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平成17年(行ケ)第10048号 審決取消請求事件


主文

特許庁が無効2003-35411号事件について平成17年1月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文と同旨

第2 当事者間に争いがない事実

1 特許庁における手続の経緯

(1) 被告は,発明の名称を「マルチトール含蜜結晶の製造方法」とする特許第2132273号〔平成3年5月23日出願(以下「本件出願」という。),優先権主張日・平成2年6月25日(以下「本件優先日」という。)及び平成3年2月26日,優先権主張国・日本,平成9年9月26日設定登録。以下「本件特許」という。〕の特許権者である。

(2) 原告は,平成15年10月3日,被告を被請求人として,本件特許のうち請求項1及び請求項4に係る発明の特許を無効とすることを求めて審判の請求をした。

特許庁は,上記請求を無効2003-35411号事件として審理した上,平成17年1月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年2月7日に原告に送達された。

2 本件特許の出願の願書に添付した明細書(甲10。「本件明細書」という。)の特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1ないし4に記載された発明(以下,請求項1に記載された発明を「本件発明1」,請求項4に記載された発明を「本件発明4」といい,これらの発明と請求項2,3に記載された発明を併せて「本件発明」という。)の要旨

【請求項1】 マルチトール含蜜結晶を製造するに際し,マルチトール水溶液を細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給し,種結晶の存在下で冷却・混練してマルチトールマグマを生成させた後,押出しノズルから連続的に押出すことを特徴とする,マルチトール含蜜結晶の製造方法。

【請求項2】マルチトール含蜜結晶を製造するに際し,濃度80~98重量%で固形分中のマルチトール含有量が80~99重量%であるマルチトール水溶液を,連続する複数のゾーンからなる細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機の第1ゾーンに連続的に供給し,50~90℃迄冷却・混練して,中のマルチトール水溶液が50~80℃に達した第2ゾーンに,押出量に対して3~80重量%の種結晶を連続的に又は間歇的に添加・混練して,更に連続する第3ゾーン内で冷却・混練し,最終ゾーンで25~60℃迄冷却・混練した後,形成されたマルチトールマグマを,押出しノズルから連続的に押出すことを特徴とする,マルチトール含蜜結晶の製造方法。

【請求項3】マルチトール含蜜結晶を製造するに際し,

a)濃度80~98重量%で固形分中のマルチトール含量が80~99重量%であるマルチトール水溶液を,連続する複数のゾーンからなる細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機の第1ゾーンに連続的に供給し,50~90℃迄冷却・混練して,中のマルチトール水溶液が50~80℃に達した第2ゾーンに,押出量に対して3~80重量%の種結晶を連続的に又は間歇的に添加・混練して,更に連続する第3ゾーン内で冷却・混練し,最終ゾーンで25~60℃迄冷却・混練した後,形成されたマルチトールマグマを押出しノズルから押出す第1工程,

b) 押出されたマルチトールマグマを15~80℃で5~30分間熟成させる第2工程,

c) 次いで,熟成したマルチトールマグマを粗粉砕し,80~115℃,60分以上の条件で乾燥し,粉砕・分級する第3工程,の各工程を逐次的に経由して製造することを特徴とする,マルチトール含蜜結晶の製造方法。

【請求項4】 マルチトール水溶液が,ソルビトール0.5~15重量%,マルチトール80~98重量%及びマルトトリイトール及びそれ以上の分子量(DP≧3)の糖アルコール1.5~10重量%の組成を有することを特徴とする,請求項1~3の何れか一つに記載のマルチトール含蜜結晶の製造方法。

3 審決の理由

審決の理由は,別添審決謄本写し記載のとおりであり,その要旨は,次のとおりである。

(1) 本件発明1について

ア 本件発明1は,特公昭63-2439号公報(甲6,以下「甲6刊行物」という。)に記載された発明(以下「甲6発明」という。)及び栗本技報No.15号「KRCニーダの用途例について」(甲9,103頁~117頁,株式会社栗本鐵工所・昭和61年7月10日発行,以下「甲9刊行物」という。)に記載された発明(以下「甲9発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする請求人(原告)の主張(理由2-1)について

(ア) 本件発明1と甲6発明とは,「マルチトール含蜜結晶の製造方法であって,種結晶の存在下にマルチトール溶液を冷却・混練してマルチトールマグマを生成させ,析出した結晶を採取するものである点」で一致し,本件発明1においては,「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機を用い,冷却・混練して生成したマルチトールマグマを押出しノズルから連続的に押出す」ものであるのに対して,甲6発明では,そのような特定がない点で異なっている(審決謄本9頁第1段落)。

(イ) 甲9刊行物は,KRCニーダの用途例を紹介した刊行物であり,その表4に用途及び製品として,「人工甘味料(注 人口甘味料)(各種水あめ,ソルビトール),有機薬品」と記載されているが,この記載中の「各種水あめ」が,マルチトールを意味するものと解することは到底できないし,この記載がマルチトールの晶析に使用できることを示唆しているものともいえない(同頁下から第2段落~10頁第2段落)。

(ウ) KRCニーダ等の連続ニーダ装置は,本件優先日前はもちろん,甲6発明の出願日前から周知であるが,甲9刊行物に記載されているとおり,「非常に短時間で処理物に分散,圧縮,せん断,引延し,せん断,粉砕作用を万遍なく与える」ものである。そうすると,本件出願前に結晶化しにくいと認識され,「ゆっくり攪拌しながら徐冷し,その後0.5日~5日間(実施例3では4日間)も静置する」ような甲6刊行物に記載されたマルチトールの結晶化に適すると当業者が予測できたとはいえず,甲6刊行物に記載されたマルチトールの結晶化に使用して,その結果,本件明細書に記載されたような優れた物性の結晶を短時間で得ることができる本件発明を,当業者が容易に想到し得たものと認めることはできない(同10頁最終段落)。

イ 本件発明1は,甲6発明,甲9発明及び特開平2-42997号公報(甲4,以下「甲4刊行物」という。)に記載された発明(以下「甲4発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたとの請求人(原告)の主張(理由2-2)について

〔なお,審決は,この点の請求人(原告)の主張を,「請求項1に係る発明(注,本件発明1)は,・・・甲第6号証(注,甲6刊行物)に記載された発明及び甲第4号証(注,甲4刊行物)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決謄本2頁第5段落)と記載しているが,審決の全体の記載内容に照らし,上記の趣旨の主張として判断しているものと解される。〕

(ア) 甲4刊行物には,マルチトール含蜜結晶を得る方法の例として,噴霧増粒法(注,「噴霧造粒法」の誤記と認める。),流動増粒法(流動造粒法」の誤記と認める。),ブロック粉砕法等とともにニーダー法が採用できることが記載されているが,その記載は,公知の結晶化方法を列記しただけにすぎないものである上,ニーダーにはバッチ式と連続式があって,それぞれに種々のタイプがあることが知られているのであるから,甲4刊行物の上記記載が本件発明1の「細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する押出し機」による結晶化を示唆しているということはできない(審決謄本11頁第1段落~第2段落)。

(イ) そして,マルチトールの含蜜結晶の製造にKRCニーダ等の「細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する押出し機」を使用することを,当業者が容易に想到し得たといえないことは,上記アで述べたとおりである(同頁第3段落)。

ウ 本件発明1は,周知技術〔甲9刊行物,特公昭49-36206号公報(甲2,以下「甲2刊行物」という。),特開昭62-148496号公報(甲3,以下「甲3刊行物」という)及び甲4刊行物参照〕及び甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの請求人(原告)の主張(理由1)について

請求人(原告)の上記主張は,実質的には甲9発明及び甲6発明から当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張と解される。

甲9刊行物を主引例としても,KRCニーダが「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機」に相当するものであることは明らかであるが,甲9刊行物には,KRCニーダによってマルチトール含蜜結晶を製造することを示唆する記載はなく,KRCニーダ等の連続ニーダー装置を甲6刊行物に記載されたようなマルチトールの含蜜結晶の製造のために使用することを,当業者が容易に想到し得たものでないことは,上記ア記載のとおりである(審決謄本11頁第4段落)。

(2) 本件発明4について

本件特許請求の範囲の請求項4は,同請求項1においてマルチトール水溶液が,ソルビトール0.5~15重量%,マルチトール80~98重量%及びマルトトリイトール及びそれ以上の分子量(DP≧3)の糖アルコール1.5~10重量%の組成を有することをさらに特定したものであるので,「月刊フードケミカル」Vol11,NO.7(甲7,69頁ないし77頁,株式会社食品化学新聞社・昭和60年11月1日発行,以下「甲7刊行物」という。)によりこれに対応する組成のマルチトール水溶液が知られていたとしても,本件発明1について述べた理由と同様の理由より,甲6発明,甲9発明及び甲4発明並びに甲2刊行物,甲3刊行物及び甲7刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明できたものとはいえない(審決謄本11頁下から第3段落)。

第3 原告主張の審決取消事由

審決は,本件発明1の容易想到性の判断を誤る(取消事由1,2)とともに,本件発明4の容易想到性の判断を誤った(取消事由3)ものであり,その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は違法として取り消されるべきである。

1 取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り~「請求人の主張する理由2について」の判断の誤り)

(1)ア 審決の認定するとおり,甲6刊行物には,甲6発明,すなわち,混練冷却して結晶化マルチトールを製造する方法が記載されている。

イ KRCニーダの用途例を紹介した甲9刊行物には,「クリモトKRCニーダは,横型密閉式を標準とする連続混練機である。まゆ型のバレルの内に,2本の攪拌軸を横一列に並べ,それぞれの軸に,スクリューとパドルを組込み,同一方向に等速で回転させる。バレルの一端上部から供給された原料は,スクリューで混練ゾーンに送り込まれ,ここでパドルに依り混練されて,バレルの他端下部,側面または前方より連続的に排出される。」(104頁左欄)と記載され,表4(108頁)には,「KRCニーダの代表的使用例」が示され,その<化学反応>の項の「混練材料名 晶析」の欄には,用途及製品として「人口甘味料(各種水あめ,ソルビトール) 有機薬品」,混練方法として「スラリー状で投入,冷却とともに結晶化を進め,粒状で排出」,着眼点として「前段晶析/後段冷却 付着防止」とそれぞれ記載されている。

そして,上記用途例における「人口甘味料(各種水あめ,ソルビトール)」との記載は,人工甘味料(人口甘味料)としての各種水あめの一種である還元麦芽糖水飴(マルチトール)を例示していることは明らかであり,したがって,甲9刊行物の上記記載は,「細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する連続押出し機」としての連続式ニーダを,マルチトールの晶析に適用し得ることを示唆するものである。

ウ また,甲4刊行物には,「得られた水素添加液は,現在市販されているマルチトールと比較して割合高い純度を有するものであり,その成分組成が三糖以上のオリゴ糖アルコール含有量が少ないので,公知の方法で直接結晶・粉末化することも容易に可能であり,」(5頁左下欄14行目~18行目)と記載され,これを受けて,「粉末マルチトールを得る方法としては,例えば噴霧造粒法,ニーダー法,流動造粒法,ブロック粉砕法,分蜜法等の各種方法またはそれらの組み合せが採用可能である。」(同頁右下欄4行目~7行目)と記載されている。

甲4刊行物の上記の各記載に接した当業者であれば,上記各記載に基づいて,マルチトールの結晶化の方法として,ニーダー法も採用可能であると容易に理解することができるというべきである。

エ したがって,本件発明1は,甲6発明及び甲9発明に基づき,あるいは甲6発明,甲9発明及び甲4発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

(2) 審決は,甲9刊行物に記載された「人口甘味料(各種水あめ,ソルビトール)」との部分中の「各種水あめ」について,マルチトールを意味するものと解することは到底できないし,この記載がマルチトールの晶析に使用できることを示唆しているものともいえないとした上,この解釈に基づいて,「そうすると,本件出願前に結晶化しにくいと認識され,『ゆっくり攪拌しながら徐冷し,その後0.5~5日間(実施例3では4日間)も静置する』ような甲第6号証(注,甲6刊行物)に記載されたマルチトールの結晶化に適すると当業者が予測できたということはできず,甲第6号証(注,甲6刊行物)に記載されたマルチトールの結晶化に使用して,その結果,本件明細書に記載されたような優れた物性の結晶を短時間で得ることができる本件発明を,当業者が容易に想到し得たものと認めることはできない。」(審決謄本10頁最終段落)と判断しているが,甲9刊行物の上記記載についての解釈は誤りであり,したがって,上記容易想到性の判断も誤りである。

甲9刊行物には,KRCニーダの使用例として,「人口甘味料(各種水あめ,ソルビトール)」の晶析との例示があり,還元麦芽糖水飴(マルチトール)は,その人工甘味料(人口甘味料)である「各種水あめ」に含まれるから,甲9刊行物には,KRCニーダの使用例として,マルチトールの晶析が例示されているということができる。

審決は,「乙第1号証(注,甲16,桜井芳人編「総合食品事典第6版」株式会社同文書院・昭和61年5月5日・第1刷発行,以下「甲16刊行物」という。)や乙第2号証(注,甲17,中村道徳ほか編「澱粉科学ハンドブック」株式会社朝倉書店・昭和52年7月20日第1刷発行,以下「甲17刊行物」という。)に記載されているとおり水飴には各種のものが存在し,一般に水飴がマルチトールを意味するものでないことは,当業者の常識であり,また,マルチトールが人工甘味料という用語を代表するような人工甘味料であるともいえない。」(審決謄本9頁最終段落~10頁第1段落)と判断しているが,以下に述べるとおり,甲9刊行物に記載の人工甘味料(人口甘味料)である「各種水あめ」にマルチトールが含まれるとする原告の主張を排斥する理由とはなっていない。

甲16刊行物及び甲17刊行物に記載されている「水飴」は,人工甘味料ではない。すなわち,社団法人全国調理師養成施設協会編「改訂調理用語辞典」(甲11,株式会社調理栄養教育公社・平成10年12月25日第1刷発行)には,「甘味料」の項に,「食品に甘味を与える調味料。天然物に由来する天然甘味料の中では砂糖(ショ糖)がもっとも一般的であり,そのほかにブドウ糖,水あめ,はちみつ,ステビアなどがある。一方,食品添加物として許可されている人工甘味料には,サッカリン,サッカリンナトリウム,アスパルテーム,グリチルリチン酸二ナトリウムなどがある。」(279頁)と記載され,「水あめ」は人工甘味料とは区別されている。

そして,マルチトールが人工甘味料の代表的なものであるかどうかはともかく,杉田浩一ほか編「日本食品大事典」(甲12,医歯薬出版株式会社・平成15年2月25日発行)には,「人工甘味料」の項に,「糖質甘味料のうち多くの糖アルコールも人工甘味料であるが,」と記載され,マルチトールが属する糖アルコールが人工甘味料であることが開示されているし,また本件出願と同時期に出願された発明に係る特開平4-53468号公報(甲13)の「従来技術とその問題点」の欄には,「マルチトールは低カロリー食品,ダイエット食品,低齲蝕性食品,機能性食品などの人工甘味料として広く用いられており,」(左下欄最終段落)と記載され,マルチトールが,人工甘味料に類することが開示されている。

なお,人工甘味料(人口甘味料)である点を除いて,単に「各種水あめ」という用語のみを取り出して解釈したとしても,その概念中に少なくとも,還元麦芽糖水飴(マルチトール)も含まれることは当業者にとって容易に理解できるところである。例えば,中山正夫監修「新甘味料技術資料集」(甲14,第一インターナショナル株式会社・昭和62年12月15日発行)には,「表8.4 各種水飴の甘味度の比較」に,甲16刊行物及び甲17刊行物で示される水あめという概念のものに含まれる低糖化還元水飴及び高糖化還元水飴と並んで,還元麦芽糖水飴が各種水飴の一つとして記載されている(136頁)から,甲9刊行物における「各種水あめ」という記載の内容に接した当業者は,人工甘味料(人口甘味料)という限定を取り外しても,それが甲16刊行物及び甲17刊行物で示される種類の水あめという概念のものに限定されると理解するものではないし,上記「各種水あめ」には,還元麦芽糖水飴についても開示があると当然に理解するものである。

(3) 審決は,「一般に糖や糖アルコール等の結晶化の挙動は各化合物毎に様々である上,同じ化合物であっても攪拌強度や冷却速度などの条件によって結晶生成の可否や生成した結晶の性状が異なることが知られている。・・・マルチトールは,ソルビトールと同じ糖アルコールという上位概念に属するものではあるものの,晶析操作において問題となる結晶性等の物性や挙動に関して,これらの糖アルコールが同等に扱いうるものであるとの技術常識が存在していたとはいえない。特に,マルチトールについては,甲第6号証(注,甲6刊行物)により初めてその結晶化に成功したものであって,乙第2号証(注,甲17刊行物)に『マルチトールの結晶化は,・・・成功していない。』と記載されているように,甲第6号証(注,甲6刊行物)以前には,マルチトールは他の糖アルコールと異なり結晶化・粉末化が困難なものとの認識があったことが窺える。」(審決謄本10頁第3段落~第4段落)とし,そのことが甲6発明に甲9発明を適用することの阻害要因となるかのように判断している。

しかし,仮に,糖や糖アルコール糖の結晶化について上記審決認定のことがいえるとしても,甲9刊行物には,連続式ニーダをマルチトールの晶析に適用することが示唆され,また,本件発明1は,攪拌強度や冷却速度などの条件が何ら特定されていないものであり,要は,単にマルチトールの製造方法に,本件優先日当時に当業者に周知であった甲9発明の連続式ニーダ法を用いたものにすぎない。したがって,この部分の審決の認定は,本件発明1の容易想到性を判断するに当たって,何ら意味をなさない。

また,マルチトールを結晶化することは,甲6刊行物によって,本件優先日当時には既に公知であっただけでなく,マルチトールは,他の糖アルコール,例えば,ソルビトール(ソルビット)と比較して,結晶化・粉末化の点で著しく異なる挙動を示すものではない。このことは,本件発明1の構成である「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給し」に対応する連続式押出機が,ソルビトール(ソルビット)の結晶化に使用されている(甲2刊行物,特公昭52-20444号公報(甲19,以下「甲19刊行物」という。参照)だけでなく,同じ糖アルコールに属する還元パラチノースの結晶化にも使用されていることからも明らかである。

さらに,甲19刊行物には,本件明細書に記載されているマルチトールと同様に,ソルビトールも結晶化し難い性質を有していること,その結晶化し難い性質を利用して連続ニーダー法により結晶化に成功したことが記載されている(4欄29行目~39行目,同欄40行目~5欄6行目)。加えて,特公昭57-18459号公報(甲20,以下「甲20刊行物」という。)には,還元麦芽糖水飴は,ソルビトールと同じように結晶化し難い性質を有する糖アルコールであり,ソルビトールの製造法を還元麦芽糖水飴の製法に適用して成功したことが記載されている(2欄9行目~13行目,同欄18行目~22行目,同欄30行目~35行目)。このように,甲19刊行物及び甲20刊行物には,マルチトールも,ソルビトールも,同じ糖アルコールとしての共通の特性を有することが記載され,結晶化し難い性質を有する糖アルコールであるソルビトールの製造方法が,マルチトールの製造方法に利用できることが開示されている。

マルチトールとソルビトールが同等に扱い得るものであるとの技術常識が存在したとはいえないとした審決の認定は,甲17刊行物の記載を根拠として挙げているが,甲17刊行物の発行日は「昭和52年7月20日」であるから,その記載は,本件優先日より約13年前(本件出願日より約14年前)のマルチトール,ソルビトール,特にマルチトールの結晶化に関する技術的知見,あるいは技術水準を示すものであって,本件優先日の技術的知見,あるいは技術水準ではない。甲4刊行物の記載(5頁左下欄14行目~右下欄7行目)から明らかなとおり,本件優先日当時には,甲17刊行物に示されるような技術的知見とは異なり,高い純度を有するマルチトールを主成分とする糖アルコール液であれば,公知の方法で直接に結晶・粉末化することが当業者にとって技術常識であったのである。審決のこの点の認定は誤りであり,このことを前提とするその判断も誤りというほかない。

(4) 審決は,「そうすると,本件出願前に結晶化しにくいと認識され,『ゆっくり攪拌しながら徐冷し,その後0.5~5日間(実施例3では4日間)も静置する』ような甲第6号証(注,甲6刊行物)に記載されたマルチトールの結晶化に適すると当業者が予測できたということはできず,甲第6号証(注,甲6刊行物)に記載されたマルチトールの結晶化に使用して,その結果,本件明細書に記載されたような優れた物性の結晶を短時間で得ることができる本件発明を,当業者が容易に想到し得たものと認めることはできない。」(審決謄本10頁第5段落)と結論づけているが,以下に述べるとおり誤りである。

ア 上記審決のマルチトールの結晶化方法として摘示する甲6刊行物の記載部分は,ブロック粉砕方法に関するものである。甲6刊行物には,マルチトールの結晶化方法として,含蜜方法,ブロック粉砕方法,流動造粒方法,噴霧乾燥方法などの公知方法を利用すればよいとの記載があるから,当業者は,甲6刊行物に開示のマルチトールの結晶化方法をブロック粉砕方法に相当する方法に限定して理解するものではなく,甲9刊行物に,「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給する連続式押出し機」としての連続式ニーダを,マルチトールの晶析に適用することが示唆されているから,甲6刊行物記載のマルチトールの結晶化の方法を,甲9刊行物記載の連続式ニーダを用いて本件発明1のように構成することは,当業者にとって容易であるということができる。

イ 本件明細書(甲10)には,本件発明は,極めて短時間で,かつ,人手の掛からない簡素な工程で,破砕された比較的密な結晶構造を有し,見掛け比重が重く,吸油性が少ない物性の改良されたマルチトール含蜜結晶を得ることができるという効果を奏することが記載されている。

しかしながら,本件発明の奏する上記効果は,甲6発明のマルチトール含蜜結晶の製造方法に甲9刊行物に記載されているような連続式ニーダー法を用いた結果により当然に生じたものであり,何ら格別な効果ではない。

甲9刊行物には,「2.1 特長 (1) 抜群な連続混練性能」の欄に「密閉バレル,小さいクリアランス,パドル相互のセルフクリーニング作用,同方向回転,材料に最適なパドルの組合せ等により,非常に短時間で処理物に均一分散,圧縮,引延し,せん断,粉砕作用を万遍なく与える。したがってバッチニーダの30分~60分に相当する混練を,投入から排出迄短時間(15秒~10分)にワンパスで処理できる能力を持つ。」(103頁右欄)と記載されているように,連続式ニーダー法を用いれば,本件発明のように,極めて短時間(例えば,本件実施例1での平均滞留時間は1.5分)で,かつ,人手の掛からない簡素な工程で製造することができることは明白である。

また,本件発明によれば,破砕された比較的密な結晶構造を有し,見掛け比重が重く,吸油性が少ない物性の改良されたマルチトール含蜜結晶が得られるというが,それらの効果は,本件明細書(甲10)に「以上述べたように,本発明による物性の改良されたマルチトール含蜜結晶は,従来方法によって得られたマルチトール含蜜結晶と比較して1000倍の倍率で見ることができる,破砕された比較的蜜な(注,「密な」の誤記と認める。)の結晶構造であり,見掛比重が重く,他の糖アルコールであるソルビトール等と同程度であり,吸油性が少ない。」(15欄14行目~16欄2行目)と記載されているように,ソルビトールと同様に,ニーダー法を採用することにより得られるものであると理解することができ,また,ニーダー法及びソルビトールに関する知見から,当業者が容易に予測し得るものにすぎない。

さらに言えば,そもそも,本件明細書の上記発明の効果に関する記載中,見掛け比重が重い,吸油性が少ないといった効果は,本件明細書(甲10)に「該表1より,本発明品は対照品より,見掛比重が重く,吸油率が低いことが確認できる。」(15欄12行目~13行目)と記載されているように,上記表1に示された測定結果によっている。しかし,上記表1に示された本件発明の方法により製造されたマルチトール含蜜結晶は,実施例-1の第3工程を終えて得た,乾燥,粉砕,分級後の粉末状のものであって(14欄19行目~21行目),本件審判請求の対象発明である,本件発明1及び本件発明4とは異なるものであり,上記効果はそれらの発明の効果として認定できるものではない。すなわち,実施例ー1の本件発明の方法により製造されたマルチトール含蜜結晶は,第1工程から第3工程からなり,また,乾燥,粉砕,分級後の粉末状のものであり,しかも,それぞれについて数値的に限定した条件により製造された結果生じた製品であるところ,本件発明1は,実施例-1の第1工程の一部で,しかも,何らの数値的条件がないものであるので,本件発明1によって,上記表1の示されたような結果が得られることなどは,何ら証明されていないものである。

(5) 審決の「請求人の主張する理由2-2について」の判断も,以下に述べるとおり,誤りである。

ア 審決は,「甲第4号証(注,甲4刊行物)の記載は,公知の結晶化方法を列記しただけに過ぎずない(注,「過ぎない」の誤記と認める。)ものであるうえ,ニーダーにはバッチ式と連続式があって,それぞれに種々のタイプがあることが知られているのであるから,甲第4号証(注,甲4刊行物)の上記記載が本件発明の『細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する押出し機』による結晶化を示唆しているということはできない。」(審決謄本11頁第2段落)としているが,上記の「公知の結晶化方法を列記しただけに過ぎないものである」という判断は,誤りである。

まず,上記の「公知の結晶化方法を列記しただけに過ぎない」から,甲4刊行物にニーダー法が記載されていることが容易推考性の根拠にならないという審決の理由付け自体が理解し難いものである。

また,甲4刊行物では,「得られた水素添加液は,現在市販されているマルチトールと比較して割合高い純度を有するものであり,その成分組成が三糖以上のオリゴ糖アルコール含有量が少ないので,公知の方法で直接結晶・粉末化することも容易に可能であり」(5頁左下欄14行目~18行目)という前提の下に,公知の方法として噴霧造粒法,流動造粒法,ブロック粉砕法,分蜜法等のほか,ニーダー法を開示しているものであり,上記の各記載に接した当業者であれば,上記の各記載に基づいてマルチトールの結晶化方法として,ニーダー法も採用可能であると容易に理解できるというべきである。

イ さらに,「ニーダーにはバッチ式と連続式があって,それぞれに種々のタイプがあることが知られているのであるから」という上記判断も,甲6発明において,本件発明1で使用する「細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する押出し機」を採用することが困難とする理由にはならない。 粉末マルチトールを得る方法としてニーダー法を採用し得ることが甲4刊行物に記載されており,加えて,甲9刊行物には,糖アルコールの結晶化法として,「細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する押出し機による結晶化法」が記載されているのであって,これらの記載に基づいて,マルチトールの結晶化法として,本件発明1の「細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する押出し機」による結晶化を想到することは,当業者にとって容易であるということができる。

ウ 原告は,本件審判の請求において,「理由2-2」として,本件発明1は,甲6発明,甲9発明及び甲4発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである旨主張したのに対し,審決は,この点の主張を,本件発明1の構成は,甲6発明及び甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする主張であると誤って解釈し,その結果,誤った結論に至ったものである。

(6) 以上のとおり,「請求人の主張する理由2について」の審決の判断は誤りである。

2 取消事由2(本件発明1の容易想到性の判断の誤り~「請求人の主張する理由1について」の判断の誤り)

審決は,「甲第1号証(注,甲9刊行物)にはKRCニーダによってマルチトール含蜜結晶を製造することを示唆する記載はなく,」(審決謄本11頁第4段落)と認定し,その認定に基づいて,甲9刊行物を主引用例としても,本件発明1の構成とすることが当業者が容易に想到し得たものとはいえないことに変わりはないと判断している。

しかしながら,甲9刊行物には,「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給する連続式押出し機」としてのKRCニーダの使用例として,「人口甘味料(各種水あめ,ソルビトール)」の晶析が記載されており,人工甘味料(人口甘味料)としての各種水あめの一種である還元麦芽糖水飴(マルチトール)の晶析を例示していることは明らかであり,また,粉末マルチトールを得る方法としてニーダー法を採用し得ることが,甲4刊行物にも記載されているから,本件優先日前に,周知の連続式ニーダ法によってマルチトール含蜜結晶を製造することを示唆する刊行物が存在したことは明らかである。

審決の上記の認定判断は誤りである。

3 取消事由3(本件発明4の容易想到性の判断の誤り)

本件発明4は,マルチトール含蜜結晶の原料に相当するマルチトール水溶液の組成を一定の範囲に限定したことを特徴とする,本件特許請求の範囲の請求項1ないし3のいずれかの一つに記載のマルチトール含蜜結晶の製造方法である。

本件発明4におけるマルチトール含蜜結晶の原料に相当するマルチトール水溶液の組成は,以下に述べるとおり,本件優先日当時において,当業者に一般的に知られていたものであり,また,本件発明1が当業者が容易に想到し得たものであることは上記1,2で述べたとおりであるから,本件発明1を引用する本件発明4も,当業者において容易に想到し得たものというべきである。

すなわち,甲6発明におけるマルチトール含蜜結晶の製造方法においても,マルチトール水溶液が用いられており,甲6刊行物には,その組成について,「本マルトース溶液を濃度50%にし,・・・組成がソルビトール0.8%,マルチトール92.2%,マルトトリイトール4.6%,マルトテトライトール以上のデキストリンアルコール2.4%からなるマルチトール溶液を原料澱粉に対して収率約92%で得た。」(14欄24行目~33行目)と記載されている。上記記載中の「マルトトリイトール,マルトテトライトール以上のデキストリンアルコール」は,本件特許請求の範囲の請求項4に記載の「マルトトリイトール及びそれ以上の分子量(DP≧3)の糖アルコール」に当たるところ,その合計は7重量%であるから,甲6刊行物記載のマルチトール水溶液の組成は,上記請求項4記載のマルチトール水溶液の組成の要件を満たすものである。

また,甲4刊行物には,「粉末マルチトールを得る方法としては,例えば噴霧造粒法,ニーダー法,流動造粒法,ブロック粉砕法,分蜜法等の各種方法またはそれらの組み合わせが採用可能である。」(5頁右下欄4行目~7行目)と記載され,その前段階の粉末化可能なマルチトールの1例として,「得られた液を触媒と分離した後,粒状活性炭のカラムを通して高速液体クロマトグラフィーにて分析した結果は以下の通りであった。ソルビトール10.1% マルチトール84.2% 三糖以上のオリゴ糖アルコール5.7%」(6頁左下欄8行目~14行目)と記載され,「三糖以上のオリゴ糖アルコール」については「マルトトリイトールやマルトテトライトールなどのDP3以上のオリゴ糖又はオリゴ糖アルコール」(3頁右下欄10行目~12行目)と記載されているので,甲4刊行物記載のマルチトール水溶液の組成は,上記請求項4記載のマルチトール水溶液の組成の要件を満たすものである。

さらに,甲7刊行物の表5の「還元麦芽糖水飴の種類と糖組成」(74頁)には,結晶性粉末製品である「粉末マルチ」の組成が,ソルビット0~3%,マルチトール88~92%,マルトトリイトール5~9%,オリゴ糖アルコール0~3%であり,「粉末マルチ-MR」の組成が,ソルビット0~3%,マルチトール93~96%,マルトトリイトール0~3%,オリゴ糖アルコール0~3%であることが記載されている。

以上のように,本件発明4における結晶化前のマルチトール水溶液の組成は,本件優先日当時,当業者に一般的に知られていたものにすぎない。

第4 被告の反論

1 取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り~「請求人の主張する理由2-1,2-2について」の判断の誤り)について

(1) 原告は,甲9刊行物には,KRCニーダの使用例として,「人口甘味料(各種水あめ,ソルビトール)」の晶析との記載があるとし,還元麦芽糖水飴(マルチトール)は,上記記載の人口工甘味料(人工甘味料)である「各種水あめ」に含まれるから,甲9刊行物には,KRCニーダの使用例として,マルチトールの晶析が例示されているとし,甲9刊行物の記載についての審決の判断は誤りであると主張するが,以下に述べるとおり,原告のこの点の主張は誤りである。

ア 原告は,還元麦芽糖水飴(マルチトール)が,甲9刊行物記載の人口甘味料(人工甘味料)である「各種水あめ」に含まれると主張する。

しかしながら,各種の糖・糖アルコールの業界において特に著名な各文献,すなわち,日本食品工業学会編「食品工業総合事典」(乙2,・株式会社光琳・昭和54年10月25日発行),甲17刊行物(乙3),不破英次ほか編「澱粉科学の事典」(乙4,株式会社朝倉書店・平成15年3月20日発行),渡辺長男ほか編「製菓事典」(乙5,株式会社朝倉書店・昭和56年10月30日発行),甲16刊行物,「あめ菓子製造・流通管理等マニュアル」(甲18,社団法人食生活開発研究所・昭和58年3月24日発行)等は,いずれも,水あめと称するものを,マルチトールやその上位概念である糖アルコールとを区別して記載している。水あめには多くの種類が存在するものの,一般に水あめがマルチトールを含むものではないことは明らかである。

水あめには国際規格が存在し,その他公的規格に照らし合わせても,水あめには一定量以上の還元糖が含まれていることが必須要件となっており,還元糖ではない糖アルコールは,その規格を満たさず,当然に水あめのカテゴリーから外れるものと一般に認識されている。したがって,「各種水あめ」と記載があれば,当業者であれば,国際規格や公的規格に合致する還元糖を有する物質であって,糖アルコールのごとき水素化処理などはされていない糖質を指すものと解するのが技術常識といえるから,甲9刊行物に記載された「各種水あめ」が,マルチトールを含むものと解することは到底できない。

また,人工甘味料とは,甘味料を有する合成品を指すが,純粋な合成甘味料として使用が許されているのはサッカリンとそのナトリウム塩のみであり,ソルビトールなどの糖アルコールは半合成的なものとして,純粋な人工甘味料とは区別されており,マルチトールに至っては,天然物として扱うと記載されている。このように,マルチトールは,人工甘味料という用語を代表するような人工甘味料ではない。

イ 還元麦芽糖水飴(マルチトール)が甲9刊行物記載の人口甘味料(人工甘味料)である「各種水あめ」に含まれている,また,「各種水あめ」という用語の概念中に少なくとも,還元麦芽糖水飴も含まれるという理由だけで,甲9刊行物の「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給する連続式押出し機」としての連続式ニーダを,マルチトールの晶析に適用することが同刊行物に示唆されていると主張することは,それ自体,理由のないことである。まして,甲9刊行物が発行された当時,「KRCニーダ」が「マルチトール」の晶析に使用された事実はなかったのであるから,同刊行物の「KRCニーダの代表的使用例」に,「マルチトールが使用例として例示されている」ことはあり得ず,原告の上記主張は,その根拠を欠くものである。

ウ 結晶化が比較的容易で,KRCニーダのような連続式ニーダによってその晶析が行われることが公知であったソルビトールに対して,同じ糖アルコールといっても,マルチトールはその結晶化が困難であり,甲6刊行物に記載されているように,その晶析には,「ゆっくり攪拌しながら徐冷し,その後0.5~5日間静置して晶出固化させ」,結晶を得る方法が採用されていたのであるから,甲9刊行物に,「KRCニーダの代表的使用例」としての「人口甘味料(各種水あめ,ソルビトール)」の晶析という記載があるからといって,当業者において,同刊行物に,「マルチトールの晶析が使用例として例示されている」と認識することは困難である。そのような認識は,この分野の当業者の技術認識と齟齬するものであり,当業者の常識に反して妥当なものではない。また,当業者間にこれに反するような認識があったという事実もない。

(2)ア 審決が,KRCニーダのような連続式ニーダが,マルチトールの晶析に使用し得ることを当業者が容易に想到しうるか否かの判断に際して,「一般に糖や糖アルコール等の結晶化の挙動は各化合物毎に様々である上,同じ化合物であっても攪拌強度や冷却速度などの条件によって結晶生成の可否や生成した結晶の性状が異なることが知られている。」(審決謄本10頁第3段落)と認定判断したのに対して,原告は,本件発明1は,攪拌強度や冷却速度などの条件が何ら特定されていないものであり,要は,単にマルチトールの製造方法に,審決が認定している周知の甲9刊行物の連続式ニーダ法を用いたものにすぎないから,この部分の審決の認定は本件発明1の容易性を判断するに当たって,何らの意味もなさないと主張している。

しかしながら,審決のこの点の認定は,糖や糖アルコール等の結晶化の挙動について,各化合物ごとに相違があること,その条件等による結晶化の挙動の相違について認定判断しているものであり,ここでの審決の認定・判断は,原告が主張するように,本件発明1の構成要件について言及しているものではない。したがって,原告の上記主張は,審決の認定・判断の趣旨を誤って理解したもので,失当であることは明らかである。

イ 原告は,①マルチトールを結晶化することは甲6刊行物によって本件優先日当時には公知であったばかりでなく,マルチトールは,他の糖アルコール,例えば,ソルビトール(ソルビット)に比較して結晶化・粉末化の点で著しく異なる挙動を示すものではない,②甲19刊行物,甲20刊行物には,マルチトールも,ソルビトールも同じ糖アルコールとしての共通の特性を有することが記載され,結晶化し難い性質を有する糖アルコールであるソルビトールの製造方法が,マルチトールの製造方法に利用できることが示されているとし,マルチトールがソルビトールと同等に扱い得るとの技術常識が存在していたとはいえないとした審決の判断は誤りであると主張する。

しかしながら,マルチトールが,ソルビトールのような糖アルコールと比較して,結晶化し難い性質を有する糖アルコールであることは,この技術分野の技術常識であり,マルチトール含蜜結晶の取得の歴史を見ても周知のところである。このことは,ソルビトールがニーダを用いてその結晶化が行われていたのに対して,マルチトール含蜜結晶については,本件発明がされるまで,甲6刊行物に記載されているように,「マスキット(糖の結晶と糖蜜の混合物)を,0.5~5日間静置して」結晶化する方法が採用されていたことからも明らかである。マルチトールが他の糖アルコール,例えば,ソルビトール(ソルビット)に比較して結晶化・粉末化の点で著しく異なる挙動を示すものではないとの原告の主張は,マルチトールの結晶化技術を理解していない主張であって,失当である。

また,原告が,証拠として挙げる,甲19刊行物及び甲20刊行物には,マルチトールについて,同じ糖アルコールであるソルビトールと共通の特性を有することが記載されているわけでなく,この点に関する原告の上記主張は根拠のない主張である。

(3) 審決が,甲9刊行物記載のニーダ装置を甲6刊行物記載のマルチトールの結晶化に適用することが容易に想到し得るか否かの判断において,「KRCニーダ等の連続ニーダー装置は,・・・甲第1号証(注,甲9刊行物)に記載されているとおり『非常に短時間で処理物に分散,圧縮,せん断,引延し,せん断,粉砕作用を万遍なく与える』ものである」(審決謄本10頁最終段落)から,「本件出願前に結晶化しにくいと認識され,『ゆっくり攪拌しながら除冷し,その後0.5日~5日間(実施例3では4日間)も静置する』ような甲6刊行物に記載されたマルチトールの結晶化に適すると当業者が予想できたということはできない。」(同段落)と判断したのに対し,原告は,甲6刊行物には,マルチトールの結晶化方法として,含蜜方法,ブロック粉砕方法,流動造粒方法,噴霧乾燥方法などの公知方法を利用すればよいとの記載があるから,当業者は甲6刊行物に開示のマルチトール結晶化方法をブロック粉砕方法に相当する方法に限定して理解するものではなく,甲9刊行物に「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給する連続式押出し機」としての連続式ニーダを,マルチトールの晶析に適用することが示唆されているから,甲6刊行物記載のマルチトールの結晶化を,甲9刊行物の連続式ニーダを用いて本件発明1のように構成することは,当業者にとって容易であると主張する。

しかしながら,甲9刊行物には,「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給する連続式押出し機」としての連続式ニーダを,マルチトールの晶析に適用することは示唆されていないのであるから,原告の上記主張はその前提において根拠がなく,失当である。

(4) 原告は,審決の「請求人の主張する理由2-2について」(審決謄本10頁第1ないし第3段落)の判断に関し,甲4刊行物においては,「得られた水素添加液は,現在市販されているマルチトールと比較して割合高い純度を有するものであり,その成分組成が三糖以上のオリゴ糖アルコール含有量が少ないので,公知の方法で直接結晶・粉末化することも容易に可能であり」(5頁左下欄14行目~18行目)という前提の下に,マルチトール含満結晶を得る方法として,噴霧造粒法,流動造粒法,ブロック粉砕法,分蜜法等と並んで,具体的にニーダー法が記載されており,上記記載に接した当業者であれば,上記記載に基づいてマルチトールの結晶化方法として,ニーダー法も採用可能であると容易に理解できると主張する。

しかしながら,「ニーダ法」についての甲4刊行物の記載は,公知の結晶化方法を列記しただけにすぎないものであるから,「甲第4号証(注,甲4刊行物)の上記記載が本件発明の『細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する押出し機』による結晶化を示唆しているということはできない。」(審決謄本11頁第2段落)という審決の認定は妥当なものである。したがって,この点の原告の主張は理由がない。

また,原告は,審決の上記判断に関し,マルチトールの結晶化法として,「細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する押出し機による結晶化法」が甲9刊行物に記載されているので,これに甲4刊行物及び甲6刊行物の記載を併せてみれば,本件発明1の「細長い冷却・混練ゾーンを有する連続供給する押出し機」による結晶化を想到することは当業者にとって容易であるということができるのであって,審決は,請求人(原告)の主張を誤って解釈し,誤った結論に至ったものであると主張する。

しかしながら,上記(1)で述べたとおり,甲9刊行物には,マルチトールの結晶化法について示唆する記載はないのであるから,原告が主張するように,甲9刊行物の記載と甲4刊行物及び甲6刊行物の記載を結び付ける根拠はない。したがって,この点の原告の主張は,その前提において理由がない。

(5) 原告は,本件発明の奏する効果について,甲9刊行物に記載されているようなニーダ法を用いた結果により当然生じたものであり,何ら格別な効果ではないと主張する。

しかしながら,甲9刊行物には,本件発明1におけるマルチトール含蜜結晶の製造にニーダ法を用いることは示唆されていないのであるから,この点の原告の主張は,その前提において当を得たものではない。その点を措いても,ニーダ法を用いれば,本件発明におけるように,見掛け比重が大きく,かつ,吸油性の小さい「密な結晶構造」の優れた物性を有するマルチトール含蜜結晶の製造を,迅速に製造することができることを,当業者が予測できたことであるとする原告の主張には,何らの根拠もない。逆に,原告が提示した甲19刊行物に記載のソルビット(ソルビトール)の製造法においては,ニーダを用いて,「柔らかな可塑性微細結晶粒塊」を得ることが記載されており,原告の主張が単なる推測に基づくものであって,失当であることは明らかである。

2 取消事由2(本件発明1の容易想到性の判断の誤り~「請求人の主張する理由1について」の判断の誤り)について

原告は,甲9刊行物を主引用例としても,本件発明1の構成とすることが当業者が容易に想到し得たものとはいえないことに変わりはないとした審決の判断は誤りであるとし,その根拠として,甲9刊行物には,「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給する連続式押出し機」であるKRCニーダの使用例として,還元麦芽糖水飴(マルチトール)の晶析が例示されており,また,粉末マルチトールを得る方法としてニーダー法を採用し得ることが,甲4刊行物に記載されていると主張する。

しかしながら,上記1(1)で述べたとおり,甲9刊行物には,マルチトールの結晶化法についての示唆はなく,また,「ニーダ法」についての甲4刊行物の記載は,公知の結晶化方法を列記しただけにすぎないものであるから,甲9刊行物の記載と甲4刊行物の記載とを結びつける根拠はない。したがって,この点の原告の主張は,その前提において理由がない。

3 取消事由3(本件発明4の容易想到性の判断の誤り)について

原告は,審決における本件発明4の容易想到性の判断の誤りをいうが,その主張は,審決における本件発明1の容易想到性の判断が誤っていることを前提とするものである。

しかしながら,前記1及び2で述べたとおり,本件発明1の容易想到性の判断は妥当なものであって,その判断に誤りはない。したがって,この点の原告の主張は,その前提において理由がない。

当裁判所の判断

1 取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り~「請求人の主張する理由2-1,2ー2について」の判断の誤り)について

(1) 甲6発明について

ア 甲6刊行物は,発明の名称を「無水結晶マルチトールまたはそれを含有する含蜜結晶と製造方法」とする発明の特許公報であるところ,同刊行物には,以下の記載がある。

(ア) 「6 マルチトール溶液から無水結晶マルチトールを晶出せしめ,これを採取することを特徴とする無水結晶マルチトールまたはそれを含有する含蜜結晶の製造方法。

9 マルチトール溶液に種晶を共存せしめることを特徴とする特許請求の範囲第6項・・・記載の無水結晶マルチトールまたはそれを含有する含蜜結晶の製造方法。」(特許請求の範囲第6項,第9項)

(イ) 「本発明で使用する晶出用マルチトール溶液は,マルチトールの過飽和溶液であつて無水結晶マルチトールが析出すればよく,マルチトールの製造方法は問わない。通常・・・純度65%以上のマルチトールを望ましくは濃度約65~95%水溶液とし,・・・晶出方法は,通常40~95℃の比較的高温の過飽和マルチトール溶液を助晶缶にとり,これに種晶を望ましくは,0.1~20%共存せしめて,ゆつくり攪拌しつつ徐冷し,晶出を促がしてマスキツトにすればよい。このように,本発明の無水結晶マルチトールは,過飽和マルチトール溶液に高純度無水結晶マルチトールまたは比較的低純度の無水結晶マルチトール含有含蜜結晶を種晶として加えることにより容易に晶出させることができる。」(4頁7欄8行目~28行目)

(ウ) 「晶出したマスキツトから無水結晶マルチトールおよびそれを含有する含蜜結晶を製造する方法は,・・・例えば含蜜方法(注,分蜜方法の誤記と認める。),ブロツク粉砕方法,流動造粒方法,噴霧乾燥方法などの公知方法を利用すればよい。例えば,分蜜方法は通常マスキツトをバスケツト型遠心分離機にかけ,無水結晶マルチトールと蜜とを分離する方法で,・・・他の三つの方法は,蜜を分離しないので得られる含蜜結晶に・・・無水結晶マルチトール以外に蜜成分として澱粉糖由来の糖アルコール,例えばソルビトール,マルトトリイトール,マルトテトライトールなどが含まれる。噴霧乾燥の場合には,通常,濃度70~85%,晶出率25~60%程度のマスキツトを高圧ポンプでノズルから噴霧し,結晶粉末が溶融しない・・・60~100℃の熱風で乾燥し,次いで30~60℃の温風で約1~20時間熟成すれば非吸湿性または難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。また,ブロツク粉砕方法は,通常,水分5~15%,晶出率10~60%程度のマスキツトを0.5~5日間静置して全体をブロツク状に晶出固化させ,これを粉砕または切削などの方法によつて破砕し乾燥すれば,非吸湿性または難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。」(同頁7欄29行目~8欄14行目)

(エ) 「また,マルチトール水溶液を常法に従い水分5%未満に加熱濃縮して溶融状態とした過飽和マルチトール溶液とし,この過飽和マルチトール溶液に種晶をマルチトールの融点以下の温度で混捏し,これを各種の形状,例えば粉体,顆粒,棒状,板状,立方体などに成形して非吸湿性または難吸湿性の含蜜結晶を得ることも自由にできる。」(同頁8欄15行目~21行目)

(オ) 実施例1には,無水結晶マルチトールの種晶の製造例が,実施例2には,分蜜方法による無水結晶マルチトールの製造例が,実施例3には,ブロツク粉砕方法による無水結晶マルチトール含有含蜜結晶粉末の製造例が,実施例4には,噴霧乾燥方法による無水結晶マルチトール含有含蜜結晶粉末の製造例が,それぞれ記載されている。このうち,実施例4は,マルチトール溶液として,実施例2の方法で製造したマルチトール溶液を用いるもので,この溶液は,「組成がソルビトール0.8%,マルチトール92.2%,マルトトリイトール4.6%,マルトテトライトール以上のデキストリンアルコール2.4%からなるマルチトール溶液」である。(7頁13欄4行目~8頁16欄8行目)

イ 甲6刊行物の上記アの記載よれば,甲6刊行物には,①マルチトール水溶液に種晶を共存させ,無水結晶マルチトールの晶出を促してマスキツトとし,このマスキツトに分蜜方法を適用して無水結晶マルチトールを製造する方法,②マルチトール水溶液に種晶を共存させ,無水結晶マルチトールの晶出を促してマスキツトとし,このマスキツトにブロツク粉砕方法を適用して無水結晶マルチトール含有含蜜結晶を製造する方法,③マルチトール水溶液に種晶を共存させ,無水結晶マルチトールの晶出を促がしてマスキツトとし,このマスキツトに流動造粒方法を適用して無水結晶マルチトール含有含蜜結晶を製造する方法,④マルチトール水溶液に種晶を共存させ,無水結晶マルチトールの晶出を促してマスキツトとし,このマスキツトに噴霧乾燥方法を適用して無水結晶マルチトール含有含蜜結晶を製造する方法,⑤マルチトール水溶液を水分5%未満に加熱濃縮して溶融状態とした過飽和マルチトール溶液とし,この過飽和マルチトール溶液に種晶をマルチトールの融点以下の温度で混捏し,これを粉体,顆粒,棒状,板状,立方体などに成形する,無水結晶マルチトール含有含蜜結晶の製造方法(以下,⑤の製造方法に係る発明を「甲6発明⑤」という。)が記載されていると認められる。

(2) 本件発明1と甲6発明⑤との対比

本件発明1と,甲6発明⑤とを対比すると,甲6発明⑤の「過飽和マルチトール溶液」,「種晶」,「混捏」,「無水結晶マルチトール含有含蜜結晶」は,それぞれ本件発明1の「マルチトール水溶液」,「種結晶」,「混練」,「マルチトール含蜜結晶」に相当し,また,甲6発明⑤においては,はじめ溶融状態だった過飽和マルチトール溶液に,種晶をマルチトールの融点以下の温度で混捏(混練)するので,この混捏の工程は,その温度が混捏前の初めの温度以下になる,冷却を伴い,その工程で結晶が晶出して可塑状物が生成するものと解される。そして,この可塑状物は本件発明1の「マルチトールマグマ」に相当すると認められる。

したがって,両者は,「マルチトール含蜜結晶を製造するに際し,マルチトール水溶液を種結晶の存在下で冷却・混練してマルチトールマグマを生成させる工程を有する,マルチトール含蜜結晶の製造方法。」である点で一致し,「本件発明1は,冷却・混練を,細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機を用い,冷却・混練して生成したマルチトールマグマを押出しノズルから連続的に押出して行うのに対し,甲6発明⑤においては,マルチトール水溶液と種結晶をどのような混練装置で冷却・混練するのか,粉体等のマルチトール含蜜結晶をどのような装置で成形するのか明らかでない点」(以下「相違点」という。)で相違する。

(3) 相違点について

ア 甲4発明について

(ア) 甲4刊行物は,発明の名称を「粉末マルトース及び粉末マルチトールの製造方法」とする発明の公開特許公報であるところ,同刊行物には,以下の記載がある。

a 「(1)濃度10~30重量%の地上澱粉水溶液に液化酵素を作用させて液化し,デキストロース当量10以下にて液化酵素を失活させる第1工程,

(2)上記工程で得られた液化物にβ-アミラーゼ及びプルラナーゼ及び/又はイソアミラーゼを作用させて糖化する第2工程,

(3)第2工程開始後1~10時間後に液化酵素を基質固形分1gあたり1~20単位添加して更に糖化する第3工程,

(4)更に,基質固形分1gあたり0.1~10単位のグルコアミラーゼを加えて作用させ,糖化物のマルトース含有量が固形分中75~88重量%で,且つ糖化物に含まれるオリゴ糖の含有量が次式で計算したとき8以下の数値の範囲に糖化する第4工程,

〔(3糖以上のオリゴ糖の固形分重量)/{(二糖の固形分重量)+(三糖以上のオリゴ糖の固形分重量)}〕×100

(5)得られた糖化物を還元する第5工程,

上記5工程を経ることを特徴とする粉末マルチトールの製造法。」(特許請求の範囲第2項)

b 「上記の工程を経た還元物は公知の方法により,精製,濃縮,クロマト分離,結晶化(固化),乾燥,粉末化などの工程に供することによって容易に粉末状マルチトールや高純度マルチトールを得ることができる。」(4頁左下欄末行~右下欄4行目)

c 「グルコアミラーゼ・・・処理工程は,マルトース純度を75~88重量%で且つ糖化物の組成が次式(注,式は省略)を満足する範囲で酵素反応を停止する。・・・この処理液をそれ自身は公知の回分式又は連続式の方法で,ニッケル系又は貴金属系などの触媒の存在下で水素添加してマルチトールを主成分とする糖アルコール液にする。」(5頁右上欄10行目~左下欄6行目)

d 「得られた水素添加液は,・・・その成分組成が三糖以上のオリゴ糖アルコール含有量が少ないので,公知の方法で直接結晶・粉末化することも容易に可能であり,この後晶析やクロマト分離工程に供してマルチトール純度を高め・・・高純度マルチトールを製造することができる。粉末マルチトールを得る方法としては,例えば噴霧造粒法,ニーダー法,流動造粒法,ブロック粉砕法,分蜜法等の各種方法またはそれらの組み合わせが採用可能である。」(同頁左下欄14行目~右下欄7行目)

e 実施例-1には,水素添加を行う第5工程まで行って,「ソルビトール10.1%,マルチトール84.2%,三糖以上のオリゴ糖アルコール5.7%の成分組成の液」を得たことが記載されている。(5頁右下欄下から2行目~6頁左下欄14行目)

f 「本発明を実施することにより,容易な工程管理で汎用性の高い酵素を組合わせて使用し,三糖以上の・・・糖アルコール含有量は少なく,その結果,直接結晶・粉末化可能な・・・マルチトールを経済的に有利に製造することが可能になる。」(6頁右下欄9行目~14行目)

(イ) 甲4刊行物の上記(ア)の記載によれば,同刊行物には,澱粉に特定の酵素を組み合わせて作用させて糖化し,水素添加して,三糖以上のオリゴ糖アルコール含有量が少ないマルチトール溶液を得,これを公知の噴霧造粒法,ニーダー法,流動造粒法,ブロック造粒法,分蜜法等で直接結晶・粉末化して粉末マルチトールを製造する方法の発明が記載されていると認められる。

甲6刊行物は,上記(1)アのとおり,甲4刊行物より約3年前に刊行された,発明の名称を「無水結晶マルチトールまたはそれを含有する含蜜結晶と製造方法」とする発明に係る特許公報であり,このことと,その記載内容を併せ考慮すれば,甲4刊行物に記載の上記の「噴霧造粒法」,「流動造粒法」,「ブロック造粒法」,「分蜜法」は,それぞれ,甲6刊行物に記載された「噴霧乾燥方法」,「流動造粒方法」,「ブロツク粉砕方法」,「分蜜方法」に対応し,また,「ニーダー法」は,ニーダーとは混練装置を意味すると解されるから,甲6発明⑤における「混捏し成形する」方法に対応すると認められるが,甲4刊行物には,いずれも,具体的な結晶・粉末化の方法は記載されていない。しかし,甲4刊行物の「ニーダー法」との記載によれば,これに接する当業者は,甲4刊行物には,マルチトール溶液を原料とし,何らかのニーダー(混練装置)により,マルチトールの結晶・粉末化を行い得ることが示唆されていると理解するものと認められる。

被告は,ニーダ法についての甲4刊行物の記載は,公知の結晶化方法を列記しただけにすぎない旨主張するが,甲4刊行物の上記記載内容等からすれば,甲4刊行物には,マルチトールの粉末の製造のために使用し得る方法としてニーダー法が記載されているものであり,その製造に使用し得るか否かと関係なく,一般的に公知の結晶化方法を列記したものでないことは明らかというべきである。この点の被告の主張は,採用することができない。

イ 甲2刊行物,甲19刊行物及び甲9刊行物の記載事項

(ア) 甲2刊行物には,以下の記載がある。

a「1 原料供給口,互に噛み合つた二軸のネジからなる処理部,および半固化物排出口をもつ装置の原料供給口に,濃厚ソルビトール水溶液と粉末ソルビトールとを供給し,上記ネジを回転させて供給原料を混合捏和すると共に連続的に半固化物排出口に移動させ該排出口から半固化状ソルビトールを取り出し,ついで室温に放置して固形ソルビトールとすることを特徴とするソルビトールの固化法。」(特許請求の範囲)

b「本発明によれば装置中に於て濃厚ソルビトール液と結晶種となるソルビトール粉末とは2本のネジ相互の相対運動による剪断作用,ネジの溝の中を処理物質が流動することによつて生ずる混合作用,ネジの回転によつて生ずるケースとネジ及び処理物との間の相対運動によつて生ずる剪断作用によつて,混合作用と捏和作用とをうけ急速に粘度を増しながら半固化状になつてネジのリードに沿つて出口の方に移動し,出口より排出される。」(2頁3欄22行目~31行目)

c「本発明に使用する装置としては例えば第1図乃至第3図に示す装置を用いることができる。第2図においてAはソルビトール粉末の入口,Bは濃厚ソルビトールの入口,Cは処理物の出口,Dは二軸のネジ,Eはケースを示す。AとBとは図の如く別々に設けてもよいが,Bを設けないでAより濃厚ソルビトール液とソルビトール粉末とを同時に入れてもよい。」(同頁4欄14行目~21行目)

d「本発明に使用する濃厚ソルビトール液は・・・特に水分含量が5%以下であることが好ましい。・・・操作中の温度は・・・高過ぎると結晶種としてのソルビトール粉末が融解し,融解したソルビトールが粉末を包むためにその分散が悪くなる。又低すぎると濃厚ソルビトール液の粘度が高くなる為めソルビトール粉末の分散が悪くなる。・・・装置から排出される処理物の性状は液の温度,結晶種の混合割合,ネジの寸法,回転数等を変えることによつて任意に調節することができる。」(2頁4欄24行目~3頁5欄1行目)

e 「この固化物を粉砕することにより増甘味粉末ソルビトールが得られる。」(3頁6欄13行目~15行目)

f 第1図~第3図には,装置の断面図が記載されている。(4頁)

(イ) 甲19刊行物には,以下の記載がある。

a 「1 水分約15%以下としたソルビツト濃厚水溶液又は溶融物に,かかる水溶液又は溶融物の固形分の1~50%の粉末又は顆粒ソルビツトを加え,この混合物をニーダー(双腕型捏和機)中で,温度60℃以上ないし上記原料ソルビツトの融点末満(注,「融点未満」の誤記と認める。)で混合捏和して,全体を柔らかな可塑性微結晶塊となし,ついでこれを押出し式成型機に送りこんでそうめん状に押し出し,このそうめん状物を冷却したのち,所定長に切断又は粉砕することを特徴とする,固形ソルビツトの製造法。」(特許請求の範囲)

b 「まずソルビツト水溶液を加熱濃縮して水分を約15%以下にした濃厚水溶液,又は更に水分1%以下にまで濃縮した溶融状のソルビツトを,高温状態のままこれを双腕型捏和機即ちニーダーに連続的に流し込みながら,・・・粉末状のソルビツトをシードとして加え,所定温度下で混ねりして微結晶の析出成長を促進せしめる。上記ソルビツト濃厚水溶液又は溶融物の温度は・・・60℃以下では・・・粘度が高くなりすぎて混ねりが円滑に行なわれがたく,又原料ソルビツトの融点以上では・・・結晶化は起こらない・・・。・・・所定温度下の混合攪拌によつて漸次細かい結晶が析出成長して・・・ソルビツトの結晶化が充分進み全体が可塑性をもつた柔らかな結晶粒子塊となつたときに,これを押出し式成型機例えばスクリユー押出し式成型機に連続的に送りこんで,同機の射出部からそうめん状に押し出す。・・・つぎにこの冷却されたそうめん状物は・・・一定の長さに切断整粒される。この場合,前記そうめん状とするための押出し式成型機の射出孔の大きさとその后の整粒機による切断長とを選択一致させると,そのまま一定大きさと形の顆粒状の結晶性ソルビツトが得られる。これらの顆粒は粉砕して粉末状とすることが容易である。」(2頁3欄11行目~4欄28行目)

(ウ) 甲9刊行物には,以下の記載がある。

a 「2.2 KRCニーダの構造と性能」の項に,「クリモトKRCニーダは,横型密閉式を標準とする連続混練機である。まゆ型のバレルの内に,2本の攪拌軸を横一列に並べ,それぞれの軸に,スクリューとパドルを組込み,同一方向に等速で回転させる。バレルの一端上部から供給された原料は,スクリューで混練ゾーンに送り込まれ,ここでパドルに依り混練されて,バレルの他端下部,側面または前方より連続的に排出される。」(104頁左欄)と記載されている。

b 「3.KRCニーダの用途」の項に,「粉体の連続混練だけでなく,下記物質の組合せに対しても,連続した混合・混練に効果を発揮する。」と記載され,その次に,図があり,(供給側)に「粉体」,「高粘度物質」,「スラリー」,「液体」,(排出側)に「粉体」,「高粘度物質」,「スラリー」,「液体」が記載されている。また,それに続けて「特に混練中,材料の形態が変化する物質に有効で,セルフクリーニング効果により混練とともに容易に輸送できる。また,混練機を外部より加熱,冷却することにより,混練中に必要な操作条件を付加することができる」と記載されている(106頁左欄~右欄)。

c 「4.実験について」の項に,「KRCニーダによって希望する製品を得る為の取組み方法として  (1)目的,処理方法を適確につかむ・・・(2)処理する原料の特質を良く理解し・・・(3)投入方法 ・・・(4)温度条件・・・(5)滞留時間 (6)パドルパターン (7)パドル回転数 (8)圧力条件 (9)機長(L/D) (10)製品の形状(11)前処理の条件 (12)後処理の条件 (13)実験フロー (14)混練物の分析および評価方法」(106頁右欄~107頁)が記載されている。

d 「7.KRCニーダの代表的使用例」の項に,同じ題の表4が記載され,同表に,4頁にわたって<化学工業一般>,<化学反応>,<樹脂関係>,<食品>,<窯業・無機物関係>,<その他>に分けて多数の使用例が記載されており,<化学反応>の「晶析」の欄に,用途及製品として「人口甘味料(各種水あめ,ソルビトール) 有機薬品」,混練方法として「スラリー状で投入,冷却とともに結晶化を進め,粒状で排出」,着眼点として「前段晶析/後段冷却 付着防止」とそれぞれ記載されている(108頁)。

e 「KRCニーダ外観図」と題する図1には装置の外観写真が,「KRC-Eニーダ構造図」と題する図8には装置の構造図が,「KRCニーダの使用例」と題する図9には装置の斜視図が,それぞれ記載されている(103頁,106頁,107頁)。

(エ)  甲2刊行物の上記(ア)の記載によれば,同刊行物には,原料供給口,互に噛み合つた二軸のネジからなる処理部,及び半固化物排出口を持つ装置の原料供給口に,濃厚ソルビトール水溶液と粉末ソルビトール(結晶種)とを供給し,上記ネジを回転させて供給原料を混合捏和するとともに連続的に半固化物排出口に移動させ該排出口から半固化状ソルビトールを取り出し,次いで,室温に放置して固形ソルビトールとし,この固化物を粉砕して粉末ソルビトールとする,ソルビトールの固化法の発明が記載されていると認められる。上記「原料供給口,互に噛み合つた二軸のネジからなる処理部,および半固化物排出口をもつ装置」は,その処理部において濃厚ソルビトール水溶液と粉末ソルビトールとを混合捏和する「細長い混練ゾーンを有する押出し機」であり,上記処理部で冷却がされるかどうか明らかではないから,厳密には,本件発明1の「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機」に相当する型式のものではないが,上記処理部での放冷を許すことにより,あるいは適宜の冷却装置を付加することにより,容易に「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機」にすることができる構造のものと認められる。また,上記装置は,濃厚ソルビトール溶液が連続的に供給され,半固化物が半固化物排出口から連続的に排出される,連続式のもので,上記「半固化物排出口」は,本件発明1の「押出しノズル」に相当する。そして,甲2刊行物には,排出された半固化物がどのような形状で固化するのか明記されていないが,その固化物を粉砕して粉末ソルビトールとすることが記載されているから,少なくとも粉体に成形するものということができる。

また,甲19刊行物の上記(イ)のよれば,同刊行物には,水分約15%以下としたソルビツト濃厚水溶液又は溶融物に,特定量の粉末又は顆粒ソルビツトをシード(結晶種)として加え,この混合物をニーダー(双腕型捏和機)中で,特定温度で混合捏和して,全体を柔らかな可塑性微結晶塊となし,次いで,これをスクリュー押出し式成型機に連続的に送りこんで同機の射出部からそうめん状に押し出し,このそうめん状物を冷却したのち,所定長に切断又は粉砕して顆粒又は粉末のソルビツトとする,固形ソルビツトの製造法の発明が記載されていると認められる。甲19刊行物に記載された発明においては,混合捏和(混捏,混練)は,「ニーダー(双腕型捏和機)」でバッチ式で行い,得られた柔らかな可塑性微結晶塊をスクリュー押出し式成型機に連続的に送りこんでいる。この「スクリュー押出し式成型機」は,そうめん状に押し出す「押出しノズル」を備えた「押出し機」と認められるが,ソルビツト濃厚水溶液又は溶融物と粉末又は顆粒ソルビツトの混合捏和は,起こるとしても押出すまでの間に付随的に起こるにすぎないものであるから,「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機」には相当しない。また,甲19刊行物には,顆粒又は粉末のソルビツトとすることが記載されているから,顆粒又は粉体に成形するものといえる。

さらに,甲9刊行物の上記(ウ)の記載によれば,同刊行物には,まゆ型のバレルの内に2本の攪拌軸を有する「KCRニーダ」という連続式ニーダ(混練装置)を用い,「スラリー状で投入,冷却とともに結晶化を進め,粒状で排出」する混練方法を採用して,人口甘味料(人工甘味料),ソルビトール,有機薬品の晶析を行い得ることが記載されていると認められる。

そして,上記の「スラリー状で投入,冷却とともに結晶化を進め」とは,ソルビトール水溶液とソルビトール結晶種とを混合し,スラリー状として上記KRCニーダに投入し,冷却・混練して結晶化を行うことを意味すると解されるから,上記の連続混練装置としての「KRCニーダ」は,本件発明1の「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機」に相当する。また,「粒状で排出」との記載及び甲9刊行物記載の図8,図9の図示からすれば,「KRCニーダ」の排出口は本件発明1の「押出しノズル」に相当し,連続的に排出して,顆粒に成形する機能を有するものということができる。

(オ) 上記(エ)によれば,ソルビトールの固化,粉末化については,ソルビトール水溶液をソルビトール結晶種の存在下に混練し,次いで,得られた可塑状物を押出機の押出しノズルから連続的に押出して,粉体又は顆粒に成形する方法があり,また,混練装置(ニーダー)としては,混練してそのまま押出しまで行う連続式のもの(甲2刊行物に記載の発明及び甲9発明)と,バッチ式で混練して押出機に送るもの(甲19刊行物に記載の発明)とがあって,それらのいずれも使用し得るものであることは,本件優先日当時において,当業者に周知であったと認められる。

ウ(ア) 上記ア,イの認定によれば,甲4刊行物には,粉末マルチトールの製造に関し混練装置(ニーダー)の使用が示唆され,また,甲9刊行物には,「人口甘味料(各種水あめ,ソルビトール)」の晶析とあるように,連続式ニーダとしての「KRCニーダ」をソルビトール以外のものの晶析に使用し得ることが明確に示唆されているから,糖類あるいは糖アルコール類の製造の技術分野の当業者であれば,甲6発明⑤の「過飽和マルチトール溶液(マルチトール水溶液)に種晶(結晶種)をマルチトールの融点以下の温度で混捏(冷却・混練)し,これを粉体,顆粒,棒状,板状,立方体などに成形する」との構成につき,ソルビトールの固化,粉末化などで周知の,上記イ(オ)の連続式又はバッチ式の混練装置(ニーダー)と押出機により,混捏(混練)し成形する方法を直ちに想起し,その適用を試みるものと認められる。そして,甲6発明⑤に係るマルチトール含有含蜜結晶の製造法において,上記イ(オ)の連続式又はバッチ式の混練装置(ニーダー)と押出機のいずれを採用するかは,当業者がマルチトール含蜜結晶の製造法に使用する場合にいずれが所望の機能を果たし得るか否かの観点から,適宜に選択し得る事項であると解される。

(イ) 上記(ア)の点に関し,被告は,結晶化が比較的容易で,KRCニーダのような連続式ニーダによってその晶析が行われることが公知であったソルビトールに対して,同じ糖アルコールといっても,マルチトールはその結晶化が困難であり,甲6刊行物に記載されているように,その晶析には「ゆっくり攪拌しながら徐冷し,その後0.5~5日間静置して晶出固化させ」結晶を得る方法が採用されていたのであるから,甲2刊行物,甲19刊行物及び甲9刊行物に上記イ(オ)のとおりの事項が記載されているからといって,当業者において,連続式ニーダーをマルチトールの晶析にも使用し得ると認識することは困難なことである旨主張する。

しかしながら,マルチトールとソルビトールは,いずれも糖アルコールに分類される(甲5等)ものであり,また,甲19刊行物には,「ソルビットは本来ブドウ糖その他の糖類などに比べて結晶化しがたい性質が強いために,かかる柔らかな可塑性微結晶粒塊の状態が得られるのである。換言すると,本発明はソルビットの結晶化しがたい性質を利用して,前記可塑性微結晶粒塊の状態を得て」(2頁4欄31行目~37行目)と記載され,ソルビトールがブドウ糖その他の糖類と比べて結晶し難い性質を有することが開示されている。したがって,マルチトールが,同じ糖アルコールに属するソルビトールと比較して結晶化が困難な性質を有するとしても,それは程度の差にすぎないというべきである。そして,適用対象物の物性,例えば,融点や可塑化された状態の粘度等に応じて,温度条件や,攪拌軸の回転数などの条件を検討することは,甲2刊行物の上記イ(ア)dの記載,甲9刊行物の上記イ(ウ)b,cの記載に照らしても,当業者が当然に考慮する事項であるから,甲6刊行物記載の混捏法において上記イ(オ)の連続式又はバッチ式の混練装置(ニーダー)と押出機を適用するに際し,マルチトールとソルビトールとが異なる物質であり,物性が多少異なることは,阻害要因となるものではないというべきである。

また,甲6刊行物は,甲6発明⑤の混捏(冷却・混練)による方法に関しては,上記(1)ア(エ)のとおり,「マルチトール水溶液を常法に従い水分5%未満に加熱濃縮して溶融状態とした過飽和マルチトール溶液とし,この過飽和マルチトール溶液に種晶をマルチトールの融点以下の温度で混捏し」(4頁8欄15行目~19行目)と記載しているだけである。甲6刊行物の上記引用箇所は,甲6刊行物に記載された無水マルチトール含有含蜜結晶の製造法として例示された方法のうちブロック粉砕法(上記(1)イ②)に関するものであり(4頁8欄8行目~10行目,8頁15欄4行目~29行目),甲6発明⑤の混捏(冷却・混練)による方法に関するものではない。また,甲6刊行物には,「晶出方法は,通常40~95℃の比較的高温の過飽和マルチトール水溶液を助晶缶にとり,・・・ゆっくり撹拌しつつ徐冷し,晶出を促がしてマスキットにすればよい。」(4頁7欄18行目~23行目)と記載され,晶出したマスキットから無水結晶マルチトール及びそれを含有する含蜜結晶を製造する方法として,含蜜方法,ブロック粉砕法,流動造粒法,噴霧乾燥方法を例示しているが,甲6発明⑤の混捏(冷却・混練)による方法においては,マスキットを使用するものとされていないから,「ゆっくり撹拌しつつ徐冷し」との記載も,甲6発明⑤の混捏(冷却・混練)による方法とは関係がないものである。そして,結晶化の方法により,温度条件,撹拌の条件が異なることは当業者の技術常識であるから,甲6刊行物に上記各引用箇所の記載があるからといって,当業者において,マルチトール含蜜結晶の製造に,上記イ(オ)の連続式又はバッチ式の混練装置(ニーダー)と押出機の適用を想起することを困難とする事情があるということはできない。

被告の上記主張及びこれと同様の趣旨の乙7(A大学教授B作成の鑑定書)の意見は採用することができない。

(ウ) したがって,相違点に係る本件発明1の構成,すなわち,「細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給し」,「押出しノズルから連続的に押出す」混捏(混練)及び成形法を採用することは,当業者が容易に想到し得る程度のことと認められる。

(4) 本件発明1の効果について

ア 本件明細書(甲10)には,「本発明による物性の改良されたマルチトール含蜜結晶は,従来方法によって得られたマルチトール含蜜結晶と比較して1000倍の倍率で見ることができる,破砕された比較的蜜な(注,「密な」の誤記と認める)結晶構造であり,見掛比重が重く,他の糖アルコールであるソルビトール等と同程度であり,吸油性が少ない。従って,(a)容積がかさむことなく,専用の包装材料や包装容器を必要とせず,他の糖アルコール用の包装材料や包装容器を用いることができ,貯蔵や運搬の際にも大きな場所や運搬具を必要としない。

(b)粉末が重いので微粉末の飛散が生じ難く,各種用途に利用できる。(c)結晶の構造が密なので,直接打錠した場合に錠剤の硬度に優れている。また,本発明によるマルチトール含密(注,「含蜜」の誤記と認める。)結晶の製造方法によれば,極めて短い時間で,且つ人手の掛からない簡素な工程で物性の改良されたマルチトール含蜜結晶を製造することが可能になり,これにより,仕掛かり品の保管場所や保管容器を大巾に省くことが可能になり,工程の自動化も容易になる。」(8頁15欄下から4行目~16欄末行)と記載されている。

イ しかしながら,本件発明の奏する上記効果は,甲6発明⑤のマルチトール含蜜結晶の製造方法に甲9刊行物及び甲2刊行物に記載の連続式ニーダー法を適用した結果,生じたものである。

そして,甲9刊行物には,「2.1 特長 (1) 抜群な連続混練性能」の欄に,「密閉バレル,小さいクリアランス,パドル相互のセルフクリーニング作用,同方向回転,材料に最適なパドルの組合せ等により,非常に短時間で処理物に均一分散,圧縮,引延し,せん断,粉砕作用を万遍なく与える。したがってバッチニーダの30分~60分に相当する混練を,投入から排出迄短時間(15秒~10分)にワンパスで処理できる能力を持つ。」(103頁右欄)と記載されており,この記載に照らせば,短時間に,かつ,人手の掛からない簡素な工程で製造することができるという効果は,甲6発明⑤に連続式ニーダー法を適用した場合に得られる効果として,当業者が予測し得る範囲内のことである。

次に,従来の方法により得られるマルチトール含蜜結晶と比較して,結晶構造が比較的密なものとなり,見掛け比重は高くなり,また,吸油性が低くなるということも,甲6発明⑤に連続式ニーダー法を適用した場合,ニーダー(混練)に伴い圧力がかかることからして,当業者が予測し得る範囲内のことと認められる。

上記に反する被告の主張は採用することができない。

(5) 以上のとおり,本件発明1は,甲6発明⑤,甲4発明及び甲9発明並びに甲2刊行物及び甲19刊行物に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,審決のした本件発明1の容易想到性の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって,原告の取消事由1の主張は理由がある。

2 取消事由3(本件発明4の容易想到性の判断の誤り)について

(1) 本件発明4は,本件発明1に,構成要件として「マルチトール水溶液が,ソルビトール0.5~15重量%,マルチトール80~98重量%及びマルトトリイトール及びそれ以上の分子量(DP≧3)の糖アルコール1.5~10重量%の組成を有する」とする限定要件を付加した発明を含んでいるところ,本件発明1が当業者において容易に発明をすることができたものと認められることは,上記1に説示したとおりである。

次に,本件発明1に付加された,マルチトール水溶液の組成に関する上記限定要件についてみると,甲6刊行物記載の実施例4には,「組成がソルビトール0.8%,マルチトール92.2%,マルトトリイトール4.6%,マルトテトライトール以上のデキストリンアルコール2.4%からなるマルチトール溶液」が記載されており(上記1(1)ア(オ)),この組成は,上記限定要件を満たすものである。また,上記実施例4は,「噴霧乾燥方法」により含蜜結晶粉末を製造する場合の実施例であるが,甲6刊行物の記載全体からすれば,このマルチトール溶液を,噴霧乾燥方法以外の方法,例えば「混捏し成形する」方法を採用する甲6発明⑤に適用することに,何らの妨げも認められない。

また,甲4刊行物にも,マルチトール水溶液の組成について,実施例-1に,「ソルビトール10.1%,マルチトール84.2%,三糖以上のオリゴ糖アルコール5.7%の成分組成の液」を得たことが記載されており(上記(3)ア(ア)e),この組成は,上記限定要件を満たすものである。そして,甲4発明において採用し得るとされている「ニーダー法」は,甲6発明⑤の「混捏し成形する」方法に対応するものであるから,上記組成のマルチトール水溶液を甲6発明⑤に適用することに,何らの妨げも認められない。

したがって,上記限定要件に係る本件発明4の構成は,甲6発明⑤及び甲4発明から当業者が容易に想到し得ることである。

(2) 以上のとおり,本件発明4は,甲6発明⑤,甲4発明,甲9発明並びに甲2刊行物及び甲19刊行物に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,審決のした本件発明4の容易想到性の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。そうすると,原告の取消事由3の主張は理由がある。

3 以上の次第で,原告主張の取消事由1,3はいずれも理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は違法として取消しを免れない。

よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。

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