知財高裁による審決取消訴訟の判決をピックアップして掲載しています 

平成17年(行ケ)第10088号 審決取消(特許)請求事件


主文

1 特許庁が不服2001-9726号事件について平成16年3月30日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

本件は,後記本願発明の出願人である原告が,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が審判請求不成立の審決をしたため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。

第3 当事者の主張

1 請求原因

(1) 特許庁における手続の経緯

ア 本件出願及び出願人

訴外エンドソニックス・コーポレーション(以下「前出願人」という。)は,名称を「超音波カテーテル」とする発明につき,1994年(平成6年)1月14日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年(平成7年)2月1日,アメリカ合衆国)とする特許出願(平成6年特許願第518040号,以下「本件出願」という。)をした。

なお,その後,前出願人は,2000年(平成12年)12月1日,「ジョメド・インコーポレーテッド」へ名称を変更した(甲4)。

イ 出願公表

本件出願については,平成7年6月29日,特表平7-505820号として国内公表がなされた(甲21)。

ウ 拒絶理由通知

特許庁は,平成12年5月9日(発送日),本件出願について拒絶理由通知を行った(甲7。以下「本件拒絶理由通知」という。)。

エ 第1次補正

前出願人は,平成12年11月9日付けで意見書を提出するとともに(甲8),同日付けの手続補正書により,本件出願に係る特許請求の範囲について請求項を追加する補正を行った(甲20。以下「第1次補正」という。)。

オ 拒絶査定

特許庁は,平成13年3月1日付けで本件出願について拒絶査定をした(甲6。以下「本件拒絶査定」という。)

カ 審判請求

前出願人は,平成13年6月11日付けで拒絶査定不服審判の請求を行い,不服2001-9726号事件として特許庁に係属した(以下「本件審判手続」という。)。

キ 第2次補正

前出願人は,平成13年7月11日付けで手続補正書を提出し,本件出願に係る特許請求の範囲について補正を行った(甲2。以下「第2次補正」という。)。

ク 権利譲渡

前出願人は,原告に対し,本件出願に係る一切の権利を譲渡し,平成16年8月9日,原告は特許庁に対して,本件出願についての出願人名義変更届(甲22)を提出した。

ケ 本件審決

特許庁は,本件審判請求について審理した上,平成16年3月30日付けで「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年4月9日原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加された。

(2) 本件出願に係る発明の要旨

第2次補正により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された請求項59に係る発明は,下記のとおりである(以下「本願発明」という。)。

なお,請求項59は,第1次補正によって追加された請求項であり,第2次補正においてはその内容について変更はない。

カテーテルの末端に搭載可能な,脈管系内の画像を提供する超音波トランスデューサ・プローブアセンブリにおいて,該アセンブリは,超音波信号を発信,受信するトランスデューサのアレイと,該トランスデューサのアレイによる超音波信号の発信,受信を制御する集積回路と,前記トランスデューサのアレイのトランスデューサ・エレメントを支持し,該エレメントに取り付けられる可撓性シート材料からなる基板及び,集積回路とトランスデューサのアレイとの間で電気信号を移送する導電経路を備えることを特徴とする超音波トランスデューサ・プローブアセンブリ。

(3) 審決の内容

ア 審決の内容は,別添審決謄本のとおりである。その理由の要旨は,本願発明は,その出願前に頒布された特表平2-502078号公報(甲9。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)及び本件出願前に周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,そうである以上,本件出願の請求項1~58,60~92に係る発明についての検討にかかわらず,本件出願は拒絶されるべきものであるとしたものである。

イ 上記判断をするに当たり,審決は,本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点について,次のとおり認定した。

(一致点)

「カテーテルの末端に搭載可能な,脈管系内の画像を提供する超音波トランスデューサ・プローブアセンブリにおいて,該アセンブリは,超音波信号を発信,受信するトランスデューサのアレイと,該トランスデューサのアレイによる超音波信号の発信,受信を制御する集積回路と,トランスデューサ・エレメントに取り付けられる可撓性シート材料からなる基板及び,集積回路とトランスデューサのアレイとの間で電気信号を移送する導電経路を備えることを特徴とする超音波トランスデューサ・プローブアセンブリ。」である点。

(相違点)

本願発明は,可撓性シート材料からなる基板が,トランスデューサのアレイのトランスデューサ・エレメントを支持しているのに対し,刊行物1には,可撓性シート材料からなる基板が,トランスデューサ・エレメントを支持している旨の記載がない点。

(4) 審決の取消事由

しかしながら,審決は,以下の事由により違法であって取消しを免れないものである。

ア 取消事由1(特許法159条2項違反)

(ア) 審決の理由

審決は,上記(3)イのとおり本願発明と刊行物1発明との相違点を認定した上,相違点に係る本願発明の構成の容易想到性について次のとおり判断した。

「刊行物1に記載されたトランスデューサ・エレメントは可撓性シートからなる基板と接して形成されており,トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料からなる基板で支持する構成は周知の構成であるから(例えば,特開平02-265534号公報,特開平02-265533号公報,特公昭63-14623号公報を参照),刊行物1のトランスデューサ・エレメントに該周知の構成を適用し可撓性シート材料からなる基板で支持する構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。」(4頁最終段落)

このように,審決が示した拒絶の理由は,本願発明の「トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料からなる基板で支持する構成」が刊行物1との相違点であるとした上,当該相違点に係る構成とすることは容易想到である,というものである。

(イ) 本件拒絶査定の理由

これに対し,本件拒絶査定(甲6)における拒絶の理由の記載では,まず本文において,本件出願は本件拒絶理由通知(甲7)記載の「理由1」によって拒絶査定するとしている。その上で,「備考」として,「請求項1~92」という表題の下に次の記載がなされている(判決注:引用に当たり,文献の表示は本判決における用語例・書証番号に修正した。)。

a「刊行物1(甲9)の超音波カテーテルは,トランスデューサ材料として圧電高分子を使用しているので,バッキングの材料として,アルミナ合成体を採用している。ここで,トランスデューサ材料として感度の高いトランスデューサ材料であるPZTを使用した場合,減衰係数が大きく音響インピーダンスが小さいエポキシ樹脂をバッキング材として採用することは周知である。そして,集積回路の担持部材としては,アルミナ合成体を用いることが有利なことは当然である。してみれば,刊行物1の超音波カテーテルの超音波送受信の感度を向上させるために,トランスデューサ材料としてPZTを採用し,本願発明のように構成することは,当業者であれば容易になし得たものである。」(以下「査定理由備考a」という。)

b「なお,請求項21~31,33~43,46~55,58~70,74~87,90~92については,トランスデューサ・アレイと集積回路とを異なる材質の材料によりそれぞれ別個に支持するようにし,トランスデューサのバッキング材料に集積回路を支持する材料よりも大きな音響エネルギー吸収率を有する材料を使用する限定がなされておらず,先の拒絶理由通知で引用した刊行物1(甲9),特表平2-500398号公報(甲13。以下「刊行物5」という。)との格別な差異は認められない。」(以下「査定理由備考b」という。)

(ウ) 本件拒絶理由通知は,第1次補正によって請求項59が追加される以前に行われたものであるから,本件拒絶査定で引用された本件拒絶理由通知の「理由1」は,そもそも請求項59に係る本願発明に関する拒絶の理由としては意味をなさないものである。また,「理由1」の内容は,ボディーが材質の異なる第1セクションと第2セクションとで構成されることの容易想到性をいうものであるから,査定理由備考aと同様の内容である。

そうすると,本件拒絶理由通知の「理由1」は本願発明に関する独立の拒絶の理由たり得ず,本願発明についての拒絶の理由としては,査定理由備考a,bという2点のみが示されていることになる。

しかしながら,査定理由備考aの点は,本願発明に対する拒絶の理由とはなり得ない。なぜなら,本願発明はボディーの材質を規定するものではないからである。

したがって,結局のところ,本願発明について本件拒絶査定に示されたといえる拒絶の理由は,査定理由備考bの点,すなわち,本願発明にはバッキング材料に関する限定がなく,刊行物1発明,刊行物5(甲13)に記載された発明(以下「刊行物5発明」という。)と同一である,というものである。すなわち,本件拒絶査定における拒絶の理由は,審決が検討の対象とした本願発明の「可撓性シート材料からなる基板がトランスデューサのアレイのトランスデューサ・エレメントを支持する」構成について何ら触れるところがなく,上記構成を刊行物1発明,刊行物5発明との相違点として認定したものではないし,同構成の容易想到性について判断したものでもない。

(エ) 以上のとおり,「可撓性シート材料からなる基板」で「トランスデューサ・エレメントを支持する」構成の容易想到性は,本件拒絶査定には拒絶の理由として示されておらず,審決で初めて問題にされたものである。したがって,審決は,査定の理由と異なる拒絶の理由を発見したにもかかわらず,前出願人にこれを通知せずに行われたものであって,特許法159条2項,50条に違反する。

イ 取消事由2(一致点の認定の誤り・相違点の看過)

(ア) 審決は,刊行物1(甲9)に記載された「可撓性シートからなるリング」は,本願発明における「可撓性シートからなる基板」に相当すると認定したが(審決4頁の第2段落),誤りである。

本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」は,均一に配置するべき分割されたトランデューサ・エレメントを均一な状態で支持するための部材であって,本件明細書及び図面に「整合層46」として示されているものである。このように,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」は,「トランスデューサ・エレメント22」の構成要素ではなく,当該「トランスデューサ・エレメント22」を支持するための別部材である。これに対し,刊行物1(甲9)に記載された「可撓性シートからなるリング」(44)は圧電気材料からなり,トランスデューサ要素を構成する要素であり,両者が対応するとはいえない。すなわち,刊行物1発明と本願発明を正しく対比すると,刊行物1発明の①「可撓性シートからなるリング」(44)は,反射された超音波を検知するための部品の一部であって,超音波に対する感度特性を有する圧電気材料から成り,本願発明の「トランスデューサ材料40」に対応する。刊行物1発明の②「導電性トレース部」(46)は,本願発明の「第1導電用電極42」に対応する。刊行物1発明の前記リング(44)の外部表面に備えられる③「金属材料による薄い被覆」は,トランスデューサ配列に対する接地平面(ground plane)を生成させるから,本願発明の「導電用電極44」に対応する。

したがって,刊行物1発明の①「可撓性シートからなるリング」(44),②「導電性トレース部」(46),③「金属材料による薄い被覆」は,いずれも,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」としての「整合層46」に対応するものではない。上記①~③の要素から成る刊行物1発明の「トランスデューサ要素」は,本願発明の「トランスデューサ・エレメント22」における「可撓性シート材料からなる基板」としての「整合層46」に対応する構成を備えない。

(イ) 以上のとおり,刊行物1(甲9)に記載された「可撓性シートからなるリング」(44)は圧電気材料から成り,トランスデューサ要素を構成する要素であるのに対し,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」は,「トランスデューサ・エレメント22」(トランスデューサ要素に相当)の構成要素ではなく,当該「トランスデューサ・エレメント22」を支持するための別部材である「整合層46」に相当する。したがって,両者が一致点であるということはできない。

審決は,「基板」という用語に刊行物1の構成要素を形式的に当てはめ,刊行物1の「リング」(44)を「基板」であるとして,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」に対応するものと認定している。しかし,刊行物1に開示されたトランスデューサの各構成要素が,本願発明のトランスデューサの各構成要素に対応するか否かは,単なる形式的な用語にとらわれず,それらの構成要素の機能・用途にかんがみて認定されるべきものである。「基板」と記載されているという一事をもって,それらが対応関係にあるとすることはできない。

(ウ) よって,審決が,刊行物1に記載された「可撓性シートからなるリング」は本願発明における「可撓性シートからなる基板」に相当すると認定したことは誤りであり, 本願発明が「可撓性シートからなる基板」を用いる点は,刊行物1発明との相違点として認定すべきものである。したがって,審決は,一致点の認定を誤り,相違点を看過している。

ウ 取消事由3(周知技術の認定の誤り)

(ア) 審決は,「トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料からなる基板で支持する」構成は周知の構成であるとしているが,同構成は周知の構成とはいえない。

周知技術は,その技術分野において一般的に知られている技術であって,例えば,これに関し相当多数の公知文献が存在し,又は業界に知れ渡り,あるいは例示する必要がない程によく知られている技術をいうのであり,これは,「周知の構成」においても異なるところはない。ところが,審決は,「例えば」として,甲14~16の公報(以下「甲14公報」のようにいう。)を挙げているにすぎないから,相当多数の公知文献が存在するとはいえないし,上記構成は,例示なくては出願人に説明できない程度でしか知られていないものにすぎない。また,これら3件の公報のうち,甲14,15公報における引用部分の内容は,甲16公報に記載された内容を,発明者を共通にする同一人の同日付けの出願に係る,発明の名称を共通にする二つの出願明細書が引用して記載したものにすぎないのであって,結局,甲16公報の記載であるから,これをもって,甲14~16公報に記載された技術が周知であるということはできない。

(イ) 甲14,15公報の内容について見ると,いずれの公報の記載においても,「超音波振動子2a」(本願発明の「トランスデューサ・エレメント22」に対応)を支持する可撓性シートである「ダンパー材1」は,「超音波振動子2a」の半径方向内側に位置決めされている点において,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」である「整合層46」がトランスデューサ・エレメント22に対して半径方向外側に位置決めされているのと異なる。また,「超音波振動子2a」は,「ダンパ材1」上に接着されており,本願発明のような「静電容量を有する接着剤層をなくし,トランスデューサ材料の信号感度を確保する」効果を奏し得ない。したがって,甲14,15公報には,トランスデューサ・エレメントを,その半径方向外側に位置決めされた可撓性シート材料から成る基板で支持する,という本願発明の刊行物1発明との相違点に係る構成が開示されていない。

甲16公報の内容についてみても,可撓性シート材料からなる「弾性材11」は,「超音波振動子12a」(本願発明の「トランスデューサ・エレメント22」に対応)の半径方向内側に位置決めされるものであるうえに,「弾性材11」と「超音波振動子12a」は接着剤を介して接着するものとされている。したがって,甲14,15公報と同様に,本願発明の刊行物1発明との相違点に係る構成を開示したものではない。また,被告が本件訴訟において提出した乙3~乙5公報も,トランスデューサ・エレメントを,その半径方向外側に位置決めされた可撓性シート材料からなる基板で支持する構成を開示したものではないし,トランスデューサ・エレメントと基板との接着に接着剤を用いることの問題点が意識されていないことからしても,本願発明の刊行物1発明との相違点に係る構成を開示したものとはいえない。

(ウ) 被告は,本件明細書及び図面には,トランスデューサ・エレメントを支持するための「可撓性シート材料からなる基板」が,「トランスデューサ・エレメント22」の半径方向外側に位置決めされる構成やその効果(接着剤を不要とすること)に関し何ら記載されていないとして,同構成及び効果を本願発明が有することを前提とする原告の主張は失当であると主張する。しかしながら,本件明細書及び図面(本件出願の公開特許公報(甲21)記載の図面をいう。)には,当該構成及び効果に関して明示的に記載されているということができ,これらの記載がないと主張する被告の主張は,本件明細書及び図面の重要な記載を看過したものであり,失当である。

(エ) 以上のとおり,被告が援用した甲14~16公報及び乙3~5公報のいずれにも,トランスデューサ・エレメントを,その半径方向外側に位置決めされた可撓性シート材料から成る基板で支持する構成は開示されていない。したがって,本願発明の刊行物1発明との相違点である「トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料からなる基板で支持する」構成が周知の構成であるとした審決の認定判断は,誤りである。

エ 取消事由4(容易想到性の判断の誤り)

(ア) 審決は,トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料から成る基板で支持するという本願発明の構成及びその効果(トランスデューサ材料と導電性電極との間にあらかじめ静電容量を有する接着層が存在しないようにすること)は,刊行物1発明及び周知技術から当業者が容易に想到し,また,当然に予測できる範囲内のものとしているが,誤りである。

まず,周知技術の例示として被告が援用する甲14~16公報及び乙3~7公報のものは,本願発明に係る「脈管系内の画像を提供する超音波トランスデューサ・プローブアセンブリ」とは,寸法及び用途が全く異なり,配線の複雑さ,材料の選定等,発生する技術的課題も異にし,その解決方法もおのずと異なったものである。加えて,これらの公報には,その開示した技術が,「脈管系内の画像を提供する超音波トランスデューサ・プローブアセンブリ」,すなわち,「血管内カテーテル」の技術分野に転用できることを示唆する記載は全くない。したがって,これらの文献に記載された技術(例えば,金属導電線の蒸着)が利用可能であったとしても,「血管内超音波器具」内のトランスデューサのアレイを製造し得る当業者は,当該技術を「血管内カテーテル」の技術分野に転用し得ない。

(イ) 被告は,静電容量は,超音波トランスデューサ・プローブアセンブリを設計する際に,当然考慮されるべき値であると主張しているが,その根拠は示されていない。むしろ,甲14~16公報や乙3,4公報には接着剤を使用した場合の静電気の問題点の指摘がないところからみても,当業者が静電容量を当然のように考慮するということはできない。

また,被告は,接着剤を使用しない方法により電極等を形成することは常とう手段であると主張しているが,そもそも本願発明は,電極等の形成方法ではなく,電極と圧電材料で構成されるトランスデューサ・エレメントを接着剤を使用せずに支持する方法であり,電極等を形成する手段ではない。また,接着剤を使用しない蒸着等の方法によりトランスデューサ材料と電極とを接着させる方法を開示している乙3,4公報も,接着剤を使用した場合の問題点を指摘しているわけではなく,むしろ,いずれの公報も,二つの電極のうち少なくとも一つの電極とトランスデューサ材料との固着方法については,接着剤を用いているとしか解釈できない記載になっている。よって,被告の上記主張も失当である。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1)~(3)の各事実は認める。同(4)は争う。

3 被告の反論

原告が,審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,次のとおりいずれも失当である。

(1) 取消事由1(特許法159条2項違反)について

ア 本件拒絶査定の理由の本文は,本件拒絶理由通知の「理由1」を引用しているところ,「理由1」には,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの理由が明記されている。したがって,備考欄のなお書きにおいて,請求項59を含む各請求項について刊行物1,5との「格別な差異は認められない」と記載されているからといって,本件拒絶査定に示された拒絶の理由が,本願発明は刊行物1発明及び刊行物5発明との関係で同一であるというものであるということはできない。

そして,前出願人自身,審判請求の理由(乙1)において,本願発明等について,刊行物1,5に基いて当業者が容易に想到することはできない,との主張を行っており,本願発明についての本件拒絶査定の拒絶の理由が進歩性の欠如の点にあることを認識していたものである。このように,前出願人は,本願発明の容易想到性に関して検証し,特許請求の範囲を補正するか否かを検討した上で,あえて,補正しないことを選択して意見を述べていることからしても,本件審判手続において審判体が拒絶理由の通知を再度行う必要はない。

イ 原告は,本件拒絶理由通知(甲7)の時点では請求項59は存在しなかったから,請求項59に係る本願発明について進歩性がないことを拒絶の理由とするのであれば,拒絶の理由を再度通知すべきである旨を主張する。しかし,本件拒絶理由通知の後の補正により加えられた本願発明には進歩性がなく,本件拒絶理由通知の「理由1」と同じく特許法29条2項違反と判断されるのであるから,審判体において拒絶理由を再度通知する必要はない。もし,拒絶理由通知後に新たに加えられた事項について,先の拒絶理由と同じ事実(証拠)と根拠条文である場合においても,拒絶理由を再度通知しなければならないというのでは,行政手続上不経済である。補正により特許請求の範囲が多少変わっても,その部分が周知慣用技術等であり,通知した拒絶の理由が解消されていなければ再度の拒絶理由を通知することなく拒絶査定されるのである。そして,本件拒絶査定の備考欄では,請求項59についても,先に通知した拒絶の理由が依然として解消されていないことを指摘している。

前出願人は,本件拒絶査定の送達を受けた段階で,審判請求と同時に請求項59についての補正ができたはずであるのに,その時には補正をせずに,審判体の拒絶理由の通知を期待するのは,失当である。そして,審判体は,本件拒絶査定の理由を検討し,同査定に至る過程や審判請求書の内容も検討した上で,本願発明は刊行物1に基いて当業者が容易に発明できたものであるとの結論を得たのであり,本件拒絶査定の引用証拠,事実認定,根拠条文と,本件審判手続での証拠,事実認定,根拠条文とに変わりがないのであるから,法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たらないと判断して拒絶理由を再度通知しなかったことは正当である。

ウ 以上のとおり,本件拒絶査定における拒絶の理由は,審決の理由と同じく,本願発明は刊行物1発明から容易に想到することができたというものであり,また,前出願人は,審判請求に当たってこの拒絶の理由を認識していたのであるから,本件審判手続において拒絶の理由を再度通知しなかったことに手続違背はない。

(2) 取消事由2(一致点の認定の誤り・相違点の看過)について

ア 原告は,審決が,刊行物1発明の「可撓性シートからなるリング」を,「可撓性シート材料からなる基板」と認定したことは誤りであると主張するが,次のとおり失当である。

刊行物1の記載からすると,「リング44」は,可撓性のシートである。また,このシートの一方の面には「導電性トレース部46」が均等の間隔に置かれており,また,他方の面には金属材料による薄い被覆が備えられており,そのような構成の結果として,本体42の長さ方向軸に平行に,「トランスジューサ」の配列の要素が整列されているから,この「リング44」の上に,「トランスジューサ」の配列の要素が形成されているといえる。そして,一般に「基板」とは,「その上に超小型回路を組み立てるために用いる板」のことであり,基板自体が有用な電子的機能を与えることができることも技術常識であるところ(乙2),「リング44」は,「トランスジューサ」の要素を組み立てるための板といえるから,「基板」と認定できるものである。したがって,「リング44」は「可撓性シート材料からなる基板」であるといえる。したがって,審決が,刊行物1発明の「可撓性シートからなるリング」を,「可撓性シート材料からなる基板」と認定したことに誤りはない。

イ また,原告の主張は,本願発明の特許請求の範囲にいう「可撓性シートからなる基板」が本件明細書及び図面の「整合層46」と対応することを前提とするものであるが,この前提自体が,本件明細書の記載に基づかないものであって失当である。

すなわち,本件明細書には,トランスデューサ・エレメントとは別の「可撓性シート材料からなる基板」は記載されておらず,むしろ,トランスデューサ・エレメントの一部を平らな基板とすることが示されている。原告は,トランスデューサ・エレメントを支持する「可撓性シート材料からなる基板」が「整合層46」と対応する旨を主張するが,本件明細書及び図面には,「可撓性シート材料からなる基板」が「整合層46」であるとの直接の記載はなく,また,これらを参酌しても「可撓性シート材料からなる基板」が「整合層46」であると特定することはできない。

ウ なお,仮に,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」は,トランスデューサ・エレメントとは別体のものであって,トランスデューサ・エレメントの一部を構成するものを含まないとしても,そのことは審決の結論に影響を及ぼさない。

すなわち,審決は,刊行物1発明の「可撓性シートからなるリング」と本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」とが,トランスデューサ・エレメントを組み立てるための板である点で相当するとしており,支持する構成等の詳細な点については相違点として検討している。つまり,審決は,本願発明においては可撓性シート材料から成る基板がトランスデューサ・エレメントを支持している点を刊行物1発明との相違点として認定し,この相違点は,トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料から成る基板で支持するという周知の構成から当業者が容易に想到し得たものであると判断しているのであり,実質的に,「可撓性シート材料からなる基板」がトランスデューサ・エレメントとは別体のものであることを前提にして判断を行っているから,審決の結論に影響を及ぼさない。

(3) 取消事由3(周知技術の認定の誤り)について

ア トランスデューサ・エレメントを「可撓性シート材料からなる基板」で支持する構成が周知技術であるとした審決の認定に誤りはない。 一般に,トランスデューサ・エレメントが円筒形などの曲面形状に構成されることから,これを可撓性シート材料から成る基板で支持することは,ひろく採用されている構成であり,審決は,その中で,医用分野に使用されているものの例示として3件の周知例(甲14~16公報)を挙げたにすぎない。原告は,審決が挙げたこれら3件の公報は,結局,最初の1件(甲16公報)の記載である旨主張するが,甲16公報の記載が,別の出願人の出願である甲14及び甲15公報において引用されていることは,むしろ,甲16公報記載の技術が当該技術分野において周知であることの根拠となるものである。

イ なお,原告は,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」は,本件明細書及び図面における「整合層46」に相当し,これは「トランスデューサ・エレメント22」の半径方向外側に位置決めされるものであることを前提に,本願発明と甲14~16,乙3~5各公報記載のものとの構成,効果は異なると主張する。

しかし,上述のとおり,特許請求の範囲にいう「可撓性シート材料からなる基板」が本件明細書及び図面の「整合層46」であると限定的に解釈することはできない。また,「可撓性シート材料からなる基板」が「トランスデューサ・エレメント22」の半径方向外側に位置決めされるとの限定は本願発明の特許請求の範囲には記載されていないし,本件明細書及び図面にも,トランスデューサ・エレメントを支持するための「可撓性シート材料からなる基板」が,「トランスデューサ・エレメント22」の半径方向外側に位置決めされる構成やその効果に関し何ら記載されていない。したがって,原告の主張は前提を欠き失当であるといわざるを得ない。

また,本願発明の特許請求の範囲にいう「前記トランスデューサのアレイのトランスデューサ・エレメントを支持し,該エレメントに取り付けられる可撓性シート材料からなる基板」とは,上述のとおり,単に複数のトランスデューサ・エレメントが形成された「可撓性シート材料からなる基板」であると解するのが相当であって,一方,甲14~16公報に記載された発明も,いずれも「可撓性シート材料からなる基板」に複数のトランスデューサ・エレメントを形成したものであるから,「トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料から成る基板で支持する構成は周知の構成」であるとした審決に誤りはない。

(4) 取消事由4(容易想到性の判断の誤り)について

ア 原告は,刊行物1発明は血管内カテーテルに関するものであるのに対し,審決が挙げた甲14~16公報は内視鏡に関する技術であって,両者は大きさや形状を異にするから,後者に関する周知技術を前者に適用することによって本願発明の構成に想到するのは容易でない旨主張している。

しかし,内視鏡にも血管内視鏡のように小さいものが存在している上に(例えば,乙6,乙7公報参照),仮に内視鏡と血管内カテーテルの大きさが相違しているとしても,本願発明には血管内カテーテルに適用するための特別の構成も存在しないから,内視鏡における「トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料からなる基板で支持する構成」という周知の構成を,血管内カテーテルに関する刊行物1発明に適用して本願発明の構成を得る程度のことは,当業者が容易に想到することができたことであり,その効果も,当業者が予測することができた程度のものであるとした審決の判断に誤りはない。

イ 原告は,本願発明の特徴として「トランスデューサ材料と導電性電極との間に予め静電容量を有する接着剤が存在しない」点を挙げて,かかる効果は刊行物1発明に審決認定の周知技術を適用しただけでは得られないと主張する。 しかし,本願発明の特許請求の範囲にはトランスデューサ材料と導電性電極とがどのように接着されているのか記載されていないから,接着剤が存在しないと限定的に解釈することは,失当である。また,仮に接着剤が存在していないと限定的に解釈できたとしても,静電容量は,超音波トランスデューサ・プローブアセンブリを設計する際に当然考慮されるべき値であり,蒸着等の接着剤を使用しない方法により電極等を形成することは常とう手段(例えば,乙3,乙4公報参照)であるから,刊行物1発明に当該周知のトランスデューサ材料と導電性電極との間に接着剤が存在しない構成を適用する程度のことは,当業者が適宜変更できることであり,そのことにより,静電容量による問題を解決できることも,当業者にとって自明である。

当裁判所の判断

1 請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願発明の要旨)及び(3)(審決の内容) の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

そこで,請求の原因(4)(審決の取消事由)について検討する。

2 取消事由2について

審決は,刊行物1発明の「可撓性シートからなるリング」が本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」に相当すると認定した上,「トランスデューサ・エレメントに取り付けられる可撓性シート材料からなる基板」を有する点を一致点の構成の中に含めて認定している。これに対し,原告は,刊行物1発明の「可撓性シートからなるリング」は圧電気材料から成り,トランスデューサ要素の構成要素そのものであるのに対し,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」は,トランスデューサ・エレメント(トランスデューサ要素に相当)の構成要素ではなく,当該トランスデューサ・エレメントを支持するための別部材であって,両者が相当するとはいえないから,審決の上記認定は誤りである旨主張する。

(1) まず,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」という構成の技術的意義について検討する。

ア 本願発明の特許請求の範囲には,「前記トランスデューサのアレイのトランスデューサ・エレメントを支持し,該エレメントに取り付けられる可撓性シート材料からなる基板」と記載されており,この記載からすると,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」は,トランスデューサ・エレメントを支持し,該エレメントに取り付けられるものであると認められる。

イ(ア) ところで,特許請求の範囲の記載では「トランスデューサ・エレメント」の形態的特徴について規定していないため,「可撓性シート材料からなる基板」が「トランスデューサ・エレメント」を支持する具体的構造は明らかでない。そこで,「トランスデューサ・エレメント」の形態的特徴について本件明細書(甲21)の記載を見ると,下記の記載がある(以下,この項において「記載a」のようにいう。)。

a「トランスデューサ・アセンブリ14は,複数のトランスデューサ・エレメント22から成るトランスデューサ・エレメント集合を備えている。」(4頁右下欄第2段落)

b「トランスデューサ・アセンブリ14を製作するための好適な方法について説明すると,先ず,トランスデューサ・アセンブリ14の複数の外層を夫々個別に,平らなシートとして製造する。それらの層には,64個の導電用電極42から成る第1導電用電極集合と,トランスデューサ材料40と,連続した1枚の層である導電用電極44と,整合層46とが含まれている。それらの層を個別に製作したならば,続いて,複数のトランスデューサ・エレメント22を形成した平らなシートをバッキング材料24の周囲に巻き付けて,接着剤層48で固定する。トランスデューサ・アセンブリ14の機械的及び音響的な特性によっては,複数のトランスデューサ・エレメント22を物理的に分離させておくことが望まれる場合がある。」(6頁左上欄第3段落)

c「トランスデューサ・アセンブリ14の,以上に説明した複数の層から成る同心環状構造を,図1の4-4線に沿ったトランスデューサの断面を示した図4に模式的に示した。」(6頁右上欄第1段落)

d「製作を平らな表面上で行なうことは,湾曲した円筒表面上で行なうより容易である。このことが特に重要であるのは,連続した1枚の導電用電極44の上に,連続したシートの形状ではない,互いに独立した複数のエレメントとしてトランスデューサ材料を形成するために,トランスデューサ材料40を分割しておく必要がある(または切断する必要がある)場合である。」(6頁右上欄第3段落)

e「複数の導電用電極42は,トランスデューサ・アレイの中の個々のトランスデューサ・エレメントを画成している。」(6頁左下欄第3段落)

f「トランスデューサ材料40の外周表面を覆っている連続した1枚の導電用電極44をトランスデューサ・エレメント22にとってのグラウンド面にしてある。この導電用電極44は,整合層46の表面にスパッタリングによって金を被着して形成した層とすることが好ましい。」(7頁右上欄第2段落)

g「複数のトランスデューサ・エレメント22は,整合層46によって覆われている。」(同欄第3段落)

(イ) 本件明細書の上記b,cの記載及び図4によれば,「トランスデューサ・アセンブリ14」の「複数の外層」(上記a)は,①第1導電用電極42,②トランスデューサ材料40,③導電用電極44,④整合層46,の4層から成るものであることが示されている。そこで,①~④の4層のうち,いずれが「トランスデューサ・エレメント」を構成するかについて検討すると,以下のとおりである。

ⅰ ①の「第1導電用電極42」は「トランスデューサ・エレメント」の構成要素であることが上記eの記載中に明記されている。

ⅱ 上記bの記載によれば,「複数のトランスデューサ・エレメント22」を「物理的に分離させておくことが望まれる場合」があり,上記dの記載には,「互いに独立した複数のエレメントとしてトランスデューサ材料を形成するために,トランスデューサ材料40を分割しておく必要がある(または切断する必要がある)場合」があることが示されている。これらの記載を総合すると,②のトランスデューサ材料40も,「トランスデューサ・エレメント」の構成要素であると認められる。

ⅲ ③の「導電用電極44」も,上記fの「1枚の導電用電極44をトランスデューサ・エレメントにとってのグラウンド面にしてある。」との記載によれば,「トランスデューサ・エレメント」の構成要素であると認められる。

ⅳ これらに対し,上記gの「複数のトランスデューサ・エレメント22は,整合層46によって覆われている」との記載によれば,④の「整合層46」は,「トランスデューサ・エレメント」の構成要素ではない。ウ そうすると,本願発明にいう「トランスデューサ・エレメントを支持し,該エレメントに取り付けられる可撓性シート材料からなる基板」という文言は,①の「第1導電用電極42」,②の「トランスデューサ材料40」及び③の「導電用電極44」の3層からなる「トランスデューサ・エレメント」に,「可撓性シートからなる基板」であるところの④の「整合層46」が「取り付けられ」,「トランスデューサ・エレメント」を「支持し」ていることを示しているものである。

なお,請求項59の特許請求の範囲の記載には,「可撓性シート材料からなる基板」がトランスデューサ・エレメントを支持し,該エレメントに取り付けられる旨が規定されているにすぎず,原告主張のように「可撓性シート材料からなる基板」をトランスデューサ・エレメントの外側に設けることや,トランスデューサ材料と導電用電極の各々との間に接着剤が用いられていないことについては,何ら規定されていない。したがって,「トランスデューサ・エレメントを支持し,該エレメントに取り付けられる可撓性シート材料からなる基板」とは,「トランスデューサ・エレメント22」を支持する,該エレメントとは別体の可撓性シート材料として特徴付けられるにとどまる。

(2) 次いで,刊行物1発明の「可撓性シートからなるリング」がいかなるものであるかを検討する。

ア 刊行物1(甲9)には下記の記載がある。

「イメージ化データを発生させるトランスジューサ要素の配列を設けるために,下層の導電性トレース部46が本体42のシリンダ状区分42bの表面上に形成され,また,連続的な圧電気材料のリング44の下になるようにされている。トランスジューサ配列に対する接地平面を生成させるために,圧電気材料のリング44の外部表面には,金属材料による薄い被覆が備えられている。配列の各要素は,第7図に一般的に示されているように,導電性トレース部を覆うリング44の領域によって規定される。圧電気材料のリング44を導電性トレース部46上の固定された位置に維持するためには,エポキシのにかわ状物質によるフィルムによって,該リング材の内部表面がプローブ本体42の表面に対して保持される。リング44は圧電気材料によりシリンダとして形成することができる。または,平板状シートが巻回されて,その継ぎ目(シーム)において結合させることができる。好適には,リング44はシームレス・シリンダである。導電性トレース部46は,本体42の円周区分42cの周囲で,均等の間隔をおかれている。このような構成の結果として,本体42の長さ方向軸に平行に,配列の要素がそれらの長さ方向の軸に整列されている。好適には,64個の導電性トレース部46が存在しており,従って,64個のトランスジューサ要素が存在している。」(11頁右上欄第3段落~左下欄第1段落)

イ 上記記載において,「リング44は圧電気材料によりシリンダとして形成することができる。または,平板状シートが巻回されて,その継ぎ目(シーム)において結合させることができる」とされていることから,「リング44」は,可撓性のシート材料であることが認められるものの,「下層の導電性トレース部46が本体42のシリンダ状区分42bの表面上に形成され,また,連続的な圧電気材料のリング44の下になるようにされている。トランスジューサ配列に対する接地平面を生成させるために,圧電気材料のリング44の外部表面には,金属材料による薄い被覆が備えられている」との記載からすると,「リング44」は,圧電気材料そのものであり,本願発明の「トランスデューサ材料40」に相当し,「トランスデューサ・エレメント」の構成要素に含まれるものと認められる。

(3) そうすると,本件明細書には「トランスデューサ・エレメント」を「可撓性シート材料からなる基板」によって支持し,これに取り付けるに当たっての具体的態様について規定されていないとはいっても,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」はトランスデューサ・エレメントの構成要素でないのに対し,引用発明の「可撓性シートからなるリング」はトランスデューサ・エレメントの構成要素である圧電気材料であって,両者は明らかに異なるものであって,両者が相当するとはいえない。したがって,両者が相当するとした審決の認定は誤りであり,この誤った認定の下でなされた一致点,相違点の認定も,また誤りであることは明らかである。

(4) 審決の認定には誤りがないとして被告が主張する点は,以下のとおり,いずれも採用することができない。

ア 被告は,「基板」は「その上に超小型回路を組み立てるための板」を意味するところ,刊行物1発明における「リング44」は可撓性のシートであり,その一方の面に「導電性トレース部46」が,他方の面に「金属材料による薄い被覆」を備えることによって,「トランスジューサ要素」が構成されるのであるし,「基板」自体が有用な電子的機能を与えることもできるのであるから,「リング44」を基板として「トランスジューサ要素」が組み立てられていると認定することに誤りはないと主張する。

しかし,上記(2)アに引用した刊行物1の記載bのうち「トランスジューサ要素の配列を設けるために,下層の導電性トレース部46が本体42のシリンダ状区分42bの表面上に形成され,また,連続的な圧電気材料のリング44の下になるようにされている。トランスジューサ配列に対する接地平面を生成させるために,圧電気材料のリング44の外部表面には,金属材料による薄い被覆が備えられている。」との記載からすれば,刊行物1発明における「トランスジューサ要素」の配列は,「導電性トレース部46」,「圧電気材料のリング44」及び「金属材料による薄い被覆」の3層から構成されており,「リング44」は,「トランスジューサ要素」の配列の一部を構成するものにほかならず,これを,「トランスジューサ要素を組み立てるための板」であると認めることはできない。よって,被告の主張は採用することができない。

イ 被告は,本件明細書及び図面には,「可撓性シート材料からなる基板」が「整合層46」であるとの直接の記載はなく,また,これらを参酌してもそのように解することはできないし,そもそも,本件明細書には「可撓性シート材料からなる基板」との文言自体が見当たらず,トランスデューサ・エレメントの近傍に位置する「シート」としては「平らなシート」が記載されているだけであるなどと主張する。

確かに,本件明細書の発明の詳細な説明には,「可撓性シート材料からなる基板」との文言は記載されておらず,これが,「整合層46」に対応する旨の直接的な記載は認められない。しかし,本件明細書の記載を詳細に検討すれば「可撓性シート材料からなる基板」が「整合層46」に対応するものであると認められることは,上記(1)で説示したとおりであるから,被告主張の点は,当裁判所の上記判断を左右するものではない。

ウ 被告は,仮に,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」が,トランスデューサ・エレメントとは別体のものであって,トランスデューサ・エレメントの一部を構成するものを含まないとしても,審決は,刊行物1発明の「可撓性シートからなるリング」と本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」とが,トランスデューサ・エレメントを組み立てるための板である点で相当するとしているにとどまり,トランスデューサ・エレメントを支持する構成等の詳細な点については相違点として検討しており,本願発明において,可撓性シート材料から成る基板がトランスデューサ・エレメントを支持している点は,刊行物1発明との相違点として検討され,トランスデューサ・エレメントを可撓性シート材料から成る基板で支持するという周知の構成から,当業者が容易に想到し得たものであると判断しているのであり,実質的に,「可撓性シート材料からなる基板」は,トランスデューサ・エレメントとは別体のものとして判断を行っているから,審決の結論に影響を及ぼさない旨を主張する。

しかし,審決は,相違点を,「本願発明は,可撓性シート材料からなる基板が,トランスデューサのアレイのトランスデューサ・エレメントを支持しているのに対し,刊行物1には,可撓性シート材料からなる基板が,トランスデューサ・エレメントを支持している旨の記載がない点」と認定した上で,「刊行物1に記載されたトランスデューサ・エレメントは可撓性シートからなる基板と接して形成されており,」(4頁最終段落)と説示しているのであるから,支持構造の有無,すなわち,トランスデューサ・エレメントを支持し,該エレメントに取り付けられる可撓性シート材料から成る基板の有無について相違点を検討したのではなく,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」と刊行物1発明の「可撓性シートからなるリング」とが相当するという誤った認識,すなわち,「可撓性シート材料からなる基板」が両者において存在しているとの誤った認識を前提として,トランスデューサ・エレメントの支持の態様の相違について検討したことは明らかである。したがって,審決が,「可撓性シート材料からなる基板」は,トランスデューサ・エレメントとは別体のものである点について,実質的に判断を行っているとの被告の主張は採用することができない。

(なお,審決が,刊行物1において,トランスデューサ・エレメントは可撓性シートからなる基板と接すると認定した根拠は明らかでないが,審決は,刊行物1発明の「トランスジューサ要素」が,本願発明の「トランスデューサ・エレメント」に相当するとしており,また,刊行物1(甲9)に,「下層の導電性トレース部46が本体42のシリンダ状区分42bの表面上に形成され,また,連続的な圧電気材料のリング44の下になるようにされている。」(11頁右上欄第3段落)「好適には,64個の導電性トレース部46が存在しており,従って,64個のトランスジューサ要素が存在している。」(11頁左下欄第1段落)と記載されていることからみて,審決は,引用例1における「導電性トレース部46」が「トランスジューサ要素」すなわち「トランスデューサ・エレメント」であり,これが,「圧電気材料のリング44」すなわち「可撓性シートからなる基板」に接すると認定したものと解される。)

(5) 以上のとおり,本願発明の「可撓性シート材料からなる基板」と刊行物1発明の「可撓性シートからなるリング」とが相当するとした審決の認定は誤りであり,その結果,審決は,一致点,相違点の認定を誤り,「可撓性シート材料からなる基板」の有無についての相違点を看過して判断を行っている。この誤りが,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり,原告の取消事由2の主張には理由がある。

3 以上のとおり,審決の一致点,相違点の認定の誤りをいう取消事由2は理由があり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。よって,その余の点について判断するまでもなく,本件審決は違法として取り消すべきであるから,主文のとおり判決する。

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