成に用いた画像形成装置を特定するために,少なくとも画像形成装置ごとに割り当てられた情報を含んだ」ものであって,バーコードなどの「符号化パターン」は,その一つに相当するものである。そして,上記2のとおり,本件発明の「2次元ビットマップ情報」は,「符号化パターン」に対応した画素データであり,「符号化パターンの一部」は,「2次元ビットマップ情報」の黒画素であるから,訂正明細書には,「符号化パターンの一部」がどのような部分であるのかについての説明があるということができる。被告の上記主張は,採用の限りでない。

(3) さらに,被告は,「前記符号化パターンの一部を付加した信号」と「付加しない信号」について,当業者が素直に原告の主張するように理解することができるとはいえないし,画像形成装置を特定するための情報としての意義も理解することはできない,「符号化パターンの一部」を素直に解釈しても,どの部分を一部として特定しているのかは明らかでなく,また,「符号化パターンの一部」を黒の部分全体を意味するものとすることは,一般に用いられている語を独自の解釈で使用するものであって,当業者の経験を無視し,採証法則に反する,などと主張するが,これらの被告の主張を採用することができないのは,上記2に判示したところから明らかである。

4 したがって,審決の判断には誤りがありこれが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告の審決取消事由は,理由がある。そして,以上に判示したところによれば,訂正明細書の特許請求の範囲の記載は明確であって,審判において原告に通知し,審決が支持した上記第2の3(1)の訂正拒絶理由の「3.特許法第36条第5項及び6項について」は理由がないといわなければならないから,再開される審判においては,上記訂正拒絶理由の「4.特許法第29条の2について」,「5.特許法第29条第1項及び第2項について」についての判断がされるべきである。

結論

以上のとおりであって,原告の審決取消事由は理由があるから,審決は取り消されるべきである。

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