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平成17年(行ケ)第10061号 審決取消(実用新案)請求事件


主文

1 特許庁が無効2002-35295号事件について平成16年1月28日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文と同旨

第2 事案の概要

本件は,被告の有する後記実用新案登録につき,原告が無効審判請求をしたところ,特許庁が,審理の上,無効審判の請求は成り立たない旨の審決をしたことから,原告が同審決の取消しを求めた事案である。

第3 当事者の主張

1 請求の原因

(1) 特許庁における手続の経緯

被告は,名称を「表面筋状薄肉こんにゃく」とする考案につき,昭和63年9月24日(以下「本件出願日」という。),実用新案登録を出願し,平成10年12月11日に特許庁から設定登録を受けた(実用新案登録第2150363号,以下「本件実用新案登録」という)。

これに対し原告は,平成14年7月15日,本件実用新案登録につき無効審判の請求をした。特許庁は,同請求を無効2002-35295号事件(以下「本件審判事件」という。)として審理した上,平成16年1月28日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その審決謄本は同年2月9日原告に送達された。

(2) 考案の内容

本件実用新案登録出願の願書に添付した明細書(設定登録に係るもの)の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案の要旨は,下記のとおりである。

「個々に独立した多数個のノズルが1~2列に連設された押出ノズルから,太さ3mm以下に押出された糸状こんにゃくを即横幅方向へ一体化して,長手方向に多数の凹条(2)と凸条(3)を表面に有し,凸条(3)部分の厚肉部が3mm以下であって,凹条(2)部分の薄肉部が半透明の縞模様を形成してなる表面筋状薄肉こんにゃく。」(以下,この考案を「本件考案」という。)

(3) 審決の内容

審決の詳細は,別添審決謄本写しのとおりである。

その要旨は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」は,本件出願日前である昭和57年には公然と製造販売されていたA食品工業株式会社(以下「A食品」という。)の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」と同一又はほとんど同一の構造である(以下,上記製造販売の事実を「本件公然実施の事実」という。)から,本件考案は,実用新案法3条1項1号若しくは2号又は同条2項に該当するとの請求人の主張に対し,請求人の提出した書証(審判甲1~27-8,本訴甲2の1~2の27の8)及び資料(審判「資料1~16」,本訴甲7,8,13~15各添付),証人B,同C,同D,同E,同F及び同Gの各証言(本訴甲10。なお,本訴甲28及び29は,録音テープに記録された証人B及び同Cの陳述の反訳書である。)並びに検証の結果(本訴甲10)をもってしても,本件公然実施の事実を認めるに足りないから,本件考案に係る実用新案登録を無効とすることはできないとしたものである。

(4) 審決の取消事由

審決は,本件公然実施の事実を認めるに足りないとしたが,この認定判断は,以下に述べるとおり誤りであるから,違法として取り消されるべきである。

ア 発見品について

(ア) A食品が,本件出願日前に製造販売していた「しゃぶしゃぶこんにゃく」については,「60.10.27製造」又は「60.11.1製造」の日付印が押された現物(以下「発見品」という。)が存在する(甲30の1~3,31,33の2)。なお,発見品は,平成16年2月29日,A食品の旧工場において,バケツの中から発見されたものである(甲53の1,54,79)。

(イ) 発見品の内容物であるこんにゃくの形状,構造は,長手方向に多数の凹状と凸状とを表面に有し,凸状部分の厚肉部が3mm以下であって,凹状部分の薄肉部が半透明の縞模様となっており,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一である(甲53の1)

(ウ) 発見品の製造時期は,その包装袋に押された日付印のとおり,昭和60年10月27日及び同年11月1日であり,いずれも,本件出願日前に製造されたものである(甲30の1~3,甲53の1)。

このことは,下記の各事実からも裏付けられる。

a 発見品の包装袋に表示されているA食品の住所及び電話番号は,昭和61年に新工場が建設されたことにより閉鎖された旧工場のものである(甲18,19,43~45,46の1,2)。

b 「しゃぶしゃぶこんにゃく」の包材は,現在までに5回納入され,そのデザインは4回変更されているが,発見品の包装袋のデザインは,昭和58年11月24日に納入された最初のものと同一である(甲56)。なお,当初のデザインの包材は,発見品が発見された当時,既に使い切って残っていなかった。

c 発見された際,発見品の包装袋には既に日付印が押されていた(甲31,33の2)。発見品の包装袋には,開封して包装しなおした痕跡も,日付を訂正した痕跡も見られない(甲53の1,77)。

d 昭和60年当時,製造日付の表示方法として,日付を印刷したラベルを貼る方法,日付印を押す方法等があったが,ラベルは貼り替えが可能であり,かつ,はがれやすいため,販売店から,日付印を包装袋に直接押してもらいたいとの要請があり,A食品では,この要請に基づき,包装袋に日付印を押す方法を採用していた。具体的には,「不滅インキ」と呼ばれるインクのスタンプ台を用いて,人が,包装袋に直接ゴム印で日付印を押していた(甲79~84)。

e 発見品は全部で4個であるが,そのうち,「60.10.27製造」との日付印が押された3個については,日付印の位置,インクの濃さ,向きが同じであるが,「60.11.1製造」の日付印が押された1個は,日付印の位置,インクの濃さ,向きが,その他のものとは異なる(甲53の1,77)。これは,当時,日付印は数人の者が交代で押していたため,押す者ごとの癖が出たものであると考えられる。

f 発見品は型くずれ寸前の状態であった(甲53の1)から,発見後に包装したり,押し印したりすることは物理的に不可能である。

g 発見品の包装袋には,塵芥,バケツの錆が付着して,全体が薄茶色に汚れているほか,部分的に錆が濃く付着している部分もある。また,バケツ内で他の物品と重なり合っていた痕跡も見られる(甲33の2,53の1,77)。このような汚れや錆は,短期間では付着しない。

h 発見現場からは,発見品の製造日付当時の他社製品,古新聞も発見されている(甲32,35の1~7,53の1)。なお,発見現場であるA食品の旧工場は,新工場への引っ越し後は,こんにゃくの製造には使用されず,物置同然となっていた(甲31,53の2)。

i 発見品の包装袋には,密封のためのシール跡が5本存在する(甲53の1)が,それは,昭和55年7月にH株式会社から納入されたMS-602型自動包装機が使用されたことを示している(甲57)。

j 発見品に押された日付印の表面と,新たに押された日付印とを顕微鏡で観察すると,その両者には明らかな違いが存する(甲121,124)が,このことは,前者の日付印がその日付の時点で押されたものであることを示すものである。

(エ) 被告は,発見品の発見のタイミングが不自然である旨主張するが,原告は,本件審判事件で敗れたからこそ,新たな証拠の発見に努めたのであり,その結果,偶然にも発見品を発見したのであって,その経緯は何ら不自然ではない。被告は,あたかも発見品が事後的に製造されたねつ造品であるかのような主張をするが,発見品の内容物であるこんにゃくの変容状況,包装袋の劣化及び汚れの状況,発見品とともに発見された物品類の存在といった各種の客観的証拠は,到底,事後的にねつ造することは不可能なものである。

さらに,被告は,発見品を事後的に製造することは可能である旨主張するが,被告主張のようにゲル化剤の量を意図的に少なくして充填包装すれば,こんにゃくは,数日で水溶化して原形を失い,かつ,腐敗のためにガスが発生して包装袋がパンパンに張って破れやすくなったりするものと推測される。しかし,発見品のこんにゃくは,そのような状態にはなかったし,包装袋も破れるほどには張っていなかったし,中には,しぼみ加減の袋もあった。また,被告は包材が残っていた旨主張するが,発見品の包装袋のように錆が付着して薄茶色になり,内容物が包装された包装袋同士がバケツの中で重なり合って生じた跡の付着した包材が残っていたことは考えられず,ロール状に巻かれている包材がそのようになることはあり得ない。

(オ) 被告は,発見品は孔径0.9mmの目皿で製造されたものであるとした上,本件審判事件における証人Cの供述内容(甲29)によれば,昭和60年10月及び11月当時,孔径0.9mmの目皿は本件こんにゃくに使用されていなかったものと認められるから,両者は矛盾する旨主張する。

確かに,発見品が孔径0.9mmの目皿で製造されたものであると考えられることは,原告も争わない。しかしながら,目皿を孔径0.9mmのものから1.5mmのものに変更した時期について,本件審判事件における証人Cの供述内容には,混乱が見られ,被告主張のように昭和58年春ころであると明確に特定できるものではない。いずれにしても,Cは,4枚ある目皿のうち先に孔を開けた2枚についても,全く使っていないのではなく,「たまに使う」旨述べており(甲29の45頁),昭和60年10月及び11月当時,孔径0.9mmの目皿は本件こんにゃくに使用されていなかったわけではないから,被告の上記主張は失当である。

(カ) 被告は,原告が,当初,発見品の製造時期であるとされる昭和60年秋~昭和61年春の間の取引伝票類について証拠提出していなかったのは,原告にとって不利益な事実が明らかとなることをおそれたためであると推認することができるとも主張する。しかしながら,原告が,当初,その間の取引伝票類(甲126の1~8,127~129,130の1~9,131の1~6)を証拠提出していなかったのは,単に,発見できていなかったからにすぎない。

イ 本件公然実施の事実について

(ア) A食品は,昭和58年ころから今日に至るまで,発見品と同じ形状,構造のこんにゃく(以下「本件こんにゃく」という。)を,「しゃぶしゃぶこんにゃく」の名称で,公然と,製造し,かつ,多数の販売店に販売してきた(甲79~120)。

なお,被告は,平成元年11月20日に従来よりも高額の「しゃぶしゃぶこんにゃく」が現れたことを根拠に,当該高額商品こそが,本件実用新案を実施して製造される「表面筋状薄肉こんにゃく」であると考えられる旨主張するが,従来品は内容量250g入りの通常品であるのに対し,被告のいう高額商品は内容量400gのものであって,両者の違いは内容量の差異にすぎないから,被告主張は失当である(甲125)。

(イ) 本件こんにゃくは,昭和56年秋ころ,A食品の専務取締役であるCが開発したものであり,本件こんにゃくの製造に使用する目皿(以下,Cが本件こんにゃく用として当初に作成した目皿〔甲5,10〕を指して,特に「本件目皿」ということがある。)は,I工業株式会社(以下「I」という。)から孔の開いていない目皿を購入した上,Cが自ら加工して製作した(甲5,10,16,17,80,85)。

これに対し,被告は,Cが本件目皿の全体に孔を開け終わるまで,何ら試験をしなかったことは不自然である旨主張する。しかし,目皿全体の穴開けを完成しないまま,通常の糸こんにゃくの製造装置で試験を行えば,目皿の孔面積が小さいため,圧力が過剰となって練り機と目皿とをつなぐホースが外れてしまうおそれがある上,仮に,こんにゃくが押し出されたとしても,そのこんにゃくは過剰圧力のため,設計値とは異なる太さとなることが予想されるから,試験にならないことは明らかである。したがって,被告の上記指摘は失当というほかはない。

(ウ) A食品における本件こんにゃくの製造装置は,従来,A食品が糸こんにゃくの製造に使用してきた機器をそのまま使用した上,糸こんにゃく用の目皿に代えて,本件こんにゃく用の目皿(孔間隔は1mm前後)を取り付けたものであり,また,本件こんにゃくの製造方法は,上記製造装置を用いるほかは,A食品が従前行っていた糸こんにゃくの製造条件と同じであった(甲10,29,79,80)。

(エ) A食品が昭和58年11月に初めて製作した「しゃぶしゃぶこんにゃく」の包装袋には,「特許出願中」と表示されている。これは,A食品が,本件こんにゃくを開発したものであり,長年こんにゃくの製造販売に携わってきたA食品でさえも,開発当時,そのような商品を見たことがなかったことから,特許出願をしようと考えたために表示したものである。実際には,A食品は本件こんにゃくにつき特許出願をしなかったが,「特許出願中」との表示をしたこと自体,A食品が本件こんにゃくを開発したことの証左であるというべきである。

ウ 以上によれば,本件公然実施の事実は認められるというべきであるから,これを認めるに足りないとした審決の認定判断は誤りである。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1)~(3)の事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。

3 被告の反論

審決の認定判断に誤りはなく,以下に述べるように,原告主張の取消事由には理由がない。

(1) 発見品について

ア A食品は,平成12年7月に,被告Xが代表者であり,本件実用新案の専用実施権者でもあるJ有限会社(以下「J」という。)から,本件実用新案権に基づく権利主張を受けているから,本件実用新案登録を無効とすることにつき明確な利害関係を有している。そして,現に,A食品及びその関係者は,本件実用新案登録を無効とすべく,原告の訴訟追行に協力し続けているのであるから,A食品及びその関係者によって作成された証拠は,純粋な第三者の作成に係る証拠ではなく,原告と同様,本件実用新案登録を無効とすることによって利益を受ける利害関係人の作成した証拠にすぎないものとして評価されるべきである。

イ 原告が本件実用新案登録の無効理由として主張する本件公然実施の事実については,これと同一の事実が,J等がK株式会社及びL株式会社を被告として提起した別件特許侵害訴訟においても主張され,また,原告に対する別件特許侵害訴訟においても,同様の主張がされたが,いずれも裁判所には採用されず,権利侵害を認める旨の判決がされている(前者につき,大阪地裁平成14年10月29日判決・同庁平成11年(ワ)第12586号,平成13年(ワ)第3381号事件〔甲4の10〕,大阪高裁平成16年5月28日判決・同庁平成14年(ネ)第3649号事件。後者につき,大阪高裁平成16年5月28日判決・同庁平成14年(ネ)第1693号事件)。同様に,本件審判事件においても,本件公然実施の事実は認められなかった。

このような一連の裁判所及び特許庁の判断を経て,本件訴訟を提起した原告にとって,従前の裁判所及び特許庁の判断を覆すため,本件実用新案登録出願前にA食品によって製造販売されていた当時の本件こんにゃくの形状を客観的に裏付ける証拠は,是非とも入手したい証拠であり,もし,それが入手できなければ,本件訴訟においても敗訴する可能性が大であることは明らかであった。

そのような状況の下,本件審判事件に係る審決が出された直後の平成16年2月29日,発見品が発見されたというのである。そして,その発見場所は,原告の訴訟追行に協力し続けているA食品の支配領域内である。

以上のような,発見品が発見されたタイミングのよさ,発見品の発見によって,原告のみならずA食品も利益を受けること,原告の訴訟追行に協力し続けてきたA食品の旧工場内に存在していたにもかかわらず発見品が平成16年2月29日まで発見されなかったこと等にかんがみれば,発見品が発見されたこと自体,不自然極まりないというべきである。

ウ 発見品の内容物であるこんにゃくは,幅1mm程度の糸こんにゃくが集まって構成されている(甲53の1)。糸こんにゃくは目皿から押し出された直後に膨張するため,孔径1.5mmの目皿では,このような形状のこんにゃくを製造することはできない。したがって,発見品に係るこんにゃくは,孔径0.9mmの目皿を使用して製造されたものであると考えられる。他方,原告が,A食品のCによって製作されたとする,本件目皿(甲5,10)の孔径は0.9mmであり,確かに,この限りであれば,矛盾は生じない。

しかしながら,本件審判事件における証人Cの供述内容(甲29)によれば,発見品の製造日とされる昭和60年10月27日及び同年11月1日当時,孔径0.9mmの本件目皿は,本件こんにゃくの製造には使用されておらず,その後に製作された孔径1.5mmの目皿が使用されていたものと認められるから,発見品に係るこんにゃくの形状と明らかに矛盾する。すなわち,本件審判事件の証人尋問において,証人Cは,当初製作した孔径0.9mmの本件目皿は,孔が詰まりやすく,また,自動包装機が使えずに手作業になってしまうという欠点があったことから,昭和58年春ころまでに,新たに孔径1.5mmの目皿を製作し,以後,孔径0.9mmのものは使用していない旨供述しているのである(甲29の19~20頁,33頁)。

また,原告提出に係る大量の取引伝票類が示すとおり,昭和60年10月及び11月当時は,「しゃぶしゃぶこんにゃく」という名称の商品が大量に生産され,取引先に納入されていた時期である。その時期に,上記のような欠点を有し,量産に耐えられない孔径0.9mmの目皿が,実際に使用されていたとは到底考えられない。

そうすると,発見品の製造日とされる昭和60年10月27日及び同年11月1日当時,孔径0.9mmの目皿は,A食品において使用されていなかったというべきであるから,発見品は,その時期にA食品の工場で製造されたものであると認めることはできない。

エ なお,原告は,大量の取引伝票類を証拠提出しているにもかかわらず,当初,発見品の製造時期であるとされる肝心の昭和60年秋~昭和61年春の間の取引伝票類については証拠提出していなかった。このことは,その間の取引伝票類を証拠提出すると,原告にとって不利益な事実が明らかとなることをおそれたためであると推認することができる。

オ これに対し,原告は,発見品の包装袋のシール線が5本であることを製造時期の根拠として強調するが,シール線の本数は製造時期を特定し得るものではない。

また,発見品の製造日付は日付印によって表示されているが,発見品と同時に発見されたとされる,その他のA食品製の製品は,いずれもラベルを貼付する方法によって製造日付が表示されており,発見品に係る「しゃぶしゃぶこんにゃく」についてのみ,製造工程の手間を増やすことになる日付印による日付表示の方法を採ることが合理的であったとは考えられない。原告は,その理由につき,取引先の要請があった等の主張し,その裏付けとして,A食品の従業員等の陳述書(甲79~84)を提出しているが,原告の協力者であるA食品の従業員が作成した陳述書の信用性は,ほとんどない。

さらに,原告は,発見品の日付印の表面と新たに押された日付印の表面とを顕微鏡で観察した結果(甲121,124)に基づく主張をしているが,両者が異なっていたとしても,そのことは,発見品の日付印が,その日付どおり20年前に押されたものであることを証明するものでも,推認させるものでもないから,原告の主張は失当である。

カ ちなみに,原告ないし原告側の関係者が,発見品を事後的に製造することは可能である。

(ア) 包材については,原告が「いび特産 こんにゃく」の使い残りの包材を証拠提出していること(甲77)からすれば,発見品に使われている「しゃぶしゃぶこんにゃく」の包材の使い残りがあったことを推認することができる。

(イ) 発見品の内容物のこんにゃくは,こんにゃく同士がくっつきあって,弾力を失い,腐敗しそうな状態であり,確かに,その状態から見て,ある程度,年月が経ったものであることはうかがうことができる。しかしながら,こんにゃくは,ゲル化剤の量が少なければ,加熱処理しても接触した状態で放置されると次第にくっつき合ってしまう性質を失わないし,また,ゲル化剤の量が少なければ,充填包装後のpHが通常よりも低くなるので腐敗しやすい状態となることは技術常識である。したがって,ゲル化剤の量を意図的に少なくして充填包装すれば,発見品の内容物のようなこんにゃくを作ることは十分に可能である。

(ウ) 本件審判事件において,原告は,甲2の13添付の写真について,「写真1~3撮影者:O」,「撮影場所:A食品工業株式会社」,「撮影日:平成14年4月10日」,「写真5:Aの目皿で製造されたこんにゃくの端面写真」,「撮影者:M」,「撮影場所:N株式会社」,「撮影日:平成14年4月15日」との説明を行った(甲8の6頁)。また,本件審判事件における証人Cは,LのOなる人物が,本件目皿を用いて,本件こんにゃくの製造を再現した旨述べている(甲29の33頁)。以上によれば,本件目皿を用いて発見品と同じものを製造することは,いつでも可能であったことが明らかである。

(エ) これに対し,原告は,発見品の包装袋の膨らみ方に差異がある事実を,発見品がねつ造でないことの根拠として主張するが,むしろ,そのような差異が生じたのは,発見品が,その表示された製造年月日に通常の生産過程において生産されたものではなく,実験的な再現により少量生産したものであるために,充填ムラが発生したためであると推認するのが相当である。

また,原告は,発見品の汚れの状況や錆の付着の状況を強調するが,そのような事実は,必ずしも20年の歳月を必要とするものではない。

キ 以上のとおり,発見品は,表示された製造年月日当時にA食品の工場で製造されたものであると認められない以上,当該事実の存在を前提に展開されている原告の主張は,いずれも失当というべきである。

(2) 本件公然実施の事実について

ア 原告は,本件こんにゃくは,昭和56年秋ころ,A食品の専務取締役であるCが開発したものである旨主張し,それに沿う証拠として,Iとの取引記録等(甲16,17)を提出している。

原告の上記主張は,Cが当初製作した本件目皿は,昭和56年にIから購入した孔の開いていない11枚の目皿を素材として製作されたものであるとの事実を前提とするものであると解される。しかしながら,上記11枚の目皿については,Iの売上台帳(甲2の22添付)において「巣板」と表現されているところ,Iの売上台帳(甲16添付)における,他社への売上分をも含めた記載を総合すれば,Iは,「巣板」という商品について具体的な特徴を加味した様々な記載を用いており,そこでは,「巣板」という表現は,孔の開いた状態のものに対し使用され,孔の開いていないものには「無地」という修飾語を用いて表現していたものと認められる。また,本件審判事件の証人尋問において,証人Cは,「巣板は,Iから買った11枚以外は,ほかにはどこからも買ってない」(甲29の6頁)旨供述しているが,上記売上台帳によれば,昭和58年から昭和62年までの間,IからA食品に販売された目皿は,上記供述に係る11枚のほかに14枚も存在し,合計25枚である。そして,その中には,昭和62年9月5日に販売された「無地スイタ」が含まれているのである。

以上によれば,Iとの取引記録は,Cが当初製作した本件目皿が,昭和56年にIから購入した目皿を素材とするものであるとの原告主張を裏付けるものではない。かえって,昭和62年9月5日にIからA食品に「無地スイタ」が販売されているとの事実があることからすれば,真実は,その後にCによって孔開け作業が開始され,本件こんにゃくの開発に至ったものと認めるのが相当であり,結局,本件における原告の主張は,事実関係を約6年遡らせたものであるというべきである。

イ また,本件審判事件におけるCの供述内容ないし同人作成の陳述書の記載によれば,Cは,本件目皿の全体に孔を開け終わるまで,何ら試験をしなかったということになるが,これは不自然である。孔開け作業は時間も掛かり,体力的にも大変な作業であったとされるが,孔径0.9mmの孔を目皿全体に開けた後に,期待どおりの効果を奏さなかった場合には,それまでの作業がすべて無駄になるのである。とすれば,目皿全体の4分の1~3分の1程度の穴開け作業が済んだ段階で,当該目皿を糸こんにゃく製造装置にセットし,所期の効果を奏するかどうかを試験するのが通常というべきであり,そうした確認を何ら行わないまま,半年の期間を掛けて本件目皿の穴開けを完成させたというCの供述内容等は,到底信用することができるものではない。

これに対し,原告は,本件目皿全体の穴開けを完成しないまま,通常の

糸こんにゃくの製造装置で試験を行えば,目皿の孔面積が小さいため,圧力が過剰となって練り機と目皿とをつなぐホースが外れてしまうおそれがあるなどと反論するが,Cが,本件目皿の作成に当たり,糸こんにゃく製造装置の吐出量と目皿の孔の総面積とのバランスを計算した上で,目皿の孔径と孔数を決定したという事実は認められないし,事後的に,その点に関する試行錯誤を行ったという証拠もない。他方,本件審判事件における証人Cの供述内容によれば,本件目皿を糸こんにゃく製造装置に取り付けて使用する際に,目皿以外のものは何も変えていないとされる(甲29の15頁)。そうすると,Cは,事前の計算も,事後的な試行錯誤もなく,最初から偶然に,既存の糸こんにゃく製造装置の吐出量に適応した目皿を作成したということになるが,そのようなことは不自然というほかはない。

ウ 原告の提出した大量の取引伝票類(甲100~120)を精査すると,平成元年11月20付け伝票において,突如として,納品価格208円,小売価格298円の「Aシャブシ」と記載された「しゃぶしゃぶこんにゃく」が現れる(甲105)。その前後の伝票には,従来と同じ納品価格145円,小売価格198円の「シャブシャブコン」と記載された「しゃぶしゃぶこんにゃく」が存在するから,平成元年11月20日以降は,伝票上,「Aシャブシ」と記載される高額の商品と,「シャブシャブコン」と記載された低額の商品とが併存することになる。その後,両商品は継続的に納品され,高額の商品は,平成2年11月30日には小売価格が348円に値上げされ,同年12月3日には,納品価格が243円,小売価格が348円となり,他方,低額商品の方は,同じころ,納品価格が160円,小売価格は228円と値上げされた。

以上の事実からすれば,平成元年11月20日に突如として現れた高額商品こそが,本件実用新案の実施品である「表面筋状薄肉こんにゃく」であり,従来商品に比べ付加価値があることから,従来品の1.5倍に相当する高価格で取り引きしたものと考えられる。

エ 本件においては,C作成の陳述書(甲80)など,関係者の詳細な陳述書が提出されている。しかしながら,原告とA食品及びその専務取締役であるCとは,過去の敗訴判決等を踏まえて学習しながら,本件訴訟における証拠を用意しているのであり,陳述書の出来がよいことは当然であって,そうであるからといって,その記載内容が使用できるということにはならない。むしろ,陳述書の記載内容が敗訴判決等を受けるたびに修正され,変容していることに注意すべきであり,その記載内容が具体的かつ詳細になっていることこそ不自然であり,信用し難いというべきである。

(3) 以上によれば,本件公然実施の事実は認められないとした審決の認定判断に誤りはなく,原告の取消事由の主張は理由がない。

当裁判所の判断

1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(考案の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

本件訴訟の争点は,本件公然実施の事実を認めるに足りないとした審決の適否である。

2 公然実施の有無

(1) 発見品について

ア 原告は,①A食品が,本件出願日前に製造販売していた「しゃぶしゃぶこんにゃく」については,「60.10.27製造」又は「60.11.1製造」の日付印が押された発見品が存在すること,②発見品の内容物であるこんにゃくの形状,構造は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一であること,③発見品の製造時期は,その日付印のとおり,いずれも本件出願日前であることを主張する。

これに対し被告は,発見品が存在すること及びそれに原告主張に係る日付印が押されていること,及び,発見品に係るこんにゃくの形状,構造が,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一であることについては,明らかには争わないから,この点に関する実質的な争点は,発見品の製造時期の点のみであるということになる。

イ そこで,発見品の製造時期について検討する。そもそも,発見品には,上記のとおり,「60.10.27製造」又は「60.11.1製造」の日付印が押されていることから,発見品自体又は日付印部分がねつ造に係るものであることを疑わせる事情その他の特段の事情が認められない限り,上記日付印から,発見品が昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであることが推認されるというべきである。

加えて,証拠(甲27,30の1~3,31,32,33の1,2,34の1~5,35の1~7,43,44,53の1,54,55の1~9,56,60,61の1,2,62の1,2,77,79)及び弁論の全趣旨(釈明処分としての検証の結果を含む。)によれば,以下の事実を認めることができる。

(ア) 発見品は,平成16年2月29日,A食品の旧工場において,原告代理人弁理士小林正治がバケツの中から発見したものである。

(イ) 発見品の包装袋には,塵芥又はバケツの錆と思われる汚れが付着している上,フィルムが白濁し,古びた外観である。その汚れ方は一様ではなく,部分的に錆と思われる汚れが濃く付着している部分もある。また,発見品のうち,一つの袋は,他のものに比べ,包装袋がやや膨張していた。なお,発見品及びその包装袋に押された日付印には,開封や改ざんがされた痕跡は見当たらなかった。

(ウ) 発見品の内容物であるこんにゃくは,幅1cm,厚さ2mm弱程度の帯状のこんにゃくであり,その1本ずつを子細に観察すると,細かい糸状のこんにゃくが11本程度横に接着して帯状になったものであり,白色の部分と半透明の部分とで縞模様を形成していた。

(エ) 発見品の内容物であるこんにゃくは,こんにゃく同士が一部くっつき合った状態にあった上,全体的にもろく,親指と人差し指とで挟み,すり合わせると,容易に潰れて,のり状になった。

これに対し,原告代理人弁護士五藤昭雄が平成16年9月17日に購入した,A食品製造に係る本件こんにゃく(賞味期限平成16年12月15日)は,同年10月22日の時点において,こんにゃく同士がくっつき合うこともなく,発見品の内容物であるこんにゃくに比べ,明らかに弾力を有していた。

(オ) 発見品が存在したバケツの中ないし発見場所の周囲からは,A食品製及び他社製のこんにゃく,古新聞その他多数の物品が発見された。これらの物品は,いずれも全体的に汚れが付着し,古びた外観であり,また,製造日付等が確認できるものについては,その日付は,いずれも,昭和61年以前である。

(カ) A食品は,昭和61年に新工場を建築し,以後,こんにゃくの製造は新工場で行うようになった。現在,旧工場は,物置として使用されている状態にある。

(キ) A食品の製造販売する「しゃぶしゃぶこんにゃく」の包材は,Q株式会社から,昭和58年11月24日を初回として,これまでに5回納入されているが,その間に4回デザインを変更しており,初回の納品に係るデザインと2回目の納品(平成2年10月17日及び同月19日)に係るデザインとは異なっている。発見品の包装袋のデザインは,初回に納入されたものと同一である。

ウ 上記認定事実によれば,発見品は,その包装袋に押された日付印のとおり,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであると認めるのが自然というべきであり,この認定を覆すに足りる的確な証拠は見当たらない。

エ これに対し,被告は,発見品が昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであるとは認められない旨主張するが,以下のとおり,被告主張の事情は,いずれも,上記ウの認定判断を左右するには足りない。

(ア) 被告は,発見品が発見されたタイミングのよさ,発見品の発見によって,原告のみならずA食品も利益を受けること,原告の訴訟追行に協力し続けてきたA食品の旧工場内に存在していたにもかかわらず,発見品が平成16年2月29日まで発見されなかったこと等にかんがみれば,発見品が発見されたこと自体,不自然極まりない旨主張する。

しかしながら,発見品が発見されたタイミングがよいこと,発見品の発見によって,原告のみならずA食品が利益を受けること等は,被告の主張するとおりであるとしても,そのことから直ちに,発見品の製造時期がその製造日付とは異なる時期であることが推認されるというわけではないから,この点に関する被告の主張は,上記ウの認定判断を左右するものではない。

(イ) また,被告は,発見品は孔径0.9mmの目皿で製造されたものであるとした上,本件審判事件における証人Cの供述内容(甲29)等によれば,昭和60年10月及び11月当時,孔径0.9mmの本件目皿は本件こんにゃくの製造に使用されていなかったと認められるから,両者は矛盾し,発見品はその時期にA食品の工場で製造されたものであるとは認められない旨主張する。

そこで検討すると,発見品が孔径0.9mmの目皿で製造されたと考えられることについては,当事者間に争いがなく,また,A食品の専務取締役であるCにより昭和56年秋ころに完成されたとされる本件目皿(甲5,10)は,その孔径が0.9mmであるから,その限りでは矛盾がないことは,被告も自認するとおりである。これに対し,被告は,本件審判事件における証人Cの供述内容によれば,昭和58年春ころに,孔径1.5mmの新しい目皿が製作された以降,孔径0.9mmの目皿は使用していないと認められること等を根拠に,発見品は昭和60年10月及び11月にA食品の工場で製造されたものであるとは認められない旨主張する。しかしながら,Cは,孔径1.5mmの目皿に切り換えた後も,製造量が少量の場合には,たまに孔径0.9mmの目皿を使うことはあった旨,明確に供述しており(甲29の45頁),そうとすれば,発見品が昭和60年10月及び11月にA食品の工場で製造されたものであるとしても,そのことが,本件審判事件における証人Cの供述内容と矛盾するとまでいうことはできないから,被告の上記主張は採用の限りではない。

(ウ) 被告は,発見品の製造日付は日付印によって表示されているが,発見品と同時に発見されたとされる,その他のA食品製の製品は,いずれもラベルを貼付する方法によって製造日付が表示されており,発見品に係る「しゃぶしゃぶこんにゃく」についてのみ,製造工程の手間を増やすことになる日付印による日付表示の方法を採ることが合理的であったとは考えられないとも主張する。

被告の上記主張は,発見品に係る「しゃぶしゃぶこんにゃく」についてのみ,製造日付を日付印で表示していること自体,発見品の製造日が製造日付どおりでないことを疑わせる事情であるとする趣旨であると解される。しかし,発見品と同時に発見されたA食品製及び他社製のこんにゃくその他の物品の中にも,製造日付を日付印で表示しているものが相当数存在することが認められる(甲35の3及び5~7,53の1,55の1,3及び8,60)から,被告の主張はその前提を欠くものである上,証拠(甲80~84)によれば,ラベルは貼り替えが可能であり,かつ,はがれやすいため,販売店から,日付印を包装袋に直接押してもらいたいとの要請があったことから,A食品では,この要請に基づいて包装袋に日付印を押す方法を採用していたとの事情がうかがわれ,この間の経緯に,格別,不自然な点はないというべきであるから,いずれにしても,被告の上記主張は採用の限りではない。

(エ) さらに,被告は,意図的にゲル化剤を少なくして充填包装すること等により,発見品を事後的に製造することは可能である旨主張する。

しかしながら,被告が主張する方法によって,真実,発見品の内容物と同様のものを製造できることを示す証拠は何ら提出されていないから,この点に関する被告の主張は,上記ウの認定判断を左右するに足りるものではない。

オ 以上によれば,発見品は,その日付印のとおり,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであると認めるのが相当である。

(2) 本件公然実施の事実について

以下,発見品は,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであるとの上記(1)の認定を前提に,本件公然実施の事実の有無について検討する。

ア 証拠(甲2の1の1~13,2の15及び22,2の23の1~7,10,16,18,20,25,53の1,56,66の1~7,67,68の1~6,69~72,73の1,2,74の1~4,78~80,85~97,98の1~7,99の1~4,100の1~7,101の1~7,102~120,126の1~8,127~129,130の1~9,131の1~6)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

(ア) 糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出された後,膨張して,押し出された孔よりも少し大きくなること,そのため,糸こんにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしまうことがあることは,昭和56年以前から,こんにゃく製造業者にとって周知の事項であった。

(イ) A食品の専務取締役であるCは,昭和55年秋ころ,株式会社R(以下「R」という。)の従業員であったEから,「タレの乗りやすいこんにゃくを開発してはどうか」と言われたことをきっかけとして,糸こんにゃくを数本並べて,あえて引っ付かせたものを製品として製造することを思い付いた。従来の糸こんにゃく用の目皿は,押し出される糸こんにゃく同士が引っ付かないよう,孔間隔が広くなっており,糸こんにゃく同士が引っ付くように孔間隔を狭くした目皿は販売されていなかったことから,Cは,従来A食品がこんにゃく製造機械を購入していたIから孔の開いていない目皿を購入した上,自ら孔開けして,孔間隔を狭くした目皿を製作することとした。

(ウ) A食品は,昭和56年5月11日,Iから孔の開いていない目皿を4枚購入し,そのころ,Cは,これを素材として,上記孔間隔を狭くした目皿の製作を開始した。Cは,手で持つタイプのドリルをドリルスタンドにセットし,ドリルスタンドに金属製のテーブルを取り付け,このテーブルに木の台を傾斜させて固定し,その上に,孔の開いていない目皿を乗せて,その目皿を左手で押さえながら,右手でスタンドにセットされたドリルを操作して,一つずつ孔を開けていった。ドリルは直径0.9mmのものを用い,孔の間隔は1mm前後としたが,ドリルが曲がったり折れたりせず,かつ,隣り合う孔同士がつながらないようにしながら孔を開けるのは大変な作業であり,1枚の目皿に300個以上の孔を開け終わるのに数か月を要した。その後,A食品は,Iから,昭和56年9月2日に孔の開いていない目皿4枚を,さらに昭和56年10月30日にも同様の目皿3枚を購入し,Cは,試行錯誤しながら,本件こんにゃく用の目皿の製作作業を続けた。

(エ) こうして,遅くとも昭和58年7月ころまでには,A食品は,旧工場において実際に本件こんにゃくの製造を開始した。その製造方法は,従来,糸こんにゃくの製造に使用していた,こんにゃく練り機,流し釜及び目皿取付け治具等の既存の装置を用い,糸こんにゃく用の目皿の代わりに,Cが製作した本件目皿(孔間隔は1mm前後)を取り付けて行う方法であった。それによって製造されたこんにゃくの構造,形状は,発見品に係るこんにゃくと同様の特徴を有する表面筋状薄肉こんにゃくである。

(オ) A食品では,本件こんにゃくの製造開始当初は,Rにおける試験販売であり本格的に販売されるかどうかも決まっていなかったことから,無地の透明フィルムで包装した後,既存の「きしめん風こんにゃく」のラベルを付して納品した。その後,A食品は,昭和58年10月26日ころ,Qに対し,本件こんにゃく用の包材として,「しゃぶしゃぶこんにゃく」の名称を記載した包材を発注し,当該包材が同年11月24日に納入された後は,「しゃぶしゃぶこんにゃく」の名称で本件こんにゃくを販売するようになった。

(カ) 以後,A食品は,今日に至るまで,本件こんにゃくに係る「しゃぶしゃぶこんにゃく」を,多数の販売店に納入し続けており,販売店では,同こんにゃくを販売している。上記Rのほかにも,例えば,株式会社T,株式会社U,株式会社V,株式会社W等がその販売店となっている。

イ 上記アの認定事実を総合すれば,A食品は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の表面筋状薄肉こんにゃくを,遅くとも,A食品が本件こんにゃくの製造販売を本格的に開始した昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めるのが相当である。

ウ これに対し被告は,Iの売上台帳(甲16添付)によれば,Iが昭和56年5月11日にA食品に販売した目皿は,孔が開いている状態のものであったと

認められるなどとした上,Cが,本件こんにゃく用の目皿を製作し始めたのは,昭和62年9月5日にIからA食品に対し「無地スイタ」が販売された後である旨主張する。

そこで検討すると,証拠(甲2の22,16)によれば,昭和56年~昭和62年の間,IからA食品に販売された目皿の種類,数量及び価格は,

① 昭和56年 5月11日「巣板」   4枚 3万2000円

② 昭和56年 9月 2日「巣板」   4枚 3万2000円

③ 昭和56年10月30日「巣板」   3枚 2万4000円

④ 昭和58年 9月27日「特殊スイタ」1枚 2万0000円

⑤ 昭和58年10月15日「スイタ」  4枚 3万6000円

⑥ 昭和59年 7月31日「特殊巣板」 2枚 3万6000円

⑦ 昭和60年 4月15日「巣板」   3枚 6万0000円

⑧ 昭和60年10月18日「巣板」   2枚 2万6000円

⑨ 昭和62年 9月 5日「無地スイタ」2枚 2万0000円

というものであり,昭和56年に販売された上記①~③の「巣板」の単価は,1枚8000円と,他の目皿の単価に比して,明らかに安価であることが認められ,このことは,上記①~③に係る目皿が,加工の加えられていない無地の目皿であったことを推認させるものである。被告は,Iの他社への売上分をも含めた売上台帳の記載(甲16添付)を総合すれば,Iでは,「巣板」という表現は,孔の開いた状態のものに対し使用され,孔の開いていないものには「無地」という修飾語を用いて表現していたものと認められる旨主張するが,仮に,そうとすれば,通常の孔の開いた目皿であるにもかかわらず,上記①~③のもののみが,他の「巣板」の単価(他社への売上分を含め1万2000円~2万0000円)よりも格段に安価であるのかを説明し得ないというほかはないから,この点に関する被告の主張は採用することができない。

また,被告は,昭和62年9月5日に,IからA食品に対し「無地スイタ」2枚が販売された事実を指摘するが,Cが,当初,孔間隔を0.9mmの本件目皿を製作した後,孔間隔を1.5mmのものを新たに製作したことは関係証拠から明らかであるところ,後者の製作時期が昭和62年であったとすれば,上記「無地スイタ」販売の事実とも,格別,矛盾は生じないし,仮に,そうでないとしても,昭和62年9月ころに,A食品が,本件こんにゃく製造用の目皿を追加で製作した可能性も存するから,この点に関する被告の指摘は,必ずしも,上記ア及びイの認定判断を左右するものではない。

さらに,被告は,本件審判事件における証人尋問において,証人Cが,「巣板は,Iから買った11枚以外は,ほかにはどこからも買ってない」(甲29の6頁)旨供述していることを指摘する。しかしながら,被告の指摘に係るCの供述内容は,本件目皿の素材として,当初,Iから購入した孔の開いていない目皿の枚数についてのものであると解することができるから,この点の指摘も,上記ア及びイの認定判断を左右するに足りるものではない。

エ また被告は,原告の提出した取引伝票類(甲100~120)を精査すると平成元年11月20日に突如として価格の高い「しゃぶしゃぶこんにゃく」が現れるが,これこそが,本件実用新案の実施品である「表面筋状薄肉こんにゃく」である旨主張する。

しかしながら,被告指摘に係る単価の高い「しゃぶしゃぶこんにゃく」は,内容量250gの従来品に比べて内容量の多い,内容量400gの商品であったことがうかがわれ(甲125),被告の上記主張を裏付ける証拠はないから,被告の上記主張は採用の限りではない。

オ さらに被告は,Cが本件目皿の全体に孔を開け終わるまで何ら試験をしなかったことは不自然であるなどとして,その供述内容等は信用することができない旨主張する。しかしながら,Cが試験を行わなかった理由については,原告が主張するとおり,目皿全体の穴開けを完成しないまま,通常の糸こんにゃくの製造装置で試験を行えば,目皿の孔面積が小さいため,圧力が過剰となって練り機と目皿とをつなぐホースが外れてしまうおそれがある上,仮に,こんにゃくが押し出されたとしても,そのこんにゃくは過剰圧力のため,設計値とは異なる太さとなることが予想されることによるものであるとすれば,格別,矛盾なく理解することができるから,被告の上記指摘は,Cの供述内容等の信用性を減殺するものではないというべきである。

なお,被告は,Cが本件目皿の作成に当たり糸こんにゃく製造装置の吐出量と目皿の孔の総面積とのバランスを計算した上で目皿の孔径と孔数を決定したという事実は認められないし,事後的に,その点に関する試行錯誤を行ったという証拠もないなどとした上で,事前の計算も,事後的な試行錯誤もなく,最初から偶然に,既存の糸こんにゃく製造装置の吐出量に適応した目皿を作成したことは不自然であるとも主張する。しかしながら,Cが,本件目皿の作成に当たり,一定の試行錯誤をしたことは,同人作成に係る様々な形態の目皿の存在(甲2の23の1~7)によって推認することができるというべきであるから,この点に関する被告の主張は,その前提を欠くというべきである。

このほか,被告は,A食品が本件実用新案登録を無効にすることにつき利害関係を有し,原告の訴訟追行に協力し続けていること等を理由として,C作成の陳述書(甲80)その他の関係証拠の信用性を論難するが,そもそも,上記(1)のとおり,昭和60年10月又は11月に製造された発見品の存在が認められ,これがC作成の陳述書(甲80)を始めとする関係証拠と符合することからすると,それらの証拠は相互にその信用性を高め合うものであるということができるから,この点に関する被告の主張も採用の限りではない。

カ ところで,審決は,「『高級料亭の味 しゃぶしゃぶ』の包装袋に印刷されている『製法特許出願中』に着目しても・・・そのころA食品が出願したものは,板こんにゃくに刃物で切込みを入れる技術に関するものであり,上記写真のような表面に凹凸を有する縞模様の帯状こんにゃくの製法に係る特許出願をしていなかったのであるから,上記『製法特許出願中』と表記されていることをもって,そこに充填されていた製品が甲第5号証の1ないし2(判決注,本訴甲2の5の1,2)の写真のような形状のものであったとすることはできない。むしろ,上記『製法特許出願中』との表記は,『高級料亭の味 しゃぶしゃぶ』という製品が,上記写真のような表面に凹凸を有する縞模様の帯状こんにゃくとは異なるものであった可能性を示唆するものである」(審決14頁第4段落~第5段落)と説示して,本件こんにゃくに係る包装袋に記載された「製法特許出願中」との文言と,昭和57年10月30日にA食品が本件考案とは異なる発明について特許出願しており(甲4の5),当時,A食品が特許出願した事実は他に認められないこととを総合すれば,昭和57年~昭和58年当時,A食品が「しゃぶしゃぶこんにゃく」の名称で製造販売していたこんにゃくは,本件こんにゃくとは異なる構造,形状のものであったことが推認される旨示唆している。

しかしながら,実際には,本件こんにゃくの製法について特許出願されないまま,その包装袋に「製法特許出願中」との記載がされていたとしても,本件審判事件における証人B及び同Cの供述内容にあるとおり,当初は特許出願する意思があり,その旨包装袋に表示したが,その後断念したとの事情(甲28の14~15頁,29~30頁,甲29の37~38頁)があるとすれば,その間の経緯自体を,格別,不自然ないし不合理であるということまではできないし,原告が主張するように,本件こんにゃくに係る包装袋に「製法特許出願中」との記載をしたことは,真実,A食品が本件こんにゃく及びその製法を開発したためであると解することも可能であるから,結局,審決の上記説示に係る事情も,上記ア及びイの認定判断を左右するに足りないというべきである。

(3) 以上,本件訴訟において新たに提出された証拠を含む本件全証拠を総合すると,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」は,A食品が,遅くとも昭和58年11月ころには公然実施していた本件こんにゃくと同一であると認めるのが相当であるから,本件公然実施の事実を認めるに足りないとした審決の認定判断は,結果的に誤りであったというほかはなく,原告の取消事由の主張は理由がある。

3 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,審決は,違法として取消しを免れない。

よって,原告の請求は理由があるから認容し,主文のとおり判決する。

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