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平成17年(行ケ)第10017号 特許取消決定取消請求事件


主文

特許庁が異議2003-71050号事件について平成16年6月24日にした決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文と同旨

第2 当事者間に争いがない事実

1 特許庁における手続の経緯

(1) 原告は,平成5年12月10日,発明の名称を「難燃性組成物及び電線,ケーブル」とする発明につき特許出願(特願平5-341440号)をした。同出願について,特許庁は,特許をすべき旨の査定をし,平成14年8月16日,特許第3339154号として設定登録がされた(以下,この特許を「本件特許」という。)。

(2) その後,本件特許について特許異議の申立てがされ,異議2003-71050号事件として特許庁に係属した。同事件の審理の過程において,原告は,平成15年9月26日付けで本件特許出願の願書に添付した明細書(設定登録時のもの。)の訂正を請求した。

(3) 特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成16年6月24日,上記訂正を認めるとした上で,「特許第3339154号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は同年7月10日に原告に送達された。

2 前記訂正後の明細書(甲4添付。以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された発明(以下,請求項1,2係る発明を,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」という。)の要旨

【請求項1】 水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕し,脂肪酸,脂肪酸金属塩,シランカップリング剤,チタネートカップリング剤より選ばれた少なくとも1種類を主成分とする表面処理剤を,上記天然鉱物に対して0.5~5重量%添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチック又はゴムに添加し難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えたことを特徴とする難燃性組成物。

【請求項2】 請求項1記載の難燃性組成物の被覆層を具えていることを特徴とする電線,ケーブル。

3 決定の理由

(1) 決定の理由は別添「異議の決定」謄本写し記載のとおりであり,その要旨は,本件発明1は,特開平5-17692号公報(甲2。以下「刊行物1」という。),特開平4-296404号公報(甲3。以下「刊行物6」という。)に記載された発明(以下,それぞれ「刊行物1発明」,「刊行物6発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,また,本件発明2は,本件発明1に係る難燃性組成物の被覆層を具えている電線,ケーブルの発明であるが,刊行物6には,「刊行物6発明に係る難燃性組成物の被覆層を備えている電線」も記載されているから,本件発明2も,本件発明1と同じく,刊行物1,6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,平成6年法律第116号附則14条に基づく平成7年政令第205号4条2項により取り消すべきである,というものである。

(2) なお,決定が認定した,本件発明1と刊行物6発明と一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。

ア 一致点(決定謄本6頁最終段落~7頁第1段落)

「水酸化マグネシウムにシランカップリング剤を主成分とする表面処理剤を添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチックに添加し,難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えた難燃性組成物。」

イ 相違点(同7頁第2段落)

「前者(注,本件発明1)は,水酸化マグネシウムが,『水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕』して得た『主成分が水酸化マグネシウムである粉砕物』であって,表面処理剤を上記天然鉱物の粉砕物に対して0.5~5重量%添加して表面処理を施したものであるのに対して,後者(注,刊行物6発明)は,水酸化マグネシウムの由来が不明であり,表面処理剤を水酸化マグネシウムに対して2重量%添加して表面処理を施したものである点。」

第3 原告主張の決定取消事由

決定は,本件発明1と刊行物6発明との一致点・相違点の認定を誤り(取消事由1),また,本件発明1と刊行物6発明との相違点についての判断を誤った(取消事由2)ものであり,それらの誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。

1 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り)

(1) 一致点の認定の誤り

ア 決定は,本件発明1と刊行物6発明とは,「水酸化マグネシウムにシランカップリング剤を主成分とする表面処理剤を添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチックに添加し,難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えた難燃性組成物。」である点で一致すると認定している。

しかしながら,本件発明1は,飽くまで「水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕」したものに表面処理剤を添加して表面処理を施してプラスチック等に添加するものであり,水酸化マグネシウムそれ自体に表面処理剤を添加して表面処理を施してプラスチック等に添加するものではない。したがって,「水酸化マグネシウム」に表面処理剤を添加して表面処理を施すとの点を一致点とした決定の認定は,誤りである。

イ また,刊行物6発明は,水酸化マグネシウムに,ビニル基又はポリスルフィド結合を有するシランカップリング剤及びアルキルアルコキシシランカップリング剤の両方を表面処理剤として添加して表面処理を施してプラスチックに添加することにより,初めて浸水後の絶縁抵抗の著しい低下を防げるのである。したがって,「水酸化マグネシウムにシランカップリング剤を主成分とする表面処理剤を添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチックに添加し」ただけで,当然に浸水後の絶縁抵抗の著しい低下を防げるものではない。したがって,その意味からも上記の点を一致点とした決定の認定は誤りである。

(2) 相違点の認定の誤り

決定は,本件発明1は,水酸化マグネシウムが,「水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕」して得た「主成分が水酸化マグネシウムである粉砕物」であって,表面処理剤を天然鉱物の粉砕物に対して0.5~5重量%添加して表面処理を施したものであるのに対して,刊行物6発明は,水酸化マグネシウムの由来が不明であり,表面処理剤を水酸化マグネシウムに対して2重量%添加して表面処理を施したものである点が両発明の相違点であると認定している。

しかしながら,まず,決定は刊行物6記載の水酸化マグネシウムの由来が不明であるというが,刊行物6記載の水酸化マグネシウムが,天然鉱物を粉砕したものではないことは明らかである。したがって,本件発明1と刊行物6発明とは,本件発明1が,水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕したものに表面処理剤を添加して表面処理を施してプラスチックに添加するものであるのに対し,刊行物6発明は,飽くまで天然鉱物を粉砕したものではない水酸化マグネシウムそれ自体に表面処理剤を添加して表面処理を施してプラスチックに添加するものである点で相違すると認定すべきである。

また,両発明は,本件発明1が,表面処理剤としてシランカップリング剤等のうち少なくとも1種を主成分とするものを添加してその目的(吸湿性を抑制した難燃性組成物を得ること)を達成するのに対し,刊行物6発明は,表面処理剤としてシランカップリング剤とアルキルアルコキシシランカップリング剤を併用したものを添加して初めてその目的を達成できるもので,表面処理剤としてシランカップリング剤を添加するだけはその目的を達成できないという点でも相違するものでり,決定はこの相違点を看過している。

2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)

(1) 決定は,刊行物1の記載から,「『水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を原料とし,粉砕』して得た『水酸化マグネシウム』に表面処理を施したものは,難燃性組成物に難燃性を付与するとともに耐酸性を向上させる添加剤として,本件出願当時,すでに知られた事項であったといえる」(決定謄本7頁下から第3段落)としている。

刊行物1に上記事項が記載されていることはそのとおりであるが,そこには,吸湿性の抑制のためには,天然鉱物の粉砕物に対する表面処理剤の割合を限定しなければならないことや,表面処理を特に湿式表面処理ではなく乾式表面処理としなければならないことについては,一切示唆されていない。すなわち,刊行物1発明の発明者は,本件発明1の課題自体に気がついておらず,したがってまた,その解決手段についても全く気がついていなかったのである。

決定は,「刊行物1の記載によると,『耐酸性の向上』は,『高湿度空気中に放置』した場合の『空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムの反応』を抑えること,すなわち,『高湿度空気中の水分が誘起する炭酸ガスと水酸化マグネシウムの反応』を抑えることをも意味するものであって・・・,水分の吸湿の抑制により『炭酸ガスと水酸化マグネシウムの反応』も抑制されることは明らかであるから,『耐酸性の向上』とは,『吸湿性の抑制』とも言い換えることができる」(決定謄本7頁下から第2段落)としているが,誤りである。

確かに,酸性化の一態様として,高湿度空気中で,材料表面に空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムが反応して炭酸マグネシウムが析出する場合がある。しかし,この高湿度空気中で生じる反応も,水酸化マグネシウムが高湿度空気中の水分を吸収するわけではなく,飽くまで空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムが反応するものである。したがって,刊行物1発明において,炭酸ガスと水酸化マグネシウムの反応が抑制されるのは,水酸化マグネシウムにより水分の吸湿が抑制されるからではなく,そのような吸湿性の抑制とは関係なく,直に炭酸ガスと水酸化マグネシウムの反応が抑制されることによるものである。したがって,刊行物1記載の「耐酸性の向上」は「吸湿性の抑制」とは明らかに異なるものであり,上記「耐酸性の向上」を「吸湿性の抑制」と言い換えることはできない。

刊行物1の記載からも明らかなように,「耐酸性の向上」だけであれば,天然鉱物を粉砕したものに表面処理剤で表面処理を施すだけでよく,その表面処理が乾式法か湿式法かにかかわらないのである。これに対し,原告従業員A作成の「天然鉱物を原料とする水酸化マグネシウムの耐酸性及び吸湿性評価」と題する実験レポート(甲7。以下「甲7の実験レポート」という。)から明らかなように,水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕したものに表面処理を施して「吸湿性の抑制」を図るためには,その表面処理が湿式法では不十分であり,乾式法でなければ十分な効果が生じないのである。

甲7の実験レポートは,天然鉱物を原料とする水酸化マグネシウムの耐酸性と吸湿性について調べた結果を記載したものであるが,これによれば,「耐酸性の向上」においては,表面処理が乾式法であるか湿式法であるかによって差がないのに対し,「吸湿性の抑制」においては,乾式法による表面処理の方が湿式法による表面処理よりも優れていることは明白である。

いずれにしても,本件発明1は,刊行物1発明をさらに「吸湿性の抑制」という点で改良したもので,そのために,天然鉱物の粉砕物に対する表面処理剤の割合を限定したり,表面処理を特に乾式法に限定したものであることからしても,両発明は明らかに異なり,刊行物1記載の「耐酸性の向上」を「吸湿性の抑制」と言い換えることは誤りである。

(2) 決定は,刊行物1記載の「耐酸性の向上」を「吸湿性の抑制」と言い換えることができるということを前提として,刊行物6発明も,水酸化マグネシウムに表面処理を施してプラスチックに添加することにより,難燃性組成物に「『難燃性を付与するとともに吸湿性を抑える』ものであるから,この『水酸化マグネシウム』を,難燃性を付与するとともに,吸湿性を抑制することが公知であった刊行物1に記載の『水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕』して得た『主成分が水酸化マグネシウムである粉砕物』とすることは,当業者が容易になし得たことであるといえる」(決定謄本7頁最終段落~8頁第1段落)としているが,誤りである。

すなわち,刊行物1記載の「耐酸性の向上」を「吸湿性の抑制」と言い換えることができるという前提が誤りであるから,その誤った内容を前提とした,刊行物6記載の「水酸化マグネシウム」を「天然鉱物の粉砕物」とすることは当業者が容易になし得たことであるという内容も当然誤ったものであることは明らかである。

また,そもそも,刊行物6発明は,良好な引張特性,電気特性,難燃性を有し,加えて燃焼時に有毒なハロゲン系ガスを発生しないような難燃性電気絶縁組成物とするために,ポリオレフィンに含有させる金属水酸化物の表面処理として,ビニル基又はポリスルフィド結合を有するシランカップリング剤及びアルキルアルコキシシランカップリング剤の両方を併用して行うこととしたものであり,刊行物6(甲3)の【表1】に記載の比較例3からも明らかなように,表面処理剤としてシランカップリング剤を単独で使用しただけでは,決して浸水後の絶縁抵抗の著しい低下を防ぐことはできないのである。しかも,刊行物6記載の実施例に示されている水酸化マグネシウムは,明らかに天然鉱物の粉砕物ではなく,そこで得られた結果は,飽くまで天然鉱物を粉砕したもの自体ではない水酸化マグネシウムの試験結果にすぎない。原告従業員A作成の「水酸化マグネシウムの表面処理法の差による吸湿性比較検討」と題する実験レポート(甲8。以下「甲8の実験レポート」という。)は,水酸化マグネシウムの表面処理法(乾式法か湿式法か)の差による吸湿性を比較検討したものであるが,これによると,天然鉱物を粉砕したものについては,乾式法で表面処理をした方が湿式法で表面処理した場合より吸湿性を抑えるのに顕著な効果があるのに対し,天然鉱物を粉砕したものではない,海水を原料として製造された水酸化マグネシウムのような合成品の水酸化マグネシウムの場合は,乾式法による表面処理と湿式法による表面処理とで吸湿特性はほとんど変わらないことが示されている。このことから,合成品の水酸化マグネシウムに関するデータは天然鉱物を粉砕したものの検討において参考とはならないことが分かる。

したがって,天然鉱物を粉砕したものに乾式法で表面処理を行うことによって,初めて「吸湿性の抑制」を図ることができるようになったという,本件発明1の技術的思想に思い至らなければ,刊行物6記載の天然鉱物を粉砕したものではない水酸化マグネシウムを,わざわざ天然鉱物を粉砕したものに変える必然性は全くないのであり,また,刊行物6発明の本質が,ビニル基又はポリスルフィド結合を含有するシランカップリング剤及びアルキルアルコキシシランカップリング剤の両方を併用して表面処理を行うことにあることからすれば,この両方の併用を必ずしも必要としない刊行物1発明と刊行物6発明とを結びつけることも,当業者が容易に想到し得るものではないことは明らかである。

(3) 決定は,本件発明1と刊行物6発明とで,「表面処理剤による表面処理の目的は,難燃性付与,吸湿性の抑制と共通しているから,この目的のために,表面処理剤の添加量を適宜設定して,本件発明1における添加量とすることは,当業者が容易になし得る設計的事項にすぎない」(決定謄本8頁第1段落)と判断しているが,誤りである。

すなわち,刊行物6発明は,良好な引張特性,電気特性及び難燃性を有し,加えて燃焼時に有毒なハロゲン系ガスを発生しないような難燃性電気絶縁組成物とするために,ポリオレフィンに含有させる金属水酸化物の表面処理として,ビニル基又はポリスルフィド結合を有するシランカップリング剤及びアルキルアルコキシシランカップリング剤の両方を併用して添加することととしたものであり,そこには,上記目的のために,水酸化マグネシウムに対する表面処理剤の量的割合をどのようにしたらよいかという発想は全く存在しない。刊行物6記載の実施例に示された,平均粒径1μmの水酸化マグネシウム1.1kgに対し,表面処理剤22gを添加し,表面処理(ただし湿式を除く。)するとの記載は,飽くまで試験条件の一つを示しただけであり,かえって,刊行物6の【表1】に記載の比較例3においては,上記条件でも浸水後の絶縁抵抗の著しい低下をもたらしているのであるから,刊行物6には,耐湿性の改善のため,水酸化マグネシウムの量に対し表面処理剤をどの程度入れればよいか,また,どのような表面処理(乾式か湿式か)を行うかという点の考え方は一切開示されていないというべきである。

また,刊行物6記載の実施例の水酸化マグネシウムは,飽くまで天然鉱物を粉砕したものではないことから,浸水後の絶縁抵抗の著しい低下を防ぐためには,飽くまでビニル基又はポリスルフィド結合を有するシランカップリング剤及びアルキルアルコキシシランカップリング剤の両方を併用して表面処理をすることが必要であり,しかも,水酸化マグネシウム1.1kgに対し,表面処理剤22gを添加して表面処理をしても,必ずしも浸水後の絶縁抵抗の著しい低下を防ぐことはできないのである。

したがって,刊行物6発明を基に,吸湿性の抑制という目的を達成しようとする場合は,飽くまで刊行物6発明そのものを実行しようとするのは当然であり,表面処理剤の添加量を刊行物6に示された試験条件に合わせても,必ずしも吸湿性の抑制という目的が達成できない場合があるのであるから,吸湿性の抑制の目的のために,刊行物6発明を基に,表面処理剤の添加量を適宜設定して,本件発明1における添加量とすることなど,当業者が容易になし得る設計的事項などとは決していえない。

(4) 以上のとおり,刊行物6記載の天然鉱物を粉砕したものではない水酸化マグネシウムを,刊行物1記載の天然鉱物を粉砕したものとすることは,決して当業者が容易になし得ることではなく,また,刊行物6発明を基に,吸湿性の抑制の目的のために,表面処理剤の添加量を適宜設定して本件発明1における添加量とすることも,決して当業者が容易になし得る設計的事項ではない。

第4 被告の反論

決定の一致点・相違点の認定,相違点についての判断はいずれも相当であって,決定に原告主張の決定取消事由はない。

1 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り)について

(1) 一致点の認定の誤りについて

ア 本件発明1における「水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕」したものは,「その主成分が水酸化マグネシウムである粉砕物」となるから,本件発明1は,厳密には,原告の主張のとおり,「水酸化マグネシウムを主成分とするものに・・・表面処理剤を添加し」という構成を有するものである。

しかしながら,「水酸化マグネシウム」のような物質名は,「純粋なその物質」以外にも,「主成分がその物質であるもの」を表記するために用いられることは,周知・慣用のことであり,本件発明1の,厳密には「水酸化マグネシウムを主成分とするもの」を「水酸化マグネシウム」と表すことは,慣用の範囲内のことであるにすぎない。

一方,刊行物6においては,「水酸化マグネシウム」の表すものが「純粋な水酸化マグネシウム」であるのか,厳密には「水酸化マグネシウムを主成分とするもの」であるのか不明であるが,上記表記の周知・慣用の用法に従えば,いずれも「水酸化マグネシウム」と表記してよいものである。

したがって,決定において,上記慣用の表記に従い,本件発明1と刊行物6発明の一致点として「水酸化マグネシウムに・・・表面処理剤を添加して」と認定したことに誤りはない。

なお,刊行物6記載の実施例において採用されている「水酸化マグネシウム」が,仮に甲6(神島化学工業株式会社のホームページ写し)に記載された「マグシーズN,Sシリーズ」のように「海水を原料とした合成品」であるとすると,やはり「水酸化マグネシウムを主成分とするもの」となるから,本件発明1と刊行物6発明の「水酸化マグネシウム」は,厳密な意味においても一致するといえる。

イ 決定においては,刊行物6(甲3)記載の実施例1ないし4及び比較例2において具体的に採用された樹脂組成物に基づいて,刊行物6発明を把握したものであり,「ビニルエトキシシラン/メチルメトキシシラン=60/40」(実施例1,2),「ポリスルフィド系シラン/フェニルトリエトキシシラン=50/50」(実施例3,4),及び単独使用の「ビニルトリエトキシシラン」(比較例2)は,いずれも「シランカップリング剤」といえることは明らかであるから,刊行物6発明を「水酸化マグネシウムにシランカップリング剤を主成分とする表面処理剤を,上記水酸化マグネシウムに対して2重量%添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチックに添加し,難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えた難燃性組成物。」と認定し,本件発明1と刊行物6発明の一致点を「水酸化マグネシウムにシランカップリング剤を主成分とする表面処理剤を添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチックに添加し,難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えた難燃性組成物。」とした決定の認定に誤りはない。

(2) 相違点の認定の誤りについて

ア 刊行物6記載の「水酸化マグネシウム」は,その平均粒径(実施例として例示された1μm)から天然鉱物由来のものではない可能性は高いものの,水酸化マグネシウムの由来が「天然鉱物」以外の何であるかは依然として不明であるといわざるを得ないし,平均粒径の記載だけに基づいて,これを「天然鉱物由来でない」と断定することも困難である。

したがって,刊行物6発明につき「水酸化マグネシウムの由来が不明」と認定して,この点を本件発明1と刊行物6発明との相違点に挙げた決定の認定に誤りはない。

イ 前記(1)のとおり,決定の刊行物6発明の認定及び本件発明1と刊行物6発明の一致点の認定に誤りはないから,本件発明1と刊行物6発明との相違点を,「前者は,・・・表面処理剤を上記天然鉱物の粉砕物に対して0.5~5重量%添加して表面処理を施したものであるのに対して,後者は,・・・表面処理剤を水酸化マグネシウムに対して2重量%添加して表面処理を施したものである点。」(決定謄本7頁第2段落)とした決定の認定に誤りはない。

本件発明1の「シランカップリング剤」には,何らの具体的な限定がなく,刊行物6に記載された吸湿性の抑制に効果のある具体的な「シランカップリング剤」をも含むことは明らかであるから,本件発明1と刊行物6発明との「シランカップリング剤」に相違のないことも既に述べたとおりであり,決定にこの点に関する原告主張の相違点の看過はない。

2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

(1) 「耐酸性の向上」と「吸湿性の抑制」との関係について

ア 刊行物1(甲2)には,「水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕し,・・・シランカップリング剤・・・を主成分とする表面処理剤で表面処理を施した後,プラスチック又はゴムに添加し,難燃性を付与すると共に耐酸性を向上せしめたことを特徴とする難燃性組成物」(請求項1)に関し,「従来より使用されている・・・海水中のマグネシウムを原料とするもの・・・を難燃性として使用した難燃性組成物は,高湿度空気中に放置すると,材料表面に空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムが反応した炭酸マグネシウムが析出したり,酸性溶液中に浸漬すると水酸化マグネシウムが溶出して耐酸性に劣るという問題があった。」(段落【0003】)こと,耐炭酸ガス性は,「短冊状試料を・・・湿度90%以上のデシケーター中に炭酸ガスを200cc/分の割合で流し込み,48時間の重量変化を測定した」(段落【0008】前半)ことにより評価したこと,「天然鉱物の水酸化マグネシウムを使用した実施例1~3(注,実施例2はシランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウムDを使用したもの)は,重量増加が1.0~1.2wt%と小さく,表面への白色物析出割合も少量であった。」(段落【0008】)ことが記載されている。

上記記載からすれば,刊行物1記載の「耐酸性」は,「耐炭酸ガス性」及び「耐酸性溶液性」を意味するものであり,「耐酸性」の一態様である「耐炭酸ガス性」が,高湿度空気中で材料表面に空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムが反応した炭酸マグネシウムが析出することを抑制することであることも明らかである。そして,刊行物1には天然鉱物を原料とした水酸化マグネシウムが耐酸性に優れていることが見いだされたと記載されているが,それでも表面処理剤により表面処理を施して耐酸性の改善を図っているのであるから,天然鉱物を原料とした水酸化マグネシウムにおいても高湿度空気中で材料表面に空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムが反応した炭酸マグネシウムが析出する現象が起きるのであり,「耐酸性の向上」を図るためには,それを抑制する手段が必要であることは明らかである。

ところで,高湿度空気中で材料表面に空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムが反応した炭酸マグネシウムが析出する現象が,水酸化マグネシウムが大気中の二酸化酸素及び水分と反応し,生成した白色の炭酸マグネシウムが材料表面に析出する「白化」と呼ばれる現象であることは,当業者において周知の事項である。そして,この現象は,通常の空気中では起こらず,高湿度空気中で初めて起きるのであるが,空気中の炭酸ガス量自体に変化はないのであるから,水分の増加がその主原因であることは明らかである。したがって,これを防止するためには,水分の増加を防ぐこと,すなわち,水酸化マグシウムと水分との接触を減少させることが最も有効であり,かつ現実的な手段である。そうであるからこそ,「白化」の発現を防止するために,水酸化マグネシウムに水分との接触を断つ保護コーティングや撥水性コーティングを施すこと,すなわち,「吸湿性の抑制」手段を採ることが通常行われているのである。

すなわち,「耐酸性の向上」の一態様である「耐炭酸ガス性の向上」とは,水酸化マグネシウムと炭酸ガスとが,水分を必須として反応生成する炭酸マグネシウム(白色物)の析出を抑制することであり,その析出の抑制ために,通常は,析出に必須である水酸化マグネシウムへの水分の吸着の抑制手段が採られているのであり,これは,とりもなおさず,「耐湿性の向上」手段ともいえるものである。そうであれば,当業者において,刊行物6記載の「耐酸性の向上」を「吸湿性の抑制」と同義として理解することは当然である。

したがって,刊行物1記載の「耐酸性の向上」とは「吸湿性の抑制」とも言い換えることができるとした決定の判断に何ら誤りはない。

イ 甲7の実験レポートの表1には,天然鉱物由来であり,表面処理が乾式法によるものであるサンプルにおいては,48時間後の耐炭酸ガス性のデータにおいて,湿式法によるものであるサンプルより重量変化で0.1%少ないこと,すなわち,若干耐酸性に優れていることが記載されており,また,同レポートの図1には,吸湿性に関しても,乾式表面処理品が湿式表面処理品を上回っていることが示されているから,同レポートの内容は,「耐酸性(耐炭酸ガス性)の向上」を「吸湿性の抑制」と言い換えてよいとする被告の主張と矛盾するものではない。

また,甲8の実験レポートの図1からは,合成品の水酸化マグネシウムにおいても,乾式表面処理物が湿式表面処理物よりも,吸湿性の抑制において若干上回っていることが見て取れ,同レポートの図2は甲7の実験レポートの図1と同じ結果を示すものである(なお,上記図1と図2は実験条件が異なるから,吸湿性を表すパラメータが異なる。)から,甲8の実験レポートは,上記合成品も天然鉱物由来の水酸化マグネシウムと同様に乾式法による表面処理の方が湿式法による表面処理より吸湿性の抑制に効果があることを単に示すものであるにすぎない。

したがって,これらの記載から,「耐酸性の向上」が「吸湿性の抑制」と関係がないとか,「吸湿性の抑制」において,天然鉱物由来の水酸化マグネシウムが合成品の水酸化マグネシウムとは全く違った挙動を示すなどということはできない。

また,甲7,8の各実験レポートにおいて,天然水酸化マグネシウムのサンプルとして,乾式法による表面処理の場合は,本件訂正明細書(甲4添付)の段落【0007】欄の記載とおり,スーパーミキサー内でオレイン酸により表面処理を行った物を用いているのに対し,湿式法による表面処理の場合は,特開平1294792号公報の記載内容に基づき工業的に製造したもので,水澤化学工業株式会社により提供を受けた(表面処理剤はオレイン酸アンモニウム塩かアミン塩か不明)物を用いており,両者はその原料,表面処理剤等を異にしており,その性状の差異が,単純に表面処理法の差異のみによるとはいえないし,甲8の実験レポートにおいては合成水酸化マグネシウムと天然水酸化マグネシウムとはその吸湿性の測定方法も異なっており,これらを同一に論ずることはできない。

さらに,甲7,8の実験レポートは,本件特許に係る請求項1に記載された表面処理剤である「脂肪酸,脂肪酸金属塩,シランカップリング剤,チタネートカップリング剤」のうちのオレイン酸(オレイン酸アンモニウム)を使用した1例を示しているにすぎない。表面処理剤は,その種類によって性質が異なるものであり(例えば,刊行物6記載の比較例2と3では,シランカップリング剤が異なることによって耐湿性が大きく異なっている。),オレイン酸(アンモニウム)の例をもって本件特許に係る請求項1に記載されたすべての表面処理剤において同様な効果を奏すると認めることはできない。

(2) 刊行物6発明に基づく容易想到性について

ア 課題の共通性

刊行物6記載の実施例1ないし4及び比較例2に基づいて認定した刊行物6発明は,難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えるものであるから,「吸湿性の抑制」をも課題とするものである。

これに対して,刊行物1には,「耐酸性の向上」という課題を解決するために天然鉱物由来の水酸化マグネシウムを使用することが開示されているが,上記(1)のとおり,刊行物1記載の「耐酸性の向上」は「吸湿性の抑制」とも言い換えることができるから,刊行物1には,「吸湿性の抑制」という課題を解決する手段として天然鉱物由来の水酸化マグネシウムを使用することが記載されているということができる。

そうすると,刊行物6発明と刊行物1発明との課題は「吸湿性の抑制」という点で共通するといえるから,刊行物6発明において,同課題を解決するための手段として,由来不明の水酸化マグネシウムに換えて,刊行物1記載の天然鉱物由来の水酸化マグネシウムを使用してみることは,当業者が容易に想到し得たことということができる。

なお,刊行物6には,水酸化マグネシウムについて格別な限定を付す記載はないのであるから,課題の共通性を論ずるまでもなく,刊行物6の水酸化マグネシウムに刊行物1に記載された天然鉱物を粉砕した水酸化マグネシウムを適用することは当業者が適宜行う事項であり,その耐湿性の抑制という効果は,刊行物6においてもともと得られている効果にすぎない。

イ シランカップリング剤

刊行物6発明は,特定のシランカップリング剤の併用又は単独使用による表面処理を水酸化マグネシウムに施すことにより,「吸湿性の抑制」という効果を奏するものであるが,刊行物1記載の水酸化マグネシウムの表面処理剤(シランカップリング剤を含む。)も,「耐酸性の向上」,言い換えれば「吸湿性の抑制」を目的として選択されたものであるから,刊行物1記載の表面処理剤は,刊行物6発明に使用される特定のシランカップリング剤の併用物又は単独物を排除するものではないし,また,天然鉱物由来の水酸化マグネシウムにはそれら特定のシランカップリング剤を使用することができないとする特段の理由も証拠もない。

したがって,刊行物6発明における特定のシランカップリング剤と,刊行物1記載の特定されないシランカップリング剤とを結びつけることができないとする原告の主張は当を得たものではない。

ウ 表面処理の方式

原告は,刊行物6発明における乾式法による表面処理は天然鉱物由来でない水酸化マグネシウムに対する単なる一例であって,天然鉱物由来の水酸化マグネシウムにおける乾式法による表面処理が,「吸湿性の抑制」に関して湿式法による表面処理に優越することは予想外であったから,本件発明1における乾式法による表面処理の優位性を刊行物6の記載から導くことはできなかった旨主張している。

しかしながら,刊行物6発明の由来不明の水酸化マグネシウムを天然鉱物由来の水酸化マグネシウムに置き換えることの容易想到性は,上記のとおりである。そして,無機材料のシランカップリング剤による表面処理の方式として,乾式も湿式も広く知られていた方法であるにすぎず,しかも,天然鉱物由来の水酸化マグネシウムには乾式表面処理をすることができないという理由も証拠もない。

また,原告は,乾式法で表面処理した方が湿式法で表面処理した場合よりも吸湿性を抑えるのに顕著な効果があると主張するが,このようなことは本件訂正明細書には記載されていない事項であるし,甲7,8の実験レポートについては,上述したとおり,原告主張の効果を示すものとはいえない。

したがって,上記水酸化マグネシウムの置き換えに際し,刊行物6発明において採用されている周知の乾式表面処理をそのまま採用して本件発明1の構成とすることに,当業者が格別の創作力を要したとはいえないし,乾式法による表面処理を採用したことによる「吸湿性の抑制」の効果についても,刊行物6発明がもともと「吸湿性の抑制」を課題としているのであるから,そこから予測できない格別のものということもできない。

エ 表面処理剤の添加割合

水酸化マグネシウムの由来の相違によって,「吸湿性の抑制」に適する水酸化マグネシウムへの表面処理剤の添加割合が異なることは一応考えられるが,刊行物6発明の水酸化マグネシウムを刊行物1記載の天然鉱物由来の水酸化マグネシウムに置き換える際には,まず,刊行物6に記載された条件に基づいて実験してみることが,ごく普通の手順であるといえる。

そこで,刊行物6に記載された「水酸化マグネシウム1.1kgに対し,表面処理剤22g」なる添加割合について検討すると,「水酸化マグネシウム」が「純粋な水酸化マグネシウム」の意味である場合は,純粋な水酸化マグネシウムに対して2重量%であり,「水酸化マグネシウムを主成分とするもの」を意味する場合には,例えば,甲6(神島化学工業株式会社のホームページ写し)に示されたマグシーズN-3,N-4,S-3,S-4の品質特性例を参照すると,純粋な水酸化マグネシウムに対する換算量は22g/(1100×0.655~0.673)g=約3.0~3.1重量%である。

これに対して,本件発明1における表面処理剤の添加範囲は,天然鉱物(水酸化マグネシウムを主成分とするもの)に対して0.5~5重量%であり,これは,例えば上記甲6記載の天然鉱物由来であるマグシーズN-1の水酸化マグネシウム含有量に基づいて換算すると,純粋な水酸化マグネシウムに対して(0.5~5)/0.614=約0.81~8.1重量%に相当するから,刊行物6発明の水酸化マグネシウムを上記のいずれの場合に解したとしても,本件発明1における天然鉱物(水酸化マグネシウムを主成分とするもの)に対する表面処理剤の添加割合は,刊行物6発明における水酸化マグネシウムに対する表面処理剤の添加割合と実質的に同程度であるか,又はその添加割合を含む範囲内であるということができる。

そうすると,本件発明1における表面処理剤の添加割合は,刊行物6発明と同程度であるか,又は刊行物6の記載に基づいて当業者が実験的に容易に求め得る範囲内であるといえるから,そのような添加割合の設定は単なる設計的事項の域を出ないものである。

オ 以上によれば,相違点に係る本件発明1の構成は,刊行物1,6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

当裁判所の判断

1 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り)について

原告は,本件発明1と刊行物6発明との一致点及び相違点についての決定の認定には誤りがあると主張するので,以下検討する。

(1) 一致点の認定について

ア 刊行物6(甲3)には,以下の記載がある。

(ア) 「ポリオレフィン100重量部に対し,ビニル基又はポリスルフィド結合を有するシランカップリング剤及びアルキルアルコキシシランカップリング剤で表面処理した金属水酸化物を50~300重量部含有し,これを架橋したことを特徴とする難燃性電気絶縁組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)

(イ) 「金属水酸化物としては,・・・水酸化マグネシウム・・・等が挙げられる。」(段落【0010】) 

(ウ) 「金属酸化物(「金属水酸化物」の誤記と認める。)へのカップリング剤の表面処理としては,ヘンシェルミキサ等による乾式法及びスラリ中で行う湿式法が代表的である。」(段落【0016】)

(エ) 「【実施例】・・・表1の実施例1~4および比較例1~3の各欄に示すような配合に従って各種成分(但し,水酸化マグネシウムは,平均粒径1μmの水酸化マグネシウム1.1kgに対し,表面処理剤22gをビニルエトキシシラン系ではエチルアルコール100g,ポリスルフィド系ではトルエン100g中に加えて調整液とし,これをヘンシェルミキサ中で水酸化マグネシウムに噴霧し,・・・撹拌して表面処理し,その後,これを・・・乾燥したものを用いた。)を,・・・混練し,・・・銅線上に・・・押出被覆し・・・架橋絶縁電線を作製した。・・・このように作製した電線(試料)の評価を引張特性,絶縁抵抗及び難燃性について行い,その結果を表1の下欄に示す。各評価方法は次の通りである。・・・絶縁抵抗:・・・初期の絶縁抵抗を測定した。その後,これを75℃水中に浸漬し,600V,60Hzの条件下で30日間浸水課電し,30日経過後75℃で絶縁抵抗を測定した。・・・表1からも明らかな通り,本発明の難燃性電気絶縁組成物を用いた実施例1~4の場合では,いずれも引張特性,難燃性に優れ,30日浸水によっても絶縁抵抗は実用上十分な値を示している。・・・」(段落【0022】~【0029】)

イ 上記記載によれば,刊行物6には,「水酸化マグネシウムにビニル基又はポリスルフィド結合を有するシランカップリング剤及びアルキルアルコキシシランカップリング剤を成分とする表面処理剤を,水酸化マグネシウム1.1kgに対して22g,すなわち,2重量%添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチックに添加し,難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えた難燃性組成物の発明」が記載されているということができる。一方,本件発明1は,「水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕し,脂肪酸,脂肪酸金属塩,シランカップリング剤,チタネートカップリング剤より選ばれた少なくとも1種類を主成分とする表面処理剤を,上記天然鉱物に対して0.5~5重量%添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチック又はゴムに添加し難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えたことを特徴とする難燃性組成物」(本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1)であるから,本件発明1と刊行物6発明とは,「広い意味での水酸化マグネシウムにシランカップリング剤を主成分とする表面処理剤を添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチックに添加し,難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えた難燃性組成物」である点で一致するということができ,決定の一致点についての認定もこれと趣旨を同じくするものと解される。

ウ 原告は,本件発明1は,飽くまで「水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕」したものに表面処理剤を添加して表面処理を施してプラスチック等に添加するものであり,水酸化マグネシウムそれ自体に表面処理剤を添加して表面処理を施してプラスチック等に添加するものではないから,厳密な意味で「水酸化マグネシウムに・・・難燃性組成物。」ではなく,上記一致点の認定は誤りであると主張する。

しかしながら,水酸化マグネシウムのような物質名は,広義においては,「純粋なその物質」以外にも,「主成分がその物質であるもの」を表記するために用いられるのが通常であるから,本件発明1の,厳密には「水酸化マグネシウムを主成分とするもの」を広い意味での「水酸化マグネシウム」と表すことを誤りであるということはできない。

また,刊行物6発明は,水酸化マグネシウムに,ビニル基又はポリスルフィド結合を有するシランカップリング剤及びアルキルアルコキシシランカップリング剤の両方を表面処理剤として添加して表面処理を施してプラスチックに添加することにより,初めて浸水後の絶縁抵抗の著しい低下を防げるのであり,「水酸化マグネシウムにシランカップリング剤を主成分とする表面処理剤を添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチックに添加し」ただけで,当然に浸水後の絶縁抵抗の著しい低下を防げるものではなく,上記一致点の認定は誤りであると主張する。

しかしながら,刊行物6(甲3)には,実施例1ないし4では,水酸化マグネシウムの表面処理剤として「ビニルエトキシシラン/メチルトリメトキシシラン=60/40」(実施例1,2),「ポリスルフィド系シラン/フェニルトリエトキシシラン=50/50」(実施例3,4)が採用されていることが記載されている(段落【0028】の表1の注記)ところ,上記の表面処理剤はいずれも「シランカップリング剤」に属するものであるから,本件発明1と刊行物6発明の一致点を「水酸化マグネシウムにシランカップリング剤を主成分とする表面処理剤を添加して表面処理(ただし湿式表面処理を除く)を施してプラスチックに添加し」とした決定の認定に誤りはない。

決定の一致点の認定に誤りがあるとする原告の主張は採用することができない。

(2) 相違点の認定について

ア 原告は,本件発明1と刊行物6発明の相違点に関し,決定は刊行物6記載の水酸化マグネシウムの由来が不明であるというが,刊行物6記載の水酸化マグネシウムは,天然鉱物を粉砕したものではないことは明らかであるから,両発明は,本件発明1が,水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕したものに表面処理剤を添加するのに対し,刊行物6発明は,飽くまで天然鉱物を粉砕したものではない水酸化マグネシウムそれ自体に表面処理剤を添加するものである点で相違すると認定すべきであると主張する。

そこで検討するに,刊行物6には,水酸化マグネシウムの由来が明示的には記載されていないが,刊行物6記載の実施例1ないし4においては,刊行物6発明に係る難燃性組成物を構成する水酸化マグネシウムには平均粒径が1μmのものを用いるとされているところ,甲5(昭和興産株式会社のホームページ写し)及び甲6(神島化学工業株式会社のホームページ写し)によれば,上記の平均粒径は合成品の天然マグネシムの粒径とほぼ符合すること,天然の水酸化マグネシウムを粉砕した物はそれよりも平均粒径が大きく,粗大粒子もあることが認められ,したがって,刊行物6発明における水酸化マグネシウムは天燃鉱物由来のものではない蓋然性が高いこと(被告もこの点を自認している。),本件訂正明細書(甲4添付)には,「従来から使用されている水酸化マグネシウムは,海水中のマグネシウムを原料とするものである。」(段落【0003】)との記載があることからすれば,刊行物6記載の水酸化マグネシウムは天燃鉱物を粉砕したものではないものと解するのが相当である。

そうすると,「本件発明1は,水酸化マグネシウムが,『水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕』して得た『主成分が水酸化マグネシウムである粉砕物』であって,表面処理剤を上記天然鉱物の粉砕物に対して0.5~5重量%添加して表面処理を施したものであるのに対して,刊行物6発明は,水酸化マグネシウムの由来が不明であり,表面処理剤を水酸化マグネシウムに対して2重量%添加して表面処理を施したものである点」を相違点とした決定の認定は,「刊行物6発明の水酸化マグネシウムの由来が不明である」とした点で適切を欠くというべきである。

しかしながら,決定は,本件発明1の水酸化マグネシウムと刊行物6発明の水酸化マグネシウムが相違するものであることを前提に,その相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性について判断をしているから,上記一致点の認定における不適切さは決定の結論に影響を及ぼすものではないというべきである。

イ 原告は,本件発明1と刊行物6発明は,本件発明1が,表面処理剤としてシランカップリング剤等のうち少なくとも1種を主成分とするものを添加してその目的(吸湿性を抑制した難燃性組成物を得ること)を達成するのに対し,刊行物6発明は,表面処理剤としてシランカップリング剤とアルキルアルコキシシランカップリング剤を併用したものを添加して初めてその目的を達成でき,表面処理剤としてシランカップリング剤を添加するだけはその目的を達成できないという点でも相違するものであり,決定はこの相違点を看過していると主張する。

しかしながら,本件発明1に係るシランカップリング剤には何らの限定もなく,上記(1)ウのとおり,刊行物6(甲3)に記載された「ビニルエトキシシラン/メチルトリメトキシシラン=60/40」(実施例1,2),「ポリスルフィド系シラン/フェニルトリエトキシシラン=50/50」(実施例3,4)が本件発明1に係るシランカップリング剤に含まれることは明らかであり,また,天然鉱物由来の水酸化マグネシウムにはそれら特定のシランカップリング剤を使用することができないとする特段の事情を認めるに足りる証拠もないから,決定に原告主張の相違点を看過した違法があるということはできない。

2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

次に,原告は,相違点に係る本件発明1の構成は当業者において容易に想到し得たものであるとした決定の判断は誤りであると主張するので,以下検討する。

(1) 「耐酸性の向上」について

ア 特開平3-215540号公報(乙2),特開平2-145633号公報(乙3),特開昭63-279506号公報(乙4)及び特開平2-206632号公報(乙5)には,ポリオレフィンに水酸化マグネシウムを配合した難燃性組成物は,大気中で高湿度の環境のもとに置くと,組成物を構成する水酸化マグネシウムが大気中の二酸化炭素(炭酸ガス)と反応し白く粉を吹く現象,すなわち,固体の水酸化マグネシウムが高湿度の環境のもとで二酸化炭素を吸収し,ヒドロオキシ炭酸マグネシウム(MgCO3・Mg(OH)2 )を生ずる「白化」の現象が発現することが記載され,また,上記各刊行物には,この「白化」の発現を防止するための方法として,ポリオレフィン系樹脂組成物に配合する水酸化マグネシウムにつきステアリン酸系表面処理剤で表面処理を施すこと(乙2),オレフィン系樹脂に水酸化マグネシウムを配合した難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物に,水素添加スチレン-ブタジエンブロックコポリマーを配合すること(乙3),難燃ケーブルを構成する難燃組成物に配合される水酸化マグネシウムの表面にセラミックコーティングを施すこと(乙4),あるいは難燃性オレフィン重合体樹脂組成物に配合される水酸化マグネシウムの表面にふっそ系エラストマーによってコーティングを行うこと(乙5)の各技術事項が開示されている。v

イ 刊行物1(甲2)には次の記載がある。

(ア) 「水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕し,脂肪酸,脂肪酸金属塩,シランカップリング剤,チタネートカップリング剤より選ばれた少くとも1種を主成分とする表面処理剤で表面処理を施した後,プラスチック又はゴムに添加し,難燃性を付与すると共に耐酸性を向上せしめたことを特徴とする難燃性組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)

(イ) 「【従来技術及び発明が解決しようとする課題】・・・従来より使用されている水酸化マグネシウムは,海水中のマグネシウムを原料とするものであり,これを難燃性として使用した難燃性組成物は,高湿度空気中に放置すると,材料表面に空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムが反応した炭酸マグネシウムが析出したり,酸性溶液中に浸漬すると水酸化マグネシウムが溶出して耐酸性に劣るという問題があった。」(段落【0002】,【0003】)

(ウ) 「【課題を解決するための手段】本発明は上述の問題点を解消し耐酸性を向上せしめた難燃性組成物を提供するもので,その特徴は,水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕し,脂肪酸,脂肪酸金属塩,シランカップリング剤,チタネートカップリング剤より選ばれた少なくとも1種を主成分とする表面処理剤で表面処理を施した後,プラスチック又はゴムに添加し,難燃性を付与すると共に,耐酸性を向上せしめた難然性組成物にある。」(段落【0004】)

(エ) 「【作用】上述の問題を解決するため,種々の水酸化マグネシウムを用い検討を行なったところ,水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を原料とした水酸化マグネシウムが耐酸性にすぐれていることを見出した。このメカニズムに関しては不明であるが,結晶構造等が従来品と異なっているためではないかと思われる。」(段落【0005】)

(オ) 「表1に示す各種材料を6インチオープンロールで15分混練した後,約1mm厚×13cm幅×17cm長さのシートに約160℃×10分加圧成形してシートを作成した。このシートを用いて耐炭酸ガス性及び耐塩酸性を評価した。結果は表1(注,本判決別紙のとおり)の通りである。」(段落【0006】)

(カ) 「耐炭酸ガス性:試料として厚1mm×幅2cm×長さ13mmの短冊状試料を上述のシートより打ち抜き,湿度90%以上のデシケーター中に炭酸ガスを200cc/分の割合で流し込み,48時間の重量変化を測定した。比較例1,2に示す従来の水酸化マグネシウムを使用したものは,重量増加が1.5~2wt%と大きく,表面に炭酸マグネシウムの白色結晶が多量析出しているのに対し,天然鉱物の水酸化マグネシウムを使用した実施例1~3は,重量増加が1.0~1.2wt%と小さく,表面への白色物析出割合も少量であった。」(段落【0008】)

ウ 上記認定の刊行物1の記載によれば,刊行物1発明は,海水中のマグネシウムを原料とする従来の水酸化マグネシウムを配合した難燃性組成物が,高湿度空気中に放置すると,材料表面に空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムが反応した炭酸マグネシウムが析出したり,酸性溶液中に浸漬すると水酸化マグネシウムが溶出して耐酸性に劣るという問題があったことにかんがみ,その問題を解決するため,水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕した物を使用することにより,「耐酸性の向上」を図ったものであり,決定の認定するとおり,「水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を原料とし,粉砕」して得た「水酸化マグネシウム」に表面処理を施したものは,難燃性組成物に難燃性を付与するとともに耐酸性を向上させる添加剤として,本件特許出願当時,既に知られた事項であったと認めることができる。

(2) 「耐酸性の向上」と「吸湿性の抑制」との関係

ア 上記(1)アのとおり,固体の水酸化マグネシウムが高湿度の環境のもとで二酸化炭素を吸収し,ヒドロオキシ炭酸マグネシウム(MgCO3・Mg(OH)2 )を生ずる現象は,本件特許出願当時,「白化」の現象として当業者に周知の事項であったと認められ,刊行物1の上記(1)イ(イ)の記載中,「高湿度空気中に放置すると,材料表面に空気中の炭酸ガスと水酸化マグネシウムが反応した炭酸マグネシウムが析出したり」との部分は,この「白化」の現象を指しているものと認められる。そして,上記の「白化」の発現の仕組みからして,白化の発現には水分の存在が不可欠であると解される。

イ 被告は,「白化」を防止するためには,水分の増加を防ぐこと,すなわち,水酸化マグネシウムと水分との接触を減少させることが最も有効であり,かつ現実的な手段であるとした上,「耐酸性の向上」の一つである「耐炭酸ガス性の向上」とは,「水酸化マグネシウムと炭酸ガスとが,水分を必須として反応生成する炭酸マグネシウム(白色物)の析出を抑制」することであり,通常,「炭酸マグネシウムの析出の抑制」のために,析出に必須である「水分」の吸着の抑制手段が採られているのであり,これは,とりもなおさず,「耐湿性の向上」手段ともいえるものであり,「耐酸性の向上」は「吸湿性の抑制」と同義であると主張する。

そこで検討するに,上記のとおり,従来の水酸化マグネシウムの「白化」は,その反応の場を形成するために,水分の存在を不可欠とする現象であるから,その発生の抑制手段の一つとして,水酸化マグネシウムと水分との接触を断つ手段があり,具体的には,水酸化マグネシウムに対するコーティングであって,保護コーティングや撥水性コーティング(乙4,5)がそれに当たると解される。そして,このようにして水酸化マグネシウムと水との接触が断たれることにより,「耐湿性」が向上することも理解される。

しかしながら,刊行物1記載の「耐酸性の向上」,すなわち従来の水酸化マグネシウムと「水分のとの接触を断つこと」が「吸湿性の抑制」と言い換え得るといえるためには,「白化」が,水酸化マグネシウムに吸湿性があり,その発生に不可欠な水分を上記水酸化マグネシウムが吸収することに起因する現象といえることが前提となるところ,刊行物1発明が,「白化」がその現象の発生に必要不可欠の水分を水酸化マグネシウムが吸収する現象であるとの前提の下に,その吸湿性を抑制することにより「白化」の発現を防止するという発想に基づくものでないことは,上記(1)イの刊行物1の記載から明らかであり,本件に現れたその他の証拠中にも,「白化」がそのような現象であることを示唆する記載はない。むしろ,「白化」の析出物がヒドロオキシ炭酸マグネシウム(MgCO3・Mg(OH)2 )であることからすれば,「白化」の発現に際しては,水分が存在する環境のもとで従来の水酸化マグネシウムが空気中の二酸化炭素を吸収する過程が存在するだけで,上記水酸化マグネシウムが水分を吸収する過程が含まれているわけではないから,「白化」の発現を防止するために,上記水酸化マグネシウムを水分が存在する環境にさらされないようにすることは必須であるものの,上記水酸化マグネシウムが吸湿性を有するとしても,その吸湿性を抑制する必要があるとまでいい得る根拠はなく,したがって,上記水酸化マグネシウムに対するコーティングによる「耐酸性の向上」も,水酸化マグネシウムの吸湿性が抑制されることによるものであるとまで断定することはできない。

ウ これを要するに,刊行物1発明は,証拠(乙2ないし5)に開示された,水酸化マグネシウムと水分との接触を断つ手段を採用することによって「耐酸性の向上」を図るという従来の技術的思想に沿ったものではなく,たとえ「水分との接触」がある環境下に置かれても,「白化」し難い特性を備えた水酸化マグネシウムとして,水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物を用いることを発見し,これを課題解決手段として採用することによって「耐酸性の向上」を図った発明であると解されるのであって,刊行物1には,上記天然鉱物の粉砕物が「吸湿性の抑制」の性質を有することについて示唆する記載は何ら存在しない。

かえって,原告従業員A作成の「水酸化マグネシウム(天然品,合成品)の表面処理法の差による吸湿性比較検討」と題する実験レポート(甲16)によれば,「耐酸性の向上」の一態様として「耐炭酸ガス性の向上」が図られた刊行物1発明であっても,必ずしも「吸湿性の抑制」効果が得られるものではないことが実験的にも示されている。

すなわち,上記実験レポートの表1ないし3及び図1及び2によれば,水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕したものと,海水から合成した従来の水酸化マグネシウムとを,それぞれ原料として採用し,ステアリン酸(脂肪酸)2.7%の処理量で,乾式法又は湿式法により表面処理したもの50に対して,EVA樹脂100,酸化防止剤1,カーボン2,ステアリン酸亜鉛2.5の配合割合となるように調整した難燃性樹脂組成物について,その耐炭酸ガス性と吸湿性を評価したところ,上記天然品における耐炭酸ガス性試験の結果からは,重量変化が,乾式法によった場合で1.1%,湿式法によった場合で1.2%と表面処理法の相違による差は小さく,いずれも,上記合成品における重量変化である,乾式法によった場合の1.6,湿式法によった場合の1.5と比べて耐酸性は良好であること(刊行物1に記載された内容と矛盾しない。)が認められるのに対し,吸湿性試験の結果からは,168時間(1週間)経過後の体積抵抗値の変化量が,上記天然品においては,乾式法によった場合で2.502E+15(=(3.35E+15)-(8.48E+14)),湿式法によった場合で3.709E+15(=(3.85E+15)-(1.41E+14)),上記合成品においては,乾式法によった場合で3.513E+15(=(3.87E+15)-(3.57E+14)),湿式法によった場合で2.486E+15(=(2.74E+15)(2.54E+14))と,上記天然品の乾式法による表面処理が最も吸湿性を抑制し,上記天然品であっても湿式法による表面処理では,上記合成品の湿式処理よりも吸湿性の抑制効果が小さい傾向が看取される。供試材は,上記天然品については刊行物1発明の構成要件を充足するものであるから,結局,刊行物1発明を充足する態様であっても,その表面処理法が乾式法ではなく湿式法の場合,「耐酸性の向上」を図ることはできても,「吸湿性の抑制」を図ることができるとは限らないと認められる。

エ 以上検討したところからすれば,刊行物1記載の「耐酸性の向上」は,「高湿度空気中の水分が誘起する炭酸ガスと水酸化マグネシウムの反応」を抑えることをも意味するとした決定の判断は相当であるが,刊行物1発明においては,「炭酸マグネシウムの析出の抑制」のために,析出に必須である水分の吸着の抑制手段が採られているとした上,「耐酸性の向上」は「吸湿性の抑制」と同義であるとする被告の主張は直ちに採用することができず,この点に関する決定の判断は誤りというほかない。

(3) 決定は,「耐酸性の向上」を「吸湿性の抑制」と言い換えることができるということを前提として,刊行物6発明における水酸化マグネシウムも,難燃性を付与するとともに吸湿性を抑えるものであるから,この水酸化マグネシウムを,難燃性を付与するとともに,吸湿性を抑制することが公知であった刊行物1に記載の「水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕」して得た「主成分が水酸化マグネシウムである粉砕物」とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるといえるとしたが,前示のとおり,「耐酸性の向上」を「吸湿性の抑制」と言い換えることができるとの前提は成り立たないから,決定の上記判断はその前提を欠き,誤りというべきである。

そして,水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物が「吸湿性の抑制」の性質を有することについて発見ないしこれを示唆するものがないのに,「吸湿性の抑制の向上」を図る目的で,刊行物6発明における天然鉱物由来のものでない水酸化マグネシウムを上記天然鉱物の粉砕物に置き換えることは,当業者が容易に想到できることとは直ちにいうことができない。

被告は,刊行物6には,水酸化マグネシウムについて格別な限定を付す記載はないのであるから,刊行物1発明と刊行物6発明の課題の共通性を論ずるまでもなく,刊行物6の水酸化マグネシウムに刊行物1に記載された天然鉱物を粉砕した水酸化マグネシウムを適用することは当業者が適宜行う事項であると主張するが,刊行物6発明における水酸化マグネシウムは天然鉱物由来の物でないことは,上記1(2)アに説示したとおりであり,被告の主張はその前提を誤るものであって,採用することができない。

3 以上によれば,決定は相違点についての判断を誤り,ひいては本件特許が特許法29条2項に違反してされたと誤って判断したものというべきであるから,原告主張の取消事由2は理由があり,決定は違法として取消しを免れない。

よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。

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