知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成17年(行ケ)第10316号 特許取消決定取消請求事件


主文

特許庁が異議2003-72297号事件について,平成16年6月23日にした決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 原告の求めた裁判

主文と同旨の判決。

第2 事案の概要

本件は,特許を取り消した決定の取消しを求める事件である。

1 手続の経緯(1) 原告は,発明の名称を「自動車用窓ガラスおよびその製造方法」とする特許第3386447号(請求項の数2。平成12年10月11日出願(優先権主張,平成12年3月24日),平成15年1月10日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。

(2) 本件特許について,特許異議の申立てがされ(異議2003-72297号事件として係属),特許庁は,平成16年6月23日,「特許第3386447号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年7月12日,その謄本を原告に送達した。

2 発明の要旨

【請求項1】 自動車用窓ガラスと,前記自動車用窓ガラスを挿入して挟持する溝部を有するとともにポリブチレンテレフタレート樹脂もしくはポリエチレンテレフタレート樹脂のナチュラルグレードまたは当該ポリブチレンテレフタレート樹脂もしくはポリエチレンテレフタレート樹脂のナチュラルグレードにガラス繊維を含有する樹脂素材からなるガラスホルダーと,前記ガラスホルダーの溝部の自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの間に形成され,シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤層とを有する自動車用窓ガラス。

【請求項2】 自動車用窓ガラスと,当該自動車用窓ガラスを挟持する溝部を有すると共にポリブチレンテレフタレート樹脂もしくはポリエチレンテレフタレート樹脂のナチュラルグレードまたは当該ポリブチレンテレフタレート樹脂もしくはポリエチレンテレフタレート樹脂のナチュラルグレードにガラス繊維を含有する樹脂素材で成形されたガラスホルダーとを,シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤で接着する自動車用窓ガラスの製造方法。

3 決定の理由の要旨

決定の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである,というものである。

(1) 引用刊行物とその記載事項

平成16年2月26日付けで通知した特許取消理由において引用した刊行物とその記載事項は,次のとおりである。

刊行物1:登録実用新案第3036497号公報(異議甲1,本訴甲3)

刊行物2:特開平5-25456号公報(異議甲2,本訴甲4)

刊行物3:特開平10-114813号公報(異議甲3,本訴甲5)

(1-1) 刊行物1(登録実用新案第3036497号公報)の記載事項 刊行物1には,「自動車用窓硝子ホルダー」に関して,図1と共に次の事項が記載されている。

ア 「【0003】【考案が解決しようとする課題】

従来の,自動車の窓硝子を保持する硝子ホルダーは,硝子繊維25パーセント含有するポリアセタール樹脂を用いて製造したものであるから,硝子ホルダーと1液タイプのシリコン系接着剤との結合の手を補助する効果を狙い,接着の事前にプライマーという液状の前処理剤を窓硝子挿入用の溝の内壁全面に塗布処理しなければならないことから製造コストが高くなり,接着効果にむらがあるといった欠点があった。そこで,この欠点を除いてコストを下げ,更に,接着効果の高い自動車用窓硝子ホルダーを得ることが課題となっていた。」

イ 「【0004】【課題を解決するための手段】

この考案の自動車用窓硝子ホルダーは,自動車用窓硝子1を挿入して保持する溝2を有する硝子ホルダー3は,硝子繊維約30パーセント含有するポリプチレンテレフタレート樹脂を用いて製造するようにした。そして,この硝子繊維約30パーセント含有するポリプチレンテレフタレート樹脂を用いて製造した硝子ホルダー3の溝2に,1液タイプのシリコン系接着剤4を塗布し,この1液タイプのシリコン系接着剤4を介して硝子ホルダー3と前記自動車用窓硝子1とを接合する構造にしたものである。」

ウ 「【考案の効果】【0010】……従来,接着の事前にプライマーという液状の前処理剤を窓硝子挿入用の溝の内壁全面に塗布処理するといった工程を省略することが出来た。」上記記載事項イにおける「ポリプチレンテレフタレート樹脂」は「ポリブチレンテレフタレート樹脂」の明らかな誤記と認められるので,上記記載事項ア~ウ及び図1の記載を総合すると,刊行物1には,「自動車用窓硝子1と,前記自動車用窓硝子1を挿入して挟持する溝2を有するとともに硝子繊維約30パーセント含有するポリブチレンテレフタレート樹脂からなる硝子ホルダー3と,前記硝子ホルダー3の溝2の自動車用窓硝子1と硝子ホルダー3との間に形成され,1液タイプのシリコン系接着剤4の層とを有する自動車用窓硝子」の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。(1-2) 刊行物2(特開平5-25456号公報)の記載事項 刊行物2には,「接着剤」に関して,次の事項が記載されている。 エ 「【請求項1】 芳香族骨格を有するポリエステルジオール(a)と脂肪族骨格を有するポリエステルジオール(b)とジイソシアネート(c)とからなる末端が活性水素原子の線状ポリウレタン樹脂(A)と,硬化剤(B)とからなる接着剤。」

オ 「【0021】本発明にかかるポリウレタン樹脂(A)はそのままでも接着剤として使用できる……」

カ 「0026】本発明の上記ポリウレタン樹脂接着剤1及び2には,必要に応じて……カップリング剤,……を添加して用いてもよい。……カップリング剤としては,例えばシランカップリング剤,……が挙げられる。」

キ 「【0027】本発明における接着剤の対象基材は特に制限されないが,例えばポリ塩化ビニル,ポリウレタン樹脂,アクリル樹脂,ABS樹脂,ナイロン,PET,PBT,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,等のプラスチック,メラミン樹脂,フェノール樹脂等の熱硬化型樹脂,また,鋼板,アルミニウム,ステンレス,銅,等の金属,更に,ガラス等の無機物などに応用できる。」

上記記載事項エ~キを総合すると,刊行物2には,

「シランカップリング剤を含有する1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤がPET(ポリエチレンテレフタレート),PBT(ポリブチレンテレフタレート),ガラスに利用できること」が記載されていると認められる。(1-3) 刊行物3(特開平10-114813号公報)の記載事項刊行物3には,「一液型ウレタン樹脂組成物」に関して,次の事項が記載されている。

ク 「【請求項1】(1)末端にイソシアネート基を有するウレタンポリマー,(2)アミノシラン化合物またはメルカプトシラン化合物と有機ポリイソシアネートとの付加物,(3)エポキシシラン化合物,並びに場合により(4)添加剤よりなる接着性を付与した一液型ウレタン樹脂組成物。」

ケ 「【0034】【発明の効果】本発明により得られた一液型ウレタン樹脂組成物は金属,ガラス,……に対して優れた接着性を有するため,耐久性の優れた接着剤,……を製造することができる。……」上記記載事項ク~ケを総合すると,刊行物3には,「シランカップリング剤を含有する一液型ウレタン樹脂組成物には,金属やガラス等に対しても優れた接着性を有するものがあること」が記載されていると認められる。

(2) 対比・判断

(2-1) 請求項1に係る発明について

本件特許の請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「自動車用窓硝子1」,「溝2」,「硝子ホルダー3」は,それぞれ,本件特許の請求項1に係る発明の「自動車用窓ガラス」,「溝部」,「ガラスホルダー」に相当する。

また,刊行物1記載の発明の「硝子繊維約30パーセント含有するポリブチレンテレフタレート樹脂」は,本願発明の「ポリブチレンテレフタレート樹脂のナチュラルグレードにガラス繊維を含有する樹脂素材」に相当する。

更に,刊行物1記載の発明の「1液タイプのシリコン系接着剤4の層」も本願発明の「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤層」も,ガラスホルダーの溝部の自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの間に形成される「接着剤層」である点では同じである。

よって,本件特許の請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明とは,「自動車用窓ガラスと,前記自動車用窓ガラスを挿入して挟持する溝部を有するとともにポリブチレンテレフタレート樹脂のナチュラルグレードにガラス繊維を含有する樹脂素材からなるガラスホルダーと,前記ガラスホルダーの溝部の自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの間に形成される接着剤層とを有する自動車用窓ガラス」である点で一致し,次の点で相違している。

《相違点》

ガラスホルダーの溝部の自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの間に形成される「接着剤層」が,本件特許の請求項1に係る発明では,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤層」であるのに対して,刊行物1記載の発明では,「1液タイプのシリコン系接着剤4の層」である点。

そこで上記相違点について以下で検討する。

上記のとおり刊行物2には,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤がPET(ポリエチレンテレフタレート),PBT(ポリブチレンテレフタレート),ガラスに利用できること」が記載されていると認められ,また,刊行物3には,「シランカップリング剤を含有する一液型ウレタン樹脂組成物には,ガラスに対しても優れた接着性を有するものがあること」が記載されていると認められる。

なお,刊行物2の記載事項キには,接着剤の対象基材として,PET,PBT,ガラス以外にも,「ポリ塩化ビニル,ポリウレタン樹脂,アクリル樹脂,ABS樹脂,ナイロン,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,等のプラスチック,メラミン樹脂,フェノール樹脂等の熱硬化型樹脂,鋼板,アルミニウム,ステンレス,銅,等の金属」などが例示されているが,これら例示された全ての対象基材に対して,シランカップリング剤を含有する1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤が同じ接着力を有するとは考え難いことであり,上記接着力の優劣は,剪断強度等に関する実験を行うことにより,当業者であれば容易に確認できる事項であるといえる。

そうすると,刊行物2及び3に上記各事項が記載されている以上,刊行物1記載の発明の「1液タイプのシリコン系接着剤4」に替えて,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤」を採用することが,当業者にとって格別困難な事項であるとはいえない。

また,本件特許の請求項1に係る発明が奏する作用効果は,特許権者が主張する「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤が,プラスチックの中でも特にPBTとPETに対して優れた接着性を有する」という作用効果も含めて,刊行物1ないし3に記載のものから予測される程度以上のものでもない。よって,本件特許の請求項1に係る発明は,刊行物1ないし3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-2) 請求項2に係る発明について

本件特許の請求項2に係る発明は,請求項1に係る発明が「自動車用窓ガラス」に関するものであるのに対して,その発明特定事項を「自動車用窓ガラスの製造方法」に関するものにしたものであって,請求項1に係る発明と実質的な差異はないので,上記「(2-1) 請求項1に係る発明について」で説示したのと同様な理由により,刊行物1ないし3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3) 決定のむすび

以上のとおりであるから,本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。

第3 当事者の主張の要点

1 原告主張の決定取消事由

(1) 取消事由1(相違点についての判断の誤り)

決定は,「刊行物2には,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤がPET(ポリエチレンテレフタレート),PBT(ポリブチレンテレフタレート),ガラスに利用できること」が記載されていると認められ,また,刊行物3には,「シランカップリング剤を含有する一液型ウレタン樹脂組成物には,ガラスに対しても優れた接着性を有するものがあること」が記載されていると認められる。」と認定した上,「刊行物1記載の発明の「1液タイプのシリコン系接着剤4」に替えて,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤」を採用することが,当業者にとって格別困難な事項であるとはいえない。」と判断したが,誤りである。

ア 1液タイプのポリウレタン接着剤と2液タイプのポリウレタン接着剤とは,硬化メカニズムが相違し,硬化後の化学的組成も相違するので,接着対象基材や用途,接着強度などの接着特性が基本的に相違する。そうであるから,刊行物2(甲4)の段落【0021】に「本発明にかかるポリウレタン樹脂(A)はそのままでも接着剤として使用できる……」との記載があるとしても,この記載のみをもって,1液タイプのポリウレタン接着剤にシランカップリング剤を添加して用いることができるとか,接着対象基材としてPET,PBT,ガラスに用いることができると判断することはできない。したがって,刊行物2に,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤がPET,PBT,ガラスに利用できること」が記載されているということはできず,刊行物3(甲5)に,「シランカップリング剤を含有する1液型ウレタン樹脂組成物にはガラスに対しても優れた接着性を有するものがある」ことが記載されているとしても,もう一方の接着対象基材であるPET,PBTに対して優れた接着性を有することが記載されていない以上,刊行物1記載の発明の「1液タイプのシリコン系接着剤4」に替えて,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤」を採用することは,当業者にとって困難である。

イ 刊行物2の段落【0027】には,接着剤の対象基材として多数の材料が記載されているが,段落【0001】ないし【0004】,【0044】ないし【0054】に,ポリ塩化ビニルと鋼板との接着剤として有効であることのみが記載されていることからみると,刊行物2に記載の接着剤がポリ塩化ビニルと鋼板以外の材料に適しているかどうかは疑わしいから,刊行物1記載の発明の1液タイプのシリコン系接着剤に替えて,刊行物2に記載のウレタン接着剤を採用する動機付けがない。

また,刊行物2の段落【0033】には,「耐熱接着性を必要としない用途には硬化剤無しで用いることもできる。」との記載があり,この記載によれば,耐熱接着性を必要とする用途には1液タイプで用いることはできないと考えるのが妥当である。そして,自動車用窓ガラスは,自動車用ドアのインナパネルとアウタパネルとの間に装着され,80℃で300時間程度の耐熱接着性が必要とされるから,このような耐熱接着性を必要とする自動車用窓ガラスにおいて,刊行物1記載の発明の1液タイプのシリコン系接着剤に替えて,シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤を採用することには格別な技術的障害があるといえる。

したがって,刊行物2に,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤がPET,PBT,ガラスに利用できること」が記載されているとしても,刊行物1記載の発明の「1液タイプのシリコン系接着剤4」に替えて,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤」を採用することは,当業者にとって困難である。

(2) 取消事由2(顕著な作用効果の看過)

決定は,「本件特許の請求項1に係る発明が奏する作用効果は,特許権者が主張する「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤が,プラスチックの中でも特にPBTとPETに対して優れた接着性を有する」という作用効果も含めて,刊行物1ないし3に記載のものから予測される程度以上のものでもない。」と判断したが,誤りである。

本件特許の請求項1に係る発明のPBT又はPET製の自動車用窓ガラスホルダーは,原告が実施した引張強度試験,曲げ強度試験,振動試験,熱サイクル試験,ナット抜け力試験,ナット保持力試験,クリープ試験及び複合腐食試験の結果から明らかなように,刊行物2の段落【0027】に列挙された「ポリ塩化ビニル,ポリウレタン樹脂,アクリル樹脂,ABS樹脂,ナイロン,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,等のプラスチック,メラミン樹脂,フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂」に比べて,自動車用ガラスホルダーとして要求される厳しい品質をバランスよく満足するものである。

したがって,本件特許の請求項1に係る発明が奏する作用効果は,刊行物1ないし3に記載のものから予測できない顕著なものである。

2 被告の反論

(1) 取消事由1(相違点についての判断の誤り)に対して

ア 刊行物3の段落【0004】ないし【0006】には,シランカップリング剤を含有する一液型ウレタン樹脂組成物が記載されているから,一液型ウレタン樹脂組成物にシランカップリング剤を添加できることは明らかである(例えば,特開平2-279784号公報(乙1)にみられるように,シランカップリング剤の一種であるイソシアネートアルコキシシランを含有するウレタン系接着剤組成物が,ウレタン系接着剤として,一液型でも二液型でも使用することができるということは周知である。)。また,対象基材と接着剤との接着のメカニズムは,硬化剤添加の有無(1液タイプか2液タイプか)を問わないから,刊行物2の段落【0027】における,ポリウレタン樹脂(A)にシランカップリング剤を添加したものがPET,PBT,ガラス等に適用できる旨の記載は,ポリウレタン樹脂(A)をそのままで(1液タイプの接着剤として)使用する場合にもあてはまる。

したがって,シランカップリング剤を含有する1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤がPET,PBT,ガラスに利用できることは,刊行物2に記載されているに等しい事項である。

イ 上記アのとおり,刊行物2の段落【0027】には,ポリウレタン樹脂

(A)にシランカップリング剤を添加したものがPET,PBT,ガラス等に適用できる旨の記載があり,この記載は,ポリウレタン樹脂(A)をそのままで(1液タイプの接着剤として)使用する場合にもあてはまるから,刊行物1記載の発明の1液タイプのシリコン系接着剤に替えて,刊行物2に記載のウレタン接着剤を採用する動機付けとなる。

また,刊行物2の段落【0044】及び【0045】,【0054】に記載された温度のうちの最低のものが120℃であることからみると,刊行物2の段落【0033】にいう「耐熱接着性」は概略120℃以上の熱に耐えるものであると解されるから,80℃で300時間程度の耐熱接着性が必要とされる自動車用窓ガラスは,刊行物2にいう「耐熱接着性を必要としない用途」とみることが可能であり,そうであれば,刊行物2に記載のポリウレタン接着剤を1液タイプとして用いることに格別の支障はないといえる。そして,自動車用窓ガラスが刊行物2にいう「耐熱接着性を必要としない用途」とみることができないとしても,刊行物2の段落【0033】には,「……要求性能に応じて硬化剤は使用しても,しなくても良い」と記載されているから,刊行物2は,耐熱接着性を必要とする用途に硬化剤なしで用いることを絶対的に禁止するというものではなく,本件特許の出願時における技術水準からみても,例えば,特開平9-286836号公報(乙2),特開平9-67422号公報(乙3)及び特開平9-302220号公報(乙4)にみられるように,耐熱接着性を必要とする用途に1液タイプのウレタン接着剤を用いることは技術常識であるから,刊行物2の段落【0033】の「耐熱接着性を必要としない用途には硬化剤無しで用いることもできる。」との記載は,シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤を採用することについての格別な技術的障害にならない。

(2) 取消事由2(顕著な作用効果の看過)に対して

本件異議の決定においては,接着剤についての置換容易性を判断しているのであるから,引張強度試験等の結果は,発明の容易想到性の判断に格別影響を及ぼすものではない。また,上記試験結果に意味があるとしても,刊行物1には,「硝子繊維約30パーセント含有するポリブチレンテレフタレート樹脂からなる硝子ホルダー3」が記載されており,しかも,上記試験は,当業者にとって特段想到し難いものではなく,通常行われているから,原告が主張する作用効果は,当業者にとって予測し難いものではない。さらに,原告が主張する作用効果は,上記試験に用いた特定種類の「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤」による特有の効果であって,不特定の「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤」にとどまる本件特許の請求項1に係る発明の効果ではなく,明細書にも何ら記載されていないから,原告の主張は,失当というほかない。

当裁判所の判断

1 刊行物2の認定の誤りについて

(1) まず,接着剤の組成について,検討する。

ア 刊行物2(甲4)には,「本発明の接着剤は、次の2種類に大別できる。

1.芳香族骨格を有するポリエステルジオール(a)と脂肪族骨格を有するポリエステルジオール(b)とジイソシアネート(c)からなる末端が活性水素原子の線状ポリウレタン樹脂(A)と、硬化剤(B)とからなる接着剤(以下接着剤1という。)。2.芳香族骨格を有するポリエステルジオール(a)とジイソシアネート(c)からなる末端が活性水素原子の線状ポリウレタン樹脂(C)と脂肪族骨格を有するポリエステルジオール(b)とジイソシアネート(c)からなる末端が活性水素原子の線状ポリウレタン樹脂(D)と、硬化剤(B)とからなる接着剤(以下接着剤2という。)。」(段落【0006】,【0007】),「本発明の上記ポリウレタン樹脂接着剤1及び2には,必要に応じて……カップリング剤……等の添加剤を添加して用いてもよい。……カップリング剤としては,例えばシランカップリング剤……が挙げられる。」(段落【0026】)と記載され,また,段落【0044】ないし【0046】,【0049】及び表4によれば,実施例7として,ポリウレタン樹脂PU-4の100重量部,硬化剤ISONATE143Lの7重量部,KBE-903(信越化学工業株式会社製シランカップリング剤)の0.5重量部を混合することにより得た接着剤が記載されている。

なお,刊行物2には,シランカップリング剤の作用や添加目的は明記されていないが,技術常識に照らすと,シランカップリング剤は接着剤の接着性を向上させるために添加するものであると認められる(このことは,刊行物3(甲5)に「ポリウレタン樹脂組成物に接着力を付与するため使用されるシランカップリング剤として,アミノシラン化合物が優れた接着力を示す……」(段落【0004】)と記載され,特開平2-279748号(乙1)に「従来より接着性を上げるために,接着剤に各種シランカップリング剤……が添加されている」(2頁上左欄2ないし6行)と記載されていることから明らかである。)。また,刊行物2の実施例7は,ポリ塩化ビニルフィルムをラミネートした被覆鋼板について2時間煮沸後にエリクセン試験を行ったときの外観評価が,ポリウレタン樹脂PU-4の100重量部,硬化剤ISONATE143Lの7重量部を混合することにより得た実施例4と比較して優れており(表3,表4),シランカップリング剤を添加したことにより接着性が向上していることが認められる。

イ そして,刊行物2には,「本発明における接着剤は,耐熱接着性を必要としない用途には,硬化剤無しで用いることもできる。」(段落【0033】)と記載されている。「本発明における接着剤」には,上記アの記載によれば,接着剤1及び2のほか,シランカップリング剤を添加した接着剤1及び2も含まれるところ,「硬化剤無し」,すなわち,硬化剤を省いた接着剤は,1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤に相当するから,刊行物2には,「シランカップリング剤を添加した本発明における接着剤1及び2は,耐熱接着性を必要としない用途には,硬化剤無しで用いることもできる。」ことが記載されているということができる。

しかも,接着剤1及び2について,接着性を向上させるためにシランカップリング剤を添加することと,耐熱接着性を必要としない用途であるとして硬化剤を省くこととは,別個独立に検討することができるし,シランカップリング剤を添加する場合に硬化剤を省くことができないとするような特別の事情があることは認められない。

ウ そうであれば,刊行物2には,接着剤1又は2にシランカップリング剤を添加し,かつ,硬化剤を省いた1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤が記載されているということができる。

(2) 次に,接着剤の対象基材についてみるのに,刊行物2には,「本発明における接着剤の対象基材は特に制限されないが,例えばポリ塩化ビニル,ポリウレタン樹脂,アクリル樹脂,ABS樹脂,ナイロン,PET,PBT,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,等のプラスチック,メラミン樹脂,フェノール樹脂等の熱硬化型樹脂,また,鋼板,アルミニウム,ステンレス,銅,等の金属,更に,ガラス等の無機物などに応用できる。」(段落【0027】)と記載されている。

(3) 以上によれば,刊行物2には,接着剤1又は2にシランカップリング剤を添加し,かつ,硬化剤を省いた1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤がPET,PBT,ガラスに利用できることが記載されているということができる。

したがって,決定が「刊行物2には,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤がPET(ポリエチレンテレフタレート),PBT(ポリブチレンテレフタレート),ガラスに利用できること」が記載されていると認められ」ると認定したことに誤りはない。

2 容易想到性判断の誤りについて

(1) まず,刊行物1記載の発明の1液タイプのシリコン系接着剤に替えて,刊行物2に記載のウレタン接着剤を採用することの動機付けがあるかどうかについて,検討する。

ア 刊行物2について

(ア) 刊行物2には,次の記載がある。

a 「【産業上の利用分野】本発明は接着剤に関し,更に詳しくはポリ塩化ビニルと鋼板とのラミネート接着に特に適した接着剤に関する。」(段落【0001】)

b 「本発明の接着剤は公知慣用の各種用途にそのまま使用できるが,ポリ塩化ビニルと鋼板の接着,中でも特にロール積層法でポリ塩化ビニル被覆鋼板を製造するのに適している。」(段落【0029】)

c 「本発明における接着剤は,耐熱性に優れることを活かして,磁性塗料用バインダー等の塗料用に,また,自動車内装材として用いられるポリ塩化ビニルとフォームのラミネート用接着剤や,更に,これらの基材をABSやウッドファイバーボード等の芯材に真空接着成形するときの接着剤,等に応用が可能である。」(段落【0032】)

d 「また本発明における接着剤は,耐熱接着性を必要としない用途には,硬化剤無しで用いることもできる。更に,本接着剤に使用されるポリウレタン樹脂は,無溶剤下で合成することもでき,優れたホットメルト接着剤として使用できる。この場合,要求性能に応じて硬化剤は使用しても,しなくても良い。」(段落【0033】)

e 具体例として,実施例1ないし12,比較例1ないし3の合計15種の接着剤が示され,これらの接着剤を用いて軟質ポリ塩化ビニルフィルムをラミネートした被覆鋼板について,エリクセン試験器にて7mm押し出し,「1.常態エリクセン試験を行った後の外観。2.エリクセン押し出し後,135℃で15分加熱したときの外観。3.2時間煮沸後,エリクセン試験を行ったときの外観。」(段落【0045】)の3点の外観評価を行ったことが記載されている。(段落【0034】ないし【0053】)

f 「【発明の効果】本発明のポリウレタン樹脂系接着剤は,……従来,180℃以上という高温で行われていた例えばポリ塩化ビニルフィルムと鋼板のラミネートが120~130℃という低温で可能になり,例えばポリ塩化ビニル被覆鋼板として必要な耐熱接着性,耐煮沸接着性を得ることが出来る。しかも低温で使用できることと相まってポリ塩化ビニルフィルム表面の劣化の問題が解決され,表面意匠を多様化させることが出来るようになり,製造ラインのスピードを上げることができ生産性を向上でき,さらにエネルギーの節約もできるという波及効果がある。」(段落【0054】)

(イ) 上記1(3)に判示したように,刊行物2には,接着剤1又は2にシランカップリング剤を添加し,かつ,硬化剤を省いた1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤がPET,PBT,ガラスに利用できることが記載されているということができるのではあるが,上記(ア)の記載からは,PET,PBT又はガラスが使われている具体的な用途物品が明らかでなく,また,接着した際の具体的な接着強度,耐熱性,耐久性も明らかでないから,刊行物2には,刊行物2に係る発明の接着剤あるいは硬化剤を省いた接着剤を自動車用窓ガラスとPET又はPBTからなるガラスホルダーとの接着に用いることが示唆されているとはいえず,また,これが自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの接着に十分な性能を有することが示唆されているともいえない。しかも,シランカップリング剤を添加することにより接着性が向上することが見込めるとしても,硬化剤を省いた接着剤(すなわち1液タイプのもの)は,「耐熱接着性を必要としない用途」(段落【0033】)向けとされているから,刊行物2に係る発明の接着剤1又は2にシランカップリング剤を添加し,かつ,硬化剤を省いた(1液タイプの)接着剤が,屋外に置かれるなど,高温になることが予想される自動車の部品に用いるのに十分な性能を有することが示唆されているとは,到底いえない。

イ 刊行物3について

(ア) 刊行物3には,次の記載がある。

a 「(1)末端にイソシアネート基を有するウレタンポリマー,(2)アミノシラン化合物またはメルカプトシラン化合物と有機ポリイソシアネートとの付加物,(3)エポキシシラン化合物,並びに場合により(4)添加剤よりなる接着性を付与した一液型ウレタン樹脂組成物。」(特許請求の範囲)

b 「【産業上の利用分野】本発明は,ポリウレタン樹脂組成物の接着性を向上せしめ,とくに金属(アルミ,銅)及びガラスに対する接着力を付与したポリウレタン樹脂組成物に関する。」(段落【0001】)

c 具体例として,実施例1ないし4,比較例1ないし3の合計7種の一液型ウレタン樹脂組成物が示され,これらの一液型ウレタン樹脂組成物を用いて被着体としてアルミニウム板を使用し,JIS A-5758に準拠した接着性試験と,貯蔵安定性の試験を行ったことが記載されている。(段落【0024】ないし【0033】)

d 「【発明の効果】本発明により得られた一液型ウレタン樹脂組成物は金属,ガラス,モルタルなどに対して優れた接着性を有するため,耐久性の優れた接着剤,シーリング材,塗料などを製造することができる。また本発明の組成物は貯蔵安定性が良好であり,貯蔵中に変質を起こさないため土木建築用資材として実用性が高い。」(段落【0034】)

(イ) 上記(ア)aの「アミノシラン化合物またはメルカプトシラン化合物と有機ポリイソシアネートとの付加物」,「エポキシシラン化合物」は,「シランカップリング剤」に相当するから,上記(ア)の記載によれば,刊行物3には,「シランカップリング剤を含有する一液型ウレタン樹脂組成物には,ガラスに対しても優れた接着性を有するものがあること」が記載されているということができるが,PET,PBTの接着に利用することができるかどうかは明らかでなく,また,接着した際の具体的な接着強度,耐熱性,耐久性も明らかでないから,刊行物3には,刊行物3に係る発明の一液型ウレタン樹脂組成物を,自動車用窓ガラスとPET又はPBTからなるガラスホルダーとの接着に用いることが示唆されているとはいえず,また,これが自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの接着に十分な性能を有することが示唆されているともいえない。

ウ 刊行物1について

(ア) 刊行物1には,以下の記載がある。

a 「自動車用窓硝子1を保持する溝2を有する硝子ホルダー3は硝子繊維約30パーセント含有するポリブチレンテレフタレート樹脂(「ポリプチレンテレフタレート樹脂」とあるのは「ポリブチレンテレフタレート樹脂」の誤記と認める。以下同じ。)を用いて製造したものであり,この硝子繊維約30パーセント含有するポリブチレンテレフタレート樹脂を用いて製造した硝子ホルダー3の溝2に1液タイプのシリコン系接着剤4を塗布し,この1液タイプのシリコン系接着剤4を介して硝子ホルダー3と前記自動車用窓硝子1とを接合する構造の自動車用窓硝子ホルダー。」(実用新案登録請求の範囲)

b 「従来の自動車の窓硝子を保持する硝子ホルダーは,硝子繊維25パーセント含有するポリアセタール樹脂を用いて製造していたが,この考案では硝子繊維約30パーセント含有するポリブチレンテレフタレート樹脂を用いて製造するようにしたものであり,その結果,従来,接着の事前にプライマーという液状の前処理剤を窓硝子挿入用の溝の内壁全面に塗布処理するといった工程を省略することが出来た。」(【0010】)

c 「従来は,自動車の窓硝子と硝子ホルダーとの間に,1液タイプのシリコン系接着剤と,プライマーという液状の前処理剤と,の二つのものを重ねてあるから接着効果に均一性を欠く欠点があった。この考案では,自動車の窓硝子と硝子ホルダーとの間に,1液タイプのシリコン系接着剤一つのものがあるだけであるから接着効果は均一であり,信頼できる接着効果を得ることが出来た。」(【0012】)

(イ) 上記(ア)の記載によれば,刊行物1に係る発明は,自動車の窓硝子(自動車用窓ガラスに相当)と硝子ホルダー(ガラスホルダーに相当)を1液タイプのシリコン系接着剤で接着することを前提に,硝子ホルダーの材質を,硝子繊維を25パーセント含有するポリアセタール樹脂から硝子繊維を30パーセント含有するポリブチレンテレフタレート樹脂に変更することにより,プライマーの塗布処理工程を省略することができるようにしたものであると認められる。そして,刊行物1には,1液タイプのシリコン系接着剤を使用することについて,何らかの問題点や課題があることをうかがわせるような記載はなく,むしろ,刊行物1は,1液タイプのシリコン系接着剤の使用を前提としているから,刊行物1には,1液タイプのシリコン系接着剤を他のものに変更しようとする動機付けとなるものがない。

エ そうすると,刊行物1には,自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの接着に用いる1液タイプのシリコン系接着剤について,これを他のものに変更しようとする動機付けとなるものがなく,また,刊行物2には,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのポリウレタン樹脂接着剤」を自動車用窓ガラスとPET又はPBTからなるガラスホルダーとの接着に用いることやこれが自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの接着に十分な性能を有することが示唆されているとはいえず,刊行物3にも,これらの点が示唆されているとはいえないから,刊行物1ないし3のいずれにおいても,刊行物1記載の発明の1液タイプのシリコン系接着剤に替えて,刊行物2又は3に記載のウレタン接着剤を採用する動機付けとなるものはないといわなければならない。

(2) 次に,刊行物1記載の発明の1液タイプのシリコン系接着剤に替えて,シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤を採用することに技術的障害があるかどうかについて,検討する。

ア 刊行物2には,「本発明における接着剤は、耐熱性に優れることを活かして、磁性塗料用バインダー等の塗料用に、また、自動車内装材として用いられるポリ塩化ビニルとフォームのラミネート用接着剤や、更に、これらの基材をABSやウッドファイバーボード等の芯材に真空接着成形するときの接着剤、等に応用が可能である。」(段落【0032】)と記載されている。ここにいう「自動車用内装材」は,ダッシュボードや計器パネルなど,日射を受けるものを指すと考えられるから,自動車用ドアのインナパネルとアウタパネルとの間に装着され,直接の日射を受けない自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの接着部は「自動車用内装材」に該当しないが,ドア自体が日射を受けるものであって,自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの接着部も,かなりの高温になることが予想される。

イ そうすると,自動車用窓ガラスとガラスホルダーとの接着部に用いられる接着剤は,「耐熱性を必要とする用途」であると考えるのが自然であるから,刊行物2に記載の接着剤を自動車用窓ガラスとガラスホルダーの接着に用いるとしても,当業者は,まず,実施例に記載されているような硬化剤を含む接着剤を選択するものと考えられる。そうであれば,刊行物1記載の発明の1液タイプのシリコン系接着剤に替えて,シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤を採用することに格別の技術的障害があるということができる。

ウ 被告は,刊行物2は,耐熱接着性を必要とする用途に硬化剤なしで用いることを絶対的に禁止するというものではなく,本件特許の出願時における技術水準からみても,例えば,特開平9-286836号公報(乙2),特開平9-67422号公報(乙3)及び特開平9-302220号公報(乙4)にみられるように,耐熱接着性を必要とする用途に1液タイプのウレタン接着剤を用いることは技術常識であるから,刊行物2の段落【0033】の「耐熱接着性を必要としない用途には硬化剤無しで用いることもできる。」との記載は,シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤を採用することについての格別な技術的障害にならないと主張する。

しかし,接着剤を構成する樹脂の耐熱性は,樹脂の化学構造に依存し,ウレタン樹脂といってもその耐熱性は様々であるから,どのような1液タイプのウレタン接着剤であっても耐熱性を必要とする用途に用いることができるとはいえないのであって,被告が援用する乙2ないし4があるとしても,耐熱接着性を必要とする用途に1液タイプのウレタン接着剤を用いることが技術常識であるとまでは認めることができない。したがって,刊行物2の段落【0033】の「耐熱接着性を必要としない用途には硬化剤無しで用いることもできる。」との記載は,シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤を採用することについて,格別な技術的障害になるものといわざるを得ない。

(3) 以上のように,刊行物1記載の発明の1液タイプのシリコン系接着剤に替えて,刊行物2又は3に記載のウレタン接着剤を採用することについては,動機付けとなるものはなく,また,格別の技術的障害があるから,そのいずれの見地によっても,刊行物1記載の発明の「1液タイプのシリコン系接着剤4」に替えて,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤」を採用することは,当業者にとって困難であるといわなければならない。

3 そうであれば,決定が「刊行物1記載の発明の「1液タイプのシリコン系接着剤4」に替えて,「シランカップリング剤を含有する1液タイプのウレタン接着剤」を採用することが,当業者にとって格別困難な事項であるとはいえない。」と判断したことは,誤りであり,したがって,原告主張の決定取消事由1は理由がある。

結論

以上のとおりであって,原告主張の決定取消事由1は理由があり,かつ,この誤りは決定の結論に影響を及ぼすものと認められるから,その余の決定取消事由について判断するまでもなく,決定は取り消されるべきである。

閉じる